環いろはちゃんと共依存的にイチャイチャしたい人生だった 作:風剣
『ごめん、なさい。本当に、ごめんなさい……』
『私、間に合わなかった。折角魔法少女になったのに、けっ、結局誰も……助けられなかった……! ごめんなさい、ごめんなさい……!』
もうやめて欲しかった。
『シュウ、くん……。ごめんなさい』
『私は、それでも。魔法少女として、戦いたい……』
もううんざりだった。
なんで戦うのだ。どうして他の人間に構うのだ。自分の目の届かないところで誰がどんなものに呪われ、殺され、食い物にされたところで知ったことではないだろう。なのにどうして自分から窮地へと突っ込んでいくのか、まったく理解できなかった。
もう戦って欲しくなんてなかった。
『――ぁ』
『はは、あ。やっちゃった……』
だって、そうだろう。
『シュウ、くん……。ごめんね、ぇ。こんなこと、させちゃって』
『貴方だけは、幸せになってね……』
何時までもこんな世界だったなら。お前は、簡単に死んでしまうじゃないか。
鏡の残骸が散らばる広間。
その一角に形成されたクレーター、そこから回収した頭のかち割られた少女の残骸を立ち竦むいろはに向けて転がす。
彼女の誘い込んだミラーズで襲い掛かったいろはのコピーたち。数の多寡にものを言わせて矢を射かけるだけの手合いなど風に乗っての高速機動で減速なしに弾幕を突破するシュウには木偶もいいところだった。
魔女守としての得物である『空』、黒く染まった刀身を肩に乗せる少年はいろはを見つめ眉を潜めた。
「あの生霊と……ななかにでも何か吹き込まれたか? 何を企んでいたかは知らないが……それにしてもお粗末だな。まさか本当にこの程度で勝てるとは思ってないだろう」
都合24のいろはのコピーは、瞬く間に殲滅された。目にも止まらぬ速さで駆け抜ける風、それとともに容易く蹂躙されたコピーの残骸を見つめるいろははボウガンを構える。
──
「勿論。だから……ここからが、本番だから!!」
躊躇いなく、切り札のひとつである宝石をボウガンに装填した。
蒼く輝く『鏃』、莫大な魔力を籠められた宝石の矢弾が形を変え蒼い槍となって魔女守を照準する。見覚えのある槍の色合い、そしてそれを装填した少女を中心に吹き荒れる魔力に駆け出したシュウは叫んだ。
「──
「やちよさん、力を貸して……!」
上空に向けて解き放たれた蒼い槍が無数に分裂して雨のようになって少年に向けて降り注ぎ、それを迎撃するようにして風の大斬撃が振り抜かれた。
「……これは」
雨と風のぶつかり合いは嵐も同然だった。広範囲に降り注ぐ槍の雨、それを『空』に溜め込まれた大気を用いての大規模斬撃で迎え撃った彼はその威力を伯仲させながらも徐々に規模の衰える風の刃に対して勢いを弛めぬ槍の雨に目を見開いた
激突によって吹き荒れる衝撃波。風の斬撃を突破した槍の雨が少年のもとに降り注ぎ、鏡の残骸が飛散するのに目元を庇いながらもいろはは彼の居た場所を注視しようとして。
「
消えた刀身を振るった少年に、手足を断ち斬られた。
「っ……、ぁ──!?」
「……驚いたよ、凄い火力だったな?
手足から迸る激痛。咄嗟にボウガンを向けたいろはは、しかし露骨に動きの鈍った足を払われるのに体勢を崩し鏡面の床にどさりと倒れる。
反射的に受け身を取り、追撃を避けるように転がるいろはの頭を占めるのは大きな疑問だった。
五指で、受け身を取れていた。
(これ、なんで。腕も、ボウガンごと切られたと思ったのに……!?)
