環いろはちゃんと共依存的にイチャイチャしたい人生だった   作:風剣

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思ったより長くなったので分けるとします
マギレコ最終回唐突に劇場版じみた状況になってて度肝をぬかれた、2シーズン目が楽しみ



Lost memoria ー絶交と再起・上ー

 

 

「――よぉ、いろは」

 

「ちょっと今日は……話があるんだ。放課後、家に来てもらっても良いな?」

「……うん」

 

 覚悟はしていた。

 

 追い詰められるなり何度も逃げ出そうとする魔女を打ち倒すのに時間をかけてしまって、8時過ぎになってようやく家に帰ってきたとき。連絡もせずに帰りが遅くなってしまったことに縮こまって謝るいろはに幾つかの注意を飛ばしながらも安堵したように息を吐いた母親が、「心配してシュウくんにも声をかけたけれど何もなかったから良かったわ」と口にするのを聞いて。

 蒼白になって、交わしていた約束を破ってしまったことを恋人に知られたことを悟って。来たるだろう叱責を想像し顔を曇らせながらも、それも仕方がないと自らの非を認め受け入れていた。

 

 怒られるだろうと、叱られるだろうと。

 それでも……話せばわかってくれるだろうと、とにかく謝って、その後にしっかり自分の希望していることを正直に伝えれば理解してくれるだろうと、無根拠に思っていて。

 

 甘かったかもしれないと。

 その日の朝。いつのように一緒に登校するために家で待っていて。玄関から出たいろはと顔を合わせるなりそう口にした恋人の顔を見て――、

 

 いろはは、初めて。魔法少女として魔女を討ち人を助けたことを、後悔しそうになった。

 

(……あんな)

(あんな顔を、されるだなんて)

 

 放課後の通学路。

 家が間近になるにつれてだんだんと緊張を募らせる少女が思い浮かべたのは、家を出たいろはを見たときの、今まで一度も向けられたことのないようなどす黒い感情を滲ませた恋人の目で。

 直後にいつものような穏やかな笑顔を浮かべて彼女に声をかけたシュウは、学校でも通学路でも魔女や魔法少女の話題を出すこともなくいつものように過ごしていて、気付けば朝に向けられた感情のことさえも気のせいのように思ってしまいそうだったけれど――それでも、いざ『話し合い』が近付くと、どうしても固くなるものがあった。

 

「いろは」

「! う、うん。なに……?」

「……そんなに警戒したって別に取って食いやしないよ。いろはが正直に答えてくれれば話だってすぐに終わるさ」

 

 動揺を露わに声を震えさせた少女の前を歩きながら苦笑し、がちがちに緊張したいろはを安心させるように気軽に言ったシュウは、それでもいつも彼女を安心させるときのように振り向いてはくれなくて。

 人のいなくなった家の鍵を開けたシュウは、いろはを一瞥することもなく「さ、俺の部屋で話そうか」と声をかけるとなかに入っていった。

 

 

 ――取って食いはしない、すぐに終わるとは言ってたけれど……一言も、怒ってないとはいってなかったな。

 ――やっぱり、そうだよね。怒るよね……。

 

 

 喧嘩らしい喧嘩なんて碌にしたことのなかったいろはにとって、幼い頃からずっと一緒だった幼馴染と居てここまで気まずく、息苦しい思いをしたのは初めてだった。膨れ上がる恐怖と罪悪感に扉に伸ばした手を迷わせながら、少女は覚悟を決めたように息を吐くと扉を開けて。彼女の守ることのできなかった、()()()()()()()()()()()()()()()喪われてしまった家族の暮らしていた家に足を踏み入れる。

 既に自室に戻っているのだろうシュウの後を追って階段を上がって。開け放たれた扉から室内を覗いた少女は、気だるげに首を傾ける彼が椅子の背もたれに身を預けるようにして座るのを見つけ――部屋の片隅に突き刺さる『置き土産』に、顔を曇らせる。

 

