壊れた嘘つきアリスを白兎が見ている   作:あくありす

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さあとびたとう

 

 

 

「はーい、これで左手は潰れたなぁ」

 

 

ギリギリと擂り潰すように足を踏まれる。

指を折られる最中、左腕は解放されたが、最早左手に感覚は無く、痛みと痺れを感じるのみである。

チラリと左手に視線を向けると、爪は剥がされ、皮膚は爛れ、真っ赤なトマトのように膨らんでいた。

目を逸らすが、痛みは消えない。

 

 

「ぁぁ……」

「ハッ! もう声が枯れたかぁ?」

 

 

女は尚も足の力を緩めずにギリギリと僕の手を踏みつける。

焼けそうな、否、現在進行形で手が燃えているような激しい痛みに悶えるが、状態はまったく改善しない。

ただもう痛みと言っていいのか解らないほどの苦しみが脳に槍を突き刺されるように響くだけだ。

 

 

「でもなー、まだ終えるわけにはいかないだな、これが」

 

 

女は、潰れた左手から足を漸く上げる。

しかし、次の瞬間その足は鳩尾に落とされた。

 

 

「ぐふぁ……っ!?」

「先方がオーケーって言ってくんないらしくてよー、まったくハクジョーだよなー」

 

 

上げる、落とす、上げる、落とす…………

さながら餅つきのような単純な動作が腹部の上で繰り返される。

足が潰すように落とされる度に、腹部から何かがせり上がってくるような不快感を感じる。

 

 

「どーすんですかー? 早くしないとこのガキ死んじまうぞー? ギャハハハハハハハハハッ!」

「ぅ……ゴポッ…………」

「あーあ、ついに吐血しちまったよ。 内臓もイったかー?」

 

 

振り下ろされるスピードが更に加速した。

足の弾着点は腹部に止まらず、胸、股間、足、顔、腕…………

もう、どこに足が落とされたのか、どこが痛いのか…………よく解らない。

 

 

痛い

 

 

熱い

 

 

苦しい

 

 

嫌だ

 

 

帰りたい

 

 

助けて

 

 

なんで

 

 

なんで、こんな……

 

 

どうして、僕は……

 

 

「ヒャハハハハハハハハハ! 真っ赤だなぁ! まるでトマトジュースぶっかけられたみたいだなぁ! うーまーそー!」

 

 

顔を踏みにじられる。

鼻が折れたか、喉が潰れたか、それとも肺か…………呼吸が上手くできない。

最早、生きているのが不思議なくらい苦しい。

もういっそ、これ以上地獄を味わうくらいなら……

 

 

「さてと、どーも先方にはコイツじゃ人質にもなりゃしねーみたいだな……しゃーねぇな」

 

 

「殺すか」

殺してもらいたい。

 

 

…………

 

 

あれ?

 

 

まだ、かな?

 

 

まだ殺してくれないのかな?

 

 

「っ痛う! なんだよまったく! なんでいきなり壁が壊れんだよ!」

 

 

気がつくと、顔から足が退けられ、そして黒尽めの女は大きく移動していた。

変わりに、見下ろすように何か│白いモノ《・・・・》が佇んでいた。

それは鎧のような、女神のような……とても優しい何かを感じさせるものだった。

 

 

《登録者を確認──スキャン実行────完了──瀕死状態──生命の維持を優先します》

 

 

感情や抑揚の無い、機械的な音が耳に届いた。

白は、跪くように近づくと僕にそっと手を触れた。

 

 

緊急移行(エマージェンシーシフト)実行────完了──搭乗者生命維持機能に余剰計算資源(リソース)を費やします》

 

 

白と右手の指輪から光が放たれ、僕の体は包まれた。

 

 

 

《登録者の装着を確認──肉体損傷の修復開始──心肺機能の補完を実行──損壊度17%まで回復──これより搭乗者の安全地帯までの救出を第一優先事項に移行します》

「えっ…………あれ?」

 

 

途端、痛みがかき消された。

そして気がつかぬ間に僕は起されていた。

それに心なしか浮いているような…………

 

 

「なんだこれ……!? ISだってのかよ!」

「あい……えす?」

 

 

IS、インフィニット・ストラトス。

束さんが人類に与えた第三の火。

だけど、確かそれは女性にしか使えない、本人曰く欠陥品だという話で……あれ?

