環いろはちゃんと共依存的にイチャイチャしたい人生だった   作:風剣

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マギレコ最終章までに明かされた鏡の魔女の情報、本編の状況を精査した結果共依存においてはハッピーエンドに至るまでに7つの詰みポイントが発生しましたことを報告します
久々のセンシティブやぞ



そんなんじゃないです

 

 

 鏡の魔女と呼称される魔女については謎が多い。

 それはベテランの魔法少女として長年神浜市で活動してきた七海やちよや梓みふゆ、結界の発見後数ヶ月ものの間ミラーズに侵入し調査を独自で行っていた和泉智恵をもってしても、ということである。

 

 計測できている限りでも30を超える鏡の迷宮の奥深くに隠れ潜み、そこから生み出される無尽蔵の使い魔と魔力資源を思いのままにする怪異。おとなしい気質故に打ち捨てられた屋敷へと誘導されてからはそこに結界を構築し引きこもる鏡の魔女は、果たしてどのような姿をしているのか、どのような絡繰りで並行世界との接続を果たしているのか、一体その()()はどこまでなのか……多くのことが謎に包まれている。

 

 そもそも何故ピンポイントで自動浄化システムの展開を狙い使い魔を派遣できたのか。妨害にせよ偵察にせよ本気で動くならばそれこそもっと多くの魔法少女のコピーを派遣すればよかったところを何故シュウのコピーひとりけしかける程度に留まったのか。

 意図も不明瞭な襲撃は、所詮化け物の思考回路だからと軽くみるにも妙なモヤモヤとした疑念をもたらす。

 

 考えなければならないこと、対処しなければいけないことは多い。やらなくてはならないことは山積みだった。

 とはいえ――。

 

『う、うぅ……』

『わ……お姉ちゃん、やっぱりおっきくなってるよね……』

『成長期のタイミングだったのもあるかもだけど……揉まれて育つ、実例をみるとなかなかに希望に満ちた言葉であるとわかるね。いやすごいえっちだよ……』

『くふふふっ、お兄さまには随分念入りにかわいがられたみたいだねー♡ これは誘惑計画であれそれ吹き込んだかいもあったかにゃー……』

『も、もうっ! 恥ずかしいからあんまり見ないでってばあ……ひゃ⁉ ななかさん!』

『……つい♪ きゃっっ、ちょ、いろはさんてば……!』

『先に触ったのはななかさんですよっ』

 

「……」

 

 ――貴重な休息のときに、そのような憂慮は無粋なのかもしれないが。

 

「はぁぁー……」

 

 湯船に浸かり息を吐いた少年は、竹垣の向こう側にある女湯でじゃれあう少女たちの姦しい声を可能な限り意識しないようにして熱めの湯を堪能する。

 

 ――切っ掛けは、なんだったか。

 

 確かに、親愛を抱く姉妹と約束事はしていたと思う。ういには、自動浄化システムを無事に展開できたらめいっぱい労おうという約束。いろはにはういと再会することができたらまた旅行に行こうとも言ったか。

 

 とはいえ、思った以上に早い打ち上げになったというのも所感ではあった。まだ自動浄化システムの展開から10日も経っていない、シュウとしてはもう少し様子を見てからでもいいのではという思いもあったが……。

 

『約束したんだろう?なら連れて行ってあげなさいな』

 

 老婆はといえば、生半可な戦力では立ち入るのさえ制限の入るようになったミラーズに居座り調査を続けながらあっさりと口にした。

 

『お金ならあるだろう? 元々私のだからって遠慮なんかしないでそういうときには惜しみなく使いなさい。……中核メンバーがほんの数日いなくなった程度で不都合が出るようなら寧ろその方が問題があるよ、ねむちゃんにはどこでもドアみたいなウワサ作ってもらっておくし何かあったらちゃんと報告するからゆっくり休んでおいで』

 

 そんな言葉とともに智江に送り出された少年たちは、数時間の旅路を経て旅館に到着。チェックインを済ませたのち浴場に入り長時間の移動の疲れを癒す段取りとなっていた。

 湯船に浸かりながら手を開閉する。白く濁った湯を掬う掌をはじめとして、短いスパンで損傷と回復を繰り返すシュウの身は数年前とは比べ物にならないくらいにごわごわと固くなっているが身体の変化に対して積み重ねていた激戦の痕跡はない。

