環いろはちゃんと共依存的にイチャイチャしたい人生だった   作:風剣

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前編も更新しております


幕間:運命に中指をたてる 後編

「……むにゃ……」

「んっ……」

「……ふふっ、シュウさん……えっち……」

 

「……うーん」

 

 絶景すぎるな……。

 ベッドのうえで微睡む、一糸纏わぬ姿の少女たち。いろいろとあって――何度か一緒に過ごしたバレンタインとか、背筋のヒリつくような話し合いとか、突然結託されて突撃された夜這いとか――マジでいろいろあって、()()()親密になった魔法少女たち。その肢体をベッドに投げだし手足を絡め合って眠るさなの、ななかの、みふゆの寝顔を眺めるシュウは口元を弛め腕のなかに抱くフェリシアの柔らかさを堪能しながら微睡む。

 

 ――ふと、昔。夢でこんな風に過ごしてるのを見た覚えがあるなと思った。

 流石にみんなパジャマくらいは着てたし、もう少し大きかったし、自分(オレ)だってもっとずっと子どもだった気がするけど――。

 

 そんな、()()()()()が聞けば「流石に15才の頃から5人6人に結託されて襲われるようなことはしてなかったよお前は一体何やったんだよ」と詰めてきそうなことを考えながら。抱き枕にする少女から伝わる温もりに甘え二度寝の誘惑に乗ろうとした彼の耳朶は、部屋の向こうから小気味よく食材を切る包丁の音を捉える。

 

「……」

 

 のそりと身を起こす。眠る少女たちを起こすことのないよう物音ひとつたてもせずに寝台の上から降りた彼はシャツと短パンだけ身に着けると心なし軽い足取りで部屋を出て行った。

 

「――昨日はすっごく激しかったのにもうピンピンしてるし、いろはって結構朝に強いわよね。やっぱり早起きとかはなるべく意識するようにしてたりするの?」

「……実は、もう普通にシてたら朝起きれるどころじゃないから、魔法使って回復してて……」

「ずるい……」

「シュウくんが一番ズルで意地悪だから、いいんですっ。……それに、ほら。早起きできたら、シュウくんの寝顔をよく見れるから……」

「ああ。確かにそれは早起きする価値あるわよね。シュウくん、あんなにかっこいいのに寝てるときはすっごく無防備だし……」

「ぎゅってしたら嬉しそうに抱き返してくれるの、すっごく可愛くって――」

 

 みかづき荘のリビングに顔を覗かせた彼が見たのは、並んでキッチンに立つ恋人たちの姿――。

 青と桃、結わえられた綺麗な髪がふりふりと揺れる。慣れた手際で朝食を作るやちよといろはの会話の内容を少し気恥ずかしそうにして聞いてたシュウはちょっと耐えきれなくなって2人に近づく。

 

「いろは、やちよ。おーはよっ。今日の朝ごはんは何?」

「あっシュウくんおはよう! 今日はね、ぶりと味噌汁にしようと思ってて――んぅっ♡」

「あっこら、シュウくんったら。そういうの、せめてご飯作ってから……もうっ、んっ……」

 

 代わる代わるその唇を奪う。

 包丁を握り野菜を切り分けていたいろはの片手に手を添え、刃物の危険を回避しながら甘い口づけを桃色の少女と交わすシュウに呆れ眼で文句を口にしていたやちよもその細い顎に指をかけられくいともちあげられると観念してその瞳を閉じる。要望に応えてくれた恋人ににやっと笑ってキスを落とした少年は、早速調子に乗り出してべたべたと2人にくっつきだした。

 

「やっ、もうっ。そこ……シュウくん、ほんとえっちなんだから……」

「ごめんて。……でもなぁ~、いろはとやちよ可愛いからさあ、情状酌量の余地ってのがあるんじゃないかなあ」

「シュウくんがスケベなだけじゃないの、まったく……」

 

 いろはと爆速で仲良くなったかと思ったら夜にみふゆとの3人がかりで童貞奪いにきやがったドスケベ筆頭格がよくいうよと言ってやりたくもなった、が──やちよたちには、()()()という最強の札も控えている。甘んじて汚名も受け入れて肩をすくめる素振りをしたシュウは、両手に掴む張りのあるお尻の感覚を堪能しながら2人に再度身を寄せ。

 

「おはよーーーー」

「り、理恵さっ」

「なんっっっ、居るの!!!???」

 

 突然リビングに顔を出した()()に、部屋で眠る少女たちも叩き起こす絶叫を跳ね上げる。

 いろはとやちよがしんどそうに耳を抑える大声をあげたシュウは2人から大慌てで離れて後退り食器棚に激突しかけ、それを回避しようとして冷蔵庫に追突しかけ、それを回避して物凄い挙動で宙を舞い部屋の隅に着地した。

