環いろはちゃんと共依存的にイチャイチャしたい人生だった   作:風剣

48 / 126

セーフ、26日にはなってないのでギリギリセーフ、クリスマス特別編です

※前話、今後の回との温度差注意


クリスマス特別編 ~聖夜前の動乱~

 

 

 ここ数日は冷え込みが強くなってきたこともあり、ぬくぬくとした空間から飛び出た際の反動も相当なものだった。

 暖房の効いていた建物を出た瞬間身を襲った寒波、恋人を連れ外へ出た途端吹き付けた風に少年はぶるりと身を震わせる。傍らの少女も厚く着込んだ上着の上から身を襲った冷気に小さな悲鳴をあげていた。

 

「ひゃ……! 寒いね……。クリスマスは雪が降ったりしないかな?」

 

「ホワイトクリスマスかあ……。もうあちこちで大雪振ってるらしいし神浜で降ってもおかしくはないんじゃないかな。路面が凍ったりすると危ないけれど……、もし積もったりするようなら雪合戦とかするのもいいかもね」

 

「……あんまり強く投げちゃだめだよ?」

 

「魔女も混ぜた雪合戦でも起きない限り全力で雪ぶつけたりなんかしないよ」

 

 首元を覆ったマフラーの隙間から漏れた吐息も白い。手袋に包まれた手を差し出したいろはと手を握り合い並んで通りを歩く少年は、灰色の雲に覆われた空を見上げクリスマスの当日を待ち望むように期待を滲ませ目元を弛めた。

 

「……クリスマスといえば、集まりの準備もあって今日は一回みかづき荘に戻ったらでかけるんだったよな? いろはは頭……というより耳と腰は大丈夫か? 一応ホテルを出る前も確認はしてたけどまた生えたりとかしたら困るだろ、特に人前だと」

 

「……大丈夫、だと思う。みかづき荘に戻ったら念のために帽子は被っていくつもりだけど……」

 

 神浜に通い、そして暮らすようになってから増えた交友関係は多い。クリスマスイブ、クリスマスは予定が詰め込まれ、今日も親交をもつ魔法少女たちと打ち合わせついでのカラオケにいくことになっていた。昨日の魔女との戦いで想定外のアクシデントを経てつい数時間前ようやく解呪した『呪い』について確認し合う。

 結わえられた桃色の髪以外は何もない頭頂部とコートにハーフパンツに覆われた臀部を確認しながら、交差点で足を止めて信号が青になるのを待つ2人。車が行き交う街路を眺めるなかで、彼らの本能が僅かな違和感を知覚した。

 

「今の――っ、シュウくん!」

「――」

 

「……う、ぁ」

 

 ふらりと、幽鬼を思わせる足取りでスーツの男性が歩道から足を踏み出す。

 信号の存在を気に留めもせずに前へ進んだ彼に反応することもできずに車道を走るトラック、その前へと飛び出す形で。

 

 悲鳴、そして耳をつんざくようなブレーキ音が響いた。

 

「嘘だろ、飛び出し……!?」

「けっ、警察、救急車……」

「待て待て待て、え!? 今子どもも一緒にあの人と飛び出してって、え!? まさか助けようと……?」

 

 にわかに騒然となる歩道の傍観者たち。急ブレーキをかけ停車したトラックから蒼白になった運転手が降り携帯を片手に状況を把握しようとするのに、ブレーキ痕のこびりついた車道の惨状を往来の人間も確認して――。そこで、気付く。

 誰もいない。

 トラックの下にも、ブレーキをかけられながらもそれでも十分な勢いをもって過ぎ去っていった横断歩道にも、スーツの男性や彼を庇おうとした少年どころか血痕ひとつさえ残ってはいなかった。

 

「ぇ、あれ……いない?」

「確かに飛び出して、たのに……?」

「……勘違い、だよな? よかったよかった……本当に良かった……」

「……気のせいかな、さっき男の人抱えた影がパルクールみたいにトラック飛び越えていったような……」

 

 混乱が徐々に収まり、動揺していた歩行者たちも各々の用事を思い出してはけていくなか。息を呑んで様子を見守っていたいろはは、安堵したように息を吐いた。

 彼女は、一部始終を目撃していた。

 

