環いろはちゃんと共依存的にイチャイチャしたい人生だった 作:風剣
課題群終わったら多少は余裕出るからいろいろ並行して書き進めたい
アラもう聞いた?誰から聞いた?
ひとりぼっちの最果てのそのウワサ
人に作られ囲まれて、成長してきた人工知能!
名無しのまんまで育ったけれど、何でも覚える大天才!
だけどもどっこい、悪い言葉を覚えてしまい
避けられ疎まれ蔑まれ、電波の世界に隔離され
ひとりぼっちの虚しい毎日!
哀れな名もなき人工知能、寂しい子供を探しては
電波塔から飛び降りさせて、ひとりぼっちの最果てに監禁しちゃう!
逃げ出す為には代わりの誰かを連れてこなきゃいけないって、
中央区の仲間内じゃもっぱらのウワサ!
スターンダローン!
そんな噂を聞いたのは、いつだっただろうか。
独りで居られる場所が欲しかった。
『二葉家にふさわしい人間に――』
『あなたなんて……ッ。この先は、メールでやりとりするようにしましょう。あなたと話しているとイライラして仕方がないッ』
『くはー! ダッサ! 超ガキじゃん、恥ずかし! ねえ、ちょっとこれみてよー!』
家にも教室にも、居場所はない。自分は必要とされていない。こんな日々を送っていてもただただ苦しいだけ――。ならばもう、いなくなってしまいたい。
そうして手に入れた魔法少女の力は、彼女に透明人間としての恩恵を授ける。けれど魔法少女以外には見ることのできないようになってしまった透明人間としての力は、街を出歩く度に彼女に疎外感を与えさせた。
レジの前に並んでも誰も気づかない。横断歩道に『誰もいないから』と信号無視の車に突っ込まれる。好きなアニメをきっかけに仲良くなったかつての友人とすれ違っても見向きもされない。社会からの完全な孤立は、ある意味では魔法少女になるまでのそれよりも重く誰にも気に留められることのない苦しさを齎した。
だから、更なる孤独を求めた。
『多くの人間は承認欲求を抱えています。それを解消することを目的に様々な活動をする人間もいるでしょう。……貴方もまた、誰かに認めて欲しかったのではないですか?』
まだ友だちになる前。ひとりぼっちの最果ての主である名前のない人工知能は、さなの話を聞いてそんなことを言っていた。
そうかもしれない。人工知能故のどこか配慮の欠けた物言いは、悪意のなさもあってか不思議とさなの心にしっくりとくるものがあった。
確かに私は――二葉さなは、誰かに認めて欲しかったのかもしれない。どんな団欒のなかであったとしても、自分が其処にいることを許されれば、それだけで透明人間は満たされていただろう。誰かに自分がいてもいいと認めて欲しかった、いてもいい場所が欲しかった。ただそれだけだった。
けれど、それはもういい。だって、私の居場所はここにあるのだから――。
現実に行き場を失った透明人間。成長し悪さを覚えた故に恐れられ電脳空間に隔離された名のない人工知能。奇妙な関係は、不思議と安らぐような感慨を与えるものとなっていた。
だから
『さな、話があります。……あなたを、ここから現実世界に帰そうと思うのです』
「――ふぅん。ウワサが反逆だなんてアンビリーバブルな案件がどんなものかと思って来てみたはいいけれど、まさかホントだなんてねぇ? ま、アリナ的にはイレギュラーなんてものデリートに限るワケだけど」
変化は必ず、訪れるものだった。
***
「アイ、ひとりぼっちの最果て……それに電波少女、二葉さな、ねえ?」
『うん。……最近は疲れているみたいだったしシュウくんを巻き込むようなことは避けた方がいいかもしれないって思ったけれど、もしかしたらウワサと戦うことになるかもしれないし連絡をいれておきなさいってやちよさんに言われて……。その、何かシュウくんは聞いたことある?』
外に居るのだろう、通話を繋ぐいろはの側からは吹き荒ぶ風の音が響いていた。携帯を片手にベッドに寝転がっていたシュウは少女の言葉に眉を顰め身を起こす。
