転生したので反則技で魔法少女のお手伝い/敵することにした 作:絶也
すずかの家に連絡がつき、4人で最寄りの動物病院に足を運ぶ。
槙原動物病院。
そう看板にある。
とは言っても、なのはの腕に収まるフェレットがどの程度の容態なのかは聞くまでもなくもう知っていることなのだが。
ちょっとやそっと(とりあえず俺の存在の有無)で歴史が変わったりしないことはわかったが、それでも影響を与えないに越したことはない。犬以外の動物はあんまり得意じゃないことにして、なのは達が獣医さんに話を聞く間、俺は外で待たせてもらうことになった。
3人を待ちつつ、壁を背にして少し考えてみる。
今のところ、思っていたのと違うことは1つも起きていない。今のところ、と言うにはまだ時間が経っていなさ過ぎる気はするが、これは体感の問題だ。一応、常に歴史が変わってしまわないか気を配りながら行動していると気を張ってしまい、体感長く感じてしまうのだ。
これから起こること…なのはが魔法少女になること。まずそれは達成されると見ていい。
問題になるのはその後だ。
何をどうしても歴史に影響を出してしまう。いいや、元々それが目的だからそれ自体に問題はないが、それによってどう転ぶのか正確なところが全くわからない。
というか、未だにアニメで見た通りの展開になるとは決まっていない。俺が居るからな。
どこまでそのままで、どこから変わるのか。
どこから変えるのか。
転生者と言っても見知らぬ異世界じゃなく、自分の望む世界に転生するとここまで不自由するものなのか。
そうして考え込んでいると、動物病院の戸が開く音がしたので一度考え事を止めて振り返る。
「じゃあ院長先生、すみません、また明日来まーす!」
見送って手を振っている院長先生を横目で捉えつつ、出てきたなのはに声をかける。知ってはいたけど、あの様子ならとりあえず大丈夫そうだな。
「なのは、どうだった?」
「うーんと…しばらく安静にした方がいいから、とりあえず明日まで預かってくれるって」
「じゃあ明日からあの子どうするか…だけど、みんな塾なんだっけ。」
「うん、ごめんね?」
「ま、決まったら明日教えるわ。今ちょっと時間危ないし。」
続くアリサの言葉を聞いて、そりゃそうだろうと内心頷く。
「わかった。じゃあ…話して引き止めたりするのもなんだし、俺はここで。」
「うん、わかった!」
「またね、天坂くん。」
「また明日。」
別れの挨拶をしてから、時間がないからか心做し早足に見える3人を見送りながら、少し遅れて胸の内が熱くなってくる。
また明日、また明日か…なのは達が、俺に向けてそう言ってくれる。その事実だけでなんか泣きそうだ。
とはいえ、その場でただ立ち尽くしている訳にも、まさかこの場で泣く訳にもいくまい。魔法の練習なんかも視野に入れたいが、生憎ここはユーノのすぐ近くだ。刺激したくない。
結局、出した結論はそのまま踵を返して帰る、だった。
「…ただいま、っと。」
何事もない帰路につき、鍵を開け、暗い無人の家に帰ってくる。
当然応える声はない。夕暮れに少し朱く彩られた闇中に溶ける声に少し虚しくなりかけ、元々これが普通だと思い返す。
1日で絆されすぎでは……
真っ直ぐ部屋に行き、電気を点け、空白だけのノートを開く。
別に日記なんてメルヘンなものをつける訳じゃないが、似たようなものではあるんだろう。
というか小学生なら別に男女問わずメルヘンでもないか。
左のページに元々の歴史…アニメで見た通りの流れを書き起こし、右のページに今俺がこの世界で体験していることを記す。
記憶違いが一度でも起きたら、取り返しがつかなくなりかねない。長く一緒に居て記憶が混じる前に、今のうちに全話分左に書いておこう。A'sまでだけど。
合計が20を越える物語をペンで書く、というのも馬鹿にならない多さだ。書いているうちに日が落ちてくる。
今頃なのは達はあの逆作画崩壊と言われた辺りだろうか。
日が完全に落ち、街に夜が来たら動き出す時間だ。
良い子は家でぐっすりするかもしれないが、悪い子(子ですらない)には関係ないのだ。
しばらくしてから書き起す手を止め、外を見る。
すっかり日が落ち、時計を見やれば遅くない家はそろそろ夕飯を食べるような時間だ。多分なのは宅もここに含まれる。
そろそろ準備するか、と思いリビングに行って、適当に済まそうと思ったところでちゃんとした弁当が明日も要ることに思い至り、しょうがないので料理する。
出来上がったものを皿にのせて、机に乗せて座り、手を合わせる。
「いただきます。」
………………1人で言って食べるのって、思いの外虚しいな。
転生前は別にそんなこと思っていなかったと思うが、やっぱりこれ外見に引っ張られてないか?それともなのは達とお昼を食べたからか?
