環いろはちゃんと共依存的にイチャイチャしたい人生だった 作:風剣
幼い頃に会ってから今に至るまでにずっと助けてくれた貴方に。
せっかく手に入れた魔法少女の力を、何も活かせぬまま家族を喪わせてしまって。それでも守ってくれると約束してくれた貴方に。
少しでも、報えているかな。
宝崎まで戻る電車のスケジュールと数分にらめっこをして。とっとと帰って体を休めたいという欲と情報収集のメリットを、駅近辺のカフェやカラオケボックス等の近隣の休息できそうな施設の情報片手に天秤にかけつつ。
結局、夜9時まではデートと情報収集を兼ね神浜市を散策するという結論に至った。
ちなみに黒江は駅を降りるなりとっととでかけてしまった。『魔法少女は救われる』という噂がどこまで彼女を駆り立てているのかは、今日一度共闘しただけのシュウには伺い知れなかったが……せめて、夢にまで縋るまでに追い詰められた彼女が無事満足のいく結末を迎えられることを祈るのみだった。
工事現場にでも通いつめたのかと言われてもおかしくないくらいに鉄サビで汚れ切った制服を駅構内の個室トイレで脱いで私服に着替えたシュウは、魔法少女の姿から戻ったいろはと共に駅前のカフェへ足を踏み入れる。
……前衛後衛で差はあるにせよシュウと共に魔女と戦ったいろはの制服には汚れ一つたりともない。この辺りはつくづく魔法少女衣装の利便性を感じさせるものだった。
「俺も変身したいなあ……」
「魔女と戦うたびにクリーニング行かなきゃいけないのも大変だもんね……」
あと変身後の衣服が破けようが裂けようが変身解けば元通りなのがあまりに強い。店員に案内された窓際の席に腰を下ろしたシュウは、薄い生地のシャツから伝わる夜の寒気に背筋を震わせた。
足繁く通うクリーニングの店員に物凄く早いペースで汚れた服を持ってくる客として少年が顔を覚えられている事実に、いろはも遠い目になって頷く。
いろはたち魔法少女のように戦闘が終わりさえすれば一瞬で身嗜みを変身前に戻せる訳ではないシュウも、魔女との戦いで衣服を傷めることについては仕方ないと割り切っている節があったが……一度いろはのクリスマスプレゼントのマフラーを魔女の使い魔にぼろぼろにされた時のシュウの悲嘆と憤怒は本当に凄まじいものだった。
……虎の尾を踏んだとはあのようなことを言うのだろう。漆黒の木刀一本であらゆる障害を薙ぎ払い、息絶えた使い魔の残骸を引きずりながら結界の奥へ突き進み、魔女を単独で打ち倒して嗤いながら指の一本一本丁寧に解体しようとしていたあの姿は鮮明に少女の脳裏に焼き付いている。
「……でも、最近はシュウくんも服をぼろぼろにせずに戦うことはできてるんじゃないかな。今日のは仕方なかったにしても、前みたいに使い物にならなくなるくらいまでってことはなくなったよね?」
「だいたい殴って動き止めてる間にいろはが掃射して仕留めて終わりだから作業みたいな部分もあるし今回も似たようなもんだったんだけどな……。電車の魔女……蜥蜴の魔女?あれは地形が本当にしんどかった」
魔女を傷つけ使い魔を蹴散らすような攻撃力を発揮するにあたり、全力の踏み込みや跳躍で靴が非常に傷みやすいのが難点であるものの――高速機動でのヒットアンドアウェイを維持することができれば服だって汚れはしない。純粋に今回は環境が極悪だった。
木刀を持ち出すのは結局最後になったが……あれは魔女にぶつけるたびに著しく重量を増す。もし最初から使ってたら足場の方が先に崩れたのではと隣に空いたスペースに置いたバットケースを見やる。
――魔力喰い。
かつてシュウが
魔女や使い魔の素材を無秩序に打ちつけたバットとは比べ物にならない威力と重量は、一度いろはからの支援射撃でも喰らえば魔女に対しても十分に効果を発揮するが――相手に触れるたびに魔力を吸い、最終的にはその重量だけで下手な魔女の動きを止められるくらいには重くなってしまう木刀は尋常ならざる身体能力をもつ彼でも扱い難いものがあった。
