環いろはちゃんと共依存的にイチャイチャしたい人生だった   作:風剣

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あと2話でマギウス編完のつもりだったけれどもうちょい増えるのじゃ


桜舞い、少年少女は並び立つ

 

 正直なところ、頭を抱えて勘弁してくれと懇願したい気分ではあった。

 

 ほんの数時間前にはいろはに何度も粉々にされかけ、心をへし折られ、そして敗れたばかりである。

 ウワサの力も失った彼は決して本調子ではない、そんななかでアリナがいろはたちを殺そうとする現場に駆けつけいろはを助け出したシュウは敵対が確定となったアリナの纏う異様な気配を知覚し頭を抱えたくなる心地を抱き息を吐く。

 

 降り注いだ星屑を破壊しあるいは弾いた重たい黒木刀を担ぎながら、アリナを問い質した。

 

「――どういうつもりですか、アリナさん」

「アハッ、なに言ってるの。見てわからない?」

「仮にも魔法少女救済を掲げた組織にトップとして君臨してた人が突然こんなことをしたならそりゃあ混乱もしますよ。――マジで、何やってんだアンタ」

 

 更地となった聖堂に悠々と佇むアリナを睨みつけるシュウの語気が荒くなる。

 これがいつぞや遭遇した魔法少女狩り程度の相手であったならば、彼は即座に殺しに行っただろう。彼の目の前でいろはを傷つけ、殺そうとするというのはそういうことだ――。それにも関わらず彼が動けず一挙一動を観察し対話さえ試みているのは、つまり眼前の少女がそれだけの脅威となっている事実に他ならない。

 警戒を強めるシュウの様子をおかしそうに見下ろしていたアリナは、彼から放たれる殺気を気にも留めずにクスクスと笑い口を開く。

 

「アハッ……。ウワサもなくなった癖して、朝のくたびれてた顔してたときよりはだいぶコンディション良くなったんじゃないの? うん、アナタを見てたらいいインスピレーション湧いてきたんだケド」

「そんなことを聞きたいわけじゃないのはわかるだろう」

 

 一刀両断に切り捨てるシュウに彼女が怯む様子はない。むしろ愉快そうに笑みを深めたアリナは、自身の異様を見せつけるように禍々しい威光を放つとボタボタと頭から溢れた塗料を滴らせ口元を引き裂く。

 

「別に、アリナとしてはそこのお婆さんの言うことを聞いてワルプルギスの夜の遺骸をキャンバスにアートを、というのもありだったんダケド。……でも、うまいこと『使えそう』だったからねぇ? ()()()()()()♪」

 

 アリナ・グレイは芸術家(アーティスト)だ。

 立体、絵画、インスタレーション、写真……ジャンルを問わずあらゆる形で生と死の境を探求するその作風は一種の狂気を秘めながらも、見る者を惹きつける魔力のようなものさえもったものとして認められ齢16の時点で様々な賞を受賞する天才芸術家。――マギウスに協力し魔女を育て己の「作品」としていた彼女がエンブリオ・イブに求めたものは自身の最終傑作(ベストアート)を描きだす為の絵筆としての役割であった。

 

 世界に描くのは人類が無意識に求める滅びの実現。己が命題として定めたテーマを形にせんとする彼女はねむから借り受けたウワサ、イブから回収した魔力を完全に制御下に置きアートを描くべく動き出す。

 

「お婆さんはワルプルギスの夜を討伐する準備も進めてたみたいだけれど……イブも壊されちゃったことだし、折角だしアリナが有効活用してアゲル。文明をデストロイする魔女、その亡骸から作った塗料で街を、世界を塗り潰すのは……フフフっ、考えただけでゾクゾクしそう……!!」

 恍惚の表情で叫ぶアリナ、彼女を中心に吹き荒れる暴風と魔力によって地面がひび割れていく。魔女を糧とした彼女の力は、ウワサを取り込んだことで以前の比ではない程に膨れ上がっていた。

 ――苦々しい表情のまま、アリナの一挙一動を注視しながらシュウは身を起こした老婆に問いかける。

 

「ババア。……ワルプルギスが来る時間まであとどれくらいになる」

「……そうだねえ。マギウスの設置した誘導音波に合わせてくるのがざっと30分後……かな? 翼の魔法少女たちを灯花たちに指揮してもらって撃滅準備を整えなきゃいけない、猶予はないよ」

 

 ――任せてもいいかい?

