環いろはちゃんと共依存的にイチャイチャしたい人生だった 作:風剣
カミハ☆マギカとかいうご当地アイドルのマネージャーのスペックが高すぎる件
1.名もなき小市民
・グループでセンターを張る担当アイドルと婚約済み(事務所公認)
・公式戦全試合ホームランで神浜市大付属を優勝に導いた甲子園覇者
・中学の頃には剣道全国大会優勝
・5股6股の噂でもちきりになるくらい校内でもモテモテ
・七海やちよが営む民宿で恋人と同棲中
この16才に勝てる勝ち組おりゅ?
2.名もなき小市民
アイドルとか知らねえよ誰だよって言いたかったが普通にニュースになってるのみちゃったんだよな
3.名もなき小市民
ちょっといろいろおかしくない?
4.名もなき小市民
ラノベ編集「流石に盛りすぎ」
5.名もなき小市民
ところがぎっちょん……!
6.名もなき小市民
流石に諸々デタラメじゃない? アイドルの恋人云々だとか個人情報思いっきりすっぱぬかれてるってことじゃん?
7.名もなき小市民
本人が言ってるんだよなあ……
8.名もなき小市民
甲子園前からカミマギの配信出てるし試合中は応援配信してたし優勝した翌日にはマネージャー祝勝ライブやってたの関係がずぶずぶすぎる……
9.名もなき小市民
仲良しかよ
10.名もなき小市民
そうだぞ
11.名もなき小市民
七海やちよと一緒に暮らしてんの?? 七海やちよと???
12.名もなき小市民
すごい笑顔で同居人の取材受けてたぞ
13.名もなき小市民
逆光源氏の気配を感じないでもない
・
・
・
57.名もなき小市民
ニュース番組で一緒に暮らしてるハーフ?の女の子がめっちゃくちゃ自慢げに桂城の取材に答えてたの可愛くて好き
58.名もなき小市民
スポーツ万能、美少女と同棲、最年少ドラフトの指名を受けて高校卒業後のプロ入り内定……。なんだこの16才……。
58.名もなき小市民
お前らのことを婚約者含む担当アイドルや金髪ツインテ美少女が慕ってくれることはないという事実
59.名もなき小市民
急に刺すな
60.名もなき小市民
なんだァ? テメェ……
61.名もなき小市民
カミマギ、マネージャーがまあまあ炎上してる割にファンの空気がそこまで悪く無くって好き
62.名もなき小市民
普通にみんな仲いいしな……。いろはちゃん推せる。既婚者だが……。
63.名もなき小市民
まだ結婚はしてない定期
64.名もなき小市民
桂城といろはちゃんにどっかで会った気がするんだけどどこだったかな……
65.名もなき小市民
うらやま
神浜市附属には転校してきたらしいしその前とか?
66.名もなき小市民
いやー……。なーんか熱中症? かなんかでぶっ倒れて搬送されたとき、担がれたような……助けられたことがあったような……?
***
『――――!!??』
魔女を殺した。
魔女は基本的に何度倒されても時間をおいて復活するが、グリーフシードを壊されればその限りではない。マギウスによるグリーフシードの供給体制は整っている。わざわざ復活の芽を残す不手際を犯しはしない――。
バラバラにされた魔女の亡骸が消え去るとともに転がる黒ずんだ宝石を踏み潰した少年は、漆黒の刀身の太刀をぶんと振り鳴らしては立ち去った。
「次」
『L、パ叭aあッ……』
ウワサを纏う。
シュウの護人《モリビト》のウワサ、いろはの万年桜、マミの神浜聖女、さなの元名無し人工知能『アイ』*1。ワルプルギスの夜討滅以降ねむによって有事に備えてマギウスに所属する面々の一部と結びつけられたウワサは、担い手と融合することでそれぞれの異能や純粋なステータスの底上げといった恩恵を授ける。
シュウが振るう太刀『空』もまた、複数のウワサを組み合わせ圧倒的な性能を発揮する専用の武装。かつて魔女を守るために振るわれた刃は、呪いの悉くを討ち果たす殲滅力をもって魔女を駆逐していく。
黒い風が群がる使い魔を一刀のもとに両断し。直後には巨体を誇った魔女の頭部がズレ落ち、地に転がった。
「次」
マギウスに所属する魔法少女たちによるパトロールと、街中に配備されたウワサによる警報装置によって張り巡らされる警戒網。
その感知に引っかかった魔女を、片端から討ち取っていく。
