環いろはちゃんと共依存的にイチャイチャしたい人生だった   作:風剣

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一部独自設定を含んだ内容になっております


たとえば、自分の知らない自分がいたとして

 

 素質ある少女に近付き契約をもちかけ、奇跡の対価に魔法少女としての使命を与える。いずれは魔女に至るように設計された魔法少女の希望が絶望へと反転する際に生じる感情エネルギーを収集し宇宙の運営に使用する。

 

 インキュベーダー。遥か古来に地球に訪れ、人類が文明を築くよりも前からそのようにして活動していたという宇宙からの来訪者。キュゥべえと呼ばれ何も知らない魔法少女から親しまれている白い獣は、その紅い瞳をぱちくりと瞬いては突如現れた少年を観察する。

 

「キミは……?」

「魔法少女の恋人がいる一般人だよ」

 

 ガラス玉のような透明感のある瞳が黒髪の少年を覗き込むのよりも早く、ほんの1歩で10m近い距離を容易く縮めた彼がキュゥべえをつまみあげた。

 首根っこを掴まれて持ち上げられ「きゅぷい」と声を漏らす小動物に頓着せずポッケのなかに押し込んだシュウは虚空に開かれた魔女結界の入り口へと歩を進める。

 

「――コイツを泳がせてたら、お前らなら来ると思ってたよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そりゃあ確認したくもなるよな?」

「この魔女はキミが連れてきたっていうことかい?」

「まさか。こいつは自分からやってきたんだよ」

 

 そっけなく言い放って足を踏み入れる。境界を越えた瞬間、キュゥべえを伴った少年の前に広がる異界。

 無数の鏡によって構成された魔女結界を訪れた彼は身軽な動きで鏡面に降り立った。ポッケのなかに突っ込まれた状態からひょいと頭だけだす小動物を片手で抑え、少年はミラーハウスの如き空間をゆったりとした足取りで進む。

 

「鏡の魔女。ここにいるのは使い魔みたいなもんだろうけど、少なくとも大元はソイツだ。キュゥべえなら似たような魔女でも見かけたことあるんじゃないのか、仮にもお前数千年も魔女作り続けてるんだろ」

「……鏡の魔女。なるほど、確かに見た通りだね」

 

 頭を片手で抑えつけられながら小動物は眼球だけを動かし、目の前に立ち塞がった使い魔を蹴りひとつでひしゃげさせた少年の顔を視認する。

 黒い髪に黒い瞳、日本人。年頃は10代後半か。がっちりとした体格、長身をした男性。精悍な顔つきをした少年の姿を自身の保有する記録と照らし合わせたキュゥべえは間を置かずに導き出された『不一致(エラー)』の結果にぱちくりと瞬きをして正体の詮索を一旦は諦めた。

 

 ――魔法少女でもないのに魔女やボクたちのことに辿り着ける人間はそう多くはない。いま現在、魔法少女を通してボクらと接点をもっている対象といえば霧峰村の神子柴(みこしば)と里見太介……。神子柴の契約する政治家たちから漏れた可能性はあるけれど、少なくとも彼らと近い人間のデータとは合致しなかった。

 ――魔法少女の恋人、という言の真偽はまだわからないけれどそれならばボクらのことを認知している理由にも納得がつく。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と関わっていることも含めて、不明点は多いけれど……現状これ以上詮索しても得られるものはなさそうだ。ひとまずは彼に同行しての調査を優先するべきだね。

 

「もととなった魔法少女の属性や願い、経歴によって形状や性質が似通った魔女が生まれる例は少なくないよ。『鏡』の魔女とやらについてもそれは同様といえるね。歴史上鏡の性質をもって生じた魔女の数は確認されている限り241体。そのなかにはこうしてミラーハウスのような形状の結界を構築するものもいたよ」

「……それって多すぎないか?」

「そうなのかな。全世界で年間およそ19万8000人の魔法少女が魔女化していることを踏まえれば寧ろ極めて稀少といってもいいんじゃないかな?」

「――」

 

 一瞬。妹たちには到底見せることのできないような形相を浮かべたシュウはキュゥべえの頭に乗せた手に力を籠め、しかし白い獣を縊り殺すその直前で息を吐いてその頭から手を放す。

