環いろはちゃんと共依存的にイチャイチャしたい人生だった   作:風剣

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ただいま

 あんまり。

 そんな顔はさせたくなかったなと、沈痛な面持ちになる家族をみて思う。

 

「──ごめんね」

「母さんが謝ることじゃないだろ」

「いや。これは……私が、謝らなきゃいけないんだよ。ごめんね。本当にごめん。シュウに、そんな思い、させちゃって――」

「母さん……」

 

 止めるべきか、僅かに逡巡する。

 

 誰が悪いかと言われたら、それはキュゥべえだ。たったひとつの願いを対価とした悪辣な契約は、魔女のふりまく呪いという形で契約者である理恵たち魔法少女のみならず彼女たちの大切なひとたちをも壊していく。灯花やねむと協議して密かに進める()()さえ完遂したならば、いずれは地球から追い出す敵だ。

 魔法少女であること、魔女と戦っていたことを黙っていたこと。姿を消したかと思えば魔女となって戻ってきたこと。魔女となった彼女が自身の前で家族を惨殺したこと。

 

 それらについての責を10年前の理恵に問うのは筋違いでしかないし、そもそもシュウは母を恨んでなどいない。寧ろ詫びるべきは彼の世界において理恵が歩んだ末路を彼女が知る不手際を犯したシュウの側ですらあった。

 

 そう言って、理恵に責任などないと伝えるのは簡単だ。だがそれは果たして母が望むことなのか――迷う。

 自分に咎がないこと。異なる時間、異なる世界で起きたシュウの悲劇は取り返しのつくようなものではないこと。そんなことは、理恵だってきっとわかっているのだ。

 

 けれど、そんな理屈で納得なんかできないから。それじゃあとても気が済まないから。だから、理恵はせめてと謝り続けている。

 気持ちは、わかる。逆の立場だったらシュウだって詫びることしかできないだろうし……謝ることさえ否定されるというのは、苦しいものだ。

 だが、本当にシュウとしては彼女が自責の念に駆られるのは見たくなかった。沈む母の姿を見つめながら苦々しい顔で眉間を揉み込むシュウは、どうしたものかと頭を悩ませて──。

 

 ――いっそ、腹を割って話すことを決める。

 

「……じゃあさ、母さん。まず顔をあげてくれ」

「少し、話そうぜ。俺のこと、いろはのこと、ういのこと、みんなのこと――。本当に、いろいろあったんだよ」

 

 

 ――。

 

 たくさんのことを話した。

 

 いろはが魔法少女になってういを助けたこと。ういはもう12才になっていて、来年には自分といろはが通う学校の中等部に入ること。自分といろははもう高校生になったこと。神浜市を拠点にするようになって、魔法少女の友人がたくさんできたこと。

 

 いろはが大きくなって、自分に勿体ないくらい美人で素敵な娘になったこと。髪も自分が子供の頃褒めたのがきっかけで今では腰まで届くくらい伸ばしているのに手入れを欠かしていないでずっと綺麗にしていること。

 

 ベテランの魔法少女であるやちよに誘われていろはたちと一緒にみかづき荘で暮らすようになったこと、先程通話で幼い自分といろはたちが居た場所がそうであること。みんな自分によくしてくれてて本当にお世話になっていること。

 

 いろはがアイドルになったこと。魔法少女になって交友のできた女の子たちとアイドルグループを結成し今では歌って踊る彼氏持ちアイドルとしてグループのセンターを張っていること。自分と付き合っているのを公言してアイドルをやってるなかで一目惚れからの玉砕を経験したファンがそのままいろはを応援し続けていることが不思議なくらい多いこと。

 

 もうひとり恋人がいること。常盤ななか。小学生の頃に知り合って、去年再会したのをきっかけにまた交友を育むなかで好き合うようになり双方の――いろはを含め3人の合意のもと、交際に至ったこと。天涯孤独の身で大変なことも多いなかそれを噯気(おくび)にも出さずに振る舞ってずっと気丈にしているのを尊敬していること。

