転生したので反則技で魔法少女のお手伝い/敵することにした   作:絶也

10 / 18
まだアニメ換算4話ってマジ?
あと前回なのはが顔を逸らしてた理由書けなかったので、多分どっかで番外編とかそういう形で平日の学校の様子でも書くと思います。やるかどうかは未来の自分に丸投げします。

更新遅いから数少ないであろう読んでくれてる人はサボってるとでも思いましたか?ざっつらいと。バンドリって楽しいですね。書くつもりはありませんけど。


5話 もう1人の魔法少女

天坂帝翔という男、つまり俺は時間通りの行動というのがどうにも苦手だ。

予定くらいは立てるものの、いざ行動するとなれば身体が重くズルズル先延ばしにしてしまう、と言えば覚えのある人も結構多いんじゃなかろうか。

 

そんな俺だが、現状学校は無遅刻無欠席、そして今日も珍しく時間通りに、いつもより早く行動していた。

今日は休日、今度はすずかの家でお茶会なんだとか。俺には合わない場だと思うのだが、お呼ばれしたからにはホイホイ行く。というか友達の誘いが普通に嬉しい。

 

学校にしても、なのは達が居ると楽しいってだけだしな。勉強のレベル、小学3年生とは思えないが。一応中身は大人(若い方)なのでどうにかなっているが聖祥恐るべし…中学頃にはもう勉強しないとついていけないかもしれない。

 

さておき、時間通りに行動してバスを待つ。

アニメで言えば4話の最初ですずかの家に行くバスだが、なのはは恭弥と一緒に行くはずだ。ついでにバスの時間ギリギリとも言っていた覚えがある。

なのはだけならともかく、恭弥まで合わせて鉢合わせて気まずい空気になるのが御免で早めの行動をしていたのだった。

 

到着したバスに乗り込み、過ぎてゆく景色を見ながら少し昨日のことを思い出す。

 

結局名前も知らないあの女、聖祥の制服を着ていたから調べようとこの1週間学校で同じクラスの奴を中心に調べたが、何せ名前も知らない、特徴と言えば黒髪の長髪とかいう没個性だ。誰に聞いたとて思い思いの答えしか出てこず、わからずじまいだった。

そもそもなのは世界に転生してるからといって、聖祥に通ってるとは限らない。ないとは思うが、カモフラージュに聖祥の制服を着ている可能性だってなくはないのだ。

 

一方で、向こうもリリカルなのはを見ていたならなのは達の行動を把握するのは容易く、それによって俺がなのはと行動を共にする限り向こうは俺の動向を簡単に把握できる。この一方的な関係性は早めに何とかしなきゃならない。

 

今のところそれでもあれから追撃を受けていないのは恐らく大きくわけて2つ。多分、俺に負けたあの時俺が何をしたかがわかっていないことと、何よりも俺がほとんど常になのはと居ることによって、自分の行動で何かを変えてしまうことを恐れているんだ。だが、どちらの理由もそう長くはもたないだろう。

なんとかする訳ではなく、あの女を引っ掻き回すだけなら方法がないでもないが。

 

主に後者の理由は、時間が経てば経つほど何をしても変わるようになってしまうから、早めに対処したい筈なのだ。そしてそれに引っ張られ、前者はある程度スルーしかなくなる。

つまり、どう転んでもそう遠くないうちにまた戦うことになる。

その前に奴の正体を補足したい。のに、転校生ですらヒットしなかった。多分最初から在校生、ということにして溶け込んでいるんだろう。どうやったものか…

 

 

深く思考に没入してるうちに一駅分乗り逃した。

 

「んのアホ…!」

 

自分に呆れて悪態をつきながらも早歩き。走って汗かいてお茶会行くのは流石に悪い。早めに家を出た恩恵がこんな所で出るとは、早起きは三文の徳とかいうことわざも馬鹿にならないらしい。そもそも俺が馬鹿やらなきゃこうはならんのだが。

 

しかしこの街、一駅分の距離中々大きいな。すずかの家の敷地が大きいから、というのはあると思うけど、それにしたって一駅分の距離が歩くの億劫なくらいには。

腕時計を見てみると、早歩きでも時間は微妙に危ない。普通に間に合いはするだろうが、ギリギリに出たくらいの時間になりそうだ。

 

ということは、だ。

 

 

「あ、帝翔君だ。」

「む。」

 

月村家近くまで来たところで、なのはと恭弥、高町家の長男&末っ子と鉢合わせる。いやまあ、バス内で気まずい空気になりたくなかっただけだし、ここで会う分には別にいいけどな。

 

「あれ?なんでそっちから…?」

 

「…考え事してたらバス乗り逃した。」

 

「あー…あはは…」

 

なのはの苦笑いと恭弥の少し呆れたような息がちょっと痛い。姿まで大人だったらプライドがベッキリ芯から折られてたような気がする。そもそも姿が大人だったら呼ばれないこととか、恭弥から小言の1つでも入りそうなことはさておいて。

しかし似てないなこの兄妹。strikers、つまり大人になってからのなのはならやや雰囲気が似てるかもしれない。物憂げな空気なんかが。

 

