環いろはちゃんと共依存的にイチャイチャしたい人生だった   作:風剣

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想いを示す

 

 

 ホテルフェントホープから外出する直前、アリナ・グレイに声をかけられた。

 

「……ふーん? みふゆやお婆さんがどうのこうのと言うから、様子を見に来たけれど……。これはなかなか面白いのが見れそうカモ」

「……アリナさん?」

 

 門の横で壁に背を預け、ニタニタと嗤いながらシュウの様子を見つめる緑色の髪の少女。掌でマギウスに所属する人員に渡されるシンボルを弄りながらほくそ笑む彼女にばったりと遭遇した少年は訝し気に眉を顰めた。

 

「どうかしましたか。新しく補充した象徴の魔女の使い魔はもう黒羽根を通して提出してある筈ですけれど」

「アリナあれには特に関心もないんだよねえ。情報のほとんどがアンノウンな本家大本の魔女ならともかく、使い魔に関しては拡張性も多様性もないし。繁殖特化の性質というのも魔女や使い魔の生態としてなかなか珍しかったケド……」

 

 そんな風に言って肩を竦める軍服めいた衣装の魔法少女の意図は読みづらかった。

 魔法少女救済を掲げたマギウスの魔法少女のひとり、事実上の対魔女における最強格である彼女は、芸術家(アーティスト)を志すだけあって非常に我の強い魔法少女だ。

 同じマギウスであるねむや灯花でさえ、彼女の精神性を理解しきれているかは怪しい。今話しかけてきたのもどんな用があったのかもわからず疑念を露わにした少年だったが、にんまりと笑みを浮かべた彼女は構わずに近付くとそっと囁きかけた。

 

「アリナが離反したウワサのところで見かけたあのガールフレンドと、喧嘩……するんだって? しかもそれがアリナたちの育てていたイブがガールフレンドの妹だからって……! フフフッ、随分と面白いことになってきたみたいじゃない……!」

「――あんた」

 

 大きく目を見開いた少年の手元に太刀が現れた。

 刃を抜き放ちこそしていないものの、だから安全と言える者はシュウを、魔女守のウワサを知る者にはいない。明白に態度を変えた彼を見てクスクスと笑うアリナは、心底愉快そうに声をあげ息を荒げていた。

 

「ひっ、ふ、ふふふ……! イーイ顔……。マギウスにジョインしてきたときのアナタにはこれといって刺さると感じたりはなかったけれど、今ならモデルにして一作描いてみるのもアリかもねぇ……」

「誰が……!」

「ふふ、殺気出し(ガッツキ)すぎ……。でもインパクトがちょっと足りないんだよねェ、ウワサに疲れの概念あるのかなんて知らないケド……そんなコンディションでガールフレンドに敗けちゃったら立つ瀬がないんじゃない?」

 

「――」

 

 表情が抜け落ちた。

 けらけらと笑うアリナ、シュウが半ば臨戦態勢に入るのも気にも留めずに煽る彼女の言葉に一周回って冷静になった少年は低い声音で唸る。

 

「……何を企んでるんです」

「んー? 言ったハズだけど。様子を見に来ただけだって。()()()()()()()()()()。フフフ……ま、状況が変わればその限りではないけれどねぇ」

「……」

 

 そう口にしては背を翻した魔法少女の後ろ姿に言葉を失う少年は、彼女の発言の真意を判じかねたように首を振る。

 言うだけ言って立ち去って行ったアリナ。門に背を向け暗がりに消えていった少女を見送った少年は、やがて呻くように呟いた。

 

「……誰が」

「誰が、敗けるかよ」

 

 

 

 

 

 鏡に映る自身の顔は、傍目に見てもわかるほどに落ち着かない様子だった。

 目線はきょろきょろと定まらず、挙動不審に手足を動かしては衣服の乱れがないかと確認する少女は不安を露わにしている。鏡の前に立ついろはは、どことなく緊張したような面持ちで上から下まで姿見に映る自身の姿を見つめていた。

