環いろはちゃんと共依存的にイチャイチャしたい人生だった 作:風剣
お待たせ、課題に追われ仕事に追われ剣盾にスマブラに追われようやく更新までこぎつけました。筆が動くだけ文量が想定超えて膨らむのどうにかしたい。
ひとまずえろはちゃんメインでR18投稿したけれどやっぱR18だと遠慮とかなしに好きなこと書けるのいいよなあと思ったりしてる。
「──シュウくん?」
その声は震えていた。
口寄せ神社のウワサ、四方八方に存在する木造の広間や建造物を幾重ものの橋が繋げる結界。
戦闘の過程で消耗したいろは、彼女を庇うようにしてウワサと戦闘を繰り広げていた七海やちよは先ほどまで自分たちのいた社の方向から響き渡る破砕音と、戦闘の途中から感じ取れなくなった魔法少女の魔力と対応するようにして新たに生じた魔女の気配に蒼白になる。
「まさ、か──フェリシアが……!?」
「シュウくん!!」
「あっ……環さん!」
上方から墜落してきた異形の魔女と、ソレによって叩き落とされ橋のひとつに堕ちた少年。血相を変え土煙をあげる現場へ走り出していくいろはに、僅かな逡恂を挟んでやちよも続いた。
「や、やちよ! 一体何が、フェリシアは?!」
「……それを今から確認してくるのよ! 巴さんは私たちと来て、鶴乃はショッピングモールの魔女のグリーフシード残ってたらちょうだい! あと──5分、できれば10分の間あのウワサを引きつけることはできる!? 別に正面から戦えとは言わない、結界の建物壊してくれればそれで十分怒らせられるはずだから!」
「──はい、これグリーフシード! ウワサは任せて、この最強の由比鶴乃がけちょんけちょんにしてやるぞー!」
倒す必要はないのだと念押ししたくなったが、今はその高らかな言葉がこれ以上なく頼もしかった。グリーフシードを投げ渡しながらの言葉に背中を押され、現れたウワサとの交戦中に割って入って手助けをしてくれた魔法少女とともにいろはと新たに表れた魔女のもとに向かっていく。
そして、そこで目撃する。
眠るように意識を失うフェリシア、彼女の腹部から飛び出した臓器と繋がる、鋼の蹄を金属の腕で持ち上げた異形の魔女と。
目にも止まらぬ速さで飛び出し、振り抜いた黒木刀で魔女の閉じられた眼をかちあげた少年を。
***
何年か前。家族で暮らす家の家主である老婆の亡くなった友人のところに、両親を含めた四人で墓参りに行ったことがある。
小さい頃からずっと一緒に居たという幼馴染、智江が学生の頃に亡くなったという彼女の墓の墓参りには母親も付き合っていたようだが、自分がそこに訪れるのは初めてのことだった。
霊園にありふれた墓石に目立つ特徴はない。少なくとも場所を記された地図か通い慣れた家族抜きでは絶対に辿り着けないような地味な位置にあった墓を掃除し供え物を置いて手を合わせて。頭数も増えたからすぐにお墓が綺麗になったと喜んでた母さんの隣で、あの人は墓参り先にまでついてきたカラスの頭を撫でながらあまりに穏やかな表情をしていたものだから――帰り道で、どんな人だったのか聞いたのだ。
途端に、あの人はしわくちゃの顔をしかめ面にして。とんでもない奴だったよと、憎たらしげにした。
『泣き虫の癖に、物凄く図々しかったね。普段はしおらしい態度して、願い事を聞かれたら2つも3つもお願いするような奴だったし。たまに気が弱いんだか強情なんだかわからなくなるような女だった』
いろはちゃんに少し似てるね、ほんの少しだけね。アレはほんと最悪な女だったけど。
罵るような口振りをしておきながら、その横顔に邪気はない。懐かしむように目を細めたあの人は、一転して渋い表情になると眉根を寄せながら言った。
『シュウはいろは……身内と認識してる女の子にだいぶ甘い気がするけどね、少しは接し方を考えた方が良いと思うよ。女は怖いからねぇ。……隙を見せて呪われないようにしな、一生後悔するからね』
『……依存はさせるなってことだよ。アレも私以外の子との付き合いはなかったからねえ。ちゃんと構ってあげないといざというとき一番嫌なタイミングで背中刺されるかもしれないから気を付けなさいな』
