環いろはちゃんと共依存的にイチャイチャしたい人生だった   作:風剣

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覚悟

 

 

 高校を卒業してプロ野球選手にでもなったら、いろはにプロポーズをするつもりだった。

 

 この身体能力ならどのスポーツでも通用する。高等部に進学したら野球部に入ってプロ入りを目指し始動、ホームラン王として一定の名声と財産を手に入れるつもりだった。

 普通なら無謀だと笑われるだろうか? だが自分は、少なくとも――誰よりも、家族(はは)に恵まれていた。

 別に野球でなくともサッカーでも、ラグビーでも、格闘技でも構わない。自身の最大の資本は大抵のことはこなすことのできるくらいに優れた生まれ持って与えられた肉体で、それさえ活かして活躍できる分野に就ければたったひとりの女の子と、彼女と築くことになるだろう家庭くらいは守り苦労させることなく生活を営むことができる、そのくらいの財を稼げるという自信はあった。そうして、最低限の土台を若い内に築いておけば――胸を張って、ずっと一緒に居たいと思える少女に指輪を渡せるだろうと、そう思っていたのだ。

 

 魔法少女の救済さえ果たせたならそのくらいのことはできるだろうと、本気で思っていた。

 

 甘い見通しでしかなかった。

 たった一晩、それだけで。少年の密かな夢想は容易く打ち砕かれた。

 

「んっ……」

「ぇへ……シュウ、くん……」

 

(…………あーーーーあ〜〜〜〜………………)

 

 ヤっちまったぁ……。

 

 膝上ではいろはが、右腕にはななかが。夜中の行為の熱が冷めやらぬなかでの交わりの果て、力尽きた少女たちは半ば気を失いながら少年に身を委ねている。決して広くはない浴槽のなかで頬を紅潮させシュウに密着する2人は、蕩けたような表情さえ浮かべ柔肌に触れられるのも厭わず彼にその総身を堪能させる。

 表情の、仕草のひとつひとつ。言葉がなくとも伝わる彼女たちからの情愛が、シュウの胸の奥をきりきりと苛んだ。

 

 ――いろはとともに過ごしていくにあたっても、将来の進路を考えていくにあたっても、シュウの想定にいろは以外の女性と身体の関係を作るだなんてものはなかった。

 この先のいろはと、ななかとの関係はどうすればいい? 同じく自身が肉体関係をつくる相手が今後現れたらその対応は? そもそもいろははななかとの接近をある程度受け入れていた節はあるがその限度はどこまでなのか? ななかを愛人も同然の関係にするとしても1年後は、2年後は――更にその先を考えるなら、そんな関係性を許してもいいのか、不義理は、ういたちのことは、今後のマギウスの活動への影響、いろはのお父さんやお母さんにはなんといえば――。

 

 何もかもがめちゃくちゃで、今更過去には戻れなくて、最早何をしてもどうしようもない失敗に繋がってしまいそうな気がして――この先を考えようとすると、目の前が真っ暗になるような絶望感を覚える。

 きっと、正解なんてものはもう存在しない。これからはなにもかも手探りでやっていくしかないのだろう。

 

 ――その果てに、大切なものさえ傷つけることになったとしても。

 

「……最っっ悪だ俺……」

 

 絞り出された言葉だけが、少年にいま吐き出せるすべてだった。

 少女たちを抱く柔らかな温もりとともに身を包む多幸感とは真逆に、先の展望を思うとどうしようもなく暗澹たる気持ちにさせられる。

 

(……ういたちには一体、なんて詫びれば良いんだろうな……)

 

 目下最初の問題は、カーテンによる遮蔽、防音が恐らく効いていたとはいえ同じ部屋に寝ていたにもかかわらずおっぱじめてしまったのに居合わせた妹分たちへの対応だろうか。

 100歩譲っていろはの合意のもとななかと愛し合うのは良しとしても、妹が居る場で2人とまぐわいだすなど我が事ながら正気ではない。どうしてああいうことをしたんだろうかと遠い目になりそうになるが、彼のしたことはもう取り返しのつくようなものではなかった。

 

 平身低頭で謝ってどうにかできるようなものだろうか?でもそれ以外にできることなんかないしな……。途方に暮れる少年が現実逃避するようにいろはの首筋に顔を埋めていると、浴室の向こうからぱたぱたと足音が聞こえた。

 