夕飯を終え、他諸々の作業を済ませ、風呂以外ならあとは寝るだけ、というところまで来たところで、脳が震えるような奇妙な感覚に覆われる。
さっきのユーノの声を聞いた時と同じ感覚だ。とすると間違いなく。
───聞こえますか。僕の声が─聴こえますか──?
やはり、だ。きっと、なのはも今聴いているのだろう。そしてユーノはそのなのはに伝える為にこうして念話している。
頭の中に直接響く声は、やはり1人に向けたメッセージを続ける。
───聞いてください、僕の声が聞こえるあなた─
───僕に少しだけ、力を貸してください──
───お願い─僕の所へ──!
───時間が─危険が、もう─!
そんな切羽詰まった声と不穏な言葉を最後に、その声は聞こえなくなってしまう。
同時に、精神的な疲労でも掛かったのか少しふらつき、ベッドに座ってしまう。そういえばなのはも最初こんな風になってたな。
確か名前は槙原動物病院、だったか。
なのはは今頃、ユーノが保護されるそこに向かう準備をしているだろう。家族の誰に言うことも無く。
そして同時に、動物病院の方は惨事になる筈だ。
だから、俺も行く。
あの出会いと始まりを、変えていないことを確認する義務がある。
最初から備えてはいたので着替える必要はなく、適当な上着を引っ掴み羽織る。
あとは自分の部屋の窓から下を見下ろして、少し待つ。
すると大した時間を挟むことなく、茶色い髪を短く2つに結った女の子が走って出ていくのが見えた。
上からでは少し見えにくいが、黄色と赤の明るい配色で上下を揃えたなのはだ。夜闇の中でよく目立つ。
それは白い上着の俺が言えたことでもないか。もう少しだけ待って、なのはが離れたであろうことを確認したところで俺も動き出す。
「行くぞ、クロッカス。」
《All right》
紫のデバイスが光る羽のようなもので羽ばたき飛んできたのを掴み、ポケット深くに突っ込む。
バレるリスクが高くなるが、万が一何か変わってしまった時の対処の為だ。
さっさと階段を降り、家を飛び出す。そこまで遠い場所でもないが、全力疾走ではなのはに追いつく可能性があるので抑えて走る。
走っているうち、ほんの少しだけだが足元が揺れてる気がした。何が起きてるかを知っているから、感覚が機敏になっているのかもしれない。
あるいはただの気のせいか。
槙原動物病院が視界に入ったところで、さっきまで見えていた深緑が倒れていくのが見えた。なのははともかく、どのみち近づき過ぎると俺の方は大怪我しかねない。
けど、あれが目に入ったってことはなのははもう敷地内だろう。しかもこの後逃げてくる。
見つからないように、尚且つこっちは向こうを見ていられるように先回りして走る。
ここまで来たら滞りなく進むだろう。普通に考えて、何事もなく終わるには帰っておくのが正しい選択だ。
が…
「(……最初の出会いの所、めちゃくちゃ見たいんだよな…)」
見たい。
出来ることなら出ていって立ち会いたいくらいだ。
ただ、それをするとなのはがこの先秘密にしておくつもりのことをアリサやすずかに先んじて俺だけが知って、しかもそれをなのはと共有してしまう。それは避けたい。
走った先の陰に隠れ、後ろを見る。遠目だが、明るい配色が建物の敷地から飛び出すのが見えた。腕には白く見える何かを抱えている。間違いない。
そのままこっちに走ってくる。多分、腕の中に居るフェレットと話しながら。
話しているせいか、なのはが立ち止まる。
しかし、そんな悠長にしていることを許さないと言うように、長い暗雲のようなものが旋回して、地上のなのはとユーノへと襲いかかる。
