目が覚めるとそこには鉄と血、焼け爛れる臭いがあった。
「お、目が覚めたぞ」
赤毛の青年が私を覗き込んでいた。
朦朧とした意識で声を出した。
「ここは・・・?」
記憶が曖昧だが、思い出すのは母親、そして父親。
次に思い出すのはここが魔法世界である事。
そして私が・・・、ある記憶を“思い出した”事だ。
「ここか?ここは俺たちのキャンプだ。」
「ナギ、嬢ちゃん目ェ覚めたって?」
粗暴そうな男が声を掛けて来た。
だが、意に解す事無く自分の状態を調べる。
ある記憶とは前世の自分、そして英霊として存在した自分。
現世と前世の自分が混ざり合っているのだ。
魔術回路は詳しく調べなければいけないが、起動もしていないのに溢れる魔力。
そして魔術回路を起動すれば、さらに溢れ出す魔力。
前世の自分の使っていた魔術とこの世界の魔法は、どうやら似ても似つかないものだった。
とりあえず、自分の種族が人間でよかったと思った。
魔術回路が人間以外にあるのか、自分にはわからなかったからだ。
「な、なんだこの譲ちゃん!?」
あまりに魔力を垂れ流したからか、粗暴そうな男が驚いている。
前世ではこんな筋肉ダルマは毛嫌いしていたが、まぁ、現世ではそこまで嫌ってはいない。
「ナギ、下がりなさい!」
痩せ型のめがねを掛けた男が刀を腰に構えてこちらへ威圧する。
まるで、英霊として存在したときに愛した男に似ていなくも無い。
警戒されているとわかると、さすがにまずいと感じて魔術回路を止める。
「キミの名前は?」
そう聞く刀を構える男を軽く抑えて、こちらへ聞くのもまためがねを掛けたタバコを吸う男だった。
「私は・・・、私はメディア。」
そこまで言って、自分で言ってからクスリと笑い、
「メディア・ヘカティック・グライアーですわ、お兄様がた?」
自分の現世の名前はもう意味は無い。
なぜなら軍人としての父は死に、母は先ほど死んだ。
ならば名前は気にすることも無い。
(ヘカティック・グライアー、ふふふ、私が灰被りの花嫁なんてね。)
「お父さんやお母さんはいるのかい?」
父や母、この現世で私を一番愛していてくれた人たち。
タバコを吸うめがねの男に、親を失うのはやはり悲しく、そんな気分から力の無い笑顔を向けてしまった。
空気がとまる。
戦場とは言え、彼らは戦うものであり、そう言う雰囲気を出している。
だから、あまり目を向けてこなかったところに、こうして目を向けてしまったからこの空気なのだろう。
「そうか。」
タバコを吸う男はうなずくと、後ろに居る二人の少年へ顔を向けた。
そこにはまじめそうな少年が二人居た。
私からしたらまだまだ坊やだけれども、それなりの才能を秘めていそうだ。
「彼らはキミと同じ、戦災孤児だ。キミにも選ぶ権利はあると思うが、もしよければついてくるかい?」
「なっ!?」
驚いた声は刀の男。
「先ほどの魔力を見たでしょう!?彼女はあの異常な魔力を保有しているんですよ!?」
その言葉に私も納得だ。
なにせ、試しては居ないが身体・魔力・能力、どれをとっても英霊の時のステータスである。
だが、ここで私は疑われたらどうするべきか、彼らより長く生きているのだからわかっていた。
「そうね、私を連れて行ってくれるのはうれしい。でも、そこの刀のお兄様の方が正しいわね。」
現世年齢五歳。
この年齢の少女ではありえない程の冷静さと、普通ではない実力。
そして、こちらからは攻撃しない事。
これらを見せれば彼らも話を聞いてくれるだろう。
「私の話を聞いてからの方がいいと思うわよ?お兄さん?」
それで全員が身構える。
「まってちょうだい。私は話をきいて欲しいと言ったのだけれど?」
その言葉にこの場の全員が、話を聞く体勢を取った。
そこからは私の独壇場だった。
この世界ではどうかはわからないが、魔術を扱う存在である事。
この世界の魔法はあまり知らない事。
とにかく話せる事だけは話した。
神代から伝わる魔術を継承した存在だとか、ある程度は誤魔化して・・・だが。
「ふむ・・・。」
ある程度自己紹介も済み、「赤き翼<アラルブラ>」だとか、サウザンドマスター<ナギ・スプリングフィールド>だとか。
「そんな素性の知れない私を連れて行っても良いのなら、私はぜひ一緒にいきたいのだけれど?」
まさに五歳とは思えない。
自分でクスリと笑ってしまう。
もちろん、五歳まで生活してきた自分がコルキスの魔女の生まれ変わりだとか、驚きがなくはないがそれでも混ざり合ってしまったのだからしょうがない。
混ざり合った、つまり五歳の自分としての考えはお父様とお母様が死んでしまったことに悲しさで、泣きたくなっている。
前世の自分も、自分に無償の愛を傾けてくれた人たちだと理解しているだけにとても悲しく、また復讐の念を持っている。