 トラックの前に飛び出した男性を見た瞬間には彼にしがみつき持ち抱え、紙一重の距離を通り過ぎていったトラックに飛び乗っては荷台を足場に跳躍し目にも止まらぬ速さで車道を離脱、すぐさま路地に飛び込んでいったのを。

 車道へと男性が飛び出していくのを目撃したときは心底肝が冷えたものだったが、シュウの消えていった路地に向け足を進めていく。

 

「あの人を助けられたのは良かった、けれど……。でも、どうしてシュウくんはわざわざ姿を隠したりなんか――?」

 

 

 助けるだけならば、男性が轢き殺されるのを避けただけでもよかった。あの瞬間は衆目の視線が車両に集中していたとはいえ、少なくとも人命を救った彼が余計に悪目立ちするリスクを負ってまで最短最速で逃げ出していく必要はなかったはずで――、そこまで考えたところで、いろはは先ほど信号を待っている間に感じ取った違和感に思い当たる。

 

「……もしかして、あの人」

 

 少年たちを追い足を踏み入れた路地で響く鈍い音と悲鳴。息を呑んだいろはの目の前で、全身を黒光りする鱗に覆われた蜥蜴が頭を穿たれどろどろとした体液をぶちまけた。

 薄暗い路地。意識のない男性を建物の壁に寄り掛からせるように座らせる横で、古い電灯のように白く点滅する鱗を粉砕して四肢を砕き頭を得物で串刺しにした少年は使い魔から刃を抜き取った。

 追いついたいろはに気付いたシュウは、消滅する使い魔の亡骸を一瞥し得物を納めると駆け寄るいろはと視線を合わせる。

 

「やっぱり、今のって……」

 

「ああ。この人も魔女の口づけを受けてた。……ネガティブな感情を煽られてたんだろうな。念のために助けたあとも人から引き剥がしたけどここに連れてきたときも死なせろって暴れられたからあのまま放置してたら危なかったかもな」

 

 首トンは危ないから鳩尾打って意識落としたけれどちょっと手荒で申し訳ないなとぼやいて少年が目を向けた先、倒れる男性の首筋には毒々しい色彩の痣が刺青のようにくっきりと浮き出ている。トラックの前に男性が飛びだす瞬間に2人が感じ取ったのは魔女の残した呪いの残滓だった。

 

「――シュウくん。まだ、時間に余裕はあるよね?」

 

「……昨日のだっていろはにかけられた呪い解いたばっかなんだけどな。本気?」

 

「この人を放っておくわけにもいかないし、折角のクリスマスは後腐れのないようにして迎えたいから……ダメ?」

 

「……」

 

 最悪シュウが断っても単独でいくつもりなのだろうが……上目遣いでそんなことを言ってくる桃色の少女は彼が手を貸すことを疑いもしていないのだろう事実に半目を向ける。昔から頑固な時はとことん譲らないものだったが、神浜に来て魔女に魔法少女にもまれるなかで彼女も随分とまあ逞しく、強かになったものだった。

 

「……しょうがないな、か。もしまた面倒な呪いかけられたりして違和感出たらちゃんと言ってくれよ、小動物いろはちゃんも可愛いと思うけれど俺が面倒みた経験のあるペットらしいペットなんて婆ちゃんの飼ってた猫くらいしかないんだから」

 

「うん、何かあったらちゃんと言うね。……私は魔法少女だから耳と尻尾だけで済んだけれど、シュウくんがあの魔女に襲われてたら何になってたのかな。――オオカミさん?」

 

「随分と恐ろしいことを言うな?」

 

 その場合いろはのことは絶対喰ってただろうなあと力なく笑うシュウは、使い魔と似た気配の魔女を少女とともに追いながら身を預ける得物を取り出す。

 行くか、小さく呟いて。いろはとともに、魔女を追い路地を走り出した。

 

 

 

 

 12月も既に下旬に差し掛かろうとしていた。

 クリスマスにはやや早いものの、街は既に沢山のイルミテーションによって彩られている。サンタや身の回りの人間のプレゼントを楽しみにする子供やその様子を微笑ましいものを見るように見守る家族、来る当日、そして年末年始に備え準備を進めつつもブームに乗り売り上げを伸ばすべくキャンペーンを展開する数々の店舗。どこか浮ついた雰囲気の伴うクリスマスの空気にあてられたこともあってか、周囲を行き交う人々の様子は活気に満ちたものだった。

