今回の話は特に時間がかかりました。プレシアと誠の会話の部分が特に……
誠の行動基準を考えると下手な動きが出来ないのでかなり苦労しました。
しかも書いてるうちに矛盾点が出てきたもんだから、もうヒュードラの事件も捏造しちゃえなどとかなり変更点があります。
というわけで、今回も捏造多数です。あとプレシアに対して少々のアンチ描写があります。
変更点などは後書きで詳しく語ります。
それではごゆっくりどうぞ。
*設定集にて、誠の項目一部追加 配合についてを追加
――大広間
そこで待っていたのは、やけに露出の激しい黒いローブを纏った妙齢の女性。その女性こそフェイトの母親であり、時の庭園の主――プレシア・テスタロッサであった。
「よく来たわね。私はプレシア・テスタロッサ。その子の……母親よ」
プレシアの微笑に薄気味悪さを覚える誠。だがそれ以上に広間にいる一つの存在に目がいった。全てを諦めたかのような目をして、ポツンとプレシアの隣で佇んでいるフェイトと瓜二つの少女。今にも消えそうなほど存在感がなく、プレシアの隣にいなければ気付かなかったほどであった。
「……初めまして、八神誠と言います」
その姿を見て思わず怪訝な表情になる誠であったが、直ぐにその姿が見えているのは自分だけだと判断するとなんでもないように取り繕う。そんな誠の態度にピクリと眉を動かすプレシアであったが、どうでもいいとばかりに本題に入った。
「……態々来てもらって悪いわね。あなたに色々聞きたいことがあるのよ。……フェイトたちはもう下がっていいわ」
「はい、母さん」
「……わかったよ」
プレシアの言葉に逆らおうとは思わないフェイトは寂しそうに返事をすると、誠の方を一度心配そうに見る。それに自分は大丈夫だと誠は静かに頷いた。フェイトはそれに少しだけ笑みを浮かべると、プレシアに一礼をし、アルフとともに広間を出て行った。
「それじゃあ、あなたの知っている女神の果実について話してくれないかしら」
「――っ!? ……わかりました」
フェイトたちがいなくなった途端にプレシアの雰囲気が一変する。
先ほどまでも冷酷な雰囲気を醸し出していたが、フェイトたちがいなくなった途端その鋭さが増し、誠にプレッシャーがかかる。それと同時に視界に映る少女は悲しそうに目を伏せた。
その両者の変化に戸惑いつつも、誠は以前フェイトに語った女神の果実の話とその後調べて判明したことを説明する。話を聞き終えたプレシアは、知りたかったことが判明しなかったからか、期待外れだとばかりの表情を浮かべた。
「そう……あなたに頼みがあるのだけど、あの子たちを手伝ってもらってもいいかしら? 無事に回収が終わったらあなたの望むものを用意するわ」
プレシアからの頼みにやっぱりそうきたかと誠は内心毒づくと、少し考えさせてくださいとプレシアに断り、これまでの情報を軽く整理し始める。
(僕がここに来た理由は、この前のジュエルシードのことを教えてくれたフェイトに対しての恩返しを込めてだから、プレシアさんの頼みは別に断っても問題ない。本当は闇の書の情報がほしかったけど、ジュエルシード回収は冬至と敵対するし、下手したら管理局に逮捕される可能性がある……)
昼食を作っている最中に冬至からなのはたちの状況を詳しく聞いた誠は、発掘者であるユーノ・スクライアによって既に管理局に連絡が入っていることを知っていた。そのため下手にフェイトたちと協力関係を結んでしまった場合、管理局に協力を求められない。
(――だけど、ジュエルシードの膨大な魔力を一つでも闇の書に食わせられれば、守護騎士プログラムとかを起動できるかもしれないんだよね。あとは、プレシアさんが研究者なのは事実みたいだからその伝手を紹介してもらえる可能性もある)
危険は承知であるが闇の書に魔力を食わせる価値はあるとも考えていた。
しかし、その場合にはプレシアからジュエルシードの使用許可を得る必要があり、それは恐らく不可能だろうと誠は思っていた。それならばなのはたちの方に事情を話せば済む話であり、結局のところ誠が協力してもいいというほどのメリットを見出せなかった。
