環いろはちゃんと共依存的にイチャイチャしたい人生だった 作:風剣
R18短編のネタも着実に積まれつつあるしそろそろ消化していかねば……
『これからは大変になりそうね』
ななかとも付き合うようになって間もなく、そんなことをやちよから言われた。
モデルとしてある程度活動していれば男女の惚れた腫れただなんて話は珍しくもないのだろうか。倒錯的極まるいろはたちとの関係のことを聞いた時も驚くどころか『とうとうやったか』とでも言わんばかりの態度で受け入れていた彼女は、ある日の買い出しのなかで少年の傍らを歩きながら流し目を送っていた。
『わかっているでしょう、貴方たちの踏み越えた一線が影響を及ぼすのが単純に3人のみに留まるものではないということくらい』
ご迷惑をおかけしますと震え声になった少年。しかし頭を振ってそういうことではないと否定したやちよは、どこか呆れさえ含んだまなざしでシュウを見つめていた。
鈍いというほどでもなし、女心も多少はわかっているものと思っていたけれど……どうしてもそういう勘は異性だと働きづらいものなのかしらと。そう口にして柳眉を寄せた彼女は、彼に言い聞かせるようにして自身の感じ取った『変化』を語る。
『貴方たちが壊したのはブレーキよ。それも当人の間だけで完結するものではない、貴方たちと……特に桂城くんが関わりあう多くの魔法少女たちが無自覚にかけていたブレーキ』
あるいは、火を点けたとでも言うべきか。
あの夜の交わりを経て、シュウはななかとの交際を始めた。恋人であるいろはの公認も得た不健全極まる同時交際が発覚すると当然のように少年は反発を受け、罵られ、女の敵呼ばわりされ――同時に、それを絶好の好機と捉えただろう者もいただろうと、やちよは気付いていた。
あるいは、シュウがいろはひとりだけを愛していたならば最初から終わっていた恋として割り切ることのできていただろう少女。しかし、彼はななかを愛し、いろはともども全力で幸せにすると関係を築いた――。
『2人目をシュウさんが作った、ならもしかしたら私も女にしてもらえるかもしれない──。そういう思考になる娘を私は責められないわね。今回貴方がみせたのは、そう思われても仕方がないくらいにはあらかさまな隙よ』
『……それは、流石に言いすぎじゃあ……』
『貴方も薄々アプローチが強まりだしたのは自覚してるでしょう、たとえば――里見さんたち。貴方は妹としてあの子たちを見ているみたいだけれど、あの子たちの側はどうでしょうね?』
『……』
そこを突かれてしまえば弱かった。
何も言い返すことができなくなって沈黙するシュウの浮かべた表情がよほど面白かったのか、クスクスと笑いだすやちよを憮然と睨む少年は低い声で唸る。
『……3人目は、ないですよ。こんな状態の俺が何を言っても説得力はないかもしれないけれど――これ以上関係をもつ娘が増えたら、俺はとても胸を張っていろはたちを愛してるだなんていえなくなる』
倫理的にどうとか、他者からの目線だとかは今更配慮していたりはしていない。
自分で納得して向き合うことができるかどうか。それが、彼にとって最も重要なことだった。
『どうかしらね。私の所感を言わせてもらうなら……、今の桂城くん、「本気」で自分のことを好いてくれる女の子にアプローチをしかけられたら断り切れない気もするけれど』
『……いや、そんな。そもそもこんな男なんかがそこまで好かれたりなんか――』
『あら、魔法少女がどれだけ頼れる相手に飢えてるかわかってないのね。支えてくれた、助けてくれた、守ってくれた、相談に乗ってくれた、共に背を預けあって戦えた――。それが恋に直結するかどうかはともかくとしてもね、貴方の意識しないようなことひとつが途方もない救いになったりすることもあるのよ』
こそばゆそうな、決まりわるそうな、複雑な表情をする少年を見つめるやちよの蒼い瞳は愉快そうに細められている。
特売品を手持ちのカゴに乗せられる少年が浮かべたのは、そこまでだらしのない男にはなりたくないという倫理観とぐうの音も出ねえという諦観の渦巻く心中を表すような苦々しい顔だった。