折角魔女なんぞと戦っているんだしかっこいい傷跡のひとつふたつでも残ってればいいのになと傷一つなく治癒をこなしてみせる恋人を思いながらぼやく少年がゆったり脱力するなかで、柵の向こうから声を張り上げる灯花の呼びかけが届いた。

 

『お兄さまー、いるーーー?』

「……居るよー!」

『くふふっ、この柵お兄さまなら簡単に登れそうじゃない? 今なら私たちしかいないし平気だよぉ、覗いてみるー?』

『えっ』

『だっ、ダメー!!』

「覗かねえよ⁉ 良いか灯花ぁ! 俺は責任をもってお前たちを預かっている以上警察沙汰になるような真似はするわけにはいかないんだ、よくよくそこんところ理解しておいてくれ!」

『……むぅ。一緒に寝たときはお尻触ってきたくせに』

「そこは悪かったと思ってるけどお前自分から他人のベッドに潜り込んできておいてその言いぐさは普通に理不尽だからな!」

「お兄さまは他人なんかじゃないもん!」

「――、言葉の綾だよ!」

 

 ざばあっと湯から身を起こした少年は、熱くなった顔を冷ますようにして手で仰ぎながら露天風呂を出る。なまじ無駄に聴力があるだけに『今ちょっと照れてたよね……』『言葉に詰まってたもんね、さては相当嬉しかったのではと見るよ……』なんて言葉さえ柵の向こう側から聞こえてくるのは拷問だった。

 

 少女たちの声から逃れるようにして露天風呂を出て屋内の浴場に足を踏み入れた少年は、やりとりが聞こえていたのか奇異の目線を向けてくる大人たちに構わず並ぶ浴槽の内のひとつに身を沈める。

 途端背を預ける壁にあった穴から噴き出す水流。ジェットバスの激しい水流がたたきつけられるのに身を任せ、気泡の泡立つ湯のなか瞼を開いた少年はぼうっと浴場の天井を見上げる。

 

 

「ゆっくり休め、ねえ……」

 

 自分は表立って大人として手助けしてやれないこともあってかマギウス事変が終わってからはやたらと甲斐甲斐しく身内やマギウスの魔法少女の世話を焼くようになったという老婆の言を呟く少年が思い浮かべたのは、今回の旅行に同伴する5人の少女たち。

 男女比まさかの5対1。こんなことなら気軽な気持ちで好き放題言い合えていろはやななか、ういたちと会わせても問題ないくらいに信頼できる男友達とか居ればよかったのになあと遠い目になる。理想を言えば魔法少女のことを知っていればなおよかった。

 

(誰か恋人か兄弟でそういう優良物件を紹介してくれる魔法少女いねえかなあ……)

 

 後に、脳内彼ピ(ガチ)をもつ魔法少女がマギウスの翼に加入したとき。死んだ彼氏を自身と『合成』した過去をもつ激重魔法少女のなかから恋人を蘇生するべく奔走することになることを少年は知らない。

 

 

 

 

「……よかったんでしょうか。みかづき荘の方々を差し置いて、私までこんな素敵なところに連れてきてもらって……」

「そんな、遠慮なんてしないでください。私たちもう大切な友だちじゃないですか。やちよさんたちだってゆっくり楽しんでいってねって言ってくれたんですから」

「せっかくの機会だから馴染み深い面々でゆっくり、ね。……そう、そうだ。僕は常盤ななかとお兄さんの馴れ初めとか聞いてみたいな」

「あーっ、それ私も気になるー!」

「えっ……。私の馴れ初めなんてそんな、普通ですよ……? 特にロマンチックな展開があっただなんてこともないですし……」

「いいからいいから!教えて!」

「え、えぇ……? そ、それじゃあ……。私とシュウさんが会ったのは親戚が営んでいた剣道の道場で──」

 

 

「あっ、お兄ちゃん!もうお風呂あがってたんだね、待たせちゃってた?」

「いや? こっちもゆったり風呂入ってたからなあ、ほんの10分前くらいで……ななか。随分顔紅いな、のぼせたか? しんどいってときは言ってくれよ」

「…………ひゃい……」

「?」

 