 

 そう問いかけた智江に、少年は露骨に嫌そうな表情で舌打ちをする。

 状況は当初の想定より明確に悪くなっている。想定になかったイブとの戦闘による魔法少女たちの消耗、それに加えてアリナの唐突の離反。これから唯一にして最強の魔女であるワルプルギスの夜を討滅するというときに、無秩序に破壊をまき散らしていくであろうアリナを放置するわけにはいかない。

 

 誰かが、アリナを命懸けで止めなければならない。

 

「……仕方ねえな。今度焼肉奢れよ」

 

 そう唸った少年は、背後のいろはを一瞥し黒木刀をぶんと振り鳴らす。

 

「シュウくん」

「いろは、再開早々悪いけれどういたちを連れてすぐに移動してくれ。俺はこれからあの人をはっ倒してくから後で合流しよう」

「……シュウくん、ねえ」

「フェントホープの入り口には鹿目さんと暁美さん……俺の連れてきた援軍が居る筈だ、どっちも強力な魔法少女だから力を貸してもらって翼の魔法少女と――」

「シュウくんってば!!」

「いってぇ!?!?」

 

 突然いろはに頬を抓られた少年が目まぐるしく表情を変えながら絶叫した。

 こんなときに何をと魔法少女の腕力全開で頬をつねられるのに涙目になりながら振り返させられるのに、いろははシュウの胸ぐらを掴むようにして顔を近づけ声を張り上げた。

 

「なんでそんなこと言うの!!??」

「ッ」

「背負うって言ったでしょ。もうシュウくんにだけ任せたりなんかしない! 私も一緒に戦うよ――その為に、私は強くなったんだから!」

 

 思わず目を逸らしてしまいそうになるぐらいに、真っ直ぐな言葉だった。強い意志を込めた瞳に射抜かれるのに、それでもなお何かを言い返そうとしたシュウは、しかし口ごもって言葉を失い首を振る。

 ――こうなることはわかっていたのだ。

 

 今までだって、いつだって。

 自分が傷つくことを厭わず、ただひたすらに大切なひとたちとの未来のため突き進んできた少女がこうと決めたならば、少年には止めることなどできはしない。口の開閉を繰り返して、憮然とした表情になって小さく息をついた彼はやがて低く唸った。

 

「……わかったよ。でも危なくなったらはっ倒してでもお前を連れて逃げ出すからな」

「うん、それで平気。……大丈夫だよ。私、絶対に負けないから――シュウくんだって、守ってみせる」

「……婆ちゃん、皆を連れていってくれ。俺は――いろはと、アリナさんを倒してからワルプルギスの方に向かう」

 

 魔女守と融合したシュウを半殺しにして打倒した少女が言うと説得力が違った。目を細め苦笑した少年は黒木刀を担いでは老婆にそう告げ、魔法少女たちもまた彼の判断に従いうなずき合う。

 

「――シュウ! お前この期に及んでいろはのこと泣かせたりしたら承知しねーぞ!! 絶対に死ぬんじゃねえぞ!」

「わーってるよ。……ななか、今回はいろはの面倒も見てもらってたみたいで本当にありがとう。いろいろ話したいこともあるけれど――」

「ええ、また後の機会に。あの魔法少女の対処はお任せします」

 

 すれ違うフェリシア、ななかと言葉を交わし、ういや灯花もやちよや鶴乃、さなに連れられて行くのを確認しながら。肩を並べるいろはがこの窮地にも関わらずどこか嬉しそうに見つめてくるのに眉を顰める少年は息を吐きながら沈黙を守ってくれていたアリナを見上げた。

 もう終わった? と。攻撃することもなくこちらのやりとりを伺っていた彼女の気遣いに、申し訳なさを僅かに滲ませ苦笑したシュウは声をかける。

 

「すいませんね、待たせちゃって」

「ンー? まあ見ててちょっと愉快だったカラね、悪くない見世物だったよ。アナタたち仲直り(リコンシリエーション)したんだ?」

「……まあ、結局彼女には勝てなくってね」

「アハハ、ウケる。……うん、ここでねむや灯花を逃がして好き勝手されるのも面倒だからストップかけようと考えてたんだケド――面白い案がひとつ浮かんで、ネ?」

 

 にんまりと、口を引き裂くようにして嗤うアリナ・グレイの顔を見て。

 ぞくりと背筋を震わせた少年は、次の瞬間いろはの手を引いてその場から飛び退いた。

 

 直後、それまで立っていた場所に無数のキューブが高速で降り注ぎ爆ぜて絨毯爆撃のような惨状を引き起こす。咄嵯にいろはを抱えて回避行動を取ったシュウは、上方から飛来する輝きを認め舌打ちしながら黒木刀を振り上げた。

