環いろはちゃんと共依存的にイチャイチャしたい人生だった 作:風剣
神浜を襲う異変、ウワサの調査。本来そうした「面倒ごと」は、佐倉杏子にとっては決して優先順位の高いものではなかった。
彼女の判断は、自らの背負うリスクを省みずに――あるいはそれを理解したうえで――誰かを助けようと奮い立つような
献身助け合い馴れ合い、勝手にすればいい。ただし自分にまでその価値基準を押し付けるのは迷惑でしかない、それで限られた余力が削られるのなら猶更のことだ。
魔女は倒す、ただしその使い魔がうろついていたところで自身は関知しない。倒したところで何ら益のない異形が自分の関知しないところでどのような所業をしたとしても彼女には何の関わりもないことだ。自身の目につくところで不愉快なことをしない限りはどうとでもすればいい――。それで人を喰った使い魔が魔女になって自分の獲物が増えれば上々。
他者を省みない利己的な姿勢は、周囲に敵を作りかねないリスクを伴うとともに魔法少女として生き延びるのに適した精神性でもある。そうした行動パターンを持つ杏子にとって、得体も知れない、グリーフシードを落とすかもわからないウワサなどは本来見向きもしない要素だ、神浜市に来た目的もやたらと溢れかえる魔女を討伐して枯渇しかけたグリーフシードを補充するためであり基本的にはその地域の魔法少女とも接触するつもりもなかったのだが……魔女を討伐する過程で遭遇した魔法少女たちの言葉に、興味を引かれた。
マギウスの翼。
杏子がこの神浜でひとまず籍を置くことと決めた、『マギウス』なる者の手足として活動する魔法少女たち。当初遭遇したときの黒羽根、白羽根を名乗る頼りなさそうな魔法少女たちからの勧誘文句は「魔法少女を救済する」などといった如何にも胡散臭いものであり彼女も相手をするつもりはなかったが、グリーフシードをはじめとした報酬も出るといった条件を出されては話を聞いてみるのも悪くないと判断してのものだった。
そうしてマギウスの翼なる組織の抱える複数のアジトのひとつ、参京区の地下水路にて白羽根の魔法少女に案内された杏子は、そこである通達を受けた。
「撤退ぃ? おいおい、あたしはここに来てからすぐだってのに一体どこに行けって言うんだ?」
「申し訳ございません。私としても加入して頂いたばかりの佐倉さんには是非マギウスの翼としての活動内容やこのアジトで守っているものについて共有しておきたかったのでございますが、少しばかり問題がございまして……」
「七海やちよ……この街で7年戦ってるベテランの魔法少女がやってくる可能性があるの。説得でこちら側に引き入れられるのならそれが一番なんだけれど、いざ防衛となると彼に巻き込まれちゃうかもしれないから一般の羽根は別の拠点に離脱して貰うんだよ。最悪ウワサだけ置いてアジトは棄てなきゃいけないかもしれないからね」
ねー、と顔を見合わせ異口同音に口にする姉妹らしき魔法少女。杏子を勧誘したグループを率いているのだろう白羽根の姉妹の言葉を吟味した彼女は、少し考えこんだ素振りを見せると鷹揚に頷く。
「ん、まあそっちにも都合があるだろーし仕方ねえな。こっちから争いごとに首を突っ込むのもアホらしいし。別のアジトとやらには他の連中についてけば大丈夫なのか?」
「はい。『運び屋』の方に声をかけていただければ荷物ごと跳べますのであちらの列でお待ちくださいませ」
「ウチたちは魔女守さんと一緒に防衛に着くけれど黒羽根のみんなが移動終わるまでは一緒だから何かあったら声かけてね!」
「あいよ」
手を振りながら姉妹から離れ、黒羽根……それぞれの持つ特徴を包み隠すような統一的な黒いローブを纏う魔法少女たちの列へと向かった杏子は、姉妹の視線から外れたのを確認するなりすぐさま物陰へ身を隠す。
(──さて、どうしたもんかね)
帰るか、進むか。
大人しく姉妹の言うことを聞いてやるという発想はない。第一、連中の言っているとこは聞けば聞くほど『きな臭い』という評価に尽きる──。この調子では看板として掲げる魔法少女の救済というのも期待できそうにないというのが率直な感想だった。
とはいえ。飛ぶ鳥跡を残さずと帰るのは良いものの、収穫らしい収穫もなしというのも納得がいかない。
杏子よりも先にこの街の調査を始めた
即決即断。一度決めれば後は早いものだ──。移動を始めた黒羽根の指揮を取る姉妹の片割れを尻目に、気配を隠しながら地下水路の奥へと進んでいく。途中集団の動きから外れた行動をする杏子を見咎め声をかける者もいたものの、まさか勧誘された魔法少女がやってきた直後から痛い腹を探られるとは思わなかったのか「ちょっと忘れ物があってね」の一言であっさりと切り抜けることができた。