ともあれ偶然ながらも合流した俺達が少しばかり歩くと、明らかに私有地だなって感じの敷地に入った。奥には大きな屋敷が…屋敷が……

 

デッッッッカ。

 

なのはの家も全体を見ればかなり大きいが、これはなんか、毛色が違う。The・洋館というか、知ってはいたけどお嬢様だなすずか。一応前にも来たことはあるけど、入るとなれば印象が変わる。塗装変えたら小学校って言われても信じるかもしれない。

と、なのはがインターホンを鳴らす。軽快な音が鳴り一拍置くと、

 

「恭弥様、なのはお嬢様、いらっしゃいませ。」

 

明るい配色の紫髪をした綺麗なメイドさんが出迎えてくれた。高町家以外だとこういう年代の人とは全くと言っていいほど会わないので少し新鮮だ。

 

「ああ、お招きに預かったよ。」

「こんにちは〜」

 

なのはと恭弥の返事に満足気な微笑みを返すと、今度はこちらに向いてきた。

美少女と居ることに慣れてなかったらキョドってた自信あるな。

 

「そちらは天坂帝翔様ですね、すずかお嬢様からお話は聞いております。ようこそおいでくださいました。私は月村家のメイド長を勤めております、ノエルと申します。」

 

「あ、はい。こちらこそ、お招き頂いてありがとうございます。」

 

流石は本職のメイド。一礼することすらサマになるというか、所作が流麗だ。

思わずこっちも90°のお辞儀で返してしまった。いやしまったじゃないな、友達の家と言っても初めてだし初対面だしでこれでいいんだ。

あと当然ながらなのは達とは違う慣れのない壁というか、異物感がちょっと居心地悪い。これについてはそのうち慣れてなくなっていくだろうからいいけど。

 

挨拶を済ませると、ノエルさんの案内を受けて屋敷の中へと通される。なのはと恭弥は慣れたものだろうが、俺にしてみれば慣れてないどころの話じゃない。

お嬢様だすずか。

そんな語彙力のない感想しか浮かんでこないくらい完全無欠にお屋敷だった。

 

みっともないだろうからキョロキョロするような真似はしないが、ちょっと体が固くなってしまう。いかん、緊張してるな。肩の力を抜きたいが、正直これは何ともなりそうにない。せめていつものメンバーが揃えばな……

そんないつものメンバーこと、アリサとすずかの待つ部屋に案内される。そもそも目的がお茶会だから会うのが当たり前だけど、今この状況で会えるとなるとなんだか異様にありがたみがある。

 

猫。

とことこ歩いてる子も居れば椅子の上で丸くなってる子も居る。とりあえずは合計4匹か。皆一様にとても落ち着いていて心地良さそうだ。猫。4つある椅子、1個占領されてんな…

それに、席の方にも会ったことのない女性が居る。女性というには若々しさに過ぎる気もするが、女の子というには幼さに欠ける、どこかすずかの面影がある…逆か。この女性の面影がすずかにあるんだ。とにかく、そんな人だ。

 

「なのはちゃん!天坂くん、恭弥さん!」

「ん、おはようすずか。」

 

案内され、部屋に入った俺達にすずかが嬉しそうに声を掛けてくる。純粋だなぁ。それになのはが挨拶を返すと、なのはの肩に乗っかるユーノもキュッと鳴き声を出していた。

あーこの内輪に紛れ込んじゃったみたいな空気、陰キャには辛いやつだ。少しボーッとしながら整理しよう。

 

「なのはちゃん、いらっしゃい!」

 

なのはの方には仲良さげな、正直あんまり世代も離れて見えない幼げなメイドが声をかけてくる。確か名前はファリンさん…だったはずだ。後でなのはかすずかか本人に聞こう。

 

「恭弥、いらっしゃい。」

 

女性の方は月村忍、すずかが一緒にお出かけとかそんな事を言いながらポロッと言ってたすずかの姉だ。元を辿れば訳ありな人だが…まあ、リリカルなのは世界ではそれもなさそうだしどうでもいいか。小学生組もメイドさんも無視して見つめ合ってイチャついてること以外は大体どうでもいい。リア充滅べ。

 

…転生モノのチートってよく色んな概念系能力だの魔法だのがあるけど、リア充・ラブコメ主人公系男子をピンポイントで殲滅するチート能力とかないんだろうか。もしあったらワンチャンそれ選んでこの世界来てた可能性……ないな。そもそもなのは世界にリア充自体がそんな多くないから無駄チートだろそれ。

 

「天坂様はどうなさいますか?」

「ぉぁっ」

「ぷふっ…」

 

ノエルさんに急に名前を呼ばれたもんで思わず変な声が出て、しっかり聞こえてたらしいアリサに笑われた。

なんか妙に恥ずかしい。

 

「?天坂様?」

「あ…すみません、あんまり聞いてませんでした。」

「お茶をご用意致しますが、何がよろしいですか?」

「あー…お任せしていいですか?」

 

陰キャ特有の前置きのあ、とかあー、はもう生態なのかとかどうでもいい事ばかりが浮かんで欲しいお茶とか浮かんでこない。というか紅茶とかそういうのの詳しい種類を知らない。知ってるのは麦茶とか緑茶とか、そんな誰でも知ってる枠組みくらいのものだ。

