環いろはちゃんと共依存的にイチャイチャしたい人生だった 作:風剣
うちのリーダーの様子がおかしい。
徒手空拳を主体として戦う武闘派魔法少女、志伸あきらは自分たちを率いる紅髪の魔法少女の異変に目ざとく気付いた。
初見ではぱっと気づけない程度の違和感も、何度も顔を合わせれば自然と目に入ってくるようになる。困りごとならば見過ごせない気質の少女である、ななかの変化に気付いた彼女はすぐさま相談に乗ろうとして、ふと感じ取った違和感の状態を確かめるべく他のチームメイトを呼び出し作戦会議を開いた。
「ずばり、最近ななかがちょっとおかしくなったのって──」
「十中八九、男ネ」
「ですよねっ!」
グループの魔法少女のなかでも最年長である純美雨《ホンメイユイ》があっさりと口にしたのに、緑色の髪の魔法少女が興奮して立ち上がり目を輝かせる。あっという間に一致した見解に、2人を集めたあきらは思わず苦笑を浮かべた。
「やっぱりそうだよね……」
「ななかときたら最近すごい色気づいてるし、アレは男ヨ。間違いない」
明確に彼女たちのリーダーに変化が現れたのは、果たしていつからだったか。
表情が豊かになって明るくなったなあと、家族の仇である魔法少女と激突してから悩んでいる様子のリーダーを見かけることが増えたあきらは思う。
すっごく可愛くなりましたよねっ。少し前につけ始めた髪飾りを愛用し、休日に会合するときの私服のバリエーションも著しく増したことを指すかこは握り拳をつくって力説していた。
ちょっと物思いにふけったかと思えば顔を紅くして溜息つくあたり真っ黒ネと挙動不審な姿を目撃した美雨の証言まであってはほぼ確定のようなものだった。
だが、肝心の問題は──。
「男って……やっぱり桂城さん、ですよね……? 浮気する人には見えませんでしたけど……」
「逆にそれ以外の選択肢が浮上するならそれはそれで気になるヨ」
「そういえばかこちゃんは同じ学校だったよね。……結局どうなの?流石に彼女もちだってなるとだいぶ無理があるんじゃ……」
「他に親密な異性が居るわけでもなし、ほぼほぼ確定とは思うけど……コトが二股となれば普通に問いただしてななかが口を割るかは怪しい所か。桂城シュウの風聞にもかかわるなら猶更、ネ」
「多分そのあたりだいぶ手遅れだと思います……。レナさんとも噂が立ってましたし……」
「えっ」
「……」
議論の最中で手をあげたかこが恐る恐ると口にしたまさかの3股疑惑。リーダーに訪れた恋の気配に若干色めきたち気味であったあきらも顔を強張らせるなか、美雨は無言で考え込みだす。
所詮は噂、だが火のないところに煙はたたないともいう。つい先日顔を合わせたばかりの男が女の子を何人誑かしていようと知ったことではないが、それに仲間が関わっている可能性が浮かびあがっている以上放置するわけにもいかなかった。
「……そういえばあの男、みかづき荘住まいだったね……。複数人の魔法少女が暮らす空間に、男がひとつ屋根の下か……」
「あっ」
「かこちゃん?」
美雨の邪推に反応しての、何かに思い至ったかのようなかこの声。集中する視線に対して咄嗟に両手で顔を覆う彼女は天を仰いだ。
――誤魔化せるものなら誤魔化してしまいたいが、この問題は信を寄せるリーダーにも影響する以上は黙っているわけにはいかない。フェリシアちゃんごめんねと心中で呻きながら、かこは交友をもつ同い年の魔法少女の顔を思い浮かべては絞り出した。
「みかづき荘のフェリシアちゃん、桂城さんが初恋でした……。本人はツンケンして否定してますけれどあれは絶対にベタ惚れです。流石に手は出されてない、と思いますけれど……」
「おぉう……」
「……人格、容姿の評価を抜きにしても魔法少女の事情に理解がある、何より魔女から自分たちを守り抜いてくれるだけの強さもある。まあ魔法少女何人誑し込んでいても不思議ではないネ。私だってこんな男がフリーなら普通に欲しいよ」
既に2人の女に手を出している男が3人目、4人目と自身に好意が寄せられているのをいいことに次々と毒牙にかけていないとどうして言い切れるだろうか?
