環いろはちゃんと共依存的にイチャイチャしたい人生だった   作:風剣

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一方、現在

「お兄さんの居場所が判明したよ」

 

 激動の1日が終わろうとしていた。

 鏡の結界での戦いと桂城シュウの消失から時間が過ぎ、夜。マギウス温泉を出て夕飯を外食で済ませた少女たちは帰宅し身支度を終え、6才児の少年はフェリシアやさなに寝かしつけられすやすやと眠る。

 

 しかし、彼女たちにはやらなければならないことが残っていた。

 年上の少女たちに寝かしつけられるシュウがすやすやと眠るなか、それを見計らい起きだした少女たちはひっそりリビングへと集まっていく。

 

 義兄を欠いたマギウス首脳陣、年長の魔法少女たちがリビングに集まるなか。みんなで遊ぶ傍らミラーズに派遣したウワサでの調査を進めていたねむが朗報を告げた。

 

「……!」

 

 まあ大丈夫だろうと薄々みんなが感じていてはいたものの、明白に保証された少年の無事に安堵の空気が広がる。がたっと立ち上がり「ほんと!? シュウくんは平気そう?!」と眠る幼馴染への配慮で小声にしながら聞くいろはにねむも目元を弛めこくりと頷いた。

 

「お兄さんに憑けているウワサの反応からしてバイタルは良好、五体無事だよ。鏡の向こう側は予測通り10年前……。6才のお兄さんと入れ替わる形で宝崎市のお婆さんの家に放り出されたみたいだね。今もそちらで家族に匿ってもらっているようだ」

「よかったぁ……」

 

 安堵を露わにして息を吐くいろは。6才児のシュウのことを存分に可愛がりながらも鏡の向こうに消えて行ってしまった恋人の安否をずっと気にしていたのだろう、ほっとしたように口元を綻ばせた彼女はねむを見つめ問いかける。

 

 

「それじゃあ向こうの鏡はシュウくんたちのお家と繋がってるのかな。もしかしたらすぐに戻って来れそうだったりする……?」

「いや……。今は移動しているみたいだね。向かわせた僕のウワサが出たのは繁華街の方面だった。だけどコンタクトをとることにさえ成功すれば6才のお兄さんを連れて元のところに戻す段取りを組むことができるはずだよ」

「やった……!」

 

 シュウが行方不明になった合わせ鏡を通してウワサを派遣しての調査。今は2階で眠っている6才の義兄がやってきた世界に彼がいるの確認しその所在地も把握したねむ。2人が元の世界に戻る手立てが固まりつつある吉報を共有しながら、難しい表情で腕を組む彼女はどこか物憂げに息を吐いた。

 

「ねむちゃん?」

「……うん、ただひとつ問題があってね。ミラーズに居る使い魔たちがやや活性化しているみたいなんだ。合わせ鏡自体は位置を固定したうえで完全武装した護人(モリビト)を中心とした編成で守護しているけど、その近辺に少しずつ魔法少女のコピーも含めた戦力が集まりだしていてね。今のところこれといった問題は発生してないけれど……」

「不気味ね。十中八九、桂城くんか、あるいは彼を助けようとする魔法少女に対する罠なんでしょうけど……」

「……これは、単なる憶測なのですが。シュウさんを別世界に放り出したあとに鏡を壊して、元の世界に戻れなくするつもりなのではないでしょうか」

 

 空気がにわかに張り詰める。

 

 既にシュウたちによる掃討で勢力を削ぎ落された影響か、6才のシュウを連れての撤退に移行した今日の戦いで魔女による追撃は発生しなかった。だが、ミラーズでは使い魔は保存された『型』から自由に魔法少女のコピーを作り出すことができるのを思えば依然その脅威は衰えない。今日の戦いで減らした使い魔たちの数もそう時をかけずに回復することだろう。

 加えて、今日討ち果たされたはずの鏡の魔女も打倒したシュウ自身が分身であったと見抜いている。その狡猾さと戦力をもって合わせ鏡の破壊を狙われてしまえば、たとえマギウスで防備を固めても凌げるかどうか……。