意見そのものは非常に参考になるものであるにせよ、表情は完全に面白がっているやちよにシュウは憮然と塞ぎこむ。
『……そういわれると拒絶しづらくなるじゃないですか』
『そもそも貴方が自分を慕う女の子を無下にできるほど冷たいとも思えないのよね』
『褒められてんだか遠回しに女好きの不貞野郎とでも罵られてんだか……』
ななかと関係をもった時点でそのような評価をくだされても文句のいえる身分ではないというのは百も承知ではあれど、思うところがないわけではない。いくらなんだってそこまで女に飢えては、飢えてるだなんてことは――。
『………………灯花たちはもちろん、他の女の子たちにまで手を出すだなんてことはまずないですよ。流石にそのくらいは――』
――そんな、喋るほどに情けなさの露呈する弁明をどれだけしたのだったか。
暫く前にしたそんな会話を、リビングに座るシュウは虚ろな目になって思い返していた。
「貴方本当に大丈夫なの?」
「……ぐうの音も出ねぇ……」
ういたちに彼女が着せたのと似通った魔女コスを身にまとうやちよの前で沈痛に首を折る。がっくりと項垂れる彼の耳や尾もまたその心中を表すかのように重々しく垂れさがっていた。
想定より遥かに突き刺さってしまった妹の誘惑、それに対してあまりにも明瞭に露わとなってしまった己の浅ましさに気落ちする少年は呆れたように見つめるやちよに何も言い返せなかった。
「11才の女の子だからって油断してたでしょう。貴方自分で思ってるよりだいぶあの子たちのこと大好きなんじゃない? そりゃ本気で誘惑されたらああもなるわよ」
「いやそんな……ことは……」
「桂城くんが匂いフェチだったのは予想外だったけどね」
「そんな…………ことは…………」
否定する言葉にも力はない。抱きあげた幼女の匂いを嗅いで尻尾をぶんぶん振って興奮していた変態オオカミには最早言い逃れする余地もなかった。
「まあ気にすることはないわよ。その仮装、見た目通りに嗅覚まで鋭くなってるんでしょう? 好きな匂いまで把握された時点でそうなるのも仕方ないんじゃないかしら」
「やちよさん。……俺の女性関係に関して一番真っ当に大人やってる筈のアンタに優しくされてるって状況が普通に怖いんですけど……」
「当人たちがある程度の覚悟を決めて納得してるならまあ……。あと大学生やってるとね、貴方以上にはっちゃけた輩の話とかまあ普通に聞くものだし、ね? 馬鹿は何人と関係持ったとか平気で大きな声で自慢したり平気で彼女もちが繁華街でナンパに明け暮れたり……、それと比べれば桂城くん全然誠実で可愛い方――」
「ソレと比較される時点で相当不味いのはよくわかりますよ……」
机に突っ伏して落ち込んでいると、細い指がそっと頭を撫でる。ケモ耳が生えたのに伴って若干毛深くなった頭にくすぐったい感触をもたらして「よーしよしよし……」なんてあやすような声を出すのが向かい合うようにして座っていた年上の美女であるのに気付いた少年は、顔を紅潮させながら口をぱくぱくと開閉させるとうめき声を漏らした。
「……俺そんなに優しくされるようなことしましたっけぇ……?」
「さて、どうかしら。桂城くんは頼りがいはあるけどなんだかんだ放っとけないところもあるからかも」
クスクスと微笑む彼女の手つきがくすぐったくて仕方がなかった。無言で手の下から抜け出て身を起こした少年が準備を手伝ってくると言い残して立ち去る背後から笑い声が聞こえるのに顔が熱くなるのを感じながら、オオカミ少年はチャイナ少女謹製ハロウィン中華なるかぼちゃ盛りだくさんのメニューの並びつつあるキッチンへ顔を出す。
「あ、シュウくーん!ご飯は粗方作り終わったから配膳お願いしていい?」
「了解。……鶴乃さん、後で俺の身辺の人間関係の相談とかさせてもらっても――「絶ッッッ対にやだーー!!」そっか……」