 

 

「どういうこと?」

 

 

僕は紛れもなく男だ。生物学上間違いない。

にも関わらず、こうしてISらしき物を装着できているのは……

 

 

「束、さん……?」

 

 

それしか有り得ないだろう。

トラブルがあっても、どこぞの大企業の如く「それは仕様です。問題ないです。」で終わらせたりなんかしない人だ。

束さんなら、これくらいの芸当やってのけるだろう。

 

 

「なんで男がIS着けてんだよぉ?」

 

 

それはこっちの方が聞きたい。

そもそも何で女だけ適合して男は弾かれるのかっていう原理も束さんでさえ仮説の提唱止まりなのだ、僕が知る訳もない。

 

 

「まぁ、いいか……どのみちぶっ潰すだけだっ!」

 

《ISの装着が確認されました──脅威度A──現状での搭乗者の安全な救出は困難であると想定されます──現場から脱出及び搭乗者の防衛の必要性から銃火器刀剣類の武装の使用を解禁申請──承認》

 

 

その声と共に僕の右腕はひとりでに挙げられ、途端にIS用の刀が量子化解凍され、握られていた。

それを肉眼で確認すると同時に、右手に痺れを感じた。

さっきまで散々僕をいたぶってくれた女はいつのまにかISと武器を展開し、こちらに襲いかかってきたのだ。

暫く鍔迫り合いの状態が続くが、女は後ろへと下がり距離を離した。

 

 

「っらぁ!!」

 

 

女はIS用ブレード……こちらの展開した刀と違い両刃の西洋剣風の装いの物……を投擲してきた。

そして、ブレードを投擲し空いた手を埋めるように今度はIS用ライフルが握られていた。

これは刀では防げない!?

 

通常の動体視力では絶対に捉えられないであろう連続攻撃を認識出来ているのは、ISに搭載されているハイパーセンサーによる恩恵だ。

そもそも人の動体視力と動力反射は他の生物と比べてもお世辞にも良いとは言えない。

平均歩行速度はおよそ4km/h、走行でも約10km/h、オリンピック選手のトップスピードでも30~40km/hが精々だ。

例えば、犬種にもよるが犬は平均速度で20~50km/hで走る。

つまり、人間の感覚では時速数十キロ以上での移動が想定されておらず、故に交通事故が起こるのだ。

が、ハイパーセンサーは直接脳に作用することで通常の物で音速、星間移動用の物に至っては亜光速を認識する事ができる。

 

通常、IS初装着時にはこの感覚の鋭さに戸惑い、所謂“感覚酔い”を起こすのが常なのだが、何故かこの時僕はその症状に苦しむ事は無かった。

そもそも、素人が回避だとか刀でいなすなんていう思考に至る事が異常なのだが、やはりこの時はそれに気付くことが無かった。

瀕死からの回復による戸惑いか、はたまた決死の状態によるドーパミンの過剰分泌が原因か……

 

ともかくこの時はただ、ただ、攻撃を回避せねば……その一心だった。

 

 

「ぐぅっ!」

 

 

身体を左に捻り、まずはブレードを回避。

そして、警告音。

 

 

《ロックオンされています》

 

「墜ちろよぉお!」

 

 

女はライフルを構え、トリガーに手をかけた。

上なり横になり大きく動けば回避はできるかもしれない。

だけど、それではこちらも大きな隙を生んでしまい、相手に次の動作へ移る機会を与えてしまう。

なら、取るべき行動はただ一つ。

 

皮を切らせて肉を切り、肉を切らせて骨を断つ。

銃弾を受ける事を省みずに一撃をいれるしかない。

 

 

「はぁぁぁ……」

 

 

理論でしか聞いたことがない。

千冬姉がISの大会で見せており、手順や技術は理解している。

 

 

「イグニッション・ブースト!」

 

 

イグニッション・ブースト。

戦闘機のアフターバーナーと同じような用途で使用されるが、仕組みはまったく違う。

 

