環いろはちゃんと共依存的にイチャイチャしたい人生だった 作:風剣
『――なあ、俺と同じ面した魔女守のウワサとかいう奴は今どこにいるんだ?』
『ん? あぁ、そういえば2人はもう顔を合わせていたのか。私も初めてアレを見たときは驚いたよ。眼以外はすっかり瓜二つだったからねえ。……会って、どうするつもりだい?』
『……別に』
『ちょっと、お礼参りに行くだけだよ』
ウワサの居場所を知っているとして接触した赤いポニーテールの少女。佐倉杏子と名乗った魔法少女の顔を見た七海やちよは驚いたように目を見張った。
顔を合わせたことがあったのか。彼女の登場と提案に虚をつかれたようにしながらも落ち着いた様子で考え込んだ彼女は、やがて頷くと杏子に声をかける。
「……この街を新しい狩場にすると言っていた貴方がウワサに関わっていたのは予想外ではあったけれど……ウワサの在処を知っているというのなら私に拒否する理由はないわ。詳しい話を聞かせて貰えるかしら」
「ああ、それ自体は構わないんだけどさ。……そっちの連れは大丈夫なわけ? 今はウワサとやらのお守にとんでもない馬鹿力の男がついているから下手に近付くと怪我じゃすまないかもしれないよ?」
「――それって」
「あ?」
やちよに付き添っていた桃色の少女が驚愕も露わに反応するのに怪訝そうに眉を顰めた杏子だったが……ひとまず話を進めることを優先したのだろう、いろはから目線を逸らした彼女は「で、どうなんだ」と神浜西部を統括する立場に据えられる魔法少女に促す。
ケガなんてすっかよと唸るもう一人はこの際無視する。足手まといにならないのか否か。せめてそれだけでもはっきりさせろと目で訴える杏子に、やちよは細い顎に手をあて沈黙したやちよはちらりといろはに視線を向けた。
「佐倉さん、ひとつ確認をさせて貰いたいのだけれど……貴方のいうウワサのお守についてる男というのは、ひょっとして魔女守のウワサと名乗ってはいなかったかしら。あるいは、魔女を守る剣士、とか」
「……なんだ、知ってたのか。確かに魔女守とか呼ばれてはいたけど……やっぱそういうやつなんだな。ご近所の魔女森さんだとでも言われりゃギリ納得もできたんだけどなあ……魔女を守るってなんなんだ一体? 男が魔法少女顔負けの馬鹿力出すのもそうだけど魔女と関わるだけならいざ知らず守るだなんてはっきり言ってまともじゃねえだろ……」
「……待って、
「あぁ、魔女守とやらと一緒に拠点守ってる白い格好の姉妹が。……移動しながら話すか、目当ての場所もここからそう遠いわけでもないしね」
足手まといはごめんだから連中に敵わなそうな連れは置いていった方がいいぜと忠告する杏子に、やちよは桃色の少女を一瞥する――。まさか置いて行かれるのではと瞳を揺らすいろはに目元を弛めた彼女は、鶴乃とフェリシアへ視線を向け声をかけた。
「……魔女守のウワサは一度撃退したことがあるわ。近接になると分が悪いけれど、消耗を気にしなければどうにか削り切るところまではいけると思う。……鶴乃、フェリシア。もし私が突破されたら環さんと3人でカバーし合ってどうにか凌いで。桂城くんよりずっと強いってことはないから彼と戦うくらいの気概でやれば初見でもなんとかなる筈よ」
「うん任せて! 魔女守とは戦ったことがあるからだいじょー……えっやちよ魔女守のウワサ倒したことあるの!? 私が戦ったときはぜんぜん歯が立たなかったのに! ぬぐぐ、それならば最強の魔法少女としてここでリベンジを……!」
「……なに、あの化け物みたいな腕力したヤツが魔法少女に喧嘩売って回ってるとかこの街魔境か何か?」
***
「……あぁー? 魔女もりってヤツがウワサを守っていて、それがマギウスっていう魔法少女といって、マギウスは魔法少女をきゅーさいするって言っていて……あれー?」