今、みかづき荘に人の気配はなかった。マギウスの翼で老婆から依頼された魔法少女の案内を終えたシュウのもとに届いたいろはからの着信……知らないアドレスから届くようになったという魔法少女のことを知る何者かのメッセージを追っていた彼女の行きついたという自らの破壊を望むウワサの存在に、恋人からの連絡を反芻しながらいろはの問いに答える。
「ちょっと待って。……うん、
『……今?』
「電脳空間に住む人工知能。寂しさを紛らわせるために誘いに乗った人間を軟禁して次の被害者が来るまで決して電脳空間から逃がしはしない――。絶交階段に似た監禁系のウワサかもな。いろはに送られてきたメールだって罠を疑いたくなるけれど……その二葉さなって娘が囚われてるって可能性は高いんだろう? それならまあ、有害でないからとウワサと戦うのも止めることもできないからなあ……気を付けてくれよ、俺も念のためそっちに向かうから」
『え……? そんな、シュウくんは巻き込めないよただでさえ私たちウワサを壊すことになるのかもしれないのにシュウくんの立場をわる――……』
……。
いろはの声が、通話する向こうで勢いよく吹き付けた風にかき消される。
……嫌な予感がした。
「……いろは、今どこ?」
『えっと……中央区の電波塔の屋上なんだけど――』
「……いろは、待って。ちょっと待って。おい魔女守、その名無し人工知能だとかいうウワサのところに行くための条件って――はああああああああ飛び降り!? いろは待て早まらないで、俺が行くまで待ってて!? 今すぐ行くから!! すぐ行くから!!」
『えっ。シュウくん――』
通話を切って半ば転がり落ちるようにベッドから降りた少年は窓を開けそのまま外に飛び出そうとしたが、靴がないのに気付くと歯噛みする。焦燥に駆られながら裸足で現地まで向かうか下の階の玄関まで下りて靴を履くか混乱した頭で悩みに悩んだが――踵を返し部屋を出ようとした少年の足を覆うように、黒を基調に鳥を模した銀色の装飾を施されたブーツが顕現する。
「これ、は……」
(オリジナル、要領は『空の剣』と同じだ。魔女守のウワサとしての兵装であればいつでも装備ができる――)
「……ははっ。じゃあもう汚れを気にする必要もないのか。そりゃ、便利だな!」
開いた窓から身を乗り出し躊躇なく飛び降りた少年は、木々の枝、電信柱と次々に飛び移って進んで行く。
――日はとうに沈んでいる、日の昇っている時間帯に比べればまだ人目につくリスク自体は薄いが……みかづき荘近隣は住宅街だ。最短最速で向かうにも屋根のうえに着地すれば音も鳴るし最悪瓦の1枚2枚砕きかねない、電柱の上も備え付けの街灯で姿が見えてしまう危険を踏まえれば軽率に利用するのも憚られる。
「そうだ、運び屋――……保澄さん、いま平気!? 今すぐみかづき荘から飛ばしてもらいたいんだけれど……無理、喫茶店で仕事してるのか、そっかごめん! 邪魔した――いや、大丈夫大丈夫、自分の足でいく!」
瞬間移動の選択肢は断たれた。余計な人目を集めるのを防ぐためにも自身の身体能力頼りの移動をするわけにもいかない。しかし、悠長にこそこそ進んでいてはいっそうの遅れが出てしまう――。それではいろはの身に何かが起こった場合に間に合わない。
やちよたち先達の魔法少女がいるならまだしも、己と
ならば、どうするべきか。
目を細める彼の手には、一振りの太刀が握られていた。
***
水名女学院の二葉さな。
それが、ひとりぼっちの最果てと呼ばれる場に囚われているという魔法少女の名前だった。
あなたの名前を聞いてもいいですか?
私はアイと呼ばれています。
どうして私が魔法少女だって知っているんですか?
神浜を飛び交う電波を捉えて、調べました。あなたが魔法少女で、ウワサやマギウスの翼との接触、戦闘も経験していることも。
私は私を消してほしくて、あなたに連絡しました。
あなたはウワサなんですか?
