今回で一応探索は終了しますが、すいません。
プレシアや冬至サイドの話は次回に回すことになりました。
今回も色々とオリ設定を追加
それではごゆっくりどうぞ。
「うぅ……ん……あ……れ?」
「あ、起きた?」
あれから何度目かの襲撃を退け、一旦小部屋に戻った僕は仲間たちの傷の手当をしていると、目を覚ましたフェイトがゆっくりと起き上がってきた。
寝起きのせいで頭が回っていないのか、ぼんやりと周囲を見渡し、僕の方に顔を向けるとじーっと僕を見つめてくる。
「――あっ! そうだ私が罠を踏んじゃって……ごめん、まこ――一体何があったの!?」
完全に目が覚めたのか謝ろうとしたフェイトだったが、その前に僕の惨状に声を上げると勢いよく詰め寄ってきた。
あー、うん。言いたいことは分かるよ。でも少し落ち着いてね。ちょっと呪文や特技の余波で服が少しボロボロになっただけでそこまで怪我はしていないから。そのことを伝えると、安堵したのかフェイトは深々と息を吐いたのだが、今度は肩を落として落ち込む。
「……誠の役に立ちたいからついてきたのに、足引っ張ってばっかりでごめんね」
「大丈夫だよ。冒険していればこんなハプニングいつものことだしね。フェイトは少し気にしすぎだよ」
「でも――キャアッ!?」
フェイトが何かを言いかけたとき、僕たちを吹き飛ばすような勢いのある風がフロア内に吹き込んできた。そしてそれを皮切りにフロア内に弱弱しい風が吹き込み始める。どうやら長居しすぎたみたいだね。でもちょうどいいや。今の風であの部屋のガスは完全に抜けきっただろう。
「この風って……?」
「これは僕たち冒険者への警告の風。不思議なダンジョンでは、一つのフロアに長い間滞在するとさっきみたいな強い風が吹き込んでくるんだ。三回強力な風が吹き込んでくると強制的にダンジョン外に出されるんだよ。あ、今の風はまだ一回目だから」
「…………ねえ、私ってどれくらい寝てたの?」
「大体一時間位だね」
ダンジョン内に吹く風について説明すると、フェイトは冷や汗をかきながら恐る恐る尋ねてきた。なので正直に答える。
そんなに時間は経っていないはずと思いながら時計を見ると、やはり一時間ほどしか経っていなかった。まあ風も一回しか吹いていないからね。しかしフェイトにとってはそうではないようで、そんなに寝てたの!? と叫んだ。……あれ?
「フェイト、この世界と僕たちの世界の時間の流れが違うってこと忘れたの?」
「……あっ」
早く先に行かないと、とあたふたしているフェイトにそう言うと間の抜けた声を上げた。やっぱり時間の流れが違うことを忘れていたようだ。それに気付いたフェイトはまた落ち込む。
あー、ダンジョン入ったときから思ってたけど、フェイトってちょっとメンタル弱いのか。これはちゃんとフォローしとかないと駄目だね。
「ほら。寝起きとかって頭回らないことあるから仕方ないよ。僕だってそうだし。それにあの睡眠ガスが抜けないと次に進めないからどっちにしてもここで足止めされてたし……ね?」
「…………うん」
「それじゃあ十分休憩できたし、行こうか」
さあ行こうとトーポ以外を筒に戻し、小部屋を後にしようとした時、背後からぐさりと何かが突き刺さる音が聞こえてきた。
僕たちがその音に思わず振り向くと、地面に氷柱が突き刺さっていた。どうやらさっきの音はこの氷柱が原因のようだった。そしてその氷柱は普通の氷柱ではなかった。
その氷柱はゆっくりと揺れ動き、飛び跳ねる。そして氷柱の中から蝸牛のように白いスライムが顔を出した。
あれって、つららスライム!? 思わず天井を見ると、普通の氷柱に混じってつららスライムらしき氷柱が幾つもあった。それだけじゃない。まるで雪が降るようにスピンスライムがゆっくりと降ってきている。