 

 そんな少女の背後で満足感を滲ませた表情で自身の恰好を確認するやちよは、どこか浮足立ったいろはに微笑みを浮かべ声をかける。

 

「準備はできた?」

「あ、ごめんなさいやちよさん……! えっと、大丈夫だとは、思うんですけれど……どこか変なところってありませんか? こんな素敵な服まで着せてもらって、似合うかどうか……」

「大丈夫、今のいろは最高に可愛いわよ。なんならモデルやアイドルにでもスカウトしたいくらい」

「そ、そうかな……」

 

 現役モデルの審美眼を活用しいろはの為に揃えた衣装を着込ませた彼女は、落ち着かなさげないろはの問いに100点満点の太鼓判を押す。

 

「元々の素材が良いもの、今は着れなくなった衣服に合わせて新しく買ってみたのを着せるだけでも十二分に素敵に仕上がるわね……。あ、新しく測ったサイズに合わせた下着も幾つか見繕っておいたから」

「あぅ、は、はい。何から何まで本当に……本当に、ありがとうございます。やちよさんにも、みんなにも。助けてもらってばかりで……」

「良いのよ。……今回の一件には、私もいろいろと思うところはあったしね」

 

 一瞬だけ。

 いろはの着付けを行っていたやちよの自室、その戸棚にて飾られる複数の写真の方を一瞥したやちよは、少女を見つめ心からの言葉を投げかけた。

 

「……貴方の選択は、決して楽なものじゃない。けれど、そうと決めたのなら私たちは応援するだけだもの。──どうせ何をやっても後悔は纏わりついてくるのなら、全力でいきましょう。お洒落も、恋も、家族も、喧嘩もね」

「……はい。本当にありがとうございます」

 

 そうして身支度を整えたいろはは、やちよとともに自身に協力してくれる仲間たちの待つリビングへと降りていく。

 リビングでフェリシアやさなとスマホアプリでゲームをしていた鶴乃が2階から降りてくる少女たちに視線を向け、そしてやってきたいろはの姿を見て目を見開く。音を立てて席から立った彼女は目を輝かせていろはに向かって声を張り上げた。

 

「すごいすごい、いろはちゃんすごい可愛いよー! え、これやちよが買って来てたやつだよね!? すっごい似合ってる、可愛い! 理想的な恋人って感じがびんびんするー!」

「あ、ありがとう鶴乃ちゃん……!」

「凄い素敵だと思います。七海さんの出てる雑誌みたことありますけれど、それに出ててもちょっと違和感ないかも……フェリシアさん?」

「……別に。似合ってんじゃねーの?」

「みんな、ありがとう……」

 

 口々に反応する少女たちに出迎えられたいろはがはみかみながら礼を言う。

 驚愕と感嘆を露わとした鶴乃たちに囲まれた彼女が談笑するのを何とも言えない表情で見つめていたフェリシアは、そこで湿りけの残る頭髪にバスタオルを巻き浴室からでてきた紅い髪の少女に気付いた。

 

「ななか……」

「あら、もうこんな時間ですか。……まあ、準備万端ですね。本当に素敵」

 

 およそ6日に及ぶ鏡の迷宮での鍛練を終えみかづき荘にて一晩を過ごし、浴室を借りてシャワーを浴びていたななかはいろはの装いを見て口元を綻ばせた。

 

 いよいよ、約束の時も近い──。身支度を整え外出の準備を済ませたいろはは、ななかに向かってぺこりと頭を下げる。

 

「ななかさん……。今回は本当にありがとうございました。おかげで今日、万全の状態でシュウくんのところに向かうことができます」

「礼を言うのはまだ早いですよ」

 

 ――感謝の言葉は、万事うまくいったときに受け取らせて頂きます。

 今度会うときはシュウさんや妹さんも一緒にと、片目を閉じながら微笑んだななかに再び頭を下げたいろはは玄関で靴を履く。

 