(それにプレシアさんの目の前にいる子のせいで、報酬の件とかちょっと信じられないんだよね。そもそもあの子、幽霊なのかモンスターなのか分からないのも気になる。……あれ? そういえば僕は時の庭園に来た時、何で此処をダンジョンだと思ったんだ? 確か――)
ふと思ったことが妙に引っかり、そのまま思考を巡らせ始める。そして最悪の可能性に辿り着いてしまった誠は、まさかねと思いながらも確かめるようにプレシアに一つの質問を投げかけた。
「一つ聞きたいんですけど、フェイトに姉妹っていますか?」
「………………いないわよ」
長い沈黙の後、感情の篭っていない声でプレシアは否定する。
その言葉にまたプレシアの隣にいる少女は泣きそうな顔をして、必死にプレシアに呼びかけるも、その声は届いていなかった。
(これでわかった……プレシアさんがジュエルシードを集める本当の目的は恐らく……蘇生。気になるのはフェイトは姉妹がいるって一言も言ってなかったこと。自分の家族のことを話していたときのフェイトの雰囲気から考えて、知っていたら絶対に話すはずだ。ということは、目の前の子はフェイトが生まれる前に亡くなった子。多分……フェイトの姉。でも納得がいかないことがある)
プレシアの言葉からそこまで推測を立てた誠であったが、腑に落ちない点があった。
それは時の庭園全体に広がる恨み妬み悪意といったおぞましい怨念の塊。環境に染まりやすい魔物たちと共にいる誠だからこそ気付けた違和感。しかし、目の前にいるプレシアや少女からは嘆きは感じられても、絡みつくような不穏な気配はしていなかった。
「……申し訳ないですけど、お断りします。手伝ったら犯罪の片棒を担ぎそうですから」
熟考を重ね誠が出した結論は断るであった。
尤もな理由をつけて断った誠であったが、誠にはプレシアがそんな理由で納得するとは思っていなかった。案の定プレシアは不快気に誠を睨み付けると、持っていた杖の矛先を向ける。
「考えを改める気はないのね?」
「……お断りします」
「なら……少し、痛い目を……見なさいっ!!」
プレシアの目から逸らさず、きっぱりと断る誠。
その態度からどう言っても頷く気がないと悟ったプレシアは、一瞬で魔力が杖へと収束し、放たれた紫の雷が誠に襲い掛かった。
「デルパ!」
プレシアが次にとる行動を予測していた誠は、魔力が杖に込められた時には既に魔法の筒を引き抜いて呪文を唱えていた。そしてプレシアの放った電撃は、誠に直撃する前に飛び出してきた魔物――ラットンに直撃する。
直撃した瞬間、閃光とともに大きな音を立て、そのまま地面に落下するラットン。普通なら立ち上がれない程の威力を持った攻撃であったが、雷撃を受けたラットンに特に変わった様子はなく、ピンピンしていた。
プレシアはフェイトから報告を受けてはいたが、拒否されても軽く痛めつければこちらの言うことを聞くと思っていた。しかし召喚陣もなしに自身の魔法を無効化する魔物を呼び出したことに、評価を改める。
「随分と優秀な使い魔を持っているようね」
「断ったら攻撃って……それはないんじゃないですか? それとラットンたちは使い魔じゃないです」
そう軽口を叩きつつも、内心ではデイン無効のラットンがいてよかったと思いつつ、誠は鞄から取り出した海鳴りの杖をゆっくりと構える。そんな誠を守るようにラットンとともに飛び出してきたトーポとトリーズも身構えた。
一見すると弱そうに見える誠の魔物たちであったが、その隙のなさにプレシアも目の前の魔物たちがその見た目からは考えられない実力を持っていると判断し、杖を構えたまま動けないでいた。
(……さて、どうしようか。ここからまた話し合いに持っていくことは何か切欠がないと無理だ。一応プレシアさんの興味を引く切欠はあるけど……本当にこれをプレシアさんに言ってもいいのか?)