「これ……まだ、あったんだ」

「不思議とね。魔女の遺体は消え失せたしこいつも放っておけば消えると思いたいけど……。まあ、そんなことは今はどうでもいいよ」

 

 空気が軋んだような気がした。

 気を抜けば泣きだしてしまいそうで。きゅっと唇を引き結びながら今にも溢れそうになる弱音を噛み潰す。

 ……どんな魔女よりも。彼女にとって、今は目の前の彼にどんな言葉を投げかけられるかだけが一番恐ろしかった。

 

「いろは」

「どうして、まだ魔女と戦っているんだ」

「う……」

 

 刃物でも突き立てられているのかと錯覚しかねないくらいに鋭い視線だった。

 通学路を並んで歩いているときや、教室で授業を受けていたとき、休み時間の間一緒に過ごしていた間も。ずっと何も気にしていないような笑顔を浮かべていろはと会話していたのが嘘のような――実際懸命に「いつも通り」を取り繕っていたのだろう険しい目に。今朝がた向けられた視線を思い出したいろはには、とても彼の顔を見ることができなくて。

 

 真っ先に、頭を下げた。

 

「……へえ?」

「ごめんなさい」

 

「私は、シュウくんに嘘をついて。――魔女と戦わないと、魔法少女にはもうならないと約束してからも3回。魔法少女になって、魔女と戦ってました」

 

 本当にごめんなさいと、素直に白状して頭を下げるいろはに。シュウは、何も言わなかった。

 

「もう二度と、嘘はついたりしないから。隠れて約束を破るようなことをして、本当にごめんなさい」

「……そこは、もう魔女とは戦わないじゃないんだ?」

「……うん。こんなことをしておいて本当に合わせる顔がないけれど……私は、また魔法少女として魔女を倒そうと思っていて――」

「へえ」

 

 無表情でいろはの言葉を聞いた彼は、瞑目するように瞼を閉じて。数秒沈黙して、彼女の発言の内容を咀嚼し結論をだした彼は、目を開いていろはをじろりと一瞥すると口元を歪めた。

 

「馬鹿なの?」

「――」

「……ああすまん、少し驚いたからキツいこと言ったな」

 

 でも――ちょっと、加減できなくなるかもしれないと、苛立ちを滲ませながら呟いて。

 

「……それはさ、いろは。前に俺とした約束を、撤回するってことで良いんだよな?」

「――うん。私は……やっぱり、魔法少女で在りたいから。たとえ命の危険があったとしても、私は戦いたい」

「……」

 

 僅かな沈黙。いろはの希望を聞いて、頭痛を堪えるように目頭を抑えた彼は言葉を選びながら感情を押し殺した声で語りかける。

 

「――いろはの母さんに、昨日声をかけられたよ」

「……うん」

「いろはは本当に良い娘だったからだろうな。今まで事前の連絡もなしに帰りが遅くなったことなんてなかったから、俺とデートでもしてるんじゃないかと思ったってさ。……帰るなり疲れ切ったみたいにベッドに倒れて寝てたらしいな?」

「……ういも心配してるって言ってたぞ。勿論、いろはの母さんや父さんもだ」

「ッ……」

 

 家族にまで心配をかけさせているのだと聞かされたいろはは目を伏せて沈痛な表情になる。どうせ家族にすら魔法少女のことは教えてないのだろうと追及された彼女は重々しく頷かざるをえなかった。

 隠し事をするんならもう少し慎重にするんだなと目だけは笑わぬまま嘲笑って。携帯を見せつけるように軽く振りつつ、淡々と少年は言い募る。

 

「もしお前が魔女に喰い殺されでもしたら俺はいろはの家族になんて報告すればいい? 俺の家族を殺したのと同じ魔女という化け物といろはが戦ってましただなんて言えると思うのか? ……冗談を言うにしたってもう少し笑えるものにして欲しいんだけどな。魔女だとか魔法少女だとかの話だなんて聞きたくもないくらいなのに――」

「……じゃ、いょ

「あ?」

「――冗談なんかじゃ、ないよ」

 