ずんずんと奥地へ進んで行く彼女に対する妨害はない。
……黒羽根の慌ただしさからも、この状況が常のものではないことはわかるが。侵入している立場の杏子でさえも『守りたいもの』が設置されているアジトとやらでこれではセキュリティが少し甘すぎやしないかと思わざるを得ないものがあった。
「ほんっと、これなら人目に付かないようにATM弄って金盗るほうがよっぽどしんど――なんだ、あれ」
ばさばさと羽ばたきの音が連続する。咄嗟に身を潜めた杏子の前を小学生が折り紙を張り合わせて作ったような風貌のフクロウが飛んでいった。
あれが、ウワサ──? 確かに、魔女や使い魔の連中とも違う妙な気配をしてるけれど……。
マミが『魔女になった魔法少女』と遭遇したときに交戦したウワサとやらは、彼女の攻撃が一切通じない尋常ではない防御力を発揮していたようだが。少なくとも、杏子の観察するものならはほとんど脅威らしい脅威を感じることができなかった。
そしてその奥にあるのは、井戸を彷彿とさせるシルエットをした何やら毒々しい色彩の噴水だった。巣にでもしているのか、観察する杏子の前で飛び回るフクロウと同様の鳥が大量に飛び回る設置物のマークにこの街へきたとき見つけた『フクロウ印の幸運水』の屋台を思い出した彼女はうへぇと苦々しい顔をした。
「勘弁してくれよ、まさかあたしあれを飲んだのか? 運がよくなるだけならいーけど変な毒とか混ざってないだろうな……」
「毒性については心配はいらない。幸運を享受した末の揺り戻しも継続して幸運水を飲めば回避できることだ、黒羽根に所属する魔法少女にも数名常飲している者がいる」
「っ゛っっ」
咄嗟の反応で槍を突き出さなかったのはほとんど奇跡だった。
気配も感じさせず間近に迫っていた接近者、魔法少女としての姿に変身しながら後方へ跳躍し後退って距離を取った杏子は、冷や汗を流しながら槍を構えた。
(なんだ、こいつ……ぜんっぜん気付かなかった! ていうか、え、男……?)
全盛期のように幻惑をフルで使った隠密はしていないとはいえ、それでも魔法少女たちから逃れウワサとやらにも見つけられない程度には気配を殺して警戒していた杏子に何でもないように接近していた、魔女や使い魔どころか魔法少女ですらないであろう少年を見た杏子が硬直する。
黒羽根の纏うものと似た黒いローブに覆われ、容姿こそは伺えないものの体格を見る限りは男性とみて間違いはなかった。黒羽根と似た意匠のローブに少なくとも一般人ではないことを把握しながらも、自身へ向けられた槍の刃先にもなんら驚いた素振りを見せない彼にただならぬものを感じながら警戒する杏子を観察しながら、ローブの少年は淡々と考察する。
「……撤退指示は通達されている筈だ。わざわざここに来ている以上は
「……どうしたもんかね」
槍を握る手に力を籠め、少女はこの場に来るまでの道順を思い起こしながら活路を探る。
・黒羽根だとでもいえばいきなり攻撃されることはないだろうが、この状況で誤魔化すのは流石に無理がある。迂遠な引き延ばしも最悪姉妹も加え囲まれた状態での尋問になりかねない
・目の前には黒ローブ、男だが……いや魔法少女ではない男だからこそ底が知れない。気を弛めれば何が飛んでくるかわかったものではない。
・その奥には『幸運水』なるウワサと手下らしきフクロウ、男を襲えばこちらも杏子を襲う可能性がある。
・背後の道を戻ればいるのは姉妹の魔法少女、もしまだ残っているなら黒羽根の魔法少女とも戦闘になるか。
そこまで整理した彼女は、観念したように息を吐いて。
直後に戦意を漲らせ、手のなかの槍に莫大な魔力を籠めた。
「――面倒な状況になっちまったけど……ここは一旦退かせてもらうとするかあ!」
「……これは」
ローブの奥で少年が目を見開く前で、獰猛な笑みを浮かべた杏子の手にした槍の穂先が巨大化する。
「っ、オぉぉ――!」
裂帛の気合い。力いっぱい槍を振りかぶった少女は、通路の壁へと巨大化した槍を叩きつけた。
地下水路が揺れる。通路を丸ごと塞ぐようにして壁に巨大化した槍が突き立てられる。
渾身の一撃で塞いだ通路を見向きもせず背を翻した杏子は跳躍、最短最速でアジトの出入口を目指し駆けぬけていく。
「ははっ、やっべいきなり修羅場じゃんか! まあいいや、あの男と使い魔の群れになると不安だけど姉妹だけなら逃げ切るのも楽そうだしこのまま――うぉお!?」