「聖水が切れたんだ! フェイト、走るよ!」
「う、うん! バルディッシュ、起きて!」
≪Yes,Sir. Set up≫
飛び跳ねて追いかけてくるつららスライムを尻目に、僕たちは一目散にモンスターハウスとなっていた部屋に繋がる通路へと駆け出す。逃げ道が出来ているのだから態々戦闘する必要はない。それにつららスライムもスピンスライムもそこまで早くないので逃げ切ることはできる。でも念には念を入れておこう。
「ボミオス! ついでに吹き飛べ!」
カバンから爆弾岩の欠片を取り出すと、敵全体の素早さを下げるボミオスをかけ、爆弾岩の欠片を先頭のつららスライムの手前に落ちるように山形に投げる。
投げつけた後は爆風に巻き込まれないように素早く反転し、爆風の範囲から退避する。その数秒後、背後から大きな爆発音と悲鳴が聞こえた。もう少しダメ押しもしておくか。
「トーポ、このチーズを!」
「ちゅっ!」
肩に乗って後方を確認していたトーポに、見た目すごく冷たそうな凍ったチーズを手渡す。激辛チーズだったら一網打尽に出来るのだが、あれはこの前勝手に食られたからない。……思い出したら腹が立ってきた。
思わず、何で勝手に食ったんだとジト目でトーポを見ると、そんな僕の視線から逃げるようにそのチーズを勢いよく食べはじめた。こんな状況なのに一心不乱にチーズを食べる姿に思わず感心する。本当にチーズが好きだねこの子は。
だからって許しはしないけど……。
そんな僕たちのやり取りを牽制するように魔力弾を放っていたフェイトが、怪訝な顔をしながら尋ねてきた。
「えっと、二人とも何やってるの?」
「ダメ押しと魔力の節約」
「???」
意味が分からないという表情を浮かべるフェイトを尻目に、チーズを食べ終わったトーポはぷくーっと頬を大きく膨らませ、勢いよく吹雪のような息を吐き出した。
フロア内の風の影響で吹雪は奥まで広がらなかったが、とりあえずスピンスライムたちは倒せた。おまけに小さな氷塊が周囲に転がり、つららスライムたちの移動を阻害させる。
これで少しは余裕が出来たかな? そう思っていると、つららスライムたちとは違う地響きのような足音や叫び声に僕たちは揃って顔を顰める。どうやらまだまだいるようだ。
「ここに来るまでこんなに沢山いなかったんだよね?」
「うん。モンスターハウスにいたモンスターたちも全部倒したはずなんだけど……」
走りながら何故こんなにいるのか原因を考えると、一つだけ思い当たる罠があった。それにあの部屋がモンスターハウスならばこの大量発生の原因も説明できる。
「……あ、そっか。多分モンスター化の罠が原因だよ」
「モンスター化? それってどんな罠なの?」
「簡単に言うと部屋内のアイテム全てがモンスターに変わる罠なんだ。罠はモンスターたちも起動できるから生き残ったモンスターが起動させたんだと思うよ。モンスターハウスは罠とかモンスターだけじゃなくて、アイテムも沢山落ちてるからね」
普通ならそこまでアイテムは落ちていないからモンスター化の罠もそこまで脅威じゃない。だけどアイテムも大量に落ちているモンスターハウスの場合は話は別だ。せっかく部屋内のモンスターを掃討しても、この罠一つで窮地に陥る場合もある。
「えっと……じゃあ私たちが向かってる先にも敵はいるんじゃ……」
「うーん、分からないけど多分いても少ないと思うよ。基本的に起きてるモンスターって通路があればとりあえず巡回するから、部屋にはそこまで残ってない……はず」
僕の言葉に不安を感じたのかフェイトは走る速さを一気に落とすと、僕に一つの提案をする。
「それだったら、ここで戦おうよ! そうすれば安全に進めるよ!」