それなりの音を鳴らし、地面にクレーターらしいものが出来ていて、ほんの少し震えそうになる。
これがなのは達がこれから先向かい合い続ける危険かと思うと、流れも何もかも無視して止めたくなってしまう。
やっぱり気軽に背負ったなのはが異常だこれは。どう考えたって子供が向き合う危険じゃない。
当のなのはと言えば、電柱の陰でユーノから赤い宝玉…レイジングハートを受け取るところだった。
耳を済ませてみれば、ユーノはなのはへ、なのはは呪文を唱えるように虚空へ呟いているのが聞こえる。
告げる。
「我、使命を受けしものなり。」
「契約の下、その力を解き放て。」
「風は空に、星は天に。」
「そして、不屈の心は──この胸に!」
「この手に魔法を─!レイジングハート、セット・アップ!」
祝詞のような言葉を受け、赤い宝玉は輝く。仄かな桃色を帯びた白い閃光が天へ昇っていく。
正直俺にはわからないが、あれはなのはが持つ莫大な魔力の顕れなんだろうか。
光に気を取られてからもう一度なのはを見る。
だが、そこになのはの姿は見えなかった。虹色の輝きが護るように包んでいる。その輝きはさっきも見た桃の光へと変わり、柔らかな羽が空間を舞う。
光の中から現れたなのはは、先程までの2色の私服ではなく、眩しいほどの白に包まれていた。その手に握る杖の先には赤い宝玉がキラリと光る。
しかし、受ける印象は聖祥の制服に似ている。魔法少女としての姿を想像するに当たって、ベースにしたんだったか。
初めての魔法少女への転身に立ち会って、喜びで鳥肌が立ち震える一方で、なんとも言い難い感覚が残ってしまう。本当に止めなくて、この時点で変えなくて良かったのかと。
何を思ったところで時間は戻らないものだ。
だからまずは見守ろう。初めて魔法少女になってべらぼうに困惑してるなのはと、既に臨戦態勢になっている黒い龍のようなシルエットの化物の戦いを。
飛び上がった黒い影は、大きく丸い体躯をどう工夫することもなく、ただ単純な力で押し潰しに来るように突進をしかける。
そもそもの思考能力に欠けているんだろうけど、実際問題としてあの攻撃はあの体躯なら正解だ。反射神経が良い人間は普通に避けられそうだが。
ただ、今この瞬間では流石にまだ困惑を引きずっているのか、なのはは怯えて杖を掲げるだけだった。
それでも、突進が小さな子供を吹き飛ばすようなことは起きない。掲げられた杖、レイジングハートがバリアを張って防ぎ切った。
防がれた影は突破しようとぶつかり続けていたが、やがて耐えきれなくなったか炸裂四散してしまった。
炸裂した影は固まった泥のようで、壁、地面、電柱…とにかく近くにある物へと鋭く突き刺さる。
根元の方に刺さった電柱に至っては、自重を支えられなくなって、近くの家の塀へと倒れてしまった。
大怪我どころじゃ済まない。下手をすれば死ぬぞ、これ。
突然降って湧いた死へのリアリティに一瞬硬直する。
なのはと化物が戦っているのは、角で数えて1つ先の道。もしなのはがもう少し先、こっちまで逃げようものなら巻き込まれる。
流石にまた死ぬのは御免だぞ…
固形化した泥のようなものは身体の一部だったらしく、化物は触手のような物を伸ばし、それらを回収して元の形へ戻っていく。
その間になのはとユーノは、何かの話をしていた。確かここでしたのは、戦う為の魔法について、少しだけ詳しい説明だ。
当然待たれたりはしない。
突っ込んでくる化物を注視して、自分の印象を撤回した。
龍なんかじゃない、というか近い動物が浮かばない。まるで毛玉。黒を持て余してただその形を取っただけのような、簡素な毛玉だ。