 ――。

 

「………………は?」

「私は……もう二度と、シュウくんのように魔女に傷つけられる人を見たくない。魔女に負けたらと考えたら怖いけれど、それで魔法少女をやめて魔女に襲われる誰かを見過ごしてしまったら絶対に後悔してしまうから。あんな風に誰かが殺されるのも、傷つくのももう我慢できない。だから私は――」

「……おい」

 

「――私は、魔女と戦うよ」

 

 制止をするように飛ばした言葉に構わず言い切ったいろはに、少年は束の間絶句して。そんな彼を安心させるように笑顔を浮かべたいろはは、大丈夫と言い切った。

 

「私は、大丈夫。もう私も、シュウくんにひっついてばかりではいられないから。魔女にだって負けたりなんかしない」

「……そうかよ」

「うん、だから平気だよ。私も魔法少女になって、シュウくんよりも強くなれたんだから――」

「……そっか」

 

「随分と立派なことを言えるようになったもんだよなあ、いろは。……父さんと婆ちゃんを助けることもできなかった分際で」

「えっ」

 

 胸の中央に手を当てられ押し退けられたいろはの視界が僅かに薄暗くなる。

 少女を閉じられた扉の傍に追いやって立ち塞がったシュウに逃げ道を塞ぐように迫られたのに気付いたのは、一瞬後のことで。細い腕も掴まれて扉に抑えつけられるのに、彼女は桃色の瞳を揺らす。

 

「シュウ、くん?」

「大丈夫、か。魔女相手に? いつの間にそんな大口叩くようになった? いつも俺の後ろに引っ付いてたのが嘘みたいじゃないか」

「シュウくん、痛いよ……」

「――相性があるのかね。あの矢、化け物に向けるにはちょっと貧相なもんだったけど。俺があれだけ本気で殴りつけても皮砕くのが精々だったのに信じられないくらい魔女に効いたよなあ。……で? 俺に捕まったらぜんぜん動けない程度の力で、もし追い詰められたらお前はどうするつもりなんだ」

「シュウ、くん……!」

「お前がまだ帰ってこないと聞いて俺がどんな思いをしたと思ってる。魔女なんて化け物とお前が戦っていると知ったら家族がどれだけ心配するかわかってないんじゃないのか。俺は……お前の家族の誰だって……いなくなった俺の家族だって!! 顔も名前も知らない他人が何人傷つこうとも、お前さえ無事でさえ居てくれたらそれで良いと本気で想ってるんだぞ!」

「……!! だって、でも……わたし。は」

 

 憤怒を露わにして激しい剣幕で怒鳴りつける少年に瞳を濡らし怯えた様子を見せながらも――それでも、彼女は譲らなかった。

 制服が燐光を散らして消え、浅黒い布地が少女の身体を包んだと思えばその上から彼女が纏ったのは白を基調とした外套で。魔法少女に変身した彼女は一瞬だけシュウの拘束を押し退けたかと思えば、するりと彼の手から抜けて向かい合う。

 

「それでも、私は……! 二度と、シュウくんのように傷つく人を見たくない!」

「それでお前が身を危険に晒すのは違うだろう!」

 

 素早く腕を伸ばしグローブに包まれた魔法少女の手を掴むと、そのまま強引に引き寄せる。寝台の上に倒れたいろはの上に覆いかぶさった彼は万力のような力で再度少女を捕らえた。

 2人分の重量がかけられたベッドが軋む。

 

「魔女を放置してたら今度はういが、父さんが、母さんが――シュウくんが襲われるかもしれないのに放置なんかしておけないよ! 私だって、好きで戦いたい訳じゃない!」

「なら戦うなよ! 魔女くらい、もしまたきたって俺、が……!」

「シュウくんがあんな怪我をするくらいなら私が戦うよ……好きな人に傷ついてほしくないのは、貴方だけじゃない!」

「っ……」

 