そうなんだよね。左右を封鎖した十字路を抜けた今だったらフェイトの言うとおり、ここで立ち止まって殲滅するのも一つの手だろう。だけど一回目とはいえ、風が吹いている今の状況ではこのフロアに長居したくないし、せっかくフェイトが回復したのにまた消耗させるわけには行かない。
それにトンネルの杖で通路を開通させれば階段は目の前だから急いで入れば問題はない。でも、ここまでかなり騒ぎ立ててるから封鎖を破ってくる可能性もあるんだよね。
何事も絶対なんてないし、それを簡単に行うだけの力を持っているモンスターがこのフロアには一種類だけいる。
でもこの通路の狭さなら……それも視野に入れて……うん、道具もあるから、とりあえずの策を二つ立てて後は何時も通り臨機応変にいこう。
「走るよ、フェイト」
「……後ろはいいの?」
「全力で走れば追いつかれないから大丈夫。それに対策も立てたからこの先に進んだほうがいいんだ。というわけで走ろうかフェイト、悪いけど先頭はお願いね」
「…………わかった」
幾つかの案があることを告げると、フェイトは少し考えるそぶりを見せたが何も思いつかなかったのか了承した。そしてフェイトはスピードを上げ通路を再び駆ける。通路には障害物も罠もない一直線なので、そのスピードが落ちることはない。
一方、後ろからフェイトを追いかけていた僕はというと、自身にピオラで素早さを上げてようやく追いつけるぐらいだった。分かっていたことだけどやっぱりフェイトは速い。なんだか負けた気分になる。うん、全部終わったら一から鍛えよう。
「行き止まりが見えてきたよ!」
「フェイト! 少しスピード落として!」
行き止まりが見えてきたので少しスピードを緩めるように指示を出し、トンネルの杖を取り出す。それを瓦礫のやや上方に向けて振るうと、勢いよく放たれた魔力弾は瓦礫の上半分ほどを跡形もなく消失する。
瓦礫の先には階段のある部屋が見えており、ガスは既に消えていた。
「よし、これで飛び越え――っ!」
「えっ……機械の竜!?」
瓦礫を飛び越えようとスピードを早めようとした瞬間、死角になっていた部分から機械で出来た竜が突如現れた。
僕たちの声に反応した機械の竜――メタルドラゴンは僕たちの姿を捉えると、翼をはためかせ耳を劈くような咆哮を上げる。その咆哮に僕たちは思わず立ち止まり、耳を塞ぐ。――っ、メタルドラゴンがいる可能性は考えていたけど、この咆哮は予想外だ。
耳を押さえながらもメタルドラゴンの方を見ると、奴は瓦礫を破壊して僕たちの元に近づこうとしていた。でもこれは逆にチャンスだね。上手くいけば飛び越える手間も省けるし、背後の通路も塞げるだろう。
軽く深呼吸をして気持ちを落ち着けると、ふらふらとしながらもバルディッシュを構えようとするフェイトの手を握る。
「ま、誠?」
「しっかり握ってて! いくよ、場所がえの杖!」
攻撃しようとしたフェイトはいきなり手を握られて驚いているが、手を離さないようにしっかりと握る。そしてカバンから取り出したもう一つの杖を取り出し振るった。放たれた魔力弾は、瓦礫を吹き飛ばそうとしたメタルドラゴンの顔に命中する。
魔力弾が命中した瞬間、何かに引き寄せられる感じとともに気付いたときには、僕たちとメタルドラゴンの場所が入れ替わっていた。
「い、位置が入れ替わってる……。どういうこと!?」
「説明は後! やっぱりまだ数体残ってるか。だったらこれだよ――貼り付け!」
まだ耳がキーンとしており、至近距離なのにお互い叫ぶように会話するという非常にシュールな状況になっているが、そんなことを言っている場合じゃない。部屋内に残っていた魔物たちが接近してくる前に取り出した"はりつけの巻物”を広げ、その中に書かれている一文を唱える。