 一連の動きにすごーと感心の声をあげかけた理恵は、顔を赤くしたいろはとやちよがいそいそと調理に戻るのをみるとバツの悪そうな顔をする。

 

「あっ、ごめん……邪魔しちゃったか……」

「おはよう、帰ってくれ。なんで居んの????」

「なんでもなにも、うちとここ繋いでもらったじゃん。起きたから挨拶くらいはしようと思ったけど……。いやーごめんごめん。……お盛んだね?」

「今親に言われたくない言葉ベスト5ごりっと更新されたな」

 

 死ぬほど気まずかった。何が悲しくて母親に恋人とべたべたくっついて甘えているのを見られなければいけないのか。いや朝っぱらからリビングでスキンシップを取り出したシュウが悪いといえば悪いのだが……。

 げんなりとした顔をするシュウが目線で「はよ帰ってくれ」「帰れ帰れ」と訴えかけるのにも構わず、からからと笑った理恵はやちよたちが手料理を作る様子をみては「流石に手慣れてるねー」と感嘆の声をあげる。

 

「シュウって本当、幸せ者よねえ……。こんな可愛いくって素敵な女の子たちと暮らせて……ほんと、大切にしなさいよ? 当たり前のことだなんて思うようになっちゃったら絶対ダメだからね」

「わーってるよ。……今フェリシア裸で出てきそうになってたな」

 

 大声でびっくりさせてしまったのだろうか、リビングに顔をちょっと出した金髪の少女が理恵の後ろ姿を見て赤くなって部屋に逃げ込むのを見て眉間を揉む。「シュウ~~~~!!!!」と恨みがまし気に叫び声をあげる彼女に苦笑し後で謝らんとなあとひとりごちる彼は、ちらりと母親の方を見やる。

 わざわざ変身した姿を検分せずとも、魔法少女の魂の気配はおよそ掴める。彼の眼で見る限り、理恵はソウルジェムを持っているわけでもなさそうだった。

 

「調子はどう、父さんにソウルジェムを24時間預けられるようになってからだいぶ元気になったとは聞いたけど。宝崎まで広がった自動浄化システムの使い心地とかで感じたことはある?」

「私はまだドッペル出したことないからなんともだけど……。街にいる魔法少女は何人か使ったみたいだね。今のところはみんな安定してるけれど……。ドッペルだってほんとは使わないに越したことないんだっけ?」

「魔女の成り損ないを出すわけだからな。負担もでかいし暴走の例もちょいちょいある。さななんかは一回グチャっとなったし、いろはは俺を……」

「………………………………………」

 

 ことことと鍋を煮込んでいたいろはが物凄いいたたまれなさそうになって真っ赤な顔で縮こまるのを見て、口にチャックをする仕草をする。何があったのかをおおまかに知っている理恵も苦笑気味に、「まあ何事もないに越したことはないか……」と腕を組んだ。

 

義母(かあ)さんおはよー! 来てるなら言ってよ!!」

「あっフェリシアちゃん。おはよっ! ういちゃんも!」

「うんっ、おはようお義母さん……!」

 

 ぱたぱたと駆けてリビングに出てきた恋人たちと、家族と母親が談笑する様子を見つめ屈託なく笑うシュウ。眩しそうに目を細めその様子を見つめる彼は、じいとその様子を見つめて眼前の光景を胸に刻む。

 

 いろはがいて、やちよがいて、ななかがいて、ういが、ねむが、灯花が、鶴乃が、フェリシアが、さなが、みふゆが、友人たちがいて、家族がいる。

 大切な人の、誰ひとり欠けてない世界。

 

 これまで守ってきたものを、自分を支えてくれていたものを見つめる彼は、幸福を噛みしめるようにしてその団欒を見つめていた。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 そして、世界は滅んだ。

 

 

 

Law row     Lau   Ro

 

 

 空は黄昏色に染まった。

 澱んだ海が世界を満たして。白銀の雷鳴が大地を抉り。逆巻く嵐が根こそぎ奪う。

 

「……あーあ」

 

 命の壊れる気配がした。

 全世界で。あまりにも、あまりにも多くが。

 割れて。かき混ぜられて。めちゃくちゃに壊される。

 

 そうやって、世界は終わろうとしていた。

 

 べしゃりと、粘質な音を立てて少年は崩れ落ちる。

 片方の耳は聞こえない。

 両腕は千切れた。片足はたった今光の矢に消し飛ばされて消えた。腹からは肉が腸が覗き、とどめなく溢れる血が荒野を濡らす。

 

「――」

 

 虚ろな目で見上げるのは、山のような威容。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()

 

