環いろはちゃんと共依存的にイチャイチャしたい人生だった 作:風剣
マギウス編は決着、このエピローグにて今作は一区切りとなります(ガチ)。
「……うそ……」
目を見開き、愕然と呟く。
隣でまどかが声を張り上げるのにも構わず、黒髪の少女はその大人しそうな顔立ちを驚嘆に染め叫びたくなる心地でその光景を見つめた。
暁美ほむらにとって、マギウスの翼は僅かに――いや、本音をいえば物凄く、怪しい集団だった。
ほむらやまどか、そして今ここにはいないもうひとりの仲間にとっての先達でもある巴マミの失踪。魔女とも異なる魔力をもったヒトから外れたウワサなる存在。魔法少女とともに共闘し魔女と戦っていたという異端の少年、桂城シュウ。それに加え、彼女が今まで見滝原から突如姿を消した魔女たちが、多く神浜に集まるという事態に深く関わっているだろう謎の組織。
そんな如何にも奇怪なグループが掲げていたのは魔女化を回避することによる魔法少女の救済。そして、その組織の相談役として居るという老婆に教えられた目的のひとつは特級の災厄である超巨大魔女、ワルプルギスの夜の討伐――。
ほむらにとっての絶望の象徴である魔女――これまでの4度のループの中で一度も倒すことのできなかった存在を打倒すべく準備を整えていると語った老婆の言葉は、彼女にとって願ってもいないことであった。だが……マミを経由しての連絡で増援を依頼され、ワルプルギスの夜が訪れるという神浜市に呼び出されたこともあり。マギウスの翼の抱え込んでいる戦力や老婆の組む計画については少なからぬ疑念があり、いざというときはまどかを連れて逃走することができないかと警戒していたのだが……。
「……本当に」
呟いたほむらの眼前、南凪区近海の海上に遺っていた虹の軌跡が徐々に消えていく。
あらゆる穢れを祓う虹の輝き。海上にて抑え込まれていた魔女の巨体を一撃で消し飛ばしていった七色の光を見送っていったほむらは、ぽつりと呟いた。
「本当に、ワルプルギスの夜を倒しちゃった……」
その日。
世界最強の魔女は、跡形もなく蒸発するようにして討伐された。
「……」
実を言えば、桂城シュウはずっと疲れていたのだ。
魔法少女の真実、火葬までされたのに死んではいなかった生き霊老婆、魔女化していた母親、並行世界の記憶で観測した大切な女の子たちの死。ひとつだけでも寝込みたくなるような案件を次々に浴びせられた彼は首謀者である智江の思惑どおりに魔法少女の救済に進み、当然のようにまともに眠れなくなった。
血か、魔女か、死体になった大切なひとか。ろくでもない悪夢に悩まされるようになった彼は、ウワサによる補強があったのをいいことにほとんど不眠でマギウスの翼を支援する活動に従事し少しずつその誠心を摩耗させていった。
──そんな彼は、ここしばらくで久方ぶりの穏やかな夜を経て目を覚ます。
「………………ぅぉ」
ぐっすりと眠れた、充足感のある微睡み。
それが、意識を覚醒させ状況を確認するなり一気に吹き飛ばされる。朝の目覚めは、かなり心臓に悪いものだった。
「……すぅ……」
「むにゃ……おにいちゃ……」
目と鼻の先に、恋人の寝顔がある。胸板にはぎゅうと彼女の妹も抱きついてきていた。
少年の自室、ベッドの上にて自身と並んで川の字で眠る姉妹。脚を腕を絡めてくる2人が可愛らしくぎゅうと身を寄せてくるのに思わず心臓を跳ねあげた彼は、やがて口元を緩めると少女たちを抱き寄せた。
「んん……」
(……あー……)
頬を寄せてくるういの頭を撫でながら、昨晩のことを思い出す。
『シュウくん、今日は私も一緒に寝るからね』
『なんて?』
『わ、私も一緒だからね……!』
『なんで……?』
ワルプルギスの夜を打倒しマギウスの翼の設立からなる様々な事件の後処理に追われること数日、少年はやや寝つきが悪かった。
連日の不眠と酷使した肉体の疲弊は一度ベッドに入れば泥のように眠るほどのものでありながらも、多くの心配事が重なるためか夜な夜な魘され目を覚ます日々。
明確に憔悴する彼を見かねたいろはは、やちよも説得してシュウの安眠のために付き添うことを決めついてきたういも伴って一緒に眠ることになっていたのだった。
(……よく眠れたけど……いや複雑だなこれ……)
