環いろはちゃんと共依存的にイチャイチャしたい人生だった 作:風剣
下拵えの時
「こんばんは。夢のなかから失礼するよ」
「──」
気付けば、枕元にお婆さんが立っていた。
叫びだしそうになるのを堪えて。よくよく相手の顔を確認して。全く見覚えのない顔の相手であると認識すると、ようやく志伸あきらは声を絞り出す。
「……えっと、どちらさま?」
そんな疑問にからからと笑った老婆は、寝ていた筈の部屋も何もない空間のうえにぽつんとあるベッドから身を起こした色素の薄い髪の少女が胡乱にこちらを見つめてくるのに目元を細める。
――感情の抑制は成功しているようだね。
突如己の前に現れた見知らぬ不審者を前に動揺も落ち着き素性を伺うだけの余裕もできた少女の様子を確認した老婆は、にこやかに微笑んでは名乗り出る。
「はじめまして、私は利美智江。……ななかちゃんから名前だけは聞いているかな? 再編中のマギウスの顧問を担当させてもらっている
逢い逢い夢枕のウワサ。
込み入った事情も含んだ情報共有をするにあたっての、対象の相手と夢を共有するウワサの初運用の日であった。
──幸せとは、果たしてどのようなものなのだろうと朧げに思う。
自身と身近な周囲が満ち足りていれば幸せといえるだろうか。生きているだけでも幸せともよく言われることだしそれを踏まえれば本来はもっと敷居は低いものなのかもしれない。家族や大切なひとたちと当たり前のように笑い合い、ともに過ごし、不自由のない満たされた日常を送る。
……そんな幸せも、崩れる時は本当にあっという間なのだが。
一度は、自分は幸せになれなくてもいいと本気で思っていた。
大切なひとたちの死ぬ可能性をどうしても拒絶したくて。誰よりも死なせたくなかった恋人の大切を、自分の未来を、恋人の妹の可能性を奪ったとしても。彼は、魔法少女の救済を実現させたかった。
結果として敗れ、ういも取り戻されその結果としてマギウスの掲げた魔法少女の救済を頓挫させられたことには異存はない。みんなで幸せになりたいと、そう宣言して彼を打ち倒したいろはを少年は認め覚悟を決めた。
いろはがかつて示したのと同じように、少年もまた大切なひとたちの幸せと笑顔を守るために全力を尽くす。そのためならなんだってするという決意は強かった。
いや。
だが、しかし。
それにしたって──この状況はどうなのだろうかと、現実逃避じみた思考から戻った桂城シュウは満悦の表情を浮かべ己にひっつく少女たちの温もりと吐息、どこか甘い香りを間近で感じながら天を仰いだ。
「シュウ、お茶を入れてきたよ。……あらあらモテモテじゃない、愛されてるねえ」
「よしてくれよ婆ちゃん……」
「えへへー……」
キッチンからティーポットとカップをお盆に乗せやってきた智江の揶揄うような言葉にげんなりとした様子を見せるシュウ。
彼の膝上にはいろはが乗り、そのうえに更にういが腰を落ち着け、桃色の髪の姉妹を乗せる少年の腕にはそれぞれ片方から灯花とねむがくっついている状態。身動きも取れずにふわふわしたソファに封じ込まれる少年はおのれのうえで一番動きやすいういがいろはの膝上に乗りながら老婆の淹れるお茶を受け取るのを遠い目で見つめた。
「お婆ちゃんありがとう! はい、灯花ちゃん、ねむちゃん。お姉ちゃん。……お兄ちゃんは、どうする?」
「みんな離してくれると俺も動けるかな……」
「えー、でもお兄さまも満更ではないんでしょー? ほらぎゅーー♪」
「はいはい可愛い可愛い」
「むー……」
「ひゃっ……」
甘えた声で抱きついてくる灯花の頭を撫でる。もっと慌てた反応を欲していたのだろう彼女は不満げな声こそあげながらも嬉しそうに頬を緩ませる。そんな彼女の隣で同じように身を寄せてくるねむにも苦笑しながらシュウはされるがままになっていた。
零距離で首元に吐息がかかるたびにシュウに乗るいろはが頬を染めて身を震わせる。その様子を目を細め微笑ましそうに見守っていた智江は少女たちの押し蔵饅頭に埋まる少年に目線を向け微笑みを若干引き攣らせた。
「そんな状態でシュウは重くないのかい」
「これはちょっとした自慢だけどね、俺物心ついたときから女の子を重いと思ったことは一度もないよ」
「
「魔女やその欠片まで女判定入んの? 流石にそれはズルじゃん……」
「ふあっ」
「お姉ちゃん?」
「な、なんでもない。……シュウくんっ」