縁起でもないことを言い出した老婆に、なんてこと言うんだと言い返そうとして――、そこで、家族の姿が遠ざかる。
そこで、少年は自分が倒れていることに気付いた。
「……あ?」
軋む体。異形の呻き。左腕から奔る激痛に身を竦ませた少年が腕を庇いながら上体を起こすと、目の前にはバケモノの頭があった。
『Vzz、耳、stっゆ……』
「――え、えぇ……」
動転も悲鳴もない。衝撃も恐怖もここまでくれば一周回ってさっきのは走馬灯なのかなあ、などと思いを馳せる余裕さえあった。
最悪な目覚めに唸りながらも、目の前の魔女がこちらに鋼の蹄を叩きつける素振りも見せずに苦し気に唸っているのに気付くと目を見開いてふらつきながら立ち上がる。
――フェリシアの腹部を突き破って現れた魔女は、彼女と繋がる臓腑を穿つようにして黒木刀に縫い留められていた。
「あー……そうか、これ俺がやったんだったな……」
魔女の一撃を浴びて砕かれた左腕を折り曲げながら、不気味な鳴き声をあげる魔女を見上げる。
金属塊に叩き潰されながら浴びせたカウンターが一発、着地直後に頭部に3発。如何にも急所らしい単眼を覆うゴムのような感触の瞼に斬撃が通らなかったこともあり、頭部狙いを諦め鋼の追撃を躱しながら橋から橋へと飛び回って攪乱した彼は意識を失うフェリシアを引きずりながら己を追う魔女を真上から黒木刀で刺し貫いて動きを止めていたのだった。
……とはいえ、少しばかり無理をし過ぎた。首元をぶちぬかれ苦し気に身を揺らす魔女からよろよろと離れようとしたシュウは、橋のうえに倒れ込みそうになったところで駆け寄ったいろはに支えられる。
「シュウ、く――、……ぁ」
「……」
怖がらせてしまったかなと。まともに魔女の一撃を浴びてグロテスクな色彩になった腕を見て蒼白になるいろはにぼんやりと思っていると、きゅっと唇を引き結んだ彼女は少年の腕に手を翳し淡い光で包み込む。
治癒の光。半ばひしゃげかけていた腕がみるみる元の形を取り戻していくのに驚かされながらも、傍らの少女に礼を言おうとしたシュウは――がばっといろはに抱き着かれ目を瞬く。
「いろは? 心配させたなら悪かったけど、もう大丈夫だから……、――いろは?」
「……ん、うぅん、なんでもない。ごめんね、急に……痛くなかった?」
「あぁ、おかげでだいぶマシになったけど……、いろは、今――」
『Q。Pu iイ、Glaザザザザ……!!』
背後から伝わる振動に振り向いた少年の目の前で、動きを止められていた魔女がずるりと起き上がる。
首に突き刺さる黒木刀の重量に苦しみながらも足場に鋼の蹄を突き立て、己を貫く刃の刀身を赤黒い体液で染めながら起き上がった魔女は、瞼の閉じられた単眼を2人に向ける。
「シュウくん……! ――ぇ?」
「……あぁ。傷を治してくれてありがとう、いろは。ちょっと待ってろ、俺が――」
身構えるいろはだったが……ソウルジェムを今まで見たことがないくらいに濁らせた彼女が気力だけで立っているのは明確だった。彼女を押しのけ魔女と相対しようとした少年はいろはの肩に手をかけ、そこで動きを止める。
「……?」
『㋜羽胡Lウuu――』
違和感があった。
意識を失うフェリシアと繋がる異形から漂う気配は、なるほど魔女のものだ。呪いを振りまき人を惑わせ獲物を貪る怪物、目の前の存在から感じることのできる魔力は何らそれと相違ない。
……他の魔女と比べて小柄ではあるが、小さい魔女も今まで見たことがない訳ではない。寧ろ鋼の蹄から繰り出される破壊力は神浜の魔女と比べても凄まじいもので決して見劣りするようなものではなかった。
でも、それならば何故。
自分は、瞼の閉じられた瞳から泥の涙を流す魔女に。蛹から羽化し損ねたまま外に飛び出した未発達の蝶でも見るような、半端さを感じているのか――、
「危ない!!」
『U■卯蟻G飴GI!?』
雨の如く浴びせられた銃撃。体勢を崩した魔女は、重機を思わせる金属腕に抱える塊の自重も相まって銃弾の掃射を浴び脆くなった橋を破壊しながら結界下層に落下していく。
半ばから崩れ落ちた橋の上に佇むシュウといろは、彼らの側に銃器を携える魔法少女──巴マミが軽やかに着地する。浮かない表情の彼女は撃墜した魔女を見下ろし絞り出すように呟いた。