 まさか――。近づく足音に身を強張らせたシュウが反応するよりも早く。

 勢いよく浴室の扉を開いた灯花は、浴槽のなかで両手に花やらかす少年を目の当たりにするとギョッと目を見開き、頬を一気に紅く染めた。

 

「お兄さ――、うわすご……」

「とっ、ととと灯花ッ? い、一体どうしたんだ。悪いけど俺らとても見せられるような姿してな──」

「そ、それは見ればわかるもん! そうじゃなくて、えっと……あっ、そうそう!お婆様から電話きてるよ!」

「………………………………うっそでしょもうバレたの……?」

 

 くらりと視界がゆらめいたのはきっとのぼせたのが原因ではないだろう。胸の奥の痛みが激しくなる錯覚を覚えながら恐る恐ると手を伸ばしたシュウは灯花から携帯を受け取り耳に押し当てた。

 

「もしもし、代わったよ婆ちゃん。悪いけどいまちょっと立て込んでるからさ、急ぎでないならあとでで大丈夫かな」

『おはよう、シュウ。それは別に構わないよ、私はそちらの近況を聞いてみたかっただけだからね。宿は――』

「ん……シュウさ、また、キス――、ぁ、灯花さんッッッ⁉ 待っ、その、えっとっ、見ないで……」

『……シュウ?』

「……」

 

 首筋を嫌な汗が伝う。

 なんと言い訳したものか──頭を捻り誤魔化しの言葉を絞り出そうとした少年の膝上で、桃色の少女が悩まし気な声をあげ彼にもたれかかった。

 

「……今のはなんだったんだろうな? それじゃあ婆ちゃん、切るからまた後で──」

「ん、ちょっと寝ちゃってたかな、のぼせちゃったかも……。ごめんねシュウくん、腰が抜けちゃって立てないからだっ、こ──。……とっ、灯花ちゃんなんでここに!?!?」

「……」

 

 勘弁してほしいと目で訴えかけるのも効かず羞恥で爆発した2人の少女に、シュウは無言で天を仰いだ。

 無断でお婆様に告げ口しない程度の配慮はしてたんだけどなあとでも言いたげに半目になる灯花の視線が痛い。

 

『……シュウ』

 

 そして、最早言い逃れはできそうになかった。

 

『お楽しみだったところ悪いけれど……少し話を聞かせてもらおうか。電話はいったん切ってもいいよ。どうやら立て込んでるのは本当だったみたいだし……ねえ?』

「ハイ……」

 

 

 

 灯花に礼と詫びと埋め合わせの約束をしつつ戻ってもらい、のぼせ気味になって目を回すいろはとななかを浴槽からあげ介抱したシュウ。タオルで全身を拭った2人に浴衣を着せ、水分補給はしておくようにと言って部屋へと帰した少年は数分言い訳を考えたのちにようやく大人しく責を認めることにして老婆に電話を掛けた。

 

『確かに休めばいいとはいったけどね。可愛い妹たちを労うための旅行で随分と羽目を外したみたいじゃないか』

「す、すいません……」

『謝るのは私にじゃないよ。残りの1泊を使っても、他でなにか予定を作るでもいいから埋め合わせはきちんとしなさい、本当に。……あの子たち、今回の旅行は本当に楽しみに――待って、まさかういちゃんたちには手を出していないだろうね』

「出すわけないだろ11才だぞ!?」

『ならいいんだ。いや、正直なところシュウじゃ灯花ちゃんに本気で迫られたら拒絶できないだろうと思って……いや、それは別の機会に話そうか』

「……」

 

 言ってやりたいことはないでもなかったが迂闊に深く追求してしまうのは不味い気がした。下手に手出ししてしまえば人生の墓場へ直結してそうな──。

 ごほんと、咳払いをひとつ。通話の向こうで老婆が「これは真剣な話だよ」と重々しく告げるのに、シュウも頷きながら腹を決め彼女の叱責を受けることを決める。

 しかし、沈黙した彼の予想に対して投げかけられた言葉は意外なものだった。

 

『いろはやななかの人生に対する責任はどう取るつもりなのかとか。万一のことを考えたときどう生活していくつもりなのか。もし関係が露見した時の周囲の目からどう2人を守るか──そういうのも重要ではあるけど、正直なところたいした問題ではないんだ』

「……え?」

 

 シュウの環境ならその気になればぜんぶ解決できるだろうしね、と。

 なんてことのないように口にした老婆は、失笑さえ浮かべ嘯いているようだった。

 