「自分から密着しておいてそれってなかなかに理不尽じゃない?」
首筋にかけられた吐息に跳ねあがった少女が小声で窘めてくるのに肩を竦めた彼は女の子たちに囲まれた状況をどうしたものかと頭を悩ませた。
場所はホテルフェントホープ、ウワサを装備したアリナや暴走したエンブリオ・イブとの戦闘による破壊痕もいまや丁寧に修復された屋敷の一室で彼らは団欒の時を過ごしていた。
高級そうなソファに身を落ち着けいろはを膝に乗せ座っていたところをぎゅうぎゅうとおしくら饅頭のように詰めて密着してきた少女たちに身動きを封じられる少年は、迫る合流時間を徐々に意識しはじめながらべったりくっつく灯花たちに声をかける。
「ほら灯花、ねむ離れて。流石にこの状況はちょっとまずいから」
「え~、何が不味いのかにゃー。私たち大好きなお兄さまとくっついてるだけなのに、ねー? くふふふっ」
「そうだね。家族も同然の仲の子どもと仲良くしてるだけなんだからお兄さんに疚しいことはないんじゃないかな? だからこうしてくっついているのに何も問題はないと思うよ」
こ、こいつら……。
しれっとした態度で口元に手を当て笑う灯花や腕に抱きついては離さないねむに口端を歪めたシュウ。そんな彼の反応を満更でもなく思っているとでも解釈したのかより腕の力を強めてくる灯花に困り果ていろはへと目線で助けを乞う彼だったが……いろははといえばその頬を紅く染めういに何事かを弁明しているようだった。
『そのっ、シュウくんとお泊りしていたのはただ、そう、空けてばかりだった宝崎の家を掃除したかっただけで――』などという声が聞こえた時点で彼女を頼るのを諦めた彼は、力づくで少女たちをどかすわけにもいかずにちらりと備え付けの時計を見て呻き声をあげる。
「こんな姿正直ななかには見せられないんだが――」
「こんにちは。あら、皆さんお集まりで――」
ガチャリと、ソファの左手にあった扉を開いて現れた紅い髪の少女と目が合ったのに少年はいろはたちに気を取られて彼女の接近に気付けなかったことを呪った。
フェントホープの指定された一室へと足を踏み入れたななかは、ソファに座るシュウの膝の上にちょこんと乗るいろはとういの姿を認め、膝上に少女たちを乗せる彼が若干気まずそうにする隣で腕に絡みついてはいえーい☆とピースをする灯花の様子に苦笑した。
「こんにちは。シュウさんったらモテモテですね?」
「くふふっ、ななかったらお婆様と同じこと言ってるよー? よかったら混ざってみる? お兄さまの隣はお姉さま以外に譲るつもりはないけど──むうっ」
「煽るのやめなさい灯花。……悪いなななか、いろいろと。灯花も変な対抗心燃やしてるみたいで──」
「いえいえそんな。仲がいいのはよろしいことではないですか」
振りほどかれかけた腕に力ずくでしがみついた結果シュウの腕に持ち上げられる格好となった灯花からの抗議の視線をスルーする。頬を赤らめいそいそと膝上から降りようとしていたいろはをイイ笑顔で「お構いなく」と押し留めるななかが向かいの席に鞄を置くのを見守るシュウだったが──彼女が鞄だけ置いて背後に回ってきたのにふといやな予感を抱いた。
いま、なんか獲物を狙う虎とかそんな視線向けられたような──。
「いろはさん、後ろが空いてるみたいなので構いませんか?」
「後ろ? うーん……ななかさんなら大丈夫です」
「は? なにを──っ?」
直後、肩からうえにのしかかった重みと柔らかな感触、そして背中越しに伝わる温もりに少年は硬直した。
「……ななか?」
「ふふふっ。皆さんくっついてるので折角ですし私もと。重くはありませんか?」
「シュウくん、女の子のこと重いって思ったことないって」
「それはそれは。……シュウさんって骨格がだいぶがっちりしてますよね……」
「――」
えーっ、何それー! と抗議する灯花が少年にべったりくっつきながら突っかかるものの、シュウに背後から抱き着いてよりかかる格好で密着するななかは左右と前は占領されてるじゃありませんかとぬけぬけと返す。
なんだこの状況。柔らかっ。――なんなんだ、もしかして全員俺のこと好きだったりする? というか恋人の前でこの状況って嬉しいとか嫌とか以前にめっちゃくちゃ気まずいんだけどなんでいろは止めたりしないの? 俺がダメって言うのを待ってるとしたら今の状況最悪なんだけど普通にななかにGOサイン出したのなんなんだよくそっ、いろはこいつ尻を押しつけてきやがるうわ首筋やばみんないい匂いするマジでこれどういう状況なんだご褒美にしてはやばくてびびる――。
