ちひろに案内され、事務所に入るとそこには誰もいなかった。
「すこしのあいだですが、ちょっとここで待っていてくださいね。」
ちひろはそう言うと、清をソファーに座らせ、自身も隣に座った。
「はい、ここまで色々してくださってありがとうございます。」
そう言いながら、清は顔を赤くし、目を少し逸らした。それにちひろは静かに微笑んだ後、ゆっくりと頭を撫でて、
「ふふっ、清くんは本当に可愛いですね…。恥ずかしくなると目をそらすところとか凛ちゃんそっくりです。」
そう言って、ちひろは笑った。清はますます頬に朱がさす。
清は目に飛び込んでくる、首筋や、優しげに細められた目や、どうしても聞こえる息づかいなどを必死に見ないよう、聞かないようにしながら、必死に混みあがってくる何かを耐えていた。
「目元とか、髪とかも似てますね…。」
そう言いながら、目を覗き込み、髪を撫でながら、ひと房つまみ、サラサラと指先で擦ったりする。少しずつ顔が、ちひろの体が、清に近づく。
清はこそばゆく、心地よく、また恥ずかしい様々な感情が入り交じり、顔は茹で上がったように熱く赤くなった。
その時、ドアが開いた。
「おつかれー!あれ?ちひろさんと…」
「おかえりなさい、早苗さん!お仕事お疲れ様です!」
現れたのは、片桐早苗だった。入ってきた時笑顔だったが、顔が困惑に変わる。
「うん、ただいま!…えーと、その子は?」
「凛ちゃんの弟の清くんです。とても可愛いんですよ!」
ちひろはまだ清の頭を撫でていた。
「へー!凛ちゃんに弟がいたとはねー!噂は聞いてたけど本当だったんだ…。あっ!ちひろさん!そういえば、営業部の人がちひろさんをさがしてたよ!打ち合わせだって!」
「えっ!」
ちひろは慌てて腕時計を見たあと、ばっと立ち上がり、机に向かい、資料をざっとまとめて、
「急にごめんなさい!早苗さん、清くんをお願いします!」
そのまま、パタパタと出ていってしまった。
「あー、あたしは片桐早苗、キミは…清くんでいいのかな?」
早苗は頭をかきながら言った。苦笑いである。
清はまだ、ちひろのせいで赤い顔を必死に冷ましながら言った。
「はい、渋谷清と言います。姉さんのお仕事が終わるまで、ここで待つように千川さんに言われました。」
「おー、しっかりしてるねー!凛ちゃんの弟なんだって?」
「...はい、そうですね。自慢の姉です。」
そう清は答えたが、その顔は少し陰りが見えた。
「結構噂になってるよー!未央ちゃんが可愛い弟くんなんだって、言いまくってたからねー。
…どうかしたの?あ!なにか私、まずいこと言ったかしら…?」
早苗は清の顔が暗くなったことに気づいた。
清の心配をしながら、苦笑いをうかべ、頬をかく。
そのコミカルな姿に、清は少し肩の力が抜けた。
そして、この人に少し話してみようと思った。
「えっと、実は...」
清は凛が落ち込み、それが自分関連で起こっているのではと、不安であることを明かした。ベタベタしてくることも、そして今ほんの少しだけ、避けていることも。
「ふーむ、凛ちゃんがねぇ…」
ソファーで清の隣に座った早苗は顎に手を当てて首を捻る。
「例えばどんなことが話題に上がっている時に、落ち込んでるの?」
「えっと、僕が姉さん以外から……可愛いとか、言われたりとか、一度は喜ぶんですが、その後落ち込んでしまって…、あと他にも、もう一度、本田さんや、島村さんと話してみたいと言った時とか…」
「...もしかして、ヤキモチじゃないの?可愛い弟が認められるのは嬉しいけど、自分以外に言われて喜ぶ弟を見て複雑…とか!」
早苗は、ふと思いついたように言った。早苗にはその答えが真実に思えた。
しかし、清は困った顔をする。清は凛がそんなことを思うようには、微塵も考えていなかった。
「そんなこと思ってもいませんでした…。そういうものですか?」
「うーん、凛ちゃんが、清くんと同じくらいの年の男の子から褒められてて、それに対して凛ちゃんが満更でもなかったら?その男の子を可愛がっていたら、清くんはどう思う?」
清は想像する。
眉間にシワがよった。しかし、その感情は続かず、落ち込んだ。
「…とても、モヤモヤします。でも、それで姉さんが幸せなら…と思ってしまいます。」
「清くんは大人っぽいね…。多分、凛ちゃんもそう考えたんだと思う。だからこそ、少し寂しくなって、くっつきたくなったんじゃない?」
清は早苗の考え通りだとすると、自分は凛にとても迷惑をかけたのでは無いかと申し訳なくなった。
「僕、姉さんにとった態度を謝って、話し合おうと思います!」
清はぐっと拳を握ると、そう力強く言った。
そして、
「片桐さんがいなかったら、姉さんと話して、仲直りすることは難しかったと思います。ありがとうございます。」
清はそう言って早苗の方を向いてしっかりと礼をした。
早苗はポカンとした後、にひっと笑った。
そして、清を抱き寄せた。
清は突然のことに頭の中が白くなった。
「いやー!いい子だね〜清くんは!ついつい撫で回したくなるじゃん!」
そう言って、ぎゅむぎゅむとその豊満な肉体を押し付けながら、頭をガシガシと撫でた。
それは清には、すこし痛かったが、何故か心地よく感じた。
しかし、早苗は露出度が高い服を着ている。時々当たる生肌の感触に清は心地良さより、顔の熱さが上回った。
それに、早苗は気づかず言った。
「うん!清くんのこと気に入ったよ!」
ガシガシ撫でながら、早苗は言う。
その時ガチャと、ドアが開くが、2人は気づいていなかった。
「清くん!困った時はこの早苗お姉ちゃんにまかせなさい!」
この一言に、ちひろから連絡を受け、最速で戻ってきた凛が膝から崩れ落ち、宥め、説明し、謝るのに、多くの時間を要したのであった。
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