環いろはちゃんと共依存的にイチャイチャしたい人生だった 作:風剣
『D°恕+度m痲藻ryァ……z――……』
「……っっしゃあ!!」
使い魔の甲殻によく似た形の骨で組まれた白骨の塔が崩れ落ちる。マネキンのようなのっぺらぼうの頭部にごてごてとした王冠を乗せた魔女の断末魔とともに、塔の下方にひしめいていた使い魔の軍隊も動きを止め――広々とした荒野全体に、罅が走った。
砕け散る結界。少年の雇った傭兵が猪突猛進とばかりに突っ込んでいった結界のあった路地に戻ったシュウは、いつもよりやや軽く感じる黒木刀を竹刀袋にしまう。彼と同じように結界から戻り、眼前で変身を解き荒い息を吐いて肩を震わせる金髪の少女に声をかけようとして――、
「フェリシア――」
「……シュウ」
「――すっげえじゃんお前! ズガッ、ビュー! ドガン!! ミサイルだとかロケットみたいにかっ飛んで、あんな風に魔女倒したの初めてだぞオレ! 超力持ちじゃん、凄いなー!」
目をキラキラと輝かせて駆け寄る彼女の姿に苦笑する。先程のバーサク具合が嘘のように明るく笑うフェリシアは、興味深そうに少年の得物をしまった竹刀袋を見遣っては彼の二の腕をわっしと掴んで掌でぺたぺたと触る。
「おい?」
「……筋肉はあるっぽいけれどこれだけじゃあんなんできないよなあ、何でだ? オレ凄い勢いで飛んでったじゃん、カッキーンって。またやろうぜあれ、凄い面白ぇ!」
「時と場合によるとは思うけどな、ああいうのも漫画みたいで悪くないだろう? ……あ、くすぐったいから離して」
昨日あのウワサを名乗った輩に掴まれた場所、万力のような力で一切の遠慮なく握ってきたので目に見える痕こそ残ってはいないものの地味に痛かった。顔に出すほどの痛みでもなかったが……。
魔女を倒してテンションを上げる金髪の少女を引き剥がしながらも、魔女を見るなり暴走して突撃していた彼女が今はだいぶ落ち着いていることにほっと安堵する。
甲殻の鎧に身を守った配下を指揮していた魔女は、結界の奥に築いた骨の塔に座しちまちまと遠距離攻撃を放っていた。
先程までシュウとフェリシアの居た荒野から塔までには頭が痛くなるくらいの数の使い魔が配置され、馬鹿正直にぶつかるにはあまりにも億劫な軍勢を形成していた、が──それならば、直接ボスを叩きに行けばいいだけの話である。
ある程度敵陣を突き進んだ辺りで、フェリシアの一撃で周囲の敵を吹っ飛ばして。木刀を力いっぱい振り抜くだけの余裕を確保すると一旦武器を霧散させた彼女を肥大化させた刀身に乗せ、
ぶん回された木刀の勢いに乗って砲弾のような勢いで使い魔の頭上を飛来した魔法少女が頭上で戦槌を振り上げていたのを見た魔女の絶望は如何ほどか。高みから見下ろしていた魔女の鎮座していた塔は、魔女ごと圧砕されることとなった。
「いやにしても、気持ちのいい一撃だった。この調子でどんどん魔女を狩っていこう」
「……あ! 今日はずっと魔女を狩るんだよな!? 任せとけ、このフェリシア様がガンッガン魔女をぶっ潰してやるからな!!」
「頼りにしてるよ。あ、ところで幾つか確認するんだけど──」
「ズッガーン!!」
『25m゛!?』
一撃だった。
真正面から叩き込まれた戦槌。シュウの振るう木刀に足を乗せたフェリシアが弾丸の如く飛来──先の一発で彼女が感覚を掴み衝撃に合わせて体幹を整えたことで一層速度を増した魔法少女ミサイルに全く反応できず、半人半蛇のラミアのような魔女は頭部を打ち砕かれた。
「ドッカーン!!」
『★@¥梶々z……而』
一撃……厳密には二
使い魔の仔馬を陽動して引き剥がし。使い魔を置き去りにして接近したシュウの投擲した木刀が頭部に突き刺さって怯んだ巨馬の姿をした魔女の頭上から、フェリシアが戦槌を振り下ろす。
膨れ上がった体躯を支える6つものの太い脚を折るほどの衝撃を浴びた魔女の頭部を戦槌に叩かれた木刀が深々と穿ち貫き、多脚の魔女は灰となって崩れ落ちた。
『──、…………』
「……………………ふんっっ!!!!」
一撃だった。
フェリシアの有する魔法少女としての固有魔法――忘却。縄張りに現れた侵入者の存在を忘れさせる程度の目的で発動したそれは想定以上に効果を発揮し、結界に入るなり全方位から触手が襲い掛かってきていたのが嘘のように森が静かになっていた。