 

 いろはと、ななかと付き合うようになって、婚約したこと。2人がびっくりするくらい仲良くしていること。自分が高校生になってからバイトの時間を増やして指輪を送ったこと。いろはにはお返しにソウルジェムを預けられて普通にキレたこと。

 

 ういに友だちができたこと。自分やいろはのことを兄妹のように慕ってくれている、本当の妹のように可愛い女の子たちだということ。ういと、灯花と、ねむ。魔法少女になった3人のおかげで、いろはを含めた神浜市の魔法少女は魔女になる恐れもなしに過ごすことができていること。

 

 

 ――家族がいなくなって、辛くなかったわけではなかったこと。

 ――それでも、自分なりに幸せにやれていること。

 

 

「……そっか」

「うん。みんなが居てくれるからな、本当に助かってるよ。……特に、みかづき荘で一緒に暮らしてる子たち。きっと俺も、ひとりじゃ保たなかったからな。……ずーっと、支えられてるさ」

「ふふっ。それはお礼言わないとだ」

「そうだな。小さい方の俺も随分世話になったみたいだし……。あっそうそう。向こうとこっちで時間のラグがあったみたいでさ。もうねむが修正してくれたけどこっち側の1日であっちは1週間くらい過ごしてたらしいぞ」

「1週間!? 本当にめちゃくちゃお世話になってるやつじゃない!!」

 

 飛び上がらんばかりの勢いでびっくりした顔をして声を張り上げた母親の姿に思わず笑う。

 特別面白い話ができたわけでもなかったが、それでも失意の底に沈んでいたときよりは元気が出たようで何よりだった。

 

 このままだと向こう側まで飛び出して迎えとお礼に伺わないとと言わんばかりの勢いだったから、この際言いたいことは全部言うことにする。

 

 

「――母さん」

「なに?」

「俺のこと、強く産んでくれてありがとうな」

「――」

 

 

 たくさん、ありがとうと言いたかった。

 たくさん、ごめんと言いたかった。

 

 けれど、本来それを言うべき相手は死んでいる。もう届かない。彼の感傷は、今目の前にいる理恵に向けるべきではない。

 だから、これだけは。

 自分を産んでくれたこと。育んでくれたこと。愛してくれたこと。

 ――大切なひとを守れる力をくれたこと。

 

「おかげでさ。風邪ひとつひかなかったよ。力仕事だってほいほいこなせて、たくさん周りから頼られてるよ。魔女みたいな化け物からいろはやういたち、一緒に暮らすみかづき荘のみんな――。大切なひとたちを守るために、戦うことができてるよ。だから――本当に、本当に、ありがとう」

「……そっか」

 

 困ったような、ほっとしたような、泣きそうな、複雑そうな目をして理恵は微笑んだ。

 

「…………実のところを言うとね、シュウがあんなに強くなって、魔女と戦って圧倒さえしてるのを見て。私、やっちゃったなって思ったんだ。結構本気で後悔したんだよね」

「うん」

「私、ほんとは……本当はね、シュウには、元気でいてほしかっただけなんだ。家族がさ、身体弱いのを見てたから……子どもができたときは、元気で、立派に、強くって――。それが間違いだったのかなって、思っちゃって」

 

 魔女と戦ってほしいなんて、願ったことなんかなかった。

 そう言葉を紡ぐ理恵の姿に、まあそうだろうなとシュウは頷く。未だ悔やむ思いを色濃く残すまなざしを見つめ返す少年は、彼の母が魔法少女として戦う間に何を見たのだろうかと推し量る。

 

 ――血か。絶叫か。異形か。亡骸か。

 

 誰かが傷ついている。呪いを振りまく化け物が居る。自分が戦う。傷つく。死ぬかもしれない。それでも続けなければならない。呪いを野放しにはできないし、それを倒して補給しないと自分もいずれは魔女に成り果ててしまうから。