「……どういうこと、なのかな」
杏子さんが合流してから伝えられた情報の数々は、ウワサを魔女に似たものとしか認識できていなかったいろはにとっては完全に想像の埒外だった。
一転する前提に混乱したのか、うんうんと悩むフェリシアの気持ちもよくわかる。懸命に頭のなかで教えられた情報をまとめた桃色の少女は、そのなかで浮かび上がった最大の疑問を杏子に問いかける。
「あの、やっぱりおかしくないですか……? そのマギウスの翼っていうグループの魔法少女たちって、魔法少女を救済しようとしているんですよね? それなのにヒトや魔法少女を襲う魔女を守っている魔女守のウワサと協力して、幸運水のウワサを守ろうとしているだなんて……」
「さあ、それをあたしに聞かれてもねえ。まあそこらへんは連中に直接聞けばいいんじゃないか? ……にしても、いろはだったっけ? あたしからすればあの魔女守とやらとあんたの彼氏が瓜二つの面してるっていうのがよっぽど驚きなんだけどね」
「それは……。私たちにも、なにがなんだかわからなくて。シュウくんには双子がいるわけでもないし神浜にはういの……私の妹の見舞いに通っていた程度なのにいつの間にか魔女を守ると言って魔法少女を襲うシュウくんと同じ顔をしたウワサが現れるようになって……」
「……あんたの彼氏も難儀なもんだねぇ」
『見知らぬ人間が同じ顔でうろついて』『魔法少女を襲っている』――その情報におおよそ彼が直面している問題を把握したのか、いっそ呆れたような口ぶりになりながらも声音に同情を滲ませる杏子さんは地下水路を先導しながら苦笑する。
ま、そこらへんの難しいことも向こう側に聞いてやればいいさ。
そう気軽な調子で口にした杏子は、薄暗く閉塞感の強い水路を抜けた先の開けた空間に出る。
そこに居たのは、白いローブを纏う2人の魔法少女と――黒いローブのフードを脱いで素顔を晒した、ひとりの男の子。
「魔法少女が4人……やはり手勢を連れてきたでございますか」
「七海やちよもいる。やっぱりスパイだったんだね。……佐倉さん、さっきの乱暴は許さないんだから!」
「……あの魔法少女はあんなこと言っているけれど、貴方ここで何をやったの?」
「そんな手荒なことはしてないさ。ひっ捕らえてから囮にしてぶん投げただけだし……そんなことより、アイツだ。めっちゃ早いしパワーもやばい、一瞬でも目を離したらやられるぞ」
「……あの人、が」
周囲の声はほとんど頭の中にはいらなかった。天音月咲、天音月夜。待ち構えていた姉妹、マギウスの翼なる組織の羽根を名乗った彼女たちを前にやりとりをする魔法少女に交じるいろはが凝視するのは、黒いローブを纏う少年の姿。
似てないなと、一瞬だけ思って。ごくごく自然に恋人とそっくり同じ顔をした彼を似ていないと思えてしまった自分に驚いて、どこが違うと感じたのだろうと改めて注視する。
毎日見ている顔だ、間違える筈がない。そのいろはからしても、髪型、顔立ち、体格は間違いなく彼女の恋人と一致していて――透明な瞳だけが、唯一シュウと異なっていることに気付くと、納得する。
あぁそうだ、一目で似ていないと思えたのも当然だ。
だってシュウくんは。ずっと優しくて、温かくて、穏やかな眼をしていた――彼の目は、まるでガラス玉のように透明だ。その目のなかには何の感情もない。
まるで。人形か、昆虫の目を覗き込んでいるような――。
「こうした形で相対するのは不本意ではあるんだけれどね。一応聞いておくけれどここで手を引くつもりはない?」
「もう私たちのことは聞かされているでしょうが……。私たちの関わる魔女守さんが魔法少女を襲撃していたのも彼が魔女守を名乗るのもすべては魔法少女救済のため。