手首から先が落とされたかと思った。脚が削ぎ落されたかと思った。
だが、確かに刃が通り、断ち切られた筈の手足に欠損はない。霞む刀身によって斬り飛ばされた筈の足もまた、骨の芯まで苛むような痛みと痺れがあるもののブーツやその中身には血の一滴も流れていなかった。
「思ってたよりいい動きをするじゃないか」
「っ、あ、ぐ――!?」
戸惑う間はない。高速での連続斬撃、風を用いたブーストも抜きに常人離れした速度を発揮する少年の刃に追い立てられるいろはは苦し紛れに放つ矢も拳ひとつで容易く破砕され返す刀で切り刻まれていく。
頬が裂かれる。肩が抉られる。脚を薙がれ、再び地に伏せたところをボウガンを携える左腕を貫かれ地に縫い止められた。
そして輪郭も定かではない霞む刀身によって刻まれた箇所には、傷口も流血もない──。ぶちぶちと肉の裂ける痛みに苦悶の声をあげるいろはは、眼に涙を滲ませながら無表情の少年を見上げた。
「う、く……。これ、って」
「効くだろう? この刀は随分と便利でな、雷落として魔女を滅ぼすもよし、風の補強で無双するもよし。相手を殺したくないときはこうして傷も流さずに痛みを与えるに留めることもできる……。前のじゃこうもいかなかったからなあ」
「ぅあ……!」
腕を貫く刃を引き抜こうとするいろはだったが、彼女の左腕を縫い留める刃は実体もない。掌で触れ引き抜こうとした刀身を掴むことも叶わず、触れた掌が扱いの誤った包丁に裂かれたかのようにジンジンと痛むのみだった。
「っ……!」
いろはを貫く刃に実体はない。
なら――。
腕を裂く幻刀による痛みにさえ耐えれるのならば、防ぐ必要さえない。
「あぁぁぁぁああああああっ!!」
「ッ」
刃に裂かれるのも構わず持ち上げた腕。狙いもロクに定めずに矢が放たれた。
出鱈目に連射される矢は、しかし倒れた状態でありながらしっかりと腕を支えボウガンを放ったいろはによって的確に間近にいた少年に撃ち込まれた。己めがけて飛来する複数の矢を拳で砕き、身を躱し、掴み取っては握り潰し距離を取った彼は驚愕を露わにいろはを見つめる。
息を荒げながら身を起こした少女は、手足を削がれる苦痛を味わったばかりとは思えないしっかりとした体勢でボウガンを構え次々に矢を放つ。矢の軌道から逃れ疾駆するシュウは、刀身の薄れた太刀を手に目を細めた。
(――痛くはないのか? いや、そんなことはない。
連射を前に背を翻した少年はボウガンの矢を放ち続けるいろはに向き直り、足場とする鏡面を踏み砕いた。神官めいた装束を纏う彼の姿が消える。
矢の弾幕を全力の疾走をもってくぐり抜けていった少年は、彼に得物を突きつけるいろはの首めがけ刃を振り抜いていた。
咄嗟に後方へ跳躍したいろはの喉笛を、輪郭の薄れた太刀が抉りぬく。
「か、は……!」
「──」
体勢の立て直しを許しはしない。呼吸器を裂かれた激痛にたまらず咳き込んだいろはに向け更に一歩を踏み込み、最大の急所を刈り取るべく刃を薙いだ。
「これで、終わりだ」
神速の斬閃は過たず少女の細い顎の下をくぐり抜け、首にめり込み、そして反対側まで突き抜けた。
霞の剣に首を断たれた少女は、がくりと膝を突く。
(そうだ、ようやく。ようやく、終わりだ)
──彼の持つ『空』は、柊ねむが
魔女守の振るう太刀が宿す魔法は3種。
ひとつは、
ひとつは、地を薙ぎ
そして――最後のひとつが、対人の無力化に特化した、
黒い風。白い雷。どちらにも寄らぬ透明な刀身は、ひとたびその性質を露わとすればぬるりと宙に溶け輪郭も定かならぬ歪な刃となって襲いかかる。
虚ろな刃によって与えられる傷は傷として残らず消え、しかし痛みは確かに刻まれる。致死に至る傷を与えることなく他者を無力化するのに、その機能は非常に都合の良いものだった。
「……これ、で――終わりなんだよ」
その性質上、虚ろな刃によって与えられる幻痛を耐えながら動くような手合いが相手であれば容易く役割が喪われるという欠点もあるが……それでも、首を刈り取られる衝撃をまともに浴びた少女には意識を保てなどしない。がくりと膝を突く彼女に深く息を吐いた少年は、苦々しい表情で彼女に背を向けて。
「――っ!?」
背後で感知した魔力に、顔色を変えて振り返った。
迎撃するように振り抜かれた刃を通り過ぎ、桃色の矢がシュウの胸の中心を打ち抜く。
「が……っ!?」
胸部で爆ぜた衝撃にのけぞり、体勢を整えた瞬間には眼前にずらりと並ぶ矢が迫っている。拳の連打で矢を打ち落とし、その動体視力で射撃の間隙を見極めた少年は一気に踏み込み細い首に刃を走らせる。
すれ違いざまの斬撃を首に浴び、体勢を崩したいろははしかし、直後には踏鞴を踏みながらも踏ん張り、倒れることもなくシュウに向かって矢を放っていた。
「ッ……」
嘘だろ、と。
血の塊を吐き出しながら瞳を揺らすシュウの前で、昏倒していなければおかしい筈の少女がふらつきながらもしかし力強いまなざしで少年を見つめる。
その口元からは、ぽたぽたと血が滴っていた。
目を見開いた少年は、信じられないものを見たように声を震わせ。尋常ではない量の血液を溢れさせ顎から滴らせる彼女に絶句した。
「……まさか」
「おい、お前……。それって」
