アメリカ合衆国も日本国召喚に全力出演したいようです 作:スカイキッド
「こちら攻撃隊指揮官。アルゲニブ航空管制、応答せよ。繰り返す――」
グラ・バルカス帝国海軍東征艦隊の空母機動部隊の各空母より飛び立ったカルトアルパス攻撃隊は、攻撃目標のカルトアルパス湾を目指して時速260キロほどの低速で巡航飛行していた。
攻撃隊の航空機はアンタレス型戦闘機、シリウス型爆撃機、リゲル型雷撃機から構成されており、アンタレスは旧日本軍の零式艦上戦闘機五二型、シリウスは彗星型艦上爆撃機、リゲルは九七式艦上攻撃機とほぼ同じ見た目と性能を有する。
目標となる敵は総数60隻以上の大艦隊でしかもこの世界有数の(この世界では)精強艦隊、それが満足のいく回避運動も出来ないような内海におり、強襲とはいえ攻撃を行うには最高の状況である。
先ほどミリシアルの迎撃機とおぼしきプロペラの無い奇妙な戦闘機が約40機ほど襲いかかってきたが、元からこちら側の数的優勢と、機体の性能差によりほとんど被害を出さぬままにこれを全滅させていた。
カルトアルパス湾を取り囲む小高い山状の地形はすでに視界の中で水平線の下、つまりすぐ目の前に迫ってきており、この小高い山を乗り越えればカルトアルパス港で、攻撃隊のカルトアルパス湾突入はもう間もなくである。
ところが突入直前に至り、トラブルが発生している。
「クソッ、繋がらないな」
カルトアルパス攻撃隊の帝国海軍機300機を率いる攻撃隊指揮官の中佐は悪態をついた。先ほどから彼は何度も母艦に無線で呼び掛けを行ってるのだが、まったくつながらないのだ。
この世界では無線を使用する国家がほぼ無いため、無線封鎖など関係なく無線通信が行われる。だが母艦とは連絡が繋がらず、戦艦グレードアトラスターのラクスタル艦長が臨時指揮官を兼任している水上打撃部隊とは連絡がつくので、母艦に何かあったとしか考えられない。
実態は、米艦隊からの電子妨害(ECM)によるものが影響していた。対艦攻撃のために合衆国海軍航空隊が飛ばしたEA-18Gグラウラー電子戦機による帝国軍空母機動部隊への電波妨害は、帝国海軍空母へ向けられた無線、そして帝国海軍空母から向けられる無線を完全に遮断していた。
そして、彼らの母艦はこの時点で多数のハープーン対艦ミサイルを受けて海中に没していたこと、母艦のエアカバーに当たっていた機も残敵掃討で撃墜されたことを、彼らは知らない。
「どうします、中佐? 作戦中止でいきますか?」
指揮官の男に後部席の通信士が問う。母艦が撃沈されたなどという情報を知る由もない攻撃隊は、進撃を続けるしかなかった。
「いや、作戦中止の命令は来ていない。このまま行こう」
「分かりました」
「そろそろ突撃だ。全機に突撃命令を出せ」
「了解です」
通信士が喉頭マイクに手をあて、音声式の無線通信機を使って各機に指示を出す。指揮官の乗る機体は、リゲル型雷撃機をベースに通信能力を強化した指揮通信機型だった。
指揮官の突撃命令は300機にもなるカルトアルパス攻撃隊全機に伝えられる。アンタレス型戦闘機70機、シリウス型爆撃機84機、リゲル型雷撃機146機からなる攻撃隊は、エンジンをフルスロットルにしてカルトアルパス湾へと突入しようとした。
「ん?」
指揮官は編隊の前方で微かな閃光が連続して発生したのを目にした。
その直後、編隊の前方を飛行していた数十機ものアンタレスとシリウスが、感覚的理解の及ばない僅かなタイムラグを置いて一斉に爆散した。
グラ・バルカスの攻撃隊を迎撃したのは、海上自衛隊の護衛艦が発射した、スタンダードSM-2長距離艦対空ミサイルだった。
「スタンダードミサイル第一波、敵編隊の前列に多数命中」
「続けてスタンダード第二波、まもなく目標編隊に命中します」
「スタンダード第三段、発射始め!!」
「発射始め、
カルトアルパス湾内に控えていた日本国の海上自衛隊、第2護衛隊群に所属する護衛艦は、カルトアルパスに迫るグラ・バルカス帝国の敵性航空機300機に対して対空ミサイルによる攻撃を開始した。
グラ・バルカスの宣戦布告後にすぐ行動を開始したことで湾外へと移動した米艦隊――どうにも目的は敵艦隊の撃滅のためらしい――とは異なり、外交官護送で派遣された海上自衛隊の艦隊は日本政府の意思決定の遅さが災いして、カルトアルパス湾内に釘付けとなっていた。
そこへグラ・バルカス帝国の艦隊が迫ってることから、日本政府も仕方なく個別的自衛権と