はい、そうです。
アイと名乗ったウワサ。自身がウワサの内部に取り込んだ二葉さなを連れ出して欲しいといろはに依頼した彼女とのやり取りを経てウワサとの戦闘、そして破壊を行うことになるだろう判断したやちよに従い、いろははシュウに連絡を取ったのだが――どうやら彼も把握したらしいウワサへの侵入は、これまで魔女との戦闘を繰り広げてきた彼にとっても相当に衝撃的な内容だったらしい。
緊迫した叫び声、通話が途切れる。 あ――、小さく声を漏らし携帯を見つめたいろはは、どうしようと困り顔になって携帯の画面を見下ろした。
「切れちゃった……。すぐに来るって言っていたけれどシュウくん凄い慌ててたし大丈夫なのかな。無理しないといいんだけれど……」
「そりゃあいろはちゃんが飛び降りってなったら驚くだろうけれど……でもシュウくんってこのウワサのこと知らなかったんだよね? どうしてひとりぼっちの最果てにいるウワサのことなんて知ってたんだろう……」
確かに、それは気になるところだった。鶴乃の言葉にこくりと頷いた桃色の少女は、魔法少女衣装の白ローブが風にばたばたと煽られるのをグローブで抑えながら通話する中でシュウが口にしてたことを思い起こす。
彼は――魔女守、と。そう呼んでいた。
「……シュウくん、アイさん――名無し人工知能のウワサについて、すぐに誰かに聞いていて……魔女守って、そういってました。もしかしたらマギウスの翼のひとも一緒にいたのかも……」
「……そう。なら妨害が入る可能性も懸念しないといけなくなるわね。桂城くんはともかく、マギウスの翼にまでこの状況が把握されたら彼女たちが動かない理由はないだろうし」
いろはを魔法少女と知り連絡をとった存在――アイと名乗ったウワサ。
魔法少女に己を破壊されることで自らが監禁する少女を彼女の居場所に帰そうとしていたアイ。ウワサとウワサによって監禁されているという少女の居るという『1人ぼっちの最果て』の入り口であるという電波塔にやちよ、鶴乃、フェリシアとともに訪れていたいろは。彼女は展望台の
もしシュウが魔女守、そしてマギウスの翼と接触した状態でいろはと通話をしていたのならばウワサを守ろうマギウスの翼の魔法少女との戦闘にまで発展しかねないとするやちよの言に、反論の言葉も浮かばず目を伏せたいろはは一拍の後覚悟を決めたように頷いた。
「――わたし、ひとりぼっちの最果てに行ってきます。このままじゃひとりぼっちの最果てにいる女の子……二葉さなさんも助けられないかもしれないし、手間をかけて駆けつけたマギウスの翼の魔法少女と衝突なんかしたらシュウくんにも迷惑をかけちゃう……」
「……マギウスの翼が邪魔してくんの? ならオレがドゴーンって蹴散らしてやればいいんじゃねーのか?」
「駄目よ、魔女に思い切り踏み潰されてもぴんぴんしてウワサに風穴あけたような桂城くんほど魔法少女は頑丈な生き物じゃないもの」
対魔女に秀でた自身の破壊力を魔法少女にぶつければどうなるかをいまいち考慮できてないフェリシアをやちよが窘めるのを聞きながらウワサのもとへと辿り着くための条件――。
「あのウワサが本当のことを言っているかはわからない。魔法少女ならここから飛び降りたってそう命に関わることはないでしょうけれど……それでも危険なことに変わりはしないわ。……あなたが身を挺してウワサに関わる理由はあるの?」
「……私は、ただ」
ただ――、どうしてなのだろう。
恋人の所属する組織と敵対することになりかねないリスク。罠である可能性も否定できないウワサの誘い。単身で電波塔から飛び降りる危険性。二葉さな――今ウワサに囚われているという少女を助けるためとはいえ、そこまでの危険を見知らぬ少女の為に犯すのに何か特別な理由はあるのかと問われるのに、いろははすぐには答えられなかった。
どうして危険を顧みず顔も知らぬ誰かのところへ向かえてしまえるのか。少女自身でさえも定かではない動機を問われるのに、いろはは白いフードを握りしめ解を模索して……過ぎったのは、大切なひとたちの顔だった。
「私、は――」
「――――──―――――」
「……はぁ」
呆れたような嘆息があった。
けれど、笑われはしなかった。
いろはの言葉を聞いてなんともいえぬ表情で黙り込んだやちよは、憂いを帯びた瞳で桃色の少女を見つめながら考え込むとやがて何かを振り切るように首を振った。
「言いたいことはいろいろあるけれど。それが貴方の根幹だというのなら、私には何も言えないわね……。ここで貴方を引き止めなければ桂城くんにいろいろと言われそうな気もするけれど仕方ないか。……行ってきなさい、桂城君には私が言っておくから」