 決して絆された筈はないのに。苦虫を噛み潰したような顔になって腕の力を緩めたシュウを押し退けて。逆に肩を掴んで壁に押しつけたいろはは、シュウの顔を見ると目を見開いて何事かを喋ろうとして……何も言えぬまま彼の胸に顔を寄せると、小さくしゃくりあげた。

 

「――この、泣き虫が」

「ごめん、なさい。だって、一番シュウくんがつらいのに」

「でも、魔法少女をやめてはくれないんだ」

「……ごめんなさい」

 

 ……馬鹿なやつ。

 そう小さく呟いて。フードの脱げて露出した桃色の髪――髪型は変身しても変わらないんだなとぼやきながら、絹のような手触りの髪を撫でる。

 

「いろはの父さんや母さん……ういに、あることないこと吹き込んでやったっていいんだぞ」

「……シュウくんがしたいなら、してもいいよ」

 

「誰も救えなかった弱虫がどうして他人のことなんて気にかけてやれるんだ」

「ごめんなさい、智江さんも、シュウくんの父さんも助けられなくて。約束を破って、傷を掘り起こすような真似をして。でもだから、同じように傷つく人を助けたいと思ったの」

 

「どことも知れぬ場所で野垂れ死んでもいいんだなこの愚図」

「……嫌だよ。嫌だけど……私がやらなかったせいで、誰かが魔女に襲われているかもしれないのはもっと、嫌だから」

 

「――馬鹿野郎」

「別れよう。……絶交だ」

「っ……」

「……他人のために命かけるような大馬鹿野郎に構ってらんないよ、帰れ。……魔法少女やめる気になったら言いな」

 

「――」

「ごめん、ね。シュウくん」

「それでも、それでも、私は」

「ごめんなさい」

 

「それでも、私は。ずっと、シュウくんのこと」

「……帰れ」

 

「――馬鹿野郎」

「部屋を出るなり、泣き崩れてんじゃねえよ……」

「畜生」

 

 

 

***

 

 

 

『――

『やだ、いや。や、やめて、ひっ』

 

 すすり泣くような悲鳴。白い迷宮は黒く、そして紅く染め上げられていた。

 

AHAHA wwaゐ垃、■……

 

 ぐしゃりと、突き立てられた黒枝が鮮血を散らす。肩を潰された少女の甲高い悲鳴があがった。

 やめろと叫んで走り出そうとして。足に力が入らずに躓いて倒れ、鉄臭い液体に濡れた地面に出来損ないの案山子のように無様に転がる。

 

 目の前では、魔法少女に変身したいろはを組み敷いた魔女が、身に纏う黒枝を膨張させながらけたけたと嗤っていて。昆虫の標本でも作るかのように地に縫い留められた少女は、身を貫く槍が揺れるたびに喉を震わせ嗚咽を漏らしていた。

 

 やめろ。

 待ってろいろは、すぐに助けるから。

 あんな化け物なんかに、絶対にお前は――、

 

 殺させやしないと、そう言おうとして。起き上がることもできないまま体から力が抜け倒れ込んだ少年の目の前に、ごろりと何かが転がる。

魔女に殺された父親と、家族同然に思っていた老婆が。その身に風穴を開けて、虚ろな目になってシュウを見つめていた。

 

 あ……あ、あ。

 

 目を限界までかっ開く。絶叫をあげようにも掠れた喉からはこひゅうと息が漏れるだけだった。目から光を喪って己を見つめる亡骸に、少年はぼろぼろと涙を流して。見捨てるのかと責め立てるような視線を振り切るように、いろはの元に向かって行く。

 

 なのに。

 どうして。

 

 体に力が入らない。足で体を支えて走ることができない。半ば這うようにして魔女の元に近づいていった少年は、白い外套を鮮血で染めるいろはの動きが次第に鈍くなっていくのに緩慢に動きながら表情を焦燥と恐怖に染めた。

 

 いろ、は。

 待て、待って。お前だけは絶対に、絶対に、俺が助けるから――。

 

§jビ把GGGG

『ぃッ、――』

 