「魔女が、魔法少女に擬態……いえあれは、寄生していたの……?! この街の異常を調べに来て
「……」
先ほどから溢れるように湧いて出てくるようになった使い魔に対応していたのだろう、マミに遅れ駆けつけたやちよはフェリシアから飛び出した魔女の残した破壊痕を確認しながら沈痛な表情で俯く。ベテランの魔法少女も動揺を露わにする金髪の少女に対し何も言えないでいるなか、結界全体を揺らすような破砕音が響き渡る。
下層に点在する広間のひとつに激突し転がった魔女の鋼の蹄が踏み鳴らされ、付近の構造物の悉くが打ち壊される音だった。
片膝をついたやちよがいろはのソウルジェムにグリーフシードを当て浄化するのを尻目に、マミの銃撃の衝撃で魔女ごと下方に堕ちていった黒木刀を呼び寄せたシュウは、想定以上の衝撃をもって飛来してきた黒木刀の柄に掌の皮膚が削られるのも構わず強引に掴みながらその聴覚で接近する化生の備える車輪の回転音を知覚する。
「ごめーん! なんとか抑え込んでたんだけど急にそっちの方に向かっていって……、ありゃ、下?」
『嘴■躯敬・不赦廼烝痲々縺――!!』
『GGGG!? 駄ㇾレEE重★!!』
響き渡る激突音。顔色を変えた一同が下層を見下ろすと、暴れ回る魔女にぶち当たったウワサの横っ面を単眼の怪物が振り抜いた金属塊が深々と抉っていて。戦闘を繰り広げている間総攻撃を浴びせても尚傷一つつけることの叶わなかった魔法少女たちが驚愕の表情を浮かべる。
「嘘……確かにかなりのパワーだけど、あのウワサに傷を……!?」
「いや何あれ、魔女!? アレお腹から出てるけどまさかフェリシア、グリーフシード食べてたとかないよね!?」
「……けれど、だいぶ衰弱しているみたいね。今の一発はかなり効いたみたいだけどだんだん押し込まれてるわ」
――鶴乃の素っ頓狂な発言も、状況を見る限りでは否定しきれないものがあったが。
何らかの相性でもあったのか、フェリシアと繋がる魔女の一撃は確かにウワサに対しても有効打を与えたようだったが……先ほど少年の連撃に打ち倒され黒木刀に貫かれた時点で甚大な損耗が生じたのだろう、その動きはひどく重々しい。一度距離を取って体勢を立て直したウワサは毒々しい色彩の水球を次々と鼻から生成しては撃ち放ち中距離から魔女を追い詰めている、形勢はウワサの優勢になりつつあった。
「儭アa、蔟……!?」
閉じられた瞼から溢れた泥の涙が膨れ上がり、濁流となって極彩色の巨体に迫るが届かない。虚空をカラフルな車輪で駆けぬけるウワサが頭から生やす蛙の足が伸び、すれ違いざまに魔女の頭を強かに蹴りつけた。
魔女と腹部で繋がって倒れるフェリシアのすぐ横を、ウワサの車輪が通り過ぎる。
「フェリシアちゃんが……!」
「……ちょっと、下に降りてきます」
「シュウくん……!?」
息を呑んだいろはの隣を通り過ぎるようにして破壊された橋から飛び降りようとすると、背後から伸びた細い手にがっしりと腕が掴まれる。
治癒の魔法を施されたばかりの左腕に、痺れるような痛みが駆け抜けた。
「ずぅ……?! なな、みさん……!」
「……環さんのおかげでカタチは整ったみたいだけど、まだ万全ではないでしょう。私が行くわ、無理はよしなさい」
「っ――、だからって放ってはおけないでしょう。あのウワサが魔法少女に耐性が強くてそれ以外に対する防御が低いのなら、俺の攻撃が一番刺さります。というかウワサに傷一つつけられないなら気を引くことだってできないでしょう、俺が行かなきゃどうしようもない。
……だけど多分この状態じゃあ使い魔の相手割りと本気でしんどいです、まだ余裕が残ってるなら援護お願いします」
「……使えるものはなんでも使う主義だったりする? まあ落としどころとしては妥当なところかしら。なら私と巴さん、桂城くんで下へ……、鶴乃と環さんは退路の確保をお願い」
「えぇー!?」
異を唱えたのは鶴乃である。魔法少女の姿に変身しこれまでウワサと交戦していたのだろう彼女は「私も戦うよー!」と鉄扇を振り回しながらやちよの指示に反抗したが……すっと近づいたベテランの魔法少女が頭を小突くと倒れこそしなかったものの体勢を崩してたたらを踏みかける。
