環いろはちゃんと共依存的にイチャイチャしたい人生だった   作:風剣

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思惑を探る

『流石に、反省はしてる』

『これでいいのか。もう少しどうにかならなかったのか。そう考えだしたらキリがない。今更生き方を変えるつもりもないとはいえ、これはな』

『けれど……後悔はない。俺は幸せ者だよ、こんなにも周りに慕って貰えて』

 

 取材の前に見せた一枚の写真――はにかんで微笑む環ういさんを膝上に乗せる彼がソファに並んで座る柊ねむさんと里見灯花さんから頬にキスされている様子を激写した写真を見て、桂城シュウさんは力なく笑った。

 魔法少女のことを知りながら魔女と戦い倒す唯一の男性にして、夏の甲子園覇者。神浜市の表と裏で名を轟かせる時のひと。そんな彼については、8月の下旬より発生していた魔女の異常発生を食い止めた数日後からマギウスの翼である噂が囁かれていた――。

 

 ――それでは、以前から関係を明らかにしていたアイドルグループ「カミハ☆マギカ」のリーダーにしてマギウスの翼の救護部長である環いろはさん、遊撃部隊の一員として先日の魔女掃討作戦でも活躍されていた常盤ななかさんに加えて家族同然の仲として普段から親密そうにされていた環ういさん、柊ねむさん、里見灯花さん……。以上、マギウスの翼のトップである3名との交際をお認めになるとのことでよろしいですか?

 ――うん。ういたちはもう俺の恋人だし、あと5年もしたら合意のうえで籍も入れる手筈だし、もう一昨日ご家族にも挨拶させてもらった。正直緊張でどうにかなりそうだったけどな。

 

 マギウスの翼の創設者、魔法少女救済の中枢を担う最重要人物であり幼い頃から義兄を慕っていた3人が彼に想いを寄せていたことはホテルフェントホープに暮らす魔法少女の多くが知っていたことだ。

 しかし、2人目との交際が発覚して以降ういさんたちや一部の熱狂的なファンからのアプローチを受けてきても悉くを躱してきた桂城さんがここにきて義妹である3人との交際に至ったことは私にとっても驚きだった。広報部に配属されてから見てきた彼は風評に反して異性を取っ替え引っ替えするでもなく誠実に魔法少女たちと交流し、これといって3人目、4人目と交際関係を増やす素振りを見せたことは決してなかった。

 

 その彼が一体どういうきっかけで同時に3人と交際することになったのか、そして事実上マギウスの翼の幹部格のほとんど全員と深い関係になったこととなる彼が今後どのように動いていくのか……。一個人としても記者の端くれとしても、大いに関心のあるところではあった。

 

 ――以前、桂城さんはこれ以上恋人を増やす気はないと周囲に明かしていたと思います。ここにきてういさんたちとの交際に至った心境の変化をお聞かせください。

 ――真っすぐに好きとぶつけられるのに、自分で思っていたより弱くってな。慕ってもらえていたのも嬉しかったし、何より……。長い付き合いのなかで同じ時間を、同じ場所で一緒に過ごしているのが楽しかったし、満たされていた。ずっと一緒に居て欲しいって、思ったんだ。

 

 ――なるほど。……ちなみに、その条件だとみかづき荘で同棲する魔法少女も当てはまりそうな気がしますが……? もしかして、まだ周りに言ってないだけでもう既に交際されてたりします?

 ――確かにあの娘たちのことは大好きだけど、家族みたいなもん……。いや説得力ないな。こう言おうか。流石に今の俺にはこれ以上の相手に対して幸せにできるだなんて言いきれないから手を出したりするつもりはありません。いろはたちもそうだけど、俺を好いてくれるひとたちに対して胸を張れるようになるにはまず実績が必要で、そのために必要なことはまだ山ほどあるからな。

 

 ――マギウスの事実上のトップである灯花さん、魔法少女救済の要であるういさん、ウワサを用いての魔法少女のサポートを担うねむさん……。桂城さんが3人と恋人になったことで、マギウスの翼という組織そのものが私物化されたのではという指摘もあります。これについて、組織中枢の魔法少女全員と恋仲になった桂城さんの意見があればお伺いしたいです。