信用とはそういうものだった。この会話を渦中の少年が聞けば目を剥いてそんなことはしてないと否定するだろうが、疑念を寄せられるだけの責が自分にあることは否めなかっただろう。
疑惑が晴れるどころかますます深まり、ガールズトークで頻繁にシュウの話を聞かされていることもあってか擁護したそうにするかこもなんともいえない表情をするなかで暫し吟味するようにして考え込んだ美雨は、やがて結論づけた。
「一度見定めてみるか……」
そんな訳で素行調査だった。
「桂城シュウ15才、みかづき荘住まい。朝の習慣は街に繰り出してのジョギングを30キロ程度、その後朝食と身支度を済ませ恋人の環いろは、妹分の環うい、たまに七海やちよ、由比鶴乃と共に神浜市大付属校へ登校。放課後は最近通うようになった野球部やマギウスの翼での活動に勤しんでいたり……」
まあごくごく普通の学生といったところネ、一部を除いては。
端的にそう評して調査内容を記したメモを閉じた美雨は、相席する仲間たちの「おぉーっ」と感嘆する声になんてこともなさげに肩を竦める。
「ちょっと見せてもらっていい? ……うわあすごい、ここ数日のシュウくんのスケジュールまで細かく書き込んであるよ。これどうやったの?」
「まあ、試行錯誤してネ。……最初は
「脱落……?」
ふわぁ、と眠たげに欠伸をした彼女のほのめかした言葉に銀髪の少女が疑念の表情を浮かべる。疲れた疲れたと会合場所に選んだ中華料理店の杏仁豆腐をぱくつく美雨は呆れ混じりに告げた。
「環いろはとななかを連れてデートしてる様子を追ってたらいつの間にか制圧されて尋問されたってネ。もしなにかあったらワタシの名前を出すようにと言っていたから大事には至らなかったみたいだけどそれでも盗撮した写真はしっかり削除。『あの目はカタギじゃなかった』って調査の継続も断られたヨ」
「えぇ……?」
おかげで一通りの調査を済ませるまで1週間かけることになったと愚痴る少女にあきらは困惑の声をあげる。
初手で本職の大人にまで依頼を出したのもツッコミどころだが、それを容易く捕らえて心を折った少年はなんなのだろうか。というか元マフィアのコネで紹介された探偵が音をあげた調査を完遂したあたりこのツインテチャイナさては虎の子の固有魔法もガンガン使ったな? とあたりをつけるあきらは、好奇心を露わにしながら問いかける。
「思っていた以上に本腰いれて調査してるよね。……やっぱり美雨も気になったりする? ななかが好きになった男の子のこと」
「否定はしないヨ。調べた限りじゃ、あの男がうちのリーダーや幼馴染と関係をもっているのはほぼほぼ確定しているし……、何より、ずっとお熱だったくせしてどれだけ問いただしても浮いた話のひとつもしてくれなかったななかが桂城シュウとどんな風にくっついているのかにも興味はあったしネ」
――奢ってくれるなら見せてもいいヨ。
そう嘯いてす……、とテーブルのうえに裏返しにした数枚の写真を乗せる美雨はとてもイイ笑顔をしていた。
光に透かせば多少は見えたかもしれないが、テーブルに乗せられた白地の裏からは写真に映るものの正体は伺えない。辛うじて紅の輪郭が見える気もするが……裏返された写真と「いやあイイ顔撮れたよ」と笑みを浮かべる美雨を無言で見比べ、顔を見合わせたあきらとかこはこくりと頷き合う。会計は割り勘でと目線で申し合わせた少女たちが席の片隅に置かれた伝票を受け取ると、あくどく笑う美雨はそっと写真に手を添えあきらとかこの方へと寄せた。
恐る恐ると写真を手元へ寄せ裏返した少女たちは、映りこんでいたものを見ると目を見開き声をあげる。
「お、おぉ……!」
「こっ、こんなの本当に撮れたんですか……!?」
――激写! マギウス裏の首魁とななか一派組長の熱愛発覚! 恋人の環いろはは既に篭絡か!?
