環いろはちゃんと共依存的にイチャイチャしたい人生だった 作:風剣
思えば……神浜市に来てウワサに関わるようになってから彼の身の回りで起きた異変のなかで最も顕著だったのは、やはり得物の黒木刀だったろうか。
『この街で魔女と戦っている内に、コレがやたら形を変えるようになったんだよな。投げれば手元に戻ってくるようになった、魔力を吸う度に少しずつ刀みたいに鋭くなっていった。……これ、婆ちゃんの仕業だったりする?』
『ああ、それかい? そうだね、神浜で戦うなら多少は強化も施しておく必要があったし。象徴の魔女は知っているかい? 今神浜には沢山の魔女がいるけれどね、あの魔女が現れてから4、5年くらいは今の神浜と同じくらいに魔女や使い魔が溢れ変える時期があったんだよ。元々この街には凶悪な魔女が生まれやすい土壌があったんだろうね』
宙を舞う黒木刀を受け止める。
弾丸のように飛んでくる過重の樹塊を受け止めるのも掌に伝わる衝撃も今や慣れたものだ、軽く一振りして握りを確かめたシュウは刃先をコンクリートの地面に突き立てると同一の容姿をした男を弊倪する。
「……魔法少女とつるんでいるようだったし、本当ならもう少しタイミングを見計らって接触するつもりだったんだが。ウワサを追っていたいろはがここに居たのには驚いたけど……まあ、何かある前に間に合ってよかったよ」
「オリジナル……桂城シュウ。
「幸運水? ……ああ、昨日いろはとフェリシアがやってたフィーバーはそういうことか。まあそれは良いんだ、ここに来たのは単なる憂さ晴らしだしさ」
……いろはは無傷。フェリシア、魔女とでも戦ったのか少し服が焼かれてるもののそれ以上の怪我はない。やちよ、姉妹の笛に頭を抑えているものの外傷はない。鶴乃、無傷。赤い魔法少女、誰だかは知らないがやちよと同じく拘束されていることから敵ではないと判断。外傷はない。
魔女守りと相対しながら周囲の魔法少女たちの状況を確認したシュウは、恋人を背に庇い黒木刀を地面に突き立てながら眼前のウワサを観察する。
「……それにしてもオリジナル、ねえ。こっちでも調べは進めちゃあいるけれどこうもそっくりだと忌々しいミラーズを思い出すな。どういう趣味で俺をモデルにしようと思ったんだか」
「……さて、どうなのだろうな。
「ふうん……?」
思わせ振りなことを口にするウワサの言を埋め込まれた記憶の内容と擦り合わせる少年は訝しげに眉を潜めたが……ひとまずは自分の用を済ませることを優先すると決めると、地面に突き立てていた黒木刀を引き抜き足場の具合を確かめるようにこつこつと爪先で蹴る。
「いろは。ここでマギウスの連中とかち合ってるってことは奥のウワサに用があるんだろう? こいつの相手は俺がするからやちよさんと……赤い魔法少女を助け出したら先に奥行っててくれ」
「え……? シュウくん、どうしてマギウスの翼のことを知ってるの? 私たちだってさっき初めて知ったのに……」
「借りができたんだよ、本当に大きな借りだ。だから本当はウワサを倒すのにも協力すべきではないんだけど……まあこればかりは向こうの責任もでかいから問題ないさ」
背後のいろはに対して、少年はろくに視線を向けはしなかった。余所見をできない脅威があると判断していた。
ほら行った行った、後で説明するから──。ウワサのから目を逸らさぬまま急かすシュウに、自分が彼の動きを戒める枷となってしまっているのをどうしようもなく自覚してしまう。
桃色の瞳を揺らし俯いた彼女は、迷いを振り払うように走り出すとフェリシア、鶴乃と合流すべく駆けていく。
「――っ。……ごめんね、シュウくん。……ありがとう!」
大切なひとの気配が遠ざかる。態度がちょっとそっけなかったかなと悔いるようにぼやいた少年は、ウワサの後方でやちよと赤い魔法少女を解放したマギウスの魔法少女が速やかに奥地へと離脱していくのを認めると眉をひそめた。