 

「かしこまりました。ファリン。」

「はい、了解です、お姉さま」

 

頷き微笑むノエルさんがなのはと仲良い方のメイドさんを呼ぶと、呼ばれたメイドさんはピシッと敬礼してお茶を淹れる為か一度出口の方に歩いてくる。

 

「じゃあ、私と恭弥は部屋にいるから…」

「はい、そちらにお持ちしますね。」

 

さらっと手を繋ぐのを見せるな。リア充に対する恨みが強くなっちゃったらどうする。非モテの怨念は世界を滅ぼ…せたらとっくに世界滅んでるか、じゃあ取るに足らないな。悲しい。

そんなこんなでメイドさん2人は一礼して出ていき、恭弥と忍も続くように部屋を変えに行く。

 

結果、予定通りにいつものメンバーでお茶会だ。

 

「んっしょっと」

 

窓際の席に向かいつつ、椅子でダラーっとしている猫を退かすなのはを見る。未練がましくニャーと鳴く猫がふてぶてしいが、さして気にする様子もない。

 

「2人ともおはよー」

「うん、おはよー」

「おはようアリサ。」

「相変わらずすずかのお姉ちゃんとなのはのお兄ちゃんは、ラブラブだよね〜」

 

朝の挨拶から流れるようなリア充の話に思わず瞑目する。

 

「あはは、うん。お姉ちゃん、恭弥さんと知り合ってからずっと幸せそうだよ。」

 

微笑み、姉の幸せを喜ぶすずかに心の中で土下座する。

ごめんすずか、俺さっきまでその2人の滅亡を願ってました…もはや迅雷つけてnetに接続するレベルで。

 

「うちのお兄ちゃんは…どうかなぁ。でも、昔に比べて、なんだか優しくなったかな。」

 

「へぇ〜」

 

「…ちょっと意外。なのはの家でご飯食べた時ちょっとだけ話したけど、ずっと一貫してそうな人だと思ってた。」

 

「あはは、どうなんだろうね。優しくなったっていうか…なんていうんだろ?とにかく、よく笑うようにはなったかも。」

 

リア充の滅亡を願ったことを全力で懺悔したい気持ちになってきたが、こんな小学3年生が居るか。

手を繋ぎ、移動していく2人の兄と姉を見送ると、入れ替わるようにいつの間にやらなのはのバッグに入っていたユーノがひょっこり出てくる。

 

「そういえば、今日は誘ってくれてありがとね。」

「あ、俺もだ。」

 

なのはが礼を忘れないようにと言ったことで思い出し、緊急同調。

さておきユーノが猫の中の1匹にジリジリと詰められてるがそれはいいのか?俺には冷や汗ダラダラに見えるけど。

 

「ううん、こっちこそ、来てくれてありがとう。」

「なのは、今日は元気そうね。」

 

アリサの言葉に不思議そうな顔をするなのは。

視聴者として元々知ってはいたけど、友達として近くになって改めて思う。なのははやっぱり自分のことはとても鈍い。

友達から自分がどう見えてるのかとか、それすらも。

それに敏感なことは必ずしも美点ではないけど、だから鈍ければいいってものじゃないんだ。

 

事実。

友達が自分が隠し事をしてることに気づいてることにも気づいてないことは、付き合いの浅い俺がアニメとかを振り返らなくても分かるくらいに。

 

「なのはちゃん、最近少し元気がないから…何か心配事があるなら、話してくれないかなって2人で話してたんだ。」

 

「……すずかちゃん…アリサちゃん……」

 

……人が自分を見てくれている、って実感出来る瞬間ってのはやっぱり嬉しいものなんだろう。なのはが感極まってちょっと泣きそうな目してる。

あと返事がわりに行儀良くお茶を飲みながらウインクするアリサは良い女過ぎるぞ。ほんとに小学生かっていつも言ってるな。

 

一生続いていきそうな美しい女の子同士の友情にうんうんと頷いていると、予想だにしなかったような大きな鳴き声。

全員揃ってその元を辿ってみれば、さっきユーノに詰め寄っていた猫が大きな鳴き声を上げながら逃げるユーノを追いかけ回していた。

 

なのはとすずかがそれぞれを静止するように立ち上がったので、一緒に俺も立ち上がって、ついでに入口の方に歩く。

ま、未来を知ってる特権をささやかなトラブルを防ぐのに使ってもバチは当たらないだろ。

 

「はーい、お待たせしました、いちごミルクティーと、クリームチーズクッキーでーす♪…わわっ!?」

 

呑気な様子でメイドのファリンさん?が入ってきた。名前聞くの忘れてたな。

で、そんな折悪く入ってきたファリンさんの足下を猫とユーノが駆け回り、引っ掻き回され目を回したファリンさんが持ってきた茶菓子をひっくり返す。言ってしまえばそれだけだが、まあ危ないことが少ないことに越したこともない。

 

「落ち着いてくださいね。危ないです。」

 

慌てて止めようとするなのはとすずより先に駆けずり回るチビ助2匹に足下を取られそうなファリンさんの肩と持ってきた茶菓子を持つ手を支えてやる。

最終的に転んで怪我したりすることはないから別にする意味もないが食器とかお菓子とか用意し直すのも悪いだろう。

 

