環いろはちゃんと共依存的にイチャイチャしたい人生だった 作:風剣
こんがりと揚げられた黄金色の唐揚げを、白米とともに口のなかへ運ぶ。
カリカリの衣を食い破ると同時、一気に口内に溢れだす肉汁の熱さと旨味。舌を炙らんばかりの熱も構わずプリプリとした食感の鶏肉を何度も噛みしめてはじっくり味わい、ごくりと嚥下した少年ははあと息を吐いた。
どうしようもなく、懐かしい味がした。
「…………うっめ~~~」
「美味しそうに食べるねえ」
「大きくなってもあんま変わんないねぇこういうところ」
家族の言葉に我に返ったシュウは気恥ずかしさを押し殺し目を背ける。耳を紅くしては無言で唐揚げをがっつきだした少年を微笑ましげに見守る老婆は、それにしてもと唸りながら隣に座る彼を見上げる。
「たった一晩みないうちに随分とまあ……おっきくなったねぇ~……」
「……よしてよ婆ちゃん」
よーしよしよしと満面の笑みさえ浮かべて頭を撫でてくる智江の手を力なく振りほどく少年の顔はなんともいえないものだった。
――話はあとで聞くから、取り敢えずご飯にしましょう!
母親の申し出はありがたかったが、両親も老婆もめちゃくちゃに自分を子ども扱いしてくるのはややむず痒さがあった。当人たちからすれば6才だろうが16才だろうが息子であるのに違いはないのだ、当たり前といえば当たり前ではあるのだろうが……。
「いやあそれにしてもシュウよく食べるねえ! ご飯おかわりする?」
「……ん」
夢であれよと、腹底から想う。
夢なら覚めるなと、心から願う。
桂城勇也。
桂城理恵。
和美智江。
誰ひとり欠けることなく、大好きだった家族がこの場に居た。
***
「……そもそもさ、みんな俺のことどういう風に認識してんの?」
「うん?」
「いきなり俺が10年成長したとか思ってる感じとかだったらそこは訂正しないとだからさ。いや俺だって今の状況を把握できてるわけじゃないけど……」
「えっ、違ったのかい? 魔女だのの話は知ってたからてっきり何かしらの魔法で急にでっかくなったのかと……」
目を丸くした父さんの言葉に首を振る。母さんと婆ちゃんの方にも視線を向けたが、2人はなんとなく察しているのか、言葉には出さないまでもこれといって俺の言葉に疑問を浮かべた様子はなかった。
……まあそれでも、世界の移動だとかいった馬鹿げた現象には行きついていないのか、あるいは想像できたとしても半信半疑といったところだとは思う。
朝ご飯も食べ終わり、皿も片づけたリビングの机に座る3人の家族。みんなからの視線が集中するのをひしひしと感じながらうーんと天井を見上げてどう説明したものかと悩んで腕を組んだ。
(……初手で母さんと顔を合わせた時点で、そしてもうひとり、
「まず、だけど――俺は、10年後の世界からある魔女の罠にひっかかってここにきた。鏡の魔女……。かなり特殊でな、ミラーズって呼ばれてる異界と、いろんな場所に繋がる鏡を造っていた魔女だ。多分だけど、6才の俺も入れ替わりで俺の居た場所に飛ばされてる可能性が高い」
「――」
いろいろと端折った説明だ。それで事態の全容がわからずとも、魔女のことを知るだけに起きていることは断片的にでも理解できているのだろう。俺の言葉を聞いた家族の反応は早かった。
ぎょっとした表情で目を剥いたのが婆ちゃんと父さん、顔を強張らせて絶句したのが母さん。少しの間言葉を失っていた母さんは、ガタッと立ち上がって唇を震わせた。
「じゃ、じゃあ、シュウは――6才のシュウは、いまたったひとりで魔女の結界に放り出されてるってこと……!? 冗談でしょそんなの、どうやって助ければ……!」
「そこは平気だ、入れ替わった先には俺の仲間たちが居る。多少混乱はあるかもしれないけれど信頼できる娘たちだ、しっかり子どもの俺も保護してくれてる筈だ」
「っ……。なら、安心、かな……」
不安の表情は拭えなかったものの、それでもある程度は納得できたのか座る母さんに寄り添うように隣に座る父さんが手を握る。
「大丈夫さ、シュウの友だちを信じ……。……シュウ」
──気付くか。気付いちゃうか、父さん。
「シュウの友だちはつまり、魔法少女だね?」
「うん」
「ここに来る直前、シュウは……魔法少女と一緒にいたっていうことだよね? それも……魔女の結界で」
「そう言ったね」
「じゃあ……シュウは」
魔女と、戦ってるのかぁ……。
絞りだすようにそう言っては明らかに消沈した様子で頭を抱える父さんに、まあそうなるよなと苦笑いになってしまった。
俺の家族は、火力はともかく少なくとも