「ああ、今更ですが確認を。いろはさんに預けた7発の『(やじり)』――。使いどころは間違えないように、けれど出し惜しみはせずに。今回のみならず、何時だって切り札の扱いというものは難しいものですが……貴方ならきっと大丈夫でしょう」

「……はい。ありがとうございます」

 

 笑顔で激励するななかに頷くいろは。みかづき荘の玄関を出て待ち合わせ場所へと向かわんとする彼女の背中を見つめ、口元を緩めていた紅い髪の少女はそこで思いついたように声をかけた。

 

「あ、もし貴方が敗けたら恋人とその妹を切り捨てて傷心になったシュウさんは私が責任をもって篭絡し、寄り添うつもりでいるので。敗けた後のことは気になさらずに全力でぶつかりにいってくださいね」

「ぜっったいにダメですからね!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 神浜市、新西中央駅前。

 待ち合わせの場所にと指定された広場の前で、いろはとシュウはばったりと遭遇した。

 

「……」

「……」

 

 気まずい沈黙。半魔女化した恋人の妹を切り捨てる道を選んだシュウは今更いろはに合わせる顔がなく、いろははそんな彼にかけようと思っていた言葉がこの期に及んで頭から抜け落ちて焦燥でいっぱいだった。

 しかしずっと沈黙している訳にもいかない。困ったように目を泳がせていたいろはは、やがて深呼吸すると少年に声をかける。

 

「……は、早いね。もしかして待たせちゃったかな……」

「いや、俺も今来たばかりだけど……。予定の1時間前だぞ今……」 

「……待たせたくなくて、つい……」

「…………まあ、俺も似たようなもんだけどさ」

 

 やちよたちの全面協力もあって身支度はすぐに終わり、気が逸ったいろはは示し合わせた時間よりずっと前の時間帯に到着していた。誤魔化すように微笑んで眉尻を弛める彼女に毒気の抜けたような表情で息を吐いた少年は、くいと指で駅の方を指し示す。

 

「南凪区の遊園地いくんだろ? とっとと駅にいこうか。まだご飯食べてないようなら近場のカフェかコンビニに寄ってくのも良いし」

「あ、うん!」

 

 コンビニで軽食にとサンドイッチやドリンクを購入していった2人は会話もほどほどに電車へと乗り込んでいく。予定よりずっと早く合流したとはいえ既に10時を回った頃合いだ、通勤ラッシュの頃合いも過ぎて人の流れは比較的まばらなものとなっていた。

 並んで席に座る2人。がたごとと音を立てて電車が動き出すなか、桃色の少女はふと隣に座る少年を見つめる。

 

 車窓の向こうで移り変わる街並みをぼんやりと見つめるシュウはいろはに視線を向けようとはしない。それがいろはや彼女の妹に関する後ろめたさによるものか、何かしらの心境の変化によるものかは判断がつかなかったが……少女には、それが少し寂しかった。

 

「……シュウくん」

「ああ、うん。……いや、そうだよな。折角のデートなんだしな……」

 

 僅かな困惑さえ滲ませながらも苦笑した少年が手を伸ばし、そっと彼女の頭を撫でる。

 ずっと小さいときから一緒だった彼の手の感触は、ほんの半月程度しか離れていなかった筈なのにひどく懐かしいと感じた。

 

 

「……これで、最後だしな」

 

「――」

 

 ()()()()()()と、咄嗟に口にしかけた言葉を呑み込む。

 

 ――今はまだ。そのときではなかった。

 

 

 設立以降かつて大東区にあった遊園地の需要を食い潰すようにして人気を博した南凪区の遊園地には、平日の午前であっても相当な人数が集まっていた。

 家族や団体でやってきた観光客、恋人や友人たちと訪れる若者たち。人々がそれぞれの目当ての施設やアトラクションへと向かっていくなか、電車でやってきたいろはたちもまたそれなりの客が並ぶ列に混ざる。