少年にも相応の羞恥はある。15にもなって女の子二人に添い寝されてないとまともに眠れないというのは我がことながら最悪すぎた。
しかも効果覿面だったのが尚更つらい。大切なひとたちの死に姿に魘され夜を過ごすことのないことの有り難さと極限の羞恥に板挟みにされながら、現実逃避するようにすやすやと眠るいろはの寝顔の観察に没頭する。
「すぅ………すぅ……………」
(多分、これだよなあ)
いろはとうい、2人の華奢な背に腕を回せば掌から伝わってくる規則的な鼓動。
断じて嘘偽りのない、確かな生きた証であることを示す心音を掌で感じながら少年は息を吐く。少女の胸に抱かれる安心感。柔らかさと共に伝わる温かさ、そして何より彼女たちから聞こえる心音が、この上ない安心をもたらしていたことは想像に難くなかった。
『私、絶対に死なないよ』
そう言ってくれた、大切な人。
かつて失った大切な人たちの死の光景に怯えるなかでこうして寄り添ってくれた彼女の存在は、いつだって少年を支えてくれた。
「ん……むぅ……」
「ぁ」
不意に、いろはが身じろぎをした。起こしてしまっただろうかと手の動きを止める少年だったが、薄く目を開いた彼女は瞬きを繰り返すとういと己に腕を回し抱き寄せるシュウに微笑み挟み込むういを気遣いながらすり寄っては唇を重ねた。
えへへと、眠たげにとろんと瞼を下ろしながらもはにかんで照れ笑いを浮かべる彼女に、どうしようもない愛しさを覚えさせられる。少年の胸に顔をうずめていたういがちらちらと視線を向けてくるのに気付いたシュウは、何度でもキスを返してやりたくなる欲求にブレーキをかけながら微笑みを浮かべた。
「おはよ、いろは。ういも――。ありがとうな。おかげで今日はよく眠れたよ」
「あっ……、本当にっ? よかった……!」
「大成功だね!」
我ながら、本当にどうかと思うが、それでも。自分がよく寝れたと聞くとやや恥ずかしそうにしながらも嬉しそうな笑顔を見せてくれる彼女たちを見ていると、まあいいかという気分にさせられていた。
――頑張らないとなと、密かに思う。
こうした時間を守るためにも。シュウは――シュウたちは、動かなければならない。
環ういが救いだされ、神浜に現れたワルプルギスの夜が魔法少女たちによって何もできずに消し炭にされてから3日が過ぎようとしていた。
街の被害を防ぐべく海上にて迎撃されたワルプルギスは、魔力強化を受けた『運び屋』の魔法少女によって使い魔と分断。主と隔離された使い魔たちをウワサを纏った巴マミが40秒で殲滅し、孤立したワルプルギスは魔女守のウワサを前衛に、砲撃部隊を後衛に据えた迎撃部隊によってアリナを打倒したシュウといろはが増援に駆けつけるまで抑え込まれた。
最終的には消滅寸前の魔女守と融合したシュウの一撃で障壁を破壊したところにねむ、灯花、ういの三位一体で構築した対魔女特化の『虹の標』をいろはが放ちワルプルギスの夜を蒸発させ決着。増援として駆けつけてもらった暁美ほむらの時間停止に頼ることすらなく撃破となった。
ういは魔女となることなく解き放たれ、街中に展開されていたウワサは回収され、神浜に襲来したワルプルギスの脅威は去った。
ならばその次に求められるのは、事態が巻き起こした混乱の後始末であった。
「――それで、いろはさんと智江さんたちはマギウスの翼に?」
「ああ。エンブリオ・イブやらういやらの話はともかくとしても、今回はいろいろと振り回すことになったし……、これからだってある程度は羽根のみんなの協力も必要になってくるだろうからな。今後どうするかの話はしっかり煮詰めないといけないけど……まあ、そこは婆さんや灯花に任せるとするよ」
そしてシュウはといえば詫び行脚であった。
指定されたカフェの席につき、向かいのななかがスイーツをつまむ様子を見守っていた少年は改めて頭を下げる。
「ごめん、今回は本当に心配をかけた。いろはのことも随分と面倒を見てくれたみたいだし……。本当にありがとう。助かったよ」
「いえいえ。こちらこそいろはさんと会って話し、お互いを鍛え合う機会を得られたのは本当に僥倖でした。……素敵な彼女さんですね」
そう微笑んだななかに、口元を緩めた少年もまたこくりと頷く。
「自慢の恋人だよ、本当に。……本当に、凄い子だ」
「大喧嘩は如何でしたか?」