 

「……。鏡を通して、お兄さんのところには既にウワサを派遣している。憑かせている護り人(モリビト)も健在だ、その繋がりを辿ればこの世界にお兄さんを連れ戻すことは可能だろうけど……。そうだね、合わせ鏡が破壊されればその成功率が極めて低くなると思う」

「うにゃー、『なんでもできる』といっても『ないところを探る』難易度ってすっごい高いから。お兄様に憑けたウワサがあっても向こうの世界……10年前の私とうい、ねむが魔法少女になってウワサも全開でお兄様に協力して、それでようやくトントンってところじゃないかなぁ」

「き、気の長い話ね……」

 

 ななかの危惧を、灯花やねむさえも否定できる材料を提供できずに少女たちが緊張を露わにするなか。いや、とその懸念を否定したのは小さなぬいぐるみだった。

 

『その心配はないよ。少なくとも、鏡の魔女は合わせ鏡を壊すことはできない。……寧ろ、壊せない理由があると見積もってもいいかもしれないね』

「お婆ちゃん……?」

 

 そう声を発したのは机のうえに乗せられた黒猫のぬいぐるみだ。

 桂城シュウの消失以降、ミラーズの動向を探るべく単身結界内の基地に潜ったままずっと調査を続けてきた老婆。6才のシュウとの接触も避けるようにして彼の世話もいろはたちに一任していた智江は、連絡用に用意してもらっていたウワサで少女たちと通話し自身の確認した情報を共有する。

 

『――確証はない。()()()()()。けどね、違和感は確かにある。ねえみんな、()()()()()()()()()()()()()()()() ()()()()()()()()()()()()()

「……?」

「当たり前でしょう。確かに数こそは多かったけれど、ほんの暫く前に戦った魔女の1体や2体くら、い――」

 

 ……。

 

「……あれ?」

 

 疑問。ななかのあげた困惑の声は、その場の魔法少女の総意でもあった。

 今日この日に至るまで、少なくない数の魔女が神浜市に出現しその大半を忙しい忙しいと愚痴りながらシュウが駆逐していた。その大本だった鏡の結界での戦いも魔女に対して無類の殲滅力を誇るウワサを宿した彼が活躍する形になっていたが、それでもいろはたちもそれなり以上の数の魔女と交戦しこれを討ち果たしている。

 

 だが、誰も自分たちの倒した魔女のことを口に出せる者はいなかった。

 外観、能力、使い魔の数。特徴ならいくらだってあったはずなのに、そのどれも。

 

 シュウの消失危機とはまた異なる種の緊張、困惑の空気。覚えているはずなのに覚えてない、そんな状況に少女たちが眉根を寄せるなかで軽く手をあげたのは端正な容貌を渋い表情にする灯花だった。

 

「……私は覚えてるよ。というか今思い出した。去年のういのことがあってから、ねむと私は自分の記憶にはバックアップを仕込んであるんだけどソレ読み込んでようやく、となると――」

「……いなかったことに、されてる?」

『――ねむちゃん。明日黒羽根の娘に通達してシュウの最近討伐した魔女の記録と各自の記憶をちょっと照らし合わせておいてくれないかい。もしもズレが発生してるようなら……まだ鏡の魔女が合わせ鏡を壊せていない事情が固まってくる』

「……。や、平気だよお婆さん。()()()()。サーバーの情報とは確かにズレてる、というか。これ、昨日までにお兄さんが倒した魔女の痕跡ごと消えているね。つまり――」

 

『合わせ鏡が壊されたら、ソレによって発生した事象が()()()()()()()()()

 

 ……言われてみれば、納得のいかない話ではない。

 

 シュウの入れ替わり以前からマギウスの魔法少女は老婆の観測した情報による恩恵を受けていたために感覚が麻痺していた節もあったが、そもそも並行世界と繋がる空間の形成すら前代未聞のとんでもない魔法なのだ。何かしらの制限があったとしても不自然な話ではないし、それが鏡の破壊による事象の『揺り戻し』であるというのなら納得もいく。