 モチベーションや活動指針はどうあれ、魔法少女は基本的にそうやって過酷な戦いの日々に臨むことになる。それは死ぬまで続く、どうしようもないマラソンだ。

 誰かを呪ったことだってあるだろう。死ぬほどつらいと思ったこともあるだろう。助けてほしいと何度願っただろう。

 それでも彼女は、明らかに特別な力をもっていたシュウを頼り、巻き込みはしなかった。ただただ、幸せな日常の中に在ることを願ってくれていた。

 

 ――そんな理恵が10年後の、魔女という怪物相手に明らかに戦い慣れているシュウをみたときに何を思ったかは想像に難くない。

 

「あんなに力いっぱいで、速くって――。傷ひとつも負わないで、あんなに慣れた感じで魔女を倒して――。ね、シュウ。魔女(わたし)と会ってからの1年間、何体の魔女を倒してきたの?」

「いちいち数えたりしないよ、そんなの。100をギリ越すくらいなんじゃないかな」

「……シュウは、しんどくなかった?」

 

 未だ憂いを滲ませる琥珀の瞳を見返す。何を当たり前のことをと言わんばかりに鼻を鳴らして、シュウは口にした。

 

「しんどいに決まってるじゃん」

 

 不良を追い払うだとか、悪者を退治するだとかとは違うのだ。

 魔女は呪いで、怪物で、魔法少女の絶望そのものだ。

 醜悪な外観と臭気を漂わせ少年の眼と鼻に的確にダメージを与える魔女がいる。結界に犠牲者の亡骸を飾る魔女がいる。魔女を相手になすすべのない一般人をじわじわと嬲って遊ぶ魔女が居れば、使い魔に『改造』していた魔女にだって遭ったことがある。

 

 間に合わなかったときは最悪だ。ヒトの断末魔は、やたらと脳にこびりついて離れない――。

 

「俺の居る神浜は一番マシなんだけどさ、街から離れたら最悪だよ。いや……。魔女化を防げない魔法少女たちにとってはそれが普通なのか。習い事にいったななかを迎えに別の街に行ったら魔女化した魔法少女がいて、その娘の仲間を襲っていて――魔女を倒したら倒したで、なんであの子は助けてくれなかったのだとさ」

「……シュウ」

「やってられねえよな、ホント。母さんはすごいよ、俺がずっと怪しんでるのからも隠し通してずっとあんな状況で戦い続けててさ。……マジで、凄いと思う」

 

 はっきり言って、魔女退治なんて最悪だ。

 

 ベテランの魔法少女は言う。使い魔は3、4人も人を食えば魔女になれると。

 魔女の産まれる方法はざっと2通り。魔法少女が魔女になるパターン。魔女の使い魔が誰かを食い物にして成長して魔女になるパターン。つまり、1体の魔女が出現してから魔法少女やシュウに討伐するまでに生じる犠牲は常にそれ以上ということになる。

 

『桂城さん。時女の里に来てもらえないかしら。――見てもらいたいものがあるの』

 

 加え――世の中には、キュゥべえすらギリ許せてしまいそうになるくらいにはドス黒いカスだって、いくらでもいる。

 何度うんざりさせられたことか。どれだけ心折れそうになったことか。魔法少女の世界に足を踏み入れたことを後悔したことだって、一度や二度のことではない。

 

 それでも。

 

「大好きな娘がいるんだ」

「守りたいひとがいるんだ」

 

 いろは。ななか。うい。灯花。ねむ。やちよ。フェリシア。さな。鶴乃。

 婆ちゃん。義父さん。義母さん。レナ。衣美里。月咲。月夜。マギウスの翼にいる魔法少女たち。クラスメイト。野球部の仲間。

 

「みんながいるあの世界が、大っ嫌いだけど大好きだ」

「それを守ることができるこの身体があることが、何よりもありがたい」

 