「なんだ、七海さんが動きを止められてるから何をされているのかと思ったら逃げて……いや防衛に回ったのか。良いのか? 戦力は下手な魔女なら5分もかけないで倒せるくらいにはそろってる、魔法少女をウワサの守りに回したところで焼け石に水だろう」
「笛花共鳴……あの姉妹の奥の手は強力ではあるものの2人の動きもある程度封じられてしまう欠点もある。その状態で
「あ?」
「魔法少女の真実は知っているのだろう? ならば――桂城シュウの行動パターンであれば間違いなくマギウスの翼に加入するだろうと認識しているのだが。どうしてこのように敵対する?」
「はっ」
失笑があった。
わかりきったことの説明でも求められたような、微かな呆れと疲弊感を滲ませたような声音――口元を吊り上げ、感覚を確かめるように黒木刀の柄を握り直しては風切り音を響かせ黒い軌跡を奔らせるシュウは得物を肩に乗せては苦笑する。
「お前に俺の事情をどこまで把握されてるかも知ったことじゃあないけどさ。まさかお前、何も考えてなかったのか? 俺と同じ顔をしながら街をうろつく、それだけならともかくよりにもよって『有望株』に絞ってこの街の魔法少女の襲撃を繰り返す――、いくらなんでもそれで俺になんの迷惑をかけないと思うのも、それで文句のひとつも言われないと思うのも
「……ふむ。つまりこれは、あくまで敵対ではなく――」
「八つ当たりは否定しないさ。ただまあ、こっちも欝憤が溜まりに溜まっててな。試したいこともある、俺と同じ面で魔法少女を襲った分も兼ねて――サンドバックになってもらうぞ」
火蓋を切られるようにして投じられた黒木刀。眼球を撃ち貫く軌道で投擲された凶刃を叩き落とすように透明な太刀で迎撃した魔女守は、そこで一気に踏み込んで距離を埋める少年の姿を認める。
自らが投げた黒木刀に追随して接近した少年の胴を狙った刃は、更に一歩加速した少年を捕らえ切れず空を切った。得物を打ち落とした太刀を持つウワサの腕を掴んだ少年はそのまま腕を掴む手に力を籠め、鏡合わせの相貌をした黒ローブを引き寄せて。
硬く握りこまれた拳で、胸の中心を打ち抜いた。
「っ――」
「これは……?」
反応は間に合った。拳が胸部へ叩き込まれる直前に滑り込ませた腕は確実に彼の突き出した拳を抑え込み、防いでいる。
ならば、これはなんだ。
接触した拳を中心に叩き込まれた衝撃。腕から魔女守の
「桂城シュウ、貴方はまさか」
「敵対はしない。あくまで俺は、自分と同じ顔をした厄介者に軽くヤキをいれてやるだけだ」
だから――安心して受けて、感想を聞かせてくれ。
そういって身を沈め、魔女守に叩き落された黒木刀を回収し身を翻した少年は――太刀を構えての防御の上から刃を叩きつけ、そして吹き飛ばす。
……簡単なことだ。
本当に、簡単なことだったのだ。
『魔法少女の弱点は、ソウルジェムなんだよな。どんなに強い魔法少女も、魂そのものであるソウルジェムを壊されてしまえば本当にあっけなく死ぬ。……じゃあ、魔女の弱点は?』
『どんなに優れた作物であったとしても、どんなに繁殖力の強い植物であったとしても……芽さえ出てない種の頃から強いってことはそうないだろう? 例外は何事にもあるが……そうさね。グリーフシードだけなら、金槌を持たされただけの子どもでも容易く壊せるだろうねえ』
如何なる巨体を誇る魔女だったとしても。
どんな攻撃さえ受け止める甲殻を持った魔女であったとしても。
どれだけ強力な護りを穿つ爪牙を携えた魔女であろうとも。
たった一ヶ所。ちっぽけな、卵よりも小さなドス黒い宝珠――。
魔女の核となっているグリーフシードさえ砕けてしまえば、それだけで魔女は死ぬ。
たったそれだけだ。
たった、それだけで。家に現れた、水名神社に現れたあの魔女だって。自分は倒せたのに――。