地下水路が揺れた。杏子が壁を塞いだ瞬間の一撃とは比べ物にもならない衝撃――揺れる足場に躓きそうになりながらもダッシュを維持する杏子が振り返れば、太刀を振り抜いた彼がバラバラにした槍の残骸を踏み躙りながら剥ぎ取ったローブを風にはためかせ隠された容貌を晒けだし、その透明な瞳で彼女を見据えていて。
「――敵対行動を確認。優先度調整、捕獲を想定し未登録の魔法少女を追撃する」
「っと、やば……!?」
一撃で破壊された槍に代わり新たに手元に生み出した槍を構え跳んだ杏子は、盾とするように構えた柄の中心で爆ぜた衝撃に目を剥く。
ほんの一歩で喰い尽くされた間合い、振り下ろされた太刀を受け止めた柄が嫌な音を立ててたわみ、そしてピッチングマシーンから射出されたボールじみた勢いで少女の身体が吹き飛ぶ。土埃を舞い上げながら受け身をとり体勢を立て直した赤い魔法少女は槍を握る手が電流にでもうたれたように痺れるのを自覚し引き攣った笑みを浮かべた。
――いや、はや……ていうかなんだ、この馬鹿力……!?
等身大の人間によって放たれるようなものでものでは断じてない、いっそ巨大な魔女の一撃でも受け止めたような気分だった。やばいやばいやばいと冷や汗を流す彼女は腰を落とし槍の間合いを縮め、近接へ対応するように呼吸を整えて――背後から近づく足音に気付いた。
「くそっ、そりゃあ気付くか……」
「一体何の騒ぎでございますか!?」
「魔女守さん、これは――えっ、佐倉さん何故ここに!? 黒羽根のみんなと移動したんじゃあ……!?」
「もしや――ウワサを追う魔法少女の間諜でございますか……!?」
白羽根として配下を率いていた姉妹の魔法少女。アジトの奥から響いた騒音に駆けつけたのだろう彼女たちが全力疾走して迫ってくる杏子にたじろいで身を竦めるのに、多勢に無勢の状況にも構わず彼女はにやりと笑った。
「――よしきたぁ!!」
「えっ」
「月咲ちゃん!?」
「――」
槍が伸び、そして形が組み変わっていく。関節部を鎖で連結した多節棍に武器の形を変えた彼女は白ローブの片割れを長く伸ばした得物で絡み取り雁字搦めにすると自らの元へ引き寄せた。
多節棍で縛りつけた魔法少女を抱えた途端あからさまに太刀を振るう少年の動きが鈍ったのに、杏子はあくどく笑みを浮かべる。
白いローブも捕まった拍子に取れ、後頭部で纏めたツインテールの魔法少女が身動きもとれぬまま抱えられ揺さぶられるのにも配慮をせぬまま走り抜けて片割れの白羽根を追い抜かした彼女は背後で高まる気迫に口元を引き攣らせながら腕に抱えた
「はははっ、これならギリ逃げきれるか? ……そらっ、しっかり受け止めろよ!」
「きゃぁあああああああああああ!?」
「つ、月咲ちゃーん!」
「――」
コマを投げる要領で回転をかけられながら勢いよく投げられる月咲に姉の悲鳴があがる。太刀を地面に突き立て方向転換した少年――魔女守のウワサは、杏子を追走していた2人の上の空間を突っ切るようにして飛んで行った月咲の方へ反転。脚力を存分に発揮し旋回しながら落ちる彼女に追いつき空中で抱きとめると目を回す少女を抱えたまま着地、どこからともなく取り出した毛布を敷くと丁寧に横たえた。
「きゅ、きゅう……」
「……負傷はしていないようだな、勢いよく回転していたこともあって目を回しているようだが……うん、少し休めば復帰するだろう」
「ほっ……。心臓が止まるかと思いましたでございます。本当に良かった……ありがとうございます魔女守さん。おかげで月咲ちゃんも無事に……、無事に……。こ、この極悪非道ぜったいに許さないでございますよ佐倉さ――逃げてる!!」
一体なんだったのでございますか!! と状況に振り回され最愛の妹を捕縛され無遠慮にぶん投げた挙句とっとと逃げ出した外道に沸点を飛び越した
全力疾走で離脱したのだろう、姿も形もない魔法少女の残した足跡を確認しながら検索、演算を行っていたウワサは淡々と算出した結果とそれから導きだされる推測を語る。
「現在
「……あの子は佐倉杏子と名乗っていました。言っていたことが事実であればこの街に来たのは昨日のこと……知り合いの魔法少女がこの街で調査を進めていたことから魔女が大量に出没することを知り、この街を新たな狩場とする予定だったそうでございます」
追うか? このアジトにおける監督を任されているひとりである月夜に視線を向けるが、彼女は首を振った。