はりつけの巻物は、部屋内にいるモンスター全ての移動を制限する効果を持っている。効果時間が短いことや、攻撃を制限できない。味方モンスターにも影響を与えるなどとデメリットも大きいが、トーポは肩に乗っているため問題ない。
これによって部屋内のモンスターたちは全て貼り付け状態になった。さらに背後の通路も僕たちと入れ替わったメタルドラゴンで塞がれている。
「罠を踏まないように僕の後についてきて!」
「わかった!」
こうして僕たちはこのフロアを無事に切り抜けることが出来たのだった。
◆ ◆ ◆
「ははは、階段下りたのはいいけど大部屋なんて運悪いなあ……」
「笑ってる場合じゃないよ!」
≪囲まれています≫
階段を下りた僕たちを待ち受けていたのは一つの巨大な部屋、降りた瞬間に一斉にモンスターたちに気付かれた。しかもモンスターハウス。
普通だったら横で慌てているフェイトと同じようになるんだけど、今回は余裕があった。だってモンスターたちは一部屋に集まってるんだからね。こんな状況に適した子が僕の手持ちにはいる。というわけで、早速殲滅しようか。
「デルパ!」
呼び出したのはデックとトリーズ、それと肩にいるトーポ。今回の殲滅戦はこの子たちが適している。まずトリーズが、デックに賢さを上昇させる呪文、インテを唱える。その間にフェイトに地面に伏せるように言って、安全を確保してからデックに指示を出した。
「デック! 全力でやれ!」
「――――!!」
デックが盾を掲げると同時に巨大な魔法陣が展開される。
そしてデックの頭上に巨大な球体が出現すると、その球体を中心に光のようなものが幾つも差し込み、それが一つに収束した瞬間――大規模な爆発が起こった。
「キャアアアアアッ!?」
「――くっ!」
その衝撃波は凄まじく、地面にしっかりと伏せているのに僕たちは吹き飛ばされそうになる。今デックが使用した呪文はイオグランデ。イオ系統において最上級の呪文だ。
デックの元々高い賢さもインテで更に強化され、おまけにデックはイオブレイクというイオに対する耐性を下げる特性を持っている。
当然そんな攻撃を野生のモンスターたちが耐え切れるはずもなく、煙が晴れた時にはイオに多少の耐性を持っている数体が何とか生きている状態であった。
生き残ったモンスターたちは、モンスター化の罠を起動させようとしていたけど、その前にトーポのブレス攻撃であっけなく倒れた。
「あんなにいた魔物が一瞬で……何で今まで使わなかったの?」
「不思議なダンジョンもフィールド内だから呪文の威力が制限されないからきけ――わかりやすく言うとあんな高火力の呪文使ったら天井が崩れてくるからだよ」
「そうなんだ。確かにすごい魔法だったもんね」
「うん。それじゃあ次のフロアに行こうか」
そして僕たちは階段を下り、次のフロアへと向かったのであった。それからは特に問題は起こらず、先ほどよりも速いペースで進むことが出来た。フェイトも最低限の魔力弾によるサポートに徹してくれているため、魔力消耗も少ない。
ただやっぱり気になるのはこの世界のモンスターたちの異常性。それに何故かまったくモンスターが出現しなくなったことだ。露店らしきものもあったが、アイテムが規則正しく並べられているだけで店番のガーゴイルもいなかった。
……いや、正確に言うとモンスターはいたのだろう。だってフロアの至る所に戦闘痕が残っているのだから。
「……不思議なダンジョンの魔物って基本的に争わないんだよね。じゃあ誰かがここで戦ってたのかな?」
「多分、冒険者かモンスターマスターの誰かが来ているんだろうね。でもどっちだろ――あっ、あの子に聞いてみようか」
きょとんとしているフェイトに、こそこそとこちらの様子を伺っていた銀色のスライム――メタルスライムを指差す。