明らかに毒の類であろう饐えた臭いの体液を滴らせる触手の根元に向かえば、魔女として抱く衝動や飢えさえも忘れたのか豚の頭を幾つも首からぶら下げた魔女は森の奥に棒立ちになっていて。少しだけ微妙な顔になったフェリシアは、戦槌に紫色の焔を灯すとそのまま振り上げて――森全体をひっくり返す勢いで、魔女を粉々に打ち砕く。
『ッ、御。ぃイ堕G◇あ』
「お前でっ、5体目だあああああ!!」
有毒のカエルのような色彩の翼を潰されながら半死半生になって逃走を計った魔女。その背後から追い討ちした少女の戦槌が、4枚の翼をもがれ地に墜ちた魔女の頭を爆発音とともに破壊する。
溶け落ちるようにして消え去る結界──打ち捨てられた廃ビルの屋上に戻った2人は共に片手を上げ「いぇーい!」とハイタッチを交わした。
「やっべえやノッてきたぁ! 2時間で5体だぞ5体! 1日でここまで狩ったのだって初めてなのにこんなペースで倒せるだなんてな! シュウとの魔女狩りめっちゃ動きやすくて超楽しい!!」
「こっちも一撃で魔女相手に致命傷狙えるフェリシアがいるから楽で仕方ないよ。いつもはいろはの準備が整うまで必死に陽動してたからなあ」
「へっへ~ん! オレたちなら魔女を絶滅させられそうじゃね!? なあシュウコンビ組もうぜー! 魔女退治だって友達料金で5割……いや今なら8割引きにしたっていいぞ!」
随分と懐かれたもんだなとにこにこになって誘ってくるフェリシアについ苦笑する。いろはもいるからコンビは組めないけれどフェリシアの都合さえよければ是非一緒に戦って欲しいと言えば──変身を解いて私服姿になった彼女が、驚いたように目を丸くした。
「え、いろはって奴死んだんじゃなかったの?」
「………………は? 死んでないが??」
「うぉお怖い顔怖い! ごめんって、でも昨日までカノジョと一緒に居たのにオレに声かけて探し物をするって魔女狩るからシュウも魔女に殺されたやつの敵討ちかと……」
「……ぁー、なるほどそういう解釈になるのか」
わたわたと手を振って悪気はないと主張するフェリシアの言は、シュウが詳しい事情の話をすることもないまま魔女の討伐を繰り返してしまっていたこともあり勘違いしたのも仕方がないと納得のいくものだったが。
少し、気になる言い回しだった。
「シュウ『も』、ねえ……。フェリシアはどうなんだ、魔女に誰か殺られたのか?」
「……」
配慮に欠けた質問である。いろはよりも年下の少女がああも殺意を露わにして魔女に突撃する理由に察しをつけているのなら尚更。
それを自覚し、
共闘するシュウのことさえも放り投げ虚飾のない憎悪と激憤のままに魔女に襲い掛かった、顔を合わせたときから何故か
「…………そうだよ。母ちゃんと、父ちゃんが魔女に殺された。だからオレは、こうして傭兵なんかやってる」
「そうか。……悪かったな、ずけずけと踏みいるようなことを聞いて」
「……別に、気にしてねえし」
それは明らかに気にしている顔だろうと思ったが……シュウを相手に爆発する訳にもいかないと堪える気遣いを無下にするのも憚られた。
少しだけ重くなった空気を切り替えるべく、パンと手を打ち鳴らして。顔を上げたフェリシアに、笑顔で声をかける。
「──腹も減っただろう、奢るよ。バイキングにでも行くか?」
「え、奢り!? いいのか!? バイキ……バイキング……
「……想定以上にいい反応だな。肉とかは好きそうだなとは思ったけど」
「肉も大好きだぞー! バイキングなんてすっげえ久々かも、シュウいいやつだなー! 今日は張り切った甲斐があったぜ!」
両手を掲げ跳び跳ねるようにして歓喜する様子に、僅かな疑念が鎌をもたげる。
両親が魔女に殺されたと、彼女は言っていた。年頃はおそらく12か13。そしてバイキングの誘いひとつでこの反応……。
まさか、フェリシアは──、
「ん、どうしたんだ? 早く行こーぜ!」
「……ああ、そうだな」
まさか、とは思ったしできるなら力になりたいとも思ったが。
今はそのことについていちいち邪推するべきでもないだろうと、胸中で膨らんだ疑問を押し殺しつつ前方のフェリシアを追って良さそうな飲食店を探す。
目の前の少女に……何度か共闘をこなしたとはいえ今日初めて会った相手に対してここまで友好的に接してしまっていることが自分でも驚くくらいだったが。
なかなかどうして──彼女を放っておく気には、なれなかった。
***
「──じゃーん!これなーんだ!」