 ――はっきり言おうか。()()()()()。勿論みんな俺が道を踏み外したら止めてくれる娘たちではあるけれども、現状としてはマギウスの翼はほぼ俺の一存で魔法少女に対するサポート、組織だっての魔女やインキュベーダーへの対策、自動浄化システムの運用……。その全てにおいて方針転換させられるだけの影響力をもっていることになる。そしてそれは、絶対に是正しなきゃいけないことだ……。だから俺たちは、ういたちから魔法を切り離して誰でも扱えるようにすることで、もし俺が乱心を起こすことがあっても、有事にういたちが動けなくなるときが来ても、必要なシステムを第三者が運用することで解決することのできるようにする計画を進めて――

 

 

「――長い。どーゆうこと?」

「俺がういたち誑かして魔法少女の命を人質に取れる状況はやばい。そもそもういたちがいなかったら自動浄化システムが動かせないみたいな状況もまずい。だから道具にういたちの魔法を籠めて中核メンバーに依存する状況改善するぜって話」

「ふーん」

 

 わかっているのかわかっていないのか、パラパラとマギウス新聞をめくる少年の背後から紙面を覗き込むフェリシアの返事は気のないものだった。

 四方を本に囲まれた書斎。高級感のあるふっくらとしたソファに腰を下ろし、今朝方刊行された広報誌を開いていたシュウの肩に一房の金色の髪がかかる。ソファの背もたれを身軽な動きで飛び越えて横に座ってきたフェリシアに見やすいように開いたページを見せる彼は、みかづき荘に居た筈の少女が珍しくねむの書斎に来ているのに隣へ視線を向ける。

 

「俺の部屋から来たのか。暇してた?」

「んー。みんな学校行っちゃったしな。万々歳でのバイトも昼前からだしさ。シュウはこんなところで何してんだよ、学校は?」

「野球部は強化合宿中でな、俺も授業じゃなくてそっちに行ってることになってる。影武者(モリビト)が代わりに行ってくれてるから、こっちでお姫様たちの用事をこなせば俺も合宿に向かって交代するつもりだよ」

 

 シュウたちの住まうみかづき荘は、家主であるやちよの認可を受けたうえで一部改造が施されている。

 

 喫緊の問題が発生した際に速やかに拠点に赴いて状況の確認をするためにホテルフェントホープとの経路を構築しておけたらいろいろと都合がよかったこと。憩いの場所として通ってくる少女たちが増えたことで居住スペースをある程度拡張する必要に迫られたこと。やちよ自身魔法を用いた改築計画に割とノリノリであったこと。

 以上の理由により、シュウの部屋や浴室、何人かの魔法少女の部屋にはウワサを用いた拡張と改造が施され――。シュウの部屋にもまた、ホテルフェントホープと直通の勝手口が設置されている。

 

 フェリシアがねむの書斎に来たのも、シュウが使った入口からついてきたからか――。刊行されたばかりの広報誌に記載されたインタビューを確認していたらいつの間にか覗き込んできていた彼女は、シュウの読んでいた頁を見てはある一部分に目を止めじいと凝視していた。

 

「大好き、って。……………………ふーーーん……」

「どうかしたか?」

「……別にー?」

「変なことでもないだろ、なんだかんだずっと一緒に暮らしてるわけだし。みかづき荘のみんなのことは大好きだぞ」

「わかってんのに聞いたのかよこのヤロ……」

 

 少し照れ臭そうにしてそっぽを向いた金髪の少女。その姿を見ていたシュウがほくそ笑むのに気付くと無言でげしっと側頭部を肘鉄で小突き、痛そうに振る舞ってみせるボンクラを尻目に記事へ目線を向ける。

 自分たちのことにも言及された、6人目以降の交際が有り得るのかと暗に問いかけた記者への回答。その内容に対する動揺を出さないようにしながら、フェリシアはおずおずと少年の横顔を伺った。

 

「……なあ、シュウはさ。もし……。もし、やちよとか鶴乃とか、さなとかからさ。付き合ってくれって、大好きだって言われたらどうすんの? ……やっぱ振るのか?」

「……んー? フェリシアは告ってくれないのか。それはちょっと残念かもな」

「バッ……!! ばーかっ、ばーーかっ! ぶったたくぞっ!」

「叩いてるじゃんもう。ごめんって」

 

 響く打撃音。どかっどかっと、真っ赤になって怒りだすフェリシアの繰り出すそこそこな破壊力の籠った拳をこともなげに受けながらシュウは飄々と笑う。

 乙女心を弄んでいる自覚はあった。とはいえ――今となっては、自分に好意を寄せるのは『そういう男』を慕うのと同義であることもわかってもらわなければならないと、綺麗な紫紺の瞳が潤んでいるのを見ながら思う。

