リリカルクエスト   作:アバン流

14 / 17
大変お待たせしました。8月は更新できずすいませんでした。

今回は冒険の準備回となります。
また、今回も色々とオリ設定がありますのでご注意ください。
あと、視点変更がある場合には◇の記号があります。

それではごゆっくりどうぞ。

※設定集にて、クエストについてを追加



第12話 『行ってきます』

「母さ――っ!?」

 

 誠たちを置き去りにして、大広間へといち早く駆け込んできたフェイトが見たのは、床に倒れ付したプレシアの姿だった。プレシアの口元からは今もだらだらと血が垂れ流れ続けており、小さな血溜まりが出来ている。そんな目の前に広がる光景を信じられないとばかりに、フェイトはよろよろと近づいていくとプレシアにすがり付く。

 

「母さん……う、嘘だよね……? ねえ、起きてよ。母さん!」

 

「…………っぁ……」

 

 声が届いたのか、プレシアはゆっくりと目を開けると何処か虚ろな目でフェイトを見つめる。プレシアは自身の状況を理解していなかった。

 

 先ほどまでアリシアと話していたはずなのにどうして自分が倒れているのか。どうして体が動かないのか。どうしてこんなにも体に激痛が走るのか。ただわかったのは、自分が原因で泣きそうにしている我が子(フェイト)がいるということ。

 

「……よ……ェト…」

 

「母さん! しっかりして、母さん!!」

 

 大丈夫だと言おうとしたプレシアであったが、声になっておらず、それどころか喋ろうとするたびに激痛が走る。それでも懸命に何かを言おうとするプレシアであったが、その行動は余計にフェイトを取り乱させる結果となってしまった。

 

「フェイト、プレシアさんは――っ!!」

 

「なっ、一体どうなってるんだい!?」

 

『母さん!』

 

 駆け込んできた誠はプレシアのあまりの状態に息を呑む。その隣で半信半疑だったアルフも目の前の光景に信じられないとばかりに驚愕する。プレシアのそばで泣きじゃくっていたフェイトは、誠たちが来たことに気付くと、涙ながらに助けてほしいと訴える。

 

「誠……母さんを助けて……」

 

「うん、出来る限りのことはするから……すいません、プレシアさん」

 

 フェイトに涙を拭くようにハンカチを渡すと、誠はプレシアに近づき一言謝り物知りの杖を振るった。そして羊皮紙に写し出されたプレシアの状態を把握すると、その酷さに思わず絶句する。

 

 プレシアの病状は複数の病気が同時に発病しており、その中でも特に酷く損傷しているのはリンカーコアであった。プレシアが魔力を行使する度にその身に激痛が走るだけでなく、その他の臓器もボロボロにしていくという、本来ならリンカーコアを摘出しなければいけないほどであった。

 

(……まずい、手持ちの薬だけじゃ時間を稼ぐぐらいしか出来そうにない。それにリンカーコアが損傷しているから魔力を回復させるのも逆効果になる。でもこの病状ならいきなり倒れたのは分かるけど、何でマヒしたみたいにもなっているんだ? それが分からないことには治療手段も――って、あれ?)

 

 もう一度プレシアの病状を確認して誠が気付いたのは、隠れるように表示された状態異常を示す小さなマーク。状態異常は物知りの杖などで人や魔物のステータスを表示する場合、状態異常ごとにわかりやすいマークが付く。そしてプレシアについている状態異常を示すドクロのマーク。このマークが意味するのは――

 

「呪い」

 

「……えっ?」

 

「はあっ!? 何言ってんだい。そんなもんあるわけないだろ?」

 

「いや、これは間違いなく呪いの状態異常だよ。僕がよく知っているタイプのね。でもよかった、これなら解呪できる――シャナク!!」

 

 誠が呪文を唱えると、天から一筋の光が差し込みプレシアを照らす。その光を浴びたプレシアは眩しいと感じながらも、体中を蝕んでいた激痛が嘘のように消え去っていることに気付いた。それに気付いたプレシアは、ゆっくりと顔を動かしフェイトを見つめる。

 

「母さん大丈――えっ? あ……母さん……」

 

「……えぇ……大……丈夫よ……フェイト」

 

「プレシア……あんた……」

 