隣の灯花とねむはともかく前後が青少年にはやや毒だった。鼓動を速める心臓の音が少女たちに聞こえていないだろうかと冷や汗を流す少年は、無心になろうとしては失敗しながら向かいに座った老婆を目にする。
少女たちにいよいよ身動きを完全に封じられるシュウを見た智江は失笑して、机のうえのポットから紅茶をカップに注ぎんだ。
「うわ、ななかちゃんまでか。……まあいいか、皆揃ったことだし予定少し繰り上げて早速会議を始めましょうか」
「婆ちゃんこの状況放置するとか正気??」
「シュウが嫌じゃないのならそれでいいんじゃないのかい、嫌なら引き剥がすでしょう貴方なら」
痴情の縺れに巻き込むなといいたげに切り捨ててくる老婆に目を剥いた彼は、居心地悪そうに身じろぎしては安息を求め膝上に座るいろはの首筋に無言で顔を埋める。そんな様子を微笑ましそうに見つめた智江はティーカップをソーサーに戻しては顔をあげ、胸の膨らみを押し付けるようにして少年の後頭部へともたれかかるななかへと視線を向けた。
「報告した通り、逢い逢い夢枕のウワサの運用は予定通りに進んだよ。あきらちゃんも取り乱すことなく話を聞いてくれたし、神浜でマギウスの翼が起こしていた騒ぎや魔女化、ワルプルギスの夜の襲来に関しての説明も取り乱すことなく受け入れてくれたみたいだった。ななかちゃんの方はどうだった?」
「……そうですね。ここに来る前にあきらさんとは顔を合わせて様子を伺いましたが……魔法少女の真実に関しても落ち着いて受け止めることができているようでした。ソウルジェムの濁りも平時とのそれと変わらず、計画はほぼほぼ成功といっても差し支えないと思います」
ななかの言葉にほっと息をつく智江。そんな彼女に、シュウの膝上に座り、彼の額に片腕を押し当て首筋の吸引に真っ赤で抗っていたいろはは声を絞りだした。
「んゅ、シュウくんっ、くすぐったいからぁ……。えっと、んっ……それじゃあ、これから……本格的に神浜の魔法少女に、ウワサを使って連絡をしていくってことですか……?」
「そうなるね、不測の事態に陥るリスクを考慮して少人数に絞るにしても1日に2、3人もやっていれば2週間かけずに共有も終わるんじゃないかな」
アリナとの戦いで片腕を吹き飛ばされていたことを感じさせない所作で紅茶を飲む老婆がいろはの問いかけに応えるのに、少女特有の甘い匂いと柔らかな温もりに包まれていた少年もまた頷く。
「ウワサに組まれた
「最近は私やねむもお兄さまの『安眠』に協力してるもんねー♪」
「……」
ぎゅうと抱きついては耳元へ唇を近づけ囁きかけてくる灯花に眉間に皺を寄せ煩悶するシュウは、やがて観念するように息を吐いては「おかげさまでよく眠れてるよ……」と白状する。若干遠い目になった彼は背後から抱き着いてくる紅い髪の少女から伝わる柔らかな感触が強まるのを知覚しながら物凄く押しの強い少女たちから脱け出す術もなくされるがままになっていた。
ドッペルによる魔女化を防ぐ役割を担っていたエンブリオ・イブが消滅したことにより、マギウスの翼が掲げていた魔法少女の救済は頓挫した。
イブを育てる呪いと感情エネルギーを蒐集するために集められていた魔女たちもまた、いろはが放った三位一体『虹の標』がワルプルギスの夜を蒸発させたのを畏れるようにして散り散りに逃げていき、魔女を集めていたウワサもねむによって停止されることで神浜市外の魔女がこれ以上神浜市へと集まることはなくなった。結果として、マギウスの翼が樹立して以降神浜市にて起こっていた異変はほとんどが終息したといえる状況である。
そうして当然、問われるのはマギウスの翼を今後どう運営していくのか、そしてどのようにマギウスの翼の巻き起こす混乱へ巻き込まれた魔法少女へと説明を果たしていくのかだった。
しかし、説明の責任を果たしていくにしてもどうしても問題というものは浮上する。ドッペルシステムの破綻、魔法少女救済の延期、その間も協力を仰ぐこととなる魔法少女の説得・再編――そのなかでも最たるものはエンブリオ・イブという魔法少女救済の要であった魔女を討伐することでいろはたちがういを助け出したことだった。