 真っすぐに母の眼を見つめる。

 これだけは、これだけは伝えたかった。

 

 何度でも、いくらでも。

 

「だから、母さん。強い身体で産んでくれれてありがとう」

「母さんと父さんの子どもで在れたことは、俺にとっての一番の宝で、誇りだ。俺は――。この力を、常に正しく使えたかといわれると、正直そうでもないけれど。それでも――」

「シュウ」

 

 ぎゅっと、抱きしめられる。

 

「――ありがとう」

「私も……。私もっ。貴方を産めて、貴方のお母さんになれて――ほんとうに、本当によかった」

 

 細い指が頬に触れる。涙で滲んだ瞳と目が合った。

 

「愛してる」

「忘れないでね、シュウ。()()()、なにがあってもきっとそういう。ずっと、ずっと愛してる――。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。貴方は、ずっとずっと、私と、パパの、大切な息子なんだから――」

「保証する」

()()()は、いつだって。シュウの幸せを、願ってるからね」

 

「……うん」

「ありがとう」

「俺も――。大好きだよ、母さん。本当に。ずっと、ずっと――大好きだ」

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

『――シュウってさ、大きくなってだいぶ可愛げなくなっちゃったよね。私ったらもう別れるときは泣いてぎゅーーってしてたのにさ。あの子ったらずっと落ち着いた顔で、涙ひとつ流さずに笑顔で背中撫でて落ち着かせようとしてくるの。今生の別れかもしれなかったんだしさあ、もうちょっと泣いてくれたってよかったんじゃない?』

『ふふっ……。確かにシュウくん、泣くのはかっこわるいからだなんて言って我慢してそうだけど……。理恵さんの前だから、猶更じゃないかなって』

『まあシュウのことだからそうだろうとは思うけどさあ……』

 

 まだ泣いてたいろはをよしよしと慰める理恵が仄めかした、将来の自分。

 その言葉にそうだそうだと飛び跳ねて、幼いシュウは興味津々で家族に問いかけた。

 

『ねっねっ、母さん!将来のオレってどうだった!?』

『……そうだなあ』

『ちょっぴり不器用だったけれど、優しくて立派な男の子になってたよ。……ああでも、これだけはどっちも変わらないかな。貴方たちはね、胸を張って自慢できる、最高の息子だよ』

『なんだよ急に撫でてー』

 

 頭を撫でる手をくすぐったそうに受け入れながら母の顔をみあげると、将来の自分のことを語る理恵は嬉しそうに、楽しげに、何の憂いもないかのような満面の笑みを浮かべていた。

 ――みんな、楽しそうにオレの話するんだよな。

 

『――将来のお兄ちゃんのこと?』

 

 いろはもういも大きくなってるなかで、どうしても気になったから。

 みかづき荘のみんなにも、会った他の魔法少女(ともだち)にも聞いてまわっていた。

 

 

『すっごく、すっごく素敵なひとでねっ、優しいんだよ! お兄ちゃんね、私が病気で大変な思いをしているときもお姉ちゃんと一緒にずっとお見舞いにきてくれて、病気なんかに負けるなって励ましてくれてねっ。……嬉しかったなあ』

『あと、やっぱりね……。かっこいいんだぁ。背もぐーんと高くってね。お姉ちゃんがアイドルになったのは聞いたと思うけど、おっきい方のお兄ちゃんもアイドルになったらぜったい、ぜーったい人気出ると思う!』

『えへへっ。うん! 私お兄ちゃんのこと、だーいすき!』

 

 うい。2才の妹。目に入れても痛くない可愛い可愛い家族はいまは12才で、6才のいろはやオレより頭ふたつはおおきくて。すっごく元気になっていた。あとすっごいすっごい可愛い。