『私はもう社会には出られない死人、唯一の大人の癖していまだって魔女結界に引きこもって孫たちの面倒もみれない老いぼれに説教くさいことする資格はないさ』

「い、いや流石にそんなことは……」

『今回のだって一応はそれぞれの合意があったんだろう?それなら私にどうこうと言えることはないよ。ただまあ、こんな生き霊にでも助言と……あとはちょっとした事実確認くらいならできる』

 

 ここからが本題、と。

 鏡の結界、その深層にて。昨晩になって不審な動きを見せていた鏡の魔女の動向を探る智江は、端的に問いかけた。

 

『シュウは覚悟を決められているかい?』

「……」

 

 即座に肯定することができなかった事実が、暗に答えを表していた。

 

 携帯を耳に押し当てながら白塗りの天井をみあげる少年は、言葉を探すように沈黙する。

 老婆は急かしはしなかった。

 

「……………………ぁ、…………………………おれ、は」

『うん』

 

 喉がからからになるのを感じながら。

 恥じ入るように、悔いるように。歯をきつく噛みしめ、逡巡の後にシュウは絞り出した。

 

「覚悟だなんて、まったく。決められてなんかない」

 

 だって、そうだろう。

 友愛であれ情愛であれ、懇意にする少女たちから好意を寄せられるのは満更でもなかった。自分だって彼女たちのことは好きだったから。こんな自分を好いてくれるなら相応の振る舞いは心がけていたいと奮起するのだって一度や二度ではない。自分は確かにそれに勇気づけられ、奮起していた。

 

 けれど、だからといって恋人のいる身で彼女たちを手籠めにしようだなんて、そんなことは断じて、思ったりなんか。ましてや、妹のように思う少女たちのいる部屋でなんて――。

 朝起きてみれば、自らの置かれていた状況はすべてが理解の及ばないもので。

 

 本来ならいろはたちを抱く段階で抱いているべきだったのだろう覚悟など、まったく追いついてなんかいなかった。

 

『あぁ……。まあ即答されなかった時点で粗方答えはわかっていたよ。それはそれで問題だけれども、まあ覚悟ができていないと自認できているのなら進歩の余地というものは十分に残っている。とはいってもシュウなら抱く前にその辺の覚悟を済ませておいてるだろうと思ってたんだけども……』

「……面目ねえ」

 

 返す言葉もなかった。

 ずっしりとのしかかり心中を占める悔恨は苦く、重い。若干の戸惑いさえみせた老婆の言葉になにもいえず項垂れるシュウは、がくりと膝を折り壁に背を預けるようにして弱弱しく座り込んだ。

 

『――ひとくくりにして覚悟といってもね、いろいろあるよ。シュウの場合なら決めておかねばならないものは幾つだってある』

「……うん」

『何を敵にしたとしても、一度愛した女の子たちをそのまま愛しぬく覚悟が。自分の人生のすべてを、愛すると約束した女の子のために捧げる覚悟が。……それができないのなら、片割れを()()()()()それまで積み重ねた言葉と時間のすべてを踏み躙る覚悟が必要になってくる。自分の選択の結果として好いた女の子が()()()()()()()()()()()()()()()()()それを自分の責任として受け止める、そんな覚悟もね』

 

 魔法少女救済の有無なんて関係ないよ?

 そう念押しした老婆が告げた言葉には、10代半ばの若造でしかない少年にも伝わる重みがあった。

 

『魔法少女を愛するっていうのはね、そういうことなんだ。――あの娘たちはね、持つ力に対して心があまりにも未成熟すぎる。……いろはちゃんやななかちゃんに、昨日は何か言われたりしたかい?』

「……?」

『愛しているとか、好いているとか、そういうことだよ』

「……言われたよ」

 

『それがね、2人の覚悟だよ』

 

 ――。

 

『いろはもななかも、シュウのことを完璧な存在だなんて考えちゃいないよ。欠点なんていくらでもある。すべてを解決してくれる最強のヒーローだとも思ってはいない。傷つけられることだってあるだろう。衝突することだってある。もしかしたら、その果てに殺されることだってあるかもしれない』

「そんなこと――」

『いいかい、シュウ。いろはちゃんたちはね、貴方になら殺されても良いと思って、そのうえで貴方を愛したんだよ』

「ッ……」

 

 正気の沙汰ではないと、そう言ってやるのは簡単だっただろう。

 しかし、今更『まとも』で在ろうとするには。もう彼は――。

 

『いいかいシュウ。私が貴方に要求できるのは、たったひとつだけだ』

 