アフターバーナーというのは、簡単に説明すれば空気と燃料の割合が通常60:1のところを理論値の15:1に近づける為にノズルから放出する排気ジェットに燃料を別口から再噴射する事で加速させる事を言う。

つまり、火炎放射器の射線上にガソリンを置いて火力の増強を図るようなものである。

 

対してイグニッション・ブーストでは、反作用を得るために噴射したエネルギーをすぐさま取り込んで、エネルギーを再圧縮してスラスターから噴射させるというものだ。

 

必要面積、得られるエネルギー、燃料効率共にアフターバーナーよりも優秀な反面、構造が複雑で整備効率が悪く必要とされる技術が非常に高度になる。

なりより、失敗すればエネルギーの暴走によって爆発する可能性すらある。

故に、イグニッション・ブーストはISにおける中級テクニックの一つに数えられる。

 

 

「ぃやーっ!」

「ぐぅぅぅうっ!?」

 

 

まずは身体全体を使った文字通り全身全霊のタックル。

イグニッション・ブーストでの加速も相まって、ライフルを構えていた女に避ける暇はなく、タックルは直撃する。

そして、そのまま勢いを殺さず刀を振り下ろす。

 

 

「せっ、はっ、やっ、たぁーっ!」

 

 

手は、休めない。

そのまま壁へ追い込むように刀による連撃を繰り返す。

一呼吸する毎に刀を繰り出す。

タックルの衝撃が抜けないのか、女からの反撃は無い。

 

そして

 

 

《荷電粒子砲展開》

 

「ぁぁぁあああああ!!」

 

 

左手に展開された銃口を女に向け、トリガーを引く。

零距離からの射撃に、女の全身は一瞬にして荷電粒子に包まれる。

 

女は吹き飛ばされ、床に転がる。

ISは絶対防御の展開にエネルギーを使い果たし、解除されていた。

 

 

「はぁはぁ……」

 

《対象の沈黙を確認──脅威度L──安全が確保されたと認識──武装の展開を解除します》

 

 

女はピクピクと痙攣するが、立ち上がる様子は見られない。

零距離から荷電粒子砲を喰らってピンピンされてたら目も当てられない。

そんな化け物、いてたまるか。

 

 

「…………帰ろう」

 

 

ポツリと、その言葉が漏れた。

 

 

《了解──指定された地点(ポイント)まで帰還します》

 

 

そうして、ゆっくりと身体が浮上していく事を確認しながら……僕の意識はそれと反比例して、墜ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んね……っく…………いっくん」

「ぁ……」

 

 

意識の覚醒と共に感じたのは温かさだった。

ここは、ベッドかな?

でも、温かさは布団によるものだけじゃない。

とっても優しくて、柔らかくて、安らぐ暖かさ。

何かが浄化されていく、そんな感触を覚える。

ああ、この温かさは……

 

 

「束、さん……?」

「っ! ……良かった! いっくん!」

 

 

そのまま束さんはぎゅーっと僕に抱きついてくる。

その温かさを感じると供に、何か冷たい物が滴り落ちたのに気がついた。

束さんの顔を覗くと、そこには涙があった。

 

 

「ごめんね、ごめんねいっくん……私のせいで、いっくんにこんな目に遭わせちゃって……」

「え……?」

 

 

束さんの説明によればこうだ。

何でも、どこぞの地下組織がISの開発者である束さんに接触し、ISコアの製作を要求した。

当然ながらそれを無視した束さんに、地下組織は刺客を送るが、それを難なく退けた。

一筋縄では往かないとやっと気づいた地下組織は人質を取ることで優位に立とうとした。

そこで白羽の矢が立ったのが束さんの妹の箒ちゃんと

 

 

「束さんと親しく接していた、僕?」

「うん、そういうこと」

 

 

そっか、やっぱり僕は……

 

 

「束さんにも迷惑をかけちゃったのか……」

「っ! そんなこと無い! 迷惑だなんて!」

「でも、僕がもっとしっかり…………僕がいなければ束さんが困る事なんて無かったのに!」

 

 

パチン!