『Cォ所……コォ唖AA!!』
犬の魔女。カラフルな鬣と巨体、それを支えるにはやや不釣り合いな細い脚をもった獣。使い魔が成長でもしたのか、神浜市をパトロールしている間は似たような魔女を何度か見かけることはあった。
勢いよく飛びかかってくる魔女に対し、隠し持つ黒鎖で脚を絡め取ってぐいと引っ張る。万力のような力で体勢を崩されて転倒した魔女は、振り上げられた太刀に対する反応さえもできない。
嵐を伴って解き放たれた斬撃が、グリーフシードごと魔女を真っ二つにした。
「次」
『p、ぎぃgぎギ偽、G』
見覚えのある魔女だった。
汚泥のような涙を閉じた瞼からとどめなく溢れさせ、濁流のようにして己が領域を広げていく魔女。どこで見たんだったかなと記憶を遡り、ソレが左右の腕にもつ特徴的な鋼の蹄を見てフェリシアのかつて発動したドッペルに酷似していることに気付く。
顔色ひとつ変えず「なるほど」と、うんざりしたように眉を顰め呟いた少年の声音に感情はなかった。
――やることは変わらない。なにも。
「神雷、装填」
ドッッッッ
結界を突き破って少年のもとに飛来したのは、雷。
――
呪いを浄化し、焼き尽くし、灰すら残さずに魔女を祓う。
魔女を滅ぼす、ただそのために太刀に直撃しその刀身を白く染め上げて装填された稲妻を膨張させ、振りぬく。解き放たれた白は、己に迫った濁流ごと魔女を跡形も残さずに消し飛ばした。
「次」
魔女を殺した。
見覚えのある魔女もいた。知らない魔女もいた。――どれもが、この街で存在を確認されていた魔女の位置情報と一致しない個体だった。
全て、殺した。
首を落とす。グリーフシードを砕く。真っ二つに断ち切る。グリーフシードを砕く。種子ごとその身を消し飛ばす。
ミラーズより帰還して以降、事前の記録と一致しない出所不明の魔女が出現し続けるのを追っていた智江。マギウスの拠点にひとり閉じこもって調査をしていた老婆からの要請を受け彼女の集めていた情報を受け取ったシュウは、ねむからウワサを借り受けてひとり魔女狩りに勤しむこととなっていた。
やちよはモデルの仕事に、フェリシアと鶴乃は万々歳に、いろはたちは後日ミラーズへの遠征の準備に、さなやういたちには――適当に口実を作ってマギウスでの仕事を押し付けた。
単独での魔女狩り、しかし複数のウワサによるバックアップを受けたシュウにとって魔女の始末など造作もない。風に乗っての高速機動ができる今の彼には寧ろ誰のことも気にせずに動くことのできる一人の方が好都合まであった。
実際、その判断は間違っていなかっただろうと思う。
「ぴ、ぎ、ぎぎぎぎぎgg」
「次」
「――、m郭?」
「次」
「貴、N亜ア侘タ㋟㋟■■妹 ァァ■ tsuK」
明らかに、見覚えのあるシルエットも混ざった魔女。自分たちの知る仲間とは
「次、は――。……ひとまずない、か」
消えゆく魔女結界。端末に送られてきた位置データをチェックして観測された魔女すべての駆逐を終えたのを確認したシュウは『空』を消し去るとどっかとその場に座り込む。
「はぁーー……。やってらんね」
目頭を押さえるように手をやれば、帰ってくるのはぬるりとした不快な手触り。
指先を濡らした、ドス黒い返り血――それも、魔女の痕跡が消えていくのに伴ってすぐに湿り気を喪いパサつき、塵になって消えていく。
「……」
ミラーズには、並行世界に繋がる鏡があるという。
ふざけた話だった。だが現実に智江はそれと己の魔法を組み合わせることで古今東西を観測しその情報をマギウスの運営に還元していたし、シュウやいろはも彼女の結晶化させた別世界の
そして連絡をしてきた老婆の推察も、そうは間違ってはいないだろうことも。
(――フェリシア、月咲さんと月夜さん、あとは黒羽根白羽根の何人かに……少し前には、れんちゃんのも狩ったか……)
魔力の波長。魔法の性質。ドッペルとの類似点。
始末してきた魔女から把握できたそれらの要素からシュウが『大元』と判断した魔法少女は、誰もこの街では魔女化してはいない。
だから、今日討ち果たした
きっとそれはミラーズを完全に封鎖するか、並行世界と繋がっている鏡を破壊するまでは続く。
つくづく、ふざけた話だった。