「もちろんここで引き下がってくれるのなら幸運水を飲んだ仲間の分の水をいつでも供給するよ。与えられる24の幸運が尽きる前に飲めば幸運は継続するの。悪くない取引だと思うけど」
「「ねー?」」
「……なんてこと言ってるけれどどうする? 『何か知ってるやちよさん』」
「……信用できない、これに尽きるわね。どういった経緯でウワサと接触、協力するに至ったかは知らないけれど示威行為にしたってそのウワサを使って魔法少女の襲撃を繰り返すのも『魔女を守る』と掲げる者と接触しながら『魔法少女を救済する』と謳うのも矛盾が過ぎる――。話にならないわ」
いろはがウワサを観察する間も、問答は続く。魔法少女の救済のため『マギウス』の翼となって動く白羽根の姉妹の勧誘に対するやちよの態度は頑なであり、状況が状況だからか姉妹もそれ以上の反論や説得を働きかけることはなかった。
鏡合わせのような容姿の姉妹。片割れが緑色に輝くキューブを握れば、もう片方が笛を手に取りウワサに語り掛けた。
「交渉は決裂、でございますか。それでは魔女守さん。
「勿論。七海やちよ、佐倉杏子、由比鶴乃、深月フェリシア。……環、いろは」
目が合った。
透明な、目が。周りの仲間が交わすやりとりにも意識を傾けられずにずっと見ていた私を、見返していて。
「優先事項を更新。『フクロウ幸運水のウワサを防衛』『非殺傷制限』『魔法少女の無力化』を適用。迅速な無力化を図りアマツカヅチ解放申請――非承認。魔女結界『象徴の眷属012』にて戦闘を開始する」
空気が、変わった。
臨戦態勢――やちよが、杏子が槍を構えるのに合わせ周囲の魔法少女も各々の武装を手に警戒を露わにする。「今聞き逃せない単語聞こえたでございます!」「うちたちも居るんだからあんまり危ないことしないでよ!?」と悲鳴をあげながら姉妹の片割れが手に握っていたキューブを輝かせる。
呪いが解き放たれた。逃げる素振りも見せず3人と対峙していた魔法少女たちは呆気なく結界に取り込まれていく。
『samu4f4』『Ⅳ 愉』『解g■ オどりましょ』『招TImE』
ぐねぐねと変形を繰り返す脚で身を支える使い魔が走り回る。歪な形状の椅子の上に座るヒトガタが頭部をキラキラと輝かせ発光する。ドレスを纏う使い魔が手を振りかざせば卵状の肉体をもつ使い魔が駆け回り、多種多様の色彩をした椅子が跳ねながら陣を組んでいく。
既に彼女たちのいる空間も、いろはたちの通ってきた地下水路ではない。豪邸の広間のような意匠を感じさせるダンスホールに様々な形状の使い魔が蔓延っていた。
「魔女!? ……っ! まず、フェリシア――」
「っ……! 魔女はぁ、ぶっ殺すっ!!」
「フェリシアちゃん!?」
気配すら感じさせなかった魔女が唐突に現れたことに目を見開いたやちよが、背後から滾った魔力に弾かれたように振り向いて制止の声を投げる。いろはが伸ばした手が首元のフードを捕えるよりも早く駆け出したフェリシアは振り上げた大槌を巨大化、結界に溢れた使い魔のなかでも一際大きな個体めがけ得物を叩き込んだ。
「ああもう……! ……いろはと鶴乃はフェリシアをサポート、魔女を倒してきて。私と杏子さんは向こうでウワサと姉妹を相手するから!」
「――はい! やちよさんも気を付けてくださ」
そのタイミングで死角から使い魔が襲い掛かってきたのは、ある意味では僥倖だった。
風の属性を炸裂させた暴風、それを水の防壁で
「ぇ……?」
「――まずは、1人」
――使い魔と使い魔の間を縫うようにして欠片の減速もなしに彼女達のところまで辿り着いた桂城シュウのカタチをしたウワサは後方からフードを掴まれ踏鞴を踏みかけたいろはに手を伸ばす。
先んじてフェリシアの元に向かう鶴乃は背後の異常に気付かない。唐突に後方へ引き寄せられ体勢を崩したいろはには反応できない。彼女を掴むウワサ、その手が狙うのは少女の纏う白を基調とした外套、その首元を彩る桃色の宝玉で――。