 

 ――それが、日常の裏に巣食う異形を活性させているのだが。

 

「え……じゃあ昨日からずっと魔女と戦ってたの!? みかづき荘にも帰らないで?」

 

 密閉感の強い室内で響いた衣美里(えみり)の声。あくびを噛み殺し眠たげに瞬きを繰り返しては目をこする少年は、ツインテールの少女の言葉に頷くとどっかと座り込み疲弊感たっぷりに唸る。

 

「目につく範囲で人を襲っていた魔女だけしか相手取ってないからいつぞやファリシアと魔女狩りRTAやったときほどじゃないけれど……それでも1日に3体はそこそこしんどかったかな。3体目に関しては手下にして操る動物を何体もけしかけてきたからやりづらかったよ。いろはも呪われて一晩まるごと費やして解呪に取り掛からなきゃいけなかったし」

 

「へー呪い……呪い!? それって大丈夫なの!?」

 

 普段のボーイッシュな言動と外見とは離れた童話の登場人物を思わせる華やかな衣装……衣美里によって着せられたらしきクリスマスコーデの志伸あきらが目を見開いて桃色の少女の方を向くのに、無言で自分の携帯を机の上を滑らせるようにして渡す。

 説明らしい説明もせずにただ携帯を渡した少年に首を傾げたあきらは、携帯の画面になんらかの写真が表示されているのに気付いてずずいと身を乗り出した衣美里と画面を覗き込む。

 

「……え、これろっはー?」

 

「ぅえ、これ、え? い、いろはちゃん!? 何これ、もしかして本物なの!? すごい可愛いー!」

 

「……え。シュウくん、待って、あの写真みせたの!? ま、待って見ないで恥ずかしいから……!」

 

「大丈夫大丈夫、見られて不味いようなもんはないから」

 

 あらかさまに動揺するいろはの頭を撫で宥めるシュウ、その眼前で少年の携帯を見つめる魔法少女たちの表示する画像には、頭から髪の色と似通った薄桃色の長い耳を生やしたいろはの姿があった。

 

 ――クリスマスに近付くにつれ活発になる魔女の動き。今魔女たちがどういう状態にあるのか相談にいったとき、魔法老婆さんと陰で揶揄していたシュウに金欠の呪いをかけた智江は財布と携帯が発火し平身低頭になって頭をさげる少年にため息を吐きながら推察を語った。

 

『クリスマス、年末年始にかけては国内に留まらず世界中である程度の盛り上がりを見せるけれど……日本人はお祭り好きだろう? 他の国や宗教の神聖な式典や記念日に乗じて自己流に仕上げて遊び楽しみ買い売るためのイベントにするのはよくあることだしねえ』

 

 そして、老婆は語る。呪いによって構築された魔女にとってそうした活気や希望は忌むべきもののひとつであると同時、最も美味しいごちそうでもあるのだと。自己の性質に従い、周囲の空間を己の好みにあうように呪いを振りまく魔女の習性。クリスマスに近付くにつれて魔女が活性化しだしたのは、そうした希望と笑顔に満ちた場を己の呪いで満たすためだった。

 

 いろはとシュウが昨日戦ったのも、そうした魔女たちのなかの一体。魔女結界において多種多様な獣たちを使役して襲いかかった魔女は、シュウの一撃で頭部の中身を攪拌されいろはの矢の掃射を浴び力尽き――そして、断末魔とともに呪詛の渦でいろはを呑み込んだ。

 

 呪いの渦は一瞬。魔女に止めを刺したシュウが少女のもとに駆けつけた時、呪いを受けたにも関わらずぴんぴんとしていたいろははきょとんと目を丸くしていて……その頭部では、魔法少女の白いフードを内側から持ち上げるようにして、ウサギのような耳が生えていた。

 

「……まあ、明らかに非常事態だから写真とか撮りまくったり撫でたりしたあとは調整屋にいって様子を診て貰って……解呪のために補助するための調整とアドバイスをもらって一晩かけて呪いを解いて来たんだよ。生えた耳にも感覚あるみたいで触ってるときの反応滅茶苦茶可愛かったから冬休みの間くらいはあのままでいて欲しかったな……」