 火花が散り、激しい衝撃に貫かれた腕ごと身体を薙がれ吹き飛んだ少年は壁に叩きつけられながらもいろはを抱き寄せて庇う。その様を見たアリナは楽しげに笑い声をあげた。

 

「悲劇と葛藤を経て一度は別たれ、そして再び巡り合ったカップル。……その片方の目の前でバラバラにした恋人のアートを作ってあげたら――、一体どんなセンセーショナルな表情を引きずり出すことができるんだろうねえ!」

「ざっけんなくっっそ邪悪だあの女!!!!」

 

 いろはを地面に下ろしながら吐き捨てるように叫ぶ少年は、迫り来るキューブの群れを睨みつけ歯を食い縛り、靴底を地に埋める踏み込みとともに疾駆する。弧を描いた漆黒の刃は自身といろはに向かって襲いかかった高速で飛来する立方体群を砕きあるいは断ち切る。目を見開いたアリナに向かって駆け出す少年は、進路上のキューブを破壊しながら、その度に腕に返ってくる強烈な手応えに歯噛みした。

 

 一撃を受け止めるごとに腕の、腰の、脚の筋骨が軋む。

 翻った上着の布地が直撃したキューブに容易に引き裂かれ、それに引っ張られた少年が踏鞴を踏みかけた。強引に体勢を立て直した彼の額を閃光が掠めたと思えば鮮血が弾け顔を紅く染めあげる。

 

 老婆が預かり、重量の軽減や刀身の強度の増強を図っていた黒木刀はかつてに比べて遥かに扱いやすく整えられている。()()()()()()が遺した置き土産を振るう彼は魔力吸収の機能も全開にしてようやくアリナの用いる極小結界の猛撃を破壊することに成功しているものの、物量が違いすぎる。

 魔女守と融合し振るっていた腕力も音をも置き去りにする速度も喪って。多少はマシになったとはいえ『空』よりずっと重い刃を振るいアリナのキューブを迎撃する彼は、着実に追い詰められつつあった。

 

(――硬い、重い、速い……! これは、きついな――()()()()()()()()()()()()()()

 

 光の雨が降り注いだ。

 光弓を展開したいろはの放った魔力矢が、豪雨となってシュウを追い詰めつつあった少女へと迫る。

 

「シュウくんッ!」

「ああ、わかってる」

 

 少年は短く応じると身を低くして床を蹴り、殺到する数多の閃光を掻い潜りながらアリナとの距離を詰めていく。

 砕ける足場、衝撃の吹き荒れる掃射の余波。それらを意に介せず最短距離で突っ込んでいったシュウは、後方から飛来した桃色の矢を黒木刀で受け止め膨張した刀身を勢いよく振り抜いた。

 

「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉッッ!!」

 

 吸収した魔力を即座に放出させ、少年の腕力も余すことなく乗せた必殺の一撃が、無数のキューブを巻き込みながらアリナ・グレイの展開した障壁に激突する。激しい衝突音とともに爆風が巻き起こるなか、シュウは柄を握る手に力を込め、一歩も退かず刀身を振り抜こうとして――。

 一気に吹き飛ばされた。

 

「づっ、クソが……!!」

「シュウくん!?」

 

 指が欠けていた。

 地に叩きつけられる直前に受け身を取った少年の手が赤黒く染まっているのに顔色を変えたいろはが治癒の魔法をかけるなか、少年は全身を襲う痛みに耐えながら押し寄せるキューブの波を睨みつける。

 これまでとは比べものにならない圧倒的な質量差によって押し戻されつつある状況のなか、それでもなお黒木刀を構え立ち向かう彼を見て、アリナは恍惚に満ちた表情を浮かべながらシュウを吹き飛ばしたのと同じようにキューブに籠められた魔力を起爆し防備の上からすり潰しにかかる。

 

「アハハハハハッ! 死んだら感謝してヨネ!」

「っ……!」

 

 再生した指の調子も確かめられぬまま、黒木刀を振るう彼は差し向けられた嵐のような一撃を迎撃した。

 叩き潰し、真っ二つにして、貫き、砕き、粉砕する――。ひとつでも捌き損ねれば致命傷になりかねない攻撃の数々に神経を研ぎ澄ませ斬閃を刻んでいく少年は、しかし次の瞬間広間の天井で()()が瞬いたのが見え顔を強張らせた。

 

「――っ、畜生!」

 

