環いろはちゃんと共依存的にイチャイチャしたい人生だった   作:風剣

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ここからが、始まり

 

 

 

 雷の奔流を越えナイフを構えたいろはが現れたとき、最初にシュウが抱いたのはひとつの疑問だった。

 

 ――何故、アレを越えられた?

 

 手心は加えなかった。そもそも凌げる筈のない一撃だったのだ。『空』と繋がる『集雷針のウワサ』からの支援を受け神雷を装填し、いろはがドッペルを発動した時点でシュウの勝利は勝利は揺るぎないものだった。

 

 だが、現実として少女は雷の斬撃を乗り越えた。

 一歩後退して距離を稼ぐが、風の恩恵も天津雷(アマツカヅチ)を行使した今では受けられず。ドッペルによる猛攻を浴びた身体では普段通りの脚力を発揮するのもままならない。焦燥に顔をゆがめた少年は、距離を詰めたいろはを歯噛みして見つめ――。

 

「あ」

 

 ソウルジェムのあった位置に何もなくなった、いろはの首元に気が付いた。

 視界の隅を舞う、一枚の布きれを目にした。

 

 焼け焦げて宙を舞う一枚の白布、その中からはキラリと光を放つ小さな宝石が垣間見えた。シュウによって解き放たれた雷の斬撃、穢れを消し去る一撃で融解させた鏡面部分の外にぽとりと転がったソウルジェムを目にした少年は、直後には苦笑を滲ませる。

 

 ――なるほど。

 ――天津雷(アマツカヅチ)の電流がソウルジェムを伝えば、身動きを封じられる。ドッペルを消し飛ばされたなら、その衝撃が意識を刈り取る。

 ――けれど、肝心の魂さえ逃がしたなら。そりゃあ……いろはなら、耐えるよなあ……。

 

「──、……。あー、くそ」

 

 刃を突き立てられた。

 ナイフの刃先、桃色の宝石が砕けその効力を発揮する。

 

 魔力共振(コネクト)。肉体は傷つけず、けれど内側にその衝撃を余すことなく叩き込んだ一撃に、自身に力を与えていたウワサが剥がされ、消えていく――。

 誰よりも速くなった筈なのに(もう手遅れになんかならなかったのに)魔女なんかに負けないくらい強く(どんな絶望も跳ねのけられるよう)なったのに(になったのに)。ぜんぶ、ぜんぶ――零れ落ちていく。

 

 己の胸元に刃を突き立てたいろはの眼を見る。

 華奢な身体を雷に貫かれ焼かれた衝撃に顔を歪めながら、それでも怯まずに突き進んでのけた彼女は、力強い眼差しでシュウを見つめていた。

 

 その瞳には雑念がない。躊躇いも、恐怖も、苦痛も……。そのすべてを呑み込んで前へと進んでいく、強い意思の輝きのみがあった。

 

 

『――全力で、倒すね』

『逃げないでね、シュウくん』

『絶対に、負けたりなんかないって。私は絶対に死んだりしないっていうこと――証明してみせるから』

『たとえそれで、私や、みかづき荘のみんなや、灯花ちゃんたちが救われるとしても。ういを犠牲にしてできる救済が正しいなんて、そんなことは絶対にない――!』

 

 

 ああ、思えばずっと……、ずっと、彼女はそうだったか。

 最初から意志の強さで敗けていた。

 彼女の一挙一動に心乱される、こんな有様で――勝てる筈など、なかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 気付けば、いろはともども倒れ込むようにして血染めの鏡面に横たわっていた。

 

「……あー……」

 

 全身を襲う激痛に耐えかねて唸る。

 修復こそある程度は済ませたとはいえ、指は吹っ飛ばされ骨は砕かれ、背と腕は矢の雨と爆発した矢によって抉り取られた満身創痍。ウワサによる加護がなければ3回は死んでいただろうという嫌な確信があった。

 

「………………」

 

 目を閉じれば、浮かぶのはかつての光景。

 かつて、病院の屋上で恋人と、妹分の少女たちと、5人で空にかかった虹を見た日。少女たちの病気が治ることを真摯に祈っていた恋人を見ながら。ういたちが元気になれたら今度は花見や海に、旅行……様々なことを経験させてあげたいと密かに願っていたあの日。

