環いろはちゃんと共依存的にイチャイチャしたい人生だった 作:風剣
モンハンワイルズから戻ってきました。
多分シュウくんはガンランスか太刀をぶんまわすと思う。モーションがあまりにもぶっささるので。
※今回は気合いをいれてクソガキ描写をしました。
シュウくん6才、普通に悪ガキです。ほんとなら仲のいい年上の女の子なんてスカートめくります。胸揉みます。お尻触ります。かんちょーします。ぎゅってしてもらったらウヘヘ…って胸に埋もれて喜びます。構ってもらいたくてもそうでないときもしょーもないことたくさんします。
それがなかったのは超絶美人になってた幼馴染をはじめとした年上で見知らぬ可愛くて美人のお姉ちゃんたちに囲まれていたから。緊張してたのです。ドギマギしてたのです。
それから解き放たれたらどうなるか、という要素もあったりなかったり。
柊ねむが最初に異変に気付いたのは、
『そんな……。お兄さんのところに差し向けたウワサの反応がロストしてる……?』
灯花やういと共同での自動浄化システムの運営、ミラーズへの戦力配備の指揮、シュウの『代役』をこなすウワサの調整をこなしながら智江と相談を重ねての世界転移の解消準備を進めていた彼女だったが、幼いシュウのいた場所に派遣していたウワサからの反応が途絶えたことに気付くとすぐさま新たな連絡役の小鳥を生成しては鏡の異界から派遣していった。
しかし、結果はいずれも同じ。最初は問題なく交信を行うことのできていたウワサも一定の時間が過ぎると定時連絡さえ途切れ、反応さえなくなる。
異なる時間軸に跳んだシュウとのやりとりが叶わなければ入れ替え現象の解消もままならない。トライアンドエラーを重ねながら、当初予定していた計画の延長を決めて数日が経過した。
「……ごめんなさい、お姉さん。本当には昨日にはお兄さんを連れ帰れる筈だったのに……」
「こんな事件なんだもの、思うようにいかなかくたって仕方ないよ。シュウくんが無事なのはわかってるんだし、ねむちゃんがいなかったらどの鏡の先にシュウくんがいるのかだってわからなかったんだから、そんなに謝らないで? ……ほらっ、ちっちゃなシュウくんとまだ過ごせるのは私も嬉しいし!」
そんなことを言ってねむを励ましていたいろはも、シュウの帰ってこれない日が続き、綺麗なお姉さんになったいろはに対してドギマギした様子を見せる幼いシュウが「あんまりベタベタすんなよっ」と紅くなりながらハグもキスも拒絶するようになったのも相まって1週間もしないうちにしなしなと元気を失いまるで水やりの途絶えてしまった花のように萎んでしまっていた。
そう。
1週間。1週間だ。
世界を越えた先で1日を過ごしたシュウが結界のなかでウワサを発見し連絡を取るそのときまでの間に、現代では1週間ものの時が流れてしまっていた。
「――さなっ、そっちの方はどうだ!? 見つかった?」
『……ダメでしたっ、調整屋にもやってきていたみたいですけれどちょっと前に出て行っちゃったみたいで……』
「だぁーーもうっ! こっちも空振りだ、アイツいくらなんでも忙しなさすぎだろ……!」
『GPS機能つきのバッジも、昨日の洗濯物につけっぱなしだったのをねむちゃんが発見したみたいで……一体どこに……』
ホテルフェントホープ地下、巨大地下回廊。神浜市の各所へと転移することのできる扉がずらりと並んでいるターミナルを駆けずり回る
なかなか見つからない、自分をフェリシア姉ちゃんと呼び慕う小さなシュウ――いや、見つかっていても駆けつけた時には行方を晦ましてしまっているとんでもやんちゃ6才児にぬぐぐと唸り声をあげる少女は地図の画面と睨めっこをして目撃箇所のひとつに印をつけた。
「調整屋ンとこも、空振り……。さなー、みたまのやつなんか言ってなかったか? シュウのやつどこ行きたがってたーとかさ」
『探検してるんだって、言ってたみたいですけれど……。行き先について聞きだすよりも早く出て行っちゃったみたいで……』