 まだ必要な情報は集められていないと自分に言い聞かせ、青筋の浮かんだ眉間をキュゥべえを捕らえる方とは逆の手で揉み解す。相手はこちらの理屈の通じない異星人、ここで感情論を持ち出しても無駄だと、そう割り切るまでには多大な精神力を浪費したが――胸中に満ちる鬱屈した感情を進路上に現れた使い魔を蹴り潰すことでどうにか吐き出した彼は、歯を食い縛っては続く言葉を探した。

 

「なら、話は早い――。なあ、それじゃあ聞きたいんだけどさ」

「?」

 

 魔女の発生する元凶にこそ、一度聞いておきたかったことではあった。

 ここが自分の居る世界でない――()()()()のキュゥべえに会話の内容を知られるリスクのない絶好の機会。煮え立つような胸中を呼吸を整えて抑えこんだ彼は、懐にしまう小動物を冷徹な表情で一瞥しては問いかけた。

 

「――もしもの話。魔法少女や使い魔を鏡で写して増やしたり、結界の鏡と外部の空間を直接繋いで行き来することのできる魔女がずっと引き籠って力を蓄えていたとして。それがたとえば、別の空間や時間に鏡を繋げるまでに成長したとき……ソイツは、どれだけ強くなっていると思う?」

「……」

「はっきりいって、普通にやって倒せるような魔女だと思うか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――お兄様! よかった、繋がった……!』

「……灯花か」

 

 青い羽毛が特徴的な小鳥がパタパタと羽ばたいて近づく。

 メガホンのような形状の嘴をしたウワサから響いた妹分の声に、シュウは口元を弛めては手を差し伸べて小鳥を乗せる。

 

 なにも、キュゥべえと接触することだけが魔女を追っていた理由ではなかった。

 鏡の魔女──シュウの滞在する結界にいる、魔女の分身とでもいうべき個体は、10年後の世界に繋がる鏡を保有している。それをどこに設置しているかまではわからずとも、向こう側にいる仲間たちからの助けを期待するのであれば援護にくるウワサが通ってくるだろう魔女結界を見張っておくのは必要なことではあった。

 

 電源の切れた機械のように鏡の床に転がっていた小鳥。融合する護人(モリビト)の探知でようやく見つけたそれを軽く小突くとノイズを漏らしながら震え、無事再起動を果たし通話を繋げたウワサに安堵を露わにして破顔するシュウは、半泣きの声音で歓喜する灯花に微笑みを浮かべ目尻を下げる。

 

 鼻をすする音が小鳥の向こうから聞こえた。ばたばたとして「お兄さまと繋がった! お姉さまたちに連絡してっ!早く!」と声を張り上げる灯花の様子にシュウは口元を弛める。

 恐らくは自分が姿を消してからも大慌てになって探してくれていたのだろう彼女の声を聴きながら、一瞬だけ鋭い眼差しで周囲を見回した彼は、周りに()()話を聞いているものがいないのを確認すると小鳥を乗せる手を近づけながら速やかにこちらの情報を共有する。

 

 築かれた異形の亡骸の山には、口と耳を塞ぐのも兼ねてバラバラにされた白い獣のものも混ざっていた。

 

「灯花。こっちの声は聞こえるか? 俺は10年前の神浜市にいる。今いるところは鏡の魔女の――多分コピーの方の結界のなかだ。きっとここにソッチに戻れる鏡があると思うんだが、正直どれが灯花たちのところに繋がる鏡なのか見当がつかん。そっちの方でマーカーとかわかりやすくつけてくれたらうまいこと戻れるはずなんだが……」

『ぇ――。本当だっ、反応が……。なんで……!? 世界を移動した影響で……?』

「あん?」

『もしかして、観測にもラグが出ている……? そ、それじゃあ……』

「灯花、込み入った話はひとまず後にしてくれ。そっちの方はどうなっている? 6才の方の俺はやんちゃしてないか?」

『……』

「灯花?」

 

 帰ってきた反応は割と覚えのあるもので、嫌な予感がしたシュウは眉を顰めた。

 親しい相手に対して灯花がたまに見せる、とても不都合なことが起きてしまったときになんと説明したらいいか悩むときの反応――。なにかあったのを悟ったシュウは待ちの態勢に移行して彼女の思考が纏まるのを待った。

 

『その、ね。お兄様。悪い知らせがふたつあるんだけれど……』

「俺がいなくなって半日でいろはが泣き出したとかだったりしないか? こっちのいろはにはちょっと出かけるって言っただけでめちゃくちゃ泣かれたんだけどな」

『……お兄さま、真剣な話なんだけどにゃー?』

「はいはい」

 

