環いろはちゃんと共依存的にイチャイチャしたい人生だった   作:風剣

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躊躇い、迷い、■、積み重ねて

 

 

「私、シュウくんに避けられてるのかな……」

 

 妹の手がかり。ういの親友だった柊ねむを探し参京区を歩くなか。

 ぽろりとこぼしたいろはの言葉に、隣に座るフェリシアはきょとんと目を丸くする。

 

「え、なんで? いつもみたいにいろはとシュウめっちゃくっついてたじゃん、アイツいろはのこと避けてたりしてたっけ?」

 

「それは、そうなんだけれど……一昨日、ううん4日前から、なのかな。シュウくんが一回家に帰ってから、一度も目を合わせてくれなくて……理由を聞こうとしてもはぐらかせるし、やっぱり水名神社で傷つけちゃったこと怒ってるのかな……」

 

「シュウが、かあ……?」

 

 気持ちは――わからないでもない、というのがフェリシアの思い。喉元まで出かかったそれを、常日頃のシュウの態度を思い出してんぐっと飲み込む。

 

 いろはが魔女らしき怪物を解き放って黒い魔女を粉砕し、そしてシュウを捕え絞め殺そうとしていたのをフェリシアは水名神社で目撃している。そして自分ほどではないにせよ、魔女を嫌い、そして憎むのはシュウも同じであるのはよく理解していた。魔女だどうだ抜きにしたって、繰り出した怪物を暴走させて攻撃してきた相手ならたとえ恋人だとしたってキレたくもなるだろうというのは紛れもない本音だったが……同時、「あのシュウ」が本気でいろはを疎むのかとなるとなると、首を傾げたくなるところだった。

 

 だって、魔法少女でもないのに体を張っていろはを助けて魔女と正面切って戦うような奴だ。自分のような魔女が憎いからだけじゃない、好きな女の子のために、いろはを守りたくて戦っているのがシュウだ。というよりあいつ、好きでもない奴のためにわざわざ体を張るほどお人よしでもないし、魔女とわざわざ正面から戦っているのはやはりいろはが好きだからだろう。

 たとえ自分をいろはが傷つけたとしても、理由が納得のいくものだったなら普通に流してしまえる気がした。実際やちよからことの顛末を聞いたときフェリシアが謝れば平然と流していたし――、

 

「……よく覚えてないけれど、オレもいろはみたいに魔女っぽいのだして攻撃してたんだろ? もしシュウがいろはに本気で怒ってんならオレに対してだってもっと怒りそうなもんなんだけどな……」

 

「そうかな……」

 

 やたら辛気臭い反応のいろはに眉を顰める。

 らしくねぇなあ。そんな風にぼやいて。ぱんっといろはの背を叩いた。

 

「ひゃっ……フェリシアちゃん……?」

 

「大丈夫だって、シュウはそんなこと気にしねえよ! 目を逸らされるのが嫌なら普通に理由聞けばいいじゃん、アイツいろはのこと大好きだから声をかけりゃちゃんと答えてくれるって!」

 

 フェリシアには恋愛なんてわからない。

 学校だってロクに通わずに魔法少女の傭兵をしているフェリシアには身近な異性だなんていなかった。小学校でだって女の子らしい女の子とはあまり絡まずに校庭ではしゃいで遊んでばかりいて参考になりそうな経験なんてない。

 一番身近なカップルである2人に至っては人目がないと判断するなりべたべたとくっつきだすし、部屋でくっついているときに自分の気配に気付いたらひそひそ小さい声で何か話し合ってるし、いろはと話しているときのシュウはなんだか自分や他の魔法少女に向けるようなものとは比較にならないような優しい目をしてるし――。………………なんだか無性に腹が立った。

 

 不貞腐れて頬を膨らませた金髪の少女はふんっと鼻を鳴らし隣の色ボケからそっぽを向く。

 

「あっほくさ。もう一回河原かどっかで殴り合ってくりゃいいんじゃねーの、オレ知らねー」

 