 

 ――シュウの女性関係についていろはが何を思って容認しているのかも、魂に聞かせてもらった。有り体にいえば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ……まあ、実際はそこそこなハードルがあるのだが。社会的方面の問題に関してはねむがウワサの濫用をしたことによって()()()()()()()()()()()()()。あとは双方の問題となる。

 

「この際開き直っちゃうけどさ。『遊び』でいいなら、みかづき荘のみんなから好かれるのに俺は喜んでって返して付き合うぞ。でもそうはならないんだよな、絶対に」

「……?」

「俺はみんなには幸せになってもらいたいと思ってる。遊びの関係じゃ絶対に不幸にさせるだけさせて終わるからな……。俺もそれは嫌だから、まずはいろいろと準備が必要って段階なんだ」

「準備って?」

「覚悟。実績。あとは富と名声と力も欲しいかな」

「めちゃくちゃ戦国武将みてーなこと言うじゃん……」

「ははっ。英語も本腰いれて勉強始めたからさ、高校卒業する年にはメジャー行こうと思ってるんだよな。アメリカと神浜の行き来もウワサがあれば楽だし、打って打って稼いでで、ようやくそれで最低限のケジメって感じだ」

「……ふ、ふーん」

 

 朗らかにそう口にしたシュウの言葉にやや挙動不審気味になるフェリシアの目線が泳ぐ。

 今後恋人の──いや、結婚を前提とした交際相手が増える可能性を否定しない言。サイテーとでも言ってやった方がいい気もしないではなかったが、大真面目な顔をするシュウからは一切の虚飾を感じられない。もしかして本気なのか、ガチで「来るもの拒まず来たもの逃がさず」でもやろうとしているのか――。狼狽える金髪の少女は、ぐるぐると目を回しそうになりながらついシュウの語る『みかづき荘のみんな』に含まれる自分を想像して……。

 

「あ、あ、ありえねーからっ!! 別にオレお前のことなんか好きじゃねーし! バーカバーカ!」

「フェリシア」

 

 真っ赤になって吐き捨てて書斎を飛び出そうとするフェリシアを少年が呼び止める。足を止めずに駆けていくのも構わず、伝えたいことだけを彼は口にした。

 

「小さい俺が世話になったみたいでありがとうな! おかげでちゃんと帰れたよ、助かった!」

「……! さなに言え、ばーか!」

 

 本棚を押しのけてぐぱっと口を開いたみかづき荘直通の出入口。帰る直前に聞こえた少女の声に、口元に淡い微笑みを浮かべたシュウは紙面を閉じる。

 

「ほんと、恵まれてるな我ながら……」

「お待たせ―っ、お兄様! ……あれ、誰かいた?」

「さっきまでフェリシアといたよ」

「また誑かしてたんでしょー……」

 

 勢いよく開かれた扉の方を見るまでもなく誰が来たのかを察した彼は、両手を広げておいでと促す。ぱあっと顔を明るくした灯花は笑顔で少年の胸の中心に飛び込んでいった。

 小さな身体――それでも幼少の頃と比べ遥かに大きく育った義妹と抱擁を交わす。

 

「んん~~~~~~~、あぁすっごい、幸せぇ……。お兄さまぁ、今日はずーっと一緒にいてくれるの?」

「あー、灯花たちとの話が終わったらすぐ野球部の合宿の方行くつもり。俺が10年前の世界に行ってる間もずっと護人(モリビト)に代役任せちゃってたし、いい加減顔のひとつでも出しておかないと」

「えー! 構ってよっ、お兄様の居ない間私たちずーーーっと徹夜で頑張ってたんだよーっ!?」

「今日はずっと一緒にいよっか。本当にありがとうな……。放課後はいろはたちも来るだろうし合流してボウリングにでも行く?」

「やったー!」

「お兄さん、灯花を甘やかしたらダメだよ……」

「ねむ。いいか、俺はな……。大好きな娘たちと比べたら、世の中の大抵のことはどうでもいいと切り捨てられる性質(タチ)だ。そして何より大切な妹兼恋人にああいわれて何のねぎらいもできないようなら俺は即別れた方がいい」

「それはまあ、優先してくれるのは嬉しいけど……」

 

 ほらおいで。

 灯花に遅れてやってきていたねむに朗らかに笑いかけながら空いてる片腕を広げると、なんだか呆れたような顔をしながら歩み寄ったねむが仕方ないなあと言わんばかりに彼の胸に飛び込む。