筋力をもう少し……せめて重くなった黒木刀を自由自在に取り回せるくらいには欲しいなあと注文を終えてぼんやり考えるシュウだったが、向かいの席に座るいろはもまた深刻な表情でメニューと顔を突き合わせていて。恋人の視線に気付いた彼女も、決めあぐねたように顔を曇らせ身を寄せた。
「……どうした、間違えて注文でもした?」
「もう6時になるのにケーキなんて食べちゃっていいのかな……夜ごはん食べられなくなったらどうしよう……」
「あぁ……」
シュウの両親が他界してから。向かいの家に暮らすいろはと彼女の両親の厚意に甘える形で、環家で寝食を共にすることが多くなった。
「噂に関する調査も含めてあちこちを見て回ることになるのだろうし、小腹を満たすくらいの感覚でいいと思うぞ、ダイエットに取り組んでるんなら別だし俺がケーキ貰うけれど」
「む……それは駄目! それにケーキ2つも食べたら夜ご飯食べれなくなるからね」
「くくっ……、まあいろはのご飯なら残しはしないけどなあ。なんなら魔女退治したらご褒美はケーキにするか?」
「カロリー計算が狂っちゃうからそれはちょっと……」
……別に多少お腹周りに肉がついても気にしないし、体重が増したところでいろはを抱えての魔女からの逃走に支障が出る訳でもあるまいし。寧ろ少年からすれば、いろははもう少し肉をつけた方が良いのではないかと思うのだが──、やっぱり見えないところでもいろいろ努力しているんだなあと呆れ半分感心半分に。注文を待ちながら談笑するシュウは、ふと先の魔女戦での礼を言ってなかったなと思い出して笑いかける。
「そうそう、魔女に止め刺したときの牽制ありがとうな。あれなかったら普通に墜落してたから本当に助かったわ」
「物騒だね。……でも」
「後ろから援護するしかできない私でも。少しでもシュウくんの助けになれたなら――本当に、良かったな」
──…………。
ほんのりと頬を染めて。それでも、これ以上ないくらいに嬉しそうにそう言って微笑む少女に、束の間呼吸を止める。
……そもそも対魔女に関してはいろはの方がよっぽど重要な役割をこなしている癖に自己評価が低すぎるだとか。半分同棲みたいな生活をしてる、親の顔よりずっと多く見てる少女の笑顔ひとつでこうまで動揺する自分への情けなさとか。
「………………ほんっっとう……」
「?」
ずるいぞという言葉は、声にならなかった。
ぐるぐると脳内を巡る言葉も思考も、注文を持ってきた店員から受け取ったジュースと共に呑み込むしかなくて。
そこでようやく、一言絞り出した。
「……我ながら、重症だよなあ」
「どうしたの……?」
心配そうに目を合わせてくる少女の眼差しに、思わず苦笑して。
ごまかすように、一口分抉り取ったケーキを乗せたフォークをずずいといろはに寄せた。
「少し交換しようよ、俺もショート食べたいから。ほらあーん」
「ぇ、う、うん……あーん」
頬を赤く染めて、他の客に見られていないかちらちらと気にしながらも、小さな口を開いた少女が差し出したフォークをくわえて。チーズケーキを口の中で転がすようにして咀嚼すると、照れた様子になりながらも口元を綻ばせる。
「……うん、美味しい」
「だろ?」
最近はいろはや彼女の母親の料理が舌に馴染んだからか、甘いにせよ酸いにせよ極端な味の食べ物は苦手とする節があるが。ケーキは甘党の母親が通っていたバイキングに散々付き合わされてもなかなか飽きのこなかった好物のひとつだった。
自分の分のチーズケーキを一口ずつ食べて口の中に広がる甘味を噛みしめていると、目の前にそっとショートケーキを乗せたフォークが向けられて。
「あーん……」
「……」
