環いろはちゃんと共依存的にイチャイチャしたい人生だった   作:風剣

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救済を為すために

 

 

「本当に、良かったの?」

「……あ?」

 

 夜道を巡回する最中のことだった。

 遊撃部隊のリーダーに据えられる少年に投げかけられた疑問。武力の塊といっても差し支えない彼から不機嫌そうに一瞥された黒羽根の魔法少女はびくりと怯んで身を震わせたが、その問いを取り消すことはなかった。

 

「環さんって……ずっと、桂城君と付き合ってたんだよね。それなのに、別れちゃうだなんて……。あんなに仲がよさそうだったのに、どうして喧嘩別れだなんて……ひっ」

「……」

 

 言葉尻はすぐに弱弱しくなった。 

 露骨に苛立った様子をみせた少年からの異様な殺気、張り詰める空気。軽く涙目になってやはり地雷だっただろうかと内心戦々恐々としながら目線を動かすと、背後から同じチームの魔法少女たちの囁き声が聞こえてきた。

 

「(どう考えても今のリーダーにその話題は地雷だから聞くのは控えようねって言ってたのにー!? いや黒江ちゃんそのときの会話に参加してなかったけどさあ!)」

「(え、嘘!? 黒江ちゃんマジかーーーー、言っちゃったかーーーー、気持ちはわかるけど! わかるけども!!)」

「(この新人度胸ありますねえ……。シュウさんとはお知り合いなのかなあー……あれそれ聞いてみたいなあ)」

 

 背後で好き放題を言って囁き合う彼女たち。なんともいえない表情になる黒江同様に背後の声を聴いていたのだろうシュウもまた呆れたように溜息をついては怒気を収めた。

 黒江と呼ばれた少女──いろはと同じく、かつて宝崎市にて魔法少女として活動していた黒羽根にじろりと視線を向ける。

 

「黒江さんが俺の班に来たのはこれが初めてだったっけか……。まあ、そう込み入った話でもないよ。ずっと探していた恋人の妹が魔女になっていて、それをようやく最近明かして、当然のように喧嘩別れになった。それだけだ、それだけ」

「それだけって一言で流すには怖すぎる眼だったじゃないですか……」

「控えめにいっても地獄過ぎる……。喧嘩別れってのも最悪じゃないですか、私たちが折角相談に乗ったっていうのになんなんですかその流れ!」

「あれ言うほど良い案出てなかったような……」

「笑顔で参考になったよとかいってたじゃないですかー! 私たちの意見を参考にした結果がそれってなんかめちゃくちゃやだー!」

 

 黒江が許されたのを確認するなり好き勝手を言い出す魔法少女たちに苦々しい顔をして路地を歩くシュウは毒づくように唸った。

 

「最愛の妹が魔女になってた。そしてそれは隠したってどうせすぐに把握してもおかしくはなかった。……俺は、今更付きっきりになって支えてやれるような立場じゃなかった。だから、最善ではなかったとしてもそれで良いんだよ。魔女化なんてどうしようもないし──」

 

『──環ういを救える活路を、ようやく見出だせた。今なら……いろはちゃんなら、あの子を助け出せる可能性がある』

 

「――仮に救えたところで、俺には何もできやしないんだ。だから、今はただ魔法少女の救済に尽力することだけだ」

 

 脳裏をよぎった老婆の言葉。ほんの数日前に提示された新たな選択肢――実現はできないと()()()()()ものを思い浮かべた少年は苦虫を噛み潰した表情で首を振る。

 

 ――そうだ。俺にはできない。魔法少女の救済を成功させることができなければ次善策の数年さえ大切な人を守ることもできないと、一番最初にそう突きつけたのはあの老婆で、自分もそうと認めたことだ。

 だから。だから、自分はもう……。

 

「やるしかないんだ」

 

 魔法少女の救済は、確実に為す。その為なら、たとえ立ちはだかるのが恋人であったとしても――。

 絶対に、邪魔はさせない。

 

 自分に言い聞かせるようにそう呟く少年の携帯が鳴る。

 画面に表示されていたのは、白羽根としてシュウと同じように黒羽根の指揮を任されマギウスの指示を受け活動する天音月咲の名前だった。通話を繋げば響く破砕音、眉を顰めた彼が声を張り上げてどうしたと確認すれば切迫した様子で少女が悲鳴をあげた。

 

『か、桂城さん……! 応援お願い! 栄区で象徴の魔女を追っていたら使い魔との戦闘中に黒羽根のひとりがドッペルを暴走させちゃって……! 物凄く強くて落ち着くまで拘束することもできないからっ、力を貸して! 今はどうにか月夜ちゃんと抑えてるけど、使い魔もまだいっぱいいるし対処が……!』

 

「栄区だな? わかった、2分――1分で着く。移動中の道標にするからマギウスシンボルは起動しておいてくれ」

 

 必要なことだけを簡潔に伝えた少年はすぐさま通話を切ると変身、黒を基調とした和装に転じ空を見上げた彼に周囲の黒羽根がぴたりと硬直した。

 