「えあ、あ?ありがとう、ございます?」

 

急でなければとりあえず落ち着くことは出来るタチなのか、ひとしきりチビ助達が走り回り離れると、お茶菓子は無事に済んだ。

やっぱり、何の目的もなかったならこれくらいの些細なことに未来を知っているというハンデを使うくらいの方が楽だ。

 

「あ、天坂くん…?」

「帝翔君、なんかわかってたみたいに動いてたね…」

「はー…」

 

と、そうやって自分のことばかり考えていると、すずかはいまいち追い付いてないような顔で、なのはは感心したような顔で、思い思いの感想を驚いたままに述べていた。どんな顔しても可愛いの普通にズルだな。

ちなみに最後のは急転する状況に未だちょっと追い付けずにいるファリンさんの反応だ。

 

うーんこれは…変な爽快感というか、幼い頃にあった幼稚な万能感みたいなものが胸の内を渦巻いている。ありていに言えば気持ちいい。なるほどな、今転生モノの小説を書く人と主人公の気持ちがわかったかもしれない。この周りを抜き去ってる感が好きなのか、要は。その上可愛い女の子に好かれるとなれば人によっては好みもするだろう。そんな異世界転生をしたいものだ。

それが選べる立場で切り捨てておいて思うことではないし、俺には早めに動きすぎたせいで若干引かれてるように見えるが。

 

「すっごい早かったわね、今動くの。」

 

「勘はいい方でさ。後でアリサの家の夕飯でも当ててみようか?」

 

「それ、もう勘じゃないでしょ」

 

呆然としてから立ち直ってきたアリサになるべく茶化すように返答してから、ファリンさんが危ない感じで持ち上げかけてたお盆を持つ手を平常な高さへと降ろさせる。

 

「いきなりですみません、怪我ないですか?」

 

「へ?あ、はいっ、ごめんなさい!」

 

いえいえと返しつつ、この後どうなってたんだったかとアニメを思い返す。なんか別室の恭弥とすずか姉に食器ひっくり返した音とか聞いて呆れられてたのは覚えてる。それはもう変わってるだろうが。

ああ思い出した。確かこの後は、そうだ。なんでか知らないけどいつの間にか庭?かどこかでお茶してた。

 

「すずか、ここだと楽しくお茶会、っていくには猫には狭いみたいだし、天気もいいからすずかが良ければ外でお茶会にしないか?」

 

「外って…あ、お出かけじゃなくて、お庭でってこと?」

 

伝わるかどうか微妙だと思ったがすずかさえ良ければ、の部分で理解してくれたか、言いたいことを汲み取ってくれる。

それに対して首肯しつつ、目線でなのはとアリサにもそれで良いかと問いかけてみるとなのはは逃げる方とはいえユーノが関わった騒動からか苦笑い、アリサは肩を竦めて返してくれた。OKらしい。

アリサについてはちょっと好きにしたらみたいな感じがしたが、それはいいだろう。

 

「どうかな。」

 

「もちろんいいよ?」

 

「という訳なので…ファリンさん、持ってきてすぐで申し訳ないんですけど……」

 

「だ、大丈夫!落としたりしません!」

 

頼もしいな。頼もしいか?ユーノと猫がチョロチョロして目を回したのを知らなかったら頼もしかったかもしれない。いやそんなことないな。

しかし、それでもすずか専属のメイド。なんやかんや任されているということは、普通に頼りになるメイドさんなんだろう。

 

そんな訳で俺となのはは来たばかり、下ろしたばかりの荷物をまとめ、4人揃って広い月村屋敷の庭へ案内されたのだった。

 

 

 

 

裏庭、なのだろうかここは。

屋敷の裏の方に来たと思ったら、想像以上の大きさの裏庭だった。具体的にはポケットに入るモンスターでおじさんが自慢してそうな裏庭。全然具体的じゃないなこの説明。

ともあれ、平凡人生を歩んだ俺には例の挙げようもないような広い場所。大きい公園にでもできそうだ。

 

場所は移り、そんな裏庭のど真ん中にテーブルと4つの椅子を立ててお茶会と洒落こんでいた。

洒落こんでいたというか本当にお茶会なのだが、なんかこう、生きてる世界の違いを突きつけられた気分なので慣れないうちは洒落こんでいることにしないと何かが折れそうだった。

 

足下でじゃれている色んな種類、柄の猫たちを見やりつつ微笑んでいたアリサがふと顔を上げ、口を開く。

 

「しっかし、相変わらずすずかんちは猫天国よね。」

 

「えへへ」

 

「………。」

 

「あ、猫っていえばさっき帝翔に聞こうと思ってたんだけど」

 

「んっ?」

 

足下にちっこいのにほのぼのしつつ美少女に囲まれティータイム、という前世で死にかけの人を助けたくらいの徳を積んだんじゃないかと思う天国の時間から声を掛けられ、紅茶を仰ぐ手を止めアリサを見る。

だから前世からそのまま転生してきたっつってんだろそんな徳は積んでないわ。

 

「フェレットもそうだけど、帝翔って犬以外の動物は嫌いって言ってなかった?」

 

