環いろはちゃんと共依存的にイチャイチャしたい人生だった 作:風剣
新年あけましておめでとうございます。
今年の抱負はいろはちゃん共依存完結、および性癖ぶつけた短編の積極的な更新。100話以内には完結させたいところですね……。2021年もよろしくお願い致します。
「ふーん……」
「ふぅむ……へえ……」
「……」
ずずいと顔を寄せられる。頬をつつかれた。
ぺたぺたと顔を触られ、指で頬を摘ままれ引っ張られる。
瞼が指先で押し上げられ、瞳の奥を覗き込むようにして瞳孔を観察されて……背後から伸びた手が無言で衣類の内側に潜り込んでぺたぺたと身体をまさぐりだすのに、流石に己に纏わりつく手を振り払った。
「むー。ちょっと、今お婆さんに言われたとおりに観察してるんだから抵抗しないでほしいにゃー」
「そうだよ。僕としても自分の子どもとそっくりのお兄さんについては興味があるししっかり差異や共通点について確認しないと」
「いやそれにしたってくすぐったいし灯花の手つきちょっと不気味だし……機材揃ってたら普通に解剖とかされそうな感じするの気のせいだよな?」
「……気のせい気のせい! 大丈夫だから気にしないでね、ところで後で普段の食生活や生活リズムとか教えて貰える? あとは毛髪なんかも帰る前にくれると嬉しいかな!」
「今の流れでそれを許容されると思ってんの逆にすげえよな……。一応言っておくけど俺の力は親からの
「……えー、そういうこと? なんだ、ざんねーん。魔女の呪いに適応した未知の進化を果たした新人類とかだと面白かったのになあ」
なんて物言いだと眉を顰めるシュウのことも気に留めず、体をぺたぺたと触るのをやめた里見灯花は肩を竦め少年の顔をじろじろと眺める三つ編みの少女に視線を向ける。
年相応に興味を失った対象への執着をなくすのも早いのか。一度咎められたのも気にせず再度少年を触りだす柊ねむに呆れたような視線を向けていた。
「ねむー、もう良くない? 智江お婆様の連れてくる家族が魔女と戦えるっていうから気になってたのに蓋を開けてみればシンプルな話だったよ。魔女守のウワサと似てるっていうのも偶然なんじゃないの?」
「さて、どうかな。顔だち、身長、体格……。桂城シュウの肉体は魔女を守る剣士のウワサとあまりに合致し過ぎている。そうあっさりと偶然と断じるのもどうかと思うけれどもね」
そんな風にやりとりを交わしながら、久々に顔を合わせた
「婆ちゃん、これどういう状況かいい加減説明してもらいたいんだけれど……。俺もう帰っちゃだめ? あんまり帰るの遅いと心配されるから長居はしたくないんだが」
「なに、ちょっとした
「えー……」
要領の得ない言。少なくとも老婆の側に懇切丁寧に説明する気はないのだろうと判断したシュウは、先ほどから少年のことを観察するねむの方に向き直った。
柊ねむ。この場にいる灯火同様、姿を消したういと同じ病室で過ごしていた者のひとりであり、ういの親友としていろはやシュウ、智江とも親交を深めていた少女。……今はマギウスの翼を率いる魔法少女のひとりとしてこの場に居る彼女の、知己として向けられていたものとは異なるまなざしに少年はマギウスとして君臨する魔法少女の名を聞いてから抱いていた微かな期待が否定されるのを感じながら問いかける。
「……久しぶり、といっても覚えてはいないんだっけか。うい――2人と同じ病室だった女の子の見舞いに通っていたときに顔は合わせてた筈なんだけども。……ウワサはねむが出しているんだったっけ。どうして魔女守のやつが俺とそっくりの顔をしてるかとか、心当たりある?」
「――それが、さっぱりだね。お兄さんが僕と会ったことがあるという話が事実なのなら、魔女を守る剣士のウワサが桂城シュウと同じ姿かたちをしている理由にもまだ納得がいきそうなものだけれど……。僕の記憶する限りあなたと会ったという事実はない筈だ。それは灯花も同様の筈だよ」
魔法少女として、柊ねむは「具現」の固有魔法を有するらしい。
小学生の身でありながら10の齢を数える頃にはインターネットに掲載する形で創作に取り組むようになり、11才になった頃には執筆した物語が本として店頭に並ぶまでになった幼き天才作家。これまでいろはややちよとともに少年の見てきたウワサは、全て彼女がその魔法で創造したものだ。
各々の役目をもったウワサはマギウスの指示に従い神浜各地にばらまかれ、魔法少女救済の糧となる――。それが、マギウスの翼に加入したシュウが智江から教えられたウワサという怪異の出自だった。
「……」
だからこそ、不可解に思う。