世界最強を自負しているミリシアル軍の、最新の戦闘機があっけなくグラ・バルカスの攻撃隊に撃退されたことで、それはより一層増した。
「敵機、50機以上を撃墜! しかし敵編隊はなおも此方へ接近中!」
「
第2護衛隊群には2隻のイージス護衛艦――「あしがら」と「きりしま」が含まれている。米海軍のアーレイ・バーク級イージス駆逐艦をベースに造られた両艦は、イージスシステムが捉えた敵機に対し、射程100キロ以上のSM-2スタンダード対空ミサイルを片っ端から撃ちまくった。
冷戦時代に旧ソ連による超音速対艦ミサイルの飽和攻撃に対抗すべく、百発以上の超音速目標を相手取れるよう設計されたイージス艦にとってみれば、どんなに数は多くとも時速500キロ程度の鈍足で飛行するプロペラ機の迎撃など朝飯前だ。
イージス艦である彼女らは1、2秒に1発のペースでSM-2を発射、常にVLS(ミサイル垂直発射機)から煙を噴き伸ばし、SM-2の残弾をみるみる消費していく。彼女らはイージスシステムの力をもってして既に多数の敵機をSM-2で撃墜していたが、あろうことか敵編隊が引き返す様子はない。
それどころか、間もなく敵編隊は湾を囲う稜線を飛び越え、その内側に侵入してくる。危機感を感じたのか、群司令官がイージス艦以外の護衛艦にも攻撃を命じた。第2護衛隊群は2隻のイージス艦を除き、旗艦「いせ」含め全艦がESSMを搭載していた。
「護衛艦てるづき、ESSMの連続発射を開始!」
「前方の護衛艦たかなみ、おおなみ、共に主砲による照準を開始! さらにミサイル発射!」
米国との交流再開後に日本政府が大量に買い込んだ米国製の艦対空ミサイルと、ロウリア事変後に危機感を覚えた政府によって大量生産――ライセンス生産が出来なくなると、生産設備はそのままにライセンス料を払わないコピー生産へと変わり、米国との交流再開後にライセンス生産に戻っていた――された国内生産の艦対空ミサイルが、次々に空中へと飛び出していく。
「敵、本艦の主砲射程圏内!」
「正面対空戦闘! 主砲、撃ちー方始めッ!!」
「撃ちー方始めーッ!」
やがてグラ・バルカス帝国の編隊の一部が稜線の内側に飛び出してくると、各艦の主砲であるオート・メラーラ社製76ミリ・127ミリ単装速射砲や米国製の5インチ単装砲、さらにCIWS(近接防御火器)の20ミリ機関砲から信じられないような連射速度で弾幕を形成、グラ・バルカス帝国軍機を次々に火達磨にしていった。
グラ・バルカス帝国の軍用機が次々と自衛隊の護衛艦の主砲やCIWS、ミサイルに撃ち墜とされていく中、カルトアルパス湾内にいた各国の使節護衛艦隊の人間、さらにカルトアルパスの住民らはそれを呆然と見届けていた。
誰もが世界最強と認める神聖ミリシアル帝国の防空網を易々と突破してきたグラ・バルカスの航空機が、湾内に侵入した途端にまるでハエ叩きが如く簡単に撃ち墜とされていく。しかも日本の軍艦が発射しているのは「古の魔法帝国」が使ったとされる、伝説の「誘導魔光弾」そのものではないか。
もし日本と戦ったところで、自分たちに勝ち目はない――米国の影響で
『何が起こっている!?』
『分からない! 攻撃を受けて――ガッ』
『三番機被弾! いや、墜落!』
『振り切れぇーッ!! ――ガガッ』
カルトアルパス湾に突入したグラ・バルカスの攻撃隊は大混乱に陥っていた。日本軍の対空戦による正確無比な――そして正体不明な攻撃を受けた攻撃隊は、10分もせぬうちに当初の300機から100機以下へと機数を大きく減らし、統率も取れていない。
攻撃隊指揮官の乗るリゲルに至っては一番電波を出してたために真っ先に狙われて撃墜されており、指示を出す存在すらいない。あまりの急な事象によってパニックに陥った彼らは、撤退することすら忘れてしまっていたのだ。
最終的に戦闘は、グラ・バルカス帝国の航空機の中で無断撤退する機が徐々に徐々に増えていくことで、いつの間にか自然終了していた。
自衛隊もあまりに大量のミサイルを撃ってしまい弾薬の消耗が激しかったので、カルトアルパス攻撃隊が撤退を始めた段階で攻撃は停止していた。
こうしてカルトアルパス攻撃隊300機中、残存機67機は母艦を目指して一目散に逃げ帰った。そして彼らの母艦がすでに米艦隊によって全滅させられていることを、彼らは知らない。
やっぱ自衛隊も出さないとなぁ?