あれ? やけに小さいような……。そんなことを考えていると、僕に指差されたメタスラは大袈裟に飛び跳ね通路へと逃げようとする――遅いね。
「張り付け!」
メタスラを発見したときからはりつけの巻物を取り出していた僕は、巻物に書かれている一文を唱える。するとメタスラは地面に縫い付けられたようにその場から一歩も動けなくなった。役目を終えた巻物は、僕の手から音もなく消え去った。
本当は巻物を使うつもりはなかったんだけど、魔弾反射というダンジョン内での特殊な特性を持つメタスラを捕まえるには必須だからしょうがない。ちなみに杖投げも魔弾反射には有効なんだよね。もったいないからやらないけど。
「デルパ! みんな、スカウトアタックだ!」
何故スカウトをするかというと、普通のダンジョンや異世界ならスカウトしなくても会話できるけど、不思議なダンジョン内の場合は、店をやっているガーゴイルを除いて話を聞いてくれないからだ。
これは不思議なダンジョン自体が実は一体の巨大なモンスターで、仲間にすることによってダンジョンから解放されるから会話が可能になるなど色々と説はあるのだが本当のことは分からない。まあ今はそんなことはどうでもいいだろう。
「いけっ!」
メタスラを指差し、スカウトアタックの指示を出す。
スカルたちから野生のモンスターを仲間にする不思議な力を持った黒いオーラが溢れ出す。このオーラはマスターによって色が異なり、僕がスカウトする場合は黒になる。前にテリーのスカウトアタックを見たが、テリーの場合は青だった。
スカウトアタックはマスターと野生のモンスターとの心を通わせ仲間にする技だから、恐らく本人の魔力光によって変わるんだと思う。
「ぴきーーっ!」
そんなことを考えていると、メタスラの声が聞こえてきた。どうやら仲間になってくれるようだ。ぴょんぴょんと飛び跳ねながら僕たちの方に向かってくる。
「……あれ? メタスラだよ……ね? もしかしてプチメタル?」
「ピギッ!!」
こちらに来たメタスラの姿を改めて確認して、僕はその小ささに驚く。思わず尋ねてしまった僕は悪くない。それほどこのメタスラは小さかった。だけど目の前にいるこの子はメタルスライムでもプチメタルでもなく、メタルスライムSだと名乗った。
へー、メタルスライムSか珍しい……えっ、ちょっと待って!
「メタルスライムSって集団で行動するモンスターだよね。何でキミ1匹だけこんなところにいたの?」
「ピギィッ~、ピギ!」
「えっと、気付いたときには自分一人だった? それにモンスターは人間と小さな魔王に全員ついて行った!? もうちょっと詳しくお願い」
「い、今の鳴き声にそれだけの意味があったんだね……」
話についてこれなかったフェイトがそう言うが、そんなことを気にしている場合じゃない。少しでも情報を手に入れないと。
詳しくメタスラSから話を聞くと、僕たちがここに来る少し前から急にマ素の濃度が高くなり、モンスターたちが凶暴化した。更にレベルの高いモンスターたちが下層に出現するようになり、それによって元々下層にいたモンスターたちが上の階層に追いやられたらしい。
……なるほどね。ようやくこの世界の異常が分かってきた。それにこの子がこの世界に生まれた理由も何となく理解できる。
多分、この子はメタルキングになるはずだったマ素から零れ落ちた存在なんだろう。何より少し前にメタルキングを見かけたからね。……逃げられたけど。
だけど何でマ素の濃度が上がったんだろう?
この子が言うにはマ素が濃くなったときに何かドス黒い感情が湧き上がってきたらしいけど、臆病な性格が幸いして凶暴化せず縮こまっていたらしい。でも凶暴化にドス黒い感情? ……もしかして主が魔王に変わってる?
