環いろはちゃんと共依存的にイチャイチャしたい人生だった   作:風剣

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神社の在処

 少し、違和感があった。

 

 得物を振り回し魔女の使い魔を叩き伏せていたときに覚えた僅かな手応えの変化。微かな差異に眉を顰めた少年が荒削りの木刀を見てみれば、串刺しにした使い魔から魔力を吸い上げずしりと重くなった黒い刀身が僅かに鋭くなっていて。

 足場に突き立てれば抵抗なく地に突き刺さる刃先に、刀ほどとはいかずとも普段鈍器同然に用いていた黒木刀が鋭利な刃としての殺傷力を得ているのを悟る。

 

 ――もっと喰わせろとでも言いたいのかね、こいつは。

 

 取り回しに少し……いや戦闘中もそうだが持ち歩いているときも竹刀袋を自重込みであっさり破り裂きかねないことも考えれば非戦闘時にこそかなりの注意を払わなくてはいけないかもしれない。

 検分してた黒木刀を握り腕を霞ませた少年は、横から襲いかかった使い魔を抵抗なく両断してのけてしまえたのに渋い顔になる。

 

 ここにきての唐突な変化。これまでの魔女や使い魔との戦闘を経て喰らった魔力が一定の値を超えたのか、この神浜という街に多くの魔女を誘引されているらしい事象に何か関係があるのか。

 あるいは――。

 

「おぉりゃあああああ!!」

 

%_\・#$̟+*!?

 

 結界全体を揺るがす衝撃。前方で噴き上がる土煙とともに使い魔の悲鳴があがり、更なる爆音が続いて魔女の縄張りを破壊していくのを見たシュウは思考を打ち切ると地を蹴り駆け出していく。

 すれ違いざまに包装紙を束ねたような姿の使い魔を真っ二つにしつつ、魔女の手下たちの亡骸からばらまかれたカラフルな紙の散乱する前線に到達した少年は、結界を構成する可愛らしい柄の天幕やわふわとした大地を引き千切り打ち砕いて暴れる魔法少女を確認すると数の圧力をもって封殺せんと彼女に纏わりついていた使い魔たちを黒い軌跡を奔らせ切り裂いた。

 

 大丈夫かと一声かけようとした鼻先を、使い魔を粉砕するべくぶん回された大槌が掠める。

 

「ぬぉ……!?」

 

「うぉぉ!? しゅ、シュウ突然こんな近くまで寄ってくんなよ! あと少しで思い切りぶっ飛ばしてたぞ!?」

 

「い、いや今のはすまん流石に無警戒に近づき過ぎた! ――っとぉ! こんなところで、考え事するのもよくないか!」

 

 群がる使い魔を次々と屠る少年の視界に、結界に突入するなり奥へ奥へと突っ込んでいたフェリシアと交戦していた魔女の姿が映る。

 ウサギのぬいぐるみのようなシルエットをする魔女はハンマーの一撃を浴びたのか、鋭い牙の生やした耳の一部を欠損させ薄暗い体色の肌から綿と骨を露出させながら手下さえも蹴散らし走り寄ってくる。迫る巨体の魔女は傍目からでもわかるくらいに怒り狂っているようだった。

 

■◇▲☆◎□!!

 

「うぉー、すっげー怒ってる」

 

「まあこうも盛大に荒らし回られたらなあ、怒りもするだろうさ。……あの程度なら真上から潰せばいけるな。フェリシア、俺が牽制いれるからそのタイミングで大技一発頼む」

 

「オッケー、任せとけ! ウルトラグレートビッグ……シュウ?」

 

 轟轟と魔力を迸らせ二房に結わえた金髪をはためかせるフェリシア。構えた大槌を膨張させ自慢の必殺技で憎き魔女をぺしゃんこにしてやると息巻いた彼女は、今まさに黒木刀を魔女に向け投げ放とうとしていたシュウがぴたりと振りかぶっていた腕を止めるのに怪訝な顔をしたが……少女もまた付近に迫る魔法少女に気付いたのか、肥大化した大槌を担ぎながら上方を見上げた。

 ――桃色の矢と蒼い槍、流れ星の如き尾を引いた2色の光が飛来する。

 

☆◎■◇▲〇!?

