転生したので反則技で魔法少女のお手伝い/敵することにした 作:絶也
正直、今日を含めて何もない時は食べに来なさいと言われたときああは答えたものの、流石に士郎さんか恭弥のどっちかに何らかの苦言を呈されるんじゃないかと思っていた。お世話になりっぱなしだが、普通に考えてここまでしてくれてるのにこの上更にとか社交辞令以外では考えにくかったからだ。
ところが高町家はその考えにくい方だった。
美由紀は勿論のこと、士郎さん、恭弥まで二つ返事でOKを貰ってしまった。どうやら俺が自分で考えてた以上に小学生の一人暮らしというのは他人でも心配らしい。
そうだな、普通に考えてとか言い出したら娘の友達の小学三年生が一人暮らしでよく顔色悪くなる上にご飯もちゃんと食べてない、となればこうなるのはむしろ自然なのかもしれない。そこまで頭が回らなかった俺の落ち度だ。
とかなんとか御託を並べてみたものの……高町一家と囲む食卓は楽しくて、毎日こう出来るならそれはとても嬉しい、というのが素直な感想だった。誰かと話すのが、とかじゃなく、この家の暖かさに囲まれるのは心地いい。
俺が席に加わったことで今は椅子が6つあり(1つはうちから持ってきた)、広いテーブルの中桃子さんと士郎さんが並んで座り、その反対側で恭弥と美由紀が並んで座り、それぞれの隅っこで俺が桃子さん士郎さん側、なのはが恭弥美由紀側で対面して座っている。ちなみに桃子さんの料理自体は頬が落ちるほど美味しい。
「どう?帝翔くんのお口にも合うといいんだけど」
桃子さんが感想を求めてきた。合うといいんだけど、という口振りの割りには楽しみにしたような表情を見るに、料理の腕には自信があるのだと思う。
実際、その自信はしっかりと実力が伴っていて、取り繕うまでもなく自然に言葉がこぼれ落ちた。
「んっく……すごくおいしいです。なのはのお母さん、料理凄い上手なんですね。」
「あらあら…♪」
「そうだろそうだろう、母さんの料理は高町家の自慢だ!」
「もう、あなたってば♪」
おかしい、素直に受け答えしたらあまりにも自然に惚気られた上にそのまま新婚ムードでイチャつかれた。
少し呆気に取られて唖然としてると、向かい側のなのはがちょっと引きつった笑いを浮かべながらこっちに手を合わせてくる。
反射的にお皿を見てもご飯はまだまだ残ってるし……ああ、代わりに謝ってるのかこれ。多分ごめんねお父さんとお母さんが困らせちゃって、とかそんな感じだろ。
「もー、お父さんお母さん、今は天坂くんも居るんだよ?」
「お、おー、すまんすまん、でも母さんの料理が美味しいのはちゃんと…」
「父さん、天坂君も美味しいと言ってるんだから、そう何度も言う必要はないんじゃないかな。」
「う、うむ…」
これ家族以外に奥さん自慢できるのが嬉しかったんだな。ペット自慢する人がやりがちなやつだ。
ずっと聞くのは正直アレだけどちょっとくらいならむしろ聞きたい。
問題は聞き始めたらちょっとで済まずに長くなりそうなことなんだけどな。だからこうして美由紀と恭弥が止めてくれたんだろう。
「あはは、帝翔くんごめんね?」
「いいよ、本当に美味しいしさ。」
ちょくちょく話しながらでも箸が進む。確かにこれは、誰かに嫁自慢のひとつもしたくなるだろう。
そんなこんなで、ご馳走様でしたと告げる時まで高町家の談笑に混ぜてもらって楽しく食事できた。あまり笑えない俺のことだから、楽しんでないように見えていたらどうしようと思ったりもしたのだがどうにも杞憂だったらしい。ひょっとするとなのはから何か聞いていたのかもしれない。
で。
「……ん?なあ母さん、なのはと天坂くんは?」
「2人ともなのはの部屋に行きましたよ。」
「んん…そうか。」
初めて同年代(※ただし現在の戸籍に限る)の女の子の部屋に来てしまった。
なんかいい匂いしてる気がする。
「入って?」
「う、うーん?」
うーんってなんだようんでいいだろ。いかん、ちょっとテンパってるな。
「ごめん、ちょっと入る前に深呼吸させて。」
「えっ?」
なのはに心底なんで?って顔されたけど気にしない。というか気にしてる余裕はない。大きく息を吸って、吐いて…
「よし。じゃあお邪魔します。」
「あっ、うん…あはは、変な帝翔くん。」
笑ってくれたのか笑われたのかどっちだ。
さておき、招待されたからには遠慮なく入ることにする。もう家にはいる訳だし、関係性が友達な以上ここでうだうだ言う方が変だからな。