噴き出す音と荒げられた呼吸の気配。口元を懸命に掌で覆い笑いだすのを堪える灯花にお前も一因担ってんだぞと言ってやりたくなるのを堪えるシュウは、餡かけ炒飯を手にリビングへ料理を並べようとしてそこで気付く。
「そういやいろはとななかは? 上?」
「ん、着つけしてるんじゃないかな。確かに結構遅い気がするけど……」
「呼んでくるねっ!」
リビングには既にみかづき荘の住民が集まっている中で恋人の2人だけがいなかった。疑問符を浮かべた少年の疑問にねむが応じるなか、ういがぱたぱたと小走りで階段を上っていきいろはたちを呼びにいく。
数十秒後、ひとりで戻ってきた彼女の顔は真っ赤だった。
「うい? いろはたちはなんて?」
「ぇ、あ。……もうすぐ、来ると思うけど――」
「……?」
頬を紅潮させる少女の応答は歯切れが悪い。戻ってきた彼女の異変にシュウが訝し気に眉を顰めるなかで、紅くなった顔を掌で覆っていた魔女っこ少女は逡巡の末に少年を手招き耳元で囁いた。
「うい?」
「……絶対にマントは取っちゃダメだからねっ」
「?」
妹の囁いた言葉の意味がわからず疑問の表情を浮かべた少年だが、詳しく聞く間もなく早足でういはリビングへと戻っていった。どういう意味なんだろうかと首をかしげる少年が彼女の後を追おうとしたところで、階段のうえから足音が響く。
すんすんとひくついた鼻でも恋人たちの匂いを知覚するなか、シュウは階下に降りてきた少女たちの姿を確認して笑みを浮かべた。
「いろは、ななか。来たか、もう準備できて――うわえっっろ……」
「あ、シュウくん! お待たせしちゃってごめ――ワンちゃんなの!? え、凄く可愛い撫でていい!?」
「狼だよ!」
「……」
黒い布地にくるまるななかを伴って降りてきたいろはの衣装は髪色のよく映える色合いの紅いドレスを纏っていた。
ミイラのモチーフを汲んでいるのか、腕や胸元を包帯で覆った姿は可憐だったが――率直にいって、露出がとんでもないことになっていた。いや、総合的な肌の露出自体は肩と脚が目立つ程度だが……その胸元にはドレスの布地がほぼ存在しない。着実に成長し柔らかに実った膨らみは白い包帯によって覆われるのみとシュウからすればひどく無防備なものだった。
わぁー……。と興味津々でシュウの頭を撫でるいろはだったが、その仕草だけでも揺れる、震える。早くも獣欲を誘う二つの膨らみから懸命に目を逸らしたシュウは、頭を撫でる手はされるがままに任せ先程のうい以上に顔を真っ赤にしたななかへと視線を向け声をかける。
「それで、ななかのその恰好は? ……ああわかった、吸血鬼かな」
「は、はい。……見ないでください……」
「そんな恥ずかしそうにしないでも平気だよ、見えないから……。あっ、髪型ちょっと変えたよな。凄く可愛くていいと思うぞ」
「……ありがとうございます」
頭にコウモリのアクセサリをつけたななかは普段伸ばす髪をツーサイドアップに纏めた可愛らしい雰囲気だったが、身に纏うマントは果たしてどうしたのか。
ういの「取っちゃダメだからねっ」と言い残していた言葉を思い出しますます好奇心が大きくなったが、ひとまずはと追及するのをやめ2人を伴ってリビングへ移動する。
既に準備は整えられている。やってきた少女たちはすぐ仲間たちに出迎えられた。
「いろは、ななかー!遅いぞ!折角の飯が冷めちゃうじゃねーか!」
「すいません、着替えが手間取ってしまって……」
「気にしないでいいからいいから! ……にしても、うおぉ……、いろはちゃんすごいえっちだ……」
「そ、そうかな。露出自体は大したことないと思うんだけど……。肩出すのはやっぱり大胆かな……」
「…………」
ぜっっったいそういうことじゃないと思うんだけどなあ……。
全身タイツな魔法少女衣装も肌が出てないなら全然健全な衣装だと思ってる節はありそうないろはだった。素で言っててもおかしくはなかったが――。
隣で座ったいろはの包帯で包まれた膨らみが揺れ、自然シュウの視線も釘付けられる。――ほんのり耳元を紅くしたいろはがそっぽを向いた。
――確信犯じゃねえのこれは!!??