 

「……お兄さん、あったかい……」

「ねむも、俺が帰って早々ウワサの配備をしてくれてありがとうな。昨日設置してくれたセンサーとかも助か――」

「……あ、やば。ごめん寝るね……」

「は?」

「灯花、ミラーズの経過に関して、報告代わりにお願い……。おやすみ……」

「えっ本当に寝ちゃうの⁉ もー、だから夜更かししない方がいいっていったのにっ、うわっもう寝てる……」

 

 彼の腕に抱かれた途端すやぁと意識を落とし寝息を吐きだした三つ編みの少女にシュウと灯花はぎょっとして目を見合わせ……揃って苦笑する。

 

「――灯花もねむも、俺が向こうから帰るのをずっとサポートしてたもんな。疲れ溜まってんのに無理させちゃったか……。申し訳ないことをした」

「いや、ねむはお兄様に頼まれてた仕事をこなしたあとゲームしたり小説書いたりデートプラン練ってたりして寝るの後回しにしてただけだから。普通に自業自得だしその辺に投げちゃってもいいと思うよ?」

「思ったより満喫してんなこいつ……」

 

 軽く揺らしてもまったく起きない。気絶同然の勢いで眠りに落ちたねむに流石に呆れ顔をしたシュウは、お姫様抱っこをして書斎備え付けのベッドまで少女を連れて行く。『私も!』と表情で主張する灯花の頭を撫でて待ってもらいながらねむを寝かしつけたシュウは軽い足取りでソファまで戻ると灯花を膝上に乗せてかき抱いた。

 

「……えへへー。2人っきりだ……♪」

「悪いな、あんまり時間取れてやれなくって。恋人になったからにはもう少し一緒にいる時間捻出してやれたらとは思うんだけど……。11月になるまでは待っててくれ」

「いいよそれは。お姉さまやういのこと優先してあげてっ。……でもそっかあ、恋人かあ……幸せぇ……」

 

 ふにゃふにゃに弛んだ笑顔を浮かべ胸板に頬を寄せる灯花の甘え声に苦笑いする。随分と、信頼され切ったものだった――。色情魔と誹りを受けてもいよいよ否めなくなった現状をほんのちょっぴりだけ憂いつつも、入院生活を経てすっかり初恋を拗らせてしまっていた義妹の心底嬉しそうな表情をみるとまあこれも悪くないかと思い直す。

 我ながら、すっかりふてぶてしくなったものだった。 

 

「――灯花。ねむの報告を聞かせてもらえるか?」

「んー……」

 

 ふにふにと小さな手でシュウの掌の感触を楽しんでいた灯花は彼の言葉に頷くと指を鳴らす。

 虚空に表示された図面は、シュウを助けるべく魔法少女たちの部隊による侵攻を受け破壊されたミラーズを描き出した地図だった。

 

「神浜市の全域、鏡の結界の1から18鏡層にかけての区域にはねむの設置したセンサーが今日の0時から稼働を開始しているよ。《鏡》に関してはマミや天音姉妹の魔法も埋め込んで私が本気で開発した索敵システムだから、魔女も人間も構わず探知可能。もしまた別世界から誰かがやってきたらすぐに感知できるようになってるの。お兄様が戻ってきたタイミングでぜんぶ破壊されてる《合わせ鏡》の反応も現状ないし、少なくとも今のところは他所の世界から侵入者が現れることはないよっ」

「本当にもう出入口はないのか。だとすると……」

「うん」

 

 

「瀬奈みこと。あの魔法少女、本当に鏡の魔女なのかもしれない」

 

 

 真剣な表情で頷く灯花の頭を撫で撫でしながら天井を見上げる少年が想起したのは、数日前、ミラーズからの帰還を果たそうとしたまさにその時に遭遇したガラス細工のような瞳と髪をした魔法少女――。

 瀬奈みこと。1年前に行方不明となり、同時期活動していた魔法少女にも魔女化を確認された魔法少女。

 

 当然、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『初めまして、私は瀬奈みこと。折角だし仲良くしてくれると嬉しいなっ』

『――桂城さん』

『……わかってる』

 

 そして――ななかの魔法が反応した、《敵》。

 鏡の魔女と魔力反応が()()合致する魔法少女。

 

「ねむがウワサをつけて監視してくれてるんだったよな」

「うん。何かあればすぐに捕縛できるように備えてたけれど、少なくともここにきてからはずっとごくごく普通の女の子みたいに振る舞ってるって。私もログは見たけど……。あれが本当に魔女だったら、歴史的といってもいいと思う。信じられないよ、魔女になった魔法少女が自我をあんなに残しているだなんて……」