 ――こっち側のいろはの話題にすら乗ってくれないあたりそこそこ切羽詰まってそうではあるが……向こう側でむうと声をあげている灯花の反応から少なくとも人死にの関わるような内容ではないのを察して、内心安堵しながらシュウは()()で築いた山のうえに腰を乗せ灯花からの報せを聞く姿勢に入る。

 だが、続いた言葉は予想外のものだった。

 

「あ?」

『だからっ、そっちの時間の進みとこっちの時間の進みが違ってるの! お兄様が一晩過ごしてるうちにこっちでは1()()()()()()()()()()()! 今すぐお兄様とちっちゃいお兄様を戻せるように手配するから、魔女結界にいるならそこで待ってて欲しいの!』

「…………えー?」

 

 頭が情報を処理できなかった。

 灯花から突然告げられた言葉に少年は目を白黒させ内容を反芻し、それでも理解できずに困り果てた表情をする。

 いまこの状況において頼れる相手など灯花ひとりしかいない、疑う選択肢などはないが……彼女の口から飛び出した想定の埒外の話に、流石のシュウも困惑を露わにして眉を顰めた。

 

 ……いや、納得できないことではない。そもそも魔女結界の時点で一度足を踏み入れれば現実とはかけ離れた異界を形成する空間だ。それが世界を越えるともなれば時間の流れが歪曲することだってあるかもしれない、が……。

 

 険しい表情になるシュウは、声もなく自らに宿るウワサに呼びかけた。

 

(……護人(モリビト)

『この結界内で停止していたウワサの構造、魔力反応からして繋がっている相手は間違いなく灯花だ。偽者の線はほぼない。どちらかといえば、時間のズレているという灯花の認識が誤っている可能性の方が大きいが──』

(……いや、それについてはガチな話だと思っておこう。いまの話が本当なら疑ってる暇もないしな……)

 

 疑問はある。

 ざっと7倍は時間の流れに差のあるなかでどうしてこの通信では問題なく意思疎通ができているのか。接触すれば問題なく再起動を果たせる状態のウワサが何故特段の損傷もなく魔女結界に転がっていたのか。魔女の手引きにしてはあまりにも()()なこの状況はいったい如何なる理由で築かれたものなのか。

 

 だがそれ以上に、自身の中で控えている護人(モリビト)のウワサとの相談を速やかに終えたシュウは速やかな現状の把握を優先した。

 灯花の話が事実であると想定するならば、()()()()()()()()()()()()()少なからぬ問題が発生しているのが明らかだったからだ。

 

「いや、ここで待つのはいいけど……そっちは大丈夫なんだろうな? 1週間も俺がいなかったってことだろう、いろいろ厄介なことになってそうではあるけど……ああ、そうだった。なぁ、()()()()()()()()()()()()?」

『ッ……』

 

 図星だったのか、二の句を告げれなくなった灯花が息を呑むのを聞いた少年は苦笑した。

 

 自分のことだ。どれだけやんちゃなのかも、まあ察しはつく。

 6才のシュウより身体能力ではある程度伯仲するか、上回る魔法少女たちならば子どもの世話が多少不慣れでも1日、2日程度なら余裕をもって相手できただろう。幼い頃のシュウを知るいろはだっているのだ、コミュニケーションもそう難儀しないだろうことは想像ができた。

 

 だが、1週間……。1週間、である。

 シュウには断言できた。ガキの頃の自分がそんな長い時間をいい子していられる訳が絶対にないと。

 

『じつ、は……』

 

 2つ目の悪い知らせ。言いづらそうにして返ってきた灯花からの返事も、およそ予想の通りではあった。

 

『ちっちゃなお兄さま、今朝から脱走してて……今、神浜の魔法少女に動員をかけて捜索してるところだから! すぐ見つけて元のところに戻せるようにするねっ』

「俺の扱い人里に現れた猛獣みたいになってない?」

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 最初は、見るもの全てが夢みたいだった。

 

 大きくなったいろはが、ういがいた。まだ会ったことのないたくさんのお姉ちゃんたちがいた。

 いろははすっごくすっごく美人で、綺麗で、おっぱいもでかくなってて。ういもオレより頭ふたつくらい背が高くなってて、すっごくすごく可愛くて元気な女の子になってた。

 