「………………舐めやがって」
ぼそりと毒づいて身を起こす。色濃く連戦の疲弊が残る身体に鞭打って視線を向けた先にいたのは、神浜市で暮らすふたりの魔法少女だった。
コンビを組んで活動していたのだろう少女たちは、シュウが駆け付ける直前に魔女と遭遇し苦戦を強いられ相棒を庇った魔法少女が負傷した状態だった。茶髪を結わえ黄色を基調とした衣装を纏う少女を横にしていた白髪の少女――加賀見まさらは、近づくシュウに気付くと僅かに口元を弛める。
マギウスの翼としての活動にあたって、シュウは神浜市の大体の魔法少女と知り合い程度の交友を築いている。加賀見まさら、粟根こころのコンビなどは一度彼女たちと交戦したことのあった魔女守に関する詫び、あとはかつて神浜市に現れ少年が粉砕した魔法少女狩りに関する事情聴取もありそれなりの親交はある相手ではあった。
「桂城さん。来てくれてありがとう……。本当に危なかったから助かったわ」
「気にしないで良いよ、困ったときはお互いさまさ。……
「……そう、ね。こころも心配だしお言葉に甘えちゃおうかしら。……桂城さん、やっぱり噂よりだいぶ頼りになる人よね……」
「ツッコミ待ちなの? 俺自分の噂とか聞くの結構怖いんだけどな……」
くすりと微笑んだまさらに半目になりつつ、タクシーを手配するシュウは大きく伸びをして疲れた身体をほぐす。
ひとまず今日の時点で観測された魔女は全て粉砕した。魔女と遭遇したまさら、こころ以外の発見された被害者はなし……。老婆への連絡は既に済まされている、2人を送り届けたら今日はひとまずお開きで構わないだろうと判断する。
今もシュウがたまに使用している黒木刀はイレギュラーとして、魔女の血肉や振りまいた呪いは基本本体が討たれれば消え去る。それでもまともに返り血を浴びてしまえば不快感は残るしそれ以上に連続戦闘はシュウをしてもそれなり以上の疲労を蓄積させていた。
無性に、さっぱりしておきたい心地ではあった。
「温泉行こっかな……」
「……マギウス温泉? マギウスの翼の娘たちが、最近建てた……。……桂城さんのために混浴になってるって本当?」
「……………………女湯と混浴には分かれてるぜ」
「うわあ……」
「基本俺しか入らないから……」
なお、少女たちを送り届けて間もなくシュウの動向を装備の反応から把握していたうい、灯花、ねむに水着姿で*3突撃されることとなるのは苦笑いで白髪の少女に言い訳する彼も預かり知らぬ未来である。
(――ま、ゆっくりしてられる時間はそうないか。このまま別世界から魔女がどんどん雪崩れ込んだら最悪、明日には……鏡の結界に突撃することになるだろうな)
――シュウ、調子はどうだい?
――それは重畳。ミラーズの探索は極めて危険だからね、万全を期して向かうんだ。私も拠点からサポートするからね。
――明日の破壊作戦の編成はシュウを含めていろはちゃん、やちよちゃん、さなちゃん。1階層に鶴乃ちゃんとフェリシアちゃん。白羽根からは月咲ちゃんと月夜ちゃん、みふゆちゃんが2人のサポートに入る。並行世界に繋がる鏡を破壊すればそれで終了だ。厄介な戦力がコピーされているのを確認したらそちらの間引きをやってもらいたいところだけど……ひとまずは魔女の無制限の流入を食い止めるのを最優先させてちょうだいね。
――作戦の段取りは大丈夫だね? ならよし。……明日は頼むよ。これを放置してしまえば魔法少女救済どころじゃなくなるかもしれない。世界に魔女があふれかえるか否かの危機にもなり得るからね。
「……」
伸縮自在の黒鎖。収納機能のついたペンダント。黒白の太刀『空』。
――そして、首元にかけるネックレスにつけられたいろはのソウルジェム。
装備を確認しながら昨晩の老婆とのやりとりを思い返すシュウ。ペンダントに収納していた『空』を装備する彼は、あたりを見回して洋館に集まった魔法少女たちの姿を確認して小さく頷く。
透明の固有魔法をもつさなを中心に並行世界へと繋がる『合わせ鏡』のある階層へと向かい破壊、魔女の流入を止める第1班。
第1階層に存在する出入口周辺を固め退路を確保、魔女がミラーズの迷宮から外へ飛び出すのを撃退する第2班。
