環いろはちゃんと共依存的にイチャイチャしたい人生だった   作:風剣

60 / 126
少女決起、証明を果たせ
満たされた/満たされぬ 世界


 

 みかづき荘を訪れた紅い髪の少女……常磐ななかは、マギウスの翼に加入したシュウと何らかの関わりをもっているようだった。

 今はいない彼に関していろはに話があると言ったななかをリビングに案内すると、彼女と顔見知りだったのかがたっと席を揺らして立ちあがったフェリシアが「ななか!? 何でお前がここにいるんだよ!」と声を張り上げたが……肩を竦めた彼女がシュウについて話があると伝えると困惑しながらも座る。

 

 お茶を出すやちよに礼を言ってティーカップを受け取ったななかは魔法少女たちの居並ぶリビングを見回し、目当ての少女がいないことに気付くとキッチンに立つやちよの方へと視線を向けた。

 

「お茶ありがとうございます。……それで、環いろはさんは――」

 

「……あの子なら上よ。昨日桂城くんと(いさか)いになっての衝突をしてからずっと寝込んでしまって……。桂城くんに関する話があるというのなら今からでも呼びにいった方が良いわね」

 

「……諍い。では──やはり、シュウさんと貴女たちは決裂を……?」

 

 目を見開きながらもやはり、と彼女は口にした。

 どういうことかと問い質そうとしたのが気配でわかったのだろう、己に渡されたカップに口をつけたななかは僅かな逡巡の後、数日前己の復讐に加担しひとりの魔法少女を――1()()()()()()討ち取った少年を思い浮かべ口を開く。

 

「私と彼は、数年前から同じ道場に通うのを接点に交友をもっていました。半年前、彼のお父様とお婆様が家に現れたという魔女に殺されてからは連絡を取る機会も減りましたが……いろはさんがドッペルなるものをあの夜神社で発現したときに遭遇して以降は頻繁に連絡を取りあっていました」

「彼は――。いつだって、いろはさんのことを第一に想っていましたから。それ以外を蔑ろにするが故にいろはさんを含めた魔法少女と衝突する事態に発展することへの懸念はマギウスの翼に加入した頃からしていたのだと思います」

 

「……」

 

 ――そして彼は、いろはの未来を守るために彼女との訣別の道を選んだ。

 

 記憶ミュージアムにて彼の見せた妄執を滲ませた表情を思い浮かべ目を伏せるやちよ。まず間違いなく今までの関係を破綻させるだろう魔女化した環ういの事実を突きつけたシュウにとって、恐らくは何よりもいろはのことこそが優先すべき事項だったのだろうと重々しく息を吐いた。

 

「……事情はわかったわ。いろはが起きるまで――いえ、今から起こしましょうか。常盤さんには申し訳ないけれどもう少し待ってもらって――」

 

 そこで、やちよの言葉が止まった。

 彼女たちのいるリビングの上方。みかづき荘の2階で、この場の誰にとっても覚えのある魔力が突如発生したからだ。

 

「これ、は――」

 

「いろは!?」

 

 真っ先に駆け出したフェリシアに追随するようにして少女たちが階段を駆け上がっていく。最後尾でやちよが、ななかが魔法少女の衣装に姿を変えるなか、開け放たれたいろはの部屋には力なく宙に浮きあがる桃色の髪の少女の姿があった。

 

「――いろは!」

 

「っ……! フェリシア、変身しなさい。今のいろはは――っ!」

 

『syukun ui minna』

 

 叫び声をあげて異形がその身を形作る。長く伸びた桃色の髪から形成されたドッペル、嘴を包帯で戒められた魔女がいろはを吊り下げながら苦鳴をあげ身に纏う帯を展開した。

 鶴乃が変身してフェリシアとさなを庇い、やちよが槍を突き出し、ななかが刃をもって切り捨てるよりも早く。

 

