転生したので反則技で魔法少女のお手伝い/敵することにした 作:絶也
転生して理想の自分になれたなら、別の名前名乗りたくない?自分じゃない誰かになりたいって悲しい欲求は残念ながらあるものなのです。
美しいものが好きだった。
ありふれた感性だと思う。
私は、多分どう贔屓目に見ても変人ではない。狂人でもない。もしそうなれたなら、と思ったことは何度もあるし、普通な自分が嫌になったことなんて数え始めればキリがない。
そんな私は生まれ直す前…生前は『魔法少女リリカルなのは』が好きだった。
別にファンタジーが好きだった訳じゃないけれど、たまたま出会ったそれにとても心惹かれていた。
始まりの物語も、続いていく物語も、将来の物語も、全部が好きだった。
だって、どれもとても美しかったから。
女の子達が?いいや、あの子たちが歩んで行った物語全てが、だ。出会いも、別れも、その全てが愛おしくなる。
死後、強い未練を残していた私が好きな世界に転生できる、なんて言われてもそこには行きたくない。私という不純物が入ることで、その世界を乱したくないと、本気でそう思っていたくらいだ。
だけど、女神が放ったたった一言で、私のそんな思いは変わった。
『生前好きだったのは魔法少女リリカルなのは?…あぁ、そういえばあなたの1つ前の男の人もその世界に転生してましたね。』
転生した。
それも男。
大方彼女たちが目当てか、もしそうでなかったとしてもどうでもいい。
『でもまあ、貴女が望むなら同じ世界でも違う時間軸に行けば、それで会わずに済みますよ?』
何も知らなかったらそれでも良かった。
というか、多分普通はそうやっているんだろう。
だけど、聞いたからには無視できない。と言うよりも、まさしく腸が煮えくり返る思いだった。
どうしてあんなにも美しい彼女たちの物語を、土足で踏み荒らそうとする?
どうしてそんな真似ができる?
怒りの混じった疑問ばかりが湧き上がる。
転生先は、1つ前の男が転生したリリカルなのはの世界で、その日の夜。
使う力はシステム・フォーミュラにした。枠は3つ使ったけど、人を殺すには魔法よりもこっちの方が向いていると思った。
そこまで考えて、自然に殺すと考えていた自分に驚く。
どこまでも一般的だと思っていた自分も、どうやら狂った所があったらしい。こんな形で露見しても、何も嬉しくないのが残念だ。
だけど、その殺意を否定する気は起きなかった。
そしてその日、私は子供になった。
ありふれた日本名は気取った横文字の名前に変えてみたし、黒い髪は、不自然のない薄紫色に。本当は青や深い紫にしようかと思ったけど、馴染んだ黒い髪からそこまで離す勇気はなかった。
転生というのは自由でいい。
「……ベルリア=エッセンス、か…」
自分で決めた名前ながら、違和感だらけだ。私にはネーミングセンスというやつがないのかもしれない。慣れるものなのだろうか?
エッセンスとは、真髄という意味だそうだ。ベルリアはただ思いついた名前がベリアルだったから入れ替えただけ。半分人殺しの為にここに来たようなものな私には存外丁度いいと思う。
人殺しの、真髄?
酷い名だ。本来のなのはの物語、とかそういう意味でつけたつもりだったけど。
何よりも不思議だったのは、子供ながらに生前よりも溢れてくる力だった。力、と言えばなんだか超自然的なものを想起するので、活力や筋力と言い換えてもいい。
どうやらシステムフォーミュラを扱う為の強靭な身体も手に入っているようだった。
そんな折、ふと外に何かを感じ取った。
見覚えのない部屋のカーテンを開き、窓の外を見れば白無垢のような憧れが…魔法少女、高町なのはが居た。
心が踊る、というのはこの瞬間のことを言うのだろうと本気で思ったが、それも一瞬だった。
この家のすぐ近くに、小さな男の子が居た。
平時であれば、だからどうということもなかっただろう。
けれど、今ここに魔法少女高町なのはの目撃者は居ないはずだ。
だからあれは。
紛うことなき、私の怨敵。
私が殺さなければいけない相手だ。
カーテンを閉じ、角張った三角状の私のデバイスを見る。
名は【エクスギアース】。
なのは達の物語を元通りに進める歯車となる為の、私の力。
この力をもって、私は転生したらしい男を殺す。
他に転生した奴が居るのなら、そいつも殺す。
私がなのは達の歩む道を守るんだ。
だけど、負けた。
1度目は、自分の心に躊躇いが残っているかどうかの確認を兼ねた、死ねばラッキーくらいの警告だった。
だけど2度目は、その恩恵をほとんど全力で活かして、ただ敗北した。
同じ転生者で、聞いていた通りならその恩恵に差などほとんどあるはずもないのに。
それからは、ただ見ているつもりだった。
いつか必ず、あの男を殺してやる為に、その機会を伺おうと。
でも、それはすぐに出来なくなった。あの男は、こともあろうに高町なのはとフェイト・テスタロッサの出会いにまでしゃしゃり出てきたのだ。
一度ほんの僅かに話して、コイツはなのは達を目当てにした色狂いじゃないのかもしれない、と思った。本物の命の危険を前にして、譲れないと言い切る度胸には感心する所もあったと、殺そうとした私でも思う。
けど、それだけ。
そこまでの思いであるだけに、私とは決して相容れないという確信も、同時にあった。
考えてみれば死後に持ち越すような未練、それが何かはわからないけどそれがぶつかり合うなら、譲歩なんてできる訳が無い。
そして人間というのはいつの時代も、譲歩のしようもない想いがぶつかりあったなら戦うより他にない。
どちらかが。
折れるまで。
横薙ぎ一閃、それで終わりだ。
たったそれだけで、私の宿敵は胴体と下半身が別れを告げる。
《Anticipation》
だというのに、忌々しい声が耳に届く。
それは最初の敗北、その最後の瞬間に聞いたものと同じ。
曖昧な記憶を辿り、その瞬間を思い返す。
あの時は、何も知らなかった。
反応されるなんて夢にも思わなかったし、ましてあそこから負けるなんて論外とさえ思っていた。
実の所、それ自体は今でもあまり変わっていない。
けれど、負けたからには認めなければならない。コイツは、アクセラレイター・オルタを使っても生き残るだけの『何か』を持っているのだと。
だから今度は油断しない。
一瞬たりとて目は離さないし、何があっても驚かない。
たとえばこんな風に。
──アクセラレイター・オルタの攻撃に対して、全身で回避してまるで普通の速度のように反撃してきたとしても。
なのはの最初の変身の時の帝翔は道端から部屋の窓を見上げていたので、薄紫と黒髪を見間違えてます(小話)