「……」
瞬間にシュウの浮かべた苦り切った表情に、くすりと笑みをこぼすななか。少年は肩を竦め両手をあげると「負けたよ」と呟いて天を仰いだ。
「……負けるつもりはなかったんだけどな。絶対に勝つつもりだったし、そのくらいには俺も強くなれたと思ってたからさあ、堪えたよ。……本当に、強くなった」
一度『ああいう』状態になったいろはには、もう二度と勝てないかもしれない。そんな弱音すら吐きたくなるくらいに、鏡の迷宮で相争った少女は強かった。悔しそうに、しかしどこか清々しいものを感じさせる顔つきで少年は苦笑した。
心だけの問題ではない。1週間の間を置いて再び巡り合った彼女は見違えて強くなっていた。
致命の一撃だけは受けないようにと受け身と回避に徹することができるだけの身のこなし。素の速度に加えウワサによる補強も受けた彼の高速機動を追い矢を当ててのける正確無比な射撃能力。加え四肢が削がれようと構わず継戦してのける回復力。
どれだけの鍛錬を積んだのかというよりは、1週間のなかで徹底的に彼女が積み重ねてきた経験を集大成としてぶつけられたような気もする。
アレは、断じてほんの数日で実現させられるような動きではなかった。幾らなんでもほんの1ヶ月前までは少年の後ろで後衛として矢を射かけていた少女にかつてより遥かに強くなり魔女を素手で壁のシミにできるまでに上がった身体能力を一朝一夕で対応されてたまるか。
思えば、彼女は――魔女を相手に高速で立ち回って翻弄する少年と共闘する間も、一度だって彼に誤射を当てたことはなかった。
魔女との戦いで傷を負ったシュウに後遺症を残すような半端な治癒など、一度だってしたことはなかった。
これまでの彼女の全てをぶつけられて。そのうえで完膚なきまでに負けた。
あれはもう勝てんと苦笑する少年に、片目を瞑っては悪戯っぽく笑みを浮かべて見せたななかは彼の顔を見つめ指摘する。
「でも、嬉しそうですね?」
「……まあ、負けたことには今更後悔なんてしてないよ。……これからだって、後悔することのないようにするだけだ」
「……」
躊躇う素振りもなくそんなことを言った彼の顔を、ななかはまじまじと見つめていた。
不安も、恐怖も、焦燥も、諦観もおくびにも出さない彼は、無理してそのように取り繕っている訳ではない。ドッペルの発動によって魔女化を回避する機構がエンブリオ・イブの喪失とともに喪われた今、魔法少女に突きつけられる破滅の末路は未だに最愛の少女たちに纏わりついている。
一度でも魔女化を許してしまえば、その時点で詰み。その現実は変わらず、少年もまたその怯えからは逃れられていないだろう。
──それでも。彼はもう、前を向くと決めていた。
「……本当に。素敵な顔になりましたね」
「?」
「いえ、この間遭遇したときの貴方の顔は本当に見てられないものでしたから。……心配したんですよ? 本当に」
「…………悪かった」
何度視たのだろうと、紅い瞳で頭を下げる彼を見つめるななかは回顧する。
環いろは。環うい。里見灯花。柊ねむ。
──彼女たちはこの
そしてその記憶は、既にある程度シュウにも共有されていることも。
病死。事故死。魔女による殺害。魔女化。──その直前にシュウにソウルジェムを破壊させることによる、魔女化を回避した尊厳死。
折れるには十分なものを視たのだろう。マギウスの掲げた魔法少女の救済は、ななかにも否定することはできない。少年だって、ういや大切な人を使い潰すことなく実現することができるとしたらどんな手段にも走るだろう。
だが──マギウスの救済策が頓挫し、年単位の時間をかけての魔法少女救済に向けての準備を進める彼の表情には瑕疵はない。
絶望も、恐れも、あるだろう。
それでも、全て呑み込んで。大切なひとたちの為に、何より自分のために。
彼は、前を向くと決めていた。
そのことが、どこか眩しくも思える。
目を細めたななかは、シュウを見つめながらぽつりと呟いた。
「……やはり、いろはさんが居てくれてよかったです」
「うん?」
「……いえ、こちらの事情です。――もし、何か困ったことがあったなら、いつでも言ってください。微力ではありますが……可能な限り、お手伝いさせていただきます」
いろはさんを泣かせたらダメですよ?
