爆豪はTSしたらかわいい。あなたもそう思いませんか? 作:星デルタ
爆豪
誰よりも才能に愛された自分にとって、周りすべては自分よりできねぇ奴で、守ってやるべき存在だった。
『無個性』である幼馴染なんざ最たるものだ。ピーピー泣いて、俺の後ろに隠れているのがいい。
なのにあいつは違った。どこまでも自分と対等に接してくる。自分より弱いのに。『無個性なのに』。
はじめは怒り狂った。あいつは自分を馬鹿にしているのだと思った。差し出される手を徹底的に拒み、何度も罵倒した。自分をなめるなといった。しかし―――あいつはあきらめなかった。笑顔で俺に話しかけ続けた。手を差し出し続けた。あいつが妙な『個性』を発現しても、お互いが中学生に上がってもそれは変わらなかった。
だから――
――爆豪香月は根負けしたのだ。
「かっちゃん、そんなところで寝ると風邪ひいちゃうよ?」
「うるせえクソデクゥ…今日はもうねみぃからここで寝る…」
コタツに寝ころんだまま答える。今日はデクと一日中買い物に行って疲れたのだ。雄英受験を目前に控えた今、気分転換としてショッピングにゲーセン、カラオケとデクを連れまわした。とても楽しかった――いや、デクは俺様と一緒に遊べて楽しかっただろうが、自分はそこそこだ――が、疲れはいかんともしがたい。帰ってくるなり着替えもせずにコタツに潜り込んでしまった。
「もう、しょうがないなあ…」
動く気配がする。奥の押し入れに向かったようだ。何度も遊びに来ているため、爆豪家の間取りは把握されている。うとうとしていると、しばらくしてデクが戻ってきた。
「ほら、頭上げて」
言われるとおりにすると、後頭部に柔らかな布の感触。枕を持ってきてくれたのだと分かる。
「ちったあ気が利くじゃねえか、デクぅ…」
「はいはい」
再びデクが遠ざかっていく。買い物の荷物をしまいに行ったのだろう。寝そべったまま、デクについて考える。
デクが自分にかまい続けた理由。子供のころは自分をなめてると思い怒り狂ったが、今はその理由を理解している。つまるところ、デクは、緑谷出久は―――俺のことが
(まったく、あいつも身の程ってやつを知らねえよなあ…ガキの時から俺が好きとか、どんだけだっつーの! )
好きだから、いつも自分に笑いかけてきた。好きだから、いくらあしらわれてもめげなかった。つまりそういうことなのだ。まったく、どれだけ自分のことが好きなのだろう! モテる方の香月ではあるが、ここまで好きになられたことはなかった。仕方のない奴だ。まったく、まったく!
(っうーーーーーーー!)
気恥ずかしくなって枕に顔をうずめる。べつにうれしくて顔がにやついているのではない。分不相応な高嶺の花に手を出しているデクのことを考えて、共感性羞恥が働いているのだ。
もちろん、香月にその気はない。自分はオールマイトを超えるヒーローになるという目標があるのだ。平和の象徴。絶対的なヒーロー。彼を超えて、自分は歴史に名を刻む。
(どうせなら、ベッドまで運んでくれりゃあいいのに――。)
自分はヒーローになる。ヒーローというのは、人々を守るもんだ。まあ、そのなかに、あの自分が好きすぎる幼馴染を入れてやってもいい。あいつはずっと自分に守られていればいいのだ。
(そう、ずっと、いっしょぅ―――)
瞼が落ちる。心地よい睡魔に身をゆだね、香月は眠りに落ちた―――。
転生したと思ったら爆豪くんが爆豪ちゃんだった件について。
なんで???????