「ごめんね、散らかってて」
どこが散らかってるんだろう…まさかあの落ちてる黄色と青の2つのクッションのことを言ってるんだろうか。
そう思いはしたがぐっと呑み込むことにして、本題に入ろう。
「全然大丈夫。それで、部屋まで呼んだってことは夕方の話の続き…で合ってる?」
「うん、そろそろ聞きたいなって。」
学校で話す訳にもいかないし、リビングで話してもなのはの家族に聞かれる。ユーノも居る状況で話す選択肢としては妥当なところだ。
「もちろんいいよ、もう変身したところまで見せちゃったし…そうだな、何から話そうか。」
「君の魔法との出会いを聞かせてくれないかな。」
フェレットが喋ってる。
ではなく、ユーノが話に入ってきた。元々なのはの部屋を選んだのはその為でもあったし当然だが、いざ喋ってるとこに立ち会うとなんか度肝抜かれるな。生で動物が喋ってるとこ見るなんて経験ないだろ。
「出会い、出会いか……」
1度死にました、だけど転生して2回目の人生を歩めることになったので、好きな魔法を選んだデバイスを持って来ました。
なんて馬鹿正直に言えるはずもない。ここはでっち上げなきゃならないのだが、後々のこと考えると適当なことも言えない。出来るだけ偶発的な答えとなると…
「拾ったんだ。」
これしかないわな。
「拾った?」
「そう。海鳴に来て、折角だからと思って散歩してる時に道でキラッと光るのが見えたから寄っていったら宝石みたいなのが落ちてて…」
俺のズボンのポケットの中から光の翼を携えた紫の宝石が飛び出す。
「それがこのデバイス、クロッカス。それで拾ったらクロッカスと相性良かったらしくて、話しかけられて、以来一応魔法使い…って感じ。」
「へー、それじゃあ私と似てる、かな?」
「んー…どうだろう、ユーノみたいな本場?の魔法使い?に会ったりしたわけじゃないし、なのはみたいにこの人の力になりたい!…みたいな立派な志みたいなのがあるでもないから、そうでもないかも?」
「あ、あはは…立派とか大げさだよ?」
照れくさいのか困ってるのか、微笑みを浮かべるなのははいまいち判別に困るが、その感想に関しては嘘はない。
事実、立派だと思う。
「立派だよ。…ユーノと出会って、魔法と出会って、人のために体を張って…誰でもできることじゃない。」
「そ、そうかな?」
「そうそう。」
ふと目をやるとクロッカスの前になのはのレイジングハートが出てきてなんか浮いてる。あっちはあっちで会話でもしてるんだろうか?
「…改めて、ごめんなのは。」
「えっ?」
「ほら、俺家がここだからさ。なのはが初めて転身した時、ユーノの声が聞こえてたから見えるところまで行ってたんだ。そこでなのはがこうなってるのも知った。それで……」
話そうとして顔を上げ、なのはの純粋でまっすぐな瞳と視線がぶつかる。言おうとしていたホラ話が、口をついて出なくなってしまう。友達に、嘘をつく。今更な罪悪感が、本当に今更になってのしかかってきたような気分だ。
「うん…それで?」
それでも、なのはの声は優しい。自分が今までやってきたことを知った上で秘密にされていた、ということに対してこの女の子は怒らない。きっと、自分も秘密にしていたからだろう。
だけど、危険に巻き込まない嘘と、危険を黙認する嘘とでは重さが違う。
「……なのは、なんで怒らないんだ?」
「え?」
思わず問いかけた言葉に首を傾げるなのは。質問の答えではなく、頭に浮かんだ疑問の方をぶつけてしまった。
質問を質問で返すな、とはよく聞くのに自分の立場になってみると上手くいかないものだ。
「今日戦う前にちょっと喋った時にも思ったんだ。なのは、俺がこのこと話しても嬉しそうにすることはあっても怒ったり、悲しんだりって感じじゃなかった。普通怒るだろ?」
何せ言葉を選ばずに言えば、見捨てられていたようなものだ。俺の方からは大丈夫だと知ってたとはいえ、なのはから見ればそんなの知らないに決まっている。だというのに、まるで怒ることなく、自分が戦っていたのも棚に上げて戦ったら危ないなどと言う。
「んー…えっとね?ほんとのこと言うと、結構ショックだったんだ。すずかちゃんのお家に遊びに行った日…あの子と会った日、帝翔君が知ってたこととか、ほんとは魔法を使えたこととか、色々。」
だよな、と口には出さず肯定する。