それなら凶暴性が増した理由も分かる。まあ結局倒すんだから別にいいか。
「ピギ~~!」
「あ、名前? ごめん忘れてた。その前にキミの性別は?」
「ピキ!」
メスだね。スライム系って環境や育ち方でまったく違うから分かり辛いんだよね。
うーん、メスだからメタぞうとかは駄目。メタりんも前に仲間にしたメタスラに付けたから駄目。
「メタスラS……集団の子だからトリーズみたいに…………メルズは、微妙か。……メルル……うん、これがいい。キミの名前はメルルだ!」
「ピギッ!」
どうやら気に入ったようでぴょんぴょんとその場で跳ねる。さて、それじゃあメルルには一足先に牧場に行ってもらうとしよう。
「メルル、先に牧場で待っててね」
「ピキッ!」
カバンから取り出した特別性のキメラの翼を取り出し、メルルにぶつける。すると、キメラの翼がメルルにくっつき、宙に浮かせる。そして二、三度ほど羽ばたくと一瞬でその場から消え去った。やっぱりこれはモンスターマスターにとって必需品だね。
「あれ? キメラの翼って使えないんじゃ……」
「うん、普通のキメラの翼は使えないよ。だけどあのキメラの翼はちょっと特別でね。スカウトした仲間に対して限定だけど、どんな場所からでも牧場に送ることが出来るんだ。元はとある戦車乗りのスライムが仲間やアイテムを町に運ぶために使っていたという代物なんだよ」
「でもそれってすごく貴重なんじゃ……」
「ううん、別にそんなことはないよ。精霊の加護をかけるだけだし、国が冒険に行く前に支給してくれるものだからね。それにこれが出来る前は、仲間にしたモンスターに自力で牧場まで行ってもらってたらしいよ。名前を付けておいたから大丈夫なんだけど、仲間にしたてってレベルも低いから基本死に戻りだったらしいから」
「そ、そうなんだ」
以前までの仲間モンスターの過酷な環境にフェイトは若干引き気味のようだ。
うん、引く気持ちは分かる。それに強いモンスターの場合は、マスターが牧場に戻ってもまだ到着していなかったなんてこともあったらしいけど言わないでおこう。
「……ところでメタルスライムSのSってどういう意味?」
「…………さあ?」
さっき聞いたけど本人も知らないみたいだから本当にどういう意味なんだろうね?
それじゃあ、次に行こうか。
◆ ◆ ◆
罠を踏まないように気をつけながら、敵のいないフロアを進んで数十分、僕たちは最下層に到着した。そしていざ主と戦おうと、門みたいな大きな扉を開けようとしたのだが、びくともしなかった。アバカムを試してみても扉は開かない。
扉に耳を当てて部屋内の様子を伺うと、戦闘音らしきものが微かに聞こえてきた。どうやら中で主と戦っている人物を逃がさないためにこの扉は開かないようだ。
焦ってもしょうがないので休憩を兼ねてフェイトと最後の作戦会議をする。
「というわけで、フェイトの役割はちょっと危険なんだけど大丈夫?」
「うん、大丈夫。誠たちが主と戦っている間は取り巻きを撹乱すればいいんだよね」
「別に無理して倒さなくていいからね。こっちも出来る限り主を引き付けるけど、標的にされたと判断したらすぐに逃げて。それと今言ったのはあくまでも主が前と変わらなかった場合だけ。状況によっては随時作戦を変えるから注意して」
「わかった」
僕は既にここの主であるグランバズズを一度倒しているため、主の詳細も大体理解している。だからフェイトにお願いしたのは、取り巻きのサイクロプスたちの撹乱。サイクロプスは山のように図体が大きく、一撃が重いパワータイプのモンスターだから、一撃離脱を心がければスピード重視のフェイトなら当たるはずがない。それにここに来るまでに何度かサイクロプスとは戦ったから問題ないはず。
けど集中力が切れたりしたら危ないから、僕たちも急いでグランバズズを倒さないといけない。念のために控えのメンバーをフェイトの護衛に回す。これで多分大丈夫なはずだ。
だけど懸念事項は二つある。まずこの世界に起きている異変。だからもしかしたら主自体が変わってるかもしれない。