魔女と戦いを繰り広げていたときの剣幕が嘘のような笑顔だった。
向かいに座って皿によそったグラタンを口にする少年にフェリシアが見せてきたのは、濁った黄緑──どちらかというと黄色の方に偏った色彩の液体が注がれたグラスで。
少しだけ目を細め、じろりと側面から濁ったジュースを観察しながら。己の経験をもとに、シュウは回答を口にする。
「オレンジジュースとメロンソーダを混ぜて、あとカルピス入れただろう。俺も似たようなことしてたからわかるよ」
「ぬっ……せいかーい。カルピスは解らないと思ったんだけどなあ」
口を尖らせてそんなことを言いながらも、ドリンクバーで調合したミックスジュースを啜っては自らの皿に盛った肉類をぱくつく彼女の表情は楽しげだった。
食べ物で遊ぶような行為と咎める者もいるだろうし、それこそ彼の恋人や魔女が現れるまで共に暮らしていた老婆はもろその類だったが……。別に粗末にするわけでもなし、異なる種の飲み物を混ぜるくらいならどうということはないだろうというのがシュウの意見だった。
当然、その結果どのようなものができようと……自分でやったことにはきちんと責任を取らせるつもり満々なのだが。
「そういうの結構楽しいよな。ファミレスに行って皆で飯くうこともあったけど剣道部やってたときの後輩はそれにお茶やらコーラやらジンジャーエールやら……それこそドリンクバーにあるの全部混ぜてたなあ」
「えぇー、お茶ぁ? でもそれ面白そうだな、俺もや――」
「ちゃんと全部飲むならいいよ、好き放題混ぜた結果そいつの飲み物生ゴミを溶かしたみたいになってたけれど」
尚その大バカ者に関しては調合したゲテモノを飲もうとして一口目で悲鳴をあげて残りを流しに捨てようとしていたので取り押さえてぜんぶ飲み切らせた。その後は物凄く顔色を悪くしてダウンしていたけれど食べ物を粗末にするのは流石にいけないから仕方ないよな――。そんなことを言えば、笑顔を強張らせたフェリシアは大人しく座ってジュースを啜った。
まあ、そのあとは何故か全員で同じゲテモノを少しずつ作成して全員で一斉に飲むという、後々振り返ってもどうしてそのようなことをしてしまったのか理解できないような真似をして全滅したのだが。いや本当になんであのような流れになったのだろうかとメロンソーダを飲みながら思いを馳せる。
とはいえ。少なくともいろはの前では絶対にあのような真似できないだろうことを考えれば、ああいったノリで馬鹿をやれる関係というのも貴重なのかもしれない。
「あーそうそう。フェリシアどうせジュース飲むなら野菜ジュースにしな野菜ジュース。せっかくバイキングに来たんだから肉とか刺身とか好きに食いたいって気持ちはわかるけれど栄養のバランスは気休め程度にでも整えておきなよ」
「えー、野菜ジュースぅ? ……嫌いって訳じゃないけどやっぱオレンジジュースやコーラの方が良くねぇ?」
「どうせお前こういう機会でもないと積極的に野菜補給しそうにないだろ……。野菜を食わないと倒せない魔女いたらどうする?」
「そんな最低な魔女いてたまるか!!」
本気で嫌そうな悲鳴をあげたフェリシアに軽く噴き出して笑う少年を恨みがまし気に睨みつける彼女だったが、そこで何か思い当たるものがあったのか口いっぱいに照り焼きチキンを頬張りながら問いかけてくる。
「……むぐ……そううぃや、敵討ちじゃにゃいなら……。んぐ――魔女を何体も狩ってまでする探し物ってなんなんだよ。よっぽど気になる魔女でも見かけたのか?」
「言ってなかったっけ? ……言ってなかったなそういえば。契約の詳細だってフェリシアが勝手に魔女見つけて凄い勢いで突っ込んで狩るのを繰り返してほとんどできてないし」
「うぐっ」
本人でも悪癖であると自覚はしているのか、開幕から話も聞かずに猪突猛進に魔女に向かっていたことの指摘を受ければ微妙に気まずそうな表情をしていたが……不確定要素を最大限排除して守らなければならないいろはもいなかった以上、その性質の恩恵を最大限受けて魔女を狩ったシュウに文句などあろう筈もない。寧ろ方向性を軽く誘導して補助すれば1、2発で魔女を倒してくれるフェリシアには感謝しかなかった。
「……本当はさ、わざわざいろはと別行動してこんなことしたって何の収穫も得られない可能性の方がよっぽど大きいんだよ。神浜市はかなり広いし、魔女も多い。虱潰しに探しても何も見つけられないだろうとは思ってるし……けれど、あれを放っておくのは無理があった」
