環いろはちゃんと共依存的にイチャイチャしたい人生だった   作:風剣

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ブルアカとイナイレGO楽しいですね(棒)



進むしかない

 

 

 それを、彼女はずっと見ていた。

 

 ウワサが自害を企て桃色の魔法少女に接触を図ったときも。マギウスの翼での活動に奔走する少年にいろはが相談を持ち掛けていたときも。ひとりぼっちの最果てに差し向けたアリナ・グレイの前に立ちはだかったウワサと融合したシュウが対話を試みながら激戦を繰り広げていたときも、自らと心を繋げた透明な少女によって破壊された名無しだった人工知能が壊されたときも――ひとりぼっちの最果てが消滅したあと、今際の時にウワサが送ったメッセージを自室に戻ったいろはが確認した時も、ずっと彼女は見ていた。

 そうして、彼女は知る。

 

「魔女守の、ウワサが……?」

 

 ブオンと、老婆の居座る一室に置かれた機械が白煙を吐いた。

 

 環うい。環いろはの、桂城シュウの、そして――利美智江の、探していた消失者。意図せぬ手がかりに目を見開いた老婆は、すぐさま動きを見せる。眼前に表示されたスクリーンを操作、表示された画面を遡っては切り替える作業を繰り返していた彼女は、やがてひとつの結論に達するとがくりと首を折り項垂れた。

 

「……あーーーーー、そうか、そういうことか。灯花やねむが隠蔽していた訳でもない、最初から欠落していたのか……。道理でどれだけ詮索しても出てこなかったわけだ、まさかあの子たちが友人の魔女化を忘れるだなんてことはないだろうと思っていたから盲点だったよ……」

 

 色を変える瞳を蠢かせ唸った智江は画面のひとつを切り抜き眼前に移動させると、深い皺の刻まれた相貌を歪めゆらりと立ち上がる。

 状況は変わった。検討すべきこと、想定しなければならないリスク、サブプランの修正――。やらなければならないことはやまほどある。

 

 けれど目下懸念すべき、そして早急に判断を下さなければならない事案は――。

 

「誰を、切り捨てるか。……いつの時代も、命の天秤というのは随分と憂鬱だね」

 

 唸るようにして呟いた老婆の視線の先。

 表示されたスクリーンには、十字架にかけられた聖人を彷彿とさせるように貼り付けにされ戒められた巨大な白い塊。今も聖堂で呪いを蓄える、白い魔女の姿が映し出されていた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 帰りたくねぇぇー……。

 

 地の底から響くような煩悶の声。がっくりと項垂れ机に突っ伏した少年に、周囲の魔法少女の視線が集中した。

 

 黒いローブを纏う少女たちが困ったように顔を見合わせる。

 マギウスの翼の本拠、ホテルフェントホープの一角に広がる大図書館でのことだった。一仕事を終えさあ解散というときに自分たちのリーダーが漏らした苦鳴に、魔法少女たちはどうしたものかと困惑したようだった。

 

 僅かな沈黙、ただならぬ様子のシュウに声をかけたのは彼の率いる遊撃部隊に所属する黒羽根の魔法少女のひとり。(……どうする?)(こっちから聞くのはちょっと……)(でも相談に乗ってくれ感全開じゃありません?)(じゃあ貴方が聞いてくださいよ……)などと目線でやりとりを経てリーダーの抱え込んでいるらしき悩みごとを尋ねる役に決まった彼女は心底やりづらそうにしながらも落ち込んだ様子の少年に声をかけた。

 

「どうしたんですか、リーダー。親と喧嘩でもしました? 帰り遅くなって警察呼ばれるとすっごい面倒になるんで門限とかあるなら早く帰った方が良いですよ」

 

「……いや、そういうのは平気だから大丈夫。ただちょっと恋人と話すのが憂鬱で――」

 

 そこまで口にしたあたりで、どのように説明すればいいものか頭を悩ませ、気付く。

 マギウスの翼に所属する魔法少女は、その多くが魔法少女に突き付けられた運命(さだめ)に直面し、あるいは説明を受け認知しているものだ。紛れもなく、魔法少女の真実についてもっとも気軽に相談することのできる集まりであるといえる。

 ならばいっそ包み隠さず事情を話した方が参考になる意見を聞けるのではないか――。その結論に至った少年は、いっそ縋るような心地になりながら己がウワサと融合するにあたって彼の突きつけられることとなった真実について語る。

 

「なあ、恋人の妹が行方不明だったのをずっと探していて、ようやく手がかりを掴んだら魔女になってたってわかったとき……俺は一体、なんて言えば良い……?」

 

「……」

 