 

 本来なら……いや、他の世界ならば、とうに喪われている筈の未来だ。虹をともに見てから1年も保たない内にういも、いろはも、灯花も、ねむも、皆死んでいて。家族が魔女に殺されて自分だけが生き残って、魔女という存在を憎み追う過程で関わり合う魔法少女たちも、力の強弱を問わずに次から次へと死んでいく。

 それはいろはが魔法少女になっていたとしてもそう変わらない。ソウルジェムなどというちっぽけな宝石に命を依存した魔法少女たちはあまりにもあっけなく死んでいき――頑強な肉体を持つだけが取り柄のシュウだけが、彼女たちを看取る。

 

 大抵の()で、そうなる筈だ。

 神浜においてドッペルシステムの展開されている今だって、まだ薄氷の上。魔法少女救済が失敗してしまったならば、結局は魔法少女たちは魔女に殺され、あるいは魔女に成り果てて死ぬ結末を迎えることとなるだろう。

 ……その筈、なのだ。

 

「……なあ、いろはぁ」

 

 我が事ながら情けないものだった。

 老婆から共有された並行世界(もしも)に心折れて。魔法少女の救済を頼みの綱に、恋人の妹を犠牲にするとまで宣言して。一番大切ないろはのことを傷つけてまで、救済は絶対に止めさせはしないと断じまでして――。

 こうして、敗けた今ですら未練たらたらに口を開く様は、無様以外の何物でもない醜態だった。

 

「――ほとんど死んでいるような女の子ひとり切り捨てて……。今を生きている守りたい人たちを救おうと願うのは……そんなに、いけないことだったか……?」

「……」

 

 聞いた直後に後悔した。

 こんなことを言いたいんじゃなかったのに。敗けた自分が今更彼女に投げかけるべき言葉はこんなものではないのに。この期に及んでみっともない言葉を吐く己の情けない姿には何も言えなかった。

 

 こんなんじゃ敗けるのも当然だなと独りごちた少年の顔をじいと見つめたいろはは、静かに唇を開いた。

 

「ごめんね」

「私には絶対に、その選択は受け入れられない」

「……お前が謝る必要なんて、ないだろうがよ……」

 

 搾りだすような言葉も構わずに身を起こしたいろはが倒れる彼に向かって掌を翳すと、淡い光とともに行使された治癒の魔法がウワサによる修復も後回しにしていた軽傷も含めたシュウの傷が塞がりはじめる。

 いろはもまた自身の傷を治しだすのにあれだけしておきながら自分は回復の余力まで残して敗けたのかと更に打ちひしがれる少年に、処置を終えたいろははそっと語りかけた。

 

「私はね、シュウくん。みんなに幸せになって欲しい」

「だけど、あなたの言っていることもわかるよ。私も、シュウくんの見た()()()()の記憶、見たから……。私の願いを叶えるためには、たくさんの困難が待ち受けているんだろうなってことも、そして一度でも失敗したら間違いなくそれは大切な人たちの死にも繋がるんだってことも、よくわかってる」

「――でもね、シュウくん、諦めるのは違うよ」

 

 腕を伸ばしては優しい手つきでシュウの頭を撫でるいろはの瞳には、一点の曇りもない。そこにあるのは、ただ真っ直ぐに、揺るぎのない意志だけだ。

 

「ういを助けることで誰かを切り捨てたりも私はしたくない。誰かに犠牲を強いる為に私はういを助けるんじゃない。ういと――ううん。私はみんなと幸せになりたいから。だから……魔法少女の救済を本当に実現させるまで、絶対に誰も死なせたりはしない。……そうするって、決めたの」

「いろは……」

 

 信じられないようなものを見る目で、彼女の顔を見上げる。呆気に取られる少年の顔を見たいろはは少し恥ずかしそうに微笑んだ。

 ――この少女は。本気で、そんな絵空事を実現しようとしているのか。

 

 智江の親友だった魔法少女。深月フェリシア。七海やちよ。安名メル。桂城理恵。そして──いろは本人。

 

