環いろはちゃんと共依存的にイチャイチャしたい人生だった   作:風剣

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誰かのためのメッセージ

 

 

 

「――で、行かせてよかったの?」

 

 少女たちの勧誘に返答をしたのち、マギウスの翼に所属する運び屋の魔法少女によって送り届けられた少年。巴マミに渡されたケーキを咀嚼し嚥下した灯花は、そんな彼の立ち去って行った出口の方を茫洋とした様子で見送る老婆の方を見てそんなことを聞いた。

 

「あの人、私たちのために……計画を変更させるために呼び出した参考人なんでしょ? なのに大した話も聞き出さずに帰しちゃってよかったの?」

 

「……シュウを呼んだのは、計画の変更を要求してのことではないよ。私にも確認しておきたいことはあったし、そしてそれはもう見れた。今晩の収穫には十分さ」

 

 灯花の言葉に口に傾けていた紅茶を机に戻し、ほうと息を吐いた老婆の顔色は良い。目を細めた智江は、懐から取り出したキューブを手のなかで弄びながら淡々と呟いた。

 

「私の提示しているのは、あくまで可能性だよ。貴方たちマギウスの……そして、私を含めた面々の認識が根幹からズレこんでしまっている可能性。それに伴った魔法少女救済システムにエラーや計画そのものを破綻させかねない障害が生じてしまう可能性。……魔法少女の救済は大前提、けれどもそれが神浜の魔法少女を道連れに破綻してしまう可能性が僅かでも存在するのであれば、サブプランを整えておきたいというのが私の本音だね」

 

「……ねむー、名無し人工知能のウワサにさせた演算結果は何パーセントだっけ?」

 

「計画の成功率は現段階で100%。僕に灯花、アリナ、イヴ、智江お婆さんに加え魔女守のウワサもいるからね、巴マミも含めれば武力においても一切隙のない布陣だよ。100回やって100回成功する、今僕たちが進めている計画はそういうものだ。……万一のサブプランを構築することそのものには反対しないけれど、メインの進行に本来注ぎ込まれていた労力を必要性の感じられない要素に費やすべきとは思えないかな」

 

「……まあ、そうなるだろうねえ」

 

 皺の刻み込まれた顔をくしゃくしゃにして苦笑を浮かべた老婆は自身の提案に対する少女たちの反応も予想していたのか、意見を押し通すでも無為にごねるでもなくあっさりと引き下がった。

 

「……悪いね、何しろ私自身でさえ確証の持てない不安で出てきた意見だ。環いろは、桂城シュウ、並行世界の情報……。ヒントらしきものが散らばっていてもそれらをつなぎ合わせて疑問を解決することができない。なんともままならないものだよ、疑問ひとつ頭のなかで形にすることができないというのもね」

 

 ――今、この街には必要なすべてがある。

 

 優れた才覚と頭脳を持ち、キュゥべえによって強いられる宿命を捻じ曲げあらゆる魔法少女を救済するだけの機能を有する魔法少女。対魔女に特化した異能を操り、神浜市に集めた魔女たちを蒐集し手駒とする魔法少女。救済の核となる少女たちの翼として奔走する羽根たち。9割9分の成功の可能性を10割に引き上げる、武力に特化した性能を誇る少年の形をしたウワサ。

 彼女たちの居る拠点の奥にて眠る、救済の要たる半魔女。

 

 かつて魔法少女となりそして真実を知り、半生を懸けて探し続け……そして一度は諦めた、智江の求めていた救済に必要な要素のすべてが、この街には揃っている。

 

 だから止める理由などない。ない筈なのに、智江の頭の奥では常に警鐘が鳴り続けている。

 

 自分は、自分たちは、何かを忘れている。

 大切なピースのひとつを。自分たちの進めている計画の根幹にかかわる何かを。

 

 ――いや、何が、誰がいないのかは既にシュウが、いろはが教えてくれている。ソレを、彼女を探しに、2人は神浜市に訪れていた。

 ――すぐにでも、突き止めなくてはならない。

 

 環ういが、この世界に()()いない原因を。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 マギウスの翼に加入するに辺り、シュウが口を酸っぱくして白羽根の魔法少女に聞かされたことがある。

 

『いいでございますか? 例え崇高な目的を掲げているといってもマギウスの翼は秘密結社、その活動内容は機密事項でございます。血塗られた魔法少女の真実と直結するマギウスの翼の活動は周辺の魔法少女との軋轢も生みやすいことから、黒羽根、白羽根は基本的に素性を隠すために調整屋でも隠蔽、個性の統一を軸に置いた調整を重ね、仲間内ですら正体を明かすことは憚られているのです。……まあ、ある程度の付き合いは黙認されていますが』

