転生したので反則技で魔法少女のお手伝い/敵することにした 作:絶也
私、ベルリア=エッセンスは高町なのはを中心に紡がれるリリカルなのはの物語が大好きだ。
嘘偽りなく、愛していると言ってもいいとそう思っていた。
そう、思っていたのだ。今日までは。
時間を掛けても尚やはり人を殺すことに躊躇が持てなかったことからして自分自身が歪んでいることはそれなりにわかっているつもりだった。だというのに、今ほど自分の事がわからなくなったことはない。
今は自分の家となった、まだどうにも慣れない自宅の鍵を開けて中に入る。どうせ誰も居ない家だ、日も沈んでないうちからリビングに用はない。階段を一段一段上がりながら、考える。考えてしまう。
私は、自分がこのリリカルなのはの世界に転生した理由がわかっていない。
もしもそれに意味をつけるとするのなら、やはりそれは2度に渡って戦ったあの少年…いいや、それは見た目だけの話か。あの男を殺すことこそが転生した意味なのだと、胸を張ることは出来ずとも断言することはできる。
ただしそれは意味だ、理由ではない。
正体を隠すために着ていたジャージを脱ぎ捨てる。ヘルメットは…捨てたきり置いてきてしまった。回収しに行くか…?いいや、顔も見られた今じゃ役にも立たないし捨てに行くだけにしよう。それよりも、今はシャワーを浴びたい。
夕方にもならないうちにシャワーをのんびり浴びられることに誰に向ける訳でもないちょっとした優越感…贅沢感?を覚えつつ、着替えとタオルを手に階段を降りる。
木製のそれを踏み降りながら思い返す。忌々しくもあの男が放った言葉がどんな意図を持ち、どんな疑問を持ち、何故ぶつけてきたのか。それはわかるつもりだ。
─────お前だって転生したんなら、それなりの未練がないとおかしいだろ──
その通りだ。普通の人間の私には詳しいことは何もわからないけれど、それでも生前のあの世界においては狂おしいほどの未練を持つことが転生の条件だったはずだ。それを解消して、好きな世界でその生を終えさせることで安全に輪廻に入れるとか、なんとか。
つまり、私にも相応の未練がある筈だ。なぜならあの男を殺すという理由は死後転生出来ることを知ってから得たものであって、最初から持っていたはずがないのだから。
だというのに、それほどに強い未練なのに、他に何があるとも思えない。
そしてそのせいで、私は戦う理由…転生した意味さえも少しずつ失いつつあった。
眼を見ればわかるだとか、剣を合わせればわかるとか、そういうファンタジーな見分け方ではないけれど、あれは紛れもなく、少なくとも私の方からは殺し合いだった。
それに怯えもせず打ち合って、以前にも思ったことを確信した。
あれはなのは達目当ての色狂いとか、そういうのじゃない。
そもそも基本的に、人間誰だって戦うのは普通怖いのだ。最初から何故かかなり覚悟決まり気味だったなのはみたいな例が特異なだけで、私だって戦うのは怖かったりする。
それでもやるのは、やらなきゃいけないと思っているからだ。いいや、今は思っていたと言うべきだろうか?
そしてそれは恐らく、あの男も同じ。
何かどうあっても成したい事があるから、ああして戦うのだろう。
それを、この戦う理由さえ朧気な私が殺して叩き折ってしまって良いのか?そんな躊躇いが私の中に生まれている。
考え事ばかりしてるうち、無意識にシャワーを浴びる準備がバッチリだったので栓を捻り、人工的な雨のようなお湯を浴びる。
泥のようにこの思考も流れてくれないだろうか……
そもそも、どうして私はあいつを殺さなきゃいけないんだっけ…なのは達に悪影響を及ぼさないなら、それでいいじゃ──
寒気が走る。忘れてはならなかったものが襲いかかってきたかのようだ。
何故殺さなきゃならないか?そんなもの決まっている。なのは達の物語が、変わってしまうかもしれないからだ。
私はリリカルなのはの物語を愛している。何故か?美しいからだ。
それを奴がぶち壊しかねない。
理由は見失った。意味も正直危うい。だけど、奴は殺さなきゃダメだ。奴の存在でもしこの先、なのは達が解決するはずだった事件が1つでもおかしくなったらどうする?美しくなくなってしまったら、その時にはもう手遅れだ。
未練なんかどうでもいい……とは言えない。それはそれで大事な事だ、ちゃんと思い出す。だけど今はそれよりも大事なことがある。
シャワーを止め、顔に掛かった水滴をタオルで拭き取りながら今一度確認する。
私の意思を。
私の殺意を。
「……私はあいつを殺す。何があっても、いいや、何かがある前に。大きな影響になる前に、必ず。」
シャワー周りの話いる?いらない。