 備え付けの浴衣を着て休憩所にて合流した少女たちの肌はほんのりと紅く上気していたが、ななかはそのなかでも格別だった。

 なにやらニヤニヤ、ニコニコとした笑顔の灯花やいろはたちに見つめられながら俯く少女の顔はその髪にも敗けないくらいに真っ赤になっている。風呂で長話でもしてたのだろうかと心配して何かあればいうようにと告げたシュウは、顔色に対してふらついたりもしてないのに小首を傾げながらもひとまずは平気だろうと判断し自販機へ向かうことに決めた。

 

「……まあいいか。俺なんか飲み物買ってくるよ、牛乳が何種類かそこで売られてるけど何が欲しいとかある?」

「あっ私フルーツ牛乳!」

「じゃあ私牛乳にするねっ」

「温泉入ったあとの牛乳は定番だよね」

「OK、じゃあ買ってくるわ。いろはとななかは?」

「あっそしたら私は――」

「わっ、私はフルーツ牛乳で……」

 

 少女たちのリクエストを聞いた少年は鷹揚に頷くと財布片手に休憩所を離れる。自販機を前にガコン、ガコンと音を連続させていろはたちの分の飲み物を購入していくシュウは、背後から聞こえてきた「やっぱりあったんじゃない、ロマンチックなの……!」「ほ、本当にそういうのじゃないんですってばぁ……!」などといったやりとりに首を傾げた。

 グループでもリーダーの立ち位置として活躍するななかが年少の女の子相手にああも余裕をなくしているのを見るのは珍しい。まさか灯花たちに弱みを握られただなんてことはないだろうが……。

 

「……まあ、仲がいいのはいいことか」

 

 間もなく夜食の時間になる。明日からは観光が控えているとなると食事を終えたら寝るまで室内で遊びつつゆったり身を休めるのがいいだろうと判断しながら、少年は購入した牛乳を手に少女たちのもとへ戻った。

 

 

 

 

 その晩大食堂にて並べられた料理は、いずれも地元の食材をふんだんに使った絶品のものばかりの豪勢な晩御飯だった。

 食べ盛りな少年にはやや控えめな量ではあったが、それでも少女たちには十分なものだったのだろう。満足そうにして食堂を後にした少女たちはそのまま()()()()()()に集まるとトランプやボードゲームに興じ心ゆくまで遊んでいた。

 

「くふふっ、お兄さまもいい部屋を取ったよね~、源泉かけ流しの温泉が備え付けだなんて。流石にスペースは狭いけど……どーする、一緒に入る?」

「俺はもういいよ。自分の部屋にもあったろう、そっちでういたちと入りな」

「えぇー、釣れないにゃあ」

 

 そして、時計は気付いたときには10時をまわっていた。

 魔法少女の大半が学校、部活動を終えたあとから魔女を狩りに向かうことを踏まえれば夜遅くの就寝など珍しいものではないが、それでも11才程度の幼い少女には十分遅い時間帯だ。ババ抜きをしていたなかでういの瞼がとろんと落ちかけていたあたりでゲームを打ち止め、いよいよ就寝の段取りとなる。

 

 ――そこでとうとう、シュウは目を逸らしたがっていた少女たちの思惑と向き合うことを余儀なくされた。

 

「……………………なあ、俺確かに2部屋分取ったと思うんだけど」

「そうだね?」

「俺の部屋がひとつ、女部屋がひとつで分けたよな、当然の措置だもんな」

「ええ、ごくごく真っ当な判断だと思いますよ」

 

 

「じゃあさ。……なんで、みんな俺の部屋で寝ようとしてんの……?」

「……」

 

 

 その言葉に無言の笑顔が返ってきた瞬間、シュウはがっくりと首を落とし項垂れた。

 

「……どうしてそうなるんだよ~……」

「なんででしょうね……?」

(みんながシュウくんのこと好きだから、としか……)

 

 さっきまで何事かを揶揄っていたいろはたち相手に紅くなりながら弱弱しくしていたななかさえ今はイイ笑顔を浮かべている。頭痛を堪えるように目頭を揉みこむ少年は、いつの間にか部屋に並べられていた4人分の毛布に目線を向けた。

 

 ――いや、わかっている、わかっている。夜食を終え部屋に戻った段階で自分のもの以外の布団が並べられていた時点で疑うべきだったことは。なぜか少女たちが自分たちの荷物まで持ち込んできているのに気付いた段階で気にするべきだったことは。

 