「ちっせえシュウのやつホントすばしっこいからなぁ。えーと……、さな。いろはやななかから連絡きた?」
『いえ、いろはさんたちからは何も……。学校にもし顔を出したらすぐに捕まえてとは伝えていますけれど……』
「……ワンチャンいろはたちのとこ来るかもとは思ってたんだけどなあ」
9月にもなり、部活動も盛んな時期だ。文化祭も近い。今日は土曜日だったが、いろはたちも出し物の準備をするために登校し、すぐに捜索に動くことのできるのはフェリシアとさなだけだった。
シュウが姿を消して神浜市のあちこちをひとりでまわっていることを知ったいろははすぐさまあらゆるスケジュールを投げ捨てて捜索に移ろうとしていたが、この一週間将来自分やいろはたちの通っている学校に興味をもって頻繁に顔を出していた*1シュウとすれ違う可能性を指摘されて大慌てになっていた彼女もおとなしく様子見に徹することを決め、シュウがもしきたら小さな彼の姿を学友に目撃されるより早くすぐさま保護することになっている。
他にも万々歳、みかづき荘、カミハ☆マギカの事務所、ホテルフェントホープ隠し通路。事実上の迷子状態であるシュウが寄りそうなところ、ひょっこり顔を出しそうなところには事情を知る魔法少女たちが詰めいつでもシュウを迎え入れることのできるよう準備を整えていた。
「ええっと、シュウのやつが見つかったのは調整屋、新西区ンとこの商店街、あとは……水名神社の方でも、静香のとこの魔法少女が会ったって言ってたっけなぁ……」
『シュウくんがいないことにねむちゃんが気付いたのは、午前10時頃……。かなりバラバラなのにこの短時間であっちこっち移動して、本当にすばしっこいね……』
「……マギウスのどこでもドアがある場所ばっかりとも限らないし、うーーん、これ見つかったって聞いてから向かっても遅いよなあ。雫のやつが居たら話は違うかもだけど……頼んでみるか」
やちよに誕生日プレゼントでもらった新機種の携帯――灯花によって開発された、魔女の出現報告や一般の地図に表示されることのないホテルフェントホープから繋がる隠し通路まで表記された地図アプリを見ながら唸るフェリシアは、今頃は行きつけの喫茶店に友だちの魔法少女と居るのだろう『運び屋』に依頼しようとして、少し悩んだ素振りをみせる。
(……アイツの行きそうなところを張った方がいいか、これ? どっかでシュウが見つかったって連絡がきて瞬間移動できてもその連絡が来るまでにとっとと他の場所移動してるかもだしな……)
灯花は向こう側に行ってしまったシュウと既に連絡を取れたらしい。『今すぐ2人を戻したいから小さいお兄さま早く見つけてー!』とせっついてきたが……闇雲に後を追うだけでは、下手したら捕まえるより早く何食わぬ顔の6才児がみかづき荘に帰ってくる方が早くなるかもしれない。
それならどこかで待ち構えて捕まえる方がまだ早い……。そう思い立ったフェリシアは地図を見ながら次にシュウが現れそうな場所を予想するが、数秒で渋い表情になって唸った。
「……いやマジで無軌道すぎだろこいつ……」
そもそも土地勘もないところで好き勝手にあちこっち散策しているのだ、目撃情報のあがるところがバラバラになってるのもおかしくはないが、これでは行きそうなところなど絞りこめたものではない。
断念しかけたフェリシアだったが、そのとき聞こえたのはまだ通話を繋いでたさなの声だった。
『フェリシアさん……! 一緒に遊んでたみかげちゃんに教えてもらってたけど、シュウくん宝崎市がどっちの方か聞いてたみたい! もし神浜を出てたら流石に……フェリシアさん?』
「マジかよ、シュウん
『……ぇ、ウソ。まさかわかるんですかっ、みかづき荘から、あのひとの家が……?』
シュウには、細かいことなどまるでわからない。
まだ6才の身だ。突然見知らぬ場所に放り出されて、年上のお姉ちゃんたちや大きくなったいろは、ういに囲まれて。魔女だの魔法だのと聞かされれば納得はできたものの、一体どういう理屈でそのようなことになったのかなんて言われてもそんなの知らないと答えるだろうし魔法少女たちから教えられていたとしても忘れているだろう。
