本編開始です。
なお、開始時期は無印途中からになります。
「「「ごちそうさまでした」」」
あの後すぐに行動を開始した誠は、はやてたちの口喧嘩を止めると三人揃って朝食を食べ、ゆっくりと食後のお茶を飲んでいた。のほほんとした表情ではやては深く息を吐いた。
「ふぅ~。やっぱ食後のお茶は落ち着くわ~」
「……その前にはやて、さっきの事で俺に言うことはないか?」
内心年寄り臭いなと思いながらもそれを表に出すこともなくそう言うのは、誠やはやてとは違いくせっ毛のある白い髪をしたややツリ目の少年――
彼はとある事情により誠たちの両親に引き取られ、両親亡き後もそのままここで生活している。
「ん? ああ、明日はこの鉄で出来たはりせんで起こすわ」
「違うわ!! というか、そんなもんで叩かれたら起きる前に怪我するだろ! そしてそれはどこで手に入れてどこから取り出したーー!!」
「うん。ナイスツッコミやな。やけどもうちょい要点絞ったほうがええよ」
けらけら笑いながら駄目だしするはやてにうがーっと冬至は叫ぶと、力尽きたように机につっ伏す。そんな二人のやりとりを誠はにこにこと笑って見ていた。
余談であるが、はやてが取り出した鉄のはりせんは、誠が異世界で手に入れた物である。二人に異世界のことをまだ言っていない割にはこういった道具を時折整理のために出しており、それを悉くはやてたちに発見されている。そのたびに誠は拾ったと言っているが、間違ってはいない。
「そういや、今日は兄貴たちはどうするんだ? 俺はこの後用事があるから出かけるけど」
冬至は不貞腐れたような声で顔だけ上げ、誠たちに尋ねた。そんな冬至の様子に誠は、やりすぎだとはやてに目配せし、はやてが答えるように愛想笑いするのを見てから口を開いた。
「今日は特にやることがないから、はやてに付き添って図書館に行くつもりだよ」
「今日中に返さなあかん本が結構あってな、私一人じゃ持ってけれんねん」
「そしてまたあんだけ大量に本を借りてくると……」
居間の方に置かれた十冊ほどの本を指差し、冬至は呆れた様に呟く。本来なら十冊も借りれないのだが、誠とはやてそれぞれが貸し出しカードを使って本を借りている。ちなみに誠本人が借りたのは一冊だけ。そんな冬至の言葉にムスッとしたはやては、逆に冬至に尋ねた。
「ええやん別に。そう言う冬至の用事って何なん?」
「何って、サッカーの試合観戦だよ」
「そういえば翠屋の店長さんが、今日サッカーの試合があるって言ってたっけ」
誠は思い出したかのようにそう呟く。今日サッカーが行われることを知っている誠の交友関係の広さに冬至は思わず苦笑する。
「相変わらず顔広いな兄貴は。ああその通りだよ。クラスの奴に誘われたからな。それに友達が試合に出るから一応応援」
「ふーん。そっか……試合観戦ね……うん」
「兄ちゃん?」
冬至の話に誠は一人納得し考え事をし始める。はやてが呼びかけても声は聞こえていないようであった。その様子にはやてと冬至はお互い顔を見合わせ、またかとため息を吐いた。
「……なあはやて。これって……あれだよな?」
「声聞こえとらんみたいやし、間違いあらへんな~」
「「今度は何を言い出すやら(ろ)」」
誠には少々困った癖があり、このように考え事をする時は良くも悪くも思いつきで何かを実行するときがあるのだ。二人はそれに振り回されることが多いが、大抵の場合良い方向に転ぶので、現状何も言えないのである。
少し経って誠は一つ頷くと、口を開いた。
「予定変更。はやて、冬至と一緒にサッカー観戦に行こう。で、帰りに本を返しに図書館に行こう」
「「えっ」」
じゃあ準備しないとねと、楽しそうに呟く誠の様子に、今度はどのような結論でその考えになったのかなぁと思った二人であった。
◆ ◇ ◆
すぐに準備を終えた僕たちは冬至の案内の元、試合が行われる場所に来ていた。さっそく店長さんに挨拶しようと思っていると、店長さんの方から僕たちの方へと来てくれた。
「やあ、冬至君、それに誠君もよく来たね。……おや、その子が噂の妹さんかな?」
「どもです」