「え?」

 

言ったかそんなこと?俺は基本虫以外は鳥類爬虫類までかーわーいーいーって言える程度には動物好きなんだけど。

 

「…あ、そういえばそんなこと言ってたような…ユーノ君を動物病院に連れていった時だよね?」

 

それを聞いて思い出したように続くすずかと、さらっと言った動物病院という単語になのはがギクリと肩を跳ねたのを見て思い出した。言ってたな、言った言ったそんなこと。適当ぶっこいただけだし、なのはが魔法少女になるのを見届けたりしたからもうその日のうちに忘れてた。

けど、

 

「違う違う、俺は犬以外の動物は『得意じゃない』んだ。嫌いな訳じゃないよ。今見てて普通に可愛いなーとは思うしさ。」

 

軽く屈み、手を伸ばしてやると子猫がフンフンと指先を嗅ぎ、お菓子の甘い匂いでも残っていたか軽く舐めてくる。ザラっとした舌がくすぐったいが、愛嬌があって可愛いものだ。猫かわいい。

 

「ふーん。あ、じゃあ今度ウチにも来なさい?ウチは犬屋敷だから♪」

 

屋敷かー…

などと屋敷という言葉1つにたじろいでもいられない。見た目のインパクトこそ大きいが、要は友達の家なのだ。騙されるな俺。

 

「あぁ、楽しみにしてる。」

 

満足そうに笑うアリサを見て微笑み、なのはが机の下の猫達を見て話題を変える。

 

「でも、子猫たち可愛いよね。」

 

「うん!…里親が決まってる子もいるから、お別れもしなきゃならないけど…」

 

「そっか…ちょっと、寂しいね。」

 

「…でも、子猫たちが大きくなっていってくれるのは、嬉しいよ?」

 

そう言って戯れる子猫に視線を向け微笑むすずかは寂しそうで、だけどそれはいい事なのだという嬉しさも入り交じった、そんな慈愛の表情をしていた。

小学3年生がする顔じゃないだろそれ。親元を離れ、巣立っていく子を見送る母親とかそういう顔だ。しまいにはママって呼ぶぞ。

 

「そうねー…」

 

「すずかは凄いな…俺だったら、もっと自分のことばっかり考えて、お別れに文句言うかも。」

 

「えっ?あはは…そうかな?」

 

そうそう、と頷いたところで。

 

 

ピリッと、肌を突くような感覚。

覚えのある、先週と合わせて2週間で慣れてきた感覚を受け、ほぼ反射的になのはを見ると何かを感じ取ったような少し険しい顔をしていた。

間違いない、ジュエルシードだ。

そしてここのジュエルシードで何が起こるか、誰と出会うのか、俺は知っている。

 

アリサとすずかはそれぞれ猫を抱っこして文字通りに猫可愛がりしている。それを交互に見て思い悩むなのはの意思を汲んだようにユーノがなのはの膝から跳びおり、走り出した。

 

「ユーノ君?」

 

一拍置いて、なのはもその意図に気づき立ち上がる。

 

「ユーノどうかしたの?」

 

「うん…何か見つけたのかも。ちょ、ちょっと探してくるね?」

 

「一緒に行こうか?」

 

「大丈夫、すぐ戻ってくるから待っててね。」

 

そう言って走り出したなのはを2人が心配そうに見送る。

そうだな、そう言われたら理屈で考えてついていきにくいよな。まして2人はなのはの親友だ。もしかしたら、ここで一緒に行くのは余計なお世話だとか、信用していないことになるとかそんなことを思っているのかもしれない。

 

俺には関係ないけどな。

 

バスの中で考えていたあの女を引っ掻き回す方法を実行するなら早い方がいい。

 

「すずかの家だから大丈夫だとは思うけど、俺もちょっと行ってくる。」

 

「え?」

 

「なのはとユーノを追いかけて見つけるだけだし、すぐ戻るよ。」

 

反論させるつもりもなければ聞く気もないのでさっさと言い逃げしなのはの後を追う。幸い、脚の速さは最初に確認した。充分追いつけるだろう。

 

軽く走れば本当にすぐになのはの背中が見えた。ユーノと何か話しているようだ。

一度木陰に隠れて様子を伺うと、ユーノが何か翠に輝く魔法陣を開いている。当然魔法を行使する合図だ。

1人ではジュエルシードの回収も、なのはのような広域索敵もできないユーノがこの状況で使う魔法といえば…

 

「結界か……」

 

直後、世界は色褪せた。

スイッチを切り替えたように景観だけが同じ、灰色の世界に放り込まれたのかと錯覚する。いや、界を結ぶのだから、事実その通りなのかもしれない。

だが、その存在を主張するように風に揺れる木々は鮮やかな緑の顔を僅かに見せる。全部が灰色になるとか、そういうのではなさそうだ。

 

そして、そちらに目を奪われている場合ではないぞと言わんばかりの発光が起き、巨大な影が……

 

猫。

 

みゃーと響く鳴き声1つ。

今回のジュエルシードの起動者である猫は、呑気にも鈴を鳴らして鳴いていた。つぶらな瞳は全く変わらず、どこをどう見ても凶暴な獣になど見えるはずもない。

知っていたはずなのに、一瞬目の前の光景の馬鹿らしさに思考を放棄しそうになる。

 

きょーもせかいはへいわだなー……

 

「ぅ、ぅん……?」

「…………………」

 

ほら見ろ、なのはも気を張ってたのにこれだから反応に困った顔してるし、ユーノに至っては絶句して枯れてるぞ。

 

「にゃーお」

 

にゃーおじゃないが???