 シュウの閲覧していた記憶を確認したというのならば、自分自身も含めた多くの魔法少女の末路を見た筈だ。魔女化する未来というものの過酷さをよく理解した筈だ。

 だというのに……今もなお、少女の瞳には揺らぎひとつなく。半ば呆然と彼女を見つめたシュウは、やがて重々しく息を吐いてはうなり声をあげた。

 

「……一番つらい選択だぞ。どれだけの魔法少女がドッペルシステムの救済なしに命を落とすと思ってる」

「そうかもしれない。それでもやるの。誰にも死んで欲しくないから。……恨まれても仕方ないと思う、憎まれてもおかしくないと思う――。それでも、私が自分で選んだことなんだから。

 だから、どんなに苦しくても……辛い思いをすることになっても、私は絶対に後悔だけはしたりしない。諦めたりなんかはしない。……魔法少女の救済は、絶対に実現させて見せるよ」

 

 ――仮に少年に心を読む力があったとしても、今のいろはの言葉から嘘偽りを見出すことはできなかっただろう。

 長年の付き合いだ、そのくらいは手に取るようにわかる。そして彼女の言葉が()()であるのがよくわかるだけに、シュウの心地は穏やかならざるものがあった。

 

 綺麗ごとを拒絶したくなる苛立ち。未だ自身の覚悟が決まらないやるせなさ。――ほんの、ほんの微かな期待。

 

 相反する感情がないまぜになる。ひどく苦々しい表情をした少年は、暫くの間肯定も否定もできずに煩悶してウワサによる変身の解けた衣服を血で濡らしながら「あ゛~~~~~~~っっ!」と叫び声をあげた。

 黙り込み、やがて厳しい声音で恋人に向かって呼びかける。

 

「不可能だ」

「人がどれだけ簡単に死ぬか、わかってんだろ。……うい、灯花、ねむ、いろは……。ああ、認めるよ。()()()は守れる、それだけの力がいろはにはあるだろうさ」

「でも、みかづき荘の皆は、ななかは、衣美里は……マギウスの黒羽根や白羽根は、無理だ。明らかに個人の努力でどうにかなる範囲を超えてる、突出した個人で守れない範囲は、どうしても切り捨てるしかないんだ。……なあ、お前なら、わかるだろう……?」

 

 治癒の力を持ちながら、かつてシュウの家族の窮地に()()()()()()()()いろはなら、努力や実力でどうこうならない巡り合わせというものを知っているだろうと。苦りきった表情で訴えかけた少年に、いろはは顔を曇らせた。

 

「……うん。私一人だったなら、確かにすべてを守ることはできないと思う」

「なら――」

「でもね。……私は、一人じゃないよ」

 

 倒れたままの少年の頭に手を伸ばしながらそっと撫でて。目を細めたいろはは、シュウとの決戦にあたって送り出してくれた仲間たちの言葉を思い返していた。

 

 

『――さらさら引く気もないんでしょう? 私も協力するわ。こうした支援しかできないのは業腹だけれど……ええ、きっとこれも貴方だからこそできることなのでしょうね』

 

 応援してるわ。そう言って送り出してくれたやちよを思い出す。

 

 

『え、良いの良いのこのくらい! だってういちゃんって大切な家族なんでしょう? ……うん。そっか。シュウくんにとっても大事な妹なのなら、尚更シュウくんに切り捨てるなんてことさせちゃダメだよね!』

 

 魔法少女の真実を知ってもなお、快活に笑ってみせた鶴乃に背中を押された。

 

 

『きちんと仲直りしろよな。……うっせーよ、アイツもいろはも辛気臭い顔してたらオレまでしんどくなるだろ!』

 

 照れたように顔を赤くしながら怒鳴ったフェリシアに励まされた。

 

 

『私、シュウさんのことはよく知らないです。一緒に過ごした時間だって、いろはさんとは比べものにもならないし……。だけれど、いろはさんとシュウさんが想いあってるのは、私にもよくわかりますから――。だから、応援しますっ、頑張ってください!』

 