「ふぇ、フェリシアちゃん……?」

 

 梯子を外すように唐突に見放され困惑するいろはだったがフェリシアの知ったことではなかった。頭の後ろで腕を組んで不機嫌そうに唸るフェリシアに目を白黒させたいろはは、「河原」「殴り合い」のワードに夕陽の沈むなかで恋人に挑みかかる自分の姿を想像する。

 

『い、いくよシュウくん! てやぁーっ』

『相手にならん、出直しておいで』

『痛ぁ――!?』

 

「……絶対勝てないよ……、シュウくんほんとに強いもん……」

 

「んぁ? いろはなら手加減くらいするだろ、10回くらい繰り返せばあいつも根負けするって」

 

「9回は負けちゃうんだ……」

 

 いや……手加減をしてくれたところで勝てるかどうかは怪しいところかもしれない。殴りかかっても軽くいなされてついでと言わんばかりに尻を叩かれて地を舐める絵面しか想像がつかなかった。

 結界内部の広さに目をつけ鏡の迷宮で特訓をしているときなどはボウガンも解禁して距離を離して矢を射かけても当然のように弾かれながら接近され似たような形で制圧されている。敗北の予想図はこれ以上ないくらいに鮮明だった。

 意地悪く笑っていけるいけると唆そうとするフェリシアに苦笑しつつ、いろははメモ帳に記した住所へと向かっていく。

 

 口寄せ神社でのウワサとの交戦から、数日が過ぎた。

 魔法少女の攻撃が通じず、魔女(呪い)の攻撃のみが届いた異形。ウワサを倒した直後に現れたかつていろはの倒したはずの黒い魔女――度重なるイレギュラーが発生した激戦は、いろはの顕現させ、そして暴走させた魔女が駆けつけた常盤ななかの一太刀で幕を閉じた。

 

 傷を負ったシュウは、いろはの魔女を斬り捨てた和洋折衷の衣装の魔法少女のチームメイト……フェリシアの友人であったらしい緑色の髪の魔法少女によって回復するも大事をとってウワサや魔女との戦闘を避け神浜で待機。いろはとフェリシアは、里見メディカルセンターを退院して以降の足取り知れなかった柊ねむを探しやちよと鶴乃の提供した電話帳をもとに参京区中の柊家を回っていた。

 

 だが――。

 

「突然すみません。あの、柊ねむちゃんという女の子を探していて……私の妹が入院していた病院で仲良くして頂いていたんですけれど……」

「……それでうちに? いえ、うちに娘はおりませんけれど……。ねむという女の子にも、心当たりはないわね」

「そうですか……。すみません、ありがとうございました」

 

 ――ばたりと扉が閉じられたタイミングで、小さくため息をつく。

 いなくなってしまった妹、その親友を探すのもそろそろ手詰まりになりつつあった。参京区を中心に回っていたのは、万々歳に通っていたお客に柊さんがいたという鶴乃の証言もあってのことだが、リストアップした4軒の内3軒は空振り。残るは一軒だったが、ここでねむと出会えるかもしれないという自信をいろはには持てなかった。

 

「いろはの妹の友達ねむっつったっけ? やちよのやつなんて言ってたっけな……けーさいきょひ? そのねむの家も電話ちょーに載ってないってことなんじゃねーの?」

 

「万々歳が参京区だからもしかしたら、と思っていたけれど……、次の一軒で見つからなかったら参京区にはいない可能性が高くなっちゃうんだよね、どうしよう……」

 

「うへぇ……」

 

「モキュゥ……」

 

 揃って呻き声をあげたフェリシアといつの間にかいろはに近づいてねむを探す2人についてきていた小さなキュゥべえが顔を見合わせる。その様子に微笑みながらも、疲れは誤魔化せずにいろはは再度息を吐いた。

 

「……んぅ。ずっと歩き続けたから喉も渇いちゃったね。どこかに休めるところがあればいいけれど――あれ?」

 

「ん。いろはー、なんか見つけたのか?」

 