それでも、なんとなしに感じ取れるものはある。
周りの空気によるものか、あるいは本能的な直感によるものか。ここが自分のいた場所でないこと。自分の戻るべき場所は別に在ること。帰らなければならないときが、近づきつつあること。
誰に何をいわれずとも、
だから、彼は最後に見てまわりたかった。
遊びに行って楽しかった場所を。もう一度行ってみたかった場所を。まだ行ったことのなかった場所を。将来の自分の友だちが居る場所を。
『シュウくんじゃーん!今日はろっはーたちといないの? 探検? いいねいいねっ! お菓子食べるー?』
『うおおお桂城さんっ⁉︎ びっくりしたぁー……。……えっ、ひとり? 付き添い、ええと、他のひとたちは一緒にきてないの? ……そっかあ、じゃあ……一緒にフェントホープみてまわる?』
『シュウくーーーん……。はひっ、シュウくーん……? はっ、はぁ、はぁ……。もう、ほんとに、ど、どこぉ……?』
あてもなく回る。
将来のシュウやいろはの友だちが相談屋を開いてる商店街。魔法少女のための秘密基地。昨日友だちになったういと同い年くらいの魔法少女のお姉ちゃんがやってるらしい調整屋。初めて行った神社。あとは自分を見るなり追いかけてきた魔法少女たちと鬼ごっこしたり。
「……ここどこだろ……? まあいっか!」
迷子になっても彼が気にすることはなかった。
口煩く幼子の勝手な行動を制止する大人のいないシュウの精神性は無敵に等しい。鼻唄交じりに最近こっそり習得したマリオの壁蹴りジャンプを駆使し電信柱や家屋の壁を足場に建物の屋根に乗りあがった少年はあたりを見渡して次の目的地を決めるとひょいひょいと跳躍し移動していく。
子どもの奔放な行動パターンに加え、6才の身で人間離れした機動力を誇るシュウによって実現される神出鬼没の動きは異変を悟り彼を追うマギウスの魔法少女たちの捜索網を無自覚のままズタズタにかき乱した。
やがて誰にも捕まることのないまま自由に動いて、2時をまわり。小さな子どもやその家族の屯する見知らぬ公園のアスレチック頂上に陣取り、エミリーお姉ちゃんにもらったお菓子をもしゃもしゃと食べながら天井を見上げるシュウは、途中何度か自分を見つけた黒ローブのお姉ちゃんが「いろはが自分を探してる」だの「みかづき荘に帰ろう」だのと言ってたのを思い出す。
「……んーー、戻るか」
「でも、その前に……ちょっと、
追いかけっこが楽しくって自分を探す魔法少女に会うたび「後で帰るー!」なんて言ってけらけら笑いながら
「ずっと本気で遊んでたから、かくさなきゃなの忘れてたな……」
突然の飛び降り行為に大人たちから完全にビビられてたのを思い出しちょっぴり胸の痛むものを覚えながら、そそくさと公園を離れるシュウはそのまま大通りへと出るときょろきょろ辺りを見回しては歩道に設置されていた地図をみると「んーー……」と唸り、「こっちか!」と駆け出す。
「こんにちはーー!!」
「おおっ。……こんにちは、ボク。元気だねえ、どうかしたのかな?」
青信号の点滅する横断歩道を早歩きで渡った彼が声をかけたのはデスクに座るおまわりさんだった。交番に駆け込んだシュウはでかでかとしたファイルがいくつも並べられたデスクのうえに飛びついてそのうえの地図を指さそうとして、素人の子どもにはめちゃくちゃ読みづらい白地図に解読を断念しては素直に助けを乞う。
「すいませーーんっ、このへんのでっかい
「……もしかしてボク、里見メディカルセンターのこと言ってるのかな? ちょーっと、歩きだと遠いかもだけど……。えーとごめんねボク、おとうさんおかあさんは傍にいないのかな……?」
「
「そっかそっか。……病院にお父さんとお母さんがいるのかな? ひとりで行くの?」
「んーー……そう! 病院にいるのは