「――シュウくん! シュウくん!! やだ、やだぁ!!」

 

 意識が朦朧とする。

 泣きながら駆け寄ってくるいろはの顔さえ、まともに見えなかった。

 

 血みどろになったローブを脱ぎ捨ててインナー姿になった少女が泣きじゃくりながら、必死に自分の名を呼びかけて治癒をするなか、首をどうにか動かして対峙していた巨大な魔女の姿を負う。

 ヒトの上半身と、巨大なドレスを身に纏ったかのようなような輪郭をもつ異形。その上に。

 

 星が、ひとつ。形成されて。

 

 

 

 ***

 

 

「お兄様、起きたの!? ……よかったぁあぁ……」

「……お兄様の、おかげだよ。半日、それだけの時間をあの魔女を相手に稼いでくれたおかげでいろんな対策をたてられた。……まあ、状況は悪くなり続けてるけど……」

「外は?」

「んー……。まあ、サイアク。もうあっちこっちの国が滅んでるし、この星が滅びるのも時間の問題かもね。見てみる?」

 

 

 

「日本はあれで、一番マシな状態だったよ。あの魔女の規格があまりにも巨大すぎて、台風の目に近い水準で破壊力は低くなってたの。それでも被害は甚大だったけれど、少なくとも『海』に関しては臨時の防壁を爆心地半径6キロを犠牲にしてなんとか押し留められたし、『嵐』に削られた範囲も各地にばらまいたウワサのおかげで軽微。だけど――」

「俺が一晩あれを抑え込んでる間、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。日本以外は被害をまともに受けたってことか」

「地球の形、ちょっと変わっちゃったね。あとはユーラシア大陸がごっそりいってるし、地形変動の煽りを受けて全世界の活火山が大噴火中」

「……ふぅーーーーーー……」

 

 灯花の報告を咀嚼した少年は、このときばかりは消耗を隠さずに溜息をつく。

 

 どうして、こんなことになったのか。やるせない気持ちになりながら、シュウは仮設の拠点で負傷者の治癒を続け当然のように倒れたいろはがベッドで眠っているのを撫でながら唸った。

 

 いや、理由はわかっている。そのうちのいくつかには自分たちも関わっていた。

 

 ――見滝原市でワルプルギスの夜の侵攻を完全には食い止められなかったこと。

 ――キュゥべえの契約した魔法少女が文字通り世界をひっくり返せるくらい強かったこと。

 ――自動浄化システムが、見滝原市まではまだ広がっていなかったこと。

 

「……」

 

 その日は、最強の魔女ワルプルギスの夜が現れると予告されていた。他ならぬキュゥべえによって。

 文明をひっくり返すとまで言われる怪物。結界を必要とせず、顕現した瞬間その存在が超巨大ハリケーンとして一般人にさえ観測されるほどの超巨大規格。

 放置すれば見滝原市はおろか、今もじわじわと自動浄化システムを展開している神浜や日本全域にさえ被害が及ぶだろう。その対策にあたって、シュウたちもまた早期の段階で被害を出さずにワルプルギスの夜を仕留めるべく動き出していた。

 

 決戦の舞台は見滝原から離れた海上。ワルプルギスの夜の進路上に陣取っての迎撃態勢を敷いたシュウと神浜の魔法少女たちは、現われた魔女に対して祓魔の雷撃を打ち込んだのを皮切りに激闘を繰り広げた。

 

 1()9()()()()()()()()()()()()()()()()()()、みふゆをウワサで補強。広範囲攻撃で取り巻きをごっそりと削り、孤立したワルプルギスの夜を集団で一斉攻撃で仕留めにかかる――。

 ワルプルギスの夜の障壁が極めて強固だったこと。重篤なダメージを負った魔女が『反転』を遂げて本気を出したことで魔法少女の大半が離脱(リタイア)し、地の利を奪われたことで消耗戦になったこと。

 ――その間、逃した使い魔がワルプルギスの進路を《舗装》にかかったことと、その対応に精鋭の魔法少女が向かわざるを得なかったこと。

 発生したイレギュラーを前に戦線は停滞し――突如、放たれた一矢が全てを終わらせた。

 

 鹿目まどか。キュゥべえと契約したばかりの魔法少女の手で、文字通りの意味で。

 そして、ワルプルギスの夜の討滅にすべての力を使った少女はすぐに魔女となってしまった。

 

「……ワルプルギスを討伐した魔法少女が成った魔女は、今はごっそり魔力を減らしてるよ」

「それは……」

「『揺籠星(ユリカゴボシ)のウワサ』。ねむが咄嗟に組み上げた封印用の疑似天体、だけど――あの魔女の特性は、地球上の人口に比例して強大になっていくものだったみたい。なんらかの感情に反応しての作用だったと思うけど……。とにかく、生存者のひとりもいない世界に閉じ込められた魔女は現在進行形で衰弱してる。今ならまだ討伐のチャンスもあるかも」