「あっ……」
「ちょっと押しただけでそれだもの、ウワサと戦って魔力もすっからかんなんでしょう? 無理をしないで待ってなさい」
「うぅ~、わかったぁ……」
「あ、あの! 私まだ戦えます、やちよさんにグリーフシードを貰えたのでソウルジェムも余裕がありますし!」
――これ以上時間をかける訳にはいかない。
決めるのなら早くしなさいと視線を向けるやちよに渋い顔になったシュウは、一言二言をいろはに囁くとそのまま飛び出していく。
やちよやマミも追従するように橋を飛び降り。いろはは、彼に伸ばそうとした手を彷徨わせ瞳を揺らした。
「……シュウ、くん」
***
嫌に耳に響く擦過音を鳴らして、魔女の体が崩れ落ちる。
毒素の水弾、高速のタックル、頭に生えた足を用いた蹴り。どれも単純な動きでこそあれ、それに対応するだけの機動力も反応速度も魔女にはない。限られた攻撃手段もほとんど当てることのできないまま執拗に攻め立てられる魔女が一方的に追い詰められるまでに時間はなかった。
『ギ、gA蛾、z……』
「……」
身を構成する肉塊の色をくすませて、鉄骨を軋ませる魔女が溶けるように消えていく。後には意識を失ったフェリシアだけが取り残された。
『齊達清馘躄傭……』
口寄せ神社を無秩序に破壊する脅威を打倒したウワサ──マチビト馬のウワサは、黒い目を蠢かせて倒れる魔法少女を俾倪する。
天敵は消えた。まだ侵入者は残っている。倒れている少女もまた、
口寄せ神社にて展開される世界の理を乱す者は敵である。この社を荒らす者は敵である。ならば──ただ討つのみ。
ほとんど機械的にそう判断を下したマチビト馬は、頭部の足を伸ばし少女を叩き潰そうとして。
真上から落下してきた少年の斬撃が、頭部に打ち込まれる。
『縺縺!? 悶幟蘊窘桿……!』
「っ……」
黒い刀身が深々と頭部から伸びたカエル脚に食い込み――けれど、断ち切るには至らない。落下の勢いと刀身に貯め込んだ魔力の放出に彼の腕力を乗せても致命打には届かないと理解したシュウの顔が歪んだ。
肉を裂き、そしてめりこんで止まった黒木刀を手放した彼は真上からの衝撃に広間の木材に車輪を埋めたウワサの反撃を浴びる直前に鼻を蹴り潰しながら跳躍し、太い足の半ばまで刀身を埋めた得物を己の元に呼び寄せると新たなる脅威に反応したマチビト馬の胴を切り裂きながら交錯する。シュウに意識が釣られた隙を逃さずに伸びたリボンがフェリシアを回収していった。
『憶夲!? 紜亟逡皎凌縺遺!!』
「どうした、獲物取られたのがそんなに不満かよ。……フェリシアのアレにお前が直接関係してるとは思わないけれど、原因のひとつであるのは間違いないからな。意味のわからないモン見せられた分も、きちんと返させてもらうぞ」
黒木刀を構え啖呵を切りながらも、少年の顔色は悪い。
いろはの治癒を受けたとはいえ、フェリシアから飛び出した魔女の一撃を浴びた利き腕は常に激痛を発して彼の神経を蝕んでいる。そして攻撃の通りも悪い……、木刀の切れ味が鈍いのもそうだが、弾力のある毒々しい色彩の肉塊は斬撃を易々と通すことはできない。魔女を打倒するためには不規則な動きをする頭部のカエル足をくぐりぬけ急所に斬撃をお見舞いしてやる必要があった。
だが、ウワサの方にも決して余裕がある訳ではない――、魔女の剛力に叩き潰されたのはこちらも同じ、シュウに封殺され魔力もほとんど削られていたとはいえ鋼の蹄に抉られた顔には硝子細工がトンカチで叩き割られたような罅が走っていた。初撃の斬撃によって生まれた傷をシュウのもとに黒木刀が飛来する際に裂き開かれた頭部の片足はくてんと曲がり肉の断面を除かせている。
……可能なら逃げ出す心算ではあったが、結界の深部に
ウワサと衝突した。
「いっっ……てぇなクソがっ!!」
「縺藻鮴夢那珂!!??」
不安があった。
自分は、彼の役に立てているのか。
自分は、彼の力になれているのか。
大好きだと彼は言う。
愛していると彼は言う。
彼は自分を守ってくれる。彼はいつも褒めてくれる。彼は自分をずっと見ていてくれる。彼は頻りに自分を心配してくれる。彼は……いつだって、私を助けてくれている。
じゃあ。私は?