写真の内容を端的に示すならこんな塩梅にでもなるだろうか? 美雨としてはあまり安っぽい見出しはどうかと思う心境もあったが。
激写された写真には少女たちが薄々と察していた通りシュウとななかが親密そうにして写り込んでいる。想定外だったのは、同じく写真に映り込む桃色の髪の少女の存在――、およそ普通に考えれば恋人と他の異性が親密になるのを許容はしないだろうと思われていたいろはは、街を歩きながらななかとともに左右から腕に抱き着くようにしてくっつき密着していた。
他にも3人で並んで喫茶店に入る様子やカフェテラスで座ってスイーツを食べさせあう姿など仲睦まじく過ごす様子が撮られ、写真に映る少年少女の表情はともに過ごす時間を心から楽しんでいることを感じさせる穏やかなものとなっている。
極めつけは──。
「わ、わ、わッ、これって――」
「やっぱり……そういうこと、だよね! そ、それもっ、その……、3人で……っ!?」
最後の一枚、そこに写っていたのはななかがひとりで暮らす常盤家の家屋へ密着し合いながら足を踏み入れていく姿だった。
単なるお泊まりくらいならまああり得るだろうが……、シュウに腰を引き寄せられる2人の後ろ姿がそれを否定させる。「その後桂城シュウがひとりで出てきて買い物してた中身からして『真っ黒』ネ、それ以上野暮なことは言わないヨ」と補足されたのにかこが黄色い悲鳴をあげた。
「わぁ、わぁー……。ななかのこんな
「当然のように恋人だった環いろはは懐柔済み。これに関しては想定外だったけれど、かこが女子会に混ざって聞いてきた限りでは妹たちの急接近も受け入れていたみたいだし……、何を考えているのかはわからないけども、少なくとも現状の関係は悪くなさ気かな」
外堀を埋める一環で真っ先に懐柔しにいったのが恋人だったのか、あるいはいろはの方から何かしらの申し出があったのか。いずれにせよ第三者には伺い知れない範囲であると割り切り、未だ興奮を露わに写真をみながら顔を紅く染める浮いた話大好きな思春期女子に美雨は声をかける。
「それでも、ワタシに追えたのはここ数日のあの男の足取りだけ。なんなら人物像や経歴に関してはかこが聞き出してくる話の方が余程細かくわかると思うヨ。あとは、3人が表に出てこない時間のことだけど――あきら」
「うん。ななかにお願いしたらすぐに貰えたよ、これ!」
そう言ってあきらが取り出したのは銀色に輝くペンダントだった。鳥の羽を模したかのような形状のそれは僅かな魔力を宿し、それが魔法少女のために造られたなんらかの道具であることを伝える。
「これでワタシたちもめでたくマギウスの翼ネ」
「これがあればボクたちもフェントホープに……美雨が追い切れてなかったウワサの内部でのことも確認することができるってことだよね?」
――ウワサなるものを用いて魔法少女たちにキュゥべえと契約した末に待ち受ける運命と魔女の正体、そして自分たちが実現しようとしている魔法少女救済について共有したマギウスの翼は、多くの賛同者と協力者を得て再編を経てそう時間も経たぬなかで一気に神浜最大の勢力となった。
その拠点として運用されているウワサのひとつがホテルフェントホープ。希望する魔法少女に衣食住を提供することができるだけの広さをもつ邸宅では日々マギウスの魔法少女たちが魔法少女救済へ向け頭を突き合わせては様々な案を出しあい自身の魔法を効率よく運用すべく研究を重ねている。
一方で外部からは影も形も見えぬそのウワサは、一度足を踏み入れた来訪者も容易く覆い隠す。美雨に追跡されていたシュウがフェントホープへ入ることで足取りを追えなくなってしまったことも一度二度ではなかった。
「……一言いわせてもらうと、ワタシは別に桂城シュウとななかが付き合うのに反対しているだなんてことはないヨ。追っていればななかが本気で幸せそうにしてるのはよくよく見えたし――、あの娘があれだけ信頼しているのなら、外野がとやかく言えるようなものでもない」
「ただ――、その男に疑わしいものがあるというのなら、それがななかが認知しているか否かに関わらずワタシはこの目で確かめてみたい。ましてやソイツが、大切な仲間が本気で恋した相手ならなおさら、ね」
「美雨……」
「………………それで、本音は?」
「あわよくばキスシーンのひとつでも抑えてあの澄ましたツラのななかが本気で慌てふためく姿とかちょっと見てみたい」
「正直で良いと思いますっ」
会計を済ませ街を練り歩きながらくすくすと微笑むかこに肩を竦める美雨は、魔力の反応を頼りにウワサの入り口を見つけ出しペンダントをかざす。