 傷つけたっていい。拒絶したっていい。切り捨てたって、犯したって、命さえ奪われたとしたって構わない。いろはたちが少年に向けている情愛と、それに対する覚悟というのはそういうものだった。

 

『だから、向き合いなさい。自分の気持ちに、いろはちゃんたちの気持ちに、今まで交わし、積み重ねてきた言葉と時間に。そうして出した結論に責任をもって、自分を貫き通す。それが覚悟を決めるということだよ』

「……」

 

 それは、人生の先達としての助言か。老婆の言葉を噛みしめるようにして反芻する少年は、壁にもたれかかりながら少女たちにかける言葉について考える。

 ――やがて考えを纏めた少年は、脱力していた身体に喝を入れぐっと身を起こした。

 

「……ありがとう、婆ちゃん。少し、いろはたちと話してくる」

『ああ。……何も心配することはないさ。少なくともあの娘たちは……シュウの弱さくらいしっかり受け止めてくれるよ』

「……そうかな。そうだといいな……」

 

 なんともありがたい激励だった。ほのかな苦笑を浮かべ通話を切ったシュウは、洗面所の扉を押し開くと部屋で待っていた少女たちのもとへと向かう。

 布団が並べられたままの室内には5人の少女たち。少年が戻ったのに察したいろはが目線を向けたのに他の少女たちもシュウに気付くとぱっと立ち上がって駆け寄った。

 

「お兄ちゃん大丈夫?怒られたりしなかった?」

「ありがた~い説教はもらったけど平気だよ。悪かったないろいろと。……灯花もありがとうな。3人とも、後で埋め合わせは必ずするから。……あ、でも悪いけど――」

「はいはい、大事なお話あるんでしょ? ……しょうがないにゃあ、私たち先に朝ご飯行ってようか! お兄様も終わったら話聞かせてね!」

「悪いな本当に……、……ねむ?」

「夜……。どうだった? 気持ちよかった?」

「許してくれ……、11才の女の子にそんなこと聞かれたらなんて対応したらいいのかわかんねえよ……。いろいろ配慮してくれたのは本当にありがとうな……」

「感想……」

「……………………あとで、話すから……」

 

 たった一晩で相当デカい借りを作ってしまっただけにねむには弱い。指切りげんまんまでさせられにっこりと笑顔になった彼女に「約束だよ」と絡め合わされた小指が離れ小さな背中が廊下へと消えていくのを見送った少年は既に黄昏ていた。

 

「シュウさん……」

「……俺は、弱い……」

 

 たった一晩でとんでもないヤらかしをしてしまったものだった。

 遠い目になって嘆息するシュウが振り返れば、先程浴槽でのぼせたばかりにしてもななかやいろはも顔がやけに紅いのに気付く。姦しいガールズトークであれそれと聞き出されていたのか、若干落ち着かなさそうにしている2人に苦笑いした彼はどっかと座り込んだ。

 

「2人とも、ちょっといいか?」

「あっ……」

「シュウくん、話って」

「これからの話を少し、な」

 

 そう口にすれば自然、いろはとななかは居住まいを正し向かい合うようにして少年を見つめた。

 この場合楽にしていいというのが正解なのか多少固くとも丁寧な対応が正解なのか。逡巡の末正座になった少年は、膝下に手をつけると深々と2人に向け頭を下げた。

 

「シュウくん……」

「まずは、すまなかった。いろはも、ななかも……。2人を抱いたこともそうだけれど、ういたちが居る部屋で調子に乗って手を出したこと、初めてだったななかにあんなことをしてしまったことも含めて一度謝らせてほしい。本当にすまなかった……」

「……き、昨日は一晩でいろいろと凄いコトを経験してしまったせいで何で謝られているのか……。あっ良いです説明しなくて結構ですッ。いろはさんまで頭を下げたりしないでいいですから!」

「その、私もななかさんが可愛かったからついたくさんイジめちゃったし……」

「よしてくださいってばもう!」

 

 頬を赤らめ叫ぶななかに口元を弛めかけた少年は気を取り直すように眉間に手を押し当て頭を上げる。咳ばらいをしていろはたちの視線を集めた彼は、真剣な面持ちで自身の所感を伝えた。

 

「――()()()()()()()()()、責任は取る。ただ……それでもやっぱり、気になるのはいろはと、ななかの気持ちだ」

「いろはに対して昨日の夜からの一連のことは、全面的に不義理になる。俺は恋人がいる身で他の女の子にまで手を出した。いろはへの気持ちは変わってなんかいないと断言できるけれど、その一方でななかに惹かれる気持ちもある。普通に考えて最悪の男だ」