 大きいオレのことを喋るときは、ニコニコと本当に幸せそうにしていて。聞いてるこっちまで、ちょっぴり照れちゃいそうだったのを覚えてる。

 

 

『くふふっ。私が世界で、いっちばぁ~~~ん大好きなひと』

『理由? うーんどうだろ。気付いたら私、好きになっちゃってたなぁ……。 一番つらいときに一緒に居てくれたこととかぁ、私たちのことをずっとずっと愛してくれてることとか、結構努力家で、一緒に遊んだ――ああだめだめっ、これ言っちゃったら向こうの楽しみなくなっちゃう! だからなーいしょっ。ねっ、向こうで私に逢ったときはよろしくね♪』

『あっでもね、これだけは教えてあげる。――お兄様が一緒に居てくれただけで、それだけで私はすっごく幸せだったの! 病気のときも頑張って生きていられたし、今だって変わんない――。私たちはね、お兄様のことが大好きだよ!』

 

 灯花お姉ちゃん。ういの友だち。髪につけてるすっごくいい匂いはオレの鼻に合わせて作った香りで、他にもいろんなものを作ってる発明家のすっごい賢くて可愛いお姉ちゃんだ。

 オレを見つめて悪戯っぽく笑う灯花お姉ちゃんには、「もちろんシュウくんのことも大好きだよー!」って言いながらぎゅうっとハグされて結構ドキドキした。

 

 

『物語の主人公みたいなひとだなって、思ったことがあるな』

『どこまでも(つよ)くて、人の機微に(さと)くて、理不尽を赦せないと誰かのために戦いに身に投じることのできるひと。ヒーローみたいだよね。それもあくまでも第三者から見た一面でしかなくて、お兄さんの全てでは決してないけれど……。僕は、いや、きっとみかづき荘に暮らしてるみんなは。お兄さんのそういうところも、そうではないところもひっくるめて大好きなんだろうなって思うよ』

『……ちょっと難しかったかな。要は……桂城シュウという男の子は、世界で一番素敵なヒトだということさ。そこは僕が保証するとも』

 

 ねむ姉ちゃん。ういや灯花と一緒に魔法少女のボスやってるらしい、本の中からなんでも出せるすっごい子。ずっと忙しかったらしくて灯花お姉ちゃんとねむ姉ちゃんはあんまり会えなかったけれど、会えたときはねむお姉ちゃんが建てたっていう温泉や秘密基地のことをいろいろ案内して一緒に遊んでくれた。

 あと、日本じゃ2人以上の女の子と結婚するのはダメらしいけど灯花お姉ちゃんとねむお姉ちゃんがなんとかしてくれるらしいからオレは平気らしい。やっぱ2人はすごい。

 

 

『――すっごく立派なひとよ』

『ちょっと不器用なところはあるけれどね……。なんだかんだと周りを見てて思いやってるひとだから些細なところから気遣いがしみてくる、一緒に暮らしててもすごく頼りになるひと。いろはたちがあんなにメロメロになっちゃうのも頷けるわ』

『……私? 私は、まぁ……………………好き、だけど……』

 

 やっちゃん。将来のオレが住んでるところのおーやさんやってるめっちゃくちゃ綺麗なお姉ちゃん。みかづき荘にいる間は鶴乃お姉ちゃんやいろは、やっちゃんがごはんを作ってくれてたけどどれもめっちゃ美味しかった。なんでも8年間魔法少女やってるベテラン魔法少女らしいけど、やっちゃんが8年やってるならおかーさんは何年魔法少女やってるんだろう?

