環いろはちゃんと共依存的にイチャイチャしたい人生だった   作:風剣

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シュウくんの一人称視点。いろいろと寛大な心でみてやってください。
許せない方は爆発させてやってください。


新年に願いを

 

 微睡みから目覚めるきっかけは、頬に触れた細い指先だった。

 

 ――シュウくん、まだ寝てる……?

 

 柔らかな手つきが、頬をなぞるのを感じた。

 ひんやりとした細い指が頬を、額を、頭を伝い撫でる手つきは優しく、柔らかい。どこかこそばゆくも胸を満たすような安心感を与える手の感触に、微睡みのなかから意識を浮上させようとしていた俺は耳朶に響く心地よい声に耳を傾ける。

 

 気怠さの残る身体にのしかかる肉感的な重み。胸板のうえにうつぶせで重なる少女の手が顔の輪郭を確かめるように触れ、クスクスと笑い声が聞こえた。

 

 ――えへへ。ひげちょっとじょりじょりする。またちょっと背が伸びてるって言ってたし、こういうところも大人の男の人みたくなってるんだね。

 ――シュウくん、好き。……ううん、だいすき。だいすきだよ。

 

 しっとりとした吐息を吐き出しながら囁かれる言葉に、溺れてしまいそうになる。胸板のうえに細い、柔らかい身体を乗せながら僅かに身じろぎしたのに目覚めがバレたのか、両手で顎に触れてはまじまじと観察していたらしいいろはは更に身を乗り出すと密着し、そのまま唇を重ねてきた。

「んっ……ちゅ……ふぅ……」

「ぬ……いろは、あむ……」

 

 柔らかい唇を触れ合わせるだけの接吻は、俺が呼びかけようと口を開いた瞬間に舌をねじこんできたいろはによってすぐに舌を絡め合う濃厚なものへと変わっていく。柔らかく湿った舌先が絡み合い、互いの唾液を交換しあうキス。小さな口から漏れ出る甘い喘ぎ声と熱い呼気が鼻腔を満たしていく感覚に意識が急速に覚醒していくのを感じていると、俺と絡め合っていた舌を離し口元から細い唾液の糸を垂らしながら顔をあげたいろはは艶やかな笑みを浮かべ視線を合わせた。

 

「えへへ……おはよう、シュウくん」

 

 甘美な朝の挨拶。寝起きの頭には些か以上に強い刺激にぱちぱちと目を瞬かせる。そんな反応を楽しむかのようにくすりと笑ういろはにこみあげるものを感じて腕を伸ばした俺は、華奢な身体を抱き寄せその柔らかさと温かさを堪能しながら桃色の髪を梳くように撫でた。

 

「……おはよ、いろは。朝から随分なご挨拶だな」

「もうすぐお昼だよ……?」

「……」

 

 頭を撫でる傍らでちらりと装飾品に彩られた広い寝室の掛け時計を見やれば、時刻は既に11時をまわっていた。

 脳裏を過るのは、『午後には初詣するからお昼には帰って着つけができるようにしてね』と朝からかなり()()()()()いろはを連れ2人きりでフェントホープの私室で姫初めしようと向かおうとしたところにかけられた言葉。いろいろ大目に見てもらってるところもあるのに遅刻とかしたら流石にやちよさんも怒るだろうなあと思い浮かべ息を吐くと、いろはを抱いたまま身を起こした俺は広々としたベッドの隅に散乱していた衣類を回収しバスルームに向かう。

 

「まずは軽くシャワーで汗を流すとして……いろは、着物着るときって確かブラは外すんだよな、洗っちゃっていい?」

「へ、あっ、うん。うん……? あっっ、シュウくんダメッ、これから一旦みかづき荘に帰るって話だったでしょ、待って! それ使うから――わかってやってるでしょシュウくん!スケベ!!」

 

 

 

***

 

 

 

 

「んー……帯は……まあこんな感じか? ほどけさえしなきゃまあこんなもんか……」

 

 青を基調とした着物に袖を通す。腹に巻いた帯の位置を調整してはざっと着衣を確認しながら頷いた。

 

 ひとりでこの手の畏まった衣装を着るのは初めてだったが、とりあえず目視で確認する分には不格好ということもなさそうではあった。若干の窮屈さこそあるものの、普通に動くのに支障はない。腕を曲げ伸ばしして感覚を確かめながら、今や毎夜のようにういがベッドに忍び込んでくるようになった寝室で着物に着替えた俺は部屋を出てリビングに向かった。

 

(さて、いろはたちはどうしてるかなぁ……っと)