 手を握りながら心からの激励を送ったさなに、勇気づけられた。

 

 

『あーしにはよくわかんないけどさ、それでもあの時に会ったシュウっちが追い詰められてるのはわかったよ! ……やっぱさ、あの人にはろっはーが必要だって。がんばれっ、あーしも力は貸すからさっ』

 

 事情を把握しているのかしていないのか。いろはから話を聞くなり二つ返事で協力を約束してくれた衣美里(えみり)に、助けられた。

 

 

『……どうして貴方に力を貸すのか、ですか?』

 

 同じ異性を想う友人の言葉を思い出す。

 

『最初は、ええ。シュウさんにあんな顔をして欲しくはなかったというのはあります。自分はどんな結末を迎えても仕方ないなんて諦めきった顔をする彼があまりに気に食わなかった。……ですが、今は――。

 ……ええ。いろはさんのことは応援していますよ、心から』

 

 そう言って微笑んだななかに、救われた。

 

 

「私、自分だけの力でシュウくんに勝ったわけじゃないよ」

 

 シュウの頭を撫でながら語りかけるいろはは、どこか誇らしげに、嬉しそうにして微笑みを浮かべる。

 力を貸してくれた仲間たちを想う彼女の表情は穏やかなものだった。

 

「多分、私ひとりの力じゃシュウくんには勝てなかったと思う。ななかさんが特訓にずっと付き合ってくれて智江お婆ちゃんややちよさんたちにシュウくんと戦うための魔力を用意してもらって、ここで戦っている間も、他のことを私が気にすることのないようにういを助けるために動いてもらって……。皆にたくさん支えて貰えたから、私は今こうしていられる」

「一人だったなら、限界はあるかもしれない。どうしても助けられないひとだっているかもしれない。……だけどね、シュウくん。皆の力をひとつにして、支え合うことさえできたなら――きっと、どんなことだってできるんだよ」

 

「……」

 

 言おうと思えば、どうとでも反論はできただろう。

 綺麗ごと。現実を見ろ。そんなことで何もかもを乗り越えられるようなら自分だって魔法少女の救済に縋りはしない。どう足掻いたってなにも守れはしない。

 

 ――その全てを。仲間たちに支えられてマギウスの掲げた武力の象徴だった魔女守を完膚なきまでに打ち倒して見せたいろはの存在が否定する。

 

 苦々しい表情で黙り込んで、何度も口を開閉させては沈黙するシュウに微笑む。腕を少年の背に回したいろはは、そっと彼の身を抱き起こすと真っ直ぐな瞳で恋人を見つめた。視線を交錯させる二人の間で、シュウの手を取ってそっと自分の胸に添える。

 

「いろは、何を――」

()()()()()()?」

 

 柔らかで温かな感触――その奥の鼓動。確かなリズムを刻む心音を感じ取ったシュウが目を見開くのに、いろはは暖かな笑みを浮かべた。

 

「私、生きてるよ」

「……」

「シュウくんも、ななかさんも、やちよさんも……みんな、今を生きてる。精一杯前を向いて生きていこうとしている。そうでしょう?」

 

 自分を抱くとき、頻繁に彼が胸の中央に顔を寄せていたことをいろはは思い出す。

 身体の関係ができてからの話ではない。いろはが魔法少女になったのを知ったとき――、いや、黒い魔女に家族を殺されたときからずっと、彼は大切なひとの生命(いのち)が確かに在ることを確認したがっていた。

 

「私、絶対に死なないよ。誰も死なせたくない」

「けれど私だけじゃ、どうしても力が足りないから。助けてくれるひとが居てくれないと、私は駄目だから――だからね。シュウくんに、私を助けて欲しいな」

 

 ずっと一緒に居て欲しい。

 ずっと自分の傍で、大切なひとを守る助けをして欲しい。

 

 凄い自分勝手なことを言っちゃってるなと、そこで初めていろはは苦笑する。

 だが、彼女もまた助けられるだけで終わるつもりは決してない。シュウに支えられ、助けられるのと同じように、あるいはそれ以上にいろはもまた少年の支えとなり力となり彼や、彼の守りたいと思ったひとを助けようという気概があった。