この状況でも誠は何とか話し合いに持っていけないものかと思案していた。幸いトーポたちは誠が攻撃指示を出していないため、勝手に攻撃して状況が悪化することはない。しかしそれで延々と考え続けていれば痺れを切らしたプレシアが何をするか分からない。
どうしたものかと表情に出さないように考え込んでいると、突如プレシアが口元を押さえ苦しそうに咳き込み始めた。
「――ゲホッ……!!」
崩れ落ちそうになる体を必死に堪えるプレシアの状態から、戦闘になることはないだろうと判断した誠は構えていた杖を下ろす。そして今だ咳き込み続けるプレシアにこのままじゃ不味いと思ったのか警戒しながらも声をかけた。
「えと、薬いります?」
「……ゴホッ……いいから……放っておいてちょうだい」
カバンから出した万能薬を差し出すが、プレシアはそれを払いのけると誠を睨む。そんな取り付く島もない態度のプレシアだが、無理をしているのか顔色も酷い。それを見てこれ以上の言い争いはプレシアの体調も酷くなると判断した誠は、話を進めるために切り札を切った。
「…………わかりました。それじゃあ最後にもう一つだけ。プレシアさんがジュエルシードを集める本当の目的。それって――プレシアさんの隣にいるフェイトと瓜二つの存在に使うためですか?」
「――えっ?」
誠の口から発せられた言葉はプレシアにとって体の痛みを忘れるくらい衝撃的なものであった。しかしそれは聞き捨てならないものであり、理解できないものであった。
◆ ◆ ◆
プレシアは誠の放った言葉をすぐには理解することが出来なかった。しかしすぐに冷静さを取り戻すと、気の弱い者なら気絶するような殺気を放ちながら冷たい目で誠を睨み付ける。
「あなたは何を言っているのかしら?」
「だからそこにいるフェイトと瓜二つの存在に使うんですかって聞いたんですけど……。え? 自分の姿が見えるのかって? もちろん見えるよ。何で見えるか? 僕の仲間たちにはゾンビ系……お化けが多くてね。初めはわからなかったけど、長くあの子達と過ごしたせいか自然と見えるようになったんだ」
プレシアは自分の隣を指差され、顔を向けるのだが当然何もいるはずがない。しかし誠はいるというナニかと自分を放っておいて楽しそうに会話する。そんな誠に苛立ち、口からでまかせを言っているのではないかと疑ったが――
「へー、アリシアっていうんだ。僕は八神誠。よろしくね」
「――――っ!?」
誠が口にしたアリシアという名前に言葉を失った。その名を知る者はこの時の庭園においてプレシアしか知らないはずなのだから。どうしてこの少年が自分の愛しい娘の名を知っている? まさか本当に自分の隣にはアリシアがいるのかと、その真偽を明らかに術く誠を問いただした。
「本当に、本当にアリシアはいるの!?」
「今もそこにいますよ。ほらそこに……って見えないんでしたね。えーっと、あ、あった。これを身に着ければ見えるようになりますよ」
「寄越しなさい!!」
誠が鞄から取り出した見えざる者すらも見ることが出来るお守り――よく見えのお守りを奪うように取ると、急いで身に着ける。身に着けた瞬間、プレシアの目に見える世界が変わった。
今まで見てきたものが更にはっきりと見える。そしてアリシアは何処だと誠が指差した方へと顔を向けると、そこには待ち望んでいた愛しき娘の姿があった。
「あ……ああっ……!!」
『……こうして話すのは久しぶりだね……母さん』
薄っすらとその背後が透けて見える少女――アリシアは、感情がないような目でプレシアを見る。しかしプレシアはそんな些細なこと関係ないとばかりに娘の名前を叫んだ。
「アリシアっ!!」
『うん。…………ずっと、母さんのこと見てたよ』
「ああっ、アリシア。お母さん、ずっとあなたに会いたかったのよ……」
感極まったプレシアは、ようやく会えた娘を抱きしめようとするが、その伸ばした手はアリシアの体をすり抜け、空を切った。
「……えっ」
『母さん、私はもう死んでるんだよ……。それに――今の母さんじゃ私は嫌!!』
目の前にいるアリシアに触れられぬばかりか、アリシアから浴びせられた思いもよらぬ言葉に、プレシアは硬直すると顔を青ざめさせ、縋るように問いかける。