まあいいんだけどね。おっぱい大きいしかわいいし。
ふと気づいたら自分は転生していた。しかもヒロアカの世界に。気づいた時にはそれはもう驚いた、自分が赤ん坊になって抱きかかえられているのだから。名前緑谷出久だし。
主人公やんけ! と思ったが、まあそれはそれ。今ではこの世界にすっかりなじみ、人生を楽しんでいる。個性もなんか知らんけどあったしね。
「あー、どうしようっかな…」
つぶやきながら大きな木の塊を目の前に置く。到達目標を設定し、個性を発動する。
自分の手が意図せぬまま目にもとまらぬ速さで動き、数秒もすると木を削ってできたオールマイトのフィギュアが完成していた。そのままフィギュアに勢いよく手を叩きつけてみると、
「オールマイトフィギュア手作り、3000円からっと…」
その様子をカメラで撮影すると、オールマイトがダイナミックに飛び回るシーンが取れていた。フィギュアの全身像と一緒にヤフオクに出品。個性の訓練かつ小遣い稼ぎをこなし、一息つく。
個性『TAS』。
TASとはTool-Assisted Speedrun(ツール・アシステッド・スピードラン)、またはTool-Assisted Superplay(ツール・アシステッド・スーパープレイ)の略で、まあ要するにゲームにおいて理論上可能でも人体には不可能なことをやるためのツールだ。僕もTASさんの休日とか好きでめっちゃ見てた。
これによって僕は、理論上できることはたいていできる。人体が出せる最高のハンドスピードでフィギュアを作ることもできるし、もっとすごいことでいえば、トンネル効果で物体を通り抜けることもできる。ケツワープはできなかった。修行が足りんのかもわからんね。
原作では緑谷出久は無個性であったはずなのに、なぜ僕に個性が宿っているのかはわからない。わからないが、まあそんなことを言い始めたら香月ちゃんが一番わからないので、放っておくことにしている。
「勝己が香月って、読み方が変わってないのがなんか面白いな…」
爆豪香月。僕の幼馴染で、プライドの高い俺様っ娘だ。そして、女の子である。
原作だといじめっ子だったようだが、この世界では普通に友達だ。積極的に話しかけた甲斐があったかな? どうやら俺様な性格は変わっていないようで、放課後はよくかっちゃんに連れまわされている。かわいい。今日もゲーセンにカラオケと楽しく遊んでいたのだが――。
「まさかヘドロ事件が今日だったとはなあ…普通にゲーセンで遊んでたわ」
ヘドロ事件。爆豪勝己がヘドロの異形型である敵に襲われる事件だ。この事件をきっかけに主人公はオールマイトにヒーローの素質を見出されることになるのだ。なるのだが、僕はそんな事件に遭遇などしていない。当然、かっちゃんも襲われてなんかない。まさか今日だとは思わなかったのでニュースで見てたいそう驚いた。
「原作ブレイクか…僕もいよいよオリ主っぽくなってきたなあ」
まあ僕の性格でオールマイトに認められるとも思わないから誤差だよ誤差。原作主人公のポジションに収まった事にプレッシャーを感じていたころもあったが、今はもう何とも思っていない。原作に縛られすぎるのは止めたのだ。あくまで便利な知識として扱ったほうが精神衛生上いい。
ルミリオン先輩が何とかしてくれるんじゃないですかね……というか透過能力と超身体能力の組み合わせってチート過ぎない?
「おっ、かっちゃんからライン来てる。どれどれ」
いや香月ちゃんキレ散らかしてて草。ヘドロ事件のニュースを見て、自分が関われなかったのがよほど気に入らなかったのだろう。
「でもかっちゃんが危ない事に巻き込まれないのが僕は一番嬉しいよ、っと」
実際原作のヘドロ事件はまあまあ危なかったはずだ。周りのヒーローは手をこまねいていたし、オールマイトもまさか子供ごとヴィランを殴るわけにも行かなかったのだから。あそこで出久が居なかったり、助けるのに失敗していたらどうなっていたことやら。
「やっぱヒーローってやばい職業だよなあ」
わざわざ戦いたがるかっちゃんはバーサーカー。これだけははっきりと真実を伝えたかった。
まあ雄英高校には行くつもりなんですけどね。矛盾してるとは思うが、香月ちゃんがどうしても意思を曲げそうに無いのだから仕方ない。
あそこは極めつけの魔境なので、いざという時守れるように近くにいておきたいのだ。雄英高校はマジでブラック。一年生が何度もヴィランに襲われるとかマジ?失望しましたエンデヴァーファンやめます……。
「将来はこう……かっちゃんのサイドキックとかかなあ……事務所開くのって資格とかいんのかね?」
まあいいや。かっちゃんの機嫌を直すスペシャルな提案でもしてやろうじゃないか。
「明日は連れていきたい場所があるんだけどいい?話したいこともあるし。 ……おお、もう返信が来た」
香月ちゃんめっちゃ誤字ってて草。なんでだ?
明日は俺の秘密基地に連れて行ってやろう。TASの能力を存分に使ったツリーハウスが近くの山にあるのだ。そこでコーヒーでも飲めば気分もルンルンってわけよ。ついでに最近手に入れた雄英高校の過去問も渡して、実技試験の対策についても話しておきたいしね。
「どうかねかっちゃん、僕の個性の粋を尽くしたツリーハウスは!」
「あ、ああ。なかなかやるじゃねーかデク……」
「あとこれがツテをたどって手に入れた雄英の過去問。先輩が言うには(大嘘)実技試験には街中でロボットを破壊する試験が出そうらしいから、移動能力も並行して鍛えたほうがいいかもね」
「ああ、ロボットね……そ、それで?」
「それで??? えーと、妨害用のロボもいるかもしれないから気をつけてね?」
「そ、そうじゃなくてよ……何かほら、俺に言いたい大事なことがあるんじゃねえのか……?」
「大事なこと……? ああ、確かにあると言えばあるかな……?」
「そっそれだよそれ!なんだよ……?」
「かっちゃんなんか今日やけにしおらしくない?まあちょうどいいや、落ち着いて聞いてね?」
「お、おう……」
「同じ受験生を助けると救助ポイントが入るらしいから、いつものキレ芸を少し抑えて……ってうわああっ!!」
ツリーハウス見せた辺りまでは機嫌が良かったのに、いきなりメチャクチャ怒りだしてビビるわ。
でも「大事な話じゃねえのか!」って怒ってるかっちゃんに「大事だよ!(かっちゃんの)将来の話じゃないか!」って言ったら「(二人の)しょ、しょうらい……!?」って急に物凄く大人しくなって、更に上機嫌になってニコニコし始めた……。なんでだ?