「……あ、あーん…………」
フォークを握る手はぷるぷると震えていた。羞恥にだんだんと顔全体を熱くしていくいろはににやにやしながらも、流石に放置すると怒られそうだなとフォークに乗せられたスポンジとクリーム、苺の欠片を口に含んで。
「……うん、流石に恥ずかしいなこれ」
「もぅ……絶対見られてるよ、恥ずかしすぎて死にそう……」
「はは……、いや本当にすまん……はいあーん」
「もうやらないよ……!?」
表情では余裕を装えていても。心臓が煩いくらいにばくばくと鳴り響いているのが、聞こえてしまっていないか心配だった。軽くいろはに向けて伸ばしたフォークを戻したシュウは、耳を赤くしながら自分のケーキを大人しく食べる。
それでも目は自然と、周囲から突き刺さる好奇と生温かな視線に身を竦ませて、それでも満更でもなさげに頬を緩めてるいろはに集中してしまっていて。
(……どうしようもないなあ、本当)
――この胸の昂りも、悶々と渦巻く想いも。全部吐き出してしまえば、楽になれるのだろうか。
***
『魔女を倒した帰りに通りかかった神浜市でデート中。気になることもあるのでいろいろこの街について聞いてみたいのです。暇な魔法少女いませんか』
『爆発しろ』
『木っ端魔法少女私、ウワサに惹かれ神浜に一度来たけれど魔法少女も魔女も引くほど強かったので撤退しました』
『syuさん今神浜市にいるの!? カノジョと2人で!? 案内するよ、イマドコ!?』
『感謝。中央西駅前のカフェで桃色の髪の可愛い女の子と座る男がいたら自分です』
『把握すぐいく!!』
「……1人、これから来て案内してくれるらしい」
「え……!それは、この街で活動してる魔法少女ってことだよね……? 申し訳ないようなありがたいような……」
ぺろりとチーズケーキを平らげてはSNSを用いて魔法少女との接触を図っていたシュウの言葉に、ストローをくわえジュースを吸っていたいろはが驚愕も露わに迷惑ではないだろうかと憂うが……まあそれも無理はないよなと少年もまた頷く。
ついつい自分たちの居る場所まで教えてしまったが……SNSでの呼びかけは駄目で元々、もし神浜市の内情をある程度知っている魔法少女から情報を集めることができれば万々歳くらいの認識だったのだ。まさかよく友人らしい魔法少女たちと撮ったらしい写真を投稿したりそれなりに高い頻度で絡んでくる魔法少女が神浜にいるとは思わなかった。
「エミリーは……ぁ、これユーザーネームだから名前はちゃんと本人から聞かないとな。この娘この娘。よく俺の投稿に反応してきていて今回も真っ先に声をかけてくれたんだが……いやにしても本当に来るのか……?」
「わあ……! すごく可愛いね、この人……」
「え、本当!? あーし可愛い!? わあそういってくれるとすっごい嬉しいな、ありがとー!」
「ひゃ!?」
……本当に来たのかよ。
突然会話に割り込んではにこにこになっていろはの手を握る、腰まで伸びた煌めくような金髪をツインテールにした制服の少女。その姿は、たった今いろはに見せた彼女の投稿した写真となんら変わりなくて。待って早すぎないと困惑していた少年に気付いた少女は、手を握られたままたじろくいろはと、どうしたものかと決めあぐねながらジュースを啜る彼を見比べてその顔を輝かせた。
「うんうん、もし間違いだったらどうしようってちょっと思ったけどやっぱり間違いないでしょ! 前々からsyuくんやカノジョさんとは逢いたかったからさっきのコメント見てびっくりしちゃったー! 」
「初めまして、
カミハマこそこそウワサ噺
「魔力を糧にする。魔女には珍しい力ではないけど死した本体から零れ落ちた枝でありながらそこまでの力を持つだなんてね。さながら
黒木刀の魔力喰いを知ったキュゥべえの評を受けそのまま
尚いろはも割りと……。