「ど、どうしてなのアリシア? 私はあなたを生き返らせようと――」
『うん、知ってるよ。でも母さん、母さんは今まで一体何をしてきたの?』
「それは……」
諭すように淡々と言葉を紡ぐアリシアに、プレシアは更に顔を青ざめる。
どんな非道なことをしてでも娘を蘇らせようとしていたプレシアであったが、胸中ではアリシアには知られたくなかった。自身の罪は自覚していた。アリシアが蘇った後はフェイトも解放して、アリシアのためだけに残り少ない命を使おうと考えていた。そんなプレシアを追い詰めるように、淡々と過去の所業をアリシアは語り始める。
すべては26年前に起きた大型魔力駆動炉『ヒュードラ』の暴走・エネルギー漏れの事故から始まった。この事故で運悪くアリシア含む数名が死亡し、数十名もの行方不明者が出た。
初めは自分が死んだことに気付かなかったアリシアであったが、誰にも気付かれなかったことや人や壁をすり抜けたこと。レアスキルが発現したのかと思ったアリシアであったが、自分自身の遺体を見たことでようやく自身の死を自覚した。
そこからはどうすればいいのか分からず、ただプレシアのことを見守り続けていた。そしてプレシアが何をしてでも自分を蘇らせようとした事に気付き、声が聞こえないと分かっていながらも必死に叫び続けた。
やがてプレシアは後にプロジェクト「F.A.T.E」と呼ばれる人造生命の研究に行き着く。自分の細胞を用いて造られるクローンたち。そのクローンが何度も廃棄されるたびに、何も出来ないアリシアは代わりのように泣き叫ぶ。まさに苦痛の日々であった。
それもフェイトが生まれたことでようやく終わったとアリシアは思った。アリシアにとってフェイトは、自分自身というよりも妹という認識であった。これで母は昔のように戻ってくれる。それが自分ではないことに寂しさを覚えながらも安心していた。
しかしその期待は裏切られる。アリシアの記憶を転写されていたフェイトであったが、徐々に違う行動をとり始めた。決定的な違いはフェイトには魔導師として極めて優秀な才能があった。そんな些細な違いをプレシアは許せなかった。
それからのフェイトの扱いはとても冷たいものだった。体罰を振るわれることはなかったが、些細なことで怒られ、フェイトが話しかけようとしても無視され続けた。それを見てアリシアはもう自分の知る母親はいないと悟る。せめて自分の声が届けばと無駄だと知りつつも叫び続けた。
アリシアにとって何より許せなかったのは、妹のフェイトを今回の件が済んだら切り捨てようとしたこと。そして――
『ねえ……母さん。ずっと前に母さんと一緒にピクニックに行ったこと覚えてる?』
「……ええ、覚えてるわ」
『本当に? じゃあそこで私が言ったことも覚えてる?』
「え……? 確かあの時アリシアは……――っ!!」
――誕生日プレゼントに妹が欲しい!
プレシアの脳内にあのときの光景が映し出される。
あの時自分は何て返事をした? ようやくそのことを思い出したプレシアは声にならない叫びを上げ、その場に崩れ落ちるように膝をついた。
「私は……私は……っ!!」
自らを罰するように、何度も何度も壊れた機械のように同じ言葉を繰り返し続けるプレシアをアリシアはただ悲しそうに見つめ続けていた。
そんな二人をすっかり蚊帳の外になって見ていた誠は大体の事情を理解すると、自分の予想が間違っていなかったことを悟る。予想外だったのはアリシアの怒りは凄まじく、憔悴しきるまでプレシアを追い詰めたことで、話をする状況ではなくなってしまったことだった。
『……ちょっといい?』
「どうかしたの? アリシア……さん」
『別に呼び捨てでいいよ。……ありがとう、誠。母さんに私のことを話してくれて』
「あー、うん。僕の都合のために教えただけだから。そんな礼を言われるほどじゃないよ」
頭を下げるアリシアに誠は頬をかきながら言い辛そうに本当のことを言う。
ここに来たのもフェイトへの恩返しのためであり、穏便にプレシアと話が済めばフェイトたちの事情だからと言う気もなかった。そんな誠をきょとんとした目でアリシアは見つめると、クスクスと笑い声を上げる。
『正直なんだね。フェイトが誠を連れてきてくれて本当によかったよ』
「でもいいの? プレシアさんのこと……」