「え、あの、リーダーここ大東区なんですけれど……。流石にちょっと、距離が離れすぎてるのでは……」

「問題ないだろう、飛んで最短距離で向かえば10キロもない。……黒江さんは飛べるんだよね?」

「……え!? い、いや私のドッペル翼は確かにあるけれど飛ぶのはちょっと……」

「あ、そうなの? それは残念、空路確保できる魔法少女貴重だから結構期待してたんだが」

 

 別に速度特化というわけでもないのに機動力重視の魔法少女が集まるこのグループに私が選ばれたのドッペルが原因なの!? と黒髪の少女がひとり戦慄するなかで得物を構えた少年は手にした太刀から風を舞い上がらせる。

 

「なら仕方ない――。ああ、巡回は予定通りの経路でよろしく。俺も途中で合流するから」

 

 彼が引き抜いた刃の刀身が黒く染まり、内包されていた嵐の一部を開放する。

 ウワサを生み出す魔法少女、柊ねむによって魔女守に与えられた一振り、『空』――。跳躍して嵐を内包した黒刀を振るった瞬間、彼の身を押し出すようにして大気の奔流が生成され、そして爆ぜた風に乗ったシュウは一気に夜空へと解き放たれた。

 

「栄区……。象徴の魔女って言ってたよな、連中どれだけ神浜に蔓延っているかわからんしひとまず月咲さんたちの目印を――見つけた」

 

 黒い刀身の太刀から形成された大気の塊を足場に、時には追い風を巻き起こして移動速度を上昇させ、同時に軌道を修正して。救援を要請した魔法少女の魔力を追って宙を駆ける少年は、距離も気にせず神浜の夜空を疾駆していく。

 

 ――前よりずっと、ずっと(はや)い。これならもう、有事に駆けつけるのが間に合わないということはない。

 

 月咲と黒羽根の魔力を上空から検知、虚空を蹴って流星のように飛来した彼は身を捻り刃を振り抜く。人気のない建物の屋上に在った魔女の結界を断ち、内部の空間に侵入した。同時、内部で交戦していた黒羽根の魔法少女を襲おうとしていた異形の悉くを最高速度の斬撃の数々で切り伏せた彼は新たな侵入者にどよめく使い魔たちを睥睨し魔力弾から庇った黒ローブのひとりに声をかける。

 

「状況は?」

「ぇ。あ……は、はえ。桂城さん!? はやすぎ……あ、ああええと、黒羽根の七瀬(ななせ)さんがっ、ドッペルを暴走させて……! 向こうで天音さんたちが今引きつけてますけれど、どれだけ保つか――」

 

 必要なことが聞ければ十分だった。音を置き去りにして掻き消えた彼は進路上の使い魔たちに斬撃を浴びせながら移動、笛を共振させての音の牢獄を構築し抗う双子の魔法少女を相手にその巨腕を振り上げていた異形に風の斬撃を直撃させ吹き飛ばす。

 

「桂城さん!?」

「待たせた。2人とも怪我はないか? ドッペルを出した七瀬さんは俺が対処する、2人はこの結界の魔女を――」

 

AHAHA SUGOI GIRIGIRI――

 

 風の斬撃によって抉り取られた地面のなかで、ゲラゲラと嗤いながらドッペルが起き上がった。

 何本もの逞しい腕に身を支えむくりと起き上がった巨体、その中心部には金髪の魔法少女の身体が格納されている。トランプのカードを思わせる模様で彩られた異形は闖入者の少年を見つめ愉しそうに嗤っていた。

 

「七瀬さん、意識はあるか? ……ああ、ないならないで構わないよ、叩き起こすのが手荒になるのは申し訳ないけれども」

 

AA MOTTO MOTTO

 

 七瀬ゆきか。やたらとトラブルに遭遇しがちなのとその弱気さと相反した追い込まれたときの動きの良さと爆発力は印象に強かった。主と同じように、そこから発生したドッペルもまた相応に頑強で、そして狂暴だ。斬り伏せた手応えからその強度を推し計った彼は、襲い掛かった巨体がその拳から浴びせる衝撃波を断ち切り脚力に任せた蹴りを打ち込んで弾き飛ばすと『空』の切っ先を天に向け掲げた。

 

「――神雷、装填」

 

 ドッペル症と呼ばれる現象がある。

 魔女化による即死を回避するべく『半魔女』エンブリオ=イブと3人のマギウスによって産み出されたドッペルシステム。ソウルジェムに溜め込まれた穢れを放出しドッペルとして使役する機構は、しかし魔法少女の運命を覆す対価に相応の副作用が存在する。

 

 新たなる力を手に入れたことによる依存、中毒性。記憶や寿命を対価とする重い代償。あるいは、ドッペルに取り込まれ身体の支配圏を奪われる第二の人格による脅威。

 改善の必要なシステムなのは間違いない。

 だが――魔法少女の真実を知ったものが活路を見出すのに、魔女化の回避は十分すぎた。

 