「あ、うん。……あそこ、無料で水を配ってるだなんて珍しいなと思って」

 

「へえ良いじゃん、オレも喉からっから! タダなら貰ってこうぜ!」

 

 歩き通しの捜索に疲れていたのはフェリシアも同じだったのだろう、休憩できそうだと察し機嫌も直ったのか、目を輝かせて移動販売の屋台に近づいていくフェリシアを追いながらいろはは立てかけられた看板に目を通す。

 

「幸せの水……フクロウ印の給水屋さん……?」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「そういえばシュウさんって、魔女を一太刀で真っ二つにできたりします?」

 

「え、何それどういうこと? いやそんなことできたら苦労しないし暴走したドッペル凌ぎ切れずに捕まったりはしないけれど」

 

「いえ、私たちと対峙したウワサ……シュウさんと同じ顔をした魔女守が戦闘中に片手間で魔女を解体していましたので」

 

 何それこわ……。

 というかそんなにあの野郎強かったのかと顔を引き攣らせる。いや初対面の一合目で自分の振るった黒木刀を尋常ではない重さで弾き飛ばしたあたり純粋な腕力では間違いなく上をいかれているだろうという認識はあったが、ななかから告げられた情報は当然のようにシュウの想像を飛び越していた。場合によっては初めて遭遇したタイミングで魔女守の実力もわからぬまま交戦することになっていたかもしれない事実に冷や汗を流す。

 

「ああ、私でもどうにか打ち合える程度だったので腕力そのものはシュウさんより少し上程度だと思います。太刀筋を見るに力だけではまずああした動きはできないので魔女を真っ二つにしたのには武器や魔力も関係してそうですね。途中明らかに斬撃の範囲が伸びたり風の刃で建物を断ち切っていたりもしていましたし魔法少女と同様に特殊な力を持ち合わせているのは間違いないと思います」

 

「うわあずっる、俺だって魔法は使えるもんなら使いたいのに……。え、それじゃあななかはどうやってそのウワサ相手取ったんだ、とてもじゃないが真正面から相手取っていいもんじゃないだろう」

 

「えぇ。ですからこう、上手く引き付けたところでチームメイト……美雨(メイユイ)さんの魔法で隙を作って後ろからどすりと」

 

 何それこわ……。

 殺意がなかなかに高い。それなりに長い付き合いであった筈の妹弟子のさらりと語る内容に困惑し眉根を寄せた少年は、まあ他人と同じ面で魔法少女相手に戦闘を繰り広げたはた迷惑には丁度いいだろうと流しつつななかを見つめた。

 

「随分、こう……躊躇いがないんだな」

 

「……失望しました? 人であるかどうかも定かではないとはいえ、それでもヒトの形をしたものをあっさり刺したと言ったのに」

 

「いや……。そんなことはないさ。本当だ。ただ、俺は……俺も――割り切らなきゃ、もう少しくらいは頑張らないと駄目なのかもなって、そう思った」

 

 知りたかったことも知りたくなかったことも構いなしに大量の記憶情報を流し込んできた老婆を思い出す。智江に見せられた莫大な記憶、自分の覚えている限りの記憶……抱え込むこととなった情報をすり合わせているシュウには、敵と判断した者はヒトであろうとも確実に打ち破るななかのスタンスもまた正解であると理解していた。

 ミラーズにも通っているのだ、今更自分の似姿が刺された程度気にはしない。少年の頭を占めているのは、水名神社で現れた魔女を打ち砕き、そしてドッペルを暴走させたいろはの拘束から逃れようとしていたときのことだった。

 

 伊達に魔女との戦いで前衛を張ってきたわけではないのだ、想定外の事態であっても――いやだからこそ、自分は、自分だけは動かなければならなかった。

 それでも自分は、何もすることもできずに心を折られかけ、ドッペルの手繰る布の束が押し寄せるのにまともに抗うこともできぬまま囚われ……助けられ、五体満足であの夜を切り抜けた今でさえも、頭に溢れかえる情報に動きを雁字搦めにされてる。