 

「ここの次は……近いのがジェットコースターか。どうする、いろはこういうの平気だっけ?」

「前にシュウくんに抱かれながら全力疾走で運んでもらったときとかは、怖くなるくらい早いのに平気だったし……なんとか……? シュウくんこそ大丈夫かな。私が選んだのだけど退屈だったりしない?」

「……。うん、まあ息抜きには丁度いいし……」

「?」

 

 きょとんと首を傾げるいろはに、嫌味もなしにメンタルえぐってんの無自覚かよと煩悶に駆られながら目を逸らす。離別の道を選んだシュウに対しての未だ消えぬ信頼を覗かせた言葉が居たかった。

 記憶の限りでは、最後に対面したときはおよそ最悪に近い衝突をしたつもりだったが、果たして1週間音沙汰のない内に何があったのか。今隣にいる少女からは不安定さを感じさせる要素は消えている。シュウと話している態度もごくごく自然体だった。

 

 シュウたちの並ぶ場所も、元々大人気と言うほどの集客率ではないうえにピークに比べれば待ちも遥かに少ない。意識して呼吸を整え、落ち着きを取り繕いながらいろはと話している間に列はすぐに消化されていく。

 やがて係員の案内でメリーゴーランドじみたステージで回転する動物を模したキャラクターに乗るアトラクションに2人で乗ると、音楽とともに腰を乗せるクマの乗り物が動き出した。

 ぎゅうと、前に乗る少年の背後からいろはが胴に手を回してしがみつく。

 

「えへへ……」

「女の子ってわかんねえ……」

 

 暫く離れていた間に以前と比べ僅かに背で感じ取る少女の膨らみのボリューム感が増した気がしたが、彼の後ろでアトラクションを楽しんでる様子のいろはにそれを指摘するのは憚れた。

 背中に押し当てられる感触に戸惑いながら視線を彷徨わせる少年。アトラクションの軽快なミュージックが響くなか、言葉を探しふと傍らの少女に視線を向けたシュウはぽつりと呟いた。

 

「……ああ、そうだ。今いろはが着てるの初めて見る服だな。凄い可愛いし……綺麗だと思うよ、本当に似合ってる」

 

 率直に言って、駅前で遭遇した時は罪悪感云々よりも少女の可憐さに気を取られたのは否定できなかった。

 腕の側面をレースで透けさせた黒いブラウスはほんのりと肌を覗かせ、足首まで伸びるロングスカートは落ち着いた印象を出す赤みがかった茶色の生地を白い花の刺繍で彩っている。体型とぴったり合った衣装は均整のとれた体つきを露わとしていた。

 現役モデルのやちよの監修でも受けたのだろうか。どこか大人びた印象を感じさせるファッションも背伸びした雰囲気を感じさせない調和のとれたものとなっている。

 

 嘘偽りのない心からの賛辞。アトラクションに乗りながら囁かれた彼の言葉に頬を染めたいろはは沈黙し、やがて前に座る少年を抱きしめる腕の力を強めその背に頬を寄せた。

 

「……ありがとう。シュウくんにそう言ってもらえると本当にうれし……」

「あ、言うのやめようと思ったけれどやっぱやめるわ。いろはやっぱり胸少し大きくなってるだろ、感触がなんとなく今までとちが――」

「しゅ、シュウくんのえっち!」

 

 

 

『きゃぁあぁぁ――』

 

 真上を通り過ぎていったジェットコースターから響いた悲鳴が遠ざかっていく。

 高所までゆっくりと昇ってからの急激な加速、体を襲う風圧と移り変わる景色。眼で身体で感じ取る速度の世界はこれでもかというほどのスリルを感じさせられると同時に強い爽快感のあるものだ。

 道中の景色やモチーフにしたアニメをなぞらえた演出もあり、この平日でも20分近く待たされたのも納得のいくアトラクションではあった。

 