 空気が死んだ。

 薄々そんな気がしたんだよなあと遠い目になる者。あ……、と声を漏らしやってしまったと口元に手を当てるもの。無言で目を瞑り首を振る者。一瞬でお通夜のような雰囲気になったことにきょとんと目を瞬き、一拍遅れ少年の発言した内容を咀嚼し理解すると白目を剥く者。一気に周囲がどんよりとした重いものになるのに少年もまた苦々しい表情になった。

 

「……いや、なんかすまん」

 

「いやリーダーが謝る必要はないんですけど……マジか、うわマジかあ。 ……え、魔女化はドッペルで回避できるにしても自殺とかされたらもう詰みですよね? 彼女さん何をどこまで知ってるんですか」

 

「……魔女化と、神浜なら魔女にはならないってことくらいは。あと……俺と合体した魔女守がいろはの妹のことを知っているってことは認識してる」

 

「は? ……じゃあそれ桂城さんが妹のこと黙ってるの気付かれちゃうじゃん」

 

「……えー……それもうばれるのも時間の問題では……」

 

 黒羽根の少女が漏らした諦観まじりの指摘に、少年は沈黙をもって肯定する。

 既にいろはが手がかりを掴みつつある現状、彼女の探し続けていた妹の魔女化を隠すのにも限界がある。どう足掻いてもいずれは気付かれるのならなるべく禍根を残さないように伝えるのが最善だった。

 

 問題は、その最善を選択したところで良い結末に繋がる未来が欠片も見えないことなのだが。

 

「魔女化のこと知ってるんならなんだかんだで諦めつくんじゃないですかね。素直に教えたらどうですか? 変に隠すよりかは直球でぶつけた方が尾を引かないで済むと思いますけれど」

「……たったひとつしかない魔法少女の願いをその妹の病気を治すために使って、行方不明になった後は手掛かりを探してこの街で魔女と戦いながらずっと妹を追っていた恋人に、お前の妹魔女になってたよって言わなきゃならんの……?」

「そっ、そういう事情は最初に言ってくださいよ私が滅茶苦茶冷たい性格みたいになっちゃうじゃないですかあ!!」

 

「そもそもその妹が魔女になったのってどうしてなんです……? やっぱり失恋とか?」

「院内学級だったから失恋も恋もする要素なかったと思うしそこらへんはわからん、ういの魔女化を知った時からずっと魔女守にコンタクトを取ってるけれど秘匿されてる。ただ魔女守が魔女化した瞬間に()()()()()()くらいしかわからない状況なんだよな……」

「きなくっさ……。えっでも魔女守さんは――いやいいわ、下手に関わるのも危なさそうだし詮索はやめとこ」

 

「要は妹の魔女化を知ったいろはさんが死ななければいいんですよね……? 下手なことをさせないように拘束したうえで妹のことを教えたらどうですか? ドッペルを出しての暴走だってグリーフシードでの浄化をしながら話を進めれば起こらないし、メンタルを配慮しなければだいぶ堅実な手だと思いますよ」

「一番大事な部分が配慮されてないんだけど……?」

「いやいや喉元過ぎれば何とやらです、絶交沙汰くらいはなるかもしれないですけど時間がたてば妹が死んだことだってどうにか受け入れて生きていけますよ。私だって妹が目の前で魔女になったあともこうして立ち直って……立ち直って? まあこうしてのうのうと生き延びることくらいはできてるんですから落ち着くまで待てばどうにかなりますなります」

「……。そっか」

「(マギウスの翼には秘密結社っぽくてかっこよさそうだから入ったのに仲間の背景が物凄く重くて気まずいよぉ……)」

 

 おどおどと遠慮がちに、あるいはずけずけと、あるいは気遣うように。それぞれでスタンスに違いこそあれど、いずれも少年の立ち位置と状況をある程度理解したうえでの意見であることに変わりはなかった。黙り込んで考え込み黒羽根の魔法少女たちの意見を咀嚼していた少年は、やがて重苦しく息を吐いては席を立つ。

 

「……ありがとう、参考になった。悪かったなこんな相談を持ち掛けて」

 

「本当だよ、空気お通夜じゃん。リーダー今度奢ってくださいよー、最近行きつけのカフェで美味しそうなパフェが出たんですよ、皆で行きましょー」

 

「金はないでもないけど取っておきたんだよ、多少時間に余裕出来たらバイト始めるつもりだからもうちょっと懐が潤ったらな」

 

「あ、奢りは否定しないんだやったー」

 

 背後から投げかけられたあけすけとした物言いに苦笑しながら軽く手を振り、大図書館の出口に向かい歩きだす少年は今もみかづき荘で待っているだろう恋人の顔を思い起こす。

 

 魔女守のウワサとの融合を果たしたとき、桂城シュウはひとつの武力として完成した。

 元来の類稀な身体能力、魔女との戦闘、場合によっては撃破さえ可能とする肉体に、ウワサの魔力。2()()()()()()からのバックアップによって対魔女に特化した超火力さえ実現させる彼は最強の魔女といわれるワルプルギルの夜を撃破する要に据えられるにふさわしい力を手に入れた。