わなわなと震え戦慄の目をいろはに向けるシュウだったが、またやってるよ……、と言いたげな視線を向けてくるフェリシアに気付くと咳払い。少年を挟むようにいろはの反対側にななかが座ったのは全体的に際どい衣装の多い美少女が揃う中では正直ありがたかった。
――その下には、果たして何を着ているのかわかったものではなかったが。
「ななか、用意してくれた衣装は気に入ってくれたかい」
「ねむさん。……露出が、その、大きすぎはしませんかこれ……?」
「ちゃんとお兄さんの好みドストライクだよ、賭けてもいいさ」
「う、うぅ、それなら……」
「待って俺聞いてない。ななかがマントの下でドスケベな格好してるのはともかくとしてなんでそれをねむが用意してんの? 11才の女の子がやっていいことじゃないと思うしちょっと俺としてはどうかと――」
「お姉さまとの共同開発だからね、お兄さんの趣味に突き刺さる傑作だと思うよ」
「いろはぁ!?」
ミイラコスの少女は目を合わせてはくれなかった。
自分の女の趣味がどこの誰にどこまで共有されているのかそろそろ聞くのが怖いシュウである。いやもう今更って感はあるけれどせめてこう、手心を……。と言いたげにするシュウはしかしみかづき荘の住民たちの目がある今では追及も叶わず言葉を呑む。
いただきます、と声を合わせ始まるハロウィンパーティ。早速フェリシアがお気に入りだという牛仮装にスープをぶちまけかけたのを咄嗟に制止した少年は、早速さなややちよたちとガールズトークをはじめるいろはたちの姦しい会話を聴きながら嘆息した。
「……まったく」
「……シュウさん?」
「いや……。もう細かいことで考えたりするのも馬鹿らしくなってきてな。よくよく考えたら俺が今更どうこうと悪あがきしてもどうにもならなさそうなもんばっかだったわ。まったく、恋人は色ボケしてるし他の娘らも男がいるの構わずにやたら際どい恰好してるし……」
「わっ、私シュウさんにだけは色ボケ言われたくないですよっ!」
「じゃあそのマントの下見せてもらってもいい?」
「…………だ、ダメです。せめてベッドの上で……」
「そういうのを色ボケと言わないで何が色ボケだよ。こっちはオオカミだぞあんまりそういうの言われたりそこのいろはや脚だしチャイナみたいに肌を露出されると困っちゃうんだぞ」
「なんか私たちにも流れ弾が飛んできてるきがするんだけどー!?」
賑やかな食卓。少女たちと談笑するオオカミは、左右の少女たちが落ち着かなさそうに身じろいだり艶めかしい仕草をとるほどに理性を浸食されていくのを感じながらも会食を楽しむ。
――食欲とはまた異なる「飢え」を、いまは食事でごまかしておきたいところだった。
「シュウさん」
「シュウくん」
「お?」
――そう、思っていたのに。
「今晩は……楽しみにしてて、ね?」
「――」
仄かな笑みを浮かべる少女の姿は、あまりにも淫靡で。
抑えようと努力していた獣が、出てきそうになった。
「……色ボケめ」
(あぁ、でも)
じろりと一瞥された視線、目に混ざった情欲の色。
それを敏感に感じ取ったいろはとななかが肩を震わせるのを愉しそうにみやりながら、少年は笑みを浮かべた。
あるいは本当の、獣かなにかのように。
(――こんなイイ匂い漂わせておいて、自分からケダモノのところにやってきてやがるんだ。……たまには、な)
今宵はハロウィン。多少ハメを外すのも悪くはないだろう。
――宴は、まだまだ続きそうだった。