「そっちは着替え終わったー? 入って良いー?」

「あっシュウくん!もう終わったの⁉︎」

「ちょっと待っててね、いまフェリシアたちの面倒みてる途中だから……こら動かないの!」

「だってこれきゅーくつだぞー!帯とかしめつけすっげえし! ……ぐぇーっ」

 

 扉1枚挟んだリビングの様子は騒がしい。まだみんなは着替えの途中らしく、やちよさんたちの集まるリビングからは姦しくも楽しげな声と衣擦れの音が聞こえてくる。着物を動きづらそうにするフェリシアが駄々をこねてやちよさんを困らせている様子を想像してつい苦笑した俺は、壁に背をつけながらみんなが準備を終えるのを待った。

 

 ……それにしても、そうか、新年か。

 いろいろあったなあ。……いや本当に。

 

 取り返しのつかない過ち、積み重ねた後悔はいくつだったか。振り返ってみれば初めて魔女と遭遇したときから始まる数え切れないくらいの苦い記憶が浮かんでくるのに、新年から溜息をついてしまいたくなるのを感じてしまう。

 なんなら現在進行形でますます深刻になってる案件もばっちりあるあたり若干気が滅入ってきた。主に女性関係とか……。最近は灯花やうい、ねむもアプローチを強めてきたというか好き好き言いながらくっついてくるの『ガチ』なの察しちゃってるからだいぶ、かなり、反応に困るんだよな……。いろはやななかと将来どうするかだって考えなきゃいけないのに……。

 

 いやまあ、好きと言われること自体は嬉しいのだ。ぶっちゃけ満更でもない。というか赤ちゃんの頃からずっと可愛がってた妹みたいな娘に嫌いとか言われたらそっちの方がつらいし泣いてしまうかもしれない。

 でもなあ……。俺はちょっと……、やめておいた方がいいとおもうんだけどなあ……。

 

 もう女性関係まわりは考えれば考えるほど泥沼に嵌ってしまいそうだった。新年から解決しようにない問題について悩むのも参る、ひとまず頭を切り替えることにした俺は「シュウくんいいよー」と声をかけられたのにリビングの扉を開いて中へ入る。

 

「あっお兄ちゃん! ……わぁぁっ、すっごい素敵!大人って感じするー!」

「思った以上に映えるわね……。智江さんのセンスを感じるわ」

「こーいうの知ってるぞ俺、馬子にも衣装っつーんだろ!いいと思うぞ!」

「フェリシアちゃん、それって誉め言葉かどうかは結構微妙な……」

 

 ……ああ。

 確かに、失敗ばかりではあった、が……目の前の光景を護る助けになれたのなら。

 

「お待たせ、シュウくん。……シュウくん?な、なにかついてる?」

「………………………いや」

 

 

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 去年の悪戦苦闘もそう悪くなかっただろうなと、思えるような気がした。

 

「みんな、綺麗だなって。いい目の保養だよ」

 

 ――待ってくれさな、やちよさん。いまちょっとヘタれたなコイツみたいに見てくるのやめてくれ、綺麗すぎるいろはに言いたいことはいろいろあるけどできれば2人きりのときに言いたいんですって!!

 

「……シュウくんっ」

「なんすか、鶴乃、さん……」

「今のは減点だよ。私たちはちゃんとわかってるんだからね」

「さ、さーせん……」

「わかってるなら早く愛を囁いて!さあ、いま!思いの丈を素直にいろはちゃんに!!」

「こっ。コイツ……!」

 

 気付けば晴れ着姿の鶴乃さんの顔がすぐ目の前にあった。

 ずずいと近付き胸倉を掴んできそうなくらいの勢いで男を見せなさいと訴える魔法少女の瞳は爛々と輝いている。悪ノリ全開で揶揄ってくるんじゃないよとあしらいたいのも山々だったが――、助けを求め視線を向けた先、いろはは頬を赤らめながら俺を見つめていた。

 

「……その、私もシュウくんの思ってること聞きたいな。この着物、どうかな……?」

「っ、…………‼︎」

 

 逃げ道なんてものはなかった。

 口元が引き攣るのを感じる。最高に可愛い恋人に上目遣いで見つめられるのに動悸が激しくなる感覚を覚えながら、俺は観念していろはを引き寄せた。

 

 

 

 

 

 

 

『せっかくの新年なんだもの。それなりの恰好で迎えなきゃでしょう?』

 

 年末も近づいた頃、めちゃくちゃ育ちのよさそうなことを言って着物の用意を始めさせたのはやちよさんだった。

 いろはやういの分は婆ちゃんが保管していたコレクションのなかから選んだが、身寄りもないフェリシアやさなの分の晴れ着はやちよさんが自腹で買い揃えたあたりみかづき荘のママの本気度は結構なものだ。自分だって大忙しのなかで年末からえらい張り切っていた家主殿の姿を思い返す俺は、左右の温もりと柔らかさを感じながら澄み渡る晴天を見上げはあと白い吐息を吐き出す。

