環いろはちゃんと共依存的にイチャイチャしたい人生だった   作:風剣

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神社の噂

 

 

 

 決着がつくまでに要した時間は、そう長くもなかった。

 

 魔女との戦いとは違うのだ。互いに相応の強さがあり、互いに相手の渾身の一撃を受け止められるだけの堅さがないのなら先に当てた方が勝つのは道理だった。

 

 勝敗は既に決し、魔女の隠れ家であったビル街の中心で相争っていた両者の周辺には激戦の過程で両断された建物の残骸が広がっている。

 外壁を両断されがらんどうの内部を露出させたビルの前で、半ばから折れた刀を握る常盤ななかは肩で息をしながらたたらを踏んで。そのままずるりと壁に背を預け、へたりこんだ。 

 

 ぎこちなく持ち上げた左手は、血で紅く濡れていて。骨の芯まで侵すような痺れにほとんど力が入らなくなってしまっているのに、思わずといったように彼女は苦笑する。

 4人の魔法少女が足を踏み入れた時は京都の街並みが如く均一に並べられていたビル街はななかの居る場所も含め何棟も倒壊し、主であった魔女もとっくにバラバラにされている。散々に荒らされ家主も喪った魔女の結界が崩れ去ろうとするなか、ななかは己に近づく複数の足音を耳にした。

 

「――ななか!」

 

「……あぁ、あきらさん。肩を貸してくれますか。些かばかり疲れてしまって……」

「いやそりゃあんなのと真正面からぶつかったらそうなるよ!? ほら、手を……うわ思った以上にだらだら血が出てるじゃん! かこー! 回復してあげてー!?」

「腕が軽く裂かれただけなので見た目ほど酷い怪我でもありませんよ。太い血管をやられた訳でもありませんし……。あ、美雨さんもかこさんも援護ありがとうございます。おかげで助かりました」

「……随分無茶をするネ。魔女を見向きもせずに解体してのけたような輩によくもまあああも攻め込んで」

「いえいえ、美雨さんの援護がなければあそこまで前のめりになれはしませんでしたよ。少しでも反応が遅れてたら真っ二つになりそうな場面もあったので居てくれて本当に良かったです」

「……悪い冗談ネ」

 

 戦闘中は作戦の要として活躍してくれていたチャイナ服の少女が顔を顰める。慌てて駆けつけては回復の魔法を『再現』して自分の傷を治す年下の魔法少女もちょっと泣きそうな顔になっているのに罪悪感を覚えつつも、ありがたく治癒を受けるななかは先ほど()()()()()知己と同じ顔をした存在について思いを馳せる。

 

 手傷こそ負ったものの、相手にこちらの魔法の詳細が割れていなかったこともあり攻略自体は然程困難でもなかった。魔女守りを騙っておきながら動き出した魔女の足を削ぎ邪魔できないようにした彼の引き連れていた使い魔を蹴散らした仲間と念話を繋ぎ、率先して前に出て少年と剣戟を繰り広げるのに並行して包囲。

 最終的には以前共闘したあとから構想した対暴走が激しくなったときの某傭兵少女を想定した拘束コンボに嵌め封殺することに成功したのだが、結局は力技で強引に逃げ出されてしまっていた。

 

 既にあの少年……ななかと同じ道場で剣を習っていた兄弟子の似姿をとっていた者の気配はない。

 

「それにしても、やはり同じ顔をしているだけのことはありましたね……」

 

 周囲に散乱していた瓦礫……乱雑に断ち切られた建造物のほとんどは魔女守りのウワサの放った斬撃によるものである。

 

 膂力、俊敏性、反応速度……いずれもななかの知る桂城シュウという少年と同等、純粋な膂力だけなら間違いなく上回っているだろうと推測する。得物も相応の『格』を持った代物であったようだし必ずしも彼の身体能力だけに依るものとは限るまいが……近接に特化した魔法少女さえ上回る脚力、腕力をもって剣を振るう彼には同門の剣を見たことがなければななかでも対応しきれなかっただろう脅威があった。

 