 少女たちを取り囲むようにして噴き出した白い檻が、彼女たちを瞬く間に取り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――そうして。常盤ななかは、見覚えのない一室で目を覚ます。

 白い天井と壁を照らす、窓から差し込む柔らかな日差し。室内に飾られた調度品の数々に心当たりのあるものはなかった。

 

 ベッドから身を起こして窓から外を見回した少女は、周辺の地形が自身が先ほど初めて訪れた洋館のものと同一であることを確認すると柳眉を顰める。

 

「ここは……みかづき荘? 何故ここに……」

 

『あれ、ここオレたちの部屋じゃん!? いろはの部屋にいたのに――』

 

『一体どうして――。いろはさんはどこなんでしょう』

 

『いろはちゃんは……部屋なのかなあ』

 

「……フェリシアさん、七海やちよさんたちもここに同じく連れられたと考えても良さげですが……」

 

 困惑させられる要素は多いが、かといってこの部屋で過ごしていても仕方ない。

 

 ベッドのうえで身を起こし、辺りを見回しながら困惑していた彼女の耳朶が壁を挟んだ一室からの喧騒を捉える。フェリシアやさなの困惑の声に訝しむように眉を顰めたななかは、警戒を保ち変身を維持しながら扉を開くと廊下を通りいろはの部屋へと向かった。

 道中、フェリシアや面識のないみかづき荘の住民らしき魔法少女たちと遭遇したななかは先ほどのリビングからの突撃を再生するようにドッペルを発動していた少女の部屋の扉を開き――そして、目を見開く。

 

「――いない?」

 

 そして、時を同じくして。

 みかづき荘の自室にて目を覚ました七海やちよは、上の階から響く慌ただし気な足音に他の仲間たちも同じ状況に陥っていることを把握すると自身もまた2階へと向かおうとしていた。

 

 そこで、キッチンから響いた物音。驚愕を露わにした彼女は警戒を滲ませながらも登りかけていた階段を降りていく。

 

(──この不可解な状況。直前に展開されたドッペル。そして、ドッペルは魔女になることを回避した魔法少女の具現する呪いと穢れの具現……であるなら、これは)

 

 コトコトと響く鍋を煮る音、焼き魚の香ばしい匂い。キッチンから漂った料理の芳香に目を細めた彼女は、やがてリビングに顔を出すと息を呑んだ。

 

「──最近はフェリシアのリクエストに合わせた味付けも馴染んできたな。俺としては前の薄味でも良かったと思うけれどこれはこれで丁度いいかも……」

 

「あ、やっぱり? 私も万々歳のメニューを食べる機会が増えてきたからか前のだとちょっと薄く感じちゃうんだよね……。知らず知らずの内に濃くなりすぎてないか不安だったからよかった」

 

「まあ、いろはの料理ならそれこそ何だって好きだけれど──」

 

 そこで、キッチンに立ついろはに密着しながら味見をもらっていた少年の声が止まる。

 動きやすそうなシャツとズボンを着た黒髪の少年。背後から恋人に抱きついては間近から囁きあっていた彼は、自室からやってきたやちよに気付くと笑みを浮かべた。

 

「おはようございます、七海さん。──どうしたんですか、そんな驚いた顔をして」

 

 ──驚きもするわよ、と。マギウスの翼に与しみかづき荘からいなくなった筈の桂城シュウが何もなかったかのように気軽に声をかけるのに、やちよは眉間に手を添え呻きながら首を横に振った。

 

「んー2階にいないってことはやっぱ……あれ!? なんでシュウまで居るんだよ!!」

 

「ン? 何だよ俺がいちゃダメかー? 当番でなくたってたまには手伝いくらいするよ、今日のところは味見しかしてないけども」

 

「えっ、いやオレが言ってるのそういう訳じゃなくって……マギウスは!? というより思いっきりいろはのこと突き放してたじゃんお前っ、え、なんで……!?」

 

「? なんのことだよ、俺がいろはのこと突き放すとかないだろ」

 