 何も考える余裕がなかった。

 視界の端に光弓を構えるいろはの姿を認めた少年は、咄嵯に黒木刀を放り投げていろはを抱き寄せ、降り注ぐ星屑から庇うようにして覆い被さる。

 

「――ねむ」

「ああ、任せて」

 

 直後、轟音が耳元で炸裂した。

 衝撃とともに身体中に激痛が走り抜け、意識が明滅するなかでいろはの悲鳴じみた声を聞いた少年は、抱き締めた彼女の無事を確認するように肩越しに背後を見やった。

 星の雨に撃ち抜かれた床や壁には巨大な亀裂が生じ、崩れ落ちてくる瓦礫が地面を叩きつけている。全力の連撃を浴びせてもなお傷一つないアリナが目を見開いているのに気付いた少年は、一拍を置いて自分といろはが重傷を負うことなく五体満足で居られている事実に気が付いた。

 

「これ、は――」

「間に合ったようだね」

 

 そう微笑んで歩み寄ったのは、栗色の髪を三つ編みにしたアカデミックドレスじみたガウンと角帽の衣装を纏った幼い少女――。淡い燐光を散らす本を片手に、いろはとシュウの健在を確認したねむは安堵を露わに息を吐いた。

 彼女の傍らには、万年桜――美しい白髪を背まで伸ばした少女もまた、2人の身を労るように視線を向けている。

 

「ねむちゃん……、ありがとう。でも、なんでここに――」

「アリナの身に纏うウワサを剥がそうとしたけれどうまくいかなかったからね、万全を期して僕もアリナの制圧に力を貸すことにしたんだ。……とはいえ僕はそれほど戦闘になれてる訳でもなし。お姉さんとお兄さんの連携も、さっきので無傷のようだととてもではないけれどアリナを追い詰めるのは難しいだろうから――ひとつ、援護をさせてもらおうと思って」

 

 ねむを見て目を見開き、キューブを浮かべアクションを起こそうとしたアリナが突如現れた巨体に叩き潰された。

 

『――!! |ゾゾゾゾ……| !!ウオ(◎×◎)クマッ!! |』

 

「ナニ!?」

 

 現れたクマのぬいぐるみ、一気に膨張した巨腕を振るいアリナに襲いかかったのはホテルフェントホープの防衛機構として配置された最強の()()。アリナの反撃によって粉々に吹き飛ばされながらも次から次へと巨体のウワサが現れては襲いかかっていく光景を眺めながら、ねむは共に駆けつけた万年桜のウワサを一瞥してはいろはへと視線を向ける。

 

「――兵隊グマのウワサは物量が最大の武器だけれど、あの調子じゃすぐに突破されるだろうから時間はない。これから、この万年桜のウワサをお姉さんと融合させ、お姉さんの持つ魔力をウワサで一気に底上げしようと思うんだ」

「え?」

 

 目を見開いたいろはに対し、ウワサの融合を受けた経験をもつシュウが驚愕し、そして複雑な表情をしながらも頷いた。

 

「確かに、いろはの身を守るのならウワサに補強してもらうのが一番の手か。……魔女守はワルプルギスの方に行ってるのか?」

「うん。消滅寸前だった魔女守の剣士は僕と灯花がさっき戦える程度には回復させたよ。今はフェントホープにいる翼の魔法少女を率いた灯花たちが魔女の殲滅準備を進めている……万全には遠いけれど、あれなら十分ワルプルギスの夜には通用するだろう」

 

 ――ミラーズでの戦闘の最中に都合4度、魔女を挽き肉にするに足る超火力の宝石矢を浴びたシュウがそれでも即死せずに戦闘を続行して居られたのはウワサによる修復機能と純粋な強度の強化があったからに他ならない。それでいろはの安全性が増すならばと頷いた少年は、キューブの連射をもって兵隊グマをバラバラにしたアリナの方へ歩みだしながら声をかける。

 

「何秒要る」

「30秒。ウワサの内容もあってお姉さんと万年桜の相性はこれ以上なく良いけれど、それでも万全を期すのならそのくらいはかかる」

「――十分」

 

 それだけ聞けば充分だとばかりに駆け出した少年は、群れる兵隊グマを足場に跳躍を繰り返しては高速でアリナのもとへ突き進んでいく。

 既に5体まで数を減らしていた兵隊グマの爪を結界で防ぎカウンターで粉砕したアリナは、少年が急速に接近してくるのを認めるとケタケタと嗤い彼の()()へと指を向けた。

 