『……うん。母さんもようやく思い出してくれたから』
今だ俯いたままのプレシアを見つめるアリシアは大丈夫だと告げる。誠もずっとプレシアと共にいたアリシアが言うならば大丈夫だろうと判断する。そしてプレシアが落ち着くまでフェイトたちにどう言おうかと頭を悩ませるのだった。
◆ ◆ ◆
その後、俯いていたプレシアが再び発作を起こし、吐血までしてしまう。それに気付いた誠たちは慌てて万能薬を飲ませると、落ち着くまで背中を擦った。
「ゴホッ……情けないところを見せたわね。もう大丈夫よ」
「本当に大丈夫ですか? これ回復用のアモールの水です」
メスフラスコのようなビンを受け取ると、プレシアは中身を一気に飲み干した。すると体中に走っていた痛みが瞬く間に薄れていくのを実感し、思わず目を見開く。
よく見えのお守りも含めて不可思議な道具を持つ目の前の少年が本当に何者なのか分からなくなるプレシアだったが、何度もお礼を言っているアリシアにあたふたと困っている誠を見て、すぐにどうでもよくなった。
『もうっ、母さんもちゃんとお礼を言ってよ!!』
「……そうね。ありがとう」
ぷうっと膨れっ面をするアリシアにそう言われ、憑き物が落ちたのか少しだけ表情が柔らかくなったプレシアは、再度誠に礼を言う。
「いえいえ、僕は別にたいしたことしてませんから。あ、そうだ。それなら少し聞きたいことがあるんですけどいいですか?」
「聞きたいこと? 別に構わないけど、一体何かしら?」
「闇の書についてです」
「……闇の書ですって?」
「はい。それでプレシアさんが何か知っていることでもあれば「何故そんなことを知りたいの?」――えっ?」
闇の書と聞いて明らかに対応が変わったプレシアに思わずぽかんと口を開け、呆ける誠。一体どういう事かと尋ねると、プレシアはその理由を説明する。
「あれがどれだけ危険なものか調べれば誰でも知っている。それ程危険な代物よ。それに闇の書は管理局も見つけたら所有者ごと封印することが当たり前とされているわ」
「――なっ!? それは本当ですか!?」
プレシアの言葉に驚愕する誠。もしこれを知らなければ管理局に協力を頼むところだったので、この情報だけでもここにきてよかったと誠は思う。しかしこれで誠たちが協力者を募るのが更に難しくなる。誠はどうにかプレシアから情報を得られないかと、簡単に自分たちの置かれている状況を話し、助けを求めた。一応自分もフェイトのジュエルシード探索協力を断ったのだから別に断ってくれても構わないと誠は考えていたが、意外にもプレシアはそれに応じた。
「あなたにはアリシアのことで恩があるし協力してあげてもいいけど、あいにく闇の書は専門外なのよ。……ああ、そうだわ。確か何かの役に立つかもしれないって、闇の書に関わることをまとめたのがあったはずだわ」
「どれくらいで用意できますか?」
「そうね……今は使っていない地下の研究室の方から資料を発掘しないといけないから二日……いえ、一日あれば用意できるわ」
「それじゃあよろしくお願いします」
そう礼を言って、これで一歩前進したと安心したのか誠はホッと息を吐く。
ふとアリシアを見ると、プレシアに色々と話しかけていた。その表情は年相応のものであり、プレシアも少々ぎこちないながらも嬉しそうに話している。その内容はプレシアの私生活についての駄目出しなどであったが、まさに親子の会話であった。ただ無意識にプレシアがアリシアを撫でようとして、その度にプレシアは悲しそうにする。
フェイトを撫でて上げればいいのにと誠は思いつつも、アリシアの方も悲しそうにしていたので何とかしてあげたいと考える。
誠は黙っていたが死人を蘇らせる方法はないわけではない。
誠のように加護を持っていたり、世界樹の葉や蘇生呪文であるザオリクや教会での蘇生など、手段は幾つもある。しかし魔物とは違い人間の場合は、死亡した者の魂が完全に消滅するまでしか効果を発揮できない。そのため冒険者の多くは、死亡した仲間の魂を繋ぎ止めるために生き返らせるまで棺桶を引き摺ることになる。そしてここで問題が発生する。
(アリシアの場合、もうモンスターとほとんど変わらないんだよね。種族でいうなれば、幽霊やゴースト、彷徨う魂辺りかな?)