ウワサを同時に投入して陽動と間引きを行い突入組をバックアップするのはねむ、うい、灯花、智江らマギウス首脳陣とその警護にあたるななかたち。
準備は万全。ミラーズ攻略のために練られた少数精鋭はその日、洋館に存在する唯一の入り口から鏡の魔女の住処へと突撃する。
9月4日 13:00
合わせ鏡破壊作戦開始。第1班、2班、ウワサによって編成された陽動部隊ミラーズ第1層に侵入。
侵入後第1班と第2班は別行動に。第2班は二葉さなの『透明』によって隠密行動に移り深層へ。
「俺をコピーした使い魔を見かけたらその瞬間に始末しにいく。どの程度再現されてるかは個体差だろうけど俺をある程度コピーしたなら耳と鼻で透明を無視して俺たちを見つけられるだろうしな」
「……待ってくださいシュウさんいつもそれで私判別してるってことですか……?」
「俺はねむのウワサで視覚補強してるから……」
13:40
最小限の交戦の後、第1班は第12鏡層に侵入。『合わせ鏡』を発見、隠密を放棄し魔女の駆逐に移行する。
桂城シュウ、護人のウワサと融合。
「何体いる?」
「5体くらい。もっと居たと思うけどそう広くもないし縄張り争いしたか地上に移動したんだろうな。――纏めて消し飛ばす、俺はすぐに鏡を壊しにいくから討ち漏らしを任せていいな?」
「うん。……シュウくん、気を付けてね」
「あいよ。――
13:46
合わせ鏡を破壊。バックアップ班、並行世界から魔女を招く同様の鏡を複数観測。
環いろは、万年桜のウワサと融合。
『下層から結構な魔力が観測されてる! 0.1ワルプルギスくらいあるよー!』
『鏡の魔女が活発化してるのかもしれない。シュウ、いろはちゃん、やちよちゃん、注意してね。魔女が雪崩れ込んできたときに必要なのは火力だ、いざというときの退路は確保できるようにするんだよ』
「任せろ、この程度平気さ」
「うん。――桜子ちゃん、力を貸して!」
14:12
第1班、第16鏡層にて3枚目の合わせ鏡を破壊。
同刻、鏡の魔女顕現。
『◆ ###A (^*冸 ぎ Laa』
「……参ったな、槍も矢も跳ね返って来るとは。『鏡』なだけはある、反射も通らない超火力でゴリ押せるか?」
「もし反射されたらを考えると雷も怖いわよね、あれは流石に避けれないわよ」
「魔女特攻にしたってソウルジェムの感電は……卒倒ものですからね……」
「結局アレも呪いの塊でしかないし多分消し飛ばせるとは思うんだが……。取り敢えずみんな、牽制任せていい?」
「え……。シュウくん、まさか――」
「ひとりで別方向からやってみるよ。……いろは、ソウルジェムは返さないでもいいよな?」
「うん!(即答) ……うん?あーそういう……大丈夫、シュウくんなら安心だもん」
「平気だとは思うけど流石に魂感電まで庇える自信ないんだけどな俺……」
14:15
第1班、鏡の魔女撃破。
「……□ あ kaあ,桂城、シュウ――」
「魔女に名前認知されてんの嫌すぎるんだが」
「シュウ……何かしたのかい?」
「これまで遭遇さえしてない魔女に何したってんだよ。……ああいや、住処で雷落としたりくらいはしたか……」
薄っぺらい、ステンドグラスの模様をそのまま具現化させたような魔女だった。
集雷針のウワサによって日本中から集められた雷、それを浄化魔力として複合剣『空』へと装填させ呪いの悉くを消し飛ばす
根こそぎその身を焼き祓われ消えていく魔女、その断末魔にげんなりした表情をしていたシュウは魔女によって構築されていた迷宮が鏡の魔女の死を経ても
「今の、多分コピーだったな。魔法少女のコピーもするんだ、分身くらい作れるだろ。……さて、鏡はこれで全部かな。いろはたちとも合流しないと――」
『ああ、これで――うん?』
『……お婆さま、これちょっとおかしくない?』
『この数値……。例の鏡、増えて――近――』
「おいおい面倒な、どこだよすぐに」
その先をシュウが言うことはできなかった。
取り敢えず仲間と合流しようと鏡で構成された床を進もうとした瞬間、ズルッッ!!と両足から足場の感覚が抜け落ちたからだ。
「――落とし穴じゃねえんだから……ッッ!!」
「シュウくん!?」