 

「…………いろは、お前」

「それに――言ったよね、シュウくん。私、大切な人が一緒に居てくれないとダメなんだって。もしシュウくんが居てくれなかったら、私。……寂しくて死んじゃうかもしれないから、ね?」

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………おっっ前さぁぁぁ~~~~…………………」

 

 物凄く不機嫌そうに呻いてはいろはの手を振り解いて倒れ込んだ少年を、いろはは申し訳なさそうに見つめていた。

 殺し文句をぶつけてしまった自覚はあるのだろう、頭を抱え「畜生がよぉ……」「この野郎お前……」と唸りごろごろと転がる少年を見つめ苦笑するいろはは申し訳なさと嬉しさを半々にしたような表情だ。左右に転がっていた彼は座り込むいろはの膝に頭を当て動きを止めると、風の刃や鏡の欠片によってズタズタに裂け紅く染まったタイツから覗く白い肌を見ながら苦り切った表情を作る。

 

「……流石、自分の命を人質に取ってまで砲撃ぶち当ててきた奴は言うことが違うよな」

「え、えっと、シュウくんの動きが捉えられなくなってきてたから少しでも追い詰めたくてつい……。途中からちょっと泣いてたよね、ごめんね……」

「そう謝られると俺の惨めさがやばい」

 

 ……追い詰めるもなにもいろはが舌噛んだり腕自分から落としたりした辺りからもうぽっきり逝きそうだったんだがなあ。

 夢に出そうとぼやくシュウ。一生のトラウマだよあれといろはから顔を背け黙り込んだ彼は、やがて腹奥からこみあげてきた感情のままに好き勝手に言葉を吐き出す。

 

「頑固女」

「うん」

 

「一番しんどい道選びやがって。絶対俺より先に死ぬなよお前……。もし死んだら許さんからな、墓参りにも行ってやんねえ……」

「……うん。そうならないように頑張るね」

 

「自分の命人質にするような真似は二度とすんな。次は顔をグーで殴るからな。ああいや、そんな状況にさせないのが一番か……。でも二度としないでくれ、本当に絶交案件だからな」

「ごめんね……」

 

「……俺は、最低の人殺しだぞ。計画の障害になる魔法少女をひとり殺した。マギウスで感情エネルギーを集める過程でも相当な被害が出てるだろうしそれも間接的に俺の責任になる。……身内や顔見知り以外に出た被害や人死にについては、正直言って償うつもりは欠片もねえ」

「それは、流石にどうかと思うけれど……。それなら、シュウくんが罪を重ねた分は私も一緒に背負うよ。昔は魔法少女だった魔女を倒した数なんて私覚えてもいないもの、人殺しなんてお互い様だよ」

「いや魔女はゾンビみてえなもんだってさっきも言ったろお前……」

 

「……いろはは他人に対しての入れ込みが過ぎる。それも魅力のひとつなのはそうだけれど、今回なんて俺を倒してういを助け出したなら救済を実現するまでういやねむ、灯花……あとは自分を守ることだけ考えてたらそれで良いじゃないか、なんで他人まで背負うんだよ」

「む。……シュウくんこそ、私や親しいひとたちに比べて時々他のひとたちのことを気にしなさすぎるところはよくないと思うよ。あと私のことを第一にしてくれているのは嬉しいけど、それならせめてもっと自分のことを……」

「それお前が言う?」

 

「だいたい、言うほど俺はいろは優先したりしてねえよ。自分本位でなけりゃドスケベピンクの誘惑に敗けて子どもできるようなことしないだろ」

「しゅ、シュウくんっ。…………あ、そういえば顔と子宮は傷つけようとしてなかったよねシュウくん。お腹殴られても治す必要もなかったから──」

「………………ナイフよこせ、ちょっとそこで切腹してくる。ウワサも消えちまったし……」

「駄目だよ!?」

 

 

 

「…………俺なんかで、いいの?」

「シュウくんじゃなきゃいけないの」

「……そっか」

 

 

 