 

「やちよー、これすっげえ履きづらいし動きづらいしよぉ脱いでいいかあ?」

「ダメよ。少しの辛抱だもの、お参りが終わるまでは我慢してちょうだい」

 

 ――やちよママ……。

 

「シュウくん、なにか言った?」

「イイエナニモ」

「本当かしら……」

 

 実際なにも言ってはいなかったのだが流石に勘が良い。胡乱な視線を向けてくるやちよさんに目を逸らして誤魔化した俺は、傍らのいろはを半ば支えるようにして歩く俺から目を離したやちよさんが次には人ごみに呑まれかけたさなの手を取り素早く助け出した様子につい口元を弛めさせた。

 女性陣が準備を整えたのに合わせみかづき荘を出た俺たちは、みんなで連れたって水名神社へと向かい水名区の路地を進んでいた。

 

「うーん、お兄ちゃん……さっきから見られてる気がするんだけど、なにか変な格好しちゃってたりとかないよね?大丈夫かなぁ」

「んー……。まあ、そうなるよなあ」

 

 流石に元日の当日だ、神社に近づけば俺たちと同じく初詣に向かっているのだろう人たちの姿も増えてくる。なかには気合いの入った晴れ着を身に着けた男女もちらほらと見受けられるなかで、やはりというべきか人の気配が増えるたびにこちらへ集まる視線も多くなっていた。

 いろはとともに俺にひっつくういの言葉に頷く俺はあたりを一瞥し、すれ違う通行人たちから向けられる視線に小さく頷く。

 

(……みんな綺麗だもんなあ)

 

 総勢6名(内1名透明)の年若い女の子が晴れ着を纏い集まっているだけでもそれなりに目立ちはするだろうが、何せ全員えげつない美少女だし着物も最高に似合ってる。周囲の通行人から視線を集めるのも当然ではあった。

 

「別にういたちの格好が変だから見られてるってことはないと思うぞ。みんなの晴れ着姿すごく綺麗だしな。そこは自信もっていい、マジで」

「そ、そう? えへへ……嬉しいな」

「……見られてるのは多分、シュウくんがだいぶ目立ってるからだと思うけどな……」

「……」

 

 呆れ目で呟いた鶴乃さんの言葉に、俺は何も言えなくなって沈黙した。

 

 俺の今の状況を説明しようか?

 左手にはうい、右手にはいろは。2人して当然のようなツラをして腕にひっついてきて離れないもんだから俺には正直どうしようもない。ただでさえ可愛い2人がより目立つ晴れ着姿でひとりの男にべったりとくっついてる図は、まあ……悪目立ちは、確かにしているかもしれなかった。

 

「……いろは」

「えへへぇ……なぁに?シ ュ・ウ・く・ん♪」

「くっそ、可愛い……。うい、どう思う? 流石に2人して俺にべったりは目立つからさ、な? ……そうだな、手を繋ぐくらいで……」

「うぅ……。…………お兄ちゃんは、嫌?」

「嫌なわけないじゃん?」

 

 はい説得失敗。俺に2人を無下に扱うことができるわけなんてなかったんだしょうがないじゃないか……。観念していろはとういに挟まれるのを受け入れた俺に呆れ混じりの視線が仲間たちからちくちくと突き刺さるがもうこれはどうしようもなかった。

 

 そもそもどうしてこうなったのか……。みかづき荘でこれでもかと晴れ着を褒め倒していろはを骨抜きにしたせいか?それに構い倒してういに妙な嫉妬をさせてしまったせいか?

 いずれにせよ、俺とくっついて満悦そうな2人を無理やりに引き剥がす選択肢も既にない。えへへ―……とだらしない笑顔を浮かべながらぎゅうぎゅうとくっつくいろはには下手したらみかづき荘に戻るまでこのまま密着しかねない勢いを感じさせられるものがあった。

 

 ――それを満更でもなく思ってしまっているのを否定できないのも、また事実ではあるのだが。

 

「ほら、もう着いたぞ……いろは?」

「んんんーー……えへへ、うんっもう平気。たっぷりシュウくん摂取できたから満足だよっ」

「……私は、もう少しだけ……」

 