 しかし、なにか不可解なことがあればある程度の段階までは自分に都合のいいように解釈したいというのが人情ではないだろうかとシュウは思う。布団が4人分並べられているのだって、女ものの荷物が持ち込まれているのだって、てっきり妹分たちが自分の部屋に泊まりたがっているのかなと思っていたのだ。ういたちなら――少なくともいろはやななかと違い何かしら疚しい感情を向けるようなことにはなるまいと判断して、ごねるようならおとなしく従ってもいいだろうと思ってすらいたのだ。

 

 いや、しかし――しかし、全員。

 いいのか悪いのか、いや悪いに決まってはいるのだがまだ断固拒否するほどではないというのがいやらしいところではあった。少なくとも自分といろはを2人きりなんて状況にされるよりはずっと健全なのは間違いない。

 

 知らぬうちに旅館にも根回しを済ませている可能性も高い。もう片方取ったはずの部屋や追加の一部屋分を購入というのは諦めたほうがいいと判断しながら、少年は疑念の言葉を吐き出す。

 

「じゃあなんで布団が4人分なの」

「え?ほら……部屋のスペースいっぱいいっぱいだし、4人分もあればあとは詰めれば……」

「はいダメ、ダメー。ダメに決まってんだろ俺、俺!男やぞ!はいここ男部屋!女どもは出ていきなさい、とても寝るどころじゃないから!」

「「「えぇーー」」」

「はいそこの女子3人もええーとか言わない! わざわざこんなこと注意しなきゃいけない俺の身になってくれって、特にいろは! ななか!」

「「……」」

 

 名指しで詰れば普通に顔を紅くして照れてるのが無性に腹が立った。俺の理性を一番信用できてねえの俺なんだが? 女の子と同じ部屋でお泊りなんてされたらどうなるかわかってんのかと半ギレ気味になるシュウに、ういは歯磨き片手に目を瞬かせ問いかけた。

 

「でもお兄ちゃんひとりじゃよく眠れないでしょう?」

「あ゛っ ?」

「お姉ちゃんやわたしが毎日一緒に寝てるのも、それが一番よく眠れるから、だよね。たまにひとりで寝る夜は凄くつらそうだったし……、その、折角の旅行なんだしわたしも、お兄ちゃんにはゆっくり休んでほしいなって……。その、私もお兄ちゃんとなら――」

「やめろやめろやめろ、わかったから、わかったから。いろは、ななか、灯花、ねむ。出てけ俺は可愛い妹と――悪かった悪かった俺が悪かったから枕投げるのやめろ!!!!」

 

 魔法少女の腕力で枕を投げつけられるのは地味に痛かった。白い枕が投げつけられるのに紛れて灯花の言い放つ「事案ー!」の叫びに「お前らと寝るのも事案なんだよ!」と叫んで枕を投げ返していた少年は、多勢に無勢の枕投げにとうとう観念して腰をおろす。

 

「じゃあ俺は布団ひとつ使うから。ここ俺の部屋だぞ、そこは譲らんからな。他で詰め……」

O()K()A()S()I()T()E()Y()A()R()E()B()A()

「っ、――。…………………………」

 

 ――邪念が、よぎってしまった。

 

「……シュウくん?」

「……歯ぁ磨いたら寝るか」

 

 ――()()()()()()()()()、と。

 自分を見上げる桃色の少女、枕投げではだけた胸元から双丘が作る谷間の伺えた少女を一瞥しシュウは洗面所へと向かう。

 

 ()に映った自分の顔は、普段通り。目つきは若干鋭くなってしまっているかもしれない。

 

 ……暫く、難しいことばかり考えていたからか。眉間に皺ができてしまってる気もした。

 まあ、この旅行中くらいは難しいことなど考えることもないのだ。羽を伸ばすくらいの気楽な心地で好きにするのもいいかもしれない。

 

 歯を磨き、爪の長さを確認し、なんとなく鏡を見て、眉間をほぐし、()()()()()――なにをしようとした?

 

(……こっわ)

 

 全身の背筋の総毛だつような危機感。鏡の前に映る自分は限界まで目を見開いている。

 いったい、自分は……?