 プレシアは優しくフェイトの頬を撫でると微笑む。今まで出来なかった分を取り戻すように、泣き続ける我が子を慰めるように何度も何度も頬を撫でる。

 

 フェイトは何をされたのか一瞬分からなかったが、プレシアに撫でられていることがわかると涙を零す。長い間プレシアから優しくされたことがなかったために無理もないことであった。何時までもその時間が続くかと思われたが、プレシアは胸元を押さえながら苦しげに呻きはじめる。

 

「母さん!?」

 

「落ち着いてフェイト。まずはプレシアさんを回復させないと――ベホイミ!」

 

 今のプレシアでは薬が飲めないと判断した誠は手を翳し、回復呪文を唱える。すると淡い小さな光球がプレシアに幾つも降り注ぎ、先ほどよりも呼吸が少しだけ安定する。

 

「ベホイミ、ベホイミ……よし、後は呪い除けと自己回復を強化させれば暫くは大丈夫だよ」

 

 それを何度か繰り返しもう大丈夫だろうと判断すると、誠は自分がしている呪いよけのお守りと同じ効果を持つ指輪と、ピンクのハート型の宝石が付いた金のブレスレットである“癒しの腕輪”を取り出し、プレシアに装備する。そして眠っていた方が回復も早いだろうと、ラリホーで強制的にプレシアを眠らせた。

 先ほどまで苦悶の表情を浮かべ、呻き声を上げていたプレシアであったが、誠の回復呪文によって呼吸も安定し、寝息を立てていた。それを見たフェイトはホッと胸をなでおろす。

 

「……ありがとう、誠」

 

「回復魔法といい器用だねあんた」

 

「僕に出来たのは一時凌ぎだけだから、安心するのはまだ早いよ。それに……ううん、何でもない。それよりもプレシアさんを治す方法を見つけないと」

 

 プレシアさんを呪ったのが今もいるかもしれないと言おうとした誠だったが、フェイトに余計な心配をかけさせないためと、解呪したときに何もアクションがなかったために一先ずは大丈夫だろうと黙ってそれを飲み込んだ。

 

「プレシアを治すって言ってもねぇ……」

 

「……誠は何かいい方法はない?」

 

「ちょっと待って、今考え中だから。(うーん。何とかプレシアさんを治さないと闇の書の情報が手に入らない。でも治すためのパデキアの根っこがない……。入手経路だって行商人と僕が持っていたアイテムと交換して手に入れられたものだし)」

 

 どうにもいい案が思い浮かばなくなってきていた誠は、ジュエルシードを利用すべきかと考え始める。その唯一思い浮かんだ案というのもお粗末なもので、ジュエルシードに込められた魔力をマホトラで奪い尽くして回復呪文をかけ続ける。しかしそんなことで治るわけもないことは誠も十分理解していた。

 

 呪いを解呪したとはいえプレシアの病気は不治の病と呼ぶべきものであり、頼みの綱であるパデキアの根っこも行商からの入手で簡単に手に入らない。もう手はないのかと諦めかけた誠だったが、ふと、あるアイテムの存在を思い出す。

 

(……そういえば、パデキアの根っこと交換したアイテムも治療効果があったっけ。確か名前は――――スノキアの根っこ)

 

 スノキアの根っこ――それはパデキアの根っこと同じくあらゆる病を治すと言われている根っこである。しかしパデキアの根っこと違いその在り処は不明であり、偶然スノキアの木を見つけても普通の大樹と変わらないことや、その多くの大樹は魔物たちの根城になっていたために、伝承や書物などに存在すると残っている程度であった。

 

 そのため偶然スノキアの根っこを手に入れた誠も、当初はパデキアの根っこの偽物かとがっかりしていた。しかし物知りの杖やかくれんぼうたち精霊から話を聞いて、その効果が本物であると喜んだ。だが、正しい処方の仕方が不明であったためにはやてに処方することが出来なかった。そのため一部をカレキの国に提供し、何かの役に立つだろうと残りを持っていた誠は、後にその価値を知る行商人と交渉(モンスターバトル)の末に、パデキアの根っこと交換することが出来たのであった。

 