『魔法少女でない桂城さんにまでそうした努力を要求することはございませんが、それでも守秘義務は当然発生いたします――この組織において接触した魔法少女の個人情報、およびマギウスの翼の活動内容に関しては、決してみかづき荘の魔法少女には伝えないようにしてくださいね! 絶対でございますよ! ……ぜっったいでございますよ!』

 

 ……守秘義務云々に関して全く信用されてないような気がしたのは、決して気のせいではないだろう。神浜市に引っ越ししてきたシュウがみかづき荘に下宿していることを知っている者はマギウスの翼でも限られているものの、ウワサを調査し複数消し去った七海やちよ、恋人である魔法少女環いろはとウワサや魔女の撃破にあたり協力し合っていたことを把握している天音月夜の声音にはありありと不信感が現れていた。

 とはいえ、たとえ情報漏洩の危険があるにしても白羽根ですら戦闘慣れしてない魔法少女の多いマギウスの翼においてシュウのような武力の塊の支援を受けられるのは魅力的だったのだろう。ひとしきり念押しをした後は彼女もそれ以上所属について拘泥することなく少年にマギウスの翼で活動するにあたっての基本を共有してくれていた。

 

 黒羽根、白羽根の魔法少女に課せられる『マギウスと交す9の約束』、マギウスのひとりによって渡される魔女結界の扱い方、黒羽根を数名宛がわれ遊撃を担当する少年へのウワサや一部の魔女に関する注意事項……月夜の指導を受けた少年は、最後にマギウスの翼として動く過程で知りえた魔法少女の情報は決してみかづき荘の魔法少女を含む他者に黒羽根や白羽根の情報を漏らしはしないと約束して。

 

「えっと、今日昨日で知ったことだけでも結構な量があるからな……何から聞きたい?」

 

 帰宅した夜。みかづき荘のリビングにて、やちよ、フェリシア、泊まりにきていたらしい鶴乃、少年の膝上に座るいろはにそう問いかけた。

 

「……」

 

「その、マギウスの翼について教えるのはやめてほしいって言われてるんじゃなかったっけ……?」

 

「マギウスの翼の白羽根、黒羽根の魔法少女の個人情報は絶対に教えたりせんよ。俺が言われたのは魔法少女の個人情報やマギウスの翼としての活動内容に関してみかづき荘の魔法少女にも伝えるなって話だけだし。だから俺がこれからするのはスパイみたいな情報の抜き取りとかそういうのじゃなくて、そう……マギウスの翼関連でたまたま再会した知り合いの近況を話すだけだ。秘密主義のマギウスを裏切るようなことじゃない」

 

「詭弁もいいところね……」

 

 呆れたような声で半目を向けてくるやちよだったが、少年は素知らぬ顔だった。実際マギウスの翼に所属する魔法少女の素性についてあれこれ話すつもりもないし、その『再会した知り合い』についてだって敢えて口止めを受けた覚えもない。何しろ彼女たちに関しては羽根でも黒羽根でもないのだし――それに、明かしておいた方が都合のいい情報もある。

 ……もしこれが発覚、追及され問題になるようなことがあれば責任を自身をマギウスに引き入れた老婆に擦り付ける気満々だった。最近あれもやたら胡散臭いし嫌がらせと当てつけには丁度いいだろうと算段をつける。

 

「……再会した知り合いって、智江お婆ちゃんとは違うんでしょ? 誰と会ったの?」

 

 キュゥべえを腕に抱きながらシュウの膝上に乗せられるいろはが、背を少年の胸に預けたまま頭をこてんと傾け問いかける。彼女の桃色の髪を撫でながら、シュウは淡々とマギウスの首魁の名を、数ヶ月ぶりに会った知己の名を語った。

 

「灯花とねむ。久々に顔を合わせたけれど元気そうだったよ。2人もいつの間にか魔法少女になって病気も治ったみたいだけれど」

 

「それっていろはちゃんの探してた……? ……え、マギウスの翼にいたの!?」

 

「正確にはその元締めなんですけどね。もともと人並み外れた凄い娘たちだったけれど魔法少女としても随分な才覚を発揮してるみたいで」

 

「……そっか。灯花ちゃんが……」

 