寂れた廃屋にて、揺らいだ空間――気付いたときには聳え立つ豪邸をみあげるようにして広い庭園にたたずんでいた。
「うわぁ……!」
「でっかい建物だね……こんなところに居たらシュウくんやいろはちゃんたち見つけられないんじゃないの?」
「いや……追跡しててわかったけどあの3人かなり目立つネ。だからきっと――」
『桂城さん? さっき環さんや常盤さん連れてキッチンで軽食作ってましたよ。私までご馳走になっちゃった』
『さっきはぐむんがきゃーきゃー言ってたからそこらへんでイチャついてるんじゃないかな……。移動してたならわからないや。……爆発すればいいのに』
『リーダーなら2人を連れてそこの広間に行きましたよ、よくそこでトレーニングしてるみたいです。……行くの?流れ弾にお気をつけて……』
途中で不穏な警告をされたのは気のせいだろうか? 無事に黒羽根からの情報提供を受けることができた少女たちは、廊下に掲示された敷地内の地図を頼りにトレーニングスペースへと向かっていく。
「はぁー……それにしても、薄々とわかっていたとはいえこうして他の魔法少女の方たちからも話を聞くと本当にシュウさんたちとくっついてるんだって感じがしますね。なんていうか、不健全な感じは凄いしますけれど……。あんな風に信頼しきった顔で身を寄せられるくらい好きな人を見つけられるなんて、素敵だなあ……」
「あれ、そういうかこちゃんはどうなのさ。最近イイ仲の男の子とかもいるんじゃない? ほら最近よく一緒にいるらしい同じ学校の先輩の――」
「あっ、あのひとはただのともだっ……、友達ですよ! そんな、一緒にいるっていったってラーメン巡りしたり、好きな本をオススメし合ったりする程度で……」
「ふぅん? それって本当になにもな――」
「あっ、ありましたここじゃないですか!?」
追撃を逃れるように駆け出し重厚な扉によって閉ざされた一室の前へ近づくかこ。耳を真っ赤にする少女をあとで追及することに決めながら口元を弛め顔を見合わせたあきらと美雨は扉の方へと近づいていく。
トレーニングとなると……組み手でもしているのだろうか? 桂城シュウはマギウスの翼が再編される以前魔女守のウワサとなって夜の神浜に神出鬼没で現れ戦闘を繰り広げていたというし案外好戦的な部分もあるのかもしれない。生身で魔女をも屠る超人などと相対できる機会もそう多くはない、都合がよさそうなタイミングを見計らい手合わせを申し込むのも面白そうではあった。
まずは、どれだけカマをかけようとしても固く口を閉ざし惚気話ひとつ聞かせてくれなかったリーダーから絞り出すのが先になるだろうが──。
「さてさて、写真を見たななかがどんな顔をするか見物──」
「あっ」
そうして扉を開いた瞬間、半裸のななかを押し倒す黒髪の少年の姿が少女たちの目に入った。
「──、ぁ、え」
広々としたトレーニングルーム、黒羽根たちの誰もいない空間の一角で、ななかは馬乗りになった少年に抑え込まれ地に転がる。仰向けになった彼女は和洋折衷の衣装の布地を剥ぎ取られた状態で押し倒される格好となっていた。
露出した胸元では確かな質量をもった膨らみが揺れ、足音でその場に現れたチームメイトへと目線を向けた紅い髪の少女が押し倒されたままで硬直する。
「「「──!?!?」」」
やがてその顔は一気に真っ赤に染まり、キャパオーバーになったかこやあきら共々爆発した。
「きゃぁぁぁああああああああ⁉︎⁉︎ な、なんでみなさんここに⁉︎ み、見ないでくださいぃ……!」
「ま、待っななか、落ち着け、落ち着いて‼︎ ま、不味っ、取り敢えず変身を解こうななか、それでちゃんと服を着れるから──、はっ」
突き刺さる殺気──。がばっと馬乗りになった状態から身を起こし、胸元を庇うようにして縮こまるななかの傍らで口元を引き攣らせた少年へと近づきながら、チャイナ衣装に変身をした魔法少女がパキパキと指の関節を鳴らす。
「いやっ、その、全体的にすまない!けど待って、せめて弁明は聞いてほしいっ、少なくとも俺は──」
「イヤ……直前まで考えてたことぜんぶ吹っ飛んだからネ、ちょっと状況も掴めないけど……。そう、ちょっとこれだけは言わせてもらうヨ」
硬く握り締められた拳を構え、笑顔のままに告げる。
「取り敢えず一回張り倒すネ、言い訳は牢獄で聞くよこのすけこまし」
「ぎゃあああああああああああああああああ‼︎‼︎」
経緯
フェントホープで組み手 → 戦闘中チラッとななかの色仕掛け → ななか白星、味を占め連勝 → シュウ、キレた! → リベンジマッチで剥かれながらななか敗北 → 今ここ