「む」
「この――」
「っとぉ!」
頭部を撃ち抜くようにして投げ放たれた槍をのけぞり回避した少年の腕、鞘に納められた太刀に伸びた手が絡みついた多節棍に縛られる。
「これは」
「――らぁっ!」
彼の実力、その片鱗を一度拝んだ杏子には腕を捕えたからと欠片も安心できはしなかった。ウワサを捕えた瞬間多節棍を間髪いれず振りぬき、鎖を掴み逆に杏子を引き寄せようとしたウワサをそのまま宙へと投げ飛ばす。
透明な太刀を空中で引き抜いた彼を、雨の如く降り注いだ槍が撃ち落した。
思い切り投げ飛ばし距離がとれた杏子の肌をびりびりと刺激する魔力。肩を竦めた彼女は、一息ついて槍を組み直し跳ねまわる使い魔を串刺しにすると桃色の魔法少女を使い魔の群れから救出していた逃げ場のない空中で魔女の1体2体は葬れそうな一撃を見舞った魔法少女へ視線を投げた。
「あれ、あんたの連れの彼氏と同じツラしてんたんだろ? あんな思いっきりやって大丈夫だったのか」
「……どうかしらね。あの程度で簡単に倒せるようなら、楽でよかったのだけれど」
「いやいや、流石にあれで無傷ではないだろ……。――マジ?」
ボッと響く射出音。やちよが複数本展開した槍を容赦なく落下した魔女守へと再度投げ放つのに顔を引き攣らせた杏子だったが――直後にそれが弾かれる音を聞いて、自らもまた槍を構える。
「……」
透明な太刀が、引き抜かれていた。
地面に転がる蒼い槍。指では数えきれないだろう数の凶刃、それらのすべてを迎撃したのか槍の数々が使い魔の遺骸とともに転がる場の中心に立つ少年には傷ひとつない。そんな彼に向け一切の躊躇いなく槍を射出するやちよは、怜悧な美貌の横顔を一筋の汗で濡らしながら絶え間なく槍を撃ち放っていく。
「――!!」
一度にいくつも、そして絶え間なく次々と撃ちだしていく槍の数は最早数えるのも億劫だ。着弾のたび響く轟音に耳を塞ぎながら様子を見守る杏子は、火花を散らし土埃を舞い上げながら己へと襲いかかる槍の悉くを打ち払っていく少年に息を呑んだ。
「……環さん、鶴乃、佐倉さん、聞こえる? 範囲攻撃――回避しきれない範囲・密度の連続攻撃で押しつぶすのが、私の導き出した対魔女守の最適解よ。真正面から打ち合っては腕の方がイカれる、一撃でも通せばそれだけで昏倒されかねない。とてもではないけれど真正面から打ち合くはないもの、一度抑え込めれば密度、威力を最大まであげ削っていく――」
「――けれど、それだけでは駄目。私の魔力の消費もそうだけれど、彼が大技をひとつ繰り出せばこの趨勢も覆される……。前はそれで離脱までもっていかれたけれど、今回は彼にも引けない事情がある筈。その隙をついて有効打を叩き込むわよ」
フェリシアの援護にいかせた鶴乃にはテレパシーを繋ぎ背に庇ういろはに、横の杏子に声をかけ怒涛の連撃を打ち込んでいくやちよの顔色は優れない。槍の雨に動きを封じられる相手の反応も着実に鈍くなりつつあり、朧気ながら手ごたえも感じ取られるが……それでもまだ動きを止めるには至っていないだろうという確信があった。
そして――魔女とも、魔法少女とも異なる魔力が。殺人雨の向こう側で、迸る。
『――限定解放、
「「「!!」」」
暴風が吹き荒れる。
いや、これは――大気を奔る、風の刃。魔女の巨体さえも容易く削り取る大斬撃。
豪雨の如く降り注いでいた槍が舞い上げられ断ち切られ、建物の上階で叩き割られた硝子の如く地に落ち飛散する。鎖が伸びた。串刺しにした使い魔の影から放った多節棍は
「先刻の天音月咲に
「っ、やば」