 なお誠から提供されたスノキアの根っこは、カレキの国の学者と知識を持つかくれんぼうらの手によって処方方法を確立させることに成功していた。しかしパデキアの根っこと違い、栽培方法が今だ不明であったために、一般に流通させることは今だ成しえていない。余談ではあるが、この処方方法を確立させたのは誠がパデキアの根っこを手に入れた後だったりする。

 

(スノキアの根っこの処方方法はカレキの学者がかくれんぼうと蘇らせてくれたから、僕でも何とかなる。でも肝心のスノキアの根っこはまだ流通してないから回収に行かないと。……あ、そういえばスノキアの大樹がある石版は、国の復興に役に立つかもしれないと思ってカレキ王に預けてあるんだ。だからまずは石版返してもらいに行かないと)

 

 プレシアを救い、闇の書の情報を得るためにまずはスノキアの根っこを手に入れようとこれからの行動方針を定めた誠は、フェイトたちにプレシアを治療するためにこれから異世界に行くことを説明する。

 

「――というわけだから、まずはカレキの国に行ってくるよ。すぐに取って「私も行く!!」……フェイト?」

 

「これ以上誠に迷惑かけたくないから……。母さんを助けられるなら私も一緒に連れていって!!」

 

「……これから行くところはモンスターたちと戦い、殺し合いすら起こりうる場所だよ。それはフェイトが今まで経験した“危険”じゃなくて命の“やり取り”をする場所。それでも一緒に行くの?」

 

 家族のために手伝いたいと言うフェイトの気持ちが痛いほど分かる誠は、駄目とは言わずにフェイトの覚悟を問う。

 フェイト自身今までジュエルシードの暴走体と戦ってきており、多少は戦闘において自信があった。しかしそれはあくまでも暴走を鎮めてきただけであり、直接命を奪ったことはこれまで一度としてなかった。

 

 今までとはまったく違う誠の雰囲気から、そして殺し合いという言葉にフェイトは一瞬怖気づく。だが先ほどまで自分のことを撫でてくれたプレシアの暖かい手を思い出し、覚悟を決めたのか誠を真直ぐに見つめて答えた。

 

「……誠の迷惑になるってこともわかってる。でも私は母さんを助けたい。だからお願い、私も連れて行って!!」

 

(……これは断っても絶対に引かないね。まあ、僕もフェイトの立場なら絶対に同じことをするだろうし……しょうがないか)

 

 実際の所、野生の魔物を殺した場合は世界によって死体が残る残らないと異なるのだが、今回誠が行こうとする世界においてはマ素となり大地へと帰るため殺し合いという部分は間違っていない。

 

 迷惑をかけたくない、自分で母親を助けたいというフェイトの決意を否定するわけではないが、死の恐怖を何度も味わっている誠としては、モンスターマスターでも冒険者でもないフェイトに味あわせたくなかった。だから少しでも躊躇するようなら待っていてもらおうと考えていた誠であったが、フェイトの覚悟は本物であった。

 

「……わかった。でもプレシアさんを見ている人も必要だからアルフさんはここに残ること」

 

「はあっ!? なんで私が鬼婆なんかのために「アルフ、お願い……」……はぁ、わかったよ。ただし誠!! フェイトになにかあったら承知しないからね!!」

 

「うん、わかってる。効果は薄いだろうけど薬を置いてくよ。プレシアさんが目を覚ましたら少しづつ飲ませてあげて。もし嫌がるようなら無理やり飲ませてもいいから」

 

 そこからの誠の行動は早かった。鞄から特薬草にいやし草、アモールの水、万能薬などの薬を幾つか取り出すと適当な場所に置く。また念のためにと周囲に聖水を振りまくことを忘れない。

 そして今だオロオロしているアリシアにプレシアを励ますように言いつけ、アルフによく見えのお守りの予備を自分たちが行ってから着けるようにと手渡した。

 

「よし、それじゃあ行くよ。準備はいい?」

 

「大丈夫」

 

「二人とも無事に帰っておいでよ」

 

「うん。……行ってきます」

 

『行ってらっしゃい、フェイト!』

 

 その自分とよく似た声にフェイトは思わず振り返る。しかしそこには誰もいない。フェイトは不思議に思いつつも、その声に小さく返事をして外へと駆け出していった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「……ここら辺でいいかな」

 