「っ!? おまっ」

「アハハハハハ、ねむがそこに居るんでしょう!? 面倒な真似をされる前に邪魔はデリートしないとねえ!!」

 

 ねむから借り受けたウワサを着込み、イブの魔力まで回収したアリナの力は文字通り無尽蔵だ。

 周囲に光を輝かせ、そして無数のキューブを後方で準備を整えるいろはたちに向けようとしたアリナに――少年は手を伸ばして兵隊グマの巨腕を掴むと、その腕のうえから真下に向かって黒木刀を叩きつける。

 

『| brrrrr ( ̄ロ ̄lll)brrrrr !?!? |』

 

「――らぁっっっ!!」

 

 アリナに向かって振るわれようとしていた巨腕、その重量に合わせ黒木刀の一撃を地面に叩きつけたシュウによって発生させられた衝撃にアリナの手元が狂う。明後日の方向へと飛んでいった閃光に舌を打ったアリナは黒木刀による斬撃を結界で受け止めると同時、その刃を掴んでくるりと回転させキューブで刀身を覆い尽くした。

 一気に腕へと圧し掛かった重量――。躊躇なく黒木刀を手放した少年は一気に加速し、兵隊グマの陰へと消えては死角から襲いかかろうとして少女を中心に巻き起こされた結界の起爆に薙ぎ払われ転がっていく。

 

「ジャマ!!」

「ぐぅ……!? こっちのセリフだよ……!!」

 

 アリナが生成したキューブ群が飛び交い、いろはたちの眼前で激しい爆発が起こる。

 一撃一撃ごとに解体されるウワサの腕や頭が吹き飛んでいくなか、素手で魔法少女と渡り合う少年は結界で保護されたアリナへと拳を繰り出してはその度に吹き飛ばされていった。

 

「――まだぁ!?!? 流石に死にそうだが!!」

「ごめん、今終わった!」

 

 アリナの結界に首をもぎとられかけたのを必死になってくぐりぬけ、血みどろになって受け身を取った少年の叫び声にねむが応じる。

 時間を稼ぎ切られたことに気付いた少女が眉を顰め、そして再度星空を上方に浮かべた。

 

「――ハァ。魔女守もなしに随分と良く動く……! いい加減メンドウなんですケド、ここで終わりに――!」

 

 膝をついて吐血した少年の前方で、大きく腕を広げたアリナが一気に展開した『聖夜』を降り注がせる。

 後方のいろはとねむも巻き込んだ広範囲殲滅攻撃。降り注いだ星屑は内包された魔力をもって圧倒的な破壊を撒き散らし、アリナの求めるアートを実現する障害となるものを完膚なきまでに破壊せんと迫る。

 

「……ははっ」

 

 降り注ぐ星の輝きは破壊の具現だ。より範囲も、密度も高まった流星群は回避しようとしてどうにかなるものではない──。黒木刀を用いた迎撃も、痛みで軋む身体では防ぎきれず粉々にされるだけだろう。

 

 そんな災厄を前に笑ってすらみせた少年は、迫り来る星屑を前に寂寥と、悔しさと、安堵を滲ませた表情で呟いた。

 

「──二度と、こうはなるまいと心がけてたつもりだったけれども」

 

 黒木刀を地に突き立て苦笑する彼の目の前で、花が舞った。

 桜色の刃を手に。ふわりと地に降り立った少女は、踊るように得物を振るい花を舞わせて、駆け抜けた閃光が次々に少年へと襲いかかった星の輝きを撃墜していく。

 

 初めて魔女結界でその背を見せられたときは、苦しみしかなかった。

 たが、今は──。

 

「……暫く見ない内に、随分と頼もしくなってなあ」

 

 ぽつりと呟いた彼の言葉に、桜の刃を振るい星屑を迎撃してのけたいろはは色づいた花弁を振り撒きながら背後を振り返る。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 桜の精のような姿となった少女は、心底の嬉しそうな笑顔をもってシュウの言葉に応えた。

 




・ウワサのいろは
万年桜のウワサと同化したいろは。魔法少女衣裳も噂のものとなっており、スカートが恐ろしく際どいので目のやり場に困る。シュウくんは見る。
武装としては平時と同様の光弓、花弁を凝縮した桜の剣などがあるがこの姿になったいろはは好んで剣を使う。

その背は遠く。
大切なひとと並んで戦えることを、彼女はずっと夢見ていた。


素晴らしい立ち絵は千石千鵆さんに描いていただけました! 可愛い&綺麗ないろはちゃん本当にありがとうございます!!
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