 

 認識の外からの掃射、結界内部で好き放題暴れ手傷を負わせた侵入者に我を忘れた魔女に抵抗するすべはなかった。上方から降り注ぐ矢と槍に打たれ身を削られる魔女は、苦し紛れに硬質化した耳ごと槍に頭部を穿たれ膝をつく。

 だぁらっしゃ――!! と気合十分の炎扇を叩き込んだ鶴乃の猛攻が致命打となった。

 

「……がぁー! 横取りされたー!!」

 

「どうどう、もともと後からくるって話だったししゃーない。ほら、魔女ならその気になれば幾らでも狩れるから」

 

「……ぬー」

 

 不満げに唸る少女に目を細め、宥めるように頭を撫でるシュウはふと思いついた案にちらりとフェリシアを一瞥する。

 

「フェリシア、一発これ思いっきり叩き潰してくれない? これ魔法少女の武器と違って消したりできないから鋭いままだと危ないんだよね」

 

「んぁ? ……思いっきりでいいの? そんじゃあ――ズッドーン!!」

 

「何やってるの!?」

 

 主を失い今にも消え去ろうとしていた結界に止めを刺す衝撃。魔女を倒し合流しようとしていたところで少年の間近に叩きつけられた大槌に蒼白になって駆け寄ってきたいろはに平気だと伝えたシュウは、フェリシアの攻撃を受け陥没した地面に転がる黒木刀を拾い上げ目を細める。

 ……刀身のほとんどを地面に埋めるようにしていたのを回収された黒樹の刃には、ほとんど傷がついていなかった。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 ――恐らく最初から全員で攻めかかっていれば2分もかからなかっただろう。少なくとも今はそれができるだけの戦力が十分に整っていた。

 調整屋へ足繁く通って魔力の強化を続けているいろはを除いても街中に蔓延る強力な魔女を打倒するに足る能力の持ち主が3人もいるのだ、本来ならシュウが前に出ることすらできぬうちに終わっていたのかもしれないが……それができなかったのは他に、適材適所でこなしていかなければならない案件があったということだった。

 

 穢れが溜まったフェリシアのソウルジェムをグリーフシードで浄化し、近場の100均で購入した梱包材を仕込んだ竹刀袋に収納する黒木刀を恐る恐る担ぐ少年は2人に遅れ駆けつけてきた魔法少女たちに視線を向ける。

 

「……で、目当ての買い物はできました?」

 

「えぇ、環さんと鶴乃の協力もあって1人で買える量に限りがあるものもしっかり確保できたわ。桂城くんとフェリシアが魔女の相手をしてくれたおかげでタイムセールのコロッケも買ってくることもできたの。……良かったらフードコートに寄って食べてみる? ホクホクで絶品なのよ」

 

「えっ何それ何それ、食べるー!」

 

「あっそれなら俺も。……あー随分買ったんですね。なんでもポイント10倍って聴くと結構魅力的に感じるし帰る前にこの店で使えるポイントカード発行してくかな……」

 

「この街に定期的に通うなら良いんじゃない? 気になることもあるし少し休憩したらまた水名神社に行きましょう」

 

 ――噂や伝承、町興しキャンペーンで集めた情報のなかで口寄せ神社に合致する唯一の場所でもあった水名神社を含め、水名区内の神社を巡っての口寄せ神社探しは失敗に終わった。

 

 地図にも載っていない神社があったのか、あるいは口寄せ神社に至るまでに何かしらの条件があったのか。ともあれ、学生である魔法少女たちが目的地を見つけ出す目処もたたないなか街をうろついている訳にもいかない。ひとまず今日の捜索を諦めた一行が帰路につこうとすると、通りがかったショッピングモールでやちよがある貼り紙を見て愕然としていて。

 7年間魔女と戦い続けてきたベテランであり、学生の身、魔法少女の身でありながらモデルとしても活動しているという彼女は、その怜悧な美貌に後悔を滲ませ、絞り出すようにして言った。

 

『今日が……ポイント10倍デーだっただなんて……!!』

 

『なんだって?』

 

『おい、魔女の気配すんぞ……! くっそどこだ、ぶっ潰してやる!!』

 

『っ……、魔女!? まさか、魔女もポイント10倍を狙って……!?』

 

『……………………あ! そうか、人が集まるから……?』

 

『おぉーなるほど! いろはちゃん賢いね!』

 

『くっ、魔女を逃がすわけにはいかない……、けれどタイムセールを逃すのは……!』

 

『……あっ、俺とフェリシアで魔女適当に引き付けておきます。流石にあいつ無視して人食いに走ることのできる魔女もいないと思うので安心して買い物いってきてください』

 

 フェリシアの評判……傭兵を名乗るには厳しい暴走癖を知っているらしいやちよは暫し迷っていたようだが、魔女の気配を察知したフェリシアが走り去っていくのを見ると諦めたように息を吐いて頷く。

 

『無理は、しないでちょうだいね。……実際に戦っているのを見たことはないけれど、桂城くんもあのウワサに迫るだけの実力は持っていると期待して良いのかしら?』

 