視線が揺らぐ程の力を頬に感じ、いつの間にか顔が右へ動かされていた。

束さんに頬をぶたれたのだと、暫くしてから気がついた。

 

 

「束、さん?」

「なんでいっくんは自分を大事に考えられないの!」

「……自分、を?」

「いつもそう! いっくんは自分を卑下してまるで全部自分がわるいみたいに言って!」

「だって、それは……」

「何でいっくんは賢いのにそういう処だけ客観的に見れないの?! 悪いのは全部あいつ等! いっくんは被害者なんだよ! なんでいっくんが悪くなるのさ?!」

「だって、僕が人質にならない位強ければ……僕がいなければ、束さんだけだったら、何も問題無かったのに……」

「いっくんは……逃げてる!」

「逃げてる?」

「そうだよ! 自分がこうだったらとか、いなければとか考えて自分だけ責めて……周りの環境を変えようとしてない! いっくんは周りを見ないで、きつも自分の中でだけ何とかしようとしてる」

 

 

一頻り言い切ると、束さんは僕の胸に顔を埋めた。

戸惑いながらもそれを受け入れていると、胸から嗚咽が聞こえてきた。

 

 

「もっと……もっと頼ってよぉ……周りを、私を……」

 

 

そう言いながら、束さんは腕に更に力を入れて強く抱きしめてきた。

そして、暫くそうしていたが、ゆっくりと顔を上げ、僕の目を捉えた。

 

 

「……いっくんは、あそこにずっといたら幸せになれない」

 

 

何かを決意するように、ゆっくりと紡がれた言葉。

僕も束さんの目をしっかりと見返す。

 

 

「私と、遠いところに行こ? あの野郎と絶対に会わない、遠いところに……」

 

 

そして少し俯き、どこか困ったような表情をしながら

 

 

「いっくんは、嫌……かな?」

 

 

そんな風に聞いてくる。

その眼は怯えと期待が入り混じり、とても儚く思えた。

 

束さんはズルいや。

そんな事、聞かなくてもわかってるくせに。

 

 

「嫌じゃないよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリスは旅立たなければならない。

 

それは子供から大人になるために必要なことだから。

 

アリスは時間に悠長な白兎に着いていく。

 

それは約束から外れること。

 

でも、大丈夫。

 

だってその約束は一方通行で向こうは守ってくれないから。

 

だからアリスも約束を捨てます。

 

さあ、アリス

 

まずはどこに行こうか?

 

 

 




また4ヶ月!次話は2月と一周年になってしまうではないか。

自販機で午後ティーを買ったら不思議の国のアリスの白兎の柄でした。

あ、やべ、小説書いてない……
そんな事を今更気づいて再びキーボードを叩きました。
嘘です。午後ティーは本当です。

しかし、その絵を見て小さい頃のトラウマを思い出しました。
確か、初めてふしぎの国のアリスのアニメを見たのは5歳頃のこと。
何の事やらよく判らないストーリーにドロッとしたカラフルな背景、矢継ぎ早に変わっていく展開と景色、物騒な登場人物にチェシャ猫の笑い……

今となっては可愛いとか、あの常識はずれなキャラが面白いと感じますが、あの恐怖が本来の持ち味なのではないかと、今になって逆にそう思います。

何でしょうか、黄泉の国から逃げるイザナギのような気持ちというか、好奇心から踏み入れてしまったがとんでもない恐怖……うん、言葉では言い表せない。

あの子供の頃に感じた怖さこそ、ディズニーにてアリスを作った面々の伝えたかったこと何じゃないかな、と思います。

話は少し変わって、最近異世界転生物とか異世界転移物の小説が一次二次問わず増えています。
幼い頃は帰って来れないかもしれない世界に行ってしまうなんて怖くて怖くて、読んだり観たりするなんてとても出来なかったものです。
でも今はその手のジャンルが大好物。アレー?

この世の理不尽や恐怖から逃げ出し、異世界で順風満帆でなんでも思い通りにいく世界に逃げ出したい、という気持ちの現れなのでしょうか?

子供の頃は希望に満ちあふれ、未知への恐怖を抱く。
大人は世界に絶望し、外への逃避を求める。

人ってのは自分でもよくわからん生き物だにゃー



しっかし、文章の6割は前話投稿したときに出来てたのにどうしてこんなに期間が開くのかしら?
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