(……いや、私の眼は彼に反応していなかった。建物を真っ二つにする大技を放ったのも最後のみ……もし彼が本気で私を排除しようとしていたのなら、殺す気できていたのなら私は何もできずに骸を晒していたかもしれませんね)

 

 オリジナルと、兄弟子は呼ばれていた。情報の共有も兼ねて一度接触しなければと、結界も消え去って人気のない倉庫に戻ったななかは、魔法少女としての主武装である刀身の折れた刀を消し去ろうとして。

 手の中の刀を見つめながら、小さく唇を動かす。

 

「魔女守りのウワサ……ウワサ、ですか」

 

 文字通りの意味で。

 彼には、()()()()()()()()()()

 

「彼の……シュウさんの顔をしていたことも含めて。少し、調べる必要があるかもしれませんね」

 

 友人の魔法少女が営むという相談所で連絡先を交換していたらしいあきらに……あとは調整屋にでも頼れば顔を合わせる機会はあるだろうと算段を立てつつ。刀を消し去った彼女は仲間とともに魔女退治に忍び込んだ倉庫を抜け出す。

 

 ――ななかの見ていた、折れた刀身。

 戦闘の最中。背後から相手の腹部を刺し貫いた刃からは、一滴の血もこびりついてはいなかった。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 むかしむかし 身分違いの恋に落ちた男女がいました

 

 二人は愛し合いましたが関係が女の家庭に知れ 男は殺されてしまいました

 悲しみにくれた女はある日 男の字で書かれた紙を見つけます

 

 その紙にはある場所が記されていました

 

 女がその場所を訪れるとなんとそこには死んだはずの男が現れ 二人は再び再会できたのでした

 

 

 それが鶴乃が協力してくれるかもと呼び出した知り合いが近頃調べていたというウワサ――彼女が連絡を取った七海やちよの持つ神浜うわさファイルに記されていたという、水名区を中心に広まるという『口寄せ神社』に纏わる伝承の概要であった。

 

 親友、家族、恋人。会いたいと願った者の名を伝承の女性に倣い綴ることでどうしても会いたいと願った者を連れてきてくれるといううわさはネット上でも広がっており、発見したと書き込んだのちに消息を絶った者も少なくないという。

 

 この神浜で神社といえば縁結びで有名なスポットでもあるらしい水名神社だというが、以前やちよが調査してもめぼしいものは見当たらなかったとのことで。

 今回の調査では、小さなものも含め水名各地にある神社を片端から回っていくという方針となった。

 

「……それにしても。ほんの数日前に戦いをけしかけてきたのと同じ顔をした子が一緒にウワサを探しているというのも、変な感覚ね」

「………………いや本当に申し訳ない」

 

 もう謝るしかなかった。いやシュウが謝る必要がないとは彼自身思っているものの自分と同じ顔をした輩に襲われたと言われそれが事実ならば本人を引っ立てることもできない以上他にどうしようもない。マジで魔女守りのウワサ許せねえとぶつけることのできぬ怒りを募らせるばかりだった。

 

『あっいたいた! やっちよししょー!!』

『うぐっ……。鶴乃、離してちょうだ――貴方、は……環さんと居るってことは、桂城くん、よね?』

『……あっ。はい、はいそうですはい!』

 

 やちよと合流したとき、一瞬だけ向けられた底冷えするような視線。鶴乃とのファーストコンタクトを経ておおよそのことを察したシュウは冷や汗をだらだらと流していた。

 

 ――あとから話を聞けば、やちよもまた魔女との交戦中に魔女守りのウワサなる存在に妨害を受けていたとのことで。凄まじい身体能力を誇っていたという彼に打ち勝ちこそできなかったものの互いに決定打のないまま半刻を過ぎるまで激戦を繰り広げ感謝の言葉とともにウワサが離脱するまで耐え凌いでいたとのことらしい。

 おかげで魔女も逃がしてしまったしとんでもない厄介者だったわとため息をついたやちよの言葉にベテランの魔法少女として君臨する彼女の実力を知るいろはが驚愕の表情を浮かべるなか、頭の後ろで腕を組むフェリシアが首を傾げていた。

 