「……いろはを傷つけたこと。ういのこと。いろいろと黙ってたこと。……本当に、ごめん」

「ううん。……私こそ、ごめんね。少しやりすぎちゃったよね……」

「もういいよそれは、俺に言えたことでもないしさ……何?」

「な、仲直りの……ちゅう……」

 

「…………敗けたわ本当」

 

 苦笑しながら身を起こした少年は、いろはを引き寄せると瞳を閉じた彼女の唇に己のそれを重ね合う。

 触れあうような口付けはすぐに終わりを告げ2人の顔も離れたが、いろははまだ物足りなさそうな表情を浮かべていた。有無を言わさぬ目で小さく囁かれた「もっと……」というリクエストに少年もまた彼女に顔を寄せ口づけた。

 

 自分を血塗れにした男を相手にこうもいつも通りに甘えられる恋人の胆力に若干呆れながらも、ここ暫くご無沙汰であったのは少年も同じである。ぎゅうと抱き合っての互いの温もりを確かめ合うようなキスを繰り返す2人は一度顔を離し、いろはが呼吸を整えるのに合わせ顔を近付けて──。

 

モッキューーーーーー!!(お兄ちゃんのバカぁーーーーー!!)

「わっぷ」

「え、え、キュゥべえ!?」

 

 鏡面を駆け出した白い小動物、小さなキュゥべえの全力の飛びつきを少年が横っ面に浴びる。

 

モッキュ、モキュップイ(お姉ちゃんをあんなに傷つけて怒鳴って)ムキュウゥゥ!(何やってるのもう!?)モキュモキュムーー!(喧嘩なんてダメなんだからー!)

「痛い痛い痛い、爪立てるなって。お前も心配させてたか、本当にごめんな……」

「ほ、ほらキュゥべえ、もう喧嘩も終わったから……私たち仲直りしたよ? 泣かないでいいからね……」

モキュムキュっ、モキュピーーー!(お姉ちゃんはお姉ちゃんでやりすぎ!!)

「私も怒られちゃってる……。ごめんね、本当に……」

 

 毛を逆立て荒ぶる小さなキュゥべえから飛びつかれ甘んじて肉球パンチを頬に浴びるいろはは、キュゥべえのやってきた方向からやってきた老婆を見て頬を綻ばせる。

 

「智江お婆ちゃん! マギウスの方は平気? ういのことは……」

「ああ、準備は整ったよ。……いけるだろうとは思っていたけれど、本当に単騎で魔女守(シュウ)を打ち破るなんてね。流石だよ……大事ないかい?」

「うん! 私もシュウくんも、もう傷ひとつないから……お婆ちゃん?」

 

 それは何よりだと頷く老婆の手のなかには、いろはのソウルジェムがあった。

 

「うん、約束通り私もういの救出と魔法少女救済のサブプラン実現に全力を尽くそう。いろはは……回復があったとはいえ、ちょっと無理しすぎだったからね。少し眠りなさい」

 

 とん、と軽く指でソウルジェムを叩いた老婆――。電源の切れたロボットのようになって崩れ落ちたいろはを、シュウは慌てて支えた。

 脈と呼吸をすぐさま確認し、本当に気絶しただけだと確認した彼は殺気を籠めた視線を老婆に向ける。

 

「ババア、あんた何を」

「言った通りだよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()、いろはちゃんにはそれまで休んでもらうだけさ。流石にこんな血塗れで外に出すわけにもいかないしねえ」

 

 激しい戦闘に気付き介入しようとしていた鏡の魔女の使い魔やミラーズのコピーの対処をしていたななかとやちよも遅れてやってくるのを確認しながら。少年に抱かれるいろはを一瞥した老婆は、どこか愉快そうな笑みを浮かべては口にした。

 

「シュウも、もしいろはちゃんたちに協力する気力があるのなら今は休んでおきなさい。シュウにも魔女守にも、まだやってもらいたいことはあるからねぇ?」

 

 





いろはちゃんが譲り受けた宝石矢の魔力供給者
1.七海やちよ
2.由比鶴乃
3.深月フェリシア
4.二葉さな
5.木崎衣美里
6.常盤ななか
7.いろは本人

全部使い切っちゃったと聞いたお婆ちゃん「……マジ?」

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