想像の具現という異能を用いるにあたり、ねむ以上の適任はいないだろう。実際彼女の力によって生み出されたウワサたちはどれも一癖も二癖もある存在として神浜の魔法少女たちも翻弄した――。……だが。
彼女の想像力に依存する系統の魔法で。たまたま作り出した魔女守が、一度も見たこともあったこともない少年の容姿とうり二つになるという可能性は、果たしてどれだけ存在するだろうか。
――とはいえ、シュウに関する記憶の有無についてねむが虚偽を語るメリットはない筈だ。ひとまずはその疑問を捨て置いた少年は、かつて病室で過ごしていたときの虚弱さとは異なる、どこか不安定なものを感じさせる生命力の薄さを思わせる彼女に自身に埋め込まれた記憶だけでは解決できなかった疑問を投げかける。
「俺は婆ちゃんがまだ生きてたのもつい最近知ったばかりだったからねむや灯花……マギウスの魔法少女とあの人に接点があるのは驚いたよ。一体いつからあの生き霊と一緒にいたんだ?」
「生き霊……。うん、でもそういう評価で間違いはないのかな。僕と灯花がお婆さんに会ったのはマギウスとして発足して間もない時期だよ。もともと顔見知りだった人が魔法少女で、しかも一度死んでいたのには驚いたけれど……お婆さんにいろいろとアドバイスも貰ってマギウスの掲げる魔法少女の救済も着実に進みつつあるのは喜ばしいことだね」
(……? わっかんないな、どういう形で認識ずれこんでるんだ。俺やいろはのこともういと一緒に忘れてる、なのにお婆ちゃんのことだけ覚えてる……?)
灯花やねむが親友であった環ういのことを覚えていない、そのこと自体は残念でこそあったものの仕方ない。だが……いろはやシュウのことまで忘れ、けれど2人と共に頻繁に少女たちの病室を訪れていた智江のみがねむに、そして彼女の言葉を否定しなかった灯花にも覚えられているという状況は釈然としないものがあった。
席に座る老婆の方へと疑念を籠めた眼差しを向ける少年だが、ねむとシュウの問答を聞きながらも平然とした調子で紅茶を口に傾ける智江は彼の視線にもほとんど反応を見せなかった。
連れてこられて灯花やねむの観察に付き合わされたものの、シュウをこの場に連れてくるのを提案したのだろう彼女からはろくな説明もない。どういう意図なのかも含めいい加減聞かせて貰おうと口を開こうとした彼は、そこで彼らの座るテーブルの傍まで歩み寄り茶菓子を置いた少女に目を見開く。
「――。……は?」
「智江さん、新しいお茶をどうぞ。ケーキも作ってきたのでマギウスの皆も是非召し上がってね」
「わあー、おいしそうなケーキ! 天才は頭を動かしてばかりで疲れちゃうからねえ、グルコースの補給はしっかりしないと!」
「ふふ、ありがとうねえマミちゃん。……、これは取っておいてた高値の……。あ、ありがとうねえ……」
ゴシックロリータじみたフリルのついた白黒のウエイトレス衣装。コスプレか、あるいは繁華街のメイド喫茶で着せられるような恰好をした縦ロールのツインテールが特徴的な金髪の少女は、笑顔を浮かべる灯花や少し落ち込んだ顔をする老婆にに微笑むと踵を返し茶室から引っ込んでいく。
巴マミ――神浜市の探索をしていた際に遭遇した後、口寄せ神社においてウワサと交戦していたいろはたちと共闘していた魔法少女。ウワサを打倒した直後に現れた黒樹の魔女との戦闘でいろはがドッペルを顕現させたのを目撃した者のひとりである彼女は、ひどく狼狽した様子で治療に専念するシュウたちと別れ離脱していったが……いつの間にかマギウスの翼に加入していたらしい。思わぬ人物がこの場に現れたことに驚きながらも、恐らくはドッペルの目撃から魔法少女の真実に、そしてマギウスの掲げる救済に辿り着いたのだろうと当たりをつける。
「三つ子の魂百までとかはよく聞くけど……お婆ちゃん、死んでも女の子を飾り付ける趣味は変わってないんだな」
「ひひっ、キュゥべえの趣味がいいのか素質を持つ娘が自然とそうなるのか魔法少女には可愛い娘が多いからねえ、マミちゃんもそうそういない逸材だよ。アイドルでも始めたらさぞファンも増えるだろうさ、魔法少女の救済が終われば声をかけてみるのも面白いかもね?」
呆れたような視線にも悪びれた素振りひとつ見せやしない。けらけらと笑う老婆に嘆息しマミの引っ込んでいった先を見つめた彼は以前顔を合わせたときとは
――あれ、やっぱなんか埋め込まれてるよなあ。気配が重なってるというか、心臓にジェットエンジンか何か詰め込まれてるみたいな重々しい威圧感するというか。いろはのドッペルを無理やりにでも人の形に整えればあのくらいの強者感は出せるか?