「こんにちは店長さん。今日は妹と一緒に来ました。それから冬至はちゃんと挨拶するように」
適当な挨拶をする冬至の頭にすかさずチョップを叩き込む。おおぅっと痛みに呻く冬至を放置してはやてを前に出すと、やや緊張しながらもしっかりと挨拶した。
「こ、こんにちは。八神はやてといいます。いつも冬至や誠兄ちゃんがお世話になってます」
「ははっ、しっかりした子だね。うん、まだ試合まで時間があるから、よかったらうちの子たちと話してきたらどうかな?」
そう店長さんは言って、僕の方を見てくる。……どうやら店長さんには、ここにはやてを連れてきた理由を察せられたようである。
「そうですね。ほら冬至、いつまでも頭抑えてないで、はやてを連れて友達に挨拶してきなよ」
「あー、わかったよ。ほら行くぞはやて」
「わわっ、急に押さんといて!」
慌てる様子のはやてを気にせず、冬至ははやてを引き連れて友達の下へと走っていった。冬至、せめてはやてのこと考えてあげなよ……。まあ僕も人のこと言えないけどさ。
「ふふっ、君たち兄妹は仲がいいね」
「まあ色々と助け合ってますからね。よくあの二人は口喧嘩しますけど……」
店長さんに頷くも、あの二人をよく知らない人が口喧嘩してる場面に出くわしたら、本当に仲がいいかわからないと思う。冬至は面白がってるけど、はやては対抗心というか構って欲しいからというべきか……。まああの二人が楽しんでるんだから問題はないでしょ。
「喧嘩するほど仲がいいと言うじゃないか。実際うちのなのはだっていじめられている子を助けようと仲裁に入って友達が出来たらしいからね」
「それ何か間違ってません?」
……それ意味違いませんか?
それに喧嘩の末の友情って、普通女の子がすることじゃないと思うんですけど。
「そこは人それぞれだよ。誠君だって自分から友達を作る時はどうすればいいかわからないだろ?
だけど切欠さえあればどうにでもなる。家のなのはの切欠がその仲裁だっただけだよ」
「……そうですね。何となく分かります」
「結局なのはが途中で大泣きして有耶無耶になったんだけどね」
その後もいかに家の娘が天使かとか話しを聞かされたわけだけど、高町さんの名誉のためにも何も言わないでおこう、うん。話したら泣かれそうな気がするし……
「あ、そうだ。今度皆で翠屋に伺いますね。はやてが翠屋のケーキ食べたいそうなので」
「そうかい。楽しみにしているよ」
さて、何故僕が店長さんと知り合いかというと、冬至が店長さんの娘の高町なのはさんと仲が良いからである。冬至曰く、一方的に絡まれて知らないうちに友達になったらしいが。
その縁で翠屋にケーキをよく買いに行っていたため、それなりに店長さんとは交友がある。暫く雑談を続けていると、話は僕たちの家のことに変わっていった。
「やっぱり君たち三人だけで生活するのは何かと不便じゃないかい?」
「大丈夫です。これまでも何とかなってきましたし、グレアムおじさんが色々としてくれたおかげで、たいして不自由もないですから」
ギル・グレアム――僕たちの親の遠い親戚で遺産管理やその他面倒なことを代わりにやってくれた人。それにはやてのためにホームヘルパーを手配してくれたりと、僕たちが不自由なく暮らせるようにしてもらいかなり感謝している。
「だけど普通の大人なら子供だけで生活させるなんてありえないことだから、困ったことがあったらいつでも家に来なさい。なに、家族が三人増えるくらい問題ないよ」
「はい、ありがとうございます。本当に困ったことがあったら頼らせてもらいますから」
「わかったよ。じゃあ、そろそろ試合も始まるから僕は行くよ。誠君も冬至君たちの所へ行っておいで」
店長さんはそう言い残して、去って行った。うーん、やっぱり店長さんもおかしいと思っていたか。それに手紙は来るけど、父さんたちが死んでから一回しか会ったことがない。だけどずっと支援してくれてる人だからあんまり疑うのもなぁ……。
……まあいいか。なにかあったら店長さんたち大人を頼ろう。どうしようもなければはやてたちを連れてカレキの国にでも行けばいいし。そんなことを考えているとはやての呼ぶ声が聞こえてきた。