……わかっているのだ。結局自分で自分を受け入れることができずに迷走を続けてしまっていることくらいは。
彼は十分なんだと言ってくれる。それが嘘でも誤魔化しでもないのは私にもわかる。彼と一緒に遊んで、一緒に買い物をして、一緒にお出かけをして、同じ時間を共有して、傷を癒して、援護をして、共に戦う。彼がそれに不満を抱いてなんかいないことは、私にだってわかっていた。
――けれども。
私は弱かった。ういを探しに訪れた神浜で魔女と遭遇してから、ずっと自分の弱さを思い知らされていた。
彼だけは私と居てくれる。彼だけはいなくなった妹の存在を覚えて一緒に探してくれる。彼だけは妹のいなくなった私にできた心の穴を埋めてくれる。彼だけが魔法少女としての自分を支えてくれる。彼だけが――家族以外でただ1人、私のことを愛してくれる。
なら、私は。
彼が果てなしのミラーズで私のコピーに刺されていたとき。彼が知らぬ間にドッペルゲンガーじみた得体のしれない存在と会っていたとき。彼の家に現れた魔女に、彼の家族が殺されてしまったとき――、私は、何をしていた?
だから私は、フェリシアちゃんから現れたらしき魔女にシュウくんの腕がぐちゃぐちゃにされていたのを見たとき、起き上がった魔女に対してソウルジェムを穢れさせてほとんど使い物にならなかった私を押しのけて、まだ完璧には治りきってない傷を抱えながらもそれでも私の前に立って魔女から守ろうとしてくれた彼を見たとき――、本当に、彼に合わせる顔がなかったのだ。
だけど――フェリシアちゃんを助けに向かおうとしていた彼は、一緒に行くと言った私に困ったような顔をしながらも、それでも耳元に口を寄せて。
「――任せる」
「いや、信じてる」
それだけだった。
けれど――それだけで、本当に十分だったのだ。
フェリシアちゃんを救い出して距離を取る巴マミさんややちよさんと入れ替わるように、私は前へ出る。
残存の魔力はやちよさんやマミさんと共にシュウくんの邪魔をしようとする使い魔を蹴散らすのに使っている。だから、正真正銘
解き放つのは、祈りの一矢。
これが彼の助けになることを願いながら。矢を上空へ撃ち放つ。
「お願い――。届いて!」
上方で瞬く光――
動かせなくなる直前の車輪を暴走させ。投げ放たれた黒木刀を胸部に突き立てられながらも高速の突進で彼を轢き殺そうとしていたウワサの動きが、矢の掃射に封じ込まれた。
「――あぁ、十分だ」
彼は笑った。
攻撃そのものは通じずとも、衝撃を通すことはできる――、
蹴り貫く。
『縺菩鉦縺、唔……!?』
私の放った矢の雨で膨張した黒木刀が、万力の力で蹴り出されてウワサの胴に風穴を開ける。
信じられないと言わんばかりの断末魔をあげたウワサは、やがて彼の前でふらつくと、木造の広間を揺らしながら倒れて。
シュウくんは、頭からだらだらと血を流しふらつきながらも、振り向いて私を見ると安心したような困ったような、それでも少し嬉しそうに笑って手を振っていて。
それを見てようやく力になれたのだと、本当に久々に実感できたような気がして――私は、前へつんのめって崩れ落ちた。
……あれ?
おか、しいな。
身体に、力が、入らな――、