少年の鋭い感覚はすぐ間近を横切っていった巴マミの内側で滾る異形……恐らくはウワサのものであろうそれと重なり合った少女の気配を鋭敏に感じ取る。冷や汗を流すシュウの様子に気付いた灯花は身を乗りだして悪戯っぽく笑うと彼に声をかける。
「あれれ、さっきからマミの方を見てどうしたのかにゃー? もしかして一目惚れでもしちゃったー?」
「まさか。……もしかして、アレもマギウスの翼の解放の一環だったりする? なんかただでさえ相当な風格のあった魔法少女がえげつないエンジン積んで下手な魔女なら1ダース消し飛ばせそうなことになってる気がするんだけど」
「……あれに気付けるんだ?」
ようやく少年を解放しテーブルに置かれたケーキと紅茶に意識を向けていたねむが目を見開いたのを見て、藪蛇だったかなとぼやく。意味深な……ろくでもないことを思いついたのだろうと直感させる笑みを浮かべる灯花と顔を見合わせた三つ編みの少女は「相性は――」「意図しない不具合については実際にやってみない限りは――」「剥がすにあたってのハードルを――」などと何事かを相談し合うと、やがて少年に向き直り好奇心に目を輝かせ問いかける。
「……うん。ありきたりな誘い文句だけど、たまにはそういうのも悪くないかな。……桂城シュウ。力が欲しくはないかな?」
「本当に、随分とベタな……。まあ、弱いのが許されるほど魔女のいるこの世界が平和って訳でもないのはよく感じる部分ではあるから拒絶する理由もないけれども。できれば装甲とか欲しいかな、拳のことも考えずに全力で殴れて魔女にも痛撃を叩き込める魔力ブーストがあればなお美味しい」
「装甲かあ。……まあ、期待してるものとは違うだろうけど殴るより早く倒せて攻撃されるより早く殺すことができればいいんだから問題ないんじゃないかなぁ?」
明日の朝食のメニューでも決めるような気軽な調子でそんな物騒なことを言い放ちながら。相好を崩しシュウを見つめた灯花は、目を輝かせながら少年に提案する。
「ね、ね、桂城シュウ。――魔女守のウワサと合体してみるつもり、ない?」
***
切り開かれた空間から夜風を浴びる少年が路地に降り立ったとき、夜は既に更けていた。
見覚えのない路地に一瞬困惑したものの、高台の方を見上げれば目で見える距離にみかづき荘のシルエットが浮かび上がっている……見知らぬ道や住居から離れた場所に放り出されなかったのは幸いだった。高い身体能力を持っていても、夜目が効くわけではない。建物の上を最短最速で移動するのも夜はなるべく避けたいところだった。
時刻は9時。夜まで遊んだり習い事に奔走するような系列の学生からすれば遅すぎるというほどでもなく、学業と部活さえ終わればそれっきり、門限を重視する学生からすれば紛れもなく遅いと断言できるような時間帯。なるべく早く帰りなさいってやちよさんに咎められてたのにまた少し遅くなったなあと渋い表情になったなった少年はみかづき荘を見上げぼやくも、背後で立ち去ろうとする魔法少女の気配を感じ慌てて振り返る。
「……それじゃあ、私はここで」
「あ、待った待った。空間移動、いや空間の結合だっけ? まあとにかく助かったよ運び屋さん、おかげであまり遅くならずに帰れたよ、ありがとう」
「……どういたしまして。桂城さんも大変そうだけれど、頑張ってね」
……距離の概念を無視することのできる瞬間移動というのはこれ以上ない有用性をもっている。そうした異能の為に運び屋としてマギウスの翼で慌ただしく働かされている彼女からしても、今のシュウは大変そうに思えたらしい。