 

「シュウさん」

 

 だめだだめだダメだ今来るな、来るな、いま来るのはまず

 

「……どうした」

「いえ、その、実は……一瞬、『敵』が視えた気がして……でも今は何も――シュウさん、大丈夫ですか?」

「いや、まあいろいろ考え事をな。()()()()()()()()()()()()()()()()()、とか」

「ッ」

 

 本音だ。

 本音ではある。でもそれは言うことではない筈だ。おかしい、おかしいだろ。これ、は――。

 

「ななか、俺は……まあ嫌いじゃない、うん。好きだよ、ななかのことも、いろはのことも、ういたちのことも。だけど俺も男だからさ、なーんかいろはがGOサイン出してるなかでそうやって好きな子に近づかれると……。悩む、いろいろと」

「……シュウさん、私は、その……」

 

 気色悪いこと言うんじゃねえ、思ってても言っちゃまずいこともあるだろう

 

 ()()()()

 じろりと浴衣に包まれた細身の身体を()める。そういう視線を男から受けた機会なんてそうなかったのだろう、びくりと身を震わせた紅髪の少女はシュウを見つめ、唇を震わせ――。

 

 黒髪の少年は、なんてことのない普段通りの調子で笑みを浮かべた。

 

「寝るか。それでどうするななか、マジで部屋変えるか、俺から離れて寝るか? いろはからケダモノだとかどうとか聞いてんだろ、この期に及んで嫌じゃないとか言い出すなら流石に遠慮せんよ俺」

「ッ……い、いえ。私はその……構わない、です」

 

 舌が滑る ざけんな 酔ってんのか俺 ななかもお前拒絶くらいしろバカ

 

 洗面所を離れななかを伴って室内に戻れば、寝る準備を整えながらもいざというときは変身できるようにと手にする指輪を意識している様子の少女たちがいた。

 

 いったいどうしたのか、と首を傾げ、そういえばななかが『敵』だどうだと言っていたことを思い出す。

 

「あっ、シュウくん。さっきななかさんが魔法でなにか感知したみたいだけど……」

「そうらしいな? でも俺もなんも感じないしなあ……。ねむ、寝る前で悪いけど念のためなんか偵察用のウワサでも出してくれるか? いざというときは俺が行くからさ」

「折角のお休みなのに? ……むふふっ、気にしないでいいよ。うい、灯花。偵察用のほかに護人(モリビト)のウワサ*1を3、4体と、あとは防音できるウワサを用意するから魔力を――

「過剰戦力じゃない? くふふっまあいいけど!じゃあ――」

「折角の旅行だもんね!」

 

『理』の力を握る3人の手により次々とウワサが生み出されては宿の壁をすりぬけ消えていく。一般魔法少女が見ればドン引きするだろう戦力を軽率に放った少女たちの様子を見守りながら、部屋に並べた布団を吟味する少年はどっかと真ん中を陣取り恋人を手招いた。

 

「? どうしたのシュウくん――ひゃあ!?」

「いろは、おいで。……ほら、ななかも」

「きゃっ……」

 

 2人の腰に手をまわした少年はそのまま彼女たちを引き寄せ自分の腕のなかへ抱き寄せる。

 それに気づいた灯花が『変換』を行いつつも目を剥き、「あぁー!?」と叫んだ。

 

「お兄さまぁ、なにやってんの!? もしかして――」

「ん、あぁ――俺の隣はいろはとななかな、もう決めました。散々俺の部屋は止せって言ったのにさあ、事案だどうだとかもうマジで知らん、これ何があっても俺じゃなくてこいつらが悪いよなあ?」

「お姉さまもななかもズルいー!私も――」

「触ってもいいならこいよ。今晩の俺だいぶ最悪だからな」

「……お兄ちゃん完全に振り切れちゃってる……」

「お酒でも飲んだのかな……。日頃から誘惑してたのがこのタイミングで爆発したのかも?」

「……むー、ズルーい」

「仕方ない……」

 

 何が仕方ないというのか。

 それを問いかけるよりも早く、シュウたちとういたちとで室内を仕切るようにカーテンがかけられる。ウワサの魔力が室内に満ち、まさかとシュウといろはは目を見開いた。

 

「ごゆっくり~」

「あっ……。あさは感想聞かせてね!」

「そんな、流石にシないよ!? ……シュウくん?」

「なんつう気遣いを……まあいいや、いろは、ななか、おいで」

「ひゃ……」

 

 ぎゅうと、両の腕で2人を抱きながら布団をかぶる少年は掌から伝わる少女たちの柔らかさを感じながら瞼を閉じる。

 いろはとななかも困惑こそしながらも、シュウが特になにかをする様子もなく寝入ろうとしているのを見るとなんとも言えぬ表情で少年を挟んで顔を見合わせ苦笑した。

 

 そんな彼女たちの浴衣の胸元からぬるりと、ごつごつとした手が忍び入る。

 

「ひあ……」

「っ、?」

「――ういたちが寝たら、な」

「ぇ」

 

 

 

 

 ――ほらっ、まずはいろはから。お手本見せてやらないと、な?