どんなに可愛かろうと巨体は巨体。その四足で歩を進めればズシンズシンと地が響くものだが、予想外のNYAONに毒気を抜かれたなのははすっかり呆然としていた。

 

「ぁ、ぁぁ…あ、ああ、あれは……」

 

「た、多分…」

 

「にゃーお」

 

うるせぇ猫。

 

「あの猫の大きくなりたいって願いが、正しく叶えられたんじゃないかと……」

 

そう、猿の手でもなければどこぞの聖杯でもあるまいし、ジュエルシードは願いを歪めて叶えるばかりじゃないのだ。基準はよく知らないが、その願いを正しく受け止め、真っ当に叶えることもある。いずれにせよ、人の手に余るものだとは思うが。

にゃーお。

 

「そ、そっか……」

 

片手で頭を抱えるような仕草を見せるなのはがやけに不憫だ。いやまあ、うん、アニメになってないところでもこんなのと戦うことはなかったんだろうな。そりゃ気も抜ける。

 

「だけど、このままじゃ危険だから元に戻さないと。」

 

「そうだね、流石にあのサイズだとすずかちゃんも困っちゃうだろうし。」

 

普通に喋ってるユーノ君の至極ごもっともな意見に何かちょっとズレているような気がしてならない受け答えをキリッとした顔で返すなのは。困りはするだろうけど、なんか、そうじゃないと思う。

 

「にゃーお。」

 

「襲ってくる様子はなさそうだし、ささっと封印を…レイジングハート!」

 

首からかけ、普段は胸元に隠しているらしい赤い宝石レイジングハートを取り出し、その名を呼ぶ。

だが、そうすることでなのはが魔法少女へと変身することはなかった。何故なら、それよりも速くなのはの背後から飛んだ黄色い閃光が巨大な猫を攻撃したからだ。

 

悲痛な鳴き声を上げ、揺れる巨体。

それを見てすぐに、閃光が飛来した方向へ振り返る。多分、なのはも同様に。

並ぶ電柱、その1つの先。眩しいほどに光を受けて輝くような綺麗な金髪を2つに結った端正な顔立ちの少女が、私服とは縁遠い黒を基調とした服を纏い、マントをはためかせながらその杖を構えていた。

 

遠く、何を言っているかはわからない。だが、何らかの指示を受けたその杖は再び光を灯し、黄色の閃光がいくつも放ち巨大化した猫を攻撃する。

なすすべもなくそれを受け、またも痛そうな鳴き声を上げ倒れかかる巨大猫。

 

「あ、あれは…魔法の光…!?そんな…!」

 

信じ難いものを見たように立ち尽くすユーノを置き、なのはは宣言する。

 

「レイジングハート、お願い!」

 

俺にとっては一瞬、多分アニメとかで見るなら一分ほどだろう時を経て、なのはは魔法少女に変身し、猫の元へと飛ぶ。

そして容赦ない追撃、閃光の雨に対してその魔法で防壁を作り、猫への攻撃を防いでいた。

 

《Master》

 

そうやってなのはが守ったのを見て初めて、呼び掛けられていたことに気づく。下げていたはずの手の内にクロッカスを握り、身体が今にも飛び出そうと木陰から乗り出していた。

2人が互いに気を取られていたお陰か幸運にも気づかれてはいなかったが、自分でも気づいていなかった。

……頭に血が上ってたみたいだ。

 

足元を撃たれた猫が、今度こそ倒れる。バランスを崩しそうになりながらもゆっくり飛んで着地したなのはの前、木々の1つ、その枝に斧にも似た杖を持った少女は降り立つ。

フェイト・テスタロッサ。

彼女もまた、俺が好きな魔法少女。

その筈だ。

表情1つ変えずあの猫を攻撃するのを目の当たりにして、俺自身の煮え返るような戦意に気づいた今では、断言できない。俺は本当にここから、この世界で、フェイトを好きになれるのかどうか。どんな事情があるか、知っているのに。

 

だけど、あの猫が攻撃されていることに憤っているのかと言われれば、それもありはするけど厳密には違うと思う。表情1つ動かなかったことかと言われれば、多分それもあるだけで違う。凄く惜しい気はするが、自分の怒りの理由が掴めない。

 

「同系の魔導士…ロストロギアの探索者か。」

 

俺の想いは当然、なのはの思いも他所に、フェイトがその存在を認識するように話しだす。いいや、話というには一方的に過ぎる気もするが。

 

「間違いない、僕と同じ世界の住人…そしてこの子、ジュエルシードの正体を…」

 

ユーノが呟くようにその正体を考える。

しかし、赤い瞳は揺れない。思っていなかった誰かに会っても、その目は冷静にその誰かではなく、その杖を捉え、分析する。

 

「バルディッシュと同じ、インテリジェントデバイス。」

 