気遣うような視線と共に姿を消した魔法少女を見送り苦笑した少年は、窓から明かりを覗かせる下宿先の建物へ向かう階段を3段飛ばしに上がっていくとみかづき荘の前へとたどり着く。
「みんなとっくに帰ってきてるってときに1人だけ遅く帰ってくるのってちょっと気まずいな……」
とはいえ、扉の前でそんなことを悩んだところで仕方がない。合鍵で扉を開いてみかづき荘に足を踏み入れた少年は、途端に慌ただしく足音の響く洗面台から駆けつけてきた桃色の少女に微笑み「ただいま」と声をかけようとして――いろはの頭部から「モッキュィ!」と飛びかかってきた白い獣を顔面で受けとめる。
「わぷ……キュゥべえ? こいつみかづき荘にも出てくるのか……、ってなんでいきなり――、うぉなに、なに、なに」
「モッキュップイ! キュー!」
「だ、ダメだよキュゥべえシュウくんのこと叩いちゃ! ……ごめんね、シュウくん。疲れてるのにいきなり――」
「いや、爪が伸びてるってわけでもないからぜんぜん痛くないし別に構わないけれど……っていうかこいつ変に湿ってるな、毛がべたつく――」
何が気に食わないのか、威嚇のような鳴き声をあげ少年の頭にしがみついてはぺちぺちと額を叩いてきた小さなキュゥべえの首根っこを掴んで持ち上げれば、くりくりとした大きな瞳を不機嫌そうに眇めた獣はもの言いたげに尻尾を荒ぶらせていた。
ここ最近はこの小さなキュゥべえとも顔を合わせてはいなかったが、それだけにこのキュゥべえから不興を買うような真似をした覚えもない。困惑したように眉を顰めるいろはにキュゥべえを預け、ただいまと声をかけながらリビングの方に向かいやちよたちに一声をかけていこうとした少年は、風呂に入ったばかりなのか普段結わえた髪を解き赤みのさした頬と首筋から熱を発する寝巻きの少女が自らと同じく温かな湿り気を帯びたキュゥべえを抱きながら洗面台に引っ込んでいくのを見て動きを止める。
「……まさか」
『お風呂に入ってるとき弱音をこぼしちゃってたから怒っちゃったのかな……ごめんね、心配かけちゃったね』
「……!! くそ、不覚……下宿の弊害がでてきやがった……俺だけが、いろはを独占してたのにあの淫獣……!」
鋭い聴覚は、小さな声で白い獣を窘めるいろはの言葉もしっかりと聞き取った。騒ぎに気付いたやちよが近付いてくるのにも気づかぬままがくりと崩れ落ちる。
「桂城くん、帰ってきてたの。連絡は聞いたけれどあまり遅くなるようなら……どうしたの?」
「……やちよさん、俺は絶対魔法少女の救済を完遂します」
――これは、切実な問題である。
少年は今本当に忙しい。少なくとも夜と朝、いろはと同じ空間で過ごしているときですら彼女と2人きりで落ち着いた時間を過ごすこともできなくなっているくらいには。当然恋人と風呂に入るだなんてもってのほか――というよりみかづき荘に来て数日でやちよにおおよその性事情を把握されてからは人のいるうちはやめなさいと直々に申し渡された。早く、一刻も早くおちおち神浜の外にも出られないような現状を改善しいつでも自由に彼女と笑い合えるような世界を作らねば、ペット枠の生物にさえ嫉妬してしまうような現状を脱することもできないのだ……!
帰ってくるなり物凄い落ち込んではどこか焦点の合わない瞳をぐるぐると回し謎の使命感を燃やす少年に、やちよはどこかあきれたように息を吐いた。
「……疲れたのかしら。疲れに効くハーブティでも淹れてあげた方がいいかもしれないわね」
※マミさんはメンタル破壊済み。
※シュウくんはいろはちゃんと2人きりの時間を確保することでメンタルの回復に努めていたが神浜市に引っ越して以降その時間が著しく失われた。
抱え込む面倒ごとのことがなければストレス拗らせた挙句病み依存期に突入する。