アリシアの場合は肉体の損傷がなくとも、魂が体と完全に離れてしまっている。
何よりアリシアは長い間幽霊としていたことで既に存在が確立している。それこそ人間として生き返らせたいのなら、神さまの奇跡でもなければ不可能であった。しかし逆に言えば、魔物とほぼ変わらない今のアリシアならば、誠はスカウトすることが可能である。
誠がスカウトすれば加護が与えられ、人として生き返ることは不可能であるが、転生条件さえ満たせば将来的には人に近い魔族になることも可能であった。
(まあ、今はそれは話さない方がいいか)
誠はとりあえず闇の書の情報を手に入れた後にでも話せばいいかと決めると、目先の問題であるフェイトにどう伝えればいいのかで頭を悩ませる。
それも家族の問題なのだからプレシア本人が伝えたほうがいいだろうと、予備のよく見えのお守りをプレシアにでも渡しておいて丸投げすることに決めた。
「それじゃあ僕はそろそろ帰ります。フェイトとちゃんと話し合ってくださいね」
「分かってるわよ。フェイトの事も、これからの事もゆっくり話してみるわ。それと、このお守りは貰ってもいいかしら?」
「別にいいですよ。あとフェイトたちの分も渡しますね。…………あ、帰りに傀儡兵見ていってもいいですか?」
「…………フェイトに案内してもらいなさい」
『またね!』
誠の頼みにプレシアは思わず脱力しそうになるが、軽く頭を抑え、フェイトに案内するようにと許可を出す。
そんなプレシア本人も気付いていないフェイトの名前を呼ぶという些細な変化に、少しだけ口元を緩めると礼を言って誠は大広間を後にした。
◆ ◆ ◆
「あ、フェイトにアルフさん。待っててくれたの?」
「誠、大丈夫?」
「広間で凄い音がしたけど、大丈夫だったかい?」
「大丈夫、特に何もなかったよ。プレシアさんの頼みごとも……多分解決したし」
広間を出た誠を出迎えたのは、フェイトとアルフであった。一人残された誠が心配で、フェイトたちはずっと広間の近くで待機していた。
トーポたちをつれて出てきた誠の姿に、中で何かあったのではないかと不安に思うフェイトたちであったが、普段と変わらない誠の様子にホッと息を吐く。
「母さんの頼みって、一体何だったの?」
「あー、後で聞けばいいよ。多分教えてくれるから」
「教えてくれないの?」
「うん、まあ……それより、プレシアさんに許可もらったから傀儡兵がいる場所に案内してくれない?」
明らかな話題逸らしであったが、誠の雰囲気にそれ以上尋ねることは出来ず、フェイトは傀儡兵が警備している地下への入り口へと案内するのであった。
道すがら誠は考えていた。アリシアが語ったプレシアの過去の所業とアリシアの存在、そして時の庭園そのものに存在する違和感。決定的だったのはあの傀儡兵の存在だった。
(……間違いなく時の庭園の何処かでダンジョンが形成されてるよね。下手したらプレシアさんの知らないモンスター化した傀儡兵がいるかもしれないし。それにいるだろうね、廃棄されて怨念と化した存在たちが……はあ、杞憂で済めばいいんだけど)
そう願いながらも、頭の片隅では多分無理だろうなと諦めたようにため息を吐くと、傀儡兵たちが警備する地下への道へと誠たちは歩を進めるのであった。
歩くこと数分、地下へと続く扉に着いた誠はその奥から漏れ出てくる嫌な気配に顔を顰める。フェイトたちも無意識に扉の奥から何かを感じたのか近づこうとはしなかった。
「あれ? いつもならここにいるはずなのに……。母さんが配置を変えたのかな?」
「奥にでもいるんじゃないかい?」
いつもなら警備をしているはずなのにいない二体の傀儡兵に首を傾げるフェイトたち。その一方で誠は目の前の扉の先がダンジョンになっていることを確信する。
(厄介だね。恐らく普通に入っても地下へと進むだけでダンジョンには入れない。キーとなる何かが必要だ。そういえば資料ってこの先の研究室にあるって言ってたね。……もしかしてキーってプレシアさん? クローンの件を考えるとありえる。ということはプレシアさんとこのダンジョンを攻略しないと闇の書の情報は手に入らない?)