 

 望んで手に入れた力だ。

 大切な恋人を、背中を預けることのできる仲間を、いろはと共に見つけ出そうとしていた行方も知れぬ少女を。()()()()のように喪わずに済むようにと、手に入れた力だった。

 

 けれど前提は崩れた。

 ウワサの力とともに流れた情報、マギウスによる魔法少女救済の全貌。そのなかに存在した、環ういの魔女化と、彼女が成り果てた白い魔女エンブリオ・イブ――融合の瞬間流れ込んだ情報は、

 

『――悪い。それは秘匿事項らしい』

 

 アイと呼ばれていたウワサから届いた、魔女守こそがういの手掛かりを知るのだと示したメッセージ。それを見せういのことを魔女守は、シュウは知っているのかと縋るように問いかけたいろはに、少年が答えを示すことはできなかった。

 だが、ウワサが少年に明かす情報に制限をしていたといって完全に誤魔化せたとはシュウも思ってはいない。もし今後もいろはが魔女守という存在について、ウワサというモノについて追及をしていった場合隠しきることは不可能と判断せざるを得なかった。

 

 隠すという選択肢が消え、シュウの前に残されたのは如何にして妹の魔女化をいろはに伝えるかという難題――。そうして頼った黒羽根の魔法少女たちの意見は、明確な答えにこそならずとも少年に一定の指針となる発想を与えるのには十分なものだった。

 

「絶交、ね」

 

 携帯を取り出し、マギウスの翼に所属する魔法少女を統括する立場に在る梓みふゆに連絡を取りながら。口に出した言葉の響きを噛みしめるように目を閉じた少年は嘆息した。

 

「仕方ない、か」

 

 滲んだのは、諦観と意地。

 煩悶を呑み込む。現実を受け入れ妥協して――それでもまだ、譲れない一線というものがあった。

 

「あ、みふゆさん。すいません、記憶ミュージアムについてなんですけど――」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 部屋のなか、ベッドのうえに腰を下ろし体育座りになったいろはは室内を見回す。

 殺風景というほどの部屋ではなかった。シーツが剥げ乱れたベッド、小説やマンガ、教科書を積んだ棚、ゲーム機やプリントの無造作に放られた机。小奇麗とはいえない生活感のある部屋は、どこか薄暗く寂しい印象を少女に与えさせた。

 

 部屋の主である少年がいないから、だけではない。何が足りないのか、胸中に湧きあがった違和感のままに部屋の様子を確認した桃色の少女は、やがて感じ取った室内の欠落に目を伏せた。

 

「……シュウ、くん」

 

 少年の家族と暮らしていた家にあったものが、部屋にはなかった。

 かつて彼の部屋に飾られていた映画のポスターも。大きな本棚に詰まれてたたくさんのマンガも。部屋の片隅に置かれていた竹刀も。みかづき荘に越してからの彼の部屋には、かつての彼の部屋に置かれていたものはなかった。

 

 家族を喪った惨劇のあとも、魔女と関わらずに生きるという選択肢はあった筈だ。

 

 いろはのことを見捨て魔女という怪異のことを忘れてしまえば、彼は魔法少女の戦いに巻き込まれ傷を負うことも、2年以上も居た部活をやめることも、強力な魔女やウワサの跋扈する神浜に訪れ引っ越してまで戦うことも……いろはのせいで傷ついてしまうこともなかった筈だった。

 

 そして、昨晩のように。いろはに対して、あんな()をつかせることだって――。

 

(――シュウくんは、嘘をつくとき。目を合わせてくれなくなるんだよね)

 

 神浜に来るまでいろはが知らなかった、彼の癖だった。

 そんなことに今更気付けてしまうくらいに、彼に嘘をつかせてしまっていた自分が悔しかった。

 

 桂城シュウは、いろはの妹の居場所を知っている。

 

 なら。彼が、いろはにそれを教えてくれないのは、どうして――?

 

「……」

 

 その理由が幾つか、頭のなかで浮かんでは消えて。

 桃色の少女は、ベッドの上で頭を抱え込むようにしてうずくまった。

 

「――あやまら、ないと」

 

 自分の無力を。自分の不甲斐なさを。彼にずっと背負わせてしまっていたことを――謝らなければならないと、そう思った。

 

 その後、ちゃんと聞かせて貰おう。

 妹の、ういの居場所を知っているのか。ういはどうしているのか。……どうして、自分にういのことを教えてくれなかったのか。

 

 どんな答えが返ってきたとしてもちゃんと聞こうと、そう決めて。少女は、シュウの部屋で独り彼を待ち続けた。

 

 その夜から。

 桂城シュウは、みかづき荘に帰らなくなった。

 

 

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