黒木刀を叩きつける。真正面から透明な太刀で受けとめたウワサが、人外の脚力を漲らせ踏ん張ってもなお足場を削られながら押し込まれる。
黒木刀を叩きつける。一撃目で体勢を崩しかけたウワサは振るう太刀の刀身を黒く染め、風を纏わせた。刀身を中心に吹き荒れる風に後押しされた一閃は少年の振り下ろした黒木刀を受け止め、風に後押しされた腕力もあり少年の体を吹き飛ばす。
その身を宙に舞い上げられた少年に、太刀を振るい踏み込んで追撃しようとして――ピシリと、黒いローブのなかで魔女守のウワサの腕が罅割れた。
「――」
着地すると同時投じられた黒木刀を回避、太刀に纏わせた気流を膨らませ10m前方の少年を薙ぎ払おうとして――次の瞬間には、太刀を振り抜こうとしていた手首を掴まれていた。
一発、胸の中央を拳が打ち抜く。二発目、三発目を片方の手で凌ぎ、四発目で完全にいなした筈の打撃が腕から全身にかけ衝撃を爆ぜさせた。側頭部を刈り取るべく振り抜かれた脚をのけぞるようにして回避したウワサは右腕を抑え込むシュウの腕を振り解くと後方へ跳躍、距離を取ろうとした彼に再度投擲された黒木刀が襲い掛かる。
「――」
武装の回収を目論んだウワサは腕を霞ませた。掌の表面を削られながらも黒木刀の柄を掴み獲り、魔力を吸われることを知覚する。そして腕にのしかかる重量。その瞬間、距離を一息で詰めた少年に殴り飛ばされ全身を不気味に軋ませながらも魔女守は己を襲う脅威の真価を算出するに至った。
「――
「ああ、うん。
接触面を起点に対象に衝撃を浸透させ、逃げ場のない体内まで
巨体を誇る魔女の身を覆う骨肉。あらゆる刃を受け止める硬い甲殻。魔法少女の武装さえ砕く鋭く重い爪牙――
甲殻に表皮に触れた打撃は、そのまま奥まで徹り体内で爆ぜる。今はまだ効率も悪い、10の力で3でも魔女の体内に届けられれば儲けものだが、その3の力だけでちっぽけなグリーフシードひとつ破壊できればそれで十分だ。数を重ねればそれだけ練度も増す、いずれは一部の例外を除いたあらゆる魔女も一撃で殺せるようになるだろう。
グリーフシードを砕かれてしまえば、二度と魔女は蘇生しない。
今度こそ。あの黒樹の魔女を殺せる。
だが。今更、こんなことができるとわかっても――もう、喪った人は戻らない。
あのとき――。
「あのとき、これができてさえいればなあ……!」
「っ――」
激情のままに叩きつけた黒木刀。受けるのみならず逸らしても衝撃は刃を通し腕を通し身に響く。防戦は削り殺される一方と判断したのか、黒く染めた太刀から風を吹き上げ黒木刀ごと叩き斬らんばかりのいきおいで刃が振るわれるが……ウワサの敏捷に風の勢いを乗せた最短最速はだからこそ読みやすい。
対峙するシュウをして視認の困難な速度の斬閃、けれど風を用い加速したことでその一撃は
右腕の拳の接触点を中心に浸透し、炸裂する衝撃。そこらの学生と同程度とはいえ決して細身ではないウワサが開けた空間を突っ切って壁面に激突した。
強く握りこまれた拳をシュウが開けば、拳を作る外側を仄赤く染めた指が軽く痙攣する。嘆息し足元に転がした黒木刀を回収する少年に激突の勢いで壁面に罅割れを走らせたウワサがボロボロの黒ローブに付着した埃を払いながら声をかけた。
「疑問事項を提起、失礼を承知で問う。……オリジナル、本当に人間か?」
「本当に失礼だなお前、これでも歴とした人間だよ。そういうお前こそ、仮にも俺と同じ体してんならもう少し脆くしとけよ。途中から臓器らしい臓器もないのわかったし思ったより頑丈だったから全力で殴ったのにまだ大ダメージ程度で済んでるとかおかしいだろ、俺なら同じことされたら2回くらいは死んでるぞ」
そろそろ逃げたいなあ、と思うのは今更が過ぎるだろうか。
率直にいえば、ウワサの防衛を邪魔する気はシュウには毛頭なかった。