 外に出てきた誠は軽く周囲を見渡し、遮蔽物のない開けた場所に移動すると徐に地面に手をつけた。誠は地面に魔力を流すように手に魔力を込めると、それに呼応するようにミッドでもベルカでもない細かな文字が書かれた魔法陣が現れる。魔方陣は一度、二度と点滅すると何事もなかったように消え去った。

 

「これでこの場所も記録したから問題なく戻ってこれる。……ちょっと驚くかもしれないけど我慢してね。ルーラ!!」

 

「えっ――きゃあっ!?」

 

 誠は黙って誠の行動を見ていたフェイトの手を握ると、カレキの国へと向けてルーラを唱えた。いきなり手を握られて驚くフェイトであったが、その後のルーラの急加速にたまらず悲鳴を上げた。

 一瞬の飛行の後に目的地であるカレキの国に到着。それと同時に加速は緩やかになり、誠たちはわずかな衝撃を受けたが無事に着地した。

 

「フェイト、大丈夫?」

 

「う、うん」

 

「そっか。じゃあ急いで行くよ」

 

 王の間がある頂上へと走り出す誠。その後にフェイトも続く。頂上へと近づくにつれて人の往来は盛んになり、フェイトは自身に刺さる好奇の視線が気になった。

 

「視線は気にしないで。ただ服装とかが珍しいだけだから」

 

 同じように視線を受けていた誠はすぐにその理由に思い至り、フェイトに気にしないように言う。フェイトはそれに黙って頷いた。実際のところはカレキの国で有名な誠が見知らぬ女の子――フェイトを引きつれて走っているためであったのだが、誠は最後までその考えが浮かぶことがなく、王の間へと到着したのだった。

 

「カレキ王!」

 

「むっ、マコトか? そんなに慌ててどうしたんじゃ? それにそこのお嬢さんは一体?」

 

「実はこの子――フェイトのお母さんが命の危機に瀕してまして、それでスノキアの根っこが必要なんです。だから以前僕がカレキ王に預けた石版を返してくれませんか?」

 

「母さんを助けたいんです。どうかお願いします!!」

 

 誠はカレキ王に簡潔に現状を伝え、頭を下げる。フェイトもプレシアを助けたいがために必死に懇願する。

 

「ふむ、わかったわい。本来これらはお主の物じゃからな」

 

 それに対して快く承諾したカレキ王は、待機していた兵に誠がこれまでに入手した石版を持ってこさせると、それらを誠に返却する。誠は返却された石版から目当ての石版である“幻雪の迷宮の石版”を取り出し残りを鞄にしまうと、カレキ王に礼を言って出て行こうとしたが、その前に呼び止められる。

 

「マコト、お主のことじゃからそのお嬢さんも連れて行くのじゃろう。モンスターマスターとしてしっかり守り通しなさい」

 

「はい、わかってます」

 

「ならよい」

 

 誠の答えに満足したのかカレキ王は一つ頷くと、フェイトの方に顔を向けた。その鋭い視線にフェイトはびくりと身体を震わせるとサッと誠の背後に隠れる。

 

「ふえっふえっふえっ、そう怖がるでない。お嬢さん……フェイトじゃったか。お主にはマコトと共に行く前にやってもらわなくてはならんことがある」

 

「は、はい。なんですか?」

 

「お主はマコトに依頼したのじゃろ? 既にマコトは受注しておるが、本来なら依頼を受注するためには依頼書を書いてもらわねばならん。マコトよ、フェイトには形式上依頼書を書いてもらわねばならんから、その間に準備をしてきてはどうじゃ?」

 

 カレキ王が指差す方を見ると、いつの間に用意されたのか端のほうに机と羊皮紙、羽ペンが置かれていた。

 

 依頼書とはその名のとおり依頼主と契約者の間に問題が発生しないようにするためのものである。以前まではそのようなものはなかったのだが、細かい取り決めがなかったためか問題が起きることがあったためにこのような形になった。基本的に依頼書は冒険者用の酒場や宿屋に張り出されており、受注すればその場で手続きが行われ、精霊の承諾の元に受理され、クエストが開始される。

 

 また、この依頼においては、人だけでなく魔物や動物なども問題ない依頼ならば依頼主となることが可能である。ただし依頼書の内容や文字などは依頼主に委ねられるため、契約者は注意が必要だ。

 