堕ちる直前、太刀を咄嗟に無事な足場へと突き立て登ろうとしたが……足を
ついでにペンダントから私物を取り出し、どうにか片手をもちあげ照準を合わせる。
――やべ、マジで動けん、もう無理だな。
脚を掴む腕、だけではない。底なし沼じみた引力は、シュウの膂力をもってしても抗いきれない――。抵抗に見切りをつけるのは早かった。
「いろは!!」
ソウルジェムと自身の携帯を握り、彼女に向かって投擲する。
太刀がズレる。
ほとんど頭まで鏡面から落ちかけて、咄嗟に五指で縁を掴んで身を支える。
どうにか必死に、引力に抗って顔を出した。
「シュウくん!? こ、これ――」
「
それだけが精いっぱいだった。
引力が指を削る。引き攣った笑みだけをどうにかみせたシュウの身体をそのまま引きずり下ろした。
14:16
第4の合わせ鏡出現、桂城シュウが呑まれ行方不明に。
「シュウくんっシュウくん――。…………………………………………ぇ?」
「いろは、どうし――桂城くん?」
「え、えっ。嘘っ」
「どうしたんですかっ。いろはさん。桂城さんの気配もないし、通信もみんな狼狽えていて――えっ?」
「? ここ……どこ? えっ」
「――いろは。だよ、ね? えっなんで――おっきくなってない?」
同刻。
桂城シュウ6才、ミラーズにて保護。みかづき荘に連れ帰られる。
その気配で、シュウはもう狂ってしまいそうになった。
「――」
胸がずきずきと痛いくらいに疼く。
「――どうなってんだほんと」
呼吸さえ苦しかった。
「――勘弁してくれって」
気付いたら、シュウは洗面台の前にいた。
「――はっ、ははっ」
『シュウー、顔は洗ったー?』
聞こえた声を無視してトイレに駆け込む。
適当に生活音をたてれば声の主は勝手に納得したのか、キッチンでの調理に勤しんでいるみたいで。
自身の運にすべてをかけて、音もなくトイレを出る。見覚えのあるリビング、見覚えのあるキッチン、見覚えのある長い髪、後ろ姿。
「――!!」
全力だった。
音もなくリビングから消える、気配を押し殺しながら必死に見覚えのある階段を駆ける。
(玄関はダメだ流石にみられる、あれは幻覚あれは幻覚頼むから他は出るな出るな頼むから頼むって!!!!)
『自分の部屋』に駆け込んだ。誰とも遭わなかった。
キッチンに居たのも含め、
(――ざっけんなふざけんなふざけんなよ!!)
終わった筈だろ!!??
一刻も早くこの場から離れたかった。離れなければならなかった。
窓を開ける。屋根から転げ落ちるように外へ飛び出した。
パルクールじみた機動で屋根を蹴ったシュウはそのまま見覚えのある街並みを前にもんどりうちかけて、それでも必死に体勢を立て直し隣の家との境目、路地へと着地する。
それ以上、動けなかった。
「――はぁああああああああ、はーーっ……!!」
忘れていた呼吸。汗をだらだらと流しながら荒い呼吸を繰り返す少年は、よろめきながらどうにか足を動かし移動する。
移動、しようとした。
(――違う、違う。アレはちが、ちがうんだよ!! そうであれよ!! だってだってだって……!)
異界に放り出されるのは覚悟していた。
どんな地獄だろうと踏み潰してやると息まいてすらいた。
だけど、だけど――、
(――これは、あんまりだろ……!?)
住民が異変に気付いたのか、どたばたと家のなかで物音が聞こえた。
『お婆ちゃんお婆ちゃん起きて!! シュウがいない、変な魔力も感じた! どうしよどうしよ魔女にシュウが狙われちゃってたら……私出てくる! キッチン任せたからね!!』
家全体を揺らすような大声がして。動かなければいけないとわかって。
それでも、足は動かなかった。
動かせなかった。
(くそくそくそ、ダメだ、顔を見るのもまずい見られるのも不味いカレンダーチラ見した限りここ、この世界)
――老婆は、言っていた。
並行世界に繋がる、鏡があると。
「――シュウ!? シュウ、どこ――え?」
飛び出してきたのは、部屋着にエプロン姿のままのひとりの女性だった。
長い黒髪、整った容貌。その瞳をあらん限りまで見開いて、
「――
「……」
「なんできづくんだよ。……かあさん」
10年前の世界で。
シュウと彼の家族は、対面を果たしてしまった。