「なあそのなんたらファイル――」

「神浜うわさファイルよ」

「――それにさ、シュウの(ツラ)したうわさ? って奴のこととかのってねーの? ほら、テレビでよくやってんじゃんドッペルゲンガーだなんだって」

「ドッペルゲンガーだと俺が死んじゃう奴だからアウトなんじゃないかなあ……」

「……残念だけど、そういった怪奇現象は神浜では起こってはいないわね。例外は鏡の迷宮(ミラーズ)くらいのものだけど、アレは性格が反転することはあっても武器や服装まで変わるってこともないからまずないとみていいわ」

「……」

 

 ちらりと、果てなしのミラーズで遭遇したコピーに()()()()()()()()()()()()()いろはとシュウが目を合わせるが……ここで話すと空気がいっそう殺伐になる話題でもある。沈黙は金と口をつぐんだ。

 実際、ミラーズに寄っての訓練でもいろははナイフを出せていた。本人ですら普段用いることのない魔法少女としての副武装をミラーが使うこともあると留意するに留める。

 

 口寄せ神社を探すにあたり、5人はやちよが地図に纏めた水名区内の神社を順に埋めていく形で移動している。道中鶴乃が発見した町興しのスタンプラリーが丁度口寄せ神社に関わるものだったこともあってスタンプを集めつつ区域を回っていたが……そこで、やちよとじゃれ合っていた鶴乃がくるりと振り向いてシュウに声をかける。

 

「ね、ね、シュウくん、いろはちゃん聞いてもいい?!」

「……鶴乃」

「えーだってこれから縁結びのスポットによるんだし付き合ってる子たちの話とかやっぱり気になるよー! 大丈夫、嫌だって言われたらしつこく聞いたりはしないから!」

「つ、鶴乃さ――鶴乃ちゃん?」

 

 当初由比さんと呼ぼうとしたのを圧倒的な押しで名前呼びにさせられたいろはの声に、ポニーテイルの魔法少女はにこやかに笑って頷く。制止するように呼び掛けていたやちよも何か思うところがあるのか、興味を露わに視線を向けていた。

 学生生活の間ですっかり答え飽きた疑問の気配に少年も苦笑するが……かといって粗雑に対応するのもまた違うだろう。目を爛々と輝かせる鶴乃の次の言葉を推測し仕方ないかと苦笑する。

 

「ずばり……2人が付き合うようになったきっかけは、なんですか!! 戦えるっていっても男の子が魔法少女手伝って魔女退治にまで行くだなんて相当だよね!」

「……あー……」

「つ、付き合うきっかけ? えっと……そ、そんな、特別なことなんてあんまり……もう小学校に入学する少し前くらいからの一緒だったので……」

「中学に入る少し前くらいにいろはから告られてって感じだね。自分としては断る理由どころか喜んで受け入れてたし――」

「おぉー、じゃあ結構付き合い長いんだ! いいねー青春だねぇ! ふんふん! じゃあシュウくんいろはちゃんのどんなところが好きなの?!」

 

「……」

 

 ぴたりと動きを止めた少年はちらりと顔を赤く染めるいろはに視線を向け、次いで彼女を見て微笑まし気に目元を緩めてる鶴乃を一瞥する。

 

 それは――、自分への挑戦状か何かと思っても良いのだろうか。

 

 流石に、漫画やアニメのように一晩費やしても語り足りないとまでは言わないが。それでも1時間2時間くらいならば容易に削り切れるという自負がある。10年近い付き合いがあるのだ、そのくらいは彼にとって当然のことだった。

 まずどこから語るべきか、そもそもウワサを探さなければならないのにそこまで長時間語れるのかを判ずるのに暫し葛藤し。煩悶の末、彼女の名誉を傷つけない範囲で端的に語ることに決める。

 

 

「あー……短く纏めると、そうだな……。俺を最初に受け入れてくれたこと、料理が上手なところ、苦手なところも頑張って練習すること、基本的にどんな人にも親切で相手を尊重していること、妹や家族を本当に大切にしているところ、普段はおとなしいのにいざというときは絶対に譲らないところ、あとは……普段の私服がちょっと子供っぽいのにたまに凄いいろk――」