 

 そもそも、魔女結界はその主たる存在にとって文字通り自分の世界といってもいい。今回の合わせ鏡に関してはねむによる固定化と防衛も行われていたとはいえ、鏡の魔女ならば本当にシュウを別世界に放逐しようと思えば入れ替わりしたその瞬間に出入り口であった鏡を壊すことくらいは難しくもなんともなかっただろう。

 

『それがなかった以上、そこには「できなかった理由」がある――。たとえば、合わせ鏡を壊してしまえば並行世界に消えて行ったシュウが戻ってしまうとか、ね』

「なるほど……」

 

 とはいえ、今回の入れ替え(シャッフリング)に関しては前例もへったくれもない異常事態だ。本当に合わせ鏡を破壊したときにどのような影響が現れるのかはそのときになるまでわからない――。今は、鏡の魔女が積極的に合わせ鏡を破壊しにくる可能性は低いということだけ念頭に置くに留める。

 当初の予定通り、6才のシュウの身を守りながら『向こう側』のシュウと接触。ミラーズに再度侵攻し元の世界に2人の少年を戻すという指針で固まった。

 

「罠に関してはこのまま警戒、僕のウワサを派遣しながら周囲の鎮圧を行っていくよ」

「コピー対策でねむのウワサには全部ロックをかけてるからミラーズ対策もバッチリだよ。順調にいけばお兄様と接触できたその日のうちには向こうから帰すことができると思う!」

『流石だねえ。それじゃあ後は、灯花ちゃん――』

 

 それに加え、やらなければならないことがひとつ。

 

『シュウの携帯の暗証番号はわかったかい?』

「もちろん!」

 

 満悦の笑顔を浮かべた少女。机のうえに端末を置いた灯花はそつなく画面を操作、あっさりと認証画面を突破するといろはとシュウのツーショットが待ち受けに設定された画面を開きながらにこやかに宣言する。

 

「折角お兄様が私たちを信頼してプライバシーの全部を投げ捨ててくれたんだもん、いない間の引継ぎはしっかりやっておかないとね!」

 

 

 

 

  ***

 

 

「……」

「シュウ? どうかした?」

「いや、今更ちょっと後悔が襲い掛かってきただけ。……帰るのが何日後になるかわからないし、まあ、仕方ねえ……ンだけどなぁ……。うん、まあ、しょうがないよなあ」

「?」

 

 

  ***

 

 

 

 桂城シュウは多忙だ。

 その理由はいろいろとあるが、おおまかに2つあげるなら『シュウの代わりがいない』『魔法少女だとか魔女だとかの話は一般社会で生きるうえで一切関係がない』になってくるだろうか。

 

 カミハマギカのマネージャー業。市内のパトロールと魔女退治。みかづき荘での家事、婚約者とのデート。学業。野球部の練習。メディアの取材。マギウスの幹部格としての会合への参加や悩める魔法少女からの相談。あとはたまにアルバイトや鍛錬その他諸々。

 彼本人は破綻するまでタスクを抱えるほど自己を蔑ろにするわけではないのだが。肉体労働で解決できる範囲のものを最大限の速度で解決し、その余裕に他の案件を詰め込んでいるために「なんとかできてしまっているからそのままやっている」状況だった。

 

 なにか問題が発生していたのなら、彼はすぐにでもその状態の改善に取り組みもう少し余裕を確保していただろうがいまのところそういった切っ掛けはなく。

 

 故に。

 

「うわ通知多い……」

「すっごい、ほとんどマギウスの娘からだ……。ええっと、ひとまずこれは後で確認して……あっ、シュウくんの友だちから連絡きてるみたい……しゅっ、取材⁉︎ 明後日⁉︎」

「あ、それカミハマギカまわりの話じゃない? 最近ちょっとした雑誌でお兄様が野球と並行してアイドルのマネージャーもやってるって感じの内容で載ってた気がするにゃー、それに関しての取材も何件か問い合わせが来てたと思うよ」