多節棍が握り潰されながら掴まれる。槍を突き立てた使い魔を重しにしてもなお杏子を多節棍ごと振り回しかねない腕力――ぐいっと引き寄せられかけるのに慌てて得物から手を離した瞬間、使い魔を串刺す鎖ごと振り回されそうになっていた多節棍を真上から放たれた蒼い槍が縫い留める。
ウワサの腕が止まった。
そして、如何なる魔女が相手であろうと活路を見出し生き残ってきたからこそのベテラン。
七海やちよは、その隙を見逃さない。
「――ここっ!!」
「……!!」
水飛沫が弾けた。滑るように接近したやちよの突き出した槍の穂先、魔力の閃きが遅れるほどの神速の刺突が太刀を腕ごと封じられたウワサを襲う。
刺突の直撃に遅れ。使い魔の数を著しく減らした魔女結界に、轟音が鳴り響いた。
「……」
「どうして。環さんを真っ先に襲ったの?」
「――魔法少女を死に追いやる事態は可能な限り避けるべき要素だ。それはマギウスの翼も、一部のウワサも、そして
「……そう。納得はしていないけれど、ひとまずはそういうこととしておきましょう。にしても……ヒトではないのは薄々察していたけれど、貴方も随分と無茶をするのね」
背後で小さな悲鳴が聞こえた――。流石に恋人の姿をした者を傷つけられるのには拒否感があったのか。少女には嫌なものを見せてしまったと罪悪感を抱きながらも、それでもやちよは剣呑な空気を未だ抜ききれぬまま突き出した得物に力をこめる。
回避不可能のタイミング、態勢を狙い放たれた刺突。蒼い槍は、肩を穿つ直前で挟み込まれた手によって抑え込まれていた。
穂先を掴まれた槍は魔法少女の膂力をもってしてもぴくりとも動かない。それでも穂先を掴む掌は鋭い刃先によって穿たれ、尖端が手の甲から突き出している状態だった。
穂先に貫かれた掌からは一滴の血さえ流れていない。この一撃もどこまで有効であるかはわからないもののもう片方、太刀を握る腕も杏子によって拘束されている。事実上の封殺に成功したといっても差し支えなかった。
「……勝負はついたわ。じきにフェリシアと鶴乃にこの場の魔女も始末されるでしょう、観念しなさい。魔法少女の解放、ウワサという存在について、そして何故魔女守を名乗る貴方が殺意もなしに魔法少女を襲撃していたのか。聞きたいことは山ほどあるのだし――」
「Loading……設定される秘匿事項に抵触しない限りであれば
「何を――」
違和感があった。警戒も露わに目の前の存在を見つめたやちよは、確実に窮地まで追い込まれたにもかかわらず顔色ひとつ変えない彼の透明な瞳を見て、改めて彼女は認識する。
彼に感情はない。その透明な瞳が映し出すのは、目の前のやちよですらなく彼が観測し、そして演算をすることで奔る莫大な情報群のみ。
痛覚を始めとして、彼にヒトとしての感覚はない。槍に掌を貫かれても顔色を変えないどころか脂汗ひとつ流さないような人間などいない――痛覚を消した魔法少女であろうとも己を穿つ刃には大なり小なりの反応を見せるというのに、だ。
傷を厭わず、損耗を恐れず。ただ与えられた役割のみを淡々とこなす。
ヒトの形をしていようとも、顔見知りと同じ造形をしていようとも。
目の前の存在は、これまで対峙してきたウワサと何ら変わりない――紛れもない人外なのだと。
何かの砕ける音。やちよはその発信源――ウワサの掌を貫いていた槍の穂先が五指に握り潰されるのを確認すると、すぐさま破壊された得物を手離し新たな槍を手元に作り出して砕けた刃の欠片を振り払う少年に突き出して。
「敗因:七海やちよ。佐倉杏子。貴方たちが警戒すべきだったのは
「「――笛花共鳴!」」
追撃をしようとしたやちよ、多節棍を手放し離脱しようとした杏子。魔女結界のなかに響き渡った音色が、2人を逃がさず平等に包み込む。
「っ……!?」
「頭が、割れる……!」
効果は覿面だった。頭の中に直接響き渡った淡麗な、けれどもどこか歪な音色に戦闘慣れした魔法少女たち2人がなす術なく崩れ落ちる。