 

 ななかの魔法は虚飾を暴く便利な力だが、対象の(はらわた)を覗き見ることはできない。

 にこやかに話しかけてきた相手が《敵》だとわかったとしても、『どの程度』なのかはわからないのだ。仮に将来的に敵対し得る相手だったとして、その害意を悪意を晒すことは叶わない――。故にこそ、他の魔法少女たちの目もあるなかで接触を図ってきたみことに対してシュウたちは強硬な態度をとることができずに彼女を保護。ミラーズという危険地帯から拠点に連れ帰り、帰る家もないと証言した彼女を居住区に住まわせることを余儀なくされた。

 

 拠点に連れ帰ったあとの事情聴取に対する当人の供述はこうだ。

 

 ――名前は憶えているが生前の記憶は朧気。

 ――自分が魔法少女だったことは覚えている。魔女になってしまったことも。

 ――気付いたら魔女結界にいて、戦闘の大きな音がしていたからシュウが発見するまで隠れていた。

 

 めちゃくちゃ怪しい。

 めちゃくちゃ怪しい、が――。仮想敵の能力を踏まえると、おおっぴらに詮索するのもリスクが浮上する。少なくとも今すぐには読心の魔法をもつ魔法少女を頼ることはできなかった。

 事情聴取にも協力的だった彼女に関しては少なくとも実害は()()ないと判断――。今はホテルフェントホープに連れ帰り、無断で外出しないという約束のもと拠点で暮らしてもらっている。

 

 当の本人はといえば事実上の軟禁にもこれといった難色を見せることはなく、フェントホープ内の様々な施設で遊んでいるらしい……。『魔女となっても自我を残している魔法少女がいる』ことが発覚して以降は智江や灯花が顔色を変えて調査をしている、重要参考人であるみことの合意のもと諸々の検査がこれから進むだろうが――果たして、どのような顛末になることか。

 

 シュウも、やってきた未知の魔法少女の対応にばかり構っていられないというのも難しいところではあった。

 

「――半月後には、ライブもあるからな。終わるまでなにもなければいいんだが――」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『――ねえねえ聞いた? 桂城さんが灯花ちゃんたちと付き合うって――』

『天音先輩もみたって!魔女結界から帰ったらぎゅって飛びついてそのまんまキスしたって言ってた!』

『流石、大胆!』

『いいなあ、アタシだって桂城さんに――』

 

「………………………………」

 

 うんざりだった。

 げんなりしながら、黄色い声をあげるグループが近づいてくるのに背を向ける。不自然にならない程度の早足で移動――。時計台を確認した私は、すぐさま待ち合わせの場所まで向かうことに決めた。

 

 予定より2時間は早いけれど、まあ向こうも構わないだろう。エレベーターに乗り込み、居住区のある階層へと昇る。一緒に乗っていた魔法少女たちは学校での悩み事を看護部長に聞いてもらった話を聞いてもいないのに話してきた。

 嫌がっちゃいそうになるのを取り繕うのは簡単だけど、正直疲れる……。

 

「あっ私こっちだから! じゃあねキリカさん! 美味しいカフェいろはさんから教えてもらったの、今度一緒に行こう」

「ははっ、いいね。楽しみだ……」

 

 手をひらひらと振って別れる。自分に宛がわれた部屋――そこを通り抜け向かうのは、大切な友人の暮らすところ。

 マギウスの翼に潜入してからすぐに周囲の信頼を勝ち取り、白羽根の魔法少女として活躍するようになった彼女の部屋の前に立つと、呼び鈴を鳴らすより早く扉の鍵が開かれた。

 

「邪魔するよ、織莉子」

「――いらっしゃい、キリカ」

 

 狙い澄ましたようなタイミングの開錠、予定よりずっと早くの来訪なのにとっくにわかっていたかのような対応――あるいは、()ていたのか。

 すらりと伸びた長身、尋常じゃなく綺麗な亜麻色の髪。織莉子に招かれて部屋に立ち入った私は彼女に誘われるがままに座椅子にどっかと座った。

 

 テーブルのうえには既に温かなお茶とケーキまで用意されている――。つくづく周到なことだった。

 