「ふあ。ぇ、――シュウくん待って、待って、ぜんぜん短くない短くないから!!」

「えー、まだ全然……これでもだいぶ削ったんだぞー……?」

 

 悲鳴をあげる恋人に思わず唸る。自制しなかったらだいぶ卑猥な方向に寄っていただろうことを思えば随分と穏便な選出だったと思うのだが彼女はあまりお気に召さなかったようだった。

 顔を真っ赤にしたいろはがしがみついて止めてくるのに口元を緩める。もっといろはの好きなところ語りたいなあとぼやきながら抱き寄せると、ぱちぱちと目を瞬いた彼女はやがて自分の背後から突き刺さる視線から逃れるように真っ赤になった顔を少年の胸板に埋める。

 

「わぁお。……え、フェリシアフェリシア、もしかしてあの2人いつもああなの?」

「ん? ……ん~~~確かにいつもくっついてるけど外じゃあんまりぎゅーってやったりしてないからなあ。家にいるときは2人一緒の部屋で寝てるくらいだしまだ加減してる方じゃね?」

「家……ふーん家……んん!?」

 

「……ほら、鶴乃落ち着きなさい。環さん桂城くん、こっちに。ずっとそうしてると人目につくから節度も弁えないと……」

 

 まったく、うわさの捜索に半端な気持ちで関わっても碌なことがないのにとぼやきながら窘めるやちよに、抵抗もせずに抱き寄せられてたいろはの感触を堪能していた少年は周囲の気配を確認しながら彼女のもとに合流する。

 ……あまり意識していなかったが、いざ指摘されるとこの集団は相当悪目立ちする系列であるように思えた。

 人気モデルの七海やちよをはじめとしてこの場に揃うのは全員が全員美少女と呼んで差し支えない容貌を持つ少女たちだ。女性陣だけで固まっているならば仮にやちよのファンがいたとしても過剰な反応を浴びはしないとは思うが……その輪の中心に両手に花と言わんばかりに黒一点が居座っていれば認識も変わる。それこそ自分たちにそのような意図はなくともあらぬ嫉妬や好奇心に駆られる輩に無用な詮索を受けることもあるだろう。

 ……神浜を頻繁に訪れる都合上、一般人相手に面倒ごとを起こすのも巻き込まれるのも遠慮したい。やちよのような有名人といるときもそうだが他の魔法少女と接触するときも注意する必要はありそうだった。

 

 いまだに頬を熱くしているいろはを連れつつ、少年はスタンプラリーを埋めながら神社を回っていくが――現状口寄せ神社に関連したうわさの手がかりも空振り続き、進捗は上等とは言えなかった。

 

「んー……絶交ルールって絶交してから仲直りするだけで現れたんだろ? 口寄せ神社がどんな場所かはわからないけどさ、神社を回る以外の特別な条件もいるのかね。……やちよさん、そこらへんどうなんですか?」

「その可能性は十分あるわね。けれどSNSを用いて『口寄せ神社』に辿り着いたと発信した参拝客の数は両手の数じゃ足りない……そのすべてが本当に辿り着いたとしたら入り込むための条件も決して難しくはないはずよ」

「……伝承の女のひとが男性と再会したように、みんな……もう一度大切なひとに会いたいと願って、この神社に来たのかな」

「……そうだな」

 

 既にラインナップされた神社はすべて回り終え、一行は水名神社を訪れていた。

 やちよと改めて情報を確認し合うなかで己の疑問に応じたどこか物憂げな恋人の声にいろはが振り向けば、得物を納めた竹刀袋を背負う少年は困ったように笑っていて。

 

「……もし、本当に会えるっていうんなら。久々に、家族の顔でも見たくなったりもするのかもな」

 

 

 






ななかさん√、ないではないけれど殺伐度はほんのり増すし並行世界の使者フラグ踏んだり昼ドラやったりするので自分殺しフラグ回収するか殺し愛やらかすか爛れたハーレムやっちゃうかワルプルギス討伐RTA達成するかとだいぶ修羅の道になる

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