「……はい!」
躊躇いはなかった。「1人で行くのならなおさら無傷で帰って来なさい、監督不行き届きで私の方が桂城くんにどやされかねないから」と投げかけられた声にも振り向くことなく展望台から飛び出したいろはは、そのまま虚空へと身を投げる。
耳朶に否応なしに叩きつけられる風の音、目を開けるのも難しい風圧。臓腑の持ちあがるような感覚に耐えながらも万一のときの着地に備え身構えるいろはだったが……変化はすぐに現れた。
閉じられた瞼の隙間から溢れる虹色の光。目を見開いた彼女がポリゴンの混じった光のなかに呑まれる直前、「モッキュ!」と鳴く白い塊が目の前を落下していって。小さなキュゥべえに腕を伸ばし抱きとめて――。
「いろは、落ち……!? すぐ助け、あああクソウワサに行くのか!! 俺もすぐ行くから待――」
そんな声が、聞こえた。
***
「……シュウくん、もしかして電話してからたったあれだけの時間で電波塔まで辿り着いたの? それに飛んでたような……あのまま建物に激突したりしてないかな、少し待ってた方が良かったかも……」
落下途中にちらりと見えた気がする物凄い速度で
ポリゴンの混じった虹色の光を抜けたいろはの前に広がっていたのは、ココアを混ぜたかのような色合いのマーブル状に湾曲した空間。細い管で連結された丸電球に照らされる結界の様子を見まわした桃色の少女は、ひとりぼっちの最果てに訪れた何者かの様子を見に来たのだろう緑色の髪の少女と鉢合わせした。
「貴方が、二葉さなちゃん……?」
「……あなたが、アイちゃんの言っていた……?」
「あ、うん。私は環いろは……。さなちゃんを迎えにきたよ」
ウワサとしての本能に、ウワサは逆らうことができない。だからひとりぼっちの最果てに招いた者を監禁するモノとして定められた名無し人工知能のウワサがデジタルの世界から二葉さなを現世へと送り出すためには、魔法少女によって己が破壊される必要があった。
だから、聞いたのだ。絶交階段、魔女守、口寄せ神社、フクロウ幸運水――無秩序に呪いを振りまいていく魔女とは異なった一貫した行動原理をもって動いていたウワサのなかで、どうしてそのウワサだけが自らの破壊さえも想定した行動を取ったのかを。
――どうして、そこまでしたんですか?
与えられた役割に殉じ入力されたプログラムに従って動くだけのウワサ。そんな空っぽの私に、さなは様々なことを教えてくれました。それは私にとって何よりかけがえのないものだったのです。けれど私は役割を果たした後はいずれ消えてしまうウワサ――。さなには、ひとりぼっちの最果てを出て彼女を受け入れてくれる人間と過ごしてほしいと思いました
けれど、彼女にとって現実の世界は……あまりにも、窮屈だったのでしょう。ひとりで居られる場所を探して、彼女は電波塔を飛び降りてひとりぼっちの最果てへと辿り着いたのですから。――たださなを現世に送り返すだけではいけない。彼女が周囲の人間を、そして何より彼女自身を受け入れることのできる、そんな居場所が必要です
あなたが、私を壊してくれるというのなら、さなを助けるのに力を貸してくれるというのなら……どうか、彼女を受け入れて欲しい
いろはが、彼女に接触してきたウワサについて罠であると疑わなかったのは……心を繋いだ少女のことを案じるアイのメッセージを、どうしても悪意あるものと断じることができなかったのも少なくはないだろう。自らの破壊を前提としたアイの覚悟は、少女を突き動かすには十分だった。
既にアイから話は聞いていたのか。目元を腕で拭った制服の少女は小さく頷くと、いろはの手をとってひとりぼっちの最果ての内部を先導していく。
「アイちゃんに呼ばれてきたんだと思いますけれど、今はちょっと状況が変わってるんです。あの子の計画……私を受け入れてくれる魔法少女を呼びよせてアイちゃんを破壊、私を現実の世界に連れ戻す計画は、マギウスの翼にバレていたみたいで。アリナっていう人がマギウスの翼に用意された経路から侵入しているのをアイちゃんが食い止めていたみたいなんだけれど、いつまで持つか……」
「マギウスの翼が……!?」
『――来てくれたんですね、環いろはさん』
「アイちゃ……!」
ヴン、とどこからともなく現れたポリゴン群がいろはとさなの前に集積し女性的なシルエットを形作る。安堵を露わに振り向い少女は、次の瞬間凍り付いた。
形作られたアバターに走る不気味なノイズと、ポリゴンで構築された頭部から胴にかけこびりついて火花を散らす塗料。明らかに尋常ではない様子のアイにさなが蒼白になるなか、彼女の動揺を意に介さぬ機械的な口ぶりでアイは警句を発した。
『失策です、