 

 

 ――可愛いな本当に。……ほんと、ななかならこんな男なんかよりもっと選びようがあったろうに……。ういたちもそれは大概か。

 

 

 ――ハジメテだろ? もう少し慣らしてくからな、待ってろ……、ああ、多分ねむの気遣いで防音になってるから声は出していいぞ、ほーら。

 

 

 ――意地悪? ……よく言われる。

 ――ほら、腰もっとあげて……、いろはも盛り上がってんなあ。

 

 

 ――おいで。

 

 

 ――シュウくん。 ――シュウさん。

 ――――愛してます。

 

 

 ――俺も、愛、し――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッッッ……!!??」

 

 

 

 ガバッと布団を剥いで身を起こした少年は、顔色を青く紅く目まぐるしく変えながら着衣を確認する。

 青白い布地の浴衣は前が開かれている。元がほどけやすいといえばほどけやすい結び方となっていたためこれでは寝相で剥がれたのか否か判別がつきづらかった。

 

「――」

 

 脳裏をよぎった、肌色。

 夢か妄想であったと思いたい柔肌の重なり合う光景を首を振って掻き消す少年は、部屋を確認してカーテンがないのに気付くと安堵の息を吐き、紅と桃の少女たちがいないのを悟り身を強張らせた。

 

「……おにいちゃん、ってば……」

「すぅ……」

「ん、んんん……」

 

 布団の並べられた室内で寝ているのはういたち。健やかな寝息を吐く少女たちがひとつの毛布のなかに集まって寝ているのに微笑ましい気持ちになりながらも、焦燥を落ち着けるように呼吸を繰り返した少年はいろはたちと寝ていた布団のまわりを確認し朝風呂用にと彼女たちの用意していたタオルがないのを確認しひとまず動悸を落ち着ける。

 

 まだ慌てるときではない。まさか彼女もちの自分がういたちもいる部屋であのような暴挙に走ることなどないのだ、未だ脳裏にへばりつく肌色の光景は夢であると割り切る少年は、どっとかいた汗のへばりつく感覚を覚えながら枕もとから拾ったタオル片手に部屋に備え付けられた浴室の扉に手をかける。

 

(そう、夢、夢に決まってる。流石に3Pなんてそんな――)

 

「ッ、のっ、もう! いろはさんってば本当、ちょ、そんな……ッ」

「ふふっ、ごめんね。ななかさんえっちだからつい――シュウくん?」

 

「――」

 

 ひゅっ、と喉から漏れ出る吐息。少年は束の間、頭のなかが真っ白になった。

 

 浴室の方から溢れる熱気。脱衣所にまで溢れていた湯気がシュウの方にまで流れてくる中、ぽたぽたと全身から雫を滴らせる少女たちの姿があった。

 柔らかな肌は紅く火照り、華奢な身体を見つめる目線から遮るものはといえば白いタオルくらいのもので。それさえもほとんど役割を果たさずに彼女たちの浴衣を畳み収納するケースのなかで、伸ばしかけた手を彷徨わせる少年は数秒の沈黙と凝視ののちようやく再起動を果たした。

 

「っ――、悪い、すぐ……」

「シュウさん」

 

 ――嗚呼。

 現実は、否応なく少年の鼻先へ己が所業をつきつけた。

 

 流石に恥ずかしいのか、胸元と鼠径部へかけてをその細腕で覆いながら。

 首筋を中心に湯の熱気によるものとは違う紅い痕を残す少女は、いろはと微笑みあっては艶めかしく微笑んで小首を傾けた。

 

「お風呂、一緒に入られますか? よろしければ、ですが――」

「――また、たっぷり愛してくれる?」

 

「――ぁ、あ」

 

 拒絶するのは不可能だった

 土台が足元から崩れ去っていく感覚を覚えながら、シュウは誘われるままに浴室へと足を踏み入れた。

 

 

*1
元魔女守のウワサ





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