「わかった、なら一緒にいこう。ただし、お兄さん達の言葉をよく聞いて、戦闘の際は後ろに下がっているんだ。いいね?」
苦笑してしまう。
あの幻の四日間の記憶にいた坊やと同じ、無償でこちらを助けようとするその姿勢に。
こんな怪しすぎる子供を助けようとする考えに。
「あら、べつに後ろに隠れて守ってもらおうなんて思っていないわ。」
そう言ってニヤリと口元をゆがめる。
それをどうとったのか、
「強がる必要は無い。なに、ここにはバグの様なモノがほとんどだからな。」
「そうそう、何せ俺はサウザンドマスター!最強の男だからな!」
タバコの男・ガトウの言葉に、赤毛の男・ナギがバカっぽく答えた。
「ほほう、度胸の据わったお嬢ちゃんじゃねぇか!てめぇら負けてんぞぉ!」
筋肉だるm、いや、ジャック・ラカンが後ろの少年を煽っている。
後ろの方で控えていた少年たち、タカミチとクルトはそれぞれの反応を示した。
タカミチは頭の後ろを掻いており、クルトも苦い顔をしていた。
「まぁ、とにかく、これからよろしく頼むよ、メディアちゃん。」
ガトウの言葉にまた苦笑してしまったが、まぁ、おおよそ思い描いたとおりの結果になった。
数ヵ月後・・・・
「暇だわ・・・。」
彼らの戦いを眺めながら呟く。
「な、何を言ってるんだい!?」
タカミチが戦艦の中でオペレーターをするなか、その横を歩き去る。
墓守り人の宮殿、まず、ここでは決戦級の戦いが行われている。
「だって、暇なんですもの。」
そう言って、高速神言を呟いてローブを着る。
「待つんだ!キミが行っても何もできない!」
タカミチに肩を掴まれる。
それに怪しく微笑んで一言、
「あら、あらあら、こんなところで私に何をしようというのかしら?」
慌ててタカミチが周りを見ると、そこは暗がりの通路。
真っ赤になった少年の頬へ手を這わす。
「あらあら、私の言った意味がわかるなんておませさんね。」
頬を這わせたあとは唇に指を這わせた。
それでタカミチは顔を真っ赤にして完全に動きが止まった。
我ながら、五歳の少女のすることではないなと苦笑する。
「では、まぁ、近寄ってくる敵を殲滅してくるわね。」
タカミチの前でフードを被り空間転移を発動。
「瞬来(オキュペテー)――――
一瞬で姿が消えて、
――――飛翔(ケライノー)」
現れたのは艦隊の上空!
今の呪文により空中に留まる。
「圧迫(アトラス)!」
重力捕縛結界を全面展開!
「雹蕨(ネレイデス)!」
氷の雨が降り、結界につかまった敵のほとんどを氷結させる。
自分の身などゆうに超える杖をとりだし、空中で打ち付ける。
シャラン!と音を鳴らし辺りに響かせる。
ローブが翼のように開き、あたり一面に超極大魔方陣を数十展開する。
あまりの魔力量に辺り一帯が鳴動し、一瞬だけ静まった。
「ηεκατιξ」
高速神言で唱えるそれは、この世界ではそれこそ千の雷すら凌駕する!
「神官魔術式・灰の花嫁(マギア・ヘカティック・グライアー)!!!」
極大の焼き尽くす槍の様なレーザーが、敵のみを吹き飛ばしていく。
それでも沸いてくる敵を魔方陣を一個一個動かす事で対処していく。
ギリギリだった戦線が復活していくのを、ありえないモノを見るような目でタカミチは見ていることしかできなかった。
メディアとしては。
(これで少しは復讐ができたかしら?)
少しでも自分が報いる事ができたのか?
こんな自分を愛してくれた両親は、五歳の自分にはかけがえの無い存在だと再確認した。
やっぱり子供らしからぬ考えと、
(ふぅ、やっと魔術を使える機会がきたわね。使える事がわかっただけで上出来かしら?)
ナギたちは本当にメディアに戦わせなかった。
そこでもやっぱり子供らしからぬ考えで動いていた。
そんな自分に苦笑するばかりだった。
なにせ、生前の自分ならばそんな感傷では動かず、また人の役に立つようなことは自分からはしなかった。
(丸くなったわね)
また苦笑する。
最愛の人と人生をともにできたことで、やわらかい感情を抱く自分が居るからだ。
五歳の自分は復讐の怒りに燃えている。
前世が理性として働いているが、もし思い出していなければ先ほども歯止めがきかなかっただろう。
だから苦笑するしかない。
五歳としての感情と大人としての感情が、混ざり合った今も存在し、五歳らしい考えが浮かんでしまうのだから、これが転生かぁ・・・と感慨深くなる。
なにせ、大人としては今からでも栄養のあるものを食べるべきと思うが、あれが食べたい・これが食べたいとダダを捏ねたくなるのだ。
これではまるで本当に背伸びをしている子供ではないか。
そんな葛藤とも呼べるかわからない感傷に浸りつつ、身の丈以上の杖をパッと消す。
さて、そろそろ終わったかしら?そう思った私はタカミチが居るであろう戦艦のブリッジへ足を運んだ。
過去編は徐々にやるのではしょりましたー
※二月六日 誤字を修正