「バル、ディッシュ…?」

 

「ロストロギア…ジュエルシード。」

 

その声に応えるようにその杖、バルディッシュは斧のようであったその刃を開き、光の刃を以てその形を大鎌へと変える。

 

「申し訳ないけど、頂いていきます。」

 

それを構えたフェイトの言葉に、煮えくり返る戦意が、怒りが、どうして湧いてくるのかに気づく。

しかもその理由は、答えまでとっくに知っているものだった。なんて身勝手なことか。

 

初撃を回避し、空中での鍔迫り合いに入った2人は程なくして離れそれぞれがほとんど最初と同じ立ち位置につく。フェイトは枝を足場に。なのはは倒れている猫を背に守るように。

そうして2人はお互いに、自身の杖を向け合う。銃を突きつけ合うように。

 

ふと思い出す、これから起こること。

なのはの敗北と、少しの時間の気絶。

経緯や更にその後のことを思い出すには時間が足りないけど、なのはが気絶したならアリサとすずかがどんな顔をするのか、今の俺には想像に難くなかった。

 

そして、猫が身じろぎし、なのはがそれに気を取られた瞬間。

フェイトが僅かに開いた口は、聞こえないほどに小さく、だが確かに呟いた。

 

「…ごめんね。」

《Fire》

 

あれだけ気を配って、必要な時までなるべく未来を変えないようにってやってきただろうに、バカだろ俺。

まあしょうがない、あの女を引っ掻き回す方策でもあるしな、と後から言い訳をつける。

実際にはただ飛び出してしまっただけだったが。

 

「えっ…!?」

「クロッカス行くぞ!」

《Yes master》

 

転身は一瞬だ。こと男に関してはアニメですらそうだからな。

私服だった俺の服装も2人と同じように、そこから縁遠いものへと変貌する。だが2回目だからといって何か気にする暇などない。

 

「ボーッとするな!」

 

なのは諸共生身なら転ぶように、だが転身してる為になのはを押し出すように共に翔ぶ。

直後、なのはが居て、俺が通った場所をバルディッシュから放たれた必殺と呼ぶべき類の雷光が撃ち抜いた。

いいや、撃ち抜いたどころの話じゃない。光が広がる。離れようとしてる俺達にまで。

 

「わっ」

「クロッカス!レイジングハートも手伝ってくれ!」

《All right》

 

2つのデバイスが全く同じ返事をする。なのはを守る為か、レイジングハートもまた応えてくれた。

 

《Protection》

 

二重の防護魔法。なのは自身が予想外の出来事から防御に参加できてないからかレイジングハート側の防御力がデバイスと俺自身が一体として参加してるのに比べて弱い気はするが、それでも直撃を避けてから衝撃の余波を防ぐには充分すぎるくらいだ。

 

「!」

 

その様子を見ていたフェイトがその表情に僅かな驚きを見せる。

すまし顔がちっとは動いてなによりだ。そういうの、キャラじゃないだろ。

 

「また魔導士…それも、インテリジェントデバイス。」

 

「て、帝翔君…?」

 

「なのは、後で説明するからちょっとだけ静かにしてて。」

 

原作キャラを黙らせるとか普通にあり得ないが、まあしょうがない。元々ならなのははここで気絶しているのだから、話せないことで不都合は起きないはずだ。

対照的に臨戦態勢に入りつつあるフェイトは、本来の歴史から大きく外れてしまう可能性が高い。だからなのはを助けた今俺がすべきことは。

 

「…?何を…」

 

「見てわかるだろ、道を空けてる。」

 

「……何のつもりで…」

 

疑ってるな。無理もない。横から突然入ってきて、それも相手の魔法少女と顔見知りで助けるような行動を取ったのに、戦う素振りも見せずにジュエルシードを譲ろうとしている。疑いもするだろう、俺でもそうする。

 

「必要なんだろう、ジュエルシードが。でも、あの猫をなるべく苦しまないように回収してくれ。そうしてくれるなら文句ない。」

 

「帝翔君!?ダメだよ、あれはユーノ君の大事な…!」

 

そこまで言ってから、言ってしまったことに気づいて口をつむぐ。聞いていなかったはずもないが、ひとまずは無視でいい。

 

「…わかった。でも、邪魔をするなら、」

 

「しないよ。とりあえず今は。…けどまあ、俺をやるなら今のうちにやっといた方がいいよ。俺は今後どこかで必ず、邪魔になると思うから。」

 

「……何を見ているのかわからない…その女の子と、何か違うような…」

 

「今はこれでいい。でも、俺が今やりたいことは前もって言っとこう。さっき決まったようなもんだから偉そうに言うもんじゃないけど。」

 

クロッカスの杖先を困惑を湛えつつもやはり揺らがない…いいや、戻らない表情に突きつける。

そう、フェイトは猫を傷つけ、なのはを倒すほど攻撃して、聞こえないように謝罪までしておきながら全く表情が動かなかった。それは、何も感じてないから、なんかじゃない。

最初から、ずっと悲しかったから。傷つける前から、ずっと悲しい顔をしていたから、その後に続く行いに顔色ひとつ変えていないように写っていただけだった。

 