『――極論ぜんぶキュゥべえの所為だからね。押しつけられる責任はぜんぶ押しつけていきましょう』
そもそも副作用もまだ改善できていないドッペルシステムを強引にでも推し進めなければならなかったのは魔法少女が魔女となり破滅するまでにの流れを最高効率で敷いたキュゥべえのせいである。
魔女などという化け物と命懸けで戦わなければならないのはまだ良い。願いを叶えた対価として多くの魔法少女が納得できる要項だろう。だが魔法少女の末路としての魔女化、魂をちっぽけな宝石ひとつに封じる所業、ソウルジェムが魔力行使のみならず生活の中のストレスですら穢れを溜め込む仕様は明らかに度を越している。マギウスの魔法少女はそれに抗うべく同志を募り活動を開始、結果として各方面へと被害を出したものの19才以上の魔法少女がほぼいないような魔法少女の致死率、魔女化率を限定的にでこそあれ0に近いレベルで低下させた。
称えられ協力されることこそあれど、少なくともマギウスの行いについて直接的な被害を受けた者以外には批判される謂れはない。そう語った老婆に灯花やシュウは全面的に賛同し、ねむやうい、いろは、協力を申し出たななかも巻き込んでマギウス再編と説明内容の構想を練り魔法少女救済への一歩を踏み出すべく準備を進めていった。
いろはは虚偽がほどほどに仕込まれた説明をするのに難色をこそ示したものの、想定された最悪としてのういに対する憎悪の集中を引き合いに出されては引き下がるを得ず、しかし今後ウワサや魔女を使った他人を傷つけてのエネルギー収集を認めない指針は譲らず。彼女や『収集』をもつ救済の要であるういの意見も取り入れつつ灯花やねむが作成した筋書きは以下のようなものとなった。
・魔女化やそれを回避するためのマギウスの翼(再編中)の活動に関しては順次神浜市の魔法少女へと共有していく。
・マギウスによって展開されていたドッペルシステムが以降使えなくなることも周知。環ういはキュゥべえの計略によって魔女化させられかけていたところを不完全ながらもドッペルシステムを維持していた救済の要であり、彼女を救出したことで魔法少女救済は更なるステージへ進むと表明。
・ワルプルギスの夜も含めこの数ヶ月神浜に集められていた魔女はキュゥべえが魔法少女救済を妨害するために誘導したものであり、ドッペルシステムを維持するためのモノとしてマギウスの翼も魔女を一部鹵獲、運用。マギウスの翼においての魔女への対応措置は白羽根、黒羽根たちへ指示を下した利美智江が責任を負うものとする。
・魔法少女の救済は3年以内に果たす。ドッペルシステムはメンテナンスに入るも1ヶ月以内には再度神浜市を中心に展開、改善を続けながら拡大し世界を覆えるようにしていく。
・マギウスの活動過程でウワサの被害を受けた魔法少女、巻き込まれた一般人には可能な限り補償を行っていく。
・再編を行うマギウスの翼からの脱退は自由。
・今後マギウスの翼へ参加し魔法少女救済に参加する魔法少女、マギウスの翼に参加していた魔法少女(脱退した者を含む)、その他希望者にはマギウスの管理する
・キュゥべえを見かけたら駆除(いろはとういに却下された)(いろはのキュゥべえと協力し合う案は青筋を浮かべたシュウと智江に却下された)。
――それらの要項のひとつとして挙げられた魔女化の情報共有は、ドッペルシステムが今存在しないこと、今後再び展開していくことを周知するにあたっても欠かすことのできない重要な案件であった。
ドッペルの発動報告はいろはも含め、マギウスの翼に所属しなかった神浜市の魔法少女によるものも多数挙げられている。そんな彼女たちが便利な力としてドッペルを誤認しうっかり魔女化をしようものならたまったものではない。早急な対応が必要なものであると同時、
逢い逢い夢枕のウワサ。
ういと灯花の無尽蔵の魔力を基にねむが構築したこのウワサは、対象と夢を共有することによって遠隔で魔法少女と会話し情報を伝え合うことを可能とする。感情抑制のオプションもあり本来なら甚大な衝撃を受けていただろう魔法少女の真実に関する情報を過剰なショックなしに受け止めることもできるようにと調整されたウワサは、複数の試験運用と今回の初運用によってその性能を証明した。