「兄ちゃん!! いつまでもそんなとこおらへんで、はよおいで!!」
「わかった! すぐ行く!!」
……さて、はやてたちと合流するとしますか。
◆ ◆ ◆
「それじゃあ冬至、また後で」
「遅なってもええけど、連絡だけはしてな」
「はいはい、わかったわかった。んじゃ行って来るわ」
試合が終わり、冬至は友達とそのまま翠屋へと祝勝会へ行ってしまった。店長さんから僕らも誘われたけど、あまり関係がない僕が行ってもどうかと思ったので、丁重にお断りした。それに本返しに行かないと駄目だし……。でもはやてまで断るとは予想外だった。同年代の女の子たちと楽しそうに話してたから行くと思ったんだけど。まあはやてが決めたことだししょうがないか。
……そういえば、試合中やけにノイズのような音が響いていたけど何だったのだろう? それに高町さんがやけにキョロキョロ辺りを見回してたし。疑問に思ったけれど周りも特に気にしてなかったから、まあいいか。
そんな気になることがあったけど、現在僕とはやては図書館へと向かっていた。やや舗装が悪いのか車椅子はカラカラと音を立てている。こけると危ないので押して行こうとしたが、一人で頑張ろうとしているはやてを見て邪魔しないほうが良いかなと思った。
そんなことを考えながら車椅子を動かすはやての進む速さに合わせて、ゆっくりと歩く。こけそうになったら支えればいいし。
「それで冬至の友達たちと楽しそうに何を話してたの?」
「んとなー、学校での冬至のこととか友達になったすずかちゃんと本の話とか色々や。そんでそん時に――」
先ほどまでのことをにこにこと楽しそうに話すはやてを見て、試合観戦に連れ出して正解だったと思う。前々から冬至の友達が気になってたみたいだし、はやて自身の友達を作ることが出来た。
だけどはやての声はちょっと寂しそうだった。これはせっかくできた友達ともっと話したかったからか、それとも冬至が自分を放って行ったからか。
多分両方かな……? はぁ、行きたかったなら行きたいって我がままを言ってくれてもよかったのに。
「今更だけど僕が代わりに借りてきてもよかったんだよ?」
「嫌や。兄ちゃんが借りてくる本、冒険物ばっかやんか」
「好きだからしょうがないねー」
なんやそれ、と可笑しそうに笑うはやてにつられて笑みを浮かべる。そんな他愛ないことを話しながら僕たちは図書館に向かっていた。
「それにしても、兄ちゃんのその鞄どんだけ入るん?」
「…………さあ?」
現在の鞄の中身――本十冊、魔法の筒、その他薬草など道具各種。……うん、本当にどれだけ入るんだろこの鞄。しかもまったく重くないし。
◆ ◆ ◆
図書館で本を返却し、またいくつか本を借りると、はやての提案でこのまま商店街のほうへ買い物に行くことにした。
いつもなら大通りを通って行くのだが、何かイベントでもあるのか今日に限って人が多かった。そのため遠回りをして人通りの少ない道を選んで行くことにした。
「夕方までには帰れるかなー」
「んー、買い物しているうちに大通りの混雑が解消されれば帰れると思うよ」
「解消されへんだら?」
「また遠回り、そして帰ったらすぐに夕食の準備。休む暇もないね」
うへぇと嫌そうな顔をしているはやてに苦笑する。そんなのんびりした現状に平和だなー、とふと思う。
思えばここ最近隠れて冒険に行ってたから、これだけゆっくり出来るのもずいぶんと久しぶりだ。あ、だから今朝はあの時の夢を見たのかな?
なによりもうすぐはやての足も治る。ようやく目的のものを見つけられたから。
はやてたちにはカレキの国から帰ってきた時すぐにでも話せばよかったんだけど、話したら冒険に行くことを反対される可能性もあったから言い出せなかった。
無論はやてたちのことだから多分大丈夫だとは思ったけど、驚かせたいという思いもあった。まあ、いつまでも黙っておくわけにもいかないし、目的も達成できたから今夜あたりにでも全部話そうかなと思っていると、突然背筋に悪寒が走り、足を止めた。
首だけを動かし、周辺を見渡すが何もない――気のせい?