 

『飛蝗、という魔女がいます。土地も、人も、心も、あるいは他の魔女さえも――様々な場所を転々とし一度居座れば魔女としての手管を用いてそこにあるすべてを喰らいつくしていく魔女。私はその魔女を討ち取るために、神浜で活動していくなかで接触してきた魔法少女たちを勧誘しチームを作りました』

 

『その過程でキュゥべえによって隠された魔法少女の真実、その一端も知りましたが……そうですね、不幸中の幸いとでもいうべきか、魔女化という魔法少女の成れ果てもこの街では起こらないということですし。少なくとも飛蝗の魔女を討ち一門を取り戻すまでは……私が止まることはないでしょうね』

 

 だから、ある意味では眩しかったのだ。

 家族の死を受け止め、魔法少女の過酷な運命さえも受け止め冷静沈着に目的のために歩みを進め。命を預けるに足る信頼する仲間とともにこれからも戦っていくのだろう少女のことが。

 

「――、お礼をしなきゃいけない立場だったのに、こんなに相談に乗って貰って悪かった。あとありがとう、難しい問題も多いけれど、少し時間をとってゆっくり考えてみるよ。……あ、飛蝗やら他の魔女やらで何かあったら声かけてくれ。できる限りのことはする」

 

「……ええ。ウワサや環さんの妹さんのことに関しても、何かわかれば連絡いたします。私にとっても、こうして逢うことができたのは有意義でした。では、ここで――、電話ですか? 私のことはお気になさらずどうぞ」

 

「ごめん」

 

 携帯の着信。微笑みを浮かべてシュウを促すななかに詫びを入れながら画面を開けばいろはからの電話だった。

 

「――いろは? どうした、何かあったなら――」

 

『あっシュウくん、あのっいっしょにりょこっ』

 

「なんだって?」

 

「……?」

 

『あの、えっと――懸賞で旅行券あたっ、ペアで、フェリシアちゃんもシュウくんと使えっていうからそのっ、一緒に温泉いきませんか!? 2人で!』

 

「え、あ、うん。うん。わかった、けど――いや凄いな?」

 

「……………………………………………………………………………………………………………」

 

「……あ、うん詳しい話は後でしよ、うん。切るよー……」

 

 なんか前が怖くて見えなかった。にこにこと笑うななかにだらだらと汗を流しながらいろはからの通話を切ったシュウは、物凄い瘴気を発して空間全体を重く重くしながら微笑むななかに引き攣った笑みを浮かべる。

 

「――あら、近くに魔女の気配。人に迷惑が掛かってはなりませんもの、私が相手をしてきますね」

 

「…………あ、待っ。俺も手伝――」

 

「ありがたい言葉ですが。ええ、ちょっと今なら10体程度なら魔女を斬り滅ぼせそうな気がしていまして……えぇ、お気になさらず。シュウさんも病み上がりですから、ゆっくり体を休めてください」

 

「あっはい。……いや、あれもう消え――」

 

 距離は相応にあり聞こえるはずはなかったのに、ななかを追い結界を探している最中で聞こえた魔女の断末魔はなかなか耳にこびりついて離れることはなかった。

 あの日は正直一番死の気配が近く感じたと、後に少年は語る。

 

 





「……ドッペル、でしたか」

 見渡せばそこにあったのは魔女の残骸。色の抜け、己を構築するあらゆる要素を抜き取られたそれは指で触れればあっけなく灰となって崩れ去っていった。

「これは……ええ。シュウさんには見せないで、正解でしたね」

 くすりと微笑む姿は一輪の花のように。
 けれども――どこか、陰っているようで。

「……剣を振るう以上、こうした雑念は切り離すべきだったのでしょうけど」
「嗚呼、本当に。……忌々しい、忌々しいけれど――どうして、こんなにも。私は、決めた、筈なのに。どうして、彼女が――」
「……。よし、落ち着いた。……せめて、全てが終わるまでは」

 この思いは、胸にしまうと致ししょう――。

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