「――やちよさん!?」
苦鳴を漏らし頭を押さえながら膝を折ったやちよの姿に駆け出そうとしたいろは、その足元を投擲された太刀が粉砕することで動きを止めた。
「っ――」
掌を穿つ穂先の欠片を引き抜いて砕きながら迫る彼に青くなりながらも、それ以上の硬直はしない。後方へ跳躍し距離を取ってボウガンを構えるいろはを一瞥しながらも深追いはせず、魔女守はまずやちよたちを無力化した魔法少女をねぎらった。
「世話をかける。
「こちらもお待たせして申し訳ございません。戦いが激しくなかなか手出しもできず……」
「危なかったね、大丈夫? ……うわ、ウワサって傷つくとこんな感じなんだ、罅割れた水晶玉みたことあるけど掌の傷が丁度そんな感じになってる……」
やちよの槍に穿たれた罅割れの走る掌の開閉を繰り返す魔女守のウワサと姉妹がやりとりをする間も、やちよと杏子が動くことはない。否――動こうとするたびに頭のなかに響く音色が爆発し、あらゆる動作を封じられている。
共鳴――。天音姉妹の誇る固有魔法によって武器とする魔笛の音響の効果を拡大・増幅された音色はあらゆる人間を拘束する。マギウスの翼における幹部格として重用される彼女たちは非殺傷を前提とした防衛戦でこれ以上なく優秀な存在であった。
「2人を拘束している間天音姉妹は動けないのだったか。であれば残りの3人は
魔女結界に響き渡る震動――七海やちよの連れてきた魔法少女たちによって魔女が倒されたのか、結界が徐々に崩れ落ちていくのに魔女守は太刀の柄に手をかけ演算を開始する。
……クッションとしても利用可能だった結界が魔女が倒され消えてしまう以上、地下水路内で大技は使えない。自身の戦闘パターンをある程度把握されている魔法少女3人を相手取るのは困難、であれば合流するよりも早く付近の環いろはを昏倒させるのが最適である筈なのだが――不可解なことに、彼女との短期決戦を想定した戦闘シミュレーションの勝率は
「
シミュレーション内容にはウワサをして不明瞭な部分も多いものの、これ以上時間をかける訳にもいかない。魔女守のウワサは演算結果から奥に控える幸運水のウワサを
目の前にまで迫っていた黒木刀を迎撃した。
「……これは」
魔女結界も消え去った地下水路、いろはのサポートへ駆けつけようとしていた鶴乃とフェリシアが、魔法少女を拘束していた天音姉妹が驚愕の視線を広間の入口へ向け――いろはが、淡い安堵と、微かな悲嘆を滲ませ微笑む。
「――来てくれたんだ、シュウくん」
また、助けられちゃった。
いろはまでの距離を埋めるのに、数歩あれば事足りる――。弾かれた黒木刀を手元に引き戻し、彼女を庇うようにしてウワサの前に立ちはだかった魔女守と全く同じ相貌の少年。
泣きそうな顔をして、彼が駆けつけるのに零した言葉にこめられた感情は。ウワサにはうかがい知れない。
・魔女守さん
イイ感じのフォント見つけたのでリニューアル。あとでこれまでの登場シーンでのセリフ弄らねば。
マギウスの翼の武力担当。ただ武力担当故に対魔法少女、防衛、非殺傷となるとだいぶ制限がつく。バグあり。
・いろはちゃん
今回だけは。彼に頼らず、自分と仲間たちでなんとかしたいと思っていた。
けれども、私は。また――。
魔法少女なら■■
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曇れもっと曇れ可愛い娘の泣く顔がすき
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どうか幸せであってくれ安らかに生きて死ね
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卑猥であるべき求めるのはエロスですよ