そう微笑んだななかに苦笑したシュウは、どこか照れくささと申し訳なさをないまぜにした表情をしながら、しかし穏やかに微笑んで頷いた。
「わかってる。……ありがとうな」
***
マギウスの翼にて活動している間は他者との接触を最低限にしていたこともあり、彼を知る者たちにはそれなり以上に心配させてしまっていたようだった。
予定を取り付けた魔法少女に状況をある程度共有し、詫び、心ばかりの詫びの品を渡していく。ちなみに最初に声をかけたななかからは「今度の日曜にデートをしていただければ大丈夫ですよ」と笑顔で言いきられた。
「いやーーにしてもシュウっちがろっはーと仲直りしてほんと良かったよ! あーしマジで心配したんだからねー!? でもほんっっと良かったぁ……ね、ね、仲直りのキスとかもうしたんでしょっ、どうだった!?」
「……血の味」
「血の味!?」
「…………ふんっ」
「心配かけて悪かったよ……。いろはのことも気にかけてくれてたみたいでありがとうな」
「……別にレナ、アンタのこと心配してなんかいないんだからっ。いろはなんかずーーーっとアンタのこと気にしてたんだからしっかり恋人のケアはしなさいよね。……で、最近寝れてないみたいな話聞いたけどそっちはどうなのよ」
「あー…………。いろはやういと一緒に寝たら結構回復したかな」
「??? 思いきり喧嘩した後で? アンタちょっと面の皮厚すぎない????」
途中ひと悶着も挟みながらも、知己の魔法少女たちのもとに通い詫びをいれていく。みかづき荘の魔法少女たちには騒動が終息した夜には既に頭を下げていた。
こうして少女たちのところに足を運んでいると、神浜に来てからできた繋がりというものをひしひしと感じさせられるものであった。
今日会う予定であった魔法少女との会話を済ませ、みかづき荘にて謝罪と感謝を受け入れたやちよからイイ笑顔で要求されていた現役モデル一押しのドーナツチェーン店を探すシュウ。
数日前には最強の魔女が迫り都市をひっくり返そうとしていたことなど露知らず足繁く人々の行き交う新西区の街路を歩いているなかで、彼は自分と同じ顔を見かけた。
「――よう、魔女守」
「もうその名は返上しようと思っているんだ。何せ環ういはもう魔女などではない」
同じ顔の少年が2人並ぶのに向けられる奇異の視線も、双子とでも判断されればすぐに離れていく。神浜市大付属の制服のシュウに対し、彼の方は簡素なシャツのうえからジャケットを羽織っているだけのラフな格好だ。街中なのだから当然のこととはいえ、同じ顔の相手が唯一の差異である太刀も握らず向かい合わせに立っているという事実に堪えきれず笑いを漏らした彼は、人気の少ない路地の方を指しながらウワサを伴い歩きだしていった。
「――ワルプルギスを倒したあとは一回消滅したって聞いたんだけどな。そういやウワサって消滅したらねむの本に戻るんだったか……。本のなかの世界ってどんなもんなんだ?」
「基本的には空白だが母さんに書き込まれた内容によって内装も増えるな。ウワサのみんなも特にお喋りというわけではないし静かなものだよ」
「へぇー、結構気になるなあそれって……ん?」
「………………なあ。その母さんってもしかしてねむのこと?」
「ああ、その通りだが――」
「その呼び方絶対にいろはの……いや、他の人間の前で言うなよ。絶対にやめろよ。誤解しか招かねえからな」
「? ああ、わかった。ではママと――」
「俺と同じツラで犯罪感しかない言動すんのやめろっつってんだよ!!」
「??」
明らかにわかってねえとうめき声をあげる少年は後でねむにも注意させることを心に決めた。
『犯罪というのなら不純異性交遊やってるオリジナルの方が明確に該当するのでは』とでも言わんばかりに眉を顰めたウワサにこの野郎と内心歯噛みするシュウ。これ以上言い合いをしては普通に理詰めで黙らされると勘が囁くのに大人しく従う彼は、話題を切り替えるように彼の発言を追及した。