「でも、その時にもちょっぴり嬉しかったの。お父さんとお母さん、お兄ちゃん、お姉ちゃん、アリサちゃんにも、すずかちゃんにも…誰にも話せなかったこと、初めて話せるお友達が居たんだって。」
「…や、それとこれとは…」
「それからちょっとだけ考えて、もしも最初から一緒に居たらって思って…やっぱり、危ないことだから巻き込みたくないなって。それでも帝翔君はすずかちゃんのお家で私を助けてくれたでしょ?怒ったりなんか、するわけないよ。」
「…………。」
絶句。
言葉が出なかった。優しさに触れて、とかじゃなく。
その優しさの、歪さに。
今となっては何もしなかった自分に腹が立つ。どうせ最後には変えるのだから、最初から一緒に居るべきだった。
わかっていたのに、知っていたはずなのに。
なのはの優しさに、なのは自身は勘定されてないと。
「ありがとう、なのは。でも、これからは一緒に戦う。」
「…うんっ」
「けど。」
「?」
今ならアリサのなのはを放っておけないという気持ちがよくわかる。全くもって、賢しい女の子だ。言語化できるか、意識してるかしてないかは知らないけど、こういうところをとうに見抜いているのだろう。
「とてもずっと見て見ぬふりをしてた俺が言えたことじゃないけど、なのはが俺がもし戦ってたら心配してたように、なのはが戦うと心配する人もたくさん居る。」
そんなこと、俺が言わなくてもわかっているから誰にも話せない秘密にしているんだろうけど。
「だからなのは、これからは俺もいる。誰も心配されないくらい、ちゃんと自分も守って、学校もジュエルシード集めも頑張ろう。」
そういう自己犠牲も治して、と言おうと思った。
だけど、きっとそれは言う時は今じゃないし、言う人は俺じゃない。
まだ自覚はないだろうから、これからのいつか、その時に伝えよう。
「うんっ!」
そんな明るい声と笑顔で応えるなのはを見て、そう決めた。
願わくば、俺がその自己犠牲を埋められる腕になれるように。
随分と長居をしてしまった。
なのはがお風呂に入る時間が来たのもあり(聞いてめっちゃドキドキした。やっぱりロリコンなのかと凹んだ)、今日はお暇することに。
あまりお世話になるのは申し訳ないのだが、不思議とこれからもお世話になる気がしてならない。
当然各々用事はあるので、靴を履いてから玄関までわざわざ見送りに来てくれた桃子さんとなのはに向き直る。
「えっ…と…なのはのお母さん、ご馳走さまでした。夜ごはん、とても美味しかったです。」
「いーえ、久しぶりに家族以外にも食べてもらえて私も嬉しかったわ♪さっきも言ったけど、育ち盛りの男の子なんだからいつでもうちに食べに来ていいのよ?」
小学生の一人暮らしなんて、凄く大変なんだからと少し唇を尖らせて言う。俺に怒っていると言うより、文字通りの方で親の顔が見てみたい、といった調子だ。
非実在で申し訳ない。
というかこの転生のシステム便利すぎるな、どうなってるんだ。
「ありがとうございます、またぜひお邪魔します。なのはのお兄さんとお姉さん、お父さんにも…」
「私から伝えておくわね。それと帝翔くん、明日のお弁当はある?」
「?はい、またパンを…」
いかんやった。
口を
「そう言うと思って、はい♪急だったから今日は晩ご飯の残りになっちゃうけど、明日のお弁当に食べて?」
「いや、流石にそこまでしてもらう訳には…」
「遠慮しないの!」
やや強引に持たされてしまった。
こんな人だったっけ?…いや、俺が遠慮するだろうと思って気をつかってくれてるのか。
いい人だなぁ…
「……ありがとうございます。いただきます。」
その優しさがしみじみ嬉しい。
「帝翔君」
微笑んでくれる桃子さんの隣で笑っていたなのはが声をかけてくる。
そして、夜だということさえ一瞬忘れるような、青空を想起させる優しい笑顔で
「また、明日ね。」
そう言ってくれた。
「…うん、また明日。」
話せて、肩の荷が降りた。それは俺の勝手かもしれないけど、もしそれでなのは喉のつかえも呑み込めたのなら、何よりもなのはの心を軽くできたのなら、今はそれが1番嬉しいと思える。
手を振って別れ、桃子さんのお風呂入ってきて、という声を聞きながらすぐ隣の自宅への1分と掛からない短い帰路を歩き、夜空を見上げる。
雲一つない、月のよく見えるいい夜で。
今夜はよく眠れそうだった。
誕生日おめでとう、なのは