「なんだみたま姉ちゃんの料理ちゃんと美味しいじゃーん! お姉ちゃんの料理は地獄だったってみかげちゃんが言ってたからどんなもんが出てくるのかちょっとおっかなかったけど心配して損したぁ!」

「ふふふっ、喜んで嬉しい♪ 昔はいろいろと大変だったけれどねえ、結構頑張って修行したのよぉ? ……暫く前におっきいほうの貴方に『これ家族に振る舞ったってマジで言ってる? これを?』ってすっごい顔で言われちゃったから、流石にねえ……

「? でも美味しいごはん作れるのってすっごいと思うよ! ごちそうさまー! ありがとうみたま姉ちゃん、じゃあオレ行くから!」

「えっ、灯花ちゃんから待っててって言われているんだけど……えっ、ウソ、もう行っちゃった!? 待ってぇーーっ!?」

 

 オレと入れ替わりになったらしい10年後の桂城シュウ(でかくなったオレ)は、こうしえんってところでガンガンホームラン打ちまくったヒーローとしてニュースにも出てた。ムキムキで背も超高くなっててすげえ。

 いろはは魔法少女の友だちと一緒にアイドルを始めてたみたいで、みかづき荘のオレの部屋にはでっかいカミハマギカのポスターも貼られていた。アイドル衣装みせてもらったけどすっっげえ可愛かった!

 2チャンネルでいっつも見てるアニメが始まる前にたまに見てたお料理番組でマカロンの歌を歌ってた海ちゃん(マリリン)はやちよお姉ちゃんで、魔法少女で、今はモデルさんになってみかづき荘でオレやいろはたちと暮らしている。

 おっきくなったういは灯花ちゃんやねむちゃんと一緒に魔法少女のグループのトップとしていろいろお仕事してるらしい。みんな助けられてるってみたまお姉ちゃんやちよお姉ちゃんも言ってた。

 

 知ってる子はみんなおっきくなっていて、みかづき荘を出たら周りに広がるのはまったく覚えのない景色で、すべてが新鮮で。未来の世界ってすっげえ楽しいなって、みんなとあっちこっちを見ながら過ごしてたらあっという間に1週間たっちゃった。

 

「へーっ、オレって剣とかも使ったりしてたんだ!いいなーやっぱ剣ってかっこいいよなぁ! ねっねっ、オレってどんな剣術使ってたー? やっぱ三刀流とかかなっ!」

「一刀流……でいいのかしら?」

「なんっていうか……カミナリ出してたよ!あと風!ぶぉおおおって!」

「すげーーー! オレ魔法使えるのかな! やっぱ雷っていいよな!!」

「いや、でも素手で戦う姿も結構見る気がするけど――あっ、待ってー!待ってー!里見さんがシュウさんのこと探してたよーー!」

「すぐ帰るから平気だって言っといてー!」

 

 なんかトラブルがあって予定より帰る時間は遅れたけれど、代わりにいろんなとこを見た。

 魔法少女たちの秘密基地、ホテルフェントホープ。いろはたちがアイドルとしていろんな練習や打ち合わせをしてる楽屋。あとはこっそり身を隠して、オレが普段通ってる学校とか。

 

 だけど、まだ見れてない場所があった。

 

「母さんたち、どうしてるかなぁ」

 

 足取りは軽い。鼻歌でも歌いそうなご機嫌な調子で進む少年は、線路を沿うようにして歩きながら宝崎市へと向かう。

 10年後の家族がどうなっているかを想像してはほくそ笑む彼の横顔は、未来への憂いなどひとつもない晴れやかなものだった。

 




・キュゥべえの仄めかした年間生まれる魔女の数に関しては完全に独自設定です。実際の世界中の人口やマギレコ作中で登場した魔法少女数を踏まえると少ない、ないし多すぎると思われるかもしれませんがキュゥべえは魔法少女には最期にきちんと魔女になってもらえるよう誘導するだろうこと、使い魔が魔女になる例を踏まえてざっと計算した数字からだいぶ差し引いて作中の数字になっております故どうぞよしなに。

入れ替え発生、6才シュウ来訪 → その日のうちにはウワサを派遣 → 世界を越えて暫くしたのちにウワサの反応ロスト → トライアンドエラーを繰り返しつつ1週間経過 → シュウくんからの通信
シュウ、入れ替え後智江たちの屋敷に → 一晩経過 → ウワサを回収して灯花と通信(今ここ)

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