魔法少女救済? 万々歳だ、是非とも成就していただきたい。絶交階段のウワサ、口寄せ神社のウワサの話を聞く限りはウワサに巻き込まれた人間に対し有害なものも多いようだが……それが魔法少女救済のために必要であるというのがマギウスの翼の主張であれば身内の人間が巻き込まれない限りは静観したいというのが少年の本音。
場合によっては……混沌とする埋め込まれた記憶や自身の抱える混乱や葛藤とケリをつけた後であればマギウスの翼に加入するのも視野にいれている。ここに来たのも自分の顔をしたウワサが好き勝手するのに対魔女を想定した殴り方を試すついでに制裁、ある程度殴り合ったらとっとと帰るつもりだったのだ。
……よりにもよってそのウワサに、いろはたちが巻き込まれてさえいなければ。
ひとまず自分ならどうにか抑え込めるだろうと判断した魔女守のウワサを引き受けたのも、見知らぬ魔法少女も含めた6人であればとっとと幸運水のウワサを討伐して戻ってくるだろうという思いもあったのだが。体感時間の長さを考慮しても、思いのほかいろはたちのかけている時間が長い――。地下水路奥では激しい戦闘音が響いているので敗けたということはなさそうだったが、このままではこちらが先に脱落しかねなかった。
未だ右腕からは痺れが抜けない。相手の守りを無視して内側へ衝撃を徹すというのも元々対魔女で陽動するためにしていたことだ、そう負担ではないが……目の前のウワサは元々がシュウ以上の膂力と敏捷性の持ち主だ、一撃をかわし一撃を打ち込むたびに消耗を強いられる。現状は優勢とでもいうべき状況ではあるものの、相手が防戦へ臨んでくれるというのならまだしも攻勢に出られるたびにカウンターを見舞うというのはなかなかハードルが高い。
向こうも損傷はそろそろ大きくなってきた筈だが顔には一切出さないため本当に効いているのか自信が持てなくなっている。現在進行形で学習をされているせいか徐々に攻撃の通りも悪くなってきた、可能ならば完全に対応される前に打ち倒すか、いろはたちにウワサを倒してもらいたいところだったが……。
「……オリジナル」
黒く染まっていた太刀が、刀身を透かした。
透明になった刃を納めた魔女守のウワサに眉を顰めたシュウだったが……休戦を申し出るというのなら願ってもない。相手の一挙一動に警戒しながらも、少年もまた黒木刀を地面に突き立て息をつく。
「……お前が俺をモデルに作られている節があるのはわかるけれどオリジナルオリジナル言わないでいいよ、俺には桂城シュウって名前があるんだぞ」
「では、桂城シュウ。環いろははこの事態についてどこまで把握している?」
「あ?」
「核がない。であるならば縁が必要だ。そして縁を結ぶに必要なのは絆だけではない、ある程度の理不尽を押しとおるだけの力が、そして精神が求められる」
「待て、お前、何を言って――」
「私は魔女を守る剣士だ、そう在れと役割を与えられた。だが私は――■hgaい゛vvuウ」
ブレた。
いつか見たような――そう、口寄せ神社で遭遇した彼の母親を思い起こすような。
「……禁則事項に触れたか。だがマギウスの翼に関わる気であれば桂城シュウも、環いろはも真実から目を背けることは叶わない。
「故に、問う。環いろは――。彼女は魔法少女の真実に、どこまで耐えられる……?」
カミハマこそこそウワサ噺
・黒木刀は攻撃力を +60 する代わりに敏捷を -50 するタイプ。シュウくんが魔女との戦闘中も頻繁に黒木刀ぶん投げているのは重いしどうせ手元まで戻ってくるので投げてから攻撃するまで攪乱してた方が安定するため。
・シュウくんのやってるあれはシンプルに体内破壊。衝撃を接触点から送り込んで体内で起爆して殺す。魔女を陽動するため少しでも痛痒を与えるために練り上げた技術の応用。人に使ってはいけない。
・魔法少女的にソウルジェムは即死案件だが魔女がグリーフシードを壊されても心臓を潰された程度。そしてグリーフシードは魔法少女の生命線なので神浜以外でグリーフシードを壊すのは…やめようね!