逃げたとはいえそう遠いところまではいけていない。時間と立場が、状況が許すものならばそれこそ徹底的に追い回して妹を危険な目に逢わせたことへの詫びを引き出すつもりだったが……ベテランの魔法少女が攻め込んでくる可能性が高いとなればここを手薄にするわけにもいかない。
……それに、もしも佐倉杏子がウワサを狙うのならば、七海やちよと合流して攻めこんでくることだろう。彼女も魔女守のウワサの実力を片鱗でも認識したならばある程度魔法少女と連携して挑もうとするはずだった。
(そのときは――)
(魔法少女の救済。その象徴たるドッペルを、解禁することとなるのでしょうね)
彼女の握るソウルジェム、その穢れは着実に溜まりつつあった。
「――さて、どうしたもんかね」
住宅街の家屋のひとつ、屋上に腰を下ろした杏子はやれやれと息を吐く。
地下水路を抜け出すときには、いつ追い付かれるか戦々恐々としていたものだが。まさか追撃らしい追撃もないのは杏子としても意外なところではあった。
追撃をされていたら困っていたのは杏子だったので、されないならされないで文句はないのだが……。
「七海やちよ、つってたっけ。防衛だなんだって言ってたし私を追ってアジトの守り疎かにしたくないって感じにでもなったのかね」
……見たいと思っていたものは見れた。情報もそれなり程度には集められた。マギウスの翼とやらには喧嘩を売る形になってしまったが、少なくとも白羽根や黒羽根だとかいった程度の魔法少女に負ける気はしないし杏子ほどの実力をもった構成員も限られるのか、勧誘の言葉もやけに熱心だった。なんならこの街にきたときにでも魔女退治で貸しを作ってやればこれ以上敵対することもないだろう。
だが、そうなると気になってくるのは、『魔女守』などと呼ばれていた怪力の少年と……少なくとも数だけはそれなりに揃っていた黒羽根を撤退させてまで彼が守ることになったらしき『フクロウ幸運水』。
ウワサがどのような存在なのかも、昨日この街に来たばかりの杏子には判然としないが……それでも、見逃せないものはある。
杏子は……この街に来た段階で、フクロウ幸運水を飲んでいる。
毒性はないと少年は口にしていたが……あの毒々しい色彩だ。よしんば一時的にツキが回ったとしても、幸運を与えられた結果の代償とやらがどれだけあるのかもわからない現状はもう一度調べを進めたいところだった。
「姉妹の方はまあどうとでもなりそうだけどなあ……あの野郎一体なんなんだ、さっきよくあの一発防げたよなあたし……」
黒ローブの少年の振るう太刀、槍越しに受けたのはたったの一撃だった。
たったの一撃――、それでもまだ杏子の手は痺れ震えている。ありゃまともにやってたら3分持つかもわからんなと頭を悩ませ、どうしたもんかねと唸る彼女はぼんやりと家屋から街を見下ろして――魔力の反応を感知する。
「……ぉ」
魔女のものではない。自分を追うために駆り出されたマギウスの翼かと警戒しつつ魔力のもとへ視線を向ければ、そこにいたのは神浜で狩りをするにあたり接触した青い髪の美人と彼女を中心にあちこちを探し回る少女たちで――。
「……」
彼女たちの目的のおおよそは、白羽根の姉妹の言から推測できる。高所から暫く魔法少女のグループを観測していた杏子は、にやりと笑った。そのまま彼女は家屋を飛び降りると、路地裏を利用し人目を避けながら魔法少女たちのもとへと向かう。
まあつまり、簡単なことで、そしてお互い様というやつだ。
自分は連中を利用するし――連中もまた、好きに自分を利用すればいい。
杏子ちゃん:魔法少女の鑑。彼女の生き汚さは他の魔法少女もぜひ見習ってもらいたいところ。暴れはしたもののこれでも多少はマイルドになってる。
魔女守:介護手加減はお手の物。高い戦闘能力の他ほむほむの下位互換程度の収納空間をもつためマギウスの翼には頼られている。
天音姉妹:今回の被害者。いきなり何するでございますひどいよ。なお状況次第では数日後見滝原のやべーやつと戦闘になった際銃器やら爆発物やら突きつけられる模様。かわいそう。
魔法少女なら■■
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曇れもっと曇れ可愛い娘の泣く顔がすき
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どうか幸せであってくれ安らかに生きて死ね
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卑猥であるべき求めるのはエロスですよ