もう一つは僕たちより先に来ているモンスターマスターの存在。
メルルの話では魔王を思わせるモンスターと赤い一つ目のピエロ、巨大な二足歩行の三つ目の鳥を連れていたらしい。
魔王らしきモンスターで考えられるのはプチソーンかゾーマズデビル。赤いピエロは間違いなく一つ目ピエロだね。鳥の方は多分ジャミラスかサイレスあたりだろう。
そしてこのモンスターマスターが立ち塞がるなら、モンスターバトルで倒さないといけない。
そのことは既にフェイトには伝えて納得させてはいるが、かなり不満そうだった。だけどモンスターマスター同士が異世界で出逢って、戦うならモンスターバトルじゃないと駄目なんだからしょうがない。
そんな風に作戦を決めていると、今までびくともしなかった扉が何の前触れもなく少しだけ開いた。恐らく決着が付いたのだろう。
「主か、モンスターマスターか。どちらと戦うにしてもこれで最後。気合入れていくよ!」
「うん!」
覚悟を決め、扉を開けようとした瞬間――
「ギイィッャアアアアアアアッ!!?」
「「――っ!?」」
耳を劈くような叫び声が扉の先から聞こえ、二人して耳を押さえる。
やがて叫び声が聞こえなくなると今度はグチャリと何かを混ぜ合わせるような気持ち悪い音が響いてきた。これは僕たちより先に来たモンスターマスターが主を倒したのだろうか? でもそれだったらこの気持ち悪い音は一体何……?
「……今のが何か分からないけど、僕たちにとって多分よくないことだね。フェイト、準備はいい?」
「うん。出来る限りのことはするから任せて」
「よし、行くよ!」
扉を力いっぱい押し開くと、僕たちは部屋内に飛び込んだ。そして目に飛び込んできた惨状は酷いものだった。床のいたる所に大小さまざまなクレーターが無数に出来ており、一部の氷の壁には血が飛び散っている。
異様だったのは、部屋の中心に平然と佇んでいるモンスターマスターとその仲間たちではなく、彼らが見ているモノ。
それは宙に浮く巨大な黒い球体だった。まるで生きているかのように脈動し、吐き気がするほどの邪悪な気配を放っている正体不明の物体。
いや、違う。僕はあの物体の正体を知っている。だってあれは、形は違っていても僕たちモンスターマスターにとってはあたり前の物だから。
「……モンスターのタマゴ」
呟いた瞬間、タマゴらしき何かは一際大きく脈動し、生まれた。
脈動する黒い球体を突き破り、その中から生まれたのは全身が影のように黒いジャミラスより一回り大きな影の世界の住人――妖魔ゲモン
ゲモンは産声を上げるように咆哮を上げると、目の前のモンスターマスターに跪いた。
そこで僕はようやくこの惨状を引き起こしたであろうモンスターマスターを見た。
青い民族衣装の上にマントを身に付け、杖を持った不敵な笑みを浮かべる白い髪の少年。
「――えっ?」
思わず声が出た。だってその少年の見た目は僕のよく知っている人物とそっくりだったのだから。最初は見間違いではないかと思ったけど違う。
僕の呟きが聞こえたのか、目の前の少年は僕たちの方に顔を向けた。
……ああ、間違いない。
「……テリー?」
目の前の少年は、タイジュの国のモンスターマスターであり、最強のモンスターマスターと言われるテリーだった。
いかがでしたでしょうか?
ラストに登場したテリーはあのテリーです。
なぜテリーの仲間があのメンバーなのかは次回判ると思います。
ヒントはこの世界の主は誠の予想したとおりグラン"バズズ"でした。
今回作者が最も悩んだのはスカウトしたモンスターをどのように牧場に移動させるかでした。
最初は不思議なダンジョンが舞台なのでヤンガスの設定を使おうと思いましたが、没にしました。
そして本編で誠が言っていた死に戻りを考えていましたが、スラもりの存在を思い出し、スカウトモンスターを転移させるキメラの翼の設定を追加しました。
結果的にこっちの方がしっくりきたのでよしとします。
さて次回はVSテリー? 戦になるかと思います。
あと誠たちが冒険しているときのプレシア、冬至の話も。
それではまた次回ごあいしましょう。