「ななかにも――。……これからも俺と付き合いを続けてくれるというのなら、まず間違いなくたくさんの苦労をかけることになると思う。それは私的な関係でも、魔法少女救済を目指しての活動でも同様だろうし……。俺との関係そのものが、自分の家を再興させようとしているななかの足枷になることだってあり得ると思ってる」

 

 神妙な表情で少年の言葉に耳を傾ける少女たちが口をはさむことはなかった。

 それをありがたく思う気持ちと同時、なるべく客観的に自身と関係を続けることのデメリットとなりうる要素を羅列していくシュウの胃はきりきりと痛んでいた。一度沈黙してしまえば一番伝えたいことすら言えなくなってしまうような気がして、冷や汗を浮かべながら彼は言葉を紡ぐ。

 

「俺と関係を続けること自体、正直なところお薦めはできない。少なくとも俺と同じ条件の奴と付き合おうとする女の子が居たら、俺は全力でやめておけと言うと思う。――身勝手で、向こう見ずで、最悪な男だ。本当に2人の幸せを願うのなら、俺と別れた方がいいとは正直思う」

「――、それは」

()()()

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。幸せにできるか、だなんてこの期に及んでも保証はできない。こんなことをやらかした俺に本来信頼なんてものはないのかもしれない。だけど、けれど――」

 

 

「いろはが、ななかが、2人が好きだ。愛してる。2人を幸せにする、そのために全霊を尽くすと約束する。だから、だから――こんな男でよければ、どうか俺と付き合って欲しい」

 

 

 再び頭を下げようとした少年を、伸ばされた手が止めた。

 肩を抑え、頭に添えられる手。ななかとともにシュウの身動きを止めたいろはは、想い人を同じくする少女と顔を見合わせ互いに微笑みを浮かべると慈愛に満ちたまなざしで彼を見つめた。

 

「頭なんか下げないで、シュウくん。私たちの答えなんか決まり切っているんだから」

「私の家門のことだって、気にしないでください。復興の算段くらいたててあります、このくらいで足枷だなんて、そんなことはないですし――苦労だなんて、それこそお互い様です」

「だからね、シュウくん」

 

 少女たちが身を寄せる。両隣で柔らかな温もりが触れるのを感じた。

 ――chu♡

 

「――」

 

 両側から寄せられた唇が頬に触れ、離れていく。

 呆然と目を見開く少年を他所に顔を離したいろはたちは悪戯っぽく笑うと、照れくさそうにはにかんで見せた。

 

「……これからも3人仲良く、ね? 私だってななかさんのこと大好きになっちゃったのは同じなんだからっ」

「んっ、んッ。……不束者ですが、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。私の方こそ、責任――しっかり、シュウさんには幸せになっていただきますからね♪」

 

「……ぇ、あ……。うん……」

 

 顔が熱くなるのを自覚する。たまらずに顔を両手で覆い、天井を仰いだ少年は声にならない唸り声をあげ、どうやってクスクスと笑いながら密着してくる少女たちの追撃を乗り越え朝食の場へと向かうかを考えはじめた。

 

「ところで、先程まで自分の非をあげつらっていたのはひょっとして予防線かなにかですか? 嫌われても仕方ないってアピールが強いなと思ったのですけれど」

「ぬっ」

「そんなこと言われたって私たちの好きって気持ちは変えようがないのにね? シュウくん変なところで自分のことを卑下するのやめた方が良いと思うな」

「シュウさんって変なところでコンプレックス拗らせている気もするんですよね……。まあそのくらい誰にでもあるものかもしれませんけれど……」

「むぐ……」

「でも……えへへっ。付き合うようになったときは私からの告白だったから、こうしてシュウくんにも付き合って欲しいって言われたのは嬉しかったなあ」

「ぬ……」

 

 ――今更ではあったが。

 自分という男は、好いてしまった女の子にはとことん弱いらしい。

 

 





・残りの旅行中はめちゃくちゃういちゃんたち構い倒した、別で埋め合わせの約束もしたしマセガキどもにしっかり夜のあれそれは絞り取られた
・シュウくんといろはちゃんの生活リズムに「週1でななかさんの家にお泊り」が加わった
・フェントホープの一室をラブホに改造してシュウくんにあげる計画がねむちゃん主導で進行中
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