「ん? どないしたん?」
「気にしなくていいよ。別になんでも――」
なんでもない、そう返事を返そうとしたとき――異変が起きた。
ぐらり、一度地面が大きく揺れた。そして二度、三度と立ってられないほどの揺れが僕たちを襲った。
「なっ、何や!?」
「地震!? ――っ、はやてしっかり掴まってて!!」
咄嗟に車椅子を支え、片膝を突き揺れが収まるまではやてが投げ出されないようにするが、なかなか収まらない。それどころかコンクリートの道路が皹割れ、そこから木の根っこのようなものが生えてきてる!?
そして今度は周囲に響き渡るような轟音。
今度は何!? そう思って顔を上げると、遠目にビルに負けないくらい大きな巨木が生えていた。やがて揺れが収まり、周囲を見渡す。あの巨木な根っこは道路や建物に関係なく伸びている。幸いなことに僕たちがいた場所はこの根っこに飲まれなかった。
「な、何が起きたんや!? 急に地震が起きたと思ったら、あんなどえらい木が生えてくるなんて……」
「はやて、落ち着いて。気持ちはわかるけど、また何が起こるかわからないから急いでここを離れるよ」
「せ、せやな」
二人してそう言いながらも、助かった安堵感からかホッと一息吐く。だけどどうやって避難しよう……。地面が罅割れているせいで、車椅子を押していくのは難しい。
……しょうがない、車椅子はここに置いて行くとするか。
そう決め、いざはやてを運ぼうとした時、不意に目の前に何かが落ちてきた。勢いよく落ちてきたそれは、大きな音を立てて地面とぶつかり砂埃が舞う。いきなり目の前に落ちてきたものに驚くが一体なんだろうと思い目を凝らすと、それは大きな岩の塊のようなものだった。
一体これは何? そう思いそれをよく見ようとして、ぞくりと背筋が凍るような感覚に襲われた。さっきの地震、急に出てきた根っこ、そして今いる場所。そこから考えれば何が降ってきたかなんてすぐにわかる。
落ちてきたのは建物の破片つまり瓦礫――やばい、急いで逃げないと!
「兄ちゃん。うえっ!!」
「――っ!?」
はやての悲鳴染みた声に反射的に上を見ると、先ほど落ちてきた瓦礫と同じような物が降ってくる!?
遅かったか、こうなったらルーラで……って、それじゃあわざわざぶつかりに行くことになる。なに動揺してるんだ、落ち着け!! こんなピンチ、異世界でよくあっただろ!! そう自らを叱責し、スイッチを切り替える。
そして素早く鞄に入っている控えの子たちが入った魔法の筒を取り出すと叫んだ。
「デルパ!!」
そのすぐ後にズガンっと何か硬いものがぶつかる様な大きな音が響き渡った。
◆ ◇ ◆
連続して起こる異常事態に巻き込まれたはやては、なぜ自分がこんな目にあうのかと理不尽を感じた。そして瓦礫が落ちてきた時、はやては誠が何か叫んでいたのを聞いたが、何を言っていたのか恐怖でわからなかった。
その時のはやては既に死を覚悟しており、せめて痛みは一瞬でありますようにと願いながら目を閉じていたから。だが――
(あ、あれ? なんともない……?)