「……」
『魔女を守る剣士』。……そう名乗ったあの存在を、あの男を、
「……魔女をまもる? いやシュウと同じ顔って……鏡の魔女のところにでも行ったのか?」
「? いや、そんな魔女は初めて聞いたけれど……あと多分、魔女とはあまり関りはないと思う。魔力こそ感じたけれど魔女の気配はしてなかったし……」
「えー、余計わかんないじゃんかよ! 魔女と関わってないのにどうして魔女を守るだなんていってんのかも訳わかんねえし!」
「そう言われてもな……、気配が本当に普通だったと言うか、魔力漂わせてるのだって実際に掴まれるまで気付かなかったし……」
「はあ? 変なの探してんだなあお前……」
散々な言われようではあったが……反論のしようもない事実である。呆れたような視線すら向けられてしまえばから笑いするしかなかった。
実際、いろはに理由を明かしもせぬままこうして別行動をとることとなったのも、このような不確かな案件に彼女の手を煩わせたくないという思いも動機の何割かを占めている。
あとは――もしあの男と交戦することとなった場合、シュウ以上の身体能力を発揮するようであれば
「……腕力はまず間違いなく俺より強いからな。魔女を狩ってアレを炙り出すまでは誰と組んでも構わなかったけれど……もしもの為に備えて、十分な実力をもった魔法少女との繋がりは作っておきたかった」
「……なるほど? まあオレは誰が相手でもいいけどさ、魔女じゃないんだろそいつ? 魔女なら1000円くらいで傭兵としての仕事を請け負うけれど……友達料金で500円だ! へへへ」
「いや、本当に心強いよ。……1000円?」
……1000円。にかっと笑うフェリシアに、命を懸けるのに安すぎはしないだろうかと困惑するが。傭兵稼業の対象のほとんどがあくまで学生でしかない魔法少女であることを思えば仕方ないのかも知れないと思い直す。
皿を持って席を立ち、次はローストビーフでも食べるかなと店内の料理を確認しながら歩いていくと、同じようにおかわりを求めて移動した少女が満面の笑みになって並べられた料理のもとに駆けていく。少年を抜き去って料理の前で目を輝かせながら皿によそっていく彼女の目は爛々と輝いていたが――そこで、不意に動きを止めて。周囲の客がたじろぐような眼光で、出入り口を睨みつけた。
「――、魔女……!!」
「待て」
「離せ!! ……あ」
料理をよそおうとしたトングが投げ捨てられる。少女の手元から落とされそうになった皿をギリギリのタイミングで彼女の手首ごとシュウが捕らえ、邪魔をするなと吼えたが――トングの転がる金属音に、正気に戻ったようだった。
集中する周囲の客からの視線。彼の手首や衣服の袖は、料理こそぶちまけられはしなかったものの皿からこぼれた肉汁やソースで汚れている。金属音と怒鳴り声に顔色を変えて駆けつけてきた店員に『申し訳ない妹が急用を思い出して慌てたみたいで』などと突然大声をあげてトングを放り捨てた少女を庇うように立って謝罪する彼に、フェリシアは立ち竦んだ。
「……シュウ。………………うっ、その、ごめん。でもオレ」
「……いいから。
「っ、~~~~~…………!! ごめん……!」
「……」
瞳を揺らし、顔を曇らせて。それでも譲れぬもののために魔女と戦いに行く後ろ姿は――不思議と、いつかの桃色の少女と
……さて、いろははどうだったかなと。店員に詫びをいれつつ、伝票と荷物を取りに机に戻ったシュウは。いつか、彼女が幼馴染の視線から逃れるようにして魔女を追っていた頃を思い出して苦笑する。
『ごめん、なさい。シュウくん』
『それでも、それでもわ、私は……』
『――行かなきゃ、だから』
「――誰が悪かったんだろうなあ、アレ」
「正直、いろはが悪いと思うんだが……まあしょうがない、キュゥべえが一番悪いってことにしとくか」
脳裏をよぎった過去は苦いものだったが――たった半年前にも関わらず、どこか懐かしいものがあった。
今作において2人据えられることとなる《理解者》の枠。その片割れであるフェリシアには、シュウに対していろはが月単位年単位で縮めてきた距離を最短半日で縮められるだけの相性の良さというものが合ったりします。
ある意味では彼が最も気安く会話できる存在のひとりになったりする。
またそれはいろはに対応する者の場合も同様。