その理由はよくわかる。巻き込みたくなかったのだろう。身の安全なんて保障されやしない、いつ死んでもおかしくない、こちらの都合など構わずに現れる魔女との終わりのみえない戦いにたったひとりの愛する息子を巻き込む――そんなの、自分たちの命が懸かっていたいたとしてもお断りだったのだろう。
この時系列だと俺は6才らしい。母さんや婆ちゃんまでかなり凹んだ様子でがっくりと首を折って落ち込んでしまっているのにもなんとなく納得がいった。
――言葉を選ぶ。開示する情報を選択する。
「
「うわ言いそう……」
──なにがなんでも隠し通す一線を決める。
本当のことと嘘を織り交ぜて、誤魔化し切って。母さんが魔女化して家族を皆殺しにした事実だけは、絶対に悟らせはしないと断じた。
耐えられるか否かだとか、心の強さだとか、そんなことをいちいち論じるまでもない単純なことだ。
自分が魔女化した挙句に、愛していた父さんと、慕っていた婆ちゃんの命を奪って、大切な息子まで手にかけようとした。
母親である以前に、メンタルによって著しく調子を変動させソウルジェムの濁りさえ加速させる魔法少女であるあのひとに、そんな怪物に成り果てる
「なんでまあ、ひとまずの俺の目的は鏡の魔女の使った合わせ鏡の痕跡を探しつつ、ねむ――いまは多分1才だしみんなは知らないか。とにかくめちゃくちゃ優秀な妹分たちが助けをくれるときまで準備、6才の俺と入れ替わって元に戻らなきゃって感じ。……だからさ、その、それまで――」
「遠慮なんてしなくていいよ、好きに暮らしな。……理恵たちのところで寝るにはちょっと大きすぎるから、シュウが暮らす用に使ってない客室を掃除しなきゃね……」
「あっそうか俺が自分用の部屋もらったのってもう少しでかくなってからだったっけ……」
「流石に狭いけど……。ふふっ、私とお父さんと一緒に寝てもいいんだよ?」
「ははははは、やめとく」
この時期結構俺の寝相で蹴飛ばされてた父さんは心なし安心したような顔をしていた。
(さて、俺の方はこれでひとまず家も確保、婆ちゃんの魔法も使えれば街を洗いざらい捜して鏡を探せる。あとは向こうだけど――いろはたちはうまくやってくれるかな)
元の世界への帰還。10年前の自分の保護と連れ戻し。合わせ鏡の破壊。
課題は明白。拠点も確保できた、10年前の家族とも合流できた。ひょんなことから迷い込んでしまった並行世界ではあったが、ひとまず最低限態勢を整えられたのは大きい――。
がちゃっと鍵の開けられる音。
勢いよく玄関の扉が開けられた。
「シューーウーーくん! あーそーぼー!!」
「――」
「え」
「あっ」
「やばー……」
――誤算が、ひとつ。
10年前の時系列に跳んだ俺は、『今日』が何時か把握していなかった。いやカレンダー自体はチェックしていたが、日付や曜日に関しての細かいことがたった一瞥で確認できるわけもなく。その後も母さんや父さん、婆ちゃんの元気な姿を見たショックでそれらについて気が回らず、今日が土曜日なのをすっかり確認し損ねていた。
そしてこの時期、俺といろはは暇さえあれば一緒に遊んでいた。多分昨日の時点で
ついでに言えばいろはは、もうこの頃にはとっくに俺の家の合鍵を渡されている。
「私が出るよ、うまく風邪だって誤魔化――」
「お邪魔しまー……えっ」
俺の家は、リビングから玄関までほんの数歩廊下を歩けばすぐだ。
とてとてと玄関で靴を脱いでやってきた
「……? えっ、えっ、えっと――」
「…………はじめまして君がいろはちゃんだな俺はシュウの
「えっシュウくん、シュウくんでしょ!? シュウくんだよね!! えっ、えぇぇっなんでっすっごいおっきいーーーー!! かっこいいーーーーー♡♡ えっなんでおばあちゃんほんとに魔女だったの!? 魔法でシュウくんおっきくしちゃったの!? すごいすごいすごいお母さんとお父さん呼んでくる! 待っててーーーーー!!」
「待て待て待て待って!!!!」
なんでコイツまで一発で俺だってわかるんだよちょっとおかしいだろ!!!!
シュウ:常時まあまあ泣きそうになってる
智江(健在):目の前の家族を疑う択はない。孫の成長に心臓とまりそうなくらいびっくりしてる。
理恵(健在):目の前の家族を疑う択はない。息子の立派な姿に結構泣きそう。
勇也(健在):目の前の家族を疑う択はない。大きくなった息子の姿が嬉しくも寂しい。
いろはちゃん6才:10年後と比較してもまあまあ無敵の女の子。シュウくんと結婚する約束をしている。従兄? シュウくんだよね? すっごいおおきくなってるけどシュウくんだよね?(純粋な瞳)