恐怖から頭を抱え、やがて来る痛みに耐えるべく目を瞑っていたはやては、いつまで経っても何も起こらないことに疑問を抱いた。確かに先ほど、自分のすぐ上で何か大きな音が聞こえ、衝撃のようなものも確かに感じた。だからすぐに自分や兄も押しつぶされると思った。
それなのに何故何も起こっていない? その疑問を確認するため、はやては恐る恐る顔を上げるが、目に映るの不可思議な色の世界。先ほどから起こる異常な出来事に怖くなったはやては、その手を彷徨わせながら兄の名を呼ぶ。
「ま、誠兄ちゃん……何処おるん……?」
「大丈夫。ここにいるよ」
誠はそう言いながら、安心させるようにぎゅっとはやての手を握った。その手のぬくもりを感じて、ようやく自分たちは助かったのだと安心したはやては、一刻も早くこの場を離れたくて訴えた。
「兄ちゃん。はよ避難しよ」
「んー、ちょっと待って。逆に今動くと危ないから」
だが返ってきた答えは先ほどとは間逆のものだった。はやては顔は見えないがその声からかなり落ち着いている事がわかったが、先ほどの恐怖もあり、それを理解してくれない誠に怒りを感じた。
「そんな悠長なこと言うとる場合!? はよ逃げな危ないやん!!」
「落ち着いて。はやてには周りが見えてる? 」
「……なんか緑っぽい色しか見えん」
「でしょ、こんな視界が悪いのに避難するなんて難しいよ」
誠の言葉に確かにと納得する。それと同時に突然自分たちの視界を覆った霧のようなものに対して不安を抱いた。そんな中、周囲に聞こえるくらいの大きさで誠は声を上げた。
「トリーズ。周囲に人の気配はある?」
「兄ちゃん。急にどない「「「大丈夫だよ~」」」――っ!?」
突如霧の中から聞こえてきた複数の声に、はやてはびくりとその身を震わせる。その様子に誠はぽんぽんと頭を軽く叩くと安心させるようにゆっくりと撫でた。
それにはやては安心するも、何で誠兄ちゃんは自分の頭を正確に撫でられるんやろ、と疑問に思った。
「安心して、もう大丈夫だから。シャディ、他に何か報告はない?」
「はっ。先ほど巨木のあった場所から魔力を感じました」
「わかった。とりあえずトリーズは僕らにかかっているまもりの霧を払って。はやては状況わかってないみたいだし」
「「「りょうか~い」」」
その言葉と共に一陣の風が吹くと誠たちの周囲の霧が払われ、ようやくお互いの顔が見れるようになった。はやては連続して起こる不可思議な出来事による不安感から誠の顔を早く見たいと思った。だから先ほど聞こえてきた声も気にせず、すぐに誠の方に顔を向けたがすぐにあれっと思った。
「あれ……?」
「どうしたの?」
「何で兄ちゃんに影が覆っとるん?」
先ほど瓦礫が落ちてきた時と同じように、誠に否、自分たちを影が覆っていた。はやてはそれに気付くと同時に、先ほど聞こえた大きな音が自分たちの上から聞こえてきた事にようやく気付いた。そして周囲にはまるで自分たちを避けるようにたくさんの瓦礫が落ちているのが見えた。
(この影は私らを守ってくれた?)
そう思ったはやては、影の正体を確かめるべく意を決して天を見上げ、呆然とした。そこにあったのは銀色の大きな二つの塊だった。その塊には鉄の棒のような物が付いており、二人の後ろから伸びているのが分かる。
「……は? 鉄の塊?」
「いや、あれは鋏だからね」
訂正する誠の声も耳に入らず、はやてはこの鉄の棒の先に何があるのかと思い、車椅子越しに顔だけ後ろを向け絶句する。
そこにいたのはまるで全身を銀の鎧で覆ったような大きな四足の生物。尾のようなものもあり、尾の先には鋭い針のようなものが付いている。ただその見た目とは裏腹に、その鎧の隙間から見える目はまん丸としていてどこか愛嬌があった。
はやてを静かに見ているこの生物はまさに機械化させた蠍。目の前にいる見たことがない生物らしきものにしばし呆然としていたはやてであったが、我に返るとすぐに事情を知っているであろう誠に問い詰めた。
「な、なんやねん!! このメカメカしい蠍みたいなんは!?」
「えっと、僕の仲間のメタルスコーピオンのシャインです」
「……ヨロシク」
「名前聞いてるんちゃうわ!! ってかこの蠍喋れるん!?」