「それで? 魔女守を返上するったってどうして今更。イブが消えたからか? それとも――」
「ああ。
「……ああ、ねむもういのことを忘れていたから……」
ういを喪ったあとの、自身やいろはを含めた周囲の人間の様子を思い浮かべたシュウの言葉に頷いた彼は、変わらぬ語調で続けた。
「
『そんな、ソウルジェムがもうこんなに……! 収集の魔法が暴走してるの!?』
『ダメ、変換も、創造も追いつかない! このままじゃ、このままじゃういが――!』
魔法少女を救わんとするひとつの計画。
それは、中核であったひとりの魔法少女の魔法の暴走によって頓挫した。
『収集』の機能が暴走したことによって一気に集められた穢れはういのソウルジェムを瞬く間に濁らせどす黒く染めていく。彼女を支え、システムを拡大していく役目であったねむや灯花の対処も焼け石に水、状況は一気に最悪へと傾こうとしていた。
『や、だ、このままじゃ』
『っ、どうにか、対処しないと、魔女に』
『お願い──』
『――ういを、助けて』
窮地の中で、ねむが思い浮かべたのはいったい誰だったのか。そうして最初のウワサは産まれ、しかし何も為すことはできずにういは世界と切り離される形で対処を施され小さなキュゥべえへと取り込まれた。
そうして現れたイブを守るべく、記憶を喪ったねむによって魔女を守る剣士としての役割を与えられた彼は、力と引き換えに存在意義を喪った。
イブを殺すことはういの死を意味し、イブの完成もまたそれと同義であるなか、魔女守として戦わざるを得なかったウワサ。
彼の担わなければならず、しかし何もできずに捻じ曲げられることとなった役目は。
こうして、彼の基となった少年と、守るべき対象の姉によって成し遂げられた。
「だから──。本当に、感謝している。ういを……助けてくれて、ありがとう」
「……はっ」
そんなことを伝えに来たのかと鼻で笑った。
現状忘れてるんじゃないだろうなとぼやきながらウワサの背をばんばんと叩く彼は、苦笑を浮かべながらあっさりと告げる。
「今回助けたところで守れなかったら何の意味もねえからな。ぜんぶ終わったみたいなツラはやめろって。最低でも魔女を絶滅させるまでは安心できねえしどんどんお前の力も貸してもらうからな。──頼りにしてるぞ」
「──」
「……ああ」
「ありがとう」
その言葉を最後に、ウワサは姿を消していた。
ふんと鼻を鳴らした少年は、路地を出た先の雑踏で垣間見えた桃色の髪に、ぴたりと動きを止めては口許を綻ばせる──。
いろは!
呼び掛けにばっと振り返っては彼の姿を見て顔を輝かせた少女が駆け寄ってくるのを両腕を広げ受け入れたシュウは、やがて取り留めもない言葉を交わしながら並んで歩きだしていく。
「シュウくん、今は帰り?」
「うん。みかづき荘に帰る前に七海さんに頼まれてたドーナツ買ってこうかと思ってさ。……いろはは何がいいとかある?」
「私? そうだなあ……」
自然、手を繋いでいた。
指を絡ませ、掌の温もりを共有して。2人並んで歩きながら、夕日に照らされる恋人の横顔を見つめ穏やかに 微笑んだ。
──まだ、何も終わってない。
今も世界中で魔法少女が生まれては破滅し魔女になっている。神浜では間もなくういたちによる自動浄化システムが再び組まれ、長い時間をかけて少しずつ拡大されていくだろうがそれだって中核となる少女たちを守ることができなければ全てが台無しとなるだろう。
守りたいと思う。
魔法少女の救済が確立するまで。魔女を絶命させるまで。あるいは──ずっと、ずっと。自分が命尽きる、そのときまで。
「……なあ、いろは」
「なあに?」
「俺、ずっと居たいよ。……ずっと、いろはと、皆と一緒に居たいから。だから──だから、頑張るよ」
「──」
シュウの言葉に目を見開いたいろはは、やがて顔を綻ばせ花咲くような笑顔を見せた。
「うん!」
未来はまだ不確かで。それでも──、大切なひとたちと共に、前を向いて進むと決めた。
夕日の照らす街路を2人、手を繋いで歩いていった。