だから、結末を知っていても。

余計なお世話だとしても。

宣言せずに居られない。

 

 

「俺は絶対、その辛くて悲しそうな顔を止めさせる。きっちり助けてやるから覚悟しとけ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、フェイトは見逃した。なのはも俺が言ったことに思うところでもあったのか、信じてくれたのか…それともただ動けなかったのか、どうあれ引き下がっていてくれた。

なのはの腕の中にはユーノが、俺の腕の中にはジュエルシードをフェイトに回収され、元のサイズに戻ってぐったりしてる猫が居る。

 

「ジュエルシードがなくなって、攻撃されたりした疲れが来てるんだと思う。すぐに元気になるよ。」

 

と、ユーノは言う。

そう、ユーノがだ。

それはつまり、喋ることができるのを俺に隠すのをやめたことを意味する。俺が魔法を使えることを隠さなくなったから。

 

「……えっとね、帝翔君。」

 

「ごめんなのは。」

 

「へっ?」

 

これから話を切り出そう、というところで早速出鼻をくじかれ、素っ頓狂な声を出すなのは。

面白いけど笑ってる場合じゃないな。そもそも笑えてないな。

 

「色々聞きたいことはあるだろうけど、多分1番聞きたいいつからって質問から答えて、先に謝っとく。」

 

「う、うん…」

 

「最初から、全部。なのはがユーノと出会ったところから、今までのあの宝石を回収する戦い、全部知ってた。俺にもユーノの声、聞こえてたから。なのに、全部見逃してた。」

 

「えっ」

 

「あ、あはは…やっぱり?」

 

まさか他に聞いている人間が居るなんて思ってもみなかったんだろう。今度はユーノが言葉に詰まっている。

一方のなのははこの答えを予想していたらしく、元気のない苦笑いを浮かべる。あぁ、この顔は見たくなかった。もっとタイミングも、言葉も、表情も選べれば良かったんだけどな。

 

「色々言いたいことはあるだろうし、俺も話さないといけないんだろうけどとりあえず戻ろう。あんまり時間かけたらアリサとすずかに心配かける。」

 

「……うん。」

 

グッと堪えるように頷く。聞きたくはあるけど、そうして時間を掛けた結果アリサとすずかがしてくれるだろう心配が心苦しい、といったところか。

言い訳らしい言い訳が成り立って良かった。何をどう言ったものか考える時間が欲しかったんだ。考えなしにも程があるだろうに。

 

どちらから、どうだろうと話を切り出せば話し切れないような気がしてか、俺もなのはもただ黙って歩くだけの時間が過ぎる。

この雰囲気はあれだ、普段教室の隅に居るようなキャラが何かの機会にはしゃいで、それをクラスの奴に見られてドン引きされてできる微妙な空気感に似てる。

要するに超気まずい。

 

流石にこの沈鬱とした空気のまま戻ったら俺までなんかあったのかと思われそうだ。

ここは適当に軽快なトークでも挟むのがいいだろう。

 

「……………」

 

「……………」

 

陰キャにできるかそんなこと。

多分出来たら今頃はなのは達以外のクラスメイトにも馴染んでる。

沈黙が痛いが、俺にはどうしようもないことがわかってしまった。…そうだ、そういえば、話題あるな。なんですぐに確認しなかったんだって思うやつが。

 

「…そういえばユーノ、さっきまで結界張ってたんだよね?」

 

「え、うん。」

 

頷いたユーノが示す通り、色褪せていた景色はすっかり豊かな緑を取り戻していた。

ザザ、と風に揺られる音が心地好い。

 

「その結界ってどういうの?俺も実は魔導士になってからの日にちはなのはと同じくらいだし、戦闘経験はなのはよりずっと少ないからわからなくて。」

 

「…じゃあキミは僕がなのはに見つけてもらってから?」

 

「そんな感じ。だからアリサとすずかにさっきのあれこれ聞こえてたりしたら…」

 

「ううん、大丈夫。ちゃんと説明するよ。僕の結界は魔法効果の生じてる空間と、通常空間の時間進行をずらすんだ。だから2人は何も知らないままだよ。」

 

何も知らない。

その言葉を聞いて俺もなのはも、あるいはユーノも。

少し気分が沈んでしまう。それはそうだ、特になのはは。友達に、親友に隠し事をして心配されることが辛くないはずもない。心配される事に感動してたりはしたがそれはまた別の話なのだろう。

 

 

結局、時間進行をズラすという結界の効果がよく出ていたらしく、アリサとすずかには何があったかも知られず、あまり時間も経っていなかったようだった。

本来ならなのはが気絶してすごく心配させたはずだったが、そこははっきり言ってあまり変わらない。何も話さず、無理に聞き出せない。なのはと、アリサすずかのそんな距離感はまだ変わらず、心配はされたまま。

 

日が沈む頃、家へと帰る道に着き、お隣さんだが特に意味もなくなのは、恭弥とは違う道を辿り1人歩く。

空を仰げば吹く夜風が、やけに冷たく思えてしまった。




転生モノは好みが出ますね。創作は大げさな性癖暴露大会だとあれほど。
かくいう私はその性癖ですら迷走しています。いきなり主人公ムーブするな。4話だぞ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。