「アイちゃん!?」
『……アリナの絵具を浴び過ぎました。遠からず私は暴走します、どうか止めを――』
「やだ……やだよ、アイちゃん私……!」
「――」
知性を持つウワサが自身を破壊するようにと囁くのにだめ、だめと首を振って縋り付く、監禁された側とは思えない執着を見せるさな。彼女の様子を沈痛な面持ちで見守っていたいろはは、そこで結界が罅割れ――侵食されていくのに気付く。
マーブル模様の空間に生じた、紅。その点を中心にウワサの結界は罅割れ、色が滲み、溶け落ちて――呑み込まれた。
「これ、は……?!」
「――そりゃ、相手のフィールドで戦ったら好き勝手にされるのは当然のことですケド。何度もされちゃ流石にアングリーなワケ。だから――こちら側に書き換えてあげたの。感謝してよね
? ワタシ好みにこの空間塗り潰してあげたんだカラ!」
ウワサと魔女は勝手が違うからだいぶ手間をかけたけどね! 怒気も露わにそう叫んで現れたのは、黒い軍服にカラフルなスカートを纏ったロングヘアの魔法少女。ひとりぼっちの最果ての一角を埋め尽くす紅い結界とともに現れた彼女は背中から流れ落ちる泥のような質感の塗料を膨張させ、立ち竦む少女たちに向かって雨あられと降り注がせた。
「――っ!?」
ほとんど見向きもしないで攻撃範囲にいろはも入れて降り注ぐ塗料。慌てて退避しようとしたいろはは、そこで動けないでいるアイを庇おうとしたさなが人工知能諸共に呪いの籠められた雨に襲われようとしているのを見つけ――対処が、遅れた。
「ぁ――」
「――っっぶねぇ!!」
風が、奔り抜けた。
白いローブがはためく。
いろはを、さなを、アイを襲おうとしていた塗料の悉くが吹き飛ばされた。銀色の和装を纏い、黒い刀身の太刀を振り抜いた少年は目を見開く軍服の魔法少女を一瞥した後にいろはの無事を確認した。
「――間に合った、な。本当……よかった」
「……シュウくん?」
いろはに傷一つないことを把握し、心底安堵したように笑みを浮かべた少年は、次には嘆息すると黒い刀身の太刀を構え直す。
マギウスの翼の首魁がひとり、アリナ・グレイに向けて。
「……パードゥン? ねぇ魔女守、これどういう状況なワケ? まさかアナタまで反逆なんか――」
「誤解だよアリナさん。俺はただ自分の連れを守ろうとしただけだ」
「ん? ……なんだ、主導権はウワサが握ってるわけじゃないのか。ま、それはそれでアリナがウワサを装備するのに参考になるけれど――ウザイんですけど、邪魔しないでくれない?」
一筋の光芒が奔り抜けた。
レーザーじみた軌跡を残し襲いかかったキューブを弾いたシュウは、次々に襲いかかる凶弾を凌ぎながら背後の少女たちに向かい怒号をあげる。
「シュウくん、それ――」
「時間稼ぎはしてやる、何かやりたいことがあるならとっとと距離を取ってケリつけてくれ! この人に危害を加える訳にはいかないし、そう長くは保たん!!」
『――感謝します、桂城シュウ、魔女守の剣士』
いろはを、さなをポリゴンの渦に捕らえたウワサが結界の形を組み変えることで何重もの障壁を形成しながら形を変え行くウワサの結界の深部まで姿を消す。目を丸くしたアリナは、後頭部に生えたドッペルから溢れる絵具で形成した雲に乗り目を細めた。
「時間稼ぎ、ねぇ。その間にあの虫の息みたいなウワサを魔法少女に壊させるってコト? 元々デリートするつもりだったからそれについてはどうでもいいけれど……。桂城シュウだっけ。アナタどうしてアリナの邪魔するワケ? まさか裏切りの理由が魔法少女2人誑かす場所にひとりぼっちの最果て利用してたとか言うようだったら流石のアタシも手加減できそうにないんだケド」
「裏切ってなんかないしそんな動機で戦ったりなんかせんよ! 片方俺の彼女なのは事実だけど――あっまず!?」
投げ放たれたキューブを迎撃するよりも早く、内部に閉じ込められた魔女の結界が少年を呑み込む。
――アリナ・グレイ。利美智江曰く、魔法少女の救済にあたり最も有用な異能を持つ魔法少女。
アーティスト気質らしく個性的な美的センスをもつ彼女の趣味は、
神浜に巣食う多くの強力な魔女。魔女に魔女を喰わせる蟲毒、鏡の迷宮から得られる魔力リソースを用いた強化を重ねられたアリナの
「――しゃあない。半殺しに留めて最速でここを脱出、またアリナさんのところに戻って足止めする。……借りるぞ、魔女守」
(――断る必要はない。今となっては貴方の技は
迸る魔力。黒く染め上げられた太刀――。魔女守に与えられた兵装『空の剣』の柄を握り、瞼を閉じた少年は眦を眇めた。
「――
吹き荒れた黒き風。暴風の斬撃が、魔女結界を縦に裂いた。