 灯花がねむがマギウスの翼を率いていたと知ったときは少年も驚かされていたが……入院していた時期でさえも類い稀な頭脳を発揮し界隈で期待の才媛として注目を浴びていた灯花だ、あの科学脳が魔女や魔法少女といった常識の向こう側の存在を認知するというハードルを越えさえすれば魔法少女の救済などという大事業に手をつけるのもおかしくはない。

 ……問題は、その灯花もねむも姿を消した少女ういのみならず、何故かシュウやいろはのことをも忘れているという不可解な状況が起きているということなのだが。

 

 飛び出した名前に驚愕も露わに反応した鶴乃に応じながらいろはの頭を撫でる少年は、淡々とマギウスの2人の役割を語る。

 もう1人に関しては知り合いでもなんでもないしまだ顔も合わせてないから対魔女で最強すぎることしか知らないと前置いて語るのは、無尽蔵の魔力と優れた頭脳でマギウスを支える灯花と、ウワサを生み出すことで神浜市中から感情エネルギーを収集するねむの話。

 マギウスの翼を率いる3人の魔法少女たち。魔法少女救済のため多くの羽根たちを動かすことで感情エネルギーを集めているマギウスの話に、フェリシアは「んあー?」と胡乱な表情で唸った。

 

「……マギウスは魔法少女をきゅーさいしようとしてて……じゃあ何で魔女を守ったりしてんだよ、やっぱ怪しいんじゃねえの?」

 

「それは必要経費らしい。……それもマギウスの大事業が終わるまでだけどな。成功すれば魔女も絶滅するぞ」

 

「――マジか。じゃあオレも手伝うわ」

 

 真顔になって手をあげたフェリシアにやちよが嘆息する。そう素直に事情を語るから何か理由があると思っていたけれど、当然やることといえば勧誘でしょうね――。怪しげな宗教勧誘にでも遭遇したとでも言わんばかりの顔をされた少年は若干メンタルを削られながらも心外だと可能な限りの牽制を済ませておきたい魔法少女に反論した。

 

「そりゃ傍から見れば怪しいと思うのは仕方ないにしても魔法少女関連の厄ネタをほいほい話す(魔法少女の救済云々はデリケート)のはありえないって(な内容になるの)やちよさんなら解るでしょう。詳しい話を聞けばそう馬鹿にできた話でもないって理解できると思いますよ」

 

「……心酔している、とまでは思わないけれど……桂城くんの視点は相当危ない方向に偏っているように思えて仕方がないのよね。まあそこは追及しないわ。ちなみに一番私に念を押しておきたいことは?」

 

 ぴたりと、いろはの頭を撫でていた少年の手が止まる。リビングで話を始めてからずっといろはとくっついている少年にフェリシアが苛ついたような険しい視線を向けてくるのも気に留めず考え込んだ。

 そこまで、いろはたちの先達である青髪の魔法少女に対しての態度が露骨だっただろうかと自問するが……自身の言動に然程不自然な点はなかっただろうと思い直す。やはり場数を踏むと観察眼も身に着くものなのかもしれないと結論づけ、どうせ察されているのならと本音を語った。

 

「……マギウスの翼には入らないにしてもウワサの討伐はなるべく、というか今後は控えて貰えると本当に助かります。一応あれ、身内――ねむの命を削って生み出されているらしいので」

 

「そう。そんな事情があるのなら構わないわよ」

 

「できれば倒すにしても危険度の低いウワサについては見逃してくれると――え、良いの?」

 

 驚愕も露わに視線を向ければ呆れたように嘆息された。ことの是非を問うのに情報が足りないでしょうと一蹴されるのにごもっともでと頭を下げる。

 そもそも、マギウスの翼自体7年間この街で活動してきた魔法少女である七海やちよがつい最近初めて遭遇した程度には秘密主義を貫いて陰での活動を続けていたのだ。そんな底の知れない組織の主義主張、活動内容の是非を今ここで言い合ったところで進展らしい進展もないだろうと言われるのも当然ではあった。

 

「ウワサを破壊されたくないなら最初からそう言ってくれれば良いのに、外堀埋めるようにフェリシア引き入れるんだもの。マギウスの翼について話したとしたのだって私を牽制するためでしょう? 別に私だって好き好んでグリーフシードを落しもしないウワサと戦いたいわけじゃないもの、目の届く範囲で有害な動きをしてないようなら積極的にウワサを倒そうとはしないわよ」

 