それは飛び上がって、またしても泥のような触手をなのはへと伸ばす。
対するなのはは今まで目を瞑っていたのかと思えば、目を見開き、今度は自分の意思で杖を振り掲げた。
《Protection》
やはり触手が届くことはない。またしてもレイジングハートが張った…いいや、なのはが張ったバリアが容易くそれを防ぎ切った。
知ってはいたが、直接死にそうな被害を見てから、こうして直ぐに魔法を使うなのはを見ると流石に凄まじい度胸だと言わざるを得ない。
毛玉のような化物も僅かな理性はあるのか、或いは本能に近いのか。それを見て小さな狼狽を見せるも、すぐにまた跳ぶ。
が、なのははもうそんなことには拘泥していなかった。
「リリカル・マジカル!」
言葉を引き継ぐように、もしくは教えるように、フェレットのユーノが叫ぶ。
「封印すべきは忌まわしき器、ジュエルシード!」
「ジュエルシード、封印!」
レイジングハート、なのはの杖に、翼のような装飾が生まれる。
意趣返しにも思える光が毛玉へと伸び、こっちは防がれることなどあるはずもなく、その全身を縛り付ける。
縛り付けられた黒の頭部と思しき箇所には、『XXI』という文字が浮かんでいた。
「リリカル・マジカル、ジュエルシード、シリアル21──封印!」
新たに伸びていく光が交差する様相はまるで網だ。
が、封印と言ってもあからさまに捕獲する訳じゃない。その光は、毛玉を容赦なく突き貫き、消滅させてみせた。
終わってみれば、あっさりしたものだった。
それが居たはずの壊れた地面瓦礫の下に、石ころほどに小さな白光が見える。
「……あれがジュエルシード…」
なのはが歩み寄りレイジングハートを近づければ、ジュエルシードもまたレイジングハートに近づき、赤い宝玉の中へと吸収された。初めてのジュエルシード、その戦いは本来と何も変わることなく終えられた。俺の存在は、何一つとして影響を与えていないことに安堵する。
小さな溜息を吐きながら、ふと近くにある家の1つを見る。
と言うよりも、その窓を。
年の頃は俺達と同じくらいだろうか。黒く長い髪の少女が俺を見下ろしていた。
あんな子は知らない。リリカルなのはを見ていて、あんな女の子が出てきたことは一度もない。
訝しんでいると、サイレンの音が聞こえてくる。
「あっ」
思わず、さっきまで戦いがあった方を見る。
壁に電柱、地面…住宅そのものに被害がないのは最早奇跡と言っていい。そんな惨状。誰がどう見たって子どもにどうこうできる被害ではない。ない、のだが…
「……俺、もしかしてここに居ると大変アレなのでは…?」
ああ、そういえばなのはも全く同じこと呟いてたな…
そのなのはは誰に謝っているということもないのだろうが、謝罪の言葉を大きく言いながらもう逃げていた。
逃げないといけないと思いつつ、もう一度さっきの少女の方を見る。しかし、既にカーテンが締め切られていた上に、もう離れたのかシルエットを確認することさえ出来なかった。
「…しょうがない、とりあえず…俺は何もしてません、色々見送っちゃっただけですごめんなさい、と…」
南無南無、と合掌しておきながらこの場から逃げ、遠回りして家へ向かう。警察のご厄介になった挙句軽い問題児扱いなんかになったらたまったものではない。
それに、流石に少し落ち着いてからなのは達を追いかけると今度は見つかるかもしれない。そういった事情も重なり、直帰なのだった。
戦闘描写が苦手すぎる。
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