 水名神社の鳥居の前にまで近づいてようやく名残惜しげに身体を離すいろはとういに眉尻をさげる。

 密着状態から離れいざ全身を眺められるようになると、紅を基調とした布地を花柄で彩ったいろはの晴れ着姿は華やかさと艶やかさを同居させてこれ以上なく目を引き寄せられる。姉とお揃いの着物を纏うういもまたとんでもない可愛さで、マジでめちゃくちゃ2人とも可愛すぎて気を抜けば普通にニタニタしてしまいそうだった。

 

「(いろはも大概だけどさ、シュウのやつもみかづき荘を出てからずっとあんなんだよな……。だらしねえ顔しちゃってさ……)」

「(そっとしておいてあげなさい、無自覚だろうけどあの子いろはたちと初詣来れてることに本気で舞い上がってるから……)」

 

 ひそひそと囁く外野の言葉はこの際気にしないことにする。気恥ずかしさはないでもないが概ね事実ではあったし――、ういといろはと手を繋ぐ俺は列の前で屯しながら合流を予定しているもうひとりの恋人を待ちながら談笑していた。

 

「お姉ちゃん、ななかさんももうそろそろ来るんだよね?」

「うん! えへへ、ななかさんも晴れ着を用意してきたんだって。どれだけ綺麗かな、楽しみだなあ」

「さっきいろはとフェントホープにいたときも俺の部屋に寄ろうとしてたっぽいんだけど結局会わなかったんだよな。来ればよかったのにどうしたんだか」

「ね? 私も大歓迎だったのに……あっ!」

 

 近づく気配に気づいて声をあげたいろはの視線の先、それを追い目を向けた俺はこちらへと歩みを進めていた女の子を視界に入れると目を見開く。

 桃色の生地に白の花を散らした着物を纏ったその女の子は、俺たちの視線に気づくなりこちらへ小走りに駆けてくると晴れやかな表情で微笑みかけてきた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「お待たせいたしました。あけましておめでとうございます、シュウさん。いろはさん。ういさん。今年もよろしくお願いしますね? わっ――」

「な……ななかさん、可愛い――っ、すっごい綺麗、素敵だよっ!! え、え~~本当に可愛いっ、ねっねっ、シュウくんもそう思うよね!?」

「ちょ、ちょっといろはさんそんな……、うわすっごいシュウさんの匂いするぅ……」

 

 ばっと駆け出したいろはに抱き着かれ熱烈なハグをされるななか。戸惑い混じりにいろはの背に手を回しながら赤らんだ頬で助けを求める視線を投げてくる恋人に俺は無言で笑みを浮かべながら首を振った。

「そんなあ……」とでもいいたげにいろはにきゃーきゃーと黄色い悲鳴をあげられながらされるがままにされるななかの様子を本当に可愛いなこいつらと見守りながら俺は感慨深い心地になって頷く。

 

 ――思えば、この1年のなかで特に関係に変化があったのもこの2人だったかな。

 

 元々親密以上の関係ではあった。ともに戦い、他愛無いことで笑い合って――、一線を越えて。

 もう3ヶ月は経つだろうか。あの日の旅行以来、いろはとななかが俺を未だに見限っていないのが不思議なくらいに俺たちはうまくやれている――と、そう思いたい。そう思う。実はちょっと、いやかなりいつか殺されたりしないか不安になったりはしてるけど今んとこは問題ない、うん。その筈だ。

 

「――シュウくんっ、シュウくんっ」

「ん?」

「ななかさんのこと、なにかない?」

「あのっ、い、いろはさんってば……」

「ああ……」

 

 いろはからかけられた言葉に、恋人にずいずいと後ろから押され俺の前まで連れ出されたななかの姿を観察する。

 

「あ、あの、そんな、いいですから……」

 

 恥ずかし気に頬を染めるななかの顔はいい。マジでいい。こうも人前じゃなかったら抱き寄せてキスくらいはしてもよかったんだけどな……。益体もない煩悩駄々洩れの思考を振り払いながらななかの着物姿を見つめる俺は上から下までじっくりと恥じらう姿を見つめる。

 

「いや……綺麗だよ、マジで。すっごい綺麗だ。どうしよう語彙力なくなってきたな……」

「も、もうシュウさんってば……」

 

 前に一度、ななかの家に見学に行ったことがある。魔女が我が家に乗り込んでくるより暫く前、婆ちゃんが華道に興味をもってたからわざわざ時間を作ってもらって一緒に行ったんだが……そのときに見た着物姿も綺麗だったが、今は増した色気も相まってより魅力的に映った。こんな素敵な娘がいろはと一緒に俺の恋人やってるだなんてことを昔の俺が知ったらめちゃくちゃキレるだろうなと素直に思う。

 