 嘲笑うように、血まみれになった少女の身体が吊り上げられる。伸びた黒樹に穿たれた傷口を抑えながら悶え苦しむいろはを宙づりにしながら、彼女を持ち上げる魔女は、樹皮に覆われたのっぺらぼうの顔をぶちぶちと引き裂いて。

 あんぐりと、口を開いた。

 蒼白な顔になって足元で開かれた大口を見下ろして。潰された脚から血を滴らせながら、怯えを露わに少女は首を振る。

 

『ひっや――、やだよ、しにたくない。シュウ、シュウくん。おねがい、おねがいたすけて。わたし、わたしこんな――いや、いやだ。たすけて、助けてよ……』

 

 いろ、は――。

 

 懇願の声。泣きながら助けを乞ういろはに、必死の形相で這い寄ろうとするが――距離がどうしても縮まない。体もどんどん重くなる。一歩分の距離を進むのさえままならない有様だった。

 体から熱が奪われていく。

 腕が、持ち上がらなかった。

 

 なんで、なんで……どうして、こんなに。

 

 とうとう体を動かすこともできなくなって。金縛りにでもあったかのように硬直する体に極度の混乱に陥りながら愕然と魔女を見上げるシュウの前で、耳障りな笑い声をあげた魔女は――吊り上げた少女を、顔を真っ二つに裂くようにして開いた口のなかに、あっさりと放り込む。

 

『あ』

 

 それは、誰の声だったか。断末魔をあげることもできずに飲み込まれた少女は口の中に消えた。

 口端からぼたぼたと血を滴らせながら哀れな獲物を咀嚼する怪物の姿に、少年は時をとめる。

 

 なん、で。

 

 どうして守れなかった? 

お前が弱いからだ。

 

 どうして助けられなかった?  

お前が怖気づいたからだ。

 

 違う、違。俺は、怖気づいてなんか。

何も間違ってなどいない。お前では魔女には敵わない。

骨の髄まで魔女の恐怖を叩き込まれたお前では決して魔女とは戦えない。

 

 あ、ああ。あああああ。

 違う、違。俺は、俺はもう二度と、大切なひとを。

 なのに動けな、違う嫌だでもどうして、俺は。自分は、どうして――、こんな、惨めで、弱いのか。

 

 大切なひとを一番危険なときに守れず。家族を殺した怨敵から、恋人を救い出すこともできない。

 肝心なときに役立たない力なんて。何の意味もないのに――。

 

「……!!」

 

 全身が氷のように冷たかった。

 弾かれたように飛び起きて。荒い息を吐いて肩を上下させて周囲を見回し、自室のベッドの上であることを確認すると――どさりと、ベッドの上に上体を投げ出した。

 

 血の臭いもない、人の気配もない。恋人だって傷ついて喰われてなどいないし魔女もいないけれど……その気配を少しだけ漂わせる異物が、その部屋にはあって。

 部屋の片隅に突き刺さる枝。魔女が討伐され白い迷宮が崩れ落ちた後みつけた異物が漂わせるあの怪物の置き土産が、重々しく鎮座していて。こみあげた吐き気を飲み下し、天井を見上げる少年は片手で顔を覆う。

 

 無機質な電子音。ベッドの脇に置かれた携帯からアラームが鳴り響いていたが、今は端末を回収して音を止める気にすらなれなくて。

 滝のように流れて身を濡らす冷や汗の不快感を堪えながら、少年は呻いていた。

 

 思い浮かべたのは……ぼろぼろと涙を流しながら、絶交を受け入れて。部屋を出るなり崩れ落ちて、ぐずぐずとすすり泣きながら階段を下りてシュウの家を出ていった少女の泣き顔で。

 朦朧とした意識のなか、震える手を見下ろし。彼女を引き留めることも、()()()()()()()()()()()()()()無様を呪う。

 

「……あー、くそ」

「本当……最悪だ、俺」

 

 




後悔を抱えて。失態を呪って。
どうしようもない恐怖がある。
それでも、前に進まなければならない。

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