取り扱う情報が情報だけに夢枕を用いての情報共有は細心の注意を払ってのものとなるだろうが、それでも魔法少女の魔女化や乱心の恐れを最低限に抑えることが可能となるのは非常に大きい。今後も少しずつウワサによる夢のなかでの面談と説明は拡大されていくだろう。
志伸あきらの経過が良好なら数日後から本格的に夢枕の運用を始めていく。もし何らかの問題が発生したならウワサを管理するねむや急速の対応と応急措置を可能とするシュウや魔女守が対応。
そうした今後の段取りを改めて確認したことで、その日の会議はお開きとなった。
「――疲れた」
「よしよし……」
みかづき荘のリビングにて。床に敷かれたマットのうえに寝転がる少年を膝枕して側頭部を撫でるいろはに甘えながら、シュウは重々しく息を吐く。
頭を撫でるいろはの柔らかな手つきが心地よかったが、心労もまた強い。くたびれた表情をする彼の頭を撫でる少女は苦笑していた。
少年が頭を悩ませるのは、今後のマギウスの再編だとか、ウワサの運用や管理だとかではない。ここ数日で急激に押しを強めていた少女たちの猛追は、魔女をも素手で急所を破壊し殺せるまでになった超人さえも翻弄するものとなり彼を悩まされていた。
「なんか、こう。いろはの前でいうのもなんだけど。……みんなして、俺のこと好きすぎない……?」
「ふふっ。でも私、ああやって慌てるシュウくん見るの滅多になかったから新鮮だったかも。もしかしたらマギウスの翼の娘……シュウくんと同じチームだったひとたちにもシュウくんのこと好きなひととかもっといるんじゃないのかな」
「勘弁してくれよ……」
「私はそんなに嫌じゃないよ? ――シュウくん?」
――それだよ、と。
若干の困惑を露わとしながら。いろはの膝上で体勢を変え恋人の顔をみあげたシュウは、呆れ混じりに疑念の声をなげた。
病気が治ったためか魔女化からの開放以降元気いっぱいに神浜を見て回りはじめ、それに伴いシュウへのスキンシップも急速に増えつつあるうい。
ワルプルギス討滅以降、あわやういを魔女化させかける過ちを犯した事実に失意に沈むもいろはたちのメンタルケアを経て調子を取り戻してからは好意を隠しもせず押しを強めつつある灯花とねむ。
それに加え――。
「うい、ねむ、灯花。まああの子たちに関しては……、うん、まあいいよ。俺だって妹以上に大切に思ってるし、向こうも――。まあ、良いとしよう。だけどななかは……良かったの、本当に……?」
「んー……シュウくんは嫌だった? ……うん、ごめんね。意地悪なこと聞いちゃって」
そうとは言ってないだろう。
ますます苦り切った顔になる少年に淡く微笑んで詫びたいろはは、彼の頭を撫でながら悩まし気に天井を見上げる。
「んーーー……。なんて言えばいいんだろ……。みんなの想いもなんとなく理解しちゃったから、なんてのもあるのかな……? 私も、シュウくんなら寧ろ安心というか……みんなで、なんて言っても……結局のところ私が一番自分勝手ってことになるんだけれど……、うーん……」
「……ごめんね、私にもちょっとわかんないや」
何やら煮え切らない態度のいろはに眉を顰める少年は、しかし追及はしなかった。
女だからこその感覚があるのだろう。少女たちとのやりとりのなかで何か思うところがあったとしても、しかしそれを言語化するのには時間が要るらしい。それとなく彼女の手を握り、中指にはめられた魔法少女の証である指輪をなぞったシュウは彼女のソウルジェムに濁りがないと判断すると薄く息を吐く。
「――なら、まあ俺も何も言わないけどさ。何かあったらいつでも言ってくれよ? あまり思い詰められても困るしな」
「ん、ありがとうね」
目尻を和らげ微笑んだ彼女の顔を暫し見つめていた少年は、己の額を撫でる細い手を受け入れながら瞼を閉じる。
まだ、全てが準備の段階だ。自身を中心にどのような人間関係をいろはが構築しようとしているのかは気になったが、ひとまずは彼女たちの望むとおりにしようと疑念を脇に置いて2人きりの時間を噛みしめる。
「あ、そういえば今度ななかさんとデート行くんでしょ? 私もみまも……楽しみに……うんっ、楽しんできてね!」
「ねえ待って俺いつの間に全員から罠か何かに嵌められようとしてない? マジでどうなってんの??」
いろはちゃん+ななかさん+病弱であったが故に恋心をぶつける気力も心なし消耗させていた元気な身体を取り戻した少女×3
これにシュウくんは囲まれてる状態です