「さて、それじゃあお参りに向かいましょうか。みんなはぐれないようにね」

「やちよー、そこの色ボケども早速はぐれかけてんだけど」

「最悪置いて行ってもいいかもしれないわね……」

「すまんつい恋人に見惚れてて……」

「本当シュウさんってば……」

「シュウくんって頭は結構いい方だと思うのにいろはちゃんたちのこととなるとだいぶバカになるよねえ」

「ふふっ、でもそういうところが結構魅力なんじゃないかなあって……、うん、たまに、ろくでもないなこの人って思わないでもないですけど……」

「さなちゃん?」

 

 ――この面々で揃って一緒に初詣に来れたことが、本当に嬉しかった。

 

 

 

 

 この1年もきっと、楽にはさせてもらえないだろうと思う。

 魔法少女救済の拡大。いろはたちや仲間たちの守護。考えるだけでもちょっと気の重たくなるような将来のこと。やらなければいけないことは多い。

 

 ――けれども、どうか。

 

 ――来年も、再来年も、その先も。

 ――誰も欠けることのなく新年を迎えられることを、心から願う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが、神浜市……」

久兵衛(キュゥべえ)様の仰っていた、ドッペルなる異変の起こる街……」

「うぅ、人が……ひとがいっぱい……」

 

 否応がなく、波乱は起こる。

 

 

 

「……今のが」

「結菜さん。ひかるも感じました。ソウルジェムから、穢れが……ドッペルを使うと穢れが浄化されて、この街の魔法少女が魔女に成らないっていうのは本当みたいっす」

「ははあ、たいしたもんだよなあ」

「……そう。なるほど、ね。これのために……」

 

 そしてそれは、必ずしも魔女によって起こされるものであるとは限らない。

 

 

 

「……うーーーん」

「ふんむ? むんっ、むんっ」

「ああ……。いいや、ウチ昔お世話になったお婆ちゃんがおるんやけどな? 去年魔女に殺されて、ウチも葬儀のお手伝いしたりもしたんやけど……その人が何故か生きていて、しかも神浜市で活動しているみたいなんよなあ」

「…………それは、また」

「プロミスドブラッドが向かった先やな。……うーん参ったな……」

 

 情報を集めようとする者。激情に駆られ抗争に臨む者。静観を保とうとするもの。

 そして――さらにその『先』のために、準備を進める者も、また。

 

 

 

 

 

「……プロミスドブラッドにはシュウをぶつける。あの子たちに対するいろはちゃんの動向次第で状況は変わってくるだろうけど……3戦もすれば、それでケリがつく。ういちゃんたちに復讐者の手が届くことは絶対にない、平気だね」

「……結菜ちゃんの魔法は、『欲しい』ね。救済の拡大に一気に貢献してくれる。説得して仲間に引き入れられるのなら最善だろうけどよっぽどのことがない限りは難しいか。最悪ミラーズのコピーを使うか、あるいは本人を――」

「時女の魔法少女は……。キュゥべえにどんな情報を与えられているかが問題だね。こじれなければいいけど……」

「――ああ、手伝ってくれるのかい。ありがとうねぇ?」

「ふふっ大丈夫さ。あと少し、あと少しだもの。こんなところで、立ち止まってはいられないもの」

 

 

「――ありがとうねえ、みことちゃん」

『うん、任せてねお婆ちゃん! 私にできることならなんだって協力するから!!』

 

 鏡の世界、その一角にて。

 世界を狂わす魔性を隠し、少女は嗤う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――そして、数ヶ月。

 

『みんな――!! 今日は来てくれてありがとうーー!!』

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおお、いろはーーーー!!」

「い・ろ・は・さーーーーん!!」

 

 ステージにあがり、マイクを片手に華やかな衣装を纏う恋人が仲間たちとともにライブを始めるのを、桂城シュウは常盤ななかと共にサイリウムを振り声援で出迎えた。

 

『カミハ☆マギカ! 2ndライブ、始まるよー!!』

 

 





・桂城シュウ
キュゥべえの誘導を受けて現れた複数の勢力出現に伴い第二部開催。敗ける理由も敗けてやる理由もなかったので半月で対魔法少女の抗争イベをぜんぶ破壊した。キルスコアの増減がなかったのはいろはのおかげ。
いろは最推し古参勢。

・環いろは
プロミスドブラッドを文字通り粉砕するシュウくんと抗争の方針で衝突し大喧嘩を再勃発。シュウくんの地雷を踏みぬき普通に絶交されかけるがひと悶着の末仲直りした。
抗争が終わったあとお婆ちゃん発案のアイドルプロジェクト『カミハ☆マギカ』に参加。救済システムを拡大すべく感情エネルギー収集に取り組む彼氏持ちアイドル。
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