「……そうか。ねむには礼を言わないとな。灯花にも」

 

 義妹を模したウワサを引き連れたシュウは拠点の外に出る。

 

『――――――!!』

 

 叫喚があった。

 (ソラ)を浮遊する鳥の異形、主である少女を半ばまで取り込んだドッペル。背に備えたマッチ(いのち)を焼き、己の命さえも燃料に奇跡を行使する少女は命の限りを尽くし破滅を止めていた。

 

 見滝原市のあったところに形成された巨大な『星』――。その障壁を超えて吹き荒れる『嵐』は、無秩序に世界を攪拌して抉る。溢れ出た『海』はヒトも建物も呑み込んで魔女の我が物とする。

 野放しにすれば、10日もしない内に地球は消えてなくなるだろう。

 

 それを防ぐのは四方に展開された光の檻。超高出力のレーザーが暴風を焼き払い、海を焼却して被害の拡大を食い止める。ドッペルを展開した灯花の全力迎撃によって、少なくとも今のところはこれ以上の魔女による被害を防げていた。

 

「灯花、アレ相当自分を削ってるだろ。寿命どんくらい減った?」

「……さぁ。3割使ったけど、(もと)が大したことないからにゃー。消費した年数自体はたいしたものでもないんじゃ――に゛ゃ ッ」

「冗談でもそんなこと言うな、命懸けで稼いだ半日はなんだったんだって気分になるから。……なくなった寿命どうにかする目途はたってるんだろうな?」

「もちろんっ。というかなんもなしだと過剰に使ったドッペルに取り込まれて肉体の方が寿命より早く死んじゃうからね、ぶっつけ本番の運用になるけどウワサで肉体を()()()()()生きていく準備は整えてるよーっ」

「……そうか」

 

 灯花だけではない。

 ねむも、単眼のドッペルを具現化させウワサを無尽蔵に展開し、現在進行形で世界を描き変え続けて崩壊を防いでいる。灯花とねむにのしかかる過剰な消耗を請け負い、この一帯の魔法少女を蝕む呪いも取り込んで資源にしているのはうい――。

 今この場にいない魔法少女たちも、いろはによって傷を治すと神浜市での防衛線に加わって現れた魔女による破壊から追い立てられるようにして逃げ惑う木っ端の魔女や使い魔から市民を守るべく戦い続けていた。

 

「――あの星の中には俺といろはが行く。援護は頼むぞ」

「……本当に大丈夫?」

「婆ちゃんはういの負担を肩代わりしてるし、母さんは家を守ってくれてる。やちよたちだってそうだ。……じゃあ俺たちがやるさ」

 

 当たり前のようにそう口にしたシュウは、ふんと鼻を鳴らして魔女を閉じ込めた星を見上げる。

 

 ――もう、キュゥべえはこの星にいないらしい。

 ――鹿目まどかが魔女化したとき、連中の集めていたエネルギーが必要量を満たした。過去未来現在において最強の魔女が現れ滅びるだけの地球に用はないと、やつらはとっとと帰っていった。

 

 ――もう、()()()()()()()()()()()()()()

 ――新たに魔法少女の素質がある者が現れたとして、その少女の願いによって崩壊した地球や喪われた者を修復しようとしてもそれは叶わない。

 

 だから――。

 

「これ以上はなにも奪わせない」

「やってやるさ。――こんなところで、台無しにされてたまるかよ」

 

 

 わかっている。

 きっと、手遅れだ。

 今となっては、これも無駄な延命行為にすぎないのかもしれない。

 醜くもがき、足掻いて、それで得られた時間や守れた命などこのぐちゃぐちゃになった星では最早なんの意味もないのかもしれない。

 

 けれど。

 それでも。

 

 

 ――絶対に、こんな理不尽に諦めてたまるか。

 

 

 数十分後、意識を取り戻したいろはがウワサを纏い臨戦態勢にはいるのを待ってシュウは2人で死線に飛び込んでいく。

 

 ――大切なひとたちだけでも、守るために。

 

 

 




救済の魔女
この世界ではワルプルギスの夜の使い魔が見滝原に何体も現れるなかでキュゥべえに契約をもちかけられたまどかが魔法少女になり最高出力の一撃を解き放ったことで顕現。
――悲しみのない世界を求め、新たな(セカイ)を創る。
その願いは揺籠のなかで果たされ、ウワサの内側で構築された世界のなかで微睡みの淵に在った彼女はなかに踏み込んだ少年と魔法少女によって討滅された。

その世界には、もう魔法少女は生まれない。

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