 ――あるいは、彼女とともに長年背を預けていたという白髪の魔法少女がマギウスの翼に所属していたことも彼女の慎重な姿勢の一因となっているのか。

 梓みふゆについて少年に聞くことこそないもののいろはとともにウワサを追っていたときの熱量を欠いた様子の彼女に目を細めながらも、深入りすることなく少年は自分の肩に飛び乗ってきた小さなキュゥべえを受け止める。

 

「それにしては、結構危険度の高いウワサを一時期追っていたみたいですけれど。……集雷針のウワサ、探していたのやちよさんでしょう? どこぞの魔女守と初めて戦ったときやちよさんが追ってたとかいうアレ、本当に危ないので絶対に触らないようにしてくださいね」

 

「当たり前でしょう、あんな爆弾。……マギウスの女の子たちに伝えておいて。用が終わったら絶対にあれは撤去しなさいって。あと、桂城くん――貴方の言うようなデリケートな話題で情報を小出しにするというのは気遣いのつもりでも反感を買いやすいわよ、これからはなるべく控えなさい」

 

「……善処します」

 

 やちよの指摘に苦笑を滲ませた少年の携帯が鳴る。いろはを膝上から降ろし立ち上がった少年は、眉を顰め通話に応じながらジェスチャーで自室へいくとだけ合図し立ち去って行った。

 

『――もしもし、月咲さん? 何かあっ……わかった、明日の放課後――』

 

「……」

 

「……話したいことがあるのなら、行ってきた方がいいんじゃないの? 環さんもマギウスの翼についてはまだ納得がいってるわけじゃないでしょう」

 

 自室へと消えていった彼の後ろ姿を寂しげに見送っていた桃色の髪の少女に声をかけたやちよだったが、瞬きを繰り返したいろはは少年の膝上から降ろされるときにひっついてきたキュゥべえを撫でながらかぶりを振る。

 

「いえ、シュウくんも忙しそうですし……。私も、苦労をかけてばかりじゃダメですから」

 

「寧ろ桂城くんは頼られる方が好きな気がするけれど……お互いに、ひとりで整理する時間が必要なのも間違いではない、か。……無理はしないようにね」

 

「ありがとうございます」

 

 柔らかな……どこか儚げな微笑みを浮かべやちよに礼を言った彼女は、ごろごろと喉を鳴らすキュゥべえを腕に抱くと自室へと引っ込んでいく。

 苦し気……ではない。けれど何か、重々しい雰囲気で肩を落とし立ち去っていくいろはの様子を見守っていた鶴乃は、ぽつりとつぶやいた。

 

「ね、やちよ……。魔法少女の救済って、何? ……それって……シュウくんが、あんなに執着するようなものなのかな?」

 

「……」

 

 確かに、デリケートな問題なのは間違いないわねと心中で唸る。

 言葉のひとつ、気遣いのひとつ。彼女たち魔法少女にとって、それらは文字通りの意味合いで命にもかかわるほどに重い。

 

 

 

 

 

 

 

「マギウスの管理してた魔女の幾つかが消えた、ねえ……」

 

 白羽根の魔法少女、天音月咲から簡潔に説明されたアクシデント――武力担当のひとりとして協力を打診されたシュウは、どうしたものかと息を吐く。

 放置の選択肢はない。神浜の魔女の凶悪さは言わずもがな、マギウスによって捕獲され管理されている魔女たちはどれもがとある魔法少女の嗜好もあり一癖も二癖もあるものに仕上がっている。とてもではないが白羽根、黒羽根だけでどうにかできるようなものでもないだろう。

 

 だが、その『捕獲手段』がかつてシュウに渡された記憶結晶のキューブと類似したものであるのならば、恐らく魔女が内側どうこうできるものではない。十中八九、魔女に干渉した下手人がいる――。

 

「お婆ちゃんは……動かないよなあ、多分。なんなら魔女守も呼び出すか……?」

 

 泊りがけで探し回ることにならなければ良いんだが……そうぼやいた少年の端末に、新たに着信が届く。

 

「……ななか……?」

 

 

 

 

 

 そうして。

 同時刻。いろはの携帯に、未登録のアドレスからのメッセージが届いた。

 

 






アリナ・グレイ
マギウスの3人目のやべーやつ。今回のお茶会ではハブられた。智江曰く「協力を得られたら本当にありがたいんだけど今回ばかりは話にならないと思った。縁がちょっと足りない」


桂城シュウ
ここでウワサに関して牽制いれないと大変なことになってた。具体的には後日ホーリーなマミさんにマギウスがGOサイン出したりとか。
マミさんには適切な場で存分に暴れていただきたいの精神。

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