 なお、加護を受けていない依頼者の護衛依頼などの場合、依頼主が異世界で死亡しても問題ないように一時的に精霊の加護が与えられる。急いでいたからか、この依頼のシステムがすっかり頭から抜け落ちていた誠は、そういえばそれがあったなと思い出す。

 

「あ……そういえばそうでしたね。フェイト、ごめん。一応決まりだから依頼書書いてくれないかな?」

 

「うん、わかった。ルールなら仕方ないよ。……あ、私この世界の文字わからないから……どうしよう」

 

「それなら大丈夫。フェイトの世界の文字で問題ないよ。以前受けたネコからのクエストのときは肉球しか押されてない依頼書だったからね」

 

「そうな――えっ、ネコ!? 受けたの!?」

 

 自分の世界の字であるミッド言語でいいと言われ、ホッとしたが続けて言われたことに驚愕するフェイト。ちなみに誠がこの依頼を受けたわけは、いつまでも掲示板に張ってあって、見ていられなくなったからである。なお、そのときの報酬はネコの心というアイテムだった。

 

「まあそれは置いといて、急いで必要なものとか用意してくるからその間に書いておいてね」

 

「わかった。また後で」

 

 頼んだよと言い残し、誠は王の間を出て牧場へと向かった。残されたフェイトは早速依頼書を書こうとしたのだが――

 

「うまく書けないよぉ……」

 

≪Sir...≫

 

 羊皮紙に羽ペンと、初めて使う文具でうまく書けるわけもなく、どうしようと涙目になるフェイトであった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 あの後もう一枚羊皮紙をもらい、兵の何名かがうまく書くコツを教えると、フェイトは誠が戻ってくるまでの間に何とか書き終えることが出来た。ペンを置くと同時に書き終えた達成感からか深く息を吐いていると、帽子以外をトレジャーシリーズと呼ばれる防具に着替えた誠が戻ってきた。

 

「ごめん、お待たせ」

 

「ううん、大丈夫だよ。はい、契約書」

 

 戻ってきた誠に笑顔で依頼書を渡す。そんなフェイトになんで頬にインクが付いてるのとツッコミたい誠であったが、それをグッと堪え笑顔で受け取った。

 

「うん、ありがとう。……ってあれ? これって日本語?」

 

 フェイトから依頼書を受け取った誠は多少雑ではあったが、そこに書かれている文字が慣れ親しんだ日本語であることに驚いた。その誠の様子に少し得意げにフェイトは答える。

 

「うん。難しい漢字とかはバルディッシュに訳してもらいながら書いたの」

 

≪この程度なら問題ありません≫

 

「そうなんだ、フェイトもバルディッシュもありがとう。さて依頼内容は……え?」

 

 さっと確認してもほとんど問題ないため、早速受諾しようとした誠の手が報酬の部分を目にして止まった。

 

【クエスト名 母さんを助けて】

依頼主 フェイト・テスタロッサ

内容 今も苦しんでいる母さんを助けるために協力してください。私も一緒に戦います。

報酬 叶えられることなら何でもします

 

「……これじゃあ駄目だった?」

 

 フェイトは固まったまま動かない誠を不安げに見つめる。

 その視線を受けて再起動した誠は、フェイトに報酬は別にいらないと先に伝えておけばよかったなと後悔した。しかし直ぐに今度マルチタスクとかそういう魔法のコツでも教えてもらえばいいか。と、考えなおし、なんでもないと首を振ると契約のサインをする。

 

「いや、大丈夫。僕の名前も書いたからこれで依頼は受注されたよ。さ、行こう」

 

「うん!」

 

「それじゃ、カレキ王。行ってきます!!」

 

 依頼書を待機していた兵に渡すと、挨拶もそこそこにフェイトの手を引いて誠は旅の扉の間へと駆け出していった。そして誠とすれ違うように王の間にやってきたのはこの国の精霊かくれんぼうであった。

 

「あれ~? 今のってマコト? 急いでたみたいだけど何かあったのかな? ……まあ後で聞けばいっか。それよりも、朗報だよカレキ王。モンスターマスターに新たな力を渡すことが決まったよ」

 

 

◆ ◇ ◆

 

 