 

「非常事態でもきちんと撫でたり写真撮ったりはしてるんだね……」

 

「えー良いなー、あーしもウサミミろっはーのこと見たかったー!」

 

 おおまかに事情を明かす少年の横では、真っ赤になったいろはが両手で顔を覆いふるふると身を震わせていた。衣美里とあきらが興味津々にウサギの耳が生えていたという彼女の頭頂部を見つめるのにとうとうこらえきれなくなったのか、机に手を突いて立ち上がった少女は声を張り上る。

 

「そ、その! クリスマスのときの、プレゼント交換だけど……衣美里ちゃんとあきらさんはもう決めた!? 私まだなかなか決められていなくって……」

 

「んーそれも良いけど……あーしシュウっちがどんなアドバイスみたまっちょに受けたのか気になるなあ」

 

「!?」

 

「呪い浴びてケモ化って初めて聞いたけどまた似たような魔女とあったとき対策しないとじゃない? もし動物にされたらどうかなー……みゃーこ先輩あたりは猫になってよりちっちゃくなってしまうかもしれない……」

 

「だ。ダメだよ!? その、ほら、治し方も人それぞれだってみたまさんも言ってたから!! ね!! シュウくん!!」

 

「……」

 

 必死になって詮索を遮ろうとするいろはの様子に苦笑する。

 ――当然、衣美里とあきらにした説明には穴がある。そもそもの2人が討ち取った魔女の操っていたケモノの()()についてや、ウサギの耳が、そして尻尾が生えていたいろはの身に起きた異変は当事者でない魔法少女たちには伝えるべきではない事象だ。

 

 ウサギの耳と尻尾をはやされた10分後、顔を真っ赤にして倒れたいろはに蒼白になった少年が最短最速で調整屋に恋人を運び、診察を行った魔法少女八雲みたま曰く。

 

『この呪い……獣化は、どちらかといえば肉体ではなく魔力、魂の方に作用してるわねえ。ソウルジェムとも呪いが深く結びついてる。これじゃ耳を切除してもまた生えてくるだけだから物理的措置には頼れそうにないし、逆に傷がついたということはそこに『在る』ことの証明になってしまうから逆効果ねぇ』

『いろはちゃんが倒れたのは、魔法少女の耐性と獣化にともなう衝動の発露が衝突しちゃった、のかしら……? アレルギー反応と似たような具合だけれど、もし獣化と耐性の均衡がもっと乱れてしまったら容態がより悪化するかもしれない。私の方でも処置はするけれどそれはあくまで補助――いろはちゃんにかけられた呪いを解くなら、彼女のなかで暴れる衝動を解放する必要があるわね』

 

 ――つまり、要点は。

 難し気な表情をするみたまにそう聞くと、彼女はほんのりと頬を染めるいろはにちらりと視線を向けて。

 苦笑交じりに、少年に質問を返した。

 

 

『あのね、桂城くん。……いやらしいいろはちゃんは、好き?』

 

 

 ほとんど二つ返事で大好きですと答えたのは、流石に欲望に素直すぎただろうかと苦笑する。

 みたまに案内された近場のホテルで過ごした解呪のための一晩。その内容を思い出し真っ赤になって狼狽えるいろはを見つめながら、少年はウサミミのはえていた頭頂部を丁寧な手つきで撫でた。

 

 

 

 






あれ、これで終わり? と思った方。クリスマスプレゼントなに渡すとか続きのありそうな〆方に思うじゃろ? 残念、あと1年は続編ありません
まだ本編でみかづき荘メンバーが揃いきってないのが悪い(真顔) クリスマス特別編の本番はまた1年たったら! それまでに必要な要素書ききれたら投稿するわ!!

・魔女
その魔女はヒトの本性をつまびらかにする。喰らってきた人間の死体はなく、すべて下僕にカタチを変えた。
最期の置き土産だったから凶悪だったけど魔法少女なら監禁されて延々と呪われでもしなければ普通にレジスト可能。


・いろはちゃん(うさぎ)
発動するドッペルにウサミミついてるのでウサギ属性。えろはちゃんなのでウサギ。ウサギなので発情中。
獣化に伴う衝動はシュウくんがぜんぶ発散させました


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。