「ジェットコースター、楽しかったね! シュウくんは次いきたいところとかある?」

「んー……どうかなあ。折角遊園地に来たんだし観覧車は外せないところだけど……観覧車がある方へ向かいながら目についたの見ていくかな」

 

 ……とはいえ、刺激が強いのも事実ではあるのだが。買ってきたドリンクを片手にぴんぴんとした様子のいろはに逞しい成長を感じながらシュウは視線を向ける。

 メリーゴーランドに乗った後に再び列に並び、ジェットコースターのアトラクションを堪能した彼らは水分補給をしながら地図を眺め次に向かう場所を決めていた。

 

「……にしても、いろはも大きくなったなあ。昔遊園地に遊びにいったときとかああいう絶叫系乗ってすごい泣いてなかったっけか。小学生になったときだったっけな……」

「昔のことだからね……! 流石にこの年にもなってジェットコースターで泣いたりなんかしないよ……」

「まあそうだろうけど……。ああ、そういえばやちよさんを抜いたらみかづき荘で一番年上の魔法少女っていろはか。衣美里も中1だし、ななかも……今年で中3だから15だよな? なんだかんだで周りの魔法少女でも年長枠だよな」

「……鶴乃ちゃん高校生だよ? 2年生だから……17才?」

「……ぇ。嘘だろ……? あ、いや、確かにそうか、そうだったか……。なんか自然と15かいろはより年下くらいかと……」

「確かに鶴乃ちゃんはたまに年上に見えなくなるくらい元気な娘だけれど……。でも困ってるときだってずっと鶴乃ちゃんも、みんなも力になってくれたんだよ。今回だって……あっ」

 

 少年も、そこで口を噤んだいろはの言おうとしたことを深く追求しようとはしなかった。

 今回の用事が単なる平和なデートで終わる訳がないことくらい、誘いをかけられた段階でシュウも理解している。密かに何らかの企みを計画しているのだろう老婆も協力を働きかけていたようだったし、いろはたちが無策でマギウスの翼の武力の象徴に挑もうとしているとは考えていなかった。

 

 だが――その程度、何の問題もない。

 

 炎の刃を用いて巧みに戦う魔法少女殺しを粉砕した。仇を追うななかに致命傷を負わされその死に際にドッペルを発動した混沌の魔法少女にも何もさせずに止めを刺した。

 あらゆる魔女を打ち砕いて、救済のためにかき集めて。

 調整を受けた神浜市の強力な魔法少女が顕現させるドッペルも、その道を阻む障害にはならなかった。

 

 敗ける可能性はない。たとえどのような万全の態勢でいろはたちがやってきたとしても関係はない。魔法少女の救済を目の前に少年が今更手を抜くこともない以上、どう足掻いても結末は同じことだった。

 

 ――そうでなければ、ならないのだ。

 

 

「わぁ……! マスコットのナギちゃんだって。一緒に写真撮ろう!」

「おー、こういうの見るの結構久々かもな……。OK俺が撮るから……いろは?」

「一緒に、だよ。……あ、すいません写真を撮ってもらっても大丈夫ですか。……ありがとうございます!」

「……わかった」

 

 

「……ガンマンかあ。こういう射的みたいなのって当てられる自信はないんだが」

「大丈夫、シュウくんならいけるから! 頑張って!」

「スコアを稼いでゴールドスタンプか……。寧ろこれいろはの方が適正あるんじゃないか、射撃得意だろ、ボウガンと同じ要領で案外いけるんじゃないかな」

「――フルスコア達成おめでとうございます! 全弾命中のお客様には当アトラクションクリアを祝ってのの記念撮影をご案内しているのですが……」

「本当に全部当てたの凄いな……」

「やった、ありがとうございます……! シュウくん、ほら一緒に!」

 

 

『きゃああ!? 回る回る、酔っちゃうってば!』

「ふふふ、お隣さんすごい回ってる……。……このティーカップの、真ん中を回すのかな? シュウくんの力で回したらどうなるんだろう……」

「壊れるんじゃねえかな……」

 