あまりの剣幕にやや押されぎみの誠であったが、自分の言いたいことを伝えた。だがはやてからしてみれば、自分が本来聞きたいこととは違い、巨大蠍――シャインを親しげに紹介する誠に頭を痛めた。
更に人語を理解するシャインに、自分の常識がことごとく破壊されるように感じた。そしてはやてはさらに驚愕することになった。
「マスター、先ほど感じた魔力が無くなり、あの巨木も消滅しました」
「ひゃうっ!?」
地面から生えてくるように現れた黒い騎士に、はやては悲鳴を上げる。その魔物は下半身がゆらゆらと消えたり現れたりしており、騎士の影がそのまま実体化したかのような存在であった。
「この子はシャドーナイトのシャディ」
「よろしくお願いします。妹様」
「……よ、よろしゅうな」
シャディはぺこりと丁寧にお辞儀をし、その場に静かに佇む。その行動からもシャディが礼儀正しいことがわかるが、目と口の部分がそれぞれ緑と赤い光を発しており、はやてにはどこか不気味に感じられた。
「で、さっき言ってたことは本当?」
「はい。あの巨木から生えたと思われる根っこもすべて消滅。破壊された建物はそのままです」
「そっか……。一体あの木は何だったんだろう?」
そう呟きながら悩む誠を見て、さっきから話についていけないはやては誰か説明してと言いたくなったが、言ったところでどこか抜けた所のある誠の説明では余計に混乱すると思い、黙っていた。
(ううっ、こんな時に冬至がおれば……)
ただ、頭の中ではここにはいない冬至に向けてあーうー泣き言を言っていたが。誠はそんなはやての様子に首を傾げるも、自分が魔物を呼んだことに混乱してるのだなと自己完結し、周囲の警戒をさせている最後の魔物を呼び寄せた。
「トリーズ。警戒は終わった?」
「終わった~」「周囲には~」「何もなかったよ~」
「じゃあ戻ってきて、はやてに紹介するから」
「「「りょうか~い」」」
ゴム鞠が跳ねるような音を響かせながら目の前に現れたのは体色が違う三体のスライム。それぞれが誠に報告を終えると、青色、オレンジ色、緑色の順でトーテムポールのように積み重なる。バランスが悪いのか時折グラグラと揺れており、少し見ていて危なっかしい。
「で、この子たちが僕の最後の控え。スライムタワーのトリーズ」
「「「よろしくー」」」
「……あ、うん。よろしく」
先ほどからの驚きの連続に変に耐性を付けたのか、それともシャディやシャインと違って見た目愛嬌のあるトリーズの存在に拍子抜けしたのか普通に返事をする。そんな風に
「とりあえずシャイン、その鋏の上にある瓦礫どかして」
「リョーカイ」
シャインが腕を上げたまま器用に後ろ歩きをし、誠たちから少し離れると伸ばした腕を引き戻し瓦礫を落とした。瓦礫は耳に残る嫌な音を立てて地面のコンクリートとぶつかり、その衝撃で砂埃が舞う。
当然その砂埃は誠たちにも襲い掛かったが、到達する前に砂埃を跳ね除けるように優しい風が吹き込み、誠たちを守った。
「……追い風。ありがとうトリーズ」
「「「どういたしまして~」」」
「よい判断だトリーズ。だがシャイン!! もしマスターに何かあったらどうする気だ!!」
「はいはい、シャディも落ち着いて。別に何もなかったし、シャインも反省しているからそう怒鳴らないで」
誠は怒っているシャディを宥めすかすと、目に見えて落ち込んでいるシャインに二、三言話す。そして全員を魔法の筒に戻すと、はやての方に向き直った。
「それじゃあ、帰ろうかはやて」
「……家帰ったら説明してな」
「もちろん。全部話すよ」
はやては渋々ながらも誠の言葉に素直に従った。その理由が最終的には助かったし、こんな場所にいたくもなかったからである。最も最大の理由が、誠兄ちゃんやからという誠に対しての変な信頼によるものであったのだが。
けれどもこんなにも自分を振り回してくれたんだからと意趣返しに、帰ったら即座に質問攻めして困らせてやろうと意気込んでいたが――
「あ、でも話は冬至が帰ってきてからね」
「……ああ、うん。わかったわ」
マイペースな誠の言葉にガックリと肩を落とすのであった。
いかがだったでしょうか?
今回で誠の残りのメンバーが判明しました。
次回はモンスターマスターについて詳しく語られます。
それではまたお会いましょう。