 ドッペル発動の代償も調整によって十分回避できる。

 問題となるドッペルとの融合、取り込みも……()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

天津雷(アマツカヅチ)

 

 刀身に装填された白い雷光が、斜線上の使い魔ごとドッペルを呑み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 ──え、何のために魔法少女になったかって。

 ──そんなの、決まってる。ういの病気を治すために、私は魔法少女になったの。

 

 

 多くの魔法少女に、願いを聞いた。

 

 

『え、あーしの願い? 憧れのお姉ちゃんみたいにキラキラしたカワイイ女の子になりたくて! どうどう、良い願いでしょ、えへへー……。…………あ、こら、誤魔化して逃げるなー!ろっはーのところに行って仲直りしろー!』

 

『……私は、父の遺した一門再興を為すために魔法少女になりました。しかしそれを魔法少女の願いで成そうとは考えませんでしたね。悲願は己の手で成就させてこそですから』

 

『魔法少女の願いに私たちが何を願ったか、でございますか……。桂城さんであればそう吹聴してまわったりもしないでしょうし、構いませんが……』

『うちらは2人でひとつ。そうで居たかったし、そうでなきゃ苦しかったから。だからね、ウチらは願いで強く結ばれてるの』

『『――ずっと、ずっと一緒に居ようねって』』

 

『私かい。……生まれつき、目があまりよくなかったからね。遠くまでよく見える眼にしてもらったんだよ、便利だろう?』

『え、私も……? ううん、嫌というわけではないけれど……。もう一昨年になるのかしら、家族と車に乗ってたら事故に遭ってしまって。だんだんと周りも暗くなってもう駄目かもってなっていたときに、キュゥべえが現れて魔法少女になることで生き延びたの。あのときは、ただ生きたいと無我夢中だったけれど……そこで家族のことを気に掛けることができてさえいたら、少しは変わったのかしらね……』

 

『……えー、えー……。リーダァー、魔法少女の願いなんて厄ネタ聞いて何が愉しいんですかー、オカズにするにしたって性格悪くないですかあ……言いますけど。笑ったら怒りますからね。……勉強ピンチだったんですよ、親もうるさかったし。……その、キュゥべえがなんでも叶えてくれるっていうから、透視を……。あっそこの黒羽根笑ったなあ、お前のパンツや■■の色を今ここでぶちまけてやったって良いんだからなあ!!』

 

『…………ロクなもんじゃないですよ』

『気にしない? じゃあ言っちゃいますけど……クラスで虐めてきたグループみんな殺したんですよ。まあ死体は魔女結界に捨てたんで誰にもバレちゃいないと思いますけど……ね? ロクなもんじゃないでしょう』

 

『あ、私は親を殺した口です。不幸自慢選手権でもします? マギウスの翼重い背景もってるひと多いけど私も結構いいとこに食い込めると思いますよはははは。………………マジすいません……、イケるかなって思ったんです……。ヤな空気にしてごめんなさい……』

 

『……妹と、一緒に魔法少女になったんですよ。キュゥべえが、2人とも素質があるって言って……私は、好きな人と付き合って、妹もいろんなところに秘密基地を作ってて……。魔女は怖いけれどあの子だってそれは同じだったし、私が守れば平気だって……十七夜(かなぎ)さんも応援してくれて……でも私には、無理でした』

 

 

 祈りがあった。

 願いがあった。

 呪いがあった。

 

 魔女と戦うこととなったとしても自身の決断に欠片の後悔も抱かない魔法少女がいて。

 魔法少女の力をそう使わなければ自分が死んでたと、自らが奪った命のことを語り苦笑する魔法少女がいる。

 くだらないことに奇跡を使って地獄に身を投じてしまったと呻く魔法少女もいた。

 

 環境も、事情も、それぞれが直面した困難もまた違う。

 だが――。誰もが、明日の、更にその先に在る未来を目指して生きていた。

 

 魔法少女に突き付けられる末路(さだめ)がなければ、もっと無邪気に明日の自分がいつも通りの日常を送れると信じていられただろう少女たちだった。

 

 

 z、ザ、ザザ――。

 

 

 

 ――それでは、聞かせて欲しい。魔法少女になることを対価とする君の願いを。

 

『……んー、ふふふ。私ね、キュゥべえの話を聞いた時から、これってお願いを決めてたんだ』

『将来、私が子どもを産むとき。うんと元気で頑丈で、ずっとずっと健康で――魔法少女になった私にだって負けないくらい、強くて素敵な子に生まれ育って欲しい。……えへへ、私の弟も身体弱かったから……私が子どもを産むときは、ね?』

 

 

 

 

 ……ああ。だから。

 

 もう、魔法少女たちの祈りを踏み躙るような世界は変えないと。

 変えて見せると、もう決めたのだ。

 

 





誰もが祈ってた。
誰もが祈られてた。

祈りは、報われて欲しかった。
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