「……。そっかあ。お父さんお母さんもお見舞い、か。別々で来ちゃったのかな。でもあそこに行くのにひとりじゃ大変だよ、バスで15分くらいはするし……」
「へーきへーき!」
しらっと適当な嘘を言ったのにも気付かずそっかそっかあと頷いた男性。んーと声をあげて小さく唸った彼は、やがて腰をあげると無線で何事か連絡を取るとシュウと再度目を合わせ声をかける。
「それじゃあおまわりさんと一緒に病院いこっか、パトカーは好きかい?」
「えーっ、好き好き! えっ、なにっ、連れてってくれるのー!?」
「特別だよ。お友だちにもあんまり自慢しちゃダメだからね、困ってるひとの為だから……」
「はーいっ!」
はしゃぎ声をあげる男児の姿に微笑み、掛札を『巡回中』にした警官は交番の外にシュウを連れて行く。建物隣の駐車スペースに停められていたパトカーの助手席に誘導しきちんと少年がベルトをつけたのまで確認した彼は運転席に乗り込むとエンジンを点けた。
「うおーーーーーっ! パトカーに乗ったのは始めてだオレ! すっげえーー! ねっねっ、おまわりさんおまわりさんっ! ピーポーピーポーって鳴らさないの!?」
「それは多分救急車の方だなぁ」
そんな風に目を輝かせていたのは最初のうち。信号の赤信号に止まり、横断歩道の歩行者を優先して止まり、パトカーを気にして露骨に
隣で頬を膨れさせて忙しなく身を揺らしだす少年の言い草に運転席の警官は流石に苦笑を浮かべながらも幼い子どもをいちいち咎めはしなかった。それにしてもしっかりした子だなと困ったときにすぐ交番のおまわりさんに頼った少年のことを評価さえして落ち着いたペースで病院へと向かう彼は、これといった悲壮感を感じさせない男児の横顔をちらりと見ながら問いかける。
「妹さんはどこか悪いのかい?」
「んっ? んんー……。今はちょっと悪くって、ひょろひょろ~~って感じだけど、平気! 12才になったらね、ういのやつすっごいすっごい元気になるんだっ! すっっごいんだよ、ものすっっごい死にそうな匂いと音なのに、あいつほんっとうに頑張ってんの!! マジで、マジでさっ、ういってえっらいんだよ!」
「そっかあ……。そうか、うん、そうだな。元気になるといいよな……」
やや要領の得ない部分を子どもの認識故なのだろうと受け止め、両手を広めて病床にいるという妹の凄さを力説する少年に微笑む。目をキラキラと輝かせさえして、必ず家族は快復すると信じて疑わない子どもの姿に目頭が熱くなるのを瞬きを繰り返して抑える男性は「あっ、見えたっ。あそこあそこっ!いやもうここでいいよ道も思い出したから!」と叫ぶ隣を押し留め病院のエントランス付近まで向かう。
――。
「ありがとうございますっ、おまわりさん!」
「うんうん。妹さんにもよろしくね。おまわりさんも応援してるからね。……本当に玄関までで大丈夫かい?」
「? うんっ、もう大丈夫だよ! ういのこともありがとう! みんなにも伝えとくね! ――ここもちょっと変わったんだなぁっ、10年後かぁ!」
……。
………………。
もしも、その一連の様子を彼の母親が見て、パトカーにわざわざ乗せてもらった6才児の事情と思惑のすべてを聞き出し、把握したとしたら。
桂城理恵は、その所業に頭を抱え、キレて、ガチめの拳骨をかました後にシュウがやらかしを
「
里見メディカルセンターのエントランスを興味津々でみまわしてすぐさまUターン。既に交番への帰路についていたおまわりさんの親切で連れてきてもらった病院から安全速度の小走りで通りを走りだした。
「へっへーんっ。やっぱ覚えてる! 見覚えあるもん、
――6才の少年は、神浜市の地理に疎い。容態を悪くした妹分のお見舞いに家族と一緒に行った数回しか来たことがなかったからだ。
当然、
彼はまだ、自分の母親がお世話になっていた智江のところに家族と身を寄せて1年経つか経たないか。住所もまだ
だから、彼は
そこにさえ辿りつけたなら、後は記憶力を頼りに自分の足で帰れるから。