扉に手を触れながら、ややこしくなってきたなと思いつつも、はやてのためと自分を奮い立たせる。一応中がどうなっているか知るべきかと扉を開けられないか尋ねるが、プレシアが許可しなければフェイトたちも入れないため黙って首を振った。
(まあアバカム使えば開けられないこともないんだけど……フェイトたちがいる手前勝手に開けるのも駄目だし、しょうがないか。もう一度プレシアさんに会わないとね)
内心そう思いながらも、もしかしたら他の場所もダンジョン化していないか気になった誠はフェイトに時の庭園内の案内を頼もうとしたとき、悲鳴染みた叫び声が聞こえてきた。その声に釣られ振り向いた誠が見たのは、こちらに向かって飛んでくるアリシアの姿であった。
『誠っ!! 母さんが、母さんが――!!』
「――っ! フェイト、プレシアさんの所に戻るよ」
「えっ?」
焦ったアリシアの様子からプレシアに何かあったことを察した誠は、フェイトたちに戻ることを告げる。突然戻ると言い出し、大広間へと歩き始めている誠に困惑する二人は、疑問に思いながらも誠の後を追う。
「そんなに慌てて、一体どうしたのさ?」
「プレシアさんに何かあった!」
「はあっ!? なんでそんなこ「嘘っ!? 母さん!!」――フェイト! 誠も! ああもうっ!」
何故そんなことがわかるのかアルフは胡散臭げに誠に聞こうとしたが、その前にフェイトは焦ったように大広間へと駆け出す。続いて走り出す誠を見て、苛立だしげに頭を掻くと同じく駆け出すと、その場には誰もいなくなった。
――あの少年はアリシアが見えるのですか?
誰もいなくなったはずの廊下で、すうっと姿を現したのは猫と思わしき獣耳と尻尾を生やした使い魔らしき茶髪の女性。その女性は何かを見極めるように一度だけ誠たちが去っていった方を見ると、直ぐに背を向け誠が入ろうとしていた扉を悲しげに見つめる。
その扉から禍々しい瘴気のような魔力がゆっくりと滲み出ており、女性はもう時間がないと悟る。
――願わくば、あの子たちにも安らぎが訪れれば……
祈るように呟いた言葉は誰にも聞こえることなく、女性は誠たちがもう一度来ることを願いつつ、扉を守るようにその場に静かに佇むのであった。
いかがでしたでしょうか?
今回はプレシアと誠の対話。そしてアリシアの登場と時の庭園に潜む闇に誠が感づいた話でした。
なお、サンダーラットのデイン無効については、DQM2ではりせんもぐらがデイン半減のためその上位種であるサンダーラットなら無効化を習得しているだろうという判断からです。
今回の裏話
プレシアとの対話はわりとまともに進みました。しかし誠の行動基準がはやてのためなので簡単に協力するのはおかしく、何とかするために登場させたのがアリシアでした。アリシアのおかげで何とか色々な矛盾点を強引にですがなくせました。
変更点ですが、特に作中に関わることのみを上げたいと思います。
一番の変更点は『ヒュードラ』事故です。これに関しては何故これほどの行方不明者、死亡者を出したのか後に判明します。
次に些細なことですが時の庭園の動力炉の場所が変更されています。これは作中を見て分かるとおりダンジョンに大きく関係しています。
次にアリシアとクローンについて
アリシアの現状は誠の言うとおり幽霊であり魔物でもあります。最初は普通に幽霊として登場させようと思っていたのですが、この場合だとクローンも含めてやばいことになりかねないので却下しました。クローンたちについてはプレシアが一回でフェイトを誕生させられるわけがないというのが第一として、ドラクエでもどんなモノにも魂が宿る云々とあるのであのような立ち位置になりました。
ぶっちゃけますが、参考にしたのはコープスだったりします。
次回からはドラクエらしく目的達成のための遠回りのお使いが始まります。
それでは次回でまたお会いしましょう。