 

「見て、景色が綺麗! ここからさなちゃんと会った展望台も見えたりするかな……」

「こっち側は海か。やっぱ遊園地で最後となると観覧車だよなあ、すっかり時間を忘れて遊んじゃってたけど」

「うん。私も本当に楽しかったな……」

 

「――ね、シュウくん」

「私、シュウくんのことを好きになったこと。シュウくんに告白したこと。一度だって、後悔したことはないよ」

 

「……ありがとう」

「ごめん」

 

 

 そうして、遊園地での楽しい時間は終わった。

 2人はやがて遊園地前の駅から出る電車に乗って帰路に着くと新西中央駅の二つ手前の駅で降りたいろはの先導で新西区の外れへと向かう。

 

 見慣れた路地を進むにつれて、少年は自分たちがどこに進んでいるのかすぐに理解した。

 

「……本気か?」

「うん」

 

「……手心は、加えられないぞ」

「シュウくんが私を想ってくれるのと同じように。私も、大切なひとたちとの未来を掴みたいもの」

「……別に、いろはのためだけに魔法少女救済に縋った訳じゃない」

「知ってるよ。……知ってる」

 

 この為に用意された鏡の奥へと身を躍らせれば、そこにはドーム状に展開される鏡で形成された広間があった。

 くるりと、やちよに監修され着せてもらった衣服を翻してシュウの方を振り返ったいろはは既に見慣れたボディラインの浮き出るインナーと修道女めいた白いケープを纏う魔法少女の姿に変身する。

 

「私ね」

「今日みたいなデートを、今日で最後にするつもりはないよ」

 

「シュウくんとずっと一緒に居たい。何度でもデートしたい。前みたいな温泉旅行も、今回みたいにお出かけするのもういや、灯花ちゃん、ねむちゃんも連れて一緒に行きたい。やちよさんたちみかづき荘のみんなと料理を作って、食べて、1日にあったことで笑って、泣いて、喜んで……そんな日常を、ずっと過ごしていたい」

 

「だからね」

「私は、結局大切な人が一緒に居てくれないとダメなんだ」

「シュウくんは、私のことをよくもっと欲張りになった方が良いって言ってたけれど……。私、シュウくんが思っていたよりも、私が思っていたよりも。ずっと、欲張りだったみたい」

 

「だから――」

 

 

 だから――全力で、倒すね。

 

 

 そう告げた直後、ドーム状に展開される、複数の鏡層に跨る位置に広がる空間の各地で光が瞬いた。

 

 広間の全方位。

 四方八方から降り注いだ()()()()を太刀で切り捨てた少年は、直後に背を翻し姿を消した。

 

『――この程度で、俺を倒すって?』

 

 間を置かず、ドームと繋がる鏡層の各地から悲鳴と、ガラスの砕けるような音が連鎖して響き渡る。

 一週間の猶予期間。鍛錬の合間、コピーとなっても変わらぬ少年への恋心を利用し『シュウくんを倒したひとに私と代わって彼と一緒になる権利をあげる』と約束して引き入れた()()()()()()()()()()()()()が蹂躙される音を聞きながら、いろはは息を吐いて呼吸を整えた。

 

『シュウさんを打倒する計画。先ほど引き入れたミラーズで再現されたいろはさんのコピーですが……戦闘が始まったとき、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――絶対に、いろはさんは勝てます』

 

 思い返すのは、計画を練る中で少女に協力するななかに告げられた言葉。

 ――予め想定された路線通りに、状況は動き出していた。

 

「……勝つよ」

 

 呟かれた、小さな決意。

 それを成す為に必要なものを、全力で少女はかき集めてきた。

 

「私は……絶対に、敗けない」

 

 




 ――祈りも、願いも、一度だけのものではない。
 ――だから。奇跡で願いを叶えた次は、自分の力をもって実現しよう。
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