理恵が知ればキレただろう。それらしい嘘なんかついての善意にラッキーと相乗りした事実に。最寄りの駅や自分といろはの通う小学校の名前を出しさえすれば一直線に送ってもらえたものを自分で帰れるからと変な理屈でひとり慣れぬ街から徒歩での帰宅を敢行した事実に。そもそも警官との応答に関しても本人にとってはそれほど悪意はなく、住む
無謀。意地の悪さ。悪戯心。慢心。軽率さ。小賢しさ。
悪いものは悪いと教える。よくないところは全力で叩き直す。間違えたならばやり直させ、誤りを正し、相手の気持ちのこともきちんと考えさせる。自分なりの判断材料と理屈によって出した答えを否定された子どもが怒ろうが泣こうが喚こうが、それだけは決して譲らない。
……。
もし、生きていればの話だが。
「……ついたーー!」
都合にして約40分。記憶を頼りにバス停からバス停への移動を繰り返しギリ不審がられない程度の速度でダッシュ、見慣れた市街地にまで辿り着ければあとは余裕。何の障害もなく我が家の前に辿り着いたシュウは、一度振り返ってお向かいの環家の住まいを見ては嬉しそうに笑い、喜びを露わに跳んだり跳ねたりしてはニマニマとしながらどうしようか考える。
「へへへっ……。『帰る』前に一回は来たかったんだよな……。会いたいな……。しょーらいの母さんたち、どうしてるだろ……? ちっちゃくなったオレ見たらびっくりするかなぁー……」
そんなことを呟きながら扉に手を伸ばし、そういや鍵ねえ!と扉の取っ手に指をかけながら思い至る。着の身着のまま別の時間に放り出されたシュウが自宅の鍵を持っているわけもなく、突発的な思い付きでここまで来たのもあってこっちのいろはから合鍵を借りてきたりもしていない。
ちょっとした冒険の最後の最後で思い切り躓き。えぇぇ~~~~と唸りながらシュウは諦め半分扉の取っ手を引き――開いた。
「……」
「へっへ~~~~~」
一瞬沈黙し、嬉しそうに笑い。がちゃりと扉を開ける。
「……おかーさんっ、おとーさんっ、おばーちゃんっ、ただいまー! 元気~~?」
『
声が、聞こえた。
母さんの声が。
「……?」
蛍光灯の明かりに照らされた玄関。そこで立ち止まったシュウは首を傾げ、すんすんと鼻を鳴らして辺りを見回り、再び首を傾げつつも足取り軽く靴を脱ぎ捨て――日頃からお婆ちゃんに再三言われていた、『脱いだ靴は綺麗に並べなさい』なる小言を思い出し脱ぎ捨てた靴を並べようとして、眉を顰める。
違和感があった。
「…………?」
「まあ……うん? どうしたんだろ……。たっだいまー……」
一見、そう一見するだけなら気にしなかったはずの玄関の様子に困惑して、やや気勢を削がれながらシュウはリビングに向かう。
「ねぇ母さーん?
ぞわりと駆け抜けた怖気。立ち止まり、瞬きを繰り返して。額に浮かんだ汗を拭う。
『どうしたの、シュウ。なんか言ったー? それと結構声……気のせいかなあ』
「………………」
声に、違和感はなかった。
だから、シュウは足を踏み出した。当たり前にどたばたと走り回っては叱られていた廊下を、忍び足になりながら。
いつも通り。その筈だ。
魔女だとか、魔法少女だとかの話なんか聞いて。みかづき荘で1週間泊まったりとかしたから、それに慣れてちょっと感覚が狂ってる、その筈だ。
ちょっぴり家の匂いが埃っぽいだなんてのも掃除しなかっただけだし。
玄関にみんなの靴がなかったのだって、多分下駄箱に全部あるだろうし。
気のせいだ。
その、筈――。
「あれ、シュウ?」
当たり前にことことと鍋の料理を煮込んで、当たり前にいつもの顔で微笑んで、自分をみてびっくりした顔をして。ちっさくなってるー!? なんて声を張り上げながら聞き慣れた足取りで、近づいて、頭を撫でようとして。
母さんはそう、いつも通り、そのはず
「……誰、お前」
震え声で、問いかける。
気付けば足は勝手に動いて、近づいてきていた母さんから距離を取っていた。
「母さんは、どこ?」
「――」
その質問に。
母さんは、桂城理恵の顔をした誰かはにこりと、いつものように微笑んで――。