『さ、さあ……多分ですけどアレかなり厄介なタイプでしたよね、なんかすいません……』

 

『最終的に物量でゴリ押したわ、途中かなりの大技使われそうだったし危なかったわね』

 

 そうして一時的に別行動をとり、ショッピングモールに現れた魔女を打ち倒しポイントデー、タイムセールで買ったものをコインロッカーにしまってショッピングモールを離れた5人。

 やちよに先導され水名神社を訪れた彼らは、夕日も沈んですっかり暗くなった街路を進み閉じられた門を見上げる。

 

「――町興しや噂の元になった民話を覚えている? あのお話では女の人は死んだはずの男と再会したでしょう」

 

「幽霊が出るのは夜……だから、朝や夕方に参拝しても、口寄せ神社には行けなかった?」

 

「えっ、と……しまってますけど……?」

 

「参拝時間が終わって閉じてるからね。けれど今なら参拝をすればウワサが発動する筈よ」

 

「それはまた……」

 

 つまり、閉じられた内苑の門に侵入しようということだった。

 この場に居合わせる魔法少女たちの様子を伺うも、今のところ反対意見はなし――いろははやはり不安そうな顔をしているものの、口寄せ神社のウワサを用いれば消息を絶ったういにも会えるかもしれないと意気込んでいるようだった。

 ……シュウの方も、死者にさえ逢えるかもしれないこのウワサに関して興味がないというわけではない。今更ここで後に引くという選択肢はなかった。

 

 

アラモウ聞いた? 誰から聞いた?

口寄せ神社のそのウワサ

家族? 恋人? 赤の他人? 心の底からアイタイのなら こちらの神様にお任せを

絵馬にその人の名前を書いて行儀よくちゃーんとお参りすれば アイタイ人に逢わせてくれる

だけどもだけども ゴヨージン! 幸せすぎて帰れないって水名区の人の間ではもっぱらのウワサ

キャー コワイ!

 

 

「やちよー! 私だけひとりぼっちなんて嫌だよー、私も口寄せ神社行きたいよー!!」

 

「駄目よ、中で何が起こるかわからないんだから無防備に全員突っ込んでいくのも不味いでしょう。……最後の絵馬もフェリシアに取られちゃったし、鶴乃はここで待機していて。……そんな顔をしたってダメ」

 

「……う~」

 

 既に一度水名神社を訪れ調べを進めていたやちよからウワサの内容は伝えられている。午前に参拝した段階で購入していた自分といろはの絵馬にそれぞれ逢いたい相手の名を綴っていると、ごねにごねてやちよから予備の絵馬を貰ったフェリシアがシュウを見上げ目を丸くした。

 

「あれ、いろはは妹に会いに行くとして……シュウはどーすんの? 誰に会うんだ?」

 

「俺? 半年前失踪した母親。フェリシアは両親?」

 

「……ん。何が起こるかわかんないからふくすーの名前は書くなってやちよのやつに言われたからかーちゃんにする」

 

 聞き耳を立てていたらしいやちよが物凄く気まずそうな顔をしているのに気付いて罪悪感を覚えつつ、肩に担ぐ黒木刀を置いて絵馬に母親の名を綴った少年は、名前を書かれた絵馬が浮かび上がってどこかへ飛んでいくのに年長の魔法少女がたてた推測が正しかったことを悟る。

 

「さて。蛇が出るか鬼が出るか――」

 

 どこかで。

 カラスの鳴き声が、聞こえた気がした。

 

「……」

 

「シュウくん?」

 

「シュウ、行こうぜー?」

 

「……あぁ、そうだな。うん」

 

 景色が移り変わる。

 

 本殿の前に進み出ていろはと並んで水名神社で手を叩き頭を下げ――魔女のそれとも異なる魔力の気配に目を開いた少年の眼前に広がるのは、つい先ほど通ったばかりの参道も消え失せ、本殿の社を中心に紅の橋が幾重も伸びる神秘的な世界だった。

 

「――うい」

 

「……いろ、は」

 

 ()()()()()()に妹の姿を見出したのか、呆然として誰もいない橋の方向に歩いていく彼女に警告を飛ばそうとして。少年もまた、己が絵馬に名を綴った人物が本殿から伸びる橋に現れたのを見て絶句する。

 

「やっほー、シュウ。元気だった?」

 

「――母、さん」

 

 半年前、父親と家主の老婆が命を落とす数日前に消息を絶った家族。

 行方知れずであった母親が――桂城理恵が、目の前にいた。

 

 




いろいろと並行したりしなかったりして執筆中
近いうちにR18マギレコ短編書いたり企画に間に合えばバトルものの短編も書けるかも

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