 将来のオレのこと弟だとか家族だとか言ってたけどあれ絶対ウソだね、めっちゃ大好きだよ! ウソの呼吸してたもんねーっ! って言ったら赤くなったやっちゃんと追いかけっこになった。楽しかった。

 

 

『え、なんだよ急に。だ、大好きだけど……っ。へっ、違う? なんなんだよそのかおっ!』

『将来のシュウがどんなやつか? まぁ……。いいやつだし、ご飯うめーし、あとは……でっかいんだよなあ、いろいろと。シュウ、掌見せてみ? ……あっちのは、こんくらい。嘘じゃねえぞ! 背だってでかくってさ、たまーに天井に頭ぶつけそうになってんの見たことあるんだ!』

『……。さっきのは忘れろよ!』

 

 フェリ姉。めっちゃかわいい。オレが初めておかーさん以外で腕相撲で負けた相手。2回目は勝ったけど。すっごくでっかいハンマーもぶんまわしてめっちゃ強いのに、将来のオレの方がずっと強いらしい。ゴリラかよって言ったらゴリラだぞって言われちゃった。マジか。

 将来のオレにもしあったらフェリ姉オレのこと大好きだってって言ってやろっ。

 

 

『すっごく優しいひとだよ』

『私ね、最初はシュウさんのことちょっと怖かったんだ。引っ込み思案だったのもあって、みかづき荘に来て暫くはあんまり話せなかったり……。それでも嫌な顔一つしないで根気強く接してくれてね。透明な私が困ってるときはよく助けてくれて……。うん、私のコレ、解除できないんだ。ちょっと不便だよね? でもあの人は、私のこと簡単に見つけてくれるから……嬉しかったな』

 

 さなちゃん。将来のオレの弟子。生まれて初めて会った、めちゃくちゃ可愛い透明人間。ほわほわとした、あたたかい笑顔を浮かべて将来のオレのことを教えてくれるさなちゃんはすっごく幸せそうだった。

 そういやいつ魔法少女になったんだろ。帰ったあとすぐにさなちゃん探したら透明になる前に会えないかなあ。

 

 

『むむむ、将来のシュウくん、かあ。ちょ~~~~良い人だよ……! 大好きな友だち!』

『かっこいいし、気配りのきく人だし、笑顔も結構可愛いしで学校でも魔法少女の間でもモッテモテ! あとごはんを美味い美味いって食べてくれんのも大好き! 我が家の救世主! 万々歳の売上が去年の今頃と比べて7割増しになったのも間違いなくシュウくんのおかげだからね……。甲子園ブーストってすっごいんだよ、行きつけのお店って紹介されてからはてんてこまいで嬉しい悲鳴!』

『えへへー、お料理も一緒にやったりするんだよ。万々歳の新メニューにもシュウくんが手伝ってくれたの結構あるからねっ。……最近はシュウくんも結構忙しいから、あんまりできてないけれど……。また一緒にやりたいなあ』

 

 鶴乃おねーちゃん。自称さいきょー。元気で可愛くて大好き。おねーちゃんの中華めっちゃ美味いから、正直あれを好きなだけ食べられる将来のオレがすげー羨ましかったりする。

 帰ってもまた食いたいな、万々歳の中華。

 

 

『ものっっすごいお世話になってるよね』

『そうでございますよ。何しろ私と月咲ちゃんが一緒に暮らせてるのも桂城さんのおかげですもの』

『『ねー?』』

『いやあ実家から離れて月夜ちゃんと一緒に暮らせるようになったの本当に嬉しかったなあ』

『私たちはその、いわゆる「複雑な家庭」ですもので。いろいろと相談に乗っていただいて、ねむ様にも物件を手配していただいてひとつ屋根の下で大切な家族と一緒に過ごすことができるようになったのは、ものすごく感謝してるのでございます』

 

 

『え、シュウのこと? ……あんなんになっちゃダメよ』

『そりゃぁ、レナだってアイツのことは嫌いじゃあないけれど……。何度も助けられてるし、話してても楽しいし、すごい良いヤツだし、まあ、顔もいいし? でも、むーーっ……。とっ、とにかくあんなスケコマシになっちゃダメっ。モテすぎて大変なことになっちゃったって知らないんだからね!?』

 

 