 部屋にいなかったいろはを探して1階へと降りたフェリシアが2人に大声をあげるなか、まともに取りあわないで困惑し切りの彼女をあしらっていたシュウは、フェリシアに遅れて鶴乃、さなとともにやってきた紅髪の少女を見つけると軽く手をあげて挨拶する。

 

「おはよう、ななか。よく眠れたか?」

 

「ぁ――。…………ええ」

 

 困ったような笑みを浮かべたななか、いろはにしがみついたままで声をかけてきた彼に驚いたように目を見開いていた少女は戸惑い、困惑を露わにしながらもどうにかシュウの挨拶に応対した。

 

「……おはようございます、シュウさん」

 

 

 

 

 階段を降りて合流した魔法少女たちは、リビングで顔を突き合わせ今彼女たちを襲う不可解な事態についての情報を共有することとなった。

 

「では……少なくともここは、七海さんたちの居たみかづき荘ではないということですね?」

 

「精巧に再現されてはいるけどね、どうしても拭えない違和感はあるものよ。……そもそもななかさんと鶴乃が1人部屋で目を覚ますことができた時点でね、部屋の数がどうしても合わなくなるのだし」

 

「なるほどー……。じゃあここって、いろはちゃんの出したドッペルが作ったみかづき荘ってこと? ドッペルってそんなことできるのかな……」

 

「……そもそも、何の為に……?」

 

 部屋で寝た切りになっていたいろはが繰り出したドッペルによって構築されたみかづき荘。わざわざ魔法少女たちを引きずり込んでまでこのような状況を作り出した意図が見えずやちよたちが頭を悩ませるなかで、食事を済ませたいろはとシュウはソファに陣取りべったりとくっついていた。

 恋人の膝上に座らされかき抱かれる桃色の少女。状況を掴み切れぬまま、しかし現状を構築する基点となっているだろう2人を見定めるように空のカップを手に視線を向けたななかは緩み切ったその表情を見て毒気を抜かれたように嘆息する。

 

『いろは、目ぇ瞑って』

『……うん』

『……』

『………………シュウくん?』

『いや、いろはキス待ち顔めっちゃ可愛いなって』

『シュウくんってば! もう――んむぅ』

 

 ななかの手のなかでカップが嫌な音を立てて罅割れた。

 

「ひぇっ」

 

「……申し訳ありません、少し力が入り過ぎてしまったみたいです」

 

「……控えるように声をかけておくわね。見慣れない人にあれは確かに目に毒でしょうし」

 

 溜息を吐きながら席を立ったやちよに注意されたいろはが顔を赤くして頭を下げるのを尻目に、少し怯えた顔でちらちらと見てくるフェリシアに申し訳ない気分になりながらななかは深呼吸を繰り返す。

 

「……何事にも揺るがぬ冷静さと精神力はと、心掛けていたものですが……。なかなかうまくいかないものですね。先日も失敗してしまっていたというのに、我ながら情けないものです……」

 

「なんだ、オレとの契約断ったときに落ち着きだのどーのって言ってたのななかじゃねーかよ」

 

「返す言葉もありません。……でも、その結果として貴方は随分と良い縁に巡り合えたようですし寧ろ良かったことなのでは?」

 

「……ふんっ」

 

 ぷいとそっぽを向いたフェリシアに微笑を浮かべたななかは、やちよの注意を受けてスキンシップは気もち控えめに、けれど未だに密着し合う男女の姿を見つめる。胸中に滲んだ苦い感情を押し殺したななかは、リビングに居合わせる魔法少女たちに向けて問いかけた。

 

「……あの2人は、いつもああなんですか?」

 

「……ぇ、えっと。私も2人と会ったのは最近で、桂城さんと会ったのも数えるくらいですけれど……それでも、まだあそこまで人目を気にせずというわけではなかったような……」

 