 旅の扉の間に着いた僕は、兵士に案内される前にフェイトにお湯で濡らしたタオルを手渡した。タオルを受け取ったフェイトはきょとんとした表情で僕を見つめる。……本当に気付いてないようだ。

 

「……フェイト、頬にインク付いてるよ」

 

「嘘っ!?」

 

 僕の指摘にフェイトは慌てて頬に手をやるが、既にインクは乾いてしまっているため分かる訳がない。しょうがないので手鏡を出すとフェイトはそれを見えないような速さで引っ手繰り、慌てて自分の顔を映した。

 その行動がプレシアさんに似てるな~と思っていると確認したのか、フェイトはごしごしとインクをふき取っていた。

 

「むうっ、なんで教えてくれなかったの……」

 

「いや、急いでたし気付いてると思ってたから……つい」

 

 頬を膨らませて文句を言うフェイトだが、可愛い容姿に羞恥で顔を赤らめているのもあり、怖いというよりも可愛らしいとしか思えなかった。うん、言わなかった僕も悪いけどバルディッシュも何で言わなかったんだろ? …………考えても仕方ないし、別にいっか。

 

「ごめんごめん、後で何か埋め合わせするから。あ、すいません案内をお願いします」

 

「いえ、お気になさらず」

 

 黙って僕らのやり取りを見ていた兵士さんが、微笑ましいものを見たような目でそう言う。何となく気恥ずかしくなったので、さっさと案内してもらうように言うと、わかりましたと兵士さんは僕たちを一つの台座へと案内してくれた。

 

 台座には四角い窪みが存在し、そこに“幻雪の迷宮の石版”をはめ込むと、カチリと音がして台座から光が溢れ出す。やがてその光は綺麗な青白い渦となって旅の扉が形成された。

 

「すごい……」

 

「そうだね。この石版の数……いやそれ以上に沢山の世界がある。この旅の扉を通って僕らは異世界に行くんだ。それにタイジュの国みたいに常に旅の扉が開いていないからモンスターの逆流とかもない。でもマルタの国みたいに鍵みたいな小さな物だったら嵩張らなくてすむんだけどなあ……」

 

 その神秘的な光景に思わず感嘆の声を漏らすフェイト。それに同意しつつ、軽く旅の扉についてフェイトに説明する。最後の方は愚痴になったけど……。

 

「最後に僕らが行く世界について簡単に説明するよ」

 

 異世界は大きく分けて二つに分かれている。

 各層ごとに分かれており、最深部に主が住む基本的にモンスターしかいないダンジョンと呼ぶべき世界。この世界は基本的にキメラの翼やルーラがないと帰れない。

 もう一つが大陸として存在し、その世界の主が支配している人やモンスターなどが住んでいる世界。こっちは街とか塔とか色々ある。

 

 基本的に旅の扉で行けるのが前者で、鍵で行けるのが後者である。なおカレキの国が使う石版はこのどちらにも対応するが前者の世界の方が多い。そして今回僕たちが行く世界はちょっと特殊で、大陸として存在する世界なのだが、最深部の主の下に辿り着くまでには‘不思議なダンジョン’を通る必要がある。

 

「それでこの不思議なダンジョンがかなり厄介なんだ。普通のダンジョンと違って、人を優先して攻撃してくるから僕たちは細心の注意を払わなきゃいけないし、休憩所を兼ねている酒場とかのイベントフロアもない。それに思い出の鈴やキメラの翼とかの帰還アイテムじゃ脱出できなくて、リレミトかリレミトの巻物が必要なんだ。――まあ今回は巻物も用意してあるから安心していいよ。あとは……次の階層に進むのは井戸じゃなくて普通に階段ってところかな。……もう一回説明は必要?」

 

「ううん、大丈夫だよ。でも酒場? 井戸?」

 

 あ、やっぱり井戸とかいきなり言われると反応に困るか。普通は井戸が次のフロアに行くためのものなんて思わないからね。でも今回はあんまり関係ないから別にいいか。

 

「今回行く世界には関係ないから気にしなくていいよ。それじゃあ、準備はいい?」

 

「うん!」

 

「お気をつけて。石版はお預かりしますので、戻ってきた際に返還します。それでは、よい旅を」

 

 

 そう言いながら一礼する兵士さんに見送られ、僕たちは異世界へと旅立った。

 

 

 

――――キ・・・のう・・・力・・・な・・!