「お兄さんは今日や明日は鏡の魔女との戦いに備えてある程度予定を開けてるはず、だけど……ちょっとカレンダーの方にいろいろ書かれてないか見よう。あっ、僕の誕生日これ買うつもりなんだ、へー、ふーん……♪」

「関係ないの見てません?」

 

 シュウのプライバシーと引き換えに手に入れた直近の予定、想定よりだいぶ詰め込まれていたスケジュールに「うわ……」と灯花が小声で呻くなかで細い顎に手をあてて考えこみだすねむ。自分用に義兄の組んだ予定を確認しておおきくモチベーションを上げた少女はほくそ笑みながらも脳裏で必要になりそうなものを幾つかピックアップしやがてこくりと頷いた。

 

「――とりあえず、明後日までにお兄さんが戻れなかったときのために護り人(モリビト)のウワサをベースにお兄さんの影武者を用意しておくよ。あのひとの言動パターンをインストールすればマギウスでの会合やマネージャー活動はともかく学校や取材くらいならうまいこと任せることができると思うよ」

「桂城くんに度々文句を言われても絶対に顔を変えたりしなかった瓜二つのウワサがここにきて身代わりとして有効活用されるなんてね……」

「? それはもちろん世界で一番かっこいいひとの顔だからね。あればあるだけいいでしょう?」

「うわ話を聞く気のないモードのねむだ……あれ?」

 

 ぎい、と音を立て扉が開く。

 年長の魔法少女が集まるリビングに顔をだしたのは、きょとんとその瞳を丸くする幼い少年だった。

 

「あれ。まだみんな寝てないの?」

「しゅ、シュウくん……⁉ ういと一緒に寝てたんじゃぁ……。う、うるさかった?」

「んーん。ちょっとのど乾いたからおみず飲もうとおもったら話し声がしたからさ。……んー、婆ちゃんの声がした気がしたんだけど、気のせいだったかな……」

 

 話を聞いたレナがこっそり差し入れた彼女の弟のおさがりの寝巻を着る少年はふわあと欠伸をしてちらりとリビングを見回す。その様子を見守る猫のぬいぐるみが沈黙を守るなか、眠たげに目を瞬いた彼はお姉ちゃんぶる灯花から「はい、どーぞ!」と渡されたミネラルウォーターをごくごくと呷るとじいといろはを見上げた。

 

「ん、ありがとー灯花お姉ちゃん。……いろはー、もう寝よ? 夜更かしはよくないって母さんも言ってたよ」

「……うんっ♪ 一緒におねんねしようね……」

「へへっ、うん。……やちよお姉ちゃんたちはー?」

「……ふふっ。ええ、私たちももう話は終わったところだから。もうそろそろ寝ようかしらね」

 

 その返事にふわふわとした笑顔を浮かべたシュウが幸せいっぱいの笑顔を浮かべるいろはと手を繋いで2階の寝室へと消えていく。

 

『――ごめんなさい、それじゃあ私はこれで――』

『ううん、ひとまず対策は練れたもの。明日からは向こうの桂城くんとの接触に備えつつ帰す準備を進めましょう』

 

 そんな念話でやりとりをしていろはが階段を上っていくのを少女たちが見守り、「いいなあ私もお兄様やお姉様と一緒に寝ようかなあ」と灯花が画策するなか。

 少年が来てから沈黙を守っていた猫のぬいぐるみが、耳を澄ませようやく聞こえるくらいのボリュームで声を発した。

 

『――行ったかい』

「……ええ。けど、智江さん話さないでよかったの? シュウくんもきっと懐いて……」

『私はいいのさ。今回あの子と顔を合わせるわけにはいかないからね』

「……あっ」

『うん、()()()()()()()()()()()()

 

 

『――私と、理恵と、勇也。あの子の家族が将来は殺されてるだなんてこと、気付かせるわけにはいかないのさ』

 




(……そういえば)
(10年後の母さんや父さんって、いまどうしてんだろ)

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