『正直すごい恩があるんですよね』

『強くて優しい男のひとって存在自体が反則っていうか……。魔女にやられて死にそうーってなったとき、ずばって駆けつけて助けてくれたの白馬の王子様ってこんな感じっていうかー……。いやあ、アレはやばかった……。あ、私ファンクラブに入ってるんだよね。将来の桂城さんの写真みる?』

 

 月咲ちゃんと月夜ちゃん、レナ姉、秘密基地の案内をしてくれた黒服さん。

 将来のオレの話を聞いてると、あっちこっちを駆けずりまわって誰かを助けてるみたいで。おかげで助かったとか、大好きだとか、日頃のちょっとした愚痴とかを聞いてるとこっちまで楽しくなった。

 

 

『放っておけないひと』

『かっこよくて、でもちょっと不器用で、すごくすごく、優しいひと』

『世界で一番、大好きなひとです』

 

 ななかねえちゃん。いろはと同じ、将来のオレの婚約者。超綺麗で、目が合うとドキドキしちゃうから最初はあんまり話せなかったけれど、毎日のようにみかづき荘に来ていろはとよくぎゅーってしてくるのされるうちに割と慣れた。

 ――好きって言われるのが、嬉しいなって。いろはに、ななかねえちゃんに、みんなに言われると思う。

 

 

『大きくなって、かっこよくなって、強くなって』

『でもあんまり、シュウくんは今も大きくなった後も変わらないと思うんだ』

『変わらないよ』

『いつだって私にとっては、シュウくんは世界で一番素敵な男の子なんだもの』

『シュウくんのこと、ずっとずっと大好きだよ』

『すっごく優しくて、かっこよくて。……ちょっぴり意地悪なところもあるけど――だーいすき』

 

 

 ……。

 本当に、嬉しかった。

 

 

 

「――」

 

 お母さんに手を引かれて帰る直前、みんなの顔をみる。

 涙目になる子。笑顔でみつめる子。ばいばいと手を振る子。みんなのおかげで、こうして無事に帰ることができていた。

 

 ――この先、結構大変なのはなんとなく肌で感じていたけれど。

 ――こうしてみんなに送り出してもらえたら、どんなときでも元気を出して頑張れそうな気がした。

 

 

「――バイバイ!」

「――みんな、本当にありがとう!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――来たな。ようやくか」

 

 合わせ鏡の中心に波紋が浮き上がる。

 その刹那、シュウはほんの一瞬だけ魔女守を励起。太刀を手元に顕現させ、木霊(こだま)す断末魔ごと魔女を断ち斬った。

 

 ――これで、合わせ鏡はもうなくなる。あとは自分たちが帰れば、それで終わりだった。

 

「じゃあね婆ちゃん。みんなによろしく」

「……さよなら、シュウ。元気でね」

 

 老婆の方を振り向いてぐっと親指をたて、笑顔で帰ろうとするところに理恵が飛び出した。

 すれ違う。理恵に手を引かれ、すぐに戻ってくるだろう幼い自分と同時に帰還する。

 その瞬間。

 裏拳気味に振り抜かれた拳骨に、思いっきり後頭部をぶちぬかれた。

 

「いっっってーーーーーーー!?」

「このアンポンタンっ、あんないい娘たち誑かして! 幸せにしなさいよ絶対ーーーー!!」

 

 スパークする魔力で強化された拳による問答無用の制裁。それに文句を言う間もなく体勢を崩したシュウは合わせ鏡のなかに転がり落ちていく。

 

「――じゃあね! いろはちゃんたちと幸せになって!」

 

 ――ンのやろ。

 ――ありがとう、お母さん。

 

 すれ違う。

 勢いよく鏡の世界に飛び出す。

 

 目の前には、天井を破砕された魔女結界と、最愛の少女たちがいて――。

 

 

「――お兄ちゃん!」

 

 

 弾丸のように飛びついてきたういに、そのまま唇を奪われた。

 

 

 

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