「周りの様子はどうだった? 特に、今朝から報じられた桂城シュウの交際関係に関して……」

「いや、一応聞いてはきたけど……。きたけどさあ……。これ本当に必要だった? 浮気だのハレムだのといったって他人事だからどうでもいいんだけど……。みーんななんかキャピキャピしててさあ、話してるだけでもすっごい疲れた……」

「……黒羽根の魔法少女は、事実上桂城さんに管轄下にあります。彼に命を助けられた者、ファンクラブに加入している者も多い……。存外、彼の支持者が最も多いのは黒羽根だったのかもしれないわね」

 

 織莉子が言うには、幹部格である桂城シュウ女性関係に対する反応は白羽根の間でも概ね3通りに分けられるとのことだった。

 

 素直に肯定しなんなら自分もとワンチャンを狙う者。「そういう男」と認知し若干の呆れと諦めを向ける者。ごくごく真っ当に桂城シュウを嫌悪する者。

 

「正直、民間に起きている異変を踏まえるとこちらへの精神干渉も起きていてもおかしくはないと思ってはいましたが……。魔法少女への干渉はリスクが高いと判断しているのか、あるいは……。そもそも大衆を、『敵』と判断している……?」

「……」

 

 難しいことは私にはわからない。織莉子が桂城シュウを真っ黒だと断定するならそれは真っ黒だろうし、白だと思うなら多分白なんだろう。アレの女好きが終わってるのはガチっぽいけれど。

 けれどここ数ヶ月、突如「神浜市のマギウスの翼に加入しましょう」と言われ内情を探らされていた限り、桂城が自身の親密な魔法少女たちと運営しているマギウスは極めて過ごしやすい環境であるのは確かだった。

 

 無尽蔵に増える性質をもった使い魔にアイドルたちがファンから回収した感情エネルギーを喰わせることで大量に確保されるグリーフシード。

 魔法少女の組織的な運用で索敵・防衛・正面戦闘・看護を割り振り信じられない速度と安定性で発見され次第撃破される魔女や使い魔、暴走したドッペル。

 拠点で暮らす魔法少女たちの身の周りの世話をしてくれるウワサなる使い魔たちや、温泉や遊べる場所の充実したリラクゼーション施設。

 そして何より――グリーフシードを使わずとも、魔法少女と縄張り争いをせずとも生存を担保される、いまや神浜市を中心にじわじわと拡大され続けているソウルジェムの自動浄化システム。

 

 神浜外域で魔法少女がどんな思いをして戦っているかを思えば、魔法少女の救われる場所とまで一時期(うた)われていたのも納得がいくくらいだ。なんなら恵まれた状況から離れることができなくてずっと家に帰らずに行方不明扱いされてる娘が何人か出ていたとしても私は驚かない。

 そんな組織の最高幹部として活躍するのが魔法少女を助けて戦ってくれる唯一の男とくれば、そりゃあ人気にもなるだろう。

 

 もっとも、織莉子はずっと桂城シュウのことを警戒しているみたいだったけれど――。

 

「……キリカ、今日のマギウス新聞はみた?」

「ん。一気に3人女を増やした桂城への突撃インタビューでしょ。それがどうかしたの」

「彼はインタビューで、現在マギウスのもつあらゆる強権のすべてが自分の手に在ることを認めていた。そしてそれは、秘密裏に既に行使されているわ――。行政に向けてウワサをばらまいて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……?」

 

 一瞬なんのことかわからなくて、少し困った。

 織莉子の言っていたことを何度か頭で反芻して、ようやく私は。ウワサを作っている張本人がマギウスのトップである柊ねむで、そしてあの子は桂城シュウの恋人として囲われていることを思い出す。

 

「……。え、マジで? ウワサってそんなに自由に使えるもんなの!?」

「白羽根の権限で触れられる情報を覗いた限りだと――。()()()()()()()()()()()()()()()()()。今は自分たちが社会で問題なく暮らすことのできるように地盤を整えているくらいだけれど――。果たして、なんでも願いを叶えられるような状況でどこまで桂城シュウが自制をできるかは……正直、信頼はできないわね」

「そりゃー、どう使うって言ったら……。魔法少女をみんな、我が物にするとか? それとも世界征服でもする?」

「……どうかしらね」

 

 その瞳は、虚ろに遠くを見つめていた。

 まるで、遥か彼方――未来さえ、覗き見ているかのような。

 

「……今まで、何度か視た限りだと。少なくとも、彼が大人しく自らの特権を手放すとは思えないわね」

「このまま放置していれば、いずれ彼は――この世界を、壊すことになるもの」

 

 

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