「
「――やっぱり、その透ける刀のときは。私の矢を、防げないんだね。ずっと手で矢を防いでいたのは刀に実体がなくなってるから?」
「おま、え」
唇から溢れた血を滴らせるいろは。紅く、紅く染まったその口の隙間から、
蒼白になって立ち竦んだ少年は、ボウガンを構えたいろはにすぐさま反応して次の瞬間に襲いかかった射撃から逃れる。
「嘘だろ、なんで、そこまで――。お前、
ほとんど絶叫のような悲鳴だった。
頬を一筋の涙で濡らし、脂汗を流して息を荒げる少女はしかしそれでも気丈に微笑みを浮かべた。密度を上げた連射でシュウを牽制しながら、彼女は空いた腕で口元から溢れる血を拭いとる。
多勢に無勢が主となる魔女やその使い魔との戦闘にあたって魔法少女が傷を負うことは多い。しかしそのなかでも、痛みに気を取られ致命的な隙を作ることのないようにコツを掴んだ魔法少女は痛覚に囚われずに動くようになることも珍しくはなかった。
魔法少女の本体はソウルジェムだ。肉体は抜け殻も同然であるとキュゥべえは語り、それ故に魔力の扱いに慣れた魔法少女ならば容易に自身の痛覚を遮断することもできる――。『
だが、その前提は覆る。
痛みに構わず戦う魔法少女に、幻痛は意味を成さず。首を断つことで意識を断とうとしても舌を噛み潰してでも意識を保つ。焦燥に駆られた表情を浮かべる少年が叫び声をあげるのに、いろはは静かに彼を見つめ首を傾げた。
「……そこまで、か」
「そうかな? だって私、ななかさんに鍛えて貰っている間も一度もこれが必要じゃないだなんて思わなかったよ。だって――こうでもしなければ、絶対にシュウくんには勝てないって解ってたから」
鏡の迷宮に用意された鍛錬スペースでななかと過ごした一週間は地獄だった。
徹底的に少年の身体能力から推測される動きを洗い出し、それを模倣したななかの斬撃を浴び切り刻まれる。内出血や骨折、関節の粉砕など表面的な傷と比べ治しづらい負傷を最速で、そして万全に治すべく何度も破壊と再生を繰り返した。
肉を断たれ、骨を割られ、頭を、首を砕かれて――それでも即座に復帰して戦えるように、何度も何度も何度も何度も何度も、治癒を重ねていた。
それ自体が彼女の魔力や身体能力に明確に作用するわけではない。しかし、拷問も同然の鍛錬を重ねたなかで痛みに、そして己の身体に関する理解を深めた彼女は魔法少女の不死性、そして固有魔法である回復の力を万全に発揮することのできる立ち回りを完全に心得ていた。
即死は避ける。身を削ってでも必殺の意志で相手を打ち砕く。意識を断たれようとしたならば自害をしてでも戦闘を継続する。
鍛錬の中で徹底的に戦闘続行の心構えを叩き込まれた少女は、鍛えた本人ですら「地獄のような苦しみを与えました」と評した1週間を乗り越えた。
環いろははもう、痛みでは止まらない。
「――」
彼女の左腕に装着されていたボウガンが溶けるように消えた。
武装の解除、ではない。光粒を発してボウガンが消えてなくなると、得物を構えていた少女の腕を中心に魔力の光が広がり――光り煌めく弾頭と、それを番えた黄金色に輝く光弓が形成される。
光弓に番えられる矢と、そしてそれを少年に向けるいろはの纏う魔力は今までとは比較にならない。文字通りの意味合い、魔法少女として覚醒を遂げたいろはは桃色の瞳に意志を燃やし鋭い眼光でシュウを射抜いた。
「
「今更、傷つけたくないなんて言わないよね。だって――シュウくんはどうしても、魔法少女を救いたいんでしょう? 私は、ういを救うために全力でマギウスの翼を止めるよ」
「…………………………くそっ」
痛みではもう、少女は止まらない。
首を刃で斬っての強制的な昏倒も、力技の自害で凌がれる。
もう、無傷で彼女を抑える術はなかった。
短く毒づいた少年の手で、透明な刀身が色合いを変える。
苦り切った顔で黒く染め上げられた太刀を構えるシュウは呼吸を整え、光り輝く弓を展開したいろはに向け渦巻く風を解き放った。
「――
「ななかさん、借りるね」
鏡面を蹂躙するようにして、嵐がただひとりの少女に向け襲い掛かる。
白いフードを強制的に引き剥がす突風も、直撃すれば胴が引き千切られるだろう風の斬撃もいろはが膝を屈するには足りない。呵責なしの最大火力、自分たちのいる広間を崩落させる勢いで迫る大斬撃にいろはは光弓に宝石の鏃を装填した。
「今のシュウくん、ぜんぜん怖くないよ」
光弓にて輝く鏃の色は、紅。
煌々と輝いて己の腕を照らす輝きに頼もしさを感じながら、自身の鍛錬に付き合うと同時みかづき荘の仲間たちとともにありったけの魔力を注ぎ込んでシュウの元に向かういろはの背を押してくれた
「――魔法なんてなくたって。私よりずっとずっと前で魔女と戦っていたときのシュウくんの方が、もっと強かった」
軌道のズレた風の刃が少女の肩を抉る。暴風を穿ち貫いた真紅の矢が少年の腕を削ぐ。
鮮血が飛び散り、2人のぶつかり合う鏡層が轟音を立てて崩れ落ちた。
大喧嘩仕様いろはちゃん
☆5覚醒済み
パッシブスキルとして『託された力』『鋼の意思』『食いしばり』を搭載
回数制限つきのコネクト発動で攻撃力上昇&MPマックスに
回復魔法発動で全体力回復