「……2人で居るときは割りとしょっちゅうだぞアイツら。いろはの家で暮らしてたときは一緒の部屋で寝泊まりしてたみたいだしみかづき荘にやってきたあともしょっちゅういろはのヤツ朝までシュウの部屋に行ったりしてたし……」

 

「……」

 

「……なるほど」

 

 顔を熱くししどろもどろなさな、少しうんざりしたようにしてカップルのプライベートを赤裸々に暴露するフェリシア、顔を真っ赤にして黙り込む鶴乃。彼女たちの反応に納得したように頷いたななかは、ソファに座る2人の方向へちらりと視線を向ける。

 

 頬を赤らめるいろはと触れ合う少年の表情は穏やかだ。ななかと顔を合わせていた間には滅多に見なかった、心底から安らいだ表情――。彼の顔を見た紅髪の少女は、沈黙の末に嘆息すると苦笑しゆらりと立ち上がった。

 

「ん、ななか……?」

 

「恐らく、七海さんも既に調べを進めているところでしょうが――。先に共有したように、ここは決して現実世界ではない。そしてドッペルによってこの世界が構築されているのであれば、当然……今ここにある明確な異常にこそ、答えがある」

 

「それは……桂城さんのこと、でしょうか」

 

「いえ。確かにみかづき荘にいない筈の彼はこの世界における象徴的なもののひとつですが──。問題は、彼をいま一番求めているのは誰か、ということです」

 

 少女のもとに歩み寄る直前ですれ違ったやちよから向けられる視線。ななかの意図を探るような目に()()()()()()()()()()()()と応え、くっつく2人の前に立った自分にきょとんと目を丸くしたいろはに向かってかがみこんで微笑みを浮かべる。

 この世界を構築する大元である彼女の根幹を揺さぶるに足る存在のことを、ななかは既に教えられていた。

 

(たまき)さん、私もお見舞いに一度伺わせていただきたくて。──妹さんについて、教えていただけませんか?」

 

「いもう、と──」

 

 ななかにかけられた言葉の中身を反芻するように、桃色の少女は小さな声で繰り返して。

 はっと目を見開き、勢いよく立ち上がって叫ぶ。

 

「うい!」

 

 

 そうして、世界は塗り替えられた。

 

 

「──私のもつ固有魔法は、あらゆる虚飾を取り払い敵を見定めるものです」

 

 朗々と、声が響く。

 

「たとえ明確な敵意を向けられていなかろうと関係はありません。想定外の光景に心乱されこそしましたが、私は初見の段階でこの魔法で世界の中核がいろはさん(ドッペル)であることを看破しました」

 

 そして、解を得たのであればあとは証明の段階であった。

 

「この世界はいろはさんのドッペルによって展開された彼女の夢。恋人も、仲間も、家族も──喪われようとしている妹もいる世界です」

 

 その病室には。少年に見守られ、里見灯花、柊ねむといった顔見知りの少女たちとともに。()()()()()()()()()()()()()()()()()、そして愛おしげに抱き締める少女の姿があった。

 一瞬だけ浮かべた沈痛な表情を吐息とともに引き締め、ななかは周囲の魔法少女に要請する。

 

「……私には、彼女と話があります。ですがその為にはこの夢は障害となる──。ドッペルを討ち、いろはさんを夢から叩き起こします。協力をしてください」

 

 


 

 

 鴉の鳴き声が響く。

 幾層ものの結界を越え飛び込んできては天井の付近を飛び回り響かせる鳴き声。それを聞いた老婆は、光を反射する鏡の残骸が散らばった空間に佇みながら顔をあげた。

 

「──ななかちゃんが、いろはちゃんと接触したか。相性がいいとは言い切れないが、彼女なら良い発破を叩きつけてくれるだろう。いろはちゃんが立ち直れると良いけどね」

 

「……どこまで、己の意地を押し通せるか。それ次第で、結末はだいぶ変わるだろうが──。さて、どうなることやら」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。