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「あれ? 今声が聞こえたような……」

 

「……ううっ、目の前がぐにゃぐにゃして気持ち悪い」

 

 気が付くと僕たちは雪降り積もる平野にいた。空は分厚い雲が覆っており、今も深々と雪が降っている。雪の深さはそこまでなかったが、慎重に行動しないと足がとられそうだ。ふと横を見ると、旅の扉に酔っていたフェイトは今度は寒そうに震えていた。

 

「ちょっと待って。……はい、これを飲めば大丈夫だよ」

 

「あ、ありがとう」

 

 鞄から水筒とコップを取り出すと、中に入っているヌーク草のスープをコップに淹れてフェイトに手渡す。ヌーク草は生だとものすごく辛いけど、こんな風にスープにして飲むことで極寒地帯でも体温の低下を防ぐことが出来る。そのため冒険者にとっては必需品の一つでもある。

 ちなみに粉末状にすることで逃走道具にもなる。その効果は魔犬レオパルドも撤退するほどだ。

 

 これだけじゃ寒いかもしれないからと、フェイト用に防寒具を用意しておいたのだが、フェイトはそれを大丈夫だと拒否すると、あの見た目すごく寒そうなBJを展開した。冬至からBJには耐寒性があると聞いてはいるが、思わず疑ってしまう。

 

「一応聞くけど、寒くないの?」

 

「BJだけじゃ寒かったかもしれないけど、あのスープを飲んだから大丈夫。問題ないよ」

 

 そう両手でガッツポーズして笑うフェイトだが、見ているこっちが寒く感じる。というかフェイト、かなり露出度が高い格好だけど将来とか大丈夫だよね? ……いや、アリシアがプレシアさんの服装について色々言ってたし、って――

 

「フェイト! か、顔近いから!!」

 

「あっ、ごめん」

 

 そんなどうでもいいことを考えていたせいか、フェイトが僕の顔を覗き込んできていることに気付かなかった。慌てて2、3歩下がりフェイトと距離を離す。はぁ……心臓に悪い。

 うん、とりあえず格好については別にいいか。ほら、戦士とか盗賊、僧侶の人たちの格好もアレだし……。

 

「誠、早く行こう」

 

「ちょっと待って。……はい、これ」

 

 先に行こうとするフェイトを呼び止め、エルフのお守りと命の石を数個手渡す。

 エルフのお守りは持っておけば状態異常が効きづらくなる。そして念のために即死対策として命の石を渡しておく。命の石はザキなどの即死呪文が効いた時、身代わりになってくれる使い捨てアイテムだ。

 一応依頼を受注したおかげでフェイトも加護を持っているから死んでも大丈夫なんだけど、死の恐怖を態々味あわせる気はないし、棺桶引っ張る趣味もない。これらの道具の説明をすると、案の定フェイトは顔を真っ青にさせた。

 

「そ、即死!?」

 

「うん。喰らうと全身の血液が固まって即死する恐ろしい呪文だよ。気をつけてね」

 

「う、うん」

 

 想像してしまったのかその身をぶるりと震わせると、深刻な表情で頷いた。モンスターの知識がないフェイトではどのモンスターが即死呪文を使ってくるか分からない。だからこう忠告しておけば、焦って一人で勝手に行動するなんて事はしないだろう。

 

「それじゃあ行こうか」

 

「わかった」

 

 僕たちは奇襲に注意しながらスノキアの大樹内部の迷宮へと潜っていった。

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか?

今回も色々と新たな設定が出てきました。
一応元ネタを説明しますとスノキアの根っこと今回のダンジョンは少年ヤンガスから
依頼書(クエスト)の元ネタはドラクエⅨのクエストです。

スノキアの大樹の設定については完全にオリジナルです。
一応パデキアがソレッタの土でなければうまく育たないのでスノキアもそうだと仮定、
スノキア自体少年ヤンガス以外で出展していない。パデキアはⅣと少年ヤンガスに出展したのでスノキアの知名度は低いとしてこのような設定となりました。

次回はスノキアの根っこを求めて誠とフェイトのダンジョン攻略が始まります